説明

液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキ

【課題】部品点数を増やすことなく外周溝にシール部材を有するピストンを介して液圧室に伝わる熱を直接減少させて冷却効果を一層高めてブレーキ液の昇温を抑えることができる液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキを提供すること。
【解決手段】キャリパボディ3のシリンダ孔5に内挿したピストン7が、該ピストン7とキャリパボディ3とで形成した液圧室9の液圧により摩擦パッド17,19を押圧してロータ1を制動する液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキにおいて、ピストン7はロータ1側に向けて開口する有底の円筒ピストンから成り、このピストン7の底部の近傍の外周溝23にシール部材21が配設されると共に、シール部材21よりピストン7の開口端部7d側に向かった円筒部7bの領域に断面減少部7cが形成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリパボディに形成したシリンダ孔に内挿したピストンが液圧により摩擦パッドを押圧してロータを制動する液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキとして、ピストンをディスクロータ側に向けて開口する有底の円筒ピストンとし、この円筒ピストンの開口部側にパッド押圧体を内挿させ、このパッド押圧体に通気口を形成し、この通気口を介して円筒ピストンの内部空間と外部とを連通させて、円筒ピストンの内部空間の熱気を外部に放出してピストンとキャリパボディで形成される液圧室の冷却効果を高めたものが知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−30258号公報(段落0035、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような冷却効果を高めた液圧作動ピストンは、円筒ピストン自体でなくパッド押圧体に形成したものであり、ピストンとは別体の部品が必要となるばかりでなく、円筒ピストンの内部空間の熱気を外部に放出するだけで、ピストンを介して液圧室に伝わる熱を直接減少させるものではなく冷却効果に限界があった。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目して成されたもので、部品点数を増やすことなくピストンを介して液圧室に伝わる熱を直接減少させて冷却効果を一層高めてブレーキ液の昇温を抑えると共に、シール部材へのパッド側からの摩擦熱が伝わり難くし、かつシリンダ孔へのピストンの組み込みを容易にすることができる液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキは、キャリパボディに形成したシリンダ孔に内挿したピストンが、該ピストンとキャリパボディとで形成した液圧室の液圧により摩擦パッドを押圧してロータを制動する液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキにおいて、前記ピストンはロータ側に向けて開口する有底の円筒ピストンから成り、該ピストンの反ロータ側の底部近傍の外周溝(シール溝)にシール部材を装着すると共に、該シール部材よりピストンの開口端部側に向かった円筒部の領域に断面減少部が形成されている。
この発明によれば、シリンダ孔の外でピストンの外周溝に重要保安部品であるシール部材を組み付けることができるから、従来のシリンダ孔の内周溝(シール溝)にシール部材を組み込むより、シール部材の組み込みが容易に出来、そのチェックも簡単である。また、該ピストンの外周溝が反ロータ側の前記底部近傍であるので、シール部材が熱に強くないゴム製の場合、パッド側(熱源)から遠い位置にありその耐久性が向上する。さらに、ピストンの開口はロータ側であり、その底部は反ロータ側であり、ピストンの奥までエアー部が形設できるので、ブレーキ液温の上昇に対して有利である。さらにまた、上記円筒部の領域に断面減少部が形成されているので、該円筒部を介して液圧室に伝わる熱量が低減でき、ブレーキ液の昇温を抑えることができる。
【0007】
本発明の請求項2に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキは、請求項1に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキであって、前記断面減少部は円筒部の外周面から内方に又は内周面から外方に向けて形設した凹部である。
この発明によれば、上記円筒部に凹部を形設するという簡単な構成で、ブレーキ液の昇温を抑えることができる。
【0008】
本発明の請求項3に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキは、請求項2に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキであって、前記凹部は円筒部の円周方向に一列或いは複数列設けられている。
この発明によれば、凹部を円筒部の円周方向に設けることで、その製作が容易である。
【0009】
本発明の請求項4に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキは、請求項2に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキであって、前記凹部は円筒部にランダムに形設されている。
この発明によれば、例えば多くの凹部を上記円筒部にランダムに形設することで、より断熱効果の高いピストンが得られる。
【0010】
本発明の請求項5に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキは、請求項1に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキであって、前記断面減少部は円筒部に形設した貫通孔である。
この発明によれば、上記円筒部に貫通孔を形設するという簡単な構成で、ブレーキ液の昇温を抑えることができる。
【0011】
本発明の請求項6に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキは、請求項5に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキであって、前記貫通孔は円筒部の円周方向に一列或いは複数列設けられている。
この発明によれば、貫通孔を上記円筒部の円周方向に設けることで、その製作が容易である。
【0012】
本発明の請求項7に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキは、請求項5に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキであって、前記貫通孔は円筒部にランダムに形設されている。
この発明によれば、例えば多くの貫通孔を上記円筒部にランダムに形設することで、より断熱効果の高いピストンが得られる。
【0013】
本発明の請求項8に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキは、請求項1ないし7のいずれかに記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキであって、前記円筒ピストンの開口端部近傍の外周面と摺動するシリンダ孔側にダストシール溝が設けられ、その溝内にダストシール部材が配設されている。
この発明によれば、ダストシール部材により従来用いられていたダストブーツを使用しないですむので、ピストン開口部側が外部とより開放的に連通でき、空気の流れが出来て放熱効果を高めることができる。
【0014】
本発明の請求項9に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキは、請求項1ないし7のいずれかに記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキであって、前記底部近傍の外周溝のシール部材のロータ側にバックアップリングが配設されている。
この発明によれば、上記請求項8と同様にダストブーツを使用しないことでピストンとシリンダ孔間の通気が改善して、ブレーキ液の温度低下を促進すると共に、ダストのシール部材への侵入を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施例1の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキの断面図、図2は図1のA−A断面図、図3(a)実施例1に係る円筒ピストンの側面図、(b)は同じくその断面図であり、図4(a)は貫通孔を円周方向に複数整列配置した円筒ピストンの断面図であり、(b)は貫通孔を円周方向に一列だけ形設した円筒ピストンの断面図である。
【0017】
図1、2に示すように、ロータ1を挟んでキャリパボディ3の両側には、それぞれ3対のシリンダ孔5が形成され、それぞれのシリンダ孔5にはピストン7が内挿されている。ピストン7は底部7aと円筒部7bとを有する円筒ピストンから成り、底部7aとシリンダ孔5とでブレーキ液圧室9が構成されている。
【0018】
各ブレーキ液圧室9はキャリパボディ3に形成した連通路11及び側部に配置したシリンダ孔5を連絡する連通パイプ13により連通し、常に等しい液圧が掛かるように構成されている。そしてキャリパボディ3の一側に設けた連通路11に通じる導入口(図示せず)にはマスタシリンダに繋がれたブレーキ配管(図示せず)が接続し、マスタシリンダからの液圧がすべてのブレーキ液圧室9に作用する。
【0019】
ブレーキ液圧室9にマスタシリンダからの液圧が掛かると、各シリンダ孔5に内挿された円筒ピストン7は摺動して摩擦パッド17,19をロータ1に対し挟持するように押圧してロータ1を制動し、マスタシリンダからの液圧が掛らなくなると、円筒ピストン7はシール部材21の復元力も伴って後退し、制動が解除される。
【0020】
図3に示すように、環状のシール部材21を収納する環状のシール溝23は円筒ピストン7の外周の底部7a近傍に設けられており、したがって、シリンダ孔5の外でピストン外周のシール溝23にシール部材21を組み付けることが出来、その組み込みが容易で、そのチェックも簡単である。また、円筒部7bには複数の貫通孔7cが複数ランダムに形設されており、シール部材21は円筒ピストン7の外周の底部7a近傍にあるから、摩擦パッド17,19から離れた位置にあり、摩擦熱の熱影響を受け難く、その耐久性が向上する。
【0021】
複数の貫通孔7cは制動作用によって生じた摩擦熱が摩擦パッド17,19を介してブレーキ液圧室9に伝達するのを制限している。即ち円筒ピストン7の円筒部7bに断面積が減少する領域として貫通孔7cが形設されているため、ブレーキ液側に熱が伝わるピストン断面積が減り、ブレーキ液温の上昇が緩和される。
【0022】
本実施例において貫通孔7cは複数ランダムに形設されているが、変形例として、図4(a)に示すように円周方向に複数整列配設してもよく、あるいは図4(b)に示すように、円周方向に一列だけ配設するようにしてもよい。複数列にするか一列にするかは発生する摩擦熱の大きさにより適宜選択する。貫通孔7cを円周方向に配列して設けるようにすれば貫通孔の形設を容易に行うことができる。
【0023】
図6は図1のX部拡大図で、該拡大図に示すように、円筒ピストン7の開口端部7d近傍の外周面とシリンダ孔5との間には環状のシール溝24に嵌め合う環状のダストシール部材25が配設され、シリンダ孔5に塵等が侵入するのを防いでいる。ダストシール部材25により従来用いられていたダストブーツを使用しなくてすむので、放熱効果を高めることができる。
【0024】
また、図7は図1のY部拡大図で、前記図6のものと同様に、ダストブーツを使用しないことでピストン7とシリンダ孔5間の通気を改善して、ブレーキ液の温度低下を促進させるようにすると共に、該図7に示すようにピストン7の外周溝(シール溝)23のシール部材21のロータ側にバックアップリング26を配設することにより、ダストのシール部材21への侵入を防止することができる。
【実施例2】
【0025】
図5(a)は実施例2に係る円筒ピストンの側面図、(b)は同じくその断面図であり、実施例1に係る円筒ピストンに比べ、円筒部の断面積を減少させる手段が相違している。図5において、円筒ピストン31はその円筒部31bに外表面から内方に向かって窪んだ凹部31cがランダムに形設されている。これら凹部31cは実施例1と同じく円筒ピストン31の円周方向に複数整列配設してもよく、あるいは円周方向に一列だけ配設するようにしてもよい。そして複数の凹部31cは制動作用によって生じた摩擦熱が摩擦パッド17,19を介してブレーキ液圧室9に伝達するのを制限して、ブレーキ液温の上昇を緩和することができる。
【0026】
また、本実施例2において、凹部31cは円筒部31bに外表面から内方に向かって形設されているが、変形例として、逆に内表面から外方に向かって窪んだ凹部としてもよい。
【0027】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキの断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】(a)実施例1に係る円筒ピストンの側面図、(b)は同じくその断面図である。
【図4】(a)は貫通孔を円周方向に複数整列配置した円筒ピストン断面図、(b)は貫通孔を円周方向に一列だけ形設した円筒ピストンの断面図である。
【図5】(a)は実施例2に係る円筒ピストンの側面図、(b)は同じくその断面図である。
【図6】図1のX部拡大図である。
【図7】図1のY部拡大図である。
【符号の説明】
【0029】
1・・・ロータ
3・・・キャリパボディ
5・・・シリンダ孔
7・・・ピストン(円筒ピストン)
7a・・・底部
7b・・・円筒部
7c・・・貫通孔
7d・・・開口端部
9・・・ブレーキ液圧室
11・・・連通路
13・・・連通パイプ
17,19・・・摩擦パッド
21・・・シール部材
23・・・リング溝(シール溝又は外周溝)
25・・・ダストシール部材
26・・・バックアップリング
31・・・円筒ピストン
31b・・・円筒部
31c・・・凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパボディに形成したシリンダ孔に内挿したピストンが、該ピストンとキャリパボディとで形成した液圧室の液圧により摩擦パッドを押圧してロータを制動する液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキにおいて、前記ピストンはロータ側に向けて開口する有底の円筒ピストンから成り、該ピストンの反ロータ側の底部近傍の外周溝にシール部材を装着すると共に、該シール部材よりピストンの開口端部側に向かった円筒部の領域に断面減少部が形成されている液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキ。
【請求項2】
前記断面減少部は円筒部の外周面から内方に又は内周面から外方に向けて形設した凹部である請求項1に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキ。
【請求項3】
前記凹部は円筒部の円周方向に一列或いは複数列設けられている請求項2に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキ。
【請求項4】
前記凹部は円筒部にランダムに形設されている請求項2に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキ。
【請求項5】
前記断面減少部は円筒部に形設した貫通孔である請求項1に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキ。
【請求項6】
前記貫通孔は円筒部の円周方向に一列或いは複数列設けられている請求項5に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキ。
【請求項7】
前記貫通孔は円筒部にランダムに形設されている請求項5に記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキ。
【請求項8】
前記円筒ピストンの開口端部近傍の外周面とシリンダ孔との間にはダストシール部材が配設されている請求項1ないし7のいずれかに記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキ。
【請求項9】
前記円筒ピストンの外周溝のシール部材のロータ側にバックアップリングを配設している請求項1ないし7のいずれかに記載の液圧作動ピストンを備えたディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−29489(P2006−29489A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211046(P2004−211046)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】