説明

湿式摩擦材

【課題】湿式摩擦材において、相手材のセパレータプレート及びこれと係合する外周ドラムの仕様を変更することなく、非締結時におけるATFの排出を一層促進して、相対回転数が低い領域においても優れた引き摺りトルクの低減効果を得られること。
【解決手段】湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1Aは、両面に放射方向に貫通する複数の油溝4Aが設けられた平板リング形状の鋼板製の芯金2Aに、複数のセグメントピース3を接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して間隙5及び引き込み6を空けて並べて貼り付け、芯金2Aの裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなる。従来例に係るセグメントタイプ摩擦材(芯金に油溝が設けられていないもの)と比較して、相対回転数と引き摺りトルクの関係を試験した結果、広い相対回転数の範囲(500rpm〜3000rpm)に亘って、引き摺りトルクの低減効果が大きいことが実証された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、平板リング状の芯金にセグメントピースまたはリング形状に切断した摩擦材基材を全周両面若しくは片面に接着してなるセグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、湿式摩擦材として、材料の歩留まり向上による低コスト化、引き摺りトルク低減による車両での低燃費化を目指して、平板リング状の芯金(コアプレート)に、平板リング形状に沿ったセグメントピースに切断した摩擦材基材を油通路となる間隔をおいて、接着剤で順次並べて全周に亘って接着し、裏面にも同様にセグメントピースに切断した摩擦材基材を接着してなるセグメントタイプ摩擦材が開発されている。このようなセグメントタイプ摩擦材は、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下「AT」とも略する。)やオートバイ等の変速機に用いられる複数または単数の摩擦板を設けた摩擦材係合装置用として用いることができる。
【0003】
一例として、自動車等の自動変速機には湿式油圧クラッチが用いられており、複数枚のセグメントタイプ摩擦材と複数枚のセパレータプレートとを交互に重ね合わせ、油圧で両プレートを圧接してトルク伝達を行うようになっており、非締結状態から締結状態に移行する際に生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗防止等の理由から、両プレートの間に潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)を供給している。(なお、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標である。)
【0004】
しかし、湿式油圧クラッチの応答性を高めるためにセグメントタイプ摩擦材と相手材であるセパレータプレートとの距離は小さく設定されており、また湿式油圧クラッチの締結時のトルク伝達容量を充分に確保するために、セグメントタイプ摩擦材上に占める油通路の総面積は制約を受ける。この結果、湿式油圧クラッチの非締結時にセグメントタイプ摩擦材とセパレータプレートとの間に残留するATFが排出され難くなり、両プレートの相対回転によってATFによる引き摺りトルクが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1においては、ATFの排出を促進して引き摺りトルクを低減すること等を始めとする湿式摩擦材の特性向上を目的として、鉄系の金属板よりなる芯板の表裏両面に同心円状の溝と放射状の溝とを入れ、この上に有機質コーティング材・摩擦調整材・補強用繊維材よりなる被覆層を形成したフェーシング材(湿式摩擦材)の発明について開示している。これによって、摩擦材の剥離がなく、耐摩耗性及び摩擦係数が良好であり、油の急速な排除による特性が優れたフェーシング材が得られるとしている。
【0006】
また、特許文献2においては、金属プレート(セパレータプレート)と、摩擦材フェーシングが両面に接着されたフェーシングプレートとを備えた湿式多板クラッチにおいて、金属プレートに内径側から外径側に向かって貫通する油溝を形成し、油溝の外径端開口部と対向するドラム側スプライン溝と金属プレートとの間に、油溝から排出された油が流通可能な周方向隙間を形成し、ドラム側の油排出用の開口穴を周方向隙間の軸方向延長上に配置した湿式多板クラッチの発明について開示している。これによって、鉄粉等の発生しやすい環境下において使用される湿式多板クラッチにおいて、フェーシング材の摩擦特性を悪化させることなく、耐久性の向上を図ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−224870号公報
【特許文献2】特開2002−106597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術においては、摩擦材(被覆層)が平板状のリング形状であることから、芯金の両面に形成された同心円状の溝と放射状の溝とが摩擦材(被覆層)によって塞がれるため、十分なATFの排出効果を得ることができず、引き摺りトルクを効果的に低減することができない。また、上記特許文献2に記載の技術においては、フェーシング材(湿式摩擦材)ではなく、これと摩擦係合する相手材の金属プレートに放射状の油溝を設けたものであり、金属プレート及びこれと係合する外周ドラムにも加工を施さなければならず、コストアップになってしまうという問題点があった。
【0009】
更に、これらの特許文献1及び特許文献2に記載の従来技術においては、相対回転数が低い範囲では遠心力が小さいためATFが排出され難く、引き摺りトルクを低減する効果がより小さくなるという問題点があった。
【0010】
そこで、本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、セグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材であって、相手材のセパレータプレート及びこれと係合する外周ドラムの仕様を変更することなく、非締結時におけるATFの排出を一層促進して、相対回転数が低い領域においても優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金に前記平板リング形状に沿って、複数個のセグメントピースに切断された摩擦材基材が互いに間隔をおいて全周両面若しくは全周片面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の全周両面若しくは全周片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて複数個の島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されてなるリングタイプ摩擦材であって、前記芯金の両面若しくは片面に放射方向に貫通する(芯金の内周面と外周面とを接続するように半径方向に連続した)複数の油溝が設けられたものである。
【0012】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1の構成において、前記芯金に設けられた複数の油溝は、前記複数個のセグメントピース同士の間に設けられた間隙または前記複数個の島状部分同士の間に設けられた間隙の位置にその一部または全部が一致するように設けられたものである。ここで、「芯金に設けられた複数の油溝が間隙の位置にその一部または全部が一致する」としては、セグメントピース間の間隙または島状部分間の間隙の中に、芯金の油溝が設けられていない部分がある場合をも含むものである。
【0013】
請求項3の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1または請求項2の構成において、前記セグメントピースは、その外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように接着されてなるセグメントタイプ摩擦材、または前記リング形状の摩擦材基材は、前記島状部分の外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように接着されてなるリングタイプ摩擦材であるものである。
【0014】
請求項4の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記複数の油溝は、その深さが前記芯金の厚さの5%〜35%の範囲内、より好ましくは15%〜30%の範囲内、更に好ましくは20%〜25%の範囲内であるものである。
【0015】
請求項5の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、前記複数の油溝は、その幅が前記間隙の幅と同一か前記間隙の幅よりも広いものである。
【0016】
請求項6の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1乃至請求項5のいずれか1つの構成において、前記複数個のセグメントピースが互いに間隔をおいて全周両面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材であって、前記芯金に設けられた複数の油溝の位置と、前記セグメントピース同士の間に設けられた間隙の位置とが全て一致しているものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金に平板リング形状に沿って、複数個のセグメントピースに切断された摩擦材基材が互いに間隔をおいて全周両面若しくは全周片面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の全周両面若しくは全周片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて複数個の島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されてなるリングタイプ摩擦材であって、芯金の両面若しくは片面に放射方向に貫通する複数の油溝が設けられている。
【0018】
かかる構成によって、湿式油圧クラッチの非締結時に湿式摩擦材と相手材としてのセパレータプレートとが相対回転した場合に、両者の間のATFが複数個のセグメントピース間の間隙または複数個の島状部分間の間隙から外周側に排出されるとともに、芯金に設けられた放射方向に貫通する複数の油溝からも外周側に排出されるため、効果的に引き摺りトルクを低減することができる。特に、ATFが排出される通路が多くなることによって、相対回転数が低く遠心力が小さい領域においても、大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0019】
このようにして、セグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材であって、相手材のセパレータプレート及びこれと係合する外周ドラムの仕様を変更することなく、非締結時におけるATFの排出を一層促進して、相対回転数が低い領域においても優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材となる。
【0020】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材においては、芯金に設けられた複数の油溝が、複数個のセグメントピース同士の間に設けられた間隙または複数個の島状部分同士の間に設けられた間隙の位置にその一部または全部が一致するように設けられたことによって、請求項1に係る発明の効果に加えて、油溝として機能する間隙の高さが高くなり、断面積が大きくなるために、より効果的に非締結時におけるATFの排出が促進され、相対回転数が低く遠心力が小さい領域においても、優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0021】
請求項3の発明に係る湿式摩擦材は、セグメントピースがその外周側面が芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように接着されてなるセグメントタイプ摩擦材、またはリング形状の摩擦材基材が島状部分の外周側面が芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように接着されてなるリングタイプ摩擦材であるため、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、湿式摩擦材の外周側にも十分なスペースが確保されることから、遠心力が大きくATFが外周側に集まってしまう場合でも引き摺りトルクを低減することができ、相対回転数が低い領域ばかりでなく高い領域においても、優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0022】
ここで、「所定の引き込み長さ」は、芯金の半径の0.8%〜4.2%の範囲内であることが好ましい。これによって、湿式摩擦材の締結時における高いトルク伝達効率と、非締結時における低い引き摺りトルクとを両立することができるからである。すなわち、引き込み長さが芯金の半径の0.8%未満であると、引き込みによって外周側にスペースを設けることによる引き摺りトルクの低減効果を十分に得ることができず、また引き込み長さが芯金の半径の4.2%を超えると、締結時における湿式摩擦材とセパレータプレートとの接触面積が小さくなって、十分に高いトルク伝達効率を得ることが困難となる。
【0023】
請求項4の発明に係る湿式摩擦材においては、複数の油溝の深さが芯金の厚さの5%〜35%の範囲内であることから、請求項1乃至請求項3に係る発明の効果に加えて、湿式摩擦材に必要な強度を維持しつつ、確実に優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。すなわち、油溝の深さが芯金の厚さの5%未満であると、油溝が浅すぎて確実に非締結時におけるATFの排出を促進することが困難となり、一方油溝の深さが芯金の厚さの35%を超えると、芯金が薄くなり過ぎて湿式摩擦材に必要な強度を維持することが困難となるからである。
【0024】
なお、油溝の深さが芯金の厚さの15%〜30%の範囲内であれば、より確実に湿式摩擦材に必要な強度を維持しつつ優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができるため、より好ましい。また、油溝の深さが芯金の厚さの20%〜25%の範囲内であれば、一層確実に湿式摩擦材に必要な強度を維持しつつ優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができるため、更に好ましい。
【0025】
請求項5の発明に係る湿式摩擦材においては、複数の油溝の幅が間隙の幅と同一か間隙の幅よりも広いことから、特に油溝の位置と間隙の位置とが一致している場合において、非締結時におけるATFの排出効果がより顕著になり、より大きい引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0026】
請求項6の発明に係る湿式摩擦材は、複数個のセグメントピースが互いに間隔をおいて全周両面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材であって、芯金に設けられた複数の油溝の位置と、セグメントピース同士の間に設けられた間隙の位置とが全て一致していることから、油通路の断面積が際立って大きくなって、非締結時におけるATFの排出効果がより顕著になり、確実により大きい引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態1の実施例1に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施の形態1の実施例2に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の実施例3に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の実施例5に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図3】図3(a)は本発明の実施の形態1の実施例1に係るセグメントタイプ摩擦材の油溝の断面形状を示す部分縦断面図、(b)は本発明の実施の形態1の実施例1の第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の油溝の断面形状を示す部分縦断面図、(c)は本発明の実施の形態1の実施例1の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の油溝の断面形状を示す部分縦断面図である。
【図4】図4(a)は本発明の実施の形態1の実施例6に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の実施例7に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の実施例8に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の実施例9に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材(実施例1乃至実施例5)における相対回転数と引き摺りトルクの関係を、従来のセグメントタイプ摩擦材と比較して示す図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材(実施例1乃至実施例5)における引き摺りトルクの低減効果を従来のセグメントタイプ摩擦材と比較した低減率として、相対回転数の低い領域と相対回転数の高い領域とに分けて示す図である。
【図7】図7(a)は本発明の実施の形態2の実施例10に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図8】図8(a)は本発明の実施の形態2の実施例11に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の実施例12に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の実施例13に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の実施例14に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図9】図9(a)は本発明の実施の形態2の実施例15に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の実施例16に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の実施例17に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の実施例18に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材について、図1乃至図6を参照して説明する。
【0030】
図1(a)は本発明の実施の形態1の実施例1に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。図2(a)は本発明の実施の形態1の実施例2に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の実施例3に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の実施例5に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0031】
図3(a)は本発明の実施の形態1の実施例1に係るセグメントタイプ摩擦材の油溝の断面形状を示す部分縦断面図、(b)は本発明の実施の形態1の実施例1の第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の油溝の断面形状を示す部分縦断面図、(c)は本発明の実施の形態1の実施例1の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材の油溝の断面形状を示す部分縦断面図である。
【0032】
図4(a)は本発明の実施の形態1の実施例6に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態1の実施例7に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態1の実施例8に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態1の実施例9に係るセグメントタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0033】
図5は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材(実施例1乃至実施例5)における相対回転数と引き摺りトルクの関係を、従来のセグメントタイプ摩擦材と比較して示す図である。図6は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材(実施例1乃至実施例5)における引き摺りトルクの低減効果を従来のセグメントタイプ摩擦材と比較した低減率として、相対回転数の低い領域と相対回転数の高い領域とに分けて示す図である。
【0034】
図1(a),(b)及び図2(a)〜(d)に示されるように、本実施の形態1の実施例1乃至実施例5に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1A〜1Eは、両面に放射方向に貫通する複数の油溝4A〜4Eが設けられた平板リング形状の鋼板製の芯金2A〜2Eに、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材から切り出した複数のセグメントピース3を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して間隙5及び引き込み6を空けて並べて貼り付け、芯金2A〜2Eの裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0035】
ここで、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材においては、「湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材」として、セルロース繊維(パルプ)、アラミド繊維、充填剤等を混合して抄紙してなる抄紙体に、フェノール樹脂を含浸させて加熱硬化させたものを用いている。以下の各実施例においても、同様である。接着剤(熱硬化性樹脂)としては、フェノール樹脂を使用している。芯金2A〜2Eの片面当りのセグメントピース3の枚数は40枚であり、間隙5の幅は2mmで、油溝4A〜4Eが設けられていない部分の芯金2A〜2Eの厚さは0.8mmで、セグメントピース3の厚さは0.5mmである。
【0036】
また、図1(a)に示されるように、芯金2Aの外周直径をφ、セグメントピース3の外周から外周までの直径(ディスクサイズ外径)をφ1、セグメントピース3の内周から内周までの直径(ディスクサイズ内径)をφ2とすると、本実施の形態1の実施例1に係るセグメントタイプ摩擦材1A〜1Eにおいては、φ=162mm,φ1=158mm,φ2=141mmである。したがって、2mm/(162mm/2)×100≒2.5より、引き込み長さ(引き込み6部分の半径方向の幅)は芯金2Aの半径(φ/2)の約2.5%である。
【0037】
図1(a),(b)に示されるように、本実施の形態1の実施例1に係るセグメントタイプ摩擦材1Aにおいては、芯金2Aに設けられた油溝4Aの幅は、隣り合うセグメントピース3同士の間隙5の幅(2mm)と同一であり、油溝4Aの位置と間隙5の位置とは全て一致している。したがって、芯金2Aの片面当りの油溝4Aの本数は40本である。また、油溝4Aの深さは0.2mmであり、芯金2Aの厚さ(0.8mm)の25%である。
【0038】
また、図2(a)に示されるように、本実施の形態1の実施例2に係るセグメントタイプ摩擦材1Bにおいては、実施例1と同様に油溝4Bの位置と間隙5の位置とが全て一致しており、芯金2Bの片面当りの油溝4Bの本数は40本であるが、油溝4Bの幅は隣り合うセグメントピース3同士の間隙5の幅(2mm)よりも狭く、1mmである。更に、図2(b)に示されるように、実施例3に係るセグメントタイプ摩擦材1Cにおいても、実施例1と同様に、油溝4Cの位置と間隙5の位置とが全て一致しており、芯金2Cの片面当りの油溝4Cの本数は40本であるが、油溝4Cの幅は隣り合うセグメントピース3同士の間隙5の幅(2mm)よりも広く、4mmである。
【0039】
更に、図2(c)に示されるように、本実施の形態1の実施例4に係るセグメントタイプ摩擦材1Dにおいては、実施例1とは異なり、油溝4Dは間隙5の位置ではなくセグメントピース3の中心に位置している。芯金2Dの片面当りの油溝4Dの本数は40本であり、油溝4Dの幅は隣り合うセグメントピース3同士の間隙5の幅と同じ2mmである。また、図2(d)に示されるように、実施例5に係るセグメントタイプ摩擦材1Eにおいても、実施例4と同様に、油溝4Eは間隙5の位置ではなくセグメントピース3の中心に位置している。芯金2Eの片面当りの油溝4Eの本数は40本であるが、油溝4Eの幅は油溝4Dの幅(2mm)よりも広く、4mmである。
【0040】
これらの図2に示される実施例2〜実施例5に係るセグメントタイプ摩擦材1B〜1Eにおいても、実施例1に係るセグメントタイプ摩擦材1Aと同様に、油溝4B〜4Eの深さは0.2mmであり、芯金2B〜2Eの厚さ(0.8mm)の25%である。また、引き込み長さ(引き込み6部分の半径方向の幅)も全て2mmであり、芯金2B〜2Eの半径(φ/2)の約2.5%である。
【0041】
ここで、これらの実施例1〜実施例5に係るセグメントタイプ摩擦材1A〜1Eにおいて、芯金2A〜2Eに設けられた油溝4A〜4Eの断面形状について、図3を参照して説明する。図3(a)に示されるように、本実施の形態1の実施例1に係るセグメントタイプ摩擦材1Aにおいては、芯金2Aに設けられた油溝4Aの断面形状は、略矩形の角溝形状である。芯金2B〜2Eに設けられた油溝4B〜4Eの断面形状も、同様に、略矩形の角溝形状である。
【0042】
これに対して、図3(b)に示されるように、本実施の形態1の実施例1の第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材においては、芯金2Aaに設けられた油溝4Aaの断面形状は、略U字形のU溝形状である。また、図3(c)に示されるように、本実施の形態1の実施例1の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材においては、芯金2Abに設けられた油溝4Abの断面形状は、略V字形のV溝形状である。このように、芯金に設けられた油溝の断面形状は、種々の形状とすることができる。
【0043】
なお、図3においては、芯金2A,2Aa,2Abの両面に油溝4A,4Aa,4Abを設けた場合を示しているが、湿式摩擦材の仕様によっては、芯金の片面のみに油溝を設けることも有り得る。また、図3においては、芯金2A,2Aa,2Abの表面に設けられた油溝4A,4Aa,4Abと表裏対称の位置に、裏面の油溝4A,4Aa,4Abを設けた場合を示しているが、両面の油溝は表裏対称の(同一の)位置に設けなくても良く、ずらして設けることもできる。
【0044】
また、図3においては、芯金2A,2Aa,2Abの両面の油溝4A,4Aa,4Abの幅及び深さを同一とした場合について示しているが、芯金の両面の油溝の幅及び深さは同一でなくても良い。更に、図3においては、芯金2A,2Aa,2Abの両面に同一の断面形状の油溝4A,4Aa,4Abをそれぞれ設けた場合を示しているが、芯金の両面の油溝の断面形状は、必ずしも同一でなくても良い。
【0045】
次に、本実施の形態1の実施例6乃至実施例9に係る湿式摩擦材について、図4を参照して説明する。図4(a)〜(d)に示されるように、本実施の形態1の実施例6乃至実施例9に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1F〜1Jは、両面に放射方向に貫通する複数の油溝4A〜4Eが設けられた平板リング形状の鋼板製の芯金2F〜2Jに、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材から切り出した複数のセグメントピース3を、接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して間隙5を空けて並べて貼り付け、芯金2F〜2Jの裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。
【0046】
図4(a)に示されるように、本実施の形態1の実施例6に係るセグメントタイプ摩擦材1Fにおいては、芯金2Fに設けられた油溝4Aの幅は、隣り合うセグメントピース3同士の間隙5の幅(2mm)と同一であり、油溝4Aは間隙5の位置の全てに、油溝4Dはセグメントピース3の中心位置の全てに、それぞれ設けられている。したがって、芯金2Fの片面当りの油溝4Aと油溝4Dの合計本数は80本である。また、油溝4Aの深さは0.2mmであり、芯金2Fの厚さ(0.8mm)の25%である。
【0047】
したがって、実施例6に係るセグメントタイプ摩擦材1Fを用いた場合には、相対回転数が低い領域における引き摺りトルクの低減効果は、図1(a)に示される実施例1のセグメントタイプ摩擦材1A、及び図2(c)に示される実施例4のセグメントタイプ摩擦材1Dに比較して、より優れているものと予測される。
【0048】
また、図4(b)に示されるように、本実施の形態1の実施例7に係るセグメントタイプ摩擦材1Gにおいては、芯金2Gに設けられた油溝4A及び油溝4Dの幅は、隣り合うセグメントピース3同士の間隙5の幅(2mm)と同一であるが、油溝4Aは間隙5の位置の二つおきに、油溝4Dはセグメントピース3の中心位置の二つおきに、それぞれ設けられている。したがって、芯金2Gの片面当りの油溝4Aと油溝4Dの合計本数は27本である。また、油溝4A及び油溝4Dの深さは0.2mmであり、芯金2Gの厚さ(0.8mm)の25%である。
【0049】
更に、図4(c)に示されるように、本実施の形態1の実施例8に係るセグメントタイプ摩擦材1Hにおいては、細い油溝(幅1mm)4Bと太い油溝(幅4mm)4Cとが交互に設けられ、これらの油溝4B,4Cの位置は、間隙5の位置と全て一致している。したがって、芯金2Hの片面当りの油溝4B,4Cの合計本数は40本である。また、油溝4B,4Cの深さは0.2mmであり、芯金2Hの厚さ(0.8mm)の25%である。
【0050】
また、図4(d)に示されるように、本実施の形態1の実施例9に係るセグメントタイプ摩擦材1Jにおいては、細い油溝(幅1mm)4Bが、間隙5の位置及びセグメントピース3の中心位置の全てに設けられている。したがって、芯金2Jの片面当りの油溝4Bの本数は80本である。また、油溝4Bの深さは0.2mmであり、芯金2Jの厚さ(0.8mm)の25%である。
【0051】
以上、実施例6乃至実施例9に示したように、油溝の幅及び本数はセグメントタイプ摩擦材に要求される仕様によって適宜設定される。また、油溝の深さは本実施の形態1においては全て0.2mmに設定されているが、これに限定されるものではなく、油溝の全てが0.2mm(芯金の厚さの25%)以外の深さに、または油溝の一部が0.2mm(芯金の厚さの25%)以外の深さに設定されることもあり得る。
【0052】
以上説明した本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材のうち、実施例1〜実施例5に係るセグメントタイプ摩擦材1A〜1Eについて、従来例に係るセグメントタイプ摩擦材(図1に示されるセグメントタイプ摩擦材1Aにおいて、芯金2Aに油溝4Aが設けられていないもの)と比較して、相対回転数と引き摺りトルクの関係を試験によって検証した。
【0053】
試験条件としては、相対回転数=500rpm〜5000rpm、ATF油温=80℃、ATF油量=2000mL/min、ディスクサイズが図1(a)に示される外周φ1=158mm,内周φ2=141mmにおいて試験し、ディスク枚数=3枚(したがって、相手材の鋼板ディスク(セパレータプレート)は4枚)、パッククリアランス=0.2mm/枚で行った。試験の結果を、図5に示す。
【0054】
その結果、図5に示されるように、相対回転数が500rpmの時点において、実施例1及び実施例3と比較例との間には既に引き摺りトルクの大きさに明確な差が出ており、相対回転数が1000rpmの時点では、比較例においては引き摺りトルクが急上昇するのに対して、実施例1及び実施例3は逆に引き摺りトルクが減少しており、その差がより大きくなっている。また、実施例2,4,5においても、引き摺りトルクは上昇するもののその増加の幅は小さく、比較例との間に明確な差が出ている。
【0055】
その後、相対回転数が1500rpm,2000rpm,3000rpmと上がるにしたがって、実施例1乃至実施例5及び比較例に係るセグメントタイプ摩擦材のいずれについても、引き摺りトルクが減少して行くが、実施例1乃至実施例5に係るセグメントタイプ摩擦材に対して、比較例に係るセグメントタイプ摩擦材の方が引き摺りトルクが大きいまま推移している。
【0056】
特に、実施例1及び実施例3に係るセグメントタイプ摩擦材1A,1Cの引き摺りトルクが、従来例に比較して顕著に低下している。これによって、油溝4A,4Cの幅が間隙5の幅と同一か間隙5の幅よりも広いことに起因して、非締結時におけるATFの排出効果がより顕著になる効果が現われているものと考えられる。
【0057】
そして、相対回転数が4000rpm,5000rpmの時点では、実施例1乃至実施例5と比較例のセグメントタイプ摩擦材について、引き摺りトルクの大きさが殆ど変わらなくなっている。これは、相対回転数が高くなることによる遠心力の増加によって、ATFがセグメントタイプ摩擦材の外周側に局在化して、引き込み6による引き摺りトルクの低減効果が顕著になったためと考えられる。
【0058】
このように、本実施の形態1(実施例1〜実施例5)に係るセグメントタイプ摩擦材1A〜1Eは、従来例のセグメントタイプ摩擦材に比較して、広い相対回転数の範囲(500rpm〜3000rpm)に亘って、引き摺りトルクの低減効果が大きいことが実証された。
【0059】
次に、この実験結果に基づいて、引き摺りトルク低減率を算出して評価した。引き摺りトルク低減率は、各実施例について、相対回転数500rpm〜2000rpmの領域の引き摺りトルクの平均値と、相対回転数3000rpm〜5000rpmの領域の引き摺りトルクの平均値より、従来例に係るセグメントタイプ摩擦材を基準として算出した。その結果を、図6に示す。
【0060】
図6に示されるように、実施例1及び実施例3について特に低減率が大きく、中でも相対回転数500rpm〜2000rpmの領域について、際立って低減率が大きいことが明らかになった。これらに次いで実施例2の低減率が大きいことから、芯金に設けられた油溝の位置とセグメントピースの間隙の位置が一致していることが好ましいこと、その中でも油溝の幅が広い方がより好ましいことが明らかになった。
【0061】
このようにして、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1Jにおいては、芯金の両面に放射方向に貫通する複数の油溝を設けることによって、ATFが排出される通路の断面積が大きくなり、または通路の数が多くなって、相対回転数が低く遠心力が小さい領域においても、大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0062】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材について、図7乃至図9を参照して説明する。図7(a)は本発明の実施の形態2の実施例10に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【0063】
図8(a)は本発明の実施の形態2の実施例11に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の実施例12に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の実施例13に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の実施例14に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0064】
図9(a)は本発明の実施の形態2の実施例15に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2の実施例16に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(c)は本発明の実施の形態2の実施例17に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図、(d)は本発明の実施の形態2の実施例18に係るリングタイプ摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【0065】
図7(a),(b)に示されるように、本実施の形態2の実施例10に係る湿式摩擦材11Aは、実施の形態1(セグメントタイプ摩擦材)と異なり、平板リング形状の鋼板製の芯金2Aの両面全面に、湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材から切り出したリング形状の摩擦材基材7を、接着剤(フェノール樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、複数(片面40個)の島状部分13を間に挟んで、複数(片面40本)の間隙15を形成し、かつ、外周からの引き込み6を形成してなるリングタイプ摩擦材である。
【0066】
ここで、本実施の形態2の実施例10に係るリングタイプ摩擦材11Aにおいては、「湿式摩擦材用の通常の摩擦材基材」として、セルロース繊維(パルプ)、アラミド繊維、充填剤等を混合して抄紙してなる抄紙体に、フェノール樹脂を含浸させて加熱硬化させたものを用いている。以下の各実施例においても、同様である。本実施の形態2の実施例10に係る湿式摩擦材としてのリングタイプ摩擦材11Aが従来のリングタイプ摩擦材と異なるのは、図7(a),(b)に示されるように、芯金2Aの両面に油溝4Aが設けられた点である。
【0067】
図7(a),(b)に示されるように、実施例10に係るリングタイプ摩擦材11Aにおいては、芯金2Aに設けられた油溝4Aの幅は、隣り合う島状部分13同士の間隙15の幅(2mm)と同一であり、油溝4Aの位置と間隙15の位置とは全て一致している。したがって、芯金2Aの片面当りの油溝4Aの本数は40本である。また、油溝4Aの深さは0.2mmであり、芯金2Aの厚さ(0.8mm)の25%である。
【0068】
また、図8(a)に示されるように、本実施の形態2の実施例11に係るリングタイプ摩擦材11Bにおいては、実施例10と同様に油溝4Bの位置と間隙15の位置とが全て一致しており、芯金2Bの片面当りの油溝4Bの本数は40本であるが、油溝4Bの幅は隣り合う島状部分13同士の間隙15の幅(2mm)よりも狭く、1mmである。更に、図8(b)に示されるように、実施例12に係るリングタイプ摩擦材11Cにおいても、実施例10と同様に、油溝4Cの位置と間隙15の位置とが全て一致しており、芯金2Cの片面当りの油溝4Cの本数は40本であるが、油溝4Cの幅は隣り合う島状部分13同士の間隙15の幅(2mm)よりも広く、4mmである。
【0069】
更に、図8(c)に示されるように、本実施の形態2の実施例13に係るセグメントタイプ摩擦材11Dにおいては、実施例10とは異なり、油溝4Dは間隙15の位置ではなく島状部分13の中心に位置している。芯金2Dの片面当りの油溝4Dの本数は40本であり、油溝4Dの幅は隣り合う島状部分13同士の間隙15の幅と同じ2mmである。また、図8(d)に示されるように、実施例14に係るセグメントタイプ摩擦材11Eにおいても、実施例13と同様に、油溝4Eは間隙15の位置ではなく島状部分13の中心に位置している。芯金2Eの片面当りの油溝4Eの本数は40本であるが、油溝4Eの幅は油溝4Dの幅(2mm)よりも広く、4mmである。
【0070】
更に、図9(a)に示されるように、本実施の形態2の実施例15に係るリングタイプ摩擦材11Fにおいては、芯金2Fに設けられた油溝4A及び油溝4Dの幅は、隣り合う島状部分13同士の間隙15の幅(2mm)と同一であり、油溝4Aは間隙15の位置の全てに、油溝4Dは島状部分13の中心位置の全てに、それぞれ設けられている。したがって、芯金2Fの片面当りの油溝4A及び油溝4Dの合計本数は80本である。
【0071】
また、図9(b)に示されるように、本実施の形態2の実施例16に係るリングタイプ摩擦材11Gにおいては、芯金2Gに設けられた油溝4A及び油溝4Dの幅は、隣り合う島状部分13同士の間隙15の幅(2mm)と同一であるが、油溝4Aは間隙15の位置の二つおきに、油溝4Dは島状部分13の中心位置の二つおきに、それぞれ設けられている。したがって、芯金2Gの片面当りの油溝4Aと油溝4Dの合計本数は27本である。
【0072】
更に、図9(c)に示されるように、本実施の形態2の実施例17に係るリングタイプ摩擦材11Hにおいては、細い油溝(幅1mm)4Bと太い油溝(幅4mm)4Cとが交互に設けられ、これらの油溝4B,4Cの位置は、間隙15の位置と全て一致している。したがって、芯金2Hの片面当りの油溝4B,4Cの合計本数は40本である。
【0073】
また、図9(d)に示されるように、本実施の形態2の実施例18に係るリングタイプ摩擦材11Jにおいては、細い油溝(幅1mm)4Bが間隙15の位置の全てに、細い油溝(幅1mm)4Jが島状部分13の中心位置の全てに、それぞれ設けられている。したがって、芯金2Jの片面当りの油溝4B及び油溝4Jの合計本数は80本である。
【0074】
これらの実施例11〜実施例18に係るリングタイプ摩擦材11B〜11Jにおいても、実施例10に係るリングタイプ摩擦材11Aと同様に、油溝4B〜4Eの深さは0.2mmであり、芯金2B〜2Eの厚さ(0.8mm)の25%である。また、油溝4A〜4Eの断面形状は、上記実施の形態1の実施例1乃至実施例5と同様に、図3(a)に示される略矩形の角溝形状である。
【0075】
これらの本実施の形態2に係るリングタイプ摩擦材11A〜11Jについて、上述した実施の形態1の場合と同様な条件で、相対回転数と引き摺りトルクの大きさとの関係を評価したところ、従来技術に係る芯金に油溝のないリングタイプ摩擦材に比較して、広い相対回転数の範囲(500rpm〜3000rpm)に亘って、引き摺りトルクの低減効果が大きいことが実証された。
【0076】
このようにして、本実施の形態2に係るリングタイプ摩擦材11A,11B,11C,11D,11E,11F,11G,11H,11Jにおいては、芯金の両面に放射方向に貫通する複数の油溝を設けることによって、ATFが排出される通路が多くなって、相対回転数が低く遠心力が小さい領域においても、大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
【0077】
上記各実施の形態においては、芯金の両面にセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けた場合について説明したが、仕様によっては、芯金の片面のみにセグメントピースまたはリング形状の摩擦材基材を貼り付けても良い。また、上記各実施の形態においては、芯金の片面にセグメントピースを40枚ずつ貼り付けた場合及び島状部分を40個形成した場合のみについて説明したが、芯金の片面当りのセグメントピースの枚数は40枚に限られるものではなく、また島状部分の数も40個に限られるものではなく、何枚でも何個でも自由に設定することができる。
【0078】
本発明を実施するに際しては、湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材及びリングタイプ摩擦材のその他の部分の構成、形状、数量、材質、大きさ、接続関係、製造方法等については、上記各実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0079】
1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1J,11A,11B,11C,11D,11E,11F,11G,11H,11J 湿式摩擦材
2A,2B,2C,2D,2E,2F,2G,2H,2J 芯金
3 セグメントピース
4A,4B,4C,4D,4E,4J 油溝
5,15 間隙
6 引き込み
7 リング形状の摩擦材基材
13 島状部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板リング形状の芯金に前記平板リング形状に沿って、複数個のセグメントピースに切断された摩擦材基材が互いに間隔をおいて全周両面若しくは全周片面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の全周両面若しくは全周片面にリング形状の摩擦材基材が接着されて複数個の島状部分を残してプレス加工若しくは切削加工されてなるリングタイプ摩擦材であって、
前記芯金の両面若しくは片面に放射方向に貫通する複数の油溝が設けられたことを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
前記芯金に設けられた複数の油溝は、前記複数個のセグメントピース同士の間に設けられた間隙または前記複数個の島状部分同士の間に設けられた間隙の位置にその一部または全部が一致するように設けられたことを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項3】
前記セグメントピースは、その外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように接着されてなるセグメントタイプ摩擦材、または前記リング形状の摩擦材基材は、前記島状部分の外周側面が前記芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように接着されてなるリングタイプ摩擦材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の湿式摩擦材。
【請求項4】
前記複数の油溝は、その深さが前記芯金の厚さの5%〜35%の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の湿式摩擦材。
【請求項5】
前記複数の油溝は、その幅が前記間隙の幅と同一か前記間隙の幅よりも広いことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の湿式摩擦材。
【請求項6】
前記複数個のセグメントピースが互いに間隔をおいて全周両面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材であって、
前記芯金に設けられた複数の油溝の位置と、前記セグメントピース同士の間に設けられた間隙の位置とが全て一致していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の湿式摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−1996(P2011−1996A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144379(P2009−144379)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】