説明

減衰力調整式流体圧緩衝器およびその製造方法

【課題】減衰力発生機構本来の性能が確保される減衰力調整式流体圧緩衝器および該減衰力調整式流体圧緩衝器の製造方法を提供する。
【解決手段】セパレータチューブ11の開口14をベースシェル3の取付孔17におおよそ位置合わせし、通路部材20を開口14に嵌合し、減衰力発生機構16を、通路部材20のガイド部23に押し当てながら取付孔17に取付ける。これにより、開口14が自動調心されてセパレータチューブ11がシリンダ2に対して正規位置に位置決めされる。したがって、シールが傷つくことが防止されて開口14と減衰力発生機構16との間のシール性が確保されるので、減衰力調整式油圧緩衝器1本来の性能を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰力調整式流体圧緩衝器および該減衰力調整式流体圧緩衝器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のセミアクティブサスペンションに使用される減衰力調整式油圧緩衝器(減衰力調整式流体圧緩衝器)には、減衰力発生機構をベースシェルに横向きに取付けるタイプのものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−12534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
減衰力発生機構をベースシェルに横向きに取付けるタイプの減衰力調整式油圧緩衝器では、セパレーターチューブ、ベースシェル、減衰力発生機構の軸方向位置あわせが困難であり、減衰力発生機構本来の性能が確保される減衰力調整式流体圧緩衝器の構造、組立性向上が望まれている。
そこで本発明は、減衰力発生機構本来の性能が確保される減衰力調整式流体圧緩衝器および該減衰力調整式流体圧緩衝器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、軸方向に移動可能に嵌合される環状のセパレータチューブと、セパレータチューブとシリンダの間に形成された環状油路と、外筒とセパレータチューブとの間に形成されたリザーバと、セパレータチューブの側壁に設けられる開口と、外筒の前記開口と対抗する位置に設けられた取付孔と、取付孔に取付けられて環状油路とリザーバとの間の流体の流れに対し減衰力発生する減衰力発生機構と、減衰力発生機構と前記開口との間に設けられて内部が環状油路と減衰力発生機構との間の流路となると共に外部が前記リザーバと前記減衰力発生機構との間の流路となる筒状の通路部材と、を備え、ピストンがシリンダに対して軸方向に摺動して流体が減衰力発生機構の内部を流通することにより減衰力を発生する減衰力調整式流体圧緩衝器であって、通路部材は、一端側に形成された前記開口に嵌合される筒部と、筒部の他端側に設けられて減衰力発生機構が当接するシール面と、シール面の他端側に設けられて減衰力発生機構側へ拡径するガイド部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、減衰力発生機構の性能が確保される減衰力調整式流体圧緩衝器および該減衰力調整式流体圧緩衝器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態の減衰力調整式油圧緩衝器の主要部の軸断面図である。
【図2】図1における、緩衝器本体側と減衰力発生機構との接続部を拡大して示す図である。
【図3】本実施形態の通路部材の説明図であり、(a)は軸断面図を示し、(b)は平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態を図1−図3に基づいて説明する。なお、後述する減衰力発生機構16は、基本構造が従来技術(例えば、特許文献1参照)と同一であるので、その詳細な説明を省略して明細書の記載を簡潔にする。
【0009】
図1に示されるように、減衰力調整式油圧緩衝器1(減衰力調整式流体圧緩衝器)は、シリンダ2の外側にベースシェル3(外筒)を設けた二重構造であり、シリンダ2とベースシェル3との間にはリザーバ4が形成される。シリンダ2内にはピストン5が摺動可能に嵌合され、該ピストン5によってシリンダ2内が上圧力室6と下圧力室7とに画分される。シリンダ2の下端部(図1における下側の端部)には、下圧力室7とリザーバ4とを画分するベースバルブ10が設けられる。なお、シリンダ2内には作動油が封入され、リザーバ4には作動油とガスとが封入される。
【0010】
シリンダ2の外周には、シール部材30を介して軸方向に移動可能に嵌合される環状のセパレータチューブ11が設けられる。シリンダ2とセパレータチューブ11との間には、環状油路12が形成される。環状油路12は、シリンダ2の上端部(図1における上側の端部)近傍の側壁に設けられた油路13により上圧力室6に連通される。図2にも示されるように、セパレータチューブ11の側壁には開口14が形成される。開口14には、フランジがセパレータチューブ11の側壁に接合されたボス15が嵌合される。開口14と対向する位置に設けられるベースシェル3の取付孔17には、減衰力発生機構16を収容する筒状のケース19が横向きに取付けられる。なお、ケース19の基部には外径が大きく形成されている部分がある。また、ケース19は、基端部が取付孔17に嵌合され、基端部に連続する上記外径が大きい部分の周囲がベースシェル3に溶接により接合される。
【0011】
本実施形態の減衰力調整式油圧緩衝器1は、図3に示される漏斗形状の通路部材20を介して、開口14(あるいは環状油路12)と減衰力発生機構16との間が連通され、減衰力発生機構16は環状油路12とリザーバ4との間の流体の流れに対し、減衰力を発生する。通路部材20は、セパレータチューブ11の開口14に嵌合されたボス15の内周面に嵌合される円筒状の筒部21と、該筒部21に連続して設けられて軸心を中心として外側へ延びる環状のフランジ部22と、該フランジ部22の外側端部に設けられて減衰力発生機構16側(図1および図2における右側)へ向けて拡径する環状のガイド部23と、を有する。そして、通路部材20は、減衰力発生機構16と開口14との間に設けられて内部が環状油路12と減衰力発生機構16との間の流路となると共に、通路部材20の外部がリザーバ4と減衰力発生機構16との間の流路となる。
【0012】
筒部21の外周面に形成された環状溝には、当該筒部21の外周面とボス15の内周面との間をシールするシール部材24が設けられる。フランジ部22は、通路部材20の軸心に対して略垂直に設けられる受圧部25と、該受圧部25と筒部21とを接続する接続部26と、を有する。受圧部25の減衰力発生機構16側(図1および図2における右側)の面には、減衰力発生機構16のバルブ部材18の端部(減衰力発生機構16の取付側の端部)が接触して当該バルブ部材18と受圧部25との間をシールする環状のシール面27が形成される。ケース19の基端部には内フランジ28が設けられている。なお、内フランジ28の減衰力調整機構16側の面は、ケース19内の作動油をリザーバ4に導くための流路29と、受圧部25を支持できる支持面からなる。ここで、流路29はケース19内の作動油の流通に抵抗を与えない程度の面積を有している。
【0013】
通路部材20のガイド部23は、フランジ部22の受圧部25に対して傾斜角度θで傾斜し、内側に環状のガイド面23aが形成される。そして、本実施形態の減衰力調整式油圧緩衝器1では、減衰力発生機構16のバルブ部材18を、筒部21が開口14のボス15に嵌合された通路部材20のガイド部23のガイド面23aに押し当てるようにして、当該減衰力発生機構16をベースシェル3の取付孔17に取付けられたケース19内に挿入することにより、開口14が減衰力発生機構16に対して自動調心され、延いては、セパレータチューブ11がシリンダ2およびケース19に対して正規位置に位置決めされる構造になっている。
ここで、通路部材20とバルブ部材18の端部(減衰力発生機構16の取付側の端部)、およびバルブ部材18と受圧部25の間をシールする環状のシール面27とは、この形状に限らず、例えば、一端側に形成され、外周にシール部材を有する開口14に嵌合される筒部と、筒部の他端側、つまり減衰力発生機構16側に設けられるガイド部からなり、バルブ部材18の端部(減衰力発生機構16の取付側の端部)の側面と筒部との間のバルブ部材18側にはシール面27に変わるシール部材を有する構成にしてもよい。
【0014】
次に、前述した減衰力調整式油圧緩衝器1(減衰力調整式流体圧緩衝器)の製造(組立)方法を説明する。
まず、シール部材30が両端部に設けられたセパレータチューブ11をシリンダ2の外周に嵌合して取付ける。ここで、セパレータチューブ11は、シリンダ2に対する軸方向の位置が、シリンダ2の下端面からの距離に基づき管理される。次に、セパレータチューブ11をシリンダ2に組付けることで構成されたアセンブリを、ベースバルブ10に組みつけ、その後ベースシェル3(外筒)に組付ける。この状態で、ベースシェル3に位置決めされて取付けられたケース19の軸心とセパレータチューブ11の開口14(ボス15)の中心とがおおよそ一致するように、セパレータチューブ11を周方向へ位置決めする。
【0015】
次に、通路部材20をベースシェル3に取付けられたケース19の中へ挿入し、該通路部材20の筒部21を開口14(本実施形態では、開口14に設けられたボス15)に嵌合させる。次に、ソレノイドが組付けられた減衰力発生機構16をケース19内へ挿入する。このとき、ソレノイドケース32の外周とケース19の内周によりケース19とソレノイドケース32及びソレノイドケース32と調心組付されているバルブ部材18が調心される。この時点では、減衰力発生機構16は、バルブ部材18の端部が通路部材20のガイド部23のガイド面23aに接触した状態にある。この状態で、ソレノイドケース32の端部に螺合されたロックナット31を締付けることにより、当該ソレノイドケース32と一体の減衰力発生機構16が、ケース19に対して図1および図2における左方向へ移動する。
【0016】
減衰力発生機構16が移動する過程で、シリンダ2の軸心へ向けて移動するバルブ部材18の端部と、通路部材20のガイド部23のガイド面23aとが摺動し、ガイド面23aのバルブ部材18との接触部には、通路部材20の軸に直角な方向の力が作用する。これにより、通路部材20が、バルブ部材18の端部形状に倣って滑動(軸に直角な方向へ移動)し、セパレータチューブ11が軸方向に移動して開口14が減衰力発生機構16に対して自動調心され、延いては、セパレータチューブ11がシリンダ2に対して正規位置に位置決めされる。なお、ロックナット31の締付が完了した時点では、バルブ部材18の端部がフランジ部22の受圧部25のシール面25に当接される。これにより、通路部材20とバルブ部材18との間のシール性が確保される。
また、取付孔17は筒状のケース19を有し、減衰力発生機構16はケース19と同心に取付けられ、開口14は筒状のボス15を有し、通路部材20はボス15と同心に取付けられることで調心することができる。
【0017】
本実施形態によれば、セパレータチューブ11の開口14をベースシェル3の取付孔17におおよそ位置合わせし、この状態で、セパレータチューブ11の開口14と減衰力発生機構16との間に作動油(流体)を流通させる通路部材20を、セパレータチューブ11の開口14(本実施形態では、開口14に設けられたボス15)に嵌合させ、減衰力発生機構16を、通路部材20のガイド部23に押し当てながら取付孔17に取付けることにより、減衰力発生機構16がケース19に対してシリンダ2の軸心方向へ移動する過程で、シリンダ2の軸心へ向けて移動するバルブ部材18の端部と、通路部材20のガイド部23のガイド面23aとが摺動し、ガイド面23aのバルブ部材18との接触部に、通路部材20の軸に直角な方向の力が作用する。これにより、通路部材20がバルブ部材18の端部形状に倣って滑動し、開口14が減衰力発生機構16に対して自動調心され、延いては、セパレータチューブ11がシリンダ2およびケース19に対して正規位置に位置決めされる。
従来、減衰力発生機構16をベースシェル3に設けたケース19に組付ける場合、ケース19から見える範囲でセパレータチューブ11の開口14の位置を調整し、該開口14に手探りで減衰力発生機構16を嵌合させていたため、減衰力発生機構16の組付けに手間取ったり、シールが傷ついて開口14と減衰力発生機構16との間のシール性が低下する可能性があり、減衰力調整式油圧緩衝器1(減衰力調整式流体圧緩衝器)の性能のばらつきが懸念されていたが、本実施形態の減衰力調整式油圧緩衝器1では、シール性を低下することなく、安定した減衰力性能を発揮することができる。
また、従来、シリンダ2をベースシェル3に組付けた後、セパレータチューブ11のシリンダ2に対する軸方向への移動を規制する手段がなかったことから、セパレータチューブ11の端部に設けられたシール部材30がシリンダ2に設けられた油路13を塞ぐことを防止する目的で、当該油路13がシール部材30に対して僅かに下側に設けられていた。シール部材30の下端と油路13の上端との間に隙間が形成されると、環状油路12の上部に空気が溜まる。圧力室に空気が溜まると減衰力の立ち上がりが遅れて応答性が悪くなり、所望の車両挙動が得られない可能性があり、減衰力調整式油圧緩衝器1本来の性能を発揮することができない可能性があったが、本実施形態の減衰力調整式油圧緩衝器1では、通路部材20を開口14(本実施形態では、ボス15)に嵌合することで、セパレータチューブ11のシリンダ2に対する軸方向への移動が規制されるので、この不具合を解消することができる。
また、従来、減衰力発生機構16を油路を形成する部材(通路部材20に相当)に挿入し、この減衰力発生機構16をケース19に挿入して当該部材をセパレータチューブ11の開口14に設けたボス15に嵌合させるため、セパレータチューブ11を作業者の感覚で比較的正確に操作(位置決め)する必要があったが、本実施形態の減衰力調整式油圧緩衝器1では、セパレータチューブ11の正確な位置決めが不要であるので、組付け作業を効率化することができる。
【符号の説明】
【0018】
1 減衰力調整式油圧緩衝器(減衰力調整式流体圧緩衝器)、2 シリンダ、3 ベースシェル(外筒)、5 ピストン、8 ピストンロッド、11 セパレータチューブ、14 開口、16 減衰力発生機構、17 取付孔、20 通路部材、21 筒部、22 フランジ部、23 ガイド部、27 シール面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒と、該外筒の内部に設けられて流体が封入されるシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌合されるピストンと、一端が前記ピストンに連結されて他端が前記シリンダの外部へ突出するピストンロッドと、前記シリンダの外周にシール部材を介して軸方向に移動可能に嵌合される環状のセパレータチューブと、該セパレータチューブとシリンダの間に形成された環状油路と、前記外筒と前記セパレータチューブとの間に形成されたリザーバと、該セパレータチューブの側壁に設けられる開口と、前記外筒の前記開口と対向する位置に設けられた取付孔と、該取付孔に取付けられて前記環状油路と前記リザーバとの間の流体の流れに対し減衰力を発生する減衰力発生機構と、該減衰力発生機構と前記開口との間に設けられて内部が前記環状油路と前記減衰力発生機構との間の流路となると共に外部が前記リザーバと前記減衰力発生機構との間の流路となる筒状の通路部材と、を備え、前記ピストンが前記シリンダに対して軸方向に摺動して前記流体が前記減衰力発生機構の内部を流通することにより減衰力を発生する減衰力調整式流体圧緩衝器であって、
前記通路部材は、一端側に形成された前記開口に嵌合される筒部と、該筒部の他端側に設けられて前記減衰力発生機構が当接するシール面と、前記シール面の他端側に設けられて前記減衰力発生機構側へ拡径するガイド部と、を有することを特徴とする減衰力調整式流体圧緩衝器。
【請求項2】
前記取付孔は、筒状のケースを有し、前記減衰力発生機構は前記ケースと同心に取付られ、前記開口は、筒状のボスを有し、前記通路部材は前記ボスと同心に取付られることを特徴とする請求項1または2に記載の減衰力調整式流体圧緩衝器。
【請求項3】
前記請求項1に記載の減衰力調整式流体圧緩衝器の製造方法であって、
シリンダの外周にセパレータチューブを嵌合するステップと、前記シリンダを外筒内に挿入して該外筒の底部に突き当て、前記セパレータチューブに設けられた開口を前記外筒に設けられた取付孔におおよそ位置合わせするステップと、前記開口と減衰力発生機構との間に流体を流通させる通路部材を前記開口に嵌合するステップと、前記減衰力発生機構を前記取付孔に取付けるステップと、を含み、
前記減衰力発生機構を前記取付孔に取付けるステップでは、前記減衰力発生機構を前記通路部材のガイド部に押し当てることにより、前記セパレータチューブが前記シリンダに対して軸方向および周方向へ位置調整されることを特徴とする減衰力調整式流体圧緩衝器の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−196885(P2010−196885A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46061(P2009−46061)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】