説明

液体貯蔵タンク及びエンジンの排気浄化装置

【課題】ブリーザパイプを介する液体貯蔵タンクからの液体の流出を防止する。
【解決手段】ブリーザパイプ253に気液分離器254を取り付け、液体貯蔵タンク251から流出したガスを気液分離器254に導入する。分離部254bの内面を円周状に形成し、導入したガスにこの内面に沿う旋回を生じさせることで、このガスから液体成分を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体貯蔵タンク及びエンジンの排気浄化装置に関し、詳細には、ブリーザパイプを介する液体貯蔵タンクからのガスの流出に対し、この流出したガスに含まれる液体成分の外部への放出を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物(以下「NOx」という。)を後処理により浄化する技術として、尿素SCR法によるものが知られている。この尿素SCR法は、アンモニアを排気に添加し、これを還元剤としてNOxを還元させて浄化するものであり、NOxの還元促進のため、排気通路に還元触媒を設置する。貯蔵上の便宜を考慮して、アンモニアの前駆体である尿素を水溶液の状態でタンクに貯蔵し、実際の運転において、このタンクから尿素水を供給し、還元触媒の上流で排気通路内に噴射する(特許文献1)。近年、この尿素SCR法による技術は、トラック等の大型車両に搭載されたディーゼルエンジンにおける排気浄化に適用され、実用化されている。
【特許文献1】特開2000−027627号公報(段落番号0013)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
尿素SCR法において、尿素を採用してこれを水溶液の状態で貯蔵するのは、尿素水の取り扱い及び貯蔵の容易さ等の実用上の利点を考慮したものであるが、尿素水を貯蔵するためのタンクとして、尿素水に対する耐久性を持ち得るもの(たとえば、ステンレス材により形成された薄板のタンク)を採用する必要があることから、次のような問題がある。
すなわち、エンジンからの振動の伝達又は路面の凹凸等によりタンクが振動し、貯蔵されている尿素水に大きな揺れが生じた場合に、この振動の周波数によってはタンクの外殻に共振を来し、圧抜きのためにタンクに設けられるブリーザパイプの開口付近に圧力の脈動を生じさせることである。ブリーザパイプの開口付近に脈動が生じると、この脈動に起因してブリーザパイプを介する断続的なガスの出入りが生じる。尿素水に生じた揺れによりブリーザパイプに尿素水が付着していると、この付着した尿素水が脈動により生じたガスの流れによりタンクから流出し、外部へ放出される。ブリーザパイプの開口付近に通気孔を設けたカバーを取り付け、ブリーザパイプへの尿素水の付着を防止することも考えられるが、尿素水が実際にブリーザパイプに付着すれば、この付着した尿素水の流出を阻止することはできない。
【0004】
本発明は、液体貯蔵タンクにおいて、ブリーザパイプを介するガスの流出に対し、流出したガスに含まれる液体成分の放出を、ブリーザパイプへの液体の付着によらず確実に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、液体貯蔵タンク及びこれを備えるエンジンの排気浄化装置を提供する。
本発明に係る液体貯蔵タンクは、液体の貯蔵室を形成するタンク本体と、このタンク本体に設けられ、貯蔵室をタンク本体の外部と連通させるブリーザパイプと、タンク本体外でこのブリーザパイプと接続され、ブリーザパイプに続くガスの流通路を形成する一方、ブリーザパイプを介して貯蔵室から流出したガスが導入される気液分離器とを備える。気液分離器は、接続部、分離部及び吹出部を有し、接続部でブリーザパイプと接続される。分離部は、この接続部が形成するガスの導入口と連通し、かつこの導入口の中心軸を含む断面において、この中心軸に対してオフセットした点を中心とした円周状の内面を有する。吹出部は、この断面における分離部の略中央に設けられ、分離部の内外を連通させる。
【0006】
本発明に係るエンジンの排気浄化装置は、このような液体貯蔵タンクを備え、液体貯蔵タンクに貯蔵されたアンモニア又はその前駆体の水溶液を、排気通路に設けられた還元触媒の上流で排気に添加する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液体貯蔵タンクに気液分離器を設け、この気液分離器の分離部において、内面を円周状に形成するとともに、この内面の中心を、接続部が形成するガスの導入口の中心軸に対してオフセットさせたことで、タンク本体の貯蔵室から流出したガスに対し、分離部内で旋回を生じさせ、このガスに含まれる液体成分を遠心力により分離させることができる。このため、液体貯蔵タンクからのガスの流出による液体成分の放出を防止するとともに、液体成分の分離が気液分離器によりタンク本体外でなされるので、ブリーザパイプへの液体の付着によらず確実にこれを防止することができる。液体成分が分離したガスは、吹出部を介して外部に放出される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るエンジンの排気浄化装置の構成を示している。本実施形態に係るエンジン1は、ディーゼルエンジンであり、車両(ここでは、トラック等の大型車両)の駆動源を構成する。この排気浄化装置は、本実施形態に係る液体貯蔵タンク251を備え、排気に添加する還元剤をこれに貯蔵している。本実施形態では、NOxの還元剤としてアンモニアを採用するが、車上における貯蔵容易性を考慮して、液体貯蔵タンク251には、尿素水を貯蔵している。この尿素水は、アンモニアの前駆体である尿素を水溶液としたものである。
【0009】
エンジン1の排気通路101には、マニホールド部の下流に還元触媒102が設置されている。排気中のNOxは、この還元触媒102上で還元され、浄化された後、大気中に放出される。還元触媒102の上流に尿素水の噴射装置(本実施形態に係る「添加装置」に相当する。)201が設置されており、エンジン1の運転に際し、この噴射装置201により尿素水が排気通路101内に噴射される。噴射された尿素水中の尿素が排気熱により加水分解を生じ、還元剤であるアンモニアを発生させる。発生したアンモニアは、還元触媒102上でNOxを効率的に還元させ、無害なガスに転換させる。
【0010】
尿素水は、液体貯蔵タンク251に貯蔵され、実際の運転に際し、この液体貯蔵タンク251からフィードポンプ261により加圧されて噴射装置201に供給される。液体貯蔵タンク251は、圧抜き用のブリーザパイプ253(図3)が取り付けられたタンク本体252と、後述する気液分離器254とを備え、ブラケット256,256により車両のフレームFに固定されている。タンク本体252により箱型の貯蔵室252aが形成され、この貯蔵室252aに尿素水が貯蔵されている。本実施形態では、尿素水に対する耐久性を考慮して、タンク本体252及びブリーザパイプ253をステンレス材により形成している。
【0011】
噴射装置201は、尿素水の供給管271を介して液体貯蔵タンク251と接続されており、液体貯蔵タンク251から供給された尿素水をアシスト用のエアと混合させる噴射装置の本体211と、基端側でこの本体211に取り付けられ、先端側が排気通路101内に挿入された噴射ノズル212とを備える。噴射ノズル212の先端212aは、還元触媒102の上流側の端面102aに向けて配置されている。なお、噴射装置211は、供給管271以外に戻し管272を介して液体貯蔵タンク251と接続されており、噴射装置201に供給された尿素水のうち、噴射ノズル212により排気に噴射されたもの以外の余剰の尿素水が、この戻し管272を介して液体貯蔵タンク251に戻される。噴射装置201において、アシスト用のエアは、図示しないエアタンクから導入管213を介して本体211に供給される。
【0012】
図2は、本実施形態に係る気液分離器254の構成を、一部破断させた状態で示している。
図2を参照して、気液分離器254の構成について説明する。
液体貯蔵タンク251のタンク本体252には、圧抜き用のブリーザパイプ253(図3)が取り付けられ、気液分離器254は、タンク本体252外でこのブリーザパイプ253と接続されている。ブリーザパイプ253と気液分離器254との接続は、ゴム製のブリーザチューブ255によりなされる。
【0013】
気液分離器254は、通常動作時において、タンク本体252外から貯蔵室252aに向かうガスの流通路をブリーザパイプ253とともに形成するものであるが、液体貯蔵タンク251の振動等により、ブリーザパイプ253を介して貯蔵室252aからガスが流出した場合は、この流出したガスが気液分離器254に導入され、このガスから液体成分である尿素水が分離される。これにより、大気中への尿素水の放出が防止される。気液分離器254は、ガスの導入口を形成する接続部254aと、導入したガスから尿素水を分離させる分離部254bと、分離部254bから分離後のガスを放出する吹出部254cとを含んで構成される。接続部254aは、分離部254bの側面から外向きに突出させて設けられており、ブリーザチューブ255の一端が接続される。分離部254bは、全体として円筒状であり、導入したガスに対し、円周状の内面に沿う旋回を生じさせる。接続部254aが形成する導入口の中心軸AX1に対して分離部254bの中心軸AX2がオフセットさせて設定されているため、導入したガスは、分離部254b内において、軸AX2を中心として旋回を生じ、尿素水に遠心力が作用する。吹出部254cは、分離部254bの軸AX2上に設けられ、分離部254b内を外部と連通させる。本実施形態では、軸AX2を軸AX1に対して鉛直方向の上方にオフセットさせており、これにより、分離した尿素水を円滑に液体貯蔵タンク251に戻すことができる。
【0014】
図3は、本実施形態に係る液体貯蔵タンク251の全体的な構成を、縦方向の断面により示している。
図3を参照して、本実施形態に係る液体貯蔵タンク251、特に気液分離器254の動作について説明する。
タンク本体252にブリーザパイプ253が取り付けられ、これにブリーザチューブ255の一端が接続されている。ブリーザチューブ255の他端に気液分離器254が接続部254aで接続されて、液体貯蔵タンク251が構成される。気液分離器254は、図示しない保持具によりタンク本体252よりも鉛直方向の上方で支持されている。ブリーザパイプ253は、タンク本体252の蓋部を貫通させて取り付けられ、貯蔵室252aの上部をタンク本体252の外部と連通させている。タンク本体252の蓋部を供給管271が上下に貫通しており、供給管271は、蓋部から垂下して、貯蔵室252aの底部近傍まで延伸している。また、戻し管272もタンク本体252の蓋部を貫通し、貯蔵室252a内で開口している。
【0015】
エンジン1の運転時において、フィードポンプ261により供給管271を介して尿素水が吸い上げられると、貯蔵室252a内に生じた負圧の作用により、ブリーザパイプ253を介して外気が導入される。この外気の導入は、気液分離器254、ブリーザチューブ255及びブリーザパイプ253を介してなされ、これにより貯蔵室252a内が一定の圧力に保持され、尿素水の円滑な供給が確保されるとともに、タンク本体252の変形が防止される。車両の走行に際しては、エンジン1から伝達される振動や、路面の凹凸による車体の振動等を加振入力として、タンク本体252に振動が生じる。振動の周波数によってはタンク本体252に共振を来し、貯蔵室252a内のガスに圧力の変動を生じさせ、ブリーザパイプ253の開口付近に圧力の脈動を生じさせる。路面からの振動等により生じた大きな揺れにより尿素水がタンク本体252の内壁を伝い、又は飛び跳ねてブリーザパイプ253に付着していると(この揺れによる尿素水Uの動きを矢印F1,F2で示す。)、圧力の脈動によりブリーザパイプ253を介して生じる断続的なガスの流れF3により、この付着した尿素水が貯蔵室252aから流出する。この尿素水を含むガスは、ブリーザパイプ253及びブリーザチューブ255を介して気液分離器254に導入され、分離部254bにおいて、円周状の内面に沿う旋回F4を生じる。この旋回に伴う遠心力の作用により、矢印F5で示すようにガスから尿素水が分離され、ガス成分のみが吹出部254cから放出される(ガスの流れを矢印F6で示す。)。他方、分離した尿素水は、矢印F7で示すように分離部254bの内面、及びブリーザチューブ255を伝い、貯蔵室252aに戻る。
【0016】
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
液体貯蔵タンク251に気液分離器254を設け、その分離部254bにおいて、遠心力の作用によりガスから尿素水を分離させることとした。このため、動力等を必要としない簡易な構成で大気中への尿素水の放出を防止することができる。また、本実施形態によれば、尿素水の分離がタンク本体252外でなされるので、ブリーザパイプ253への尿素水の付着によらず確実にその放出を防止するができる。
【0017】
また、本実施形態によれば、分離部254bの中心軸AX2を接続部254aが形成する導入口の中心軸AX1よりも鉛直方向の上方にオフセットさせて設定したので、分離した尿素水を分離部254bの内面に沿って円滑に流し、貯蔵室252aに戻すことができる。
なお、本実施形態では、気液分離器254において、分離部254bを中空の円筒状に形成し、この円筒の内面により「円周状の内面」を形成することとした。しかしながら、本発明は、これに限らず、分離部を円環状又はS字(若しくは蛇行)状に形成し、この円環又はS字における半径方向の内向きの内面により「円周状の内面」を形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの排気浄化装置の構成
【図2】同上実施形態に係る気液分離器の構成
【図3】同上気液分離器の動作説明
【符号の説明】
【0019】
1…エンジン、101…排気通路、102…還元触媒、201…噴射装置、211…噴射装置の本体、212…噴射ノズル、251…液体貯蔵タンク、252…タンク本体、252a…貯蔵室、253…ブリーザパイプ、254…気液分離器、254a…接続部、254b…分離部、254c…吹出部、255…ブリーザチューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の貯蔵室を形成するタンク本体と、
前記タンク本体に設けられ、前記貯蔵室をタンク本体の外部と連通させるブリーザパイプと、
前記タンク本体外で前記ブリーザパイプと接続され、前記ブリーザパイプに続くガスの流通路を形成する一方、前記ブリーザパイプを介して前記貯蔵室から流出したガスが導入される気液分離器と、を含んで構成され、
前記気液分離器は、
前記ブリーザパイプと接続され、前記貯蔵室から流出したガスの導入口を形成する接続部と、
前記導入口と連通し、前記導入口の中心軸を含む断面において、この中心軸に対してオフセットした点を中心とした円周状の内面を有する分離部と、
前記断面における前記分離部の略中央に設けられ、前記分離部の内外を連通させる吹出部と、を含んで構成される液体貯蔵タンク。
【請求項2】
前記断面において、前記分離部の内面の中心が前記導入口の中心軸に対して鉛直方向の上方にオフセットされた請求項1に記載の液体貯蔵タンク。
【請求項3】
前記液体として尿素水を貯蔵する請求項1又は2に記載の液体貯蔵タンク。
【請求項4】
車両に搭載される請求項1〜3のいずれかに記載の液体貯蔵タンク。
【請求項5】
エンジンの排気通路に設けられた還元触媒と、
前記液体としてアンモニア又はその前駆体の水溶液を貯蔵する請求項1又は2に記載の液体貯蔵タンクと、
前記液体貯蔵タンクに接続され、このタンクに貯蔵される液体を前記還元触媒の上流で排気に添加する添加装置と、を含んで構成されるエンジンの排気浄化装置。
【請求項6】
前記エンジンがディーゼルエンジンである請求項5に記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項7】
液体の貯蔵室を形成するタンク本体と、
前記貯蔵室をタンク本体の外部と連通させて、タンク本体外から前記貯蔵室に向かうガスの流通路を形成する手段と、
前記流通路を形成する手段と接続し、前記貯蔵室から前記流通路にガスが流出した場合に、このガスに旋回を生じさせて、このガスから液体成分を分離させる手段と、を含んで構成される液体貯蔵タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−270729(P2007−270729A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97532(P2006−97532)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】