説明

流量制御装置

【課題】スプール弁の中心部を通してバイパス流をバイパスさせることにより、スプール弁のユニオン側の周縁部に異物が滞留しないようにした流量制御装置を提供する。
【解決手段】スプール弁17内に、余剰流をバイパス穴16にバイパスするバイパス用通路30を形成し、バイパス用通路は、スプール弁のユニオン13側の端部に開口する中心穴31と、スプール弁の外周に形成され、スプール弁が所定量摺動された際にバイパス穴に連通する環状溝32と、環状溝と中心穴とを連通する円周上複数の横穴33、133とによって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプより吐出された作動油を所定量に制御して流体作動装置に送出する流量制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧式パワーステアリング装置に用いられるポンプは、一般にエンジンによって駆動され、エンジン回転数に比例した流量を吐出するため、吐出流量をパワーステアリング装置に必要な所定流量に制御する流量制御装置が備えられる。
【0003】
かかる流量制御装置として、例えば、特許文献1に記載のものがある。かかる特許文献1に記載のものは、スプール弁(20)を摺動可能に嵌装した弁収納穴(12)の開口側に、固定絞り部(35)を設けたユニオン(30)の筒状本体(31)がねじ込まれ、筒状本体の先端部には鍔状部(33)が弁収納穴の内周面に接近するように全周にわたって設けられ、鍔状部の外周縁部と弁収納穴の内周面との間に一定の隙間(環状隙間)が形成されている。
【0004】
上記した特許文献1に記載の流量制御装置においては、弁収納穴内に流入した吐出油が、筒状本体の鍔状部と弁収納穴の内周面との間の環状隙間を介して、スプール弁のユニオン側端部に作用し、バイパス路(15)にバイパスされるようになっているため、スプール弁のユニオン側端部に作用する噴流に含まれた異物が、スプール弁の外周縁部に滞留しやすくなる。このため、スプール弁の摺動によって、スプール弁の外周面とハウジングの内周面との間に異物を咬み込む恐れがあり、異物を咬み込むと、スプール弁の円滑な摺動が妨げられることになる。
【0005】
このようなスプール弁の外周面とハウジングの内周面との間への異物の咬み込みを防止するために、例えば、特許文献2に記載されているように、ユニオン(2)の先端に、ハウジング(1)の内周面に向かって凸面形状をなすフランジ(25)を形成したものが提案されている。
【0006】
上記した特許文献2に記載の流量制御装置においては、ユニオンの先端に凸面形状のフランジを形成することにより、フランジとハウジング内周面との間の環状隙間Gを通過する作動油の噴流を偏向させ、この偏向流Kによって、ハウジングの内周面に沿って直進する直進流Jの勢いを弱めるとともに、スプールの軸心を中心としたうず流Sを形成させ、このうず流Sの作用により、スプール弁の隅部(外周縁)Eに溜まろうとする異物を洗い流し、隅部Eに異物が滞留しないようにしている。
【特許文献1】特開2002−331950号公報
【特許文献2】特開2004−28321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載のものにおいても、フランジとハウジング内周面との間の環状隙間Gを通過した作動油の偏向流Kの作用のみによって、スプール弁の外周縁に滞留しようとする異物を取り除くことは甚だ至難である。しかも、特許文献2に記載されているように、バイパス時に、スプール弁のユニオン側端部がバイパス路(12)に露呈する流量制御装置においては、スプール弁のユニオン側端部がバイパス路側に引き込まれて傾き、この傾きによって、バイパス路と反対側のスプール弁の外周縁の隙間が大きくなるため、この隙間にスプール弁の外周縁に滞留する異物が入り込みやすくなる。
【0008】
本発明は、上記した従来の問題点を解消するためになされたもので、スプール弁の中心部を通してバイパス流をバイパスさせることにより、スプール弁のユニオン側の周縁部に異物が滞留しないようにした流量制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、ポンプより吐出された作動油のうち所定量をユニオン内に設けた絞り通路を介して流体作動装置に送出するとともに、ポンプから吐出された作動油が所定量を超えた場合には、前記絞り通路の前後差圧に応じて変位されてバイパス穴の開度を調整するスプール弁により余剰流をポンプの吸入側に還流する流量制御装置において、前記スプール弁内に、前記余剰流を前記バイパス穴にバイパスするバイパス用通路を形成し、該バイパス用通路を、前記スプール弁の前記ユニオン側の端部に開口する中心穴と、前記スプール弁の外周に形成され前記スプール弁が所定量変位された際に前記バイパス穴に連通する環状溝と、該環状溝と前記中心穴とを連通する円周上複数の横穴とによって構成したことである。
【0010】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記円周上複数の横穴は、前記環状溝を流れるバイパス流に旋回流を発生させるように前記スプール弁の径方向に対してそれぞれ傾斜されていることである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、余剰流をバイパス穴にバイパスするスプール弁内に形成したバイパス用通路を、スプール弁のユニオン側の端部に開口する中心穴と、スプール弁の外周に形成されスプール弁が所定量変位された際にバイパス穴に連通する環状溝と、環状溝と中心穴とを連通する円周上複数の横穴とによって構成した。これにより、バイパス流は、専らスプール弁の中心部に形成された中心穴を介してバイパス穴にバイパスされるため、作動油に混入した異物がスプール弁のユニオン側端部の周縁部に滞留することがなくなる。その結果、異物の咬み込みによってスプール弁の摺動性が阻害されることを確実に防止することができ、スプール弁を常にスムーズに摺動させることが可能となる。その結果、スプール弁を常にスムーズに摺動させることができ、正確な流量制御作用を安定して行うことができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、円周上複数の横穴は、環状溝を流れるバイパス流に旋回流を発生させるようにスプール弁の径方向に対してそれぞれ傾斜されているので、横穴を通過したバイパス流によって、環状溝内に旋回流が発生され、この旋回流によって、作動油に混入した異物が環状溝内に滞留することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1において、10は、ポンプハウジングを示し、ポンプハウジング10には弁収納穴11が形成されている。弁収納穴11の開口端にはユニオン13が螺着され、このユニオン13に、流体作動装置としてのパワーステアリング装置の制御弁に通ずる送出口12が形成されている。弁収納穴11には、供給穴15とバイパス穴16が弁収納穴11の軸線方向に離間して開口され、供給穴15はポンプの吐出室に連通され、バイパス穴16はポンプの吸入室に連通されている。
【0014】
弁収納穴11には、供給穴15とバイパス穴16との連通路を閉止しかつその連通路の開度を調整可能にするべく流量調整用スプール弁17が摺動可能に嵌装されている。弁収納穴11はスプール弁17によって第1弁室18と第2弁室19とに区画され、第1弁室18は供給穴15に常時連通されている。第2弁室19には、スプール弁17を第1弁室18に向けて押圧するスプリング20が設けられ、スプリング20の付勢力によって通常はスプール弁17をユニオン13に当接する位置に保持し、供給穴15に連通された第1弁室18とバイパス穴16との連通を遮断している。
【0015】
ユニオン13には、絞り通路としての固定絞り21が形成され、固定絞り21の上流側は第1弁室18に連通され、下流側はダンピングオリフィス22および連通路23、24を介して第2弁室19に連通されている。これにより、スプール弁17は固定絞り21の前後に発生する差圧に応じて変位され、前後差圧が大きくなると、第1弁室18とバイパス穴16とを後述するバイパス用通路30を介して連通するとともに、バイパス用通路30の連通開度を調整する。これによって、第1弁室18に供給された作動油の一部(余剰流)がバイパス穴16にバイパスされ、固定絞り21の前後の差圧が一定に維持される。
【0016】
スプール弁17内には、第1弁室18に供給された作動油の一部(余剰流)をバイパス穴16にバイパスするバイパス用通路30が形成されている。バイパス用通路30は、図2にも示すように、スプール弁17のユニオン13側の端部の中心部に開口する中心穴31と、スプール弁17の外周に形成され、スプール弁17がスプリング20の付勢力に抗して所定量摺動された際にバイパス穴16に連通する環状溝32と、環状溝32と中心穴31とを互いに連通する円周上複数の半径方向横穴33とによって構成されている。すなわち、スプール弁17のユニオン13側の端部には、弁収納穴11に全周で嵌合し、バイパス穴16を常時閉塞する比較的薄肉の円筒部34(図1参照)が形成されており、この円筒部34の外周にバイパス穴16に適宜連通する環状溝32が形成されているとともに、円筒部34に環状溝32と中心穴31とを連通する半径方向横穴33が形成されている。
【0017】
次に、上記した構成における流量制御装置の作動について説明する。ポンプの吐出室より供給穴15に吐出された作動油は、弁収納穴11の第1弁室18内に供給され、この第1弁室18より固定絞り21および送出口12を介してパワーステアリング装置等の流体作動装置に送出される。ポンプ回転数が低速の場合には、供給穴15に吐出される作動油の流量も少なく、供給穴15に吐出された作動油の全量が送出口12より流体作動装置に送出される。
【0018】
ポンプ回転数の上昇に伴って吐出流量が増加すると、固定絞り21前後の差圧が増大し、この差圧の増大に応動してスプール弁17がスプリング20の付勢力に抗して変位される。スプール弁17が所定量変位されると、図3に示すように、スプール弁17の外周に形成された環状溝32がバイパス穴16に開口する。これにより、供給穴15より第1弁室18に供給された作動油の一部は、スプール弁17の中心穴31より半径方向横穴33および環状溝32を介して余剰流としてバイパス穴16にバイパスされ、ポンプの低圧側に還流される。これにより、固定絞り21前後の差圧が一定に維持され、送出口12より送出される流量が一定に制御される。
【0019】
この際、余剰流(バイパス流)は、スプール弁17の端部外周縁部には殆ど流れず、専らスプール弁17の中心部に形成されたバイパス用通路30を介してバイパス穴16にバイパスされるため、従来のように作動油に混入した異物がスプール弁17のユニオン13側端部の周縁部に滞留することを確実に防止できるようになる。
【0020】
従って、スプール弁17の摺動によって、スプール弁17の外周と弁収納穴11の内周との間に異物が咬み込むことがなくなり、異物の咬み込みに伴うスプール弁17の摺動性の悪化を防止することができる。その結果、スプール弁17を常にスムーズに摺動させることができ、正確な流量制御作用を安定して行うことができる。
【0021】
しかも、余剰流をバイパス穴16にバイパスするバイパス時においても、スプール弁17のユニオン13側の端部(円筒部34)は、その全周で弁収納穴11に嵌合されているため、スプール弁17がバイパス流によってバイパス穴16に引き込まれても、スプール弁17が傾斜することがなくなり、この点からも、スプール弁17の摺動性が高められる。
【0022】
図4は、本発明の第2の実施の形態を示すもので、第1の実施の形態と異なる点は、バイパス流に旋回流を付与して、環状溝32内に異物が滞留しないようにしたことである。なお、第1の実施の形態と基本的に同一の部品には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0023】
第2の実施の形態においては、図4に示すように、スプール弁17の中心部に形成された中心穴31と、スプール弁17の外周に形成された環状溝32とを連通する円周上複数(実施の形態においては4つ)の横穴133は、スプール弁17の径方向に対してそれぞれ同じ角度だけ円周方向に傾斜して形成されている。これにより、複数の横穴133を通過するバイパス流によって、環状溝32内に旋回流を発生させることができる。かかる旋回流によって、複数の横穴133がいかなる角度位置にあっても、作動油に混入した異物が環状溝32内に滞留されることがなくなり、環状溝32よりバイパス穴16に確実かつ容易に排出できるようになる。
【0024】
上記したように本実施の形態によれば、スプール弁17内に、余剰流をバイパス穴16にバイパスする中心穴31、環状溝32および横穴33(133)からなるバイパス用通路30を形成したので、余剰流(バイパス流)は、スプール弁17のユニオン13側の外周縁には殆ど流れず、専らスプール弁17の中心部を介してバイパス穴16に流れるため、作動油に混入した異物がスプール弁17のユニオン13側の外周縁に滞留しないようにすることができる。これにより、スプール弁17の外周と弁収納穴11の内周との間に異物が咬み込まれる恐れがなくなり、異物の咬み込みによるスプール弁17の摺動性の悪化を防止することができる。その結果、スプール弁17を常にスムーズに摺動させることが可能となり、正確な流量制御作用を安定して行うことができるようになる。
【0025】
上記した実施の形態においては、ユニオン13に設けた絞り通路(固定絞り)21を介して送出口12より、常に一定流量の作動油を流体作動装置に送出する例について述べたが、本発明は、ポンプの回転数に応じて送出口12より送出される流量が可変となる、いわゆる回転数感応型のポンプへの適用を妨げるものではない。
【0026】
以上、本発明を実施の形態に即して説明したが、本発明は実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の形態を採り得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す流量制御装置の断面図である。
【図2】図1の2−2線に沿って切断した断面図である。
【図3】第1の実施の形態における流量制御装置の作動状態を示す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示す図2に相応した断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10・・・ハウジング、11・・・弁収納穴、13・・・ユニオン、15・・・供給穴、16・・・バイパス穴、17・・・スプール弁、20・・・スプリング、21・・・絞り通路(固定絞り)、30・・・バイパス用通路、31・・・中心穴、32・・・環状溝、33、133・・・横穴。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプより吐出された作動油のうち所定量をユニオン内に設けた絞り通路を介して流体作動装置に送出するとともに、ポンプから吐出された作動油が所定量を超えた場合には、前記絞り通路の前後差圧に応じて変位されてバイパス穴の開度を調整するスプール弁により余剰流をポンプの吸入側に還流する流量制御装置において、
前記スプール弁内に、前記余剰流を前記バイパス穴にバイパスするバイパス用通路を形成し、該バイパス用通路を、前記スプール弁の前記ユニオン側の端部に開口する中心穴と、前記スプール弁の外周に形成され前記スプール弁が一定量変位された際に前記バイパス穴に連通する環状溝と、該環状溝と前記中心穴とを連通する円周上複数の横穴とによって構成したことを特徴とする流量制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記円周上複数の横穴は、前記環状溝を流れるバイパス流に旋回流を発生させるように前記スプール弁の径方向に対してそれぞれ傾斜されていることを特徴とする流量制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−112483(P2010−112483A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286208(P2008−286208)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】