湿式摩擦板
【課題】ドラグトルクを低減することが可能な湿式摩擦板を提供する。
【解決手段】セパレータプレート20と対向するリング状の摩擦面10aに内周から外周まで径方向に延びる油溝13が周方向に間隔を空けて複数設けられたフリクションプレート10であって、摩擦面10aの隣り合う油溝13の間の部分であるセグメント部14に撥油処理が施された撥油部15が設けられ、撥油部15は内周から外周に向かうに従って周方向に拡がるように設けられている。
【解決手段】セパレータプレート20と対向するリング状の摩擦面10aに内周から外周まで径方向に延びる油溝13が周方向に間隔を空けて複数設けられたフリクションプレート10であって、摩擦面10aの隣り合う油溝13の間の部分であるセグメント部14に撥油処理が施された撥油部15が設けられ、撥油部15は内周から外周に向かうに従って周方向に拡がるように設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式多板クラッチ又は湿式多板ブレーキに組み込まれる湿式摩擦板に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式多板クラッチ又は湿式多板ブレーキに組み込まれる湿式摩擦板として、摩擦面にオイルが通過する溝が設けられ、その溝に撥油処理が施されたものが知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−118647号公報
【特許文献2】特開2005−076759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の湿式摩擦板では、溝に施した撥油処理により摩擦板の内周から外周へのオイルの排出性は向上するが、摩擦面のうち溝と溝との間の部分であるセグメントに乗り上げるオイルの量が減少する。これにより係合対象、例えばセパレータプレートを湿式摩擦板から引き離す力が減少するので、湿式摩擦板とセパレータプレートとが接触し易くなる。そのため、ドラグトルク(引き摺りトルク)が増加するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、ドラグトルクを低減することが可能な湿式摩擦板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の湿式摩擦板は、係合対象と対向するリング状の摩擦面に内周から外周まで径方向に延びる油溝が周方向に間隔を空けて複数設けられた湿式摩擦板であって、前記摩擦面の隣り合う油溝の間の部分であるセグメント部に、撥油処理が施された撥油部が設けられ、前記撥油部は、内周から外周に向かうに従って周方向に拡がるように設けられている(請求項1)。
【0007】
本発明の湿式摩擦板によれば、セグメント部に乗り上げたオイルを撥油部に沿って導くことができる。撥油部は内周から外周に向かうに従って周方向に拡がっているため、オイルを摩擦面の外周側に設定された所定の部分に集めることができる。これによりその所定の部分でオイルを衝突させることができるので、係合対象を湿式摩擦板から引き離す力を発生させることができる。そのため、係合対象と湿式摩擦板とが接触し難くなる。従って、ドラグトルクを低減できる。また、オイルは摩擦面の外周側に集められるので、集まったオイルを遠心力で迅速に摩擦面から排出できる。そのため、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0008】
本発明の湿式摩擦板の一形態において、前記撥油部は、前記撥油部に沿って前記セグメント部上を内周側から外周側に流れるオイルが前記油溝の外周側の端に導かれるように形成されていてもよい(請求項2)。この場合、撥油部にてオイルを油溝の外周側の端に集めることができる。この場合、油溝を流れてきたオイルとセグメント部に乗り上げたオイルとを合流させることができるので、油溝の外周側の端に集まるオイルの量を増加させることができる。これにより係合対象を湿式摩擦板から引き離す力を強くすることができるので、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0009】
本発明の湿式摩擦板の一形態において、前記撥油部は、内周側の端部が前記摩擦面の内周に達しないように設けられ、前記セグメント部には、前記撥油部と重ならないように前記撥油部の内周に配置され、外周側の端部が前記撥油部の内周側の端部と径方向に並び、かつその外周側の端部から内周に向かうに従って深さが深くなるとともに周方向の幅が広くなるように前記摩擦面の内周まで形成された溝状の乗り上げ部が設けられていてもよい(請求項3)。この形態では、乗り上げ部によってセグメント部に乗り上げるオイルの量を増加させることができる。また、乗り上げ部の外周側の端部が撥油部の内周側の端部と径方向に並んでいるので、乗り上げ部の外周側の端部からセグメント部に乗り上げたオイルを撥油部に確実に導くことができる。そのため、摩擦面の外周側に設定された所定の部分に集まるオイルの量を増加させることができる。また、乗り上げ部のオイルが速やかに撥油部に導かれるので、その所定の部分に速やかにオイルを移動させるこができる。これによりオイルの衝突時に発生する力を強くすることができるので、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0010】
この形態においては、前記乗り上げ部に撥油処理が施されていてもよい(請求項4)。この形態では、撥油処理を施していないものと比較して同じ量のオイルをセグメント部に導く場合に乗り上げ部の面積を小さくできる。そのため、湿式摩擦板の熱容量の低下を低減できる。
【0011】
本発明の湿式摩擦板の一形態において、前記撥油部は、前記油溝の両側にそれぞれ設けられ、内周側の端部が前記油溝の内周側の端に設定され、かつその内周側の端部から外周に向かうに従って前記油溝から周方向に拡がるように形成されていてもよい(請求項5)。この形態では撥油部が油溝の両側に設けられているので、撥油部にてオイルをセグメント部の周方向の中央付近で、かつ外周側の部分に集めることができる。そのため、その部分でオイルを衝突させて係合対象を湿式摩擦板から引き離す力を発生させることができる。そのため、ドラグトルクを低減できる。また、セグメント部上にオイルを集めるので、油溝にオイルを集めた場合と比較して係合対象を湿式摩擦板から引き離す力をさらに強くすることができる。そのため、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0012】
この形態において、前記セグメント部には、前記セグメント部の中央部に配置された外周側の端部から内周に向かうに従って深さが深くなるとともに周方向の幅が広くなるように前記摩擦面の内周まで形成された溝状の乗り上げ部が前記撥油部と重ならないように設けられていてもよい(請求項6)。この場合、乗り上げ部によってセグメント部上に乗り上げるオイルを増加させることができる。そのため、セグメント部の周方向の中央付近で、かつ外周側の部分に集められるオイルの量を増加させることができる。これにより係合対象を湿式摩擦板から引き離す力を強くすることができるので、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0013】
また、前記乗り上げ部に撥油処理が施されていてもよい(請求項7)。この場合、乗り上げ部の面積を小さくできるので、湿式摩擦板の熱容量の低下を低減できる。
【発明の効果】
【0014】
以上に説明したように、本発明の湿式摩擦板によれば、セグメント部に乗り上げたオイルを撥油部に沿って導くことができるので、そのオイルを摩擦面の外周側に設定された所定の部分に集めることができる。これにより係合対象を湿式摩擦板から引き離す力を発生させることができるので、ドラグトルクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の形態に係る湿式摩擦板が組み込まれたクラッチの要部を概略的に示す図。
【図2】軸線方向から見た湿式摩擦板の摩擦面の一部を拡大して示す図。
【図3】セグメント部におけるオイルの流れを説明するための図。
【図4】第1の形態に係る湿式摩擦板の変形例を示す図。
【図5】本発明の第2の形態に係る湿式摩擦板の要部を示す図。
【図6】図5のVI−VI線におけるセグメント部の断面の一部を示す図。
【図7】第2の形態に係る湿式摩擦板のセグメント部におけるオイルの流れを説明するための図。
【図8】本発明の第3の形態に係る湿式摩擦板の要部を示す図。
【図9】第3の形態に係る湿式摩擦板のセグメント部におけるオイルの流れを説明するための図。
【図10】本発明の第4の形態に係る湿式摩擦板の要部を示す図。
【図11】第4の形態に係る湿式摩擦板のセグメント部におけるオイルの流れを説明するための図。
【図12】本発明の湿式摩擦部に設けられる撥油部の他の形状を示す図。
【図13】本発明の湿式摩擦部に設けられる撥油部のさらに他の形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の形態)
図1は本発明の第1の形態に係る湿式摩擦板が組み込まれたクラッチの要部を概略的に示している。このクラッチ1は、車両の自動変速機等に組み込まれる周知のものである。クラッチ1は、湿式多板クラッチとして構成されている。クラッチ1は、軸線Axの回りに回転可能に設けられたハブ2と、ハブ2の外周に同軸に設けられたドラム3とを備えている。ドラム3は、軸線Axの回りに回転可能かつハブ2に対して相対回転可能に設けられている。
【0017】
ハブ2の外周面2aには、湿式摩擦板としての複数のフリクションプレート10が設けられている。各フリクションプレート10はリング状に形成されている。ハブ2の外周面2aには、軸線Axの方向に延びるスプライン2bが設けられている。各フリクションプレート10は軸線Axの方向には移動可能かつハブ2と一体回転するようにハブ2のスプライン2bにスプライン係合されている。この図に示すようにドラム3には円筒状の円筒部3aが設けられている。ドラム3は、その円筒部3aの内周面3bがハブ2の外周面2aと対向するように配置されている。円筒部3aの内周面3bには、係合対象としての複数のセパレータプレート20が設けられている。各セパレータプレート20はリング状に形成されている。円筒部3aの内周面3bには、軸線Axの方向に延びるスプライン3cが設けられている。各セパレータプレート20は軸線Axの方向には移動可能かつドラム3と一体回転するように円筒部3aのスプライン3cにスプライン係合されている。この図に示すようにフリクションプレート10とセパレータプレート20とは軸線Axの方向に交互に並ぶように配置されている。
【0018】
フリクションプレート10及びセパレータプレート20の並び方向の一方の側(図1の右側)には、油圧ピストン4が設けられている。油圧ピストン4は、ドラム3に形成されたシリンダ3d内に軸線Axの方向に移動可能に収容されている。油圧ピストン4とシリンダ3dとの間にはシール材5、5が介在し、これによりシリンダ3d内に油圧室6が形成されている。ドラム3には、油圧ピストン4を図1の右側に付勢するリターンスプリング7が設けられている。この図に示すように油圧室6と油圧ピストン4を挟んで反対の側には、スプリングリテーナ8が設けられている。スプリングリテーナ8は、スナップリング8aにてドラム3に固定されている。リターンスプリング7は、油圧ピストン4とスプリングリテーナ8との間に圧縮状態で設けられ、これにより油圧ピストン4を図1の右側に付勢している。
【0019】
フリクションプレート10及びセパレータプレート20の並び方向の他方の側(図1の左側)には、リテーニングプレート9が設けられている。リテーニングプレート9は、セパレータプレート20と同様に円筒部3aの内周面3bに軸線Axの方向に移動可能かつドラム3と一体回転するようにスプライン係合されている。ただし、リテーニングプレート9は、図1に示した位置よりも左側に移動不能なようにスナップリング9aにより軸線Ax方向への移動が規制されている。
【0020】
ハブ2には、一端が外周面2aに開口し、かつ径方向に貫通したオイル供給孔2cが設けられている。これによりフリクションプレート10及びセパレータプレート20の内周側にオイルが供給される。
【0021】
このクラッチ1では、油圧室6内の油圧が上昇すると油圧ピストン4が図1の左側に移動し、フリクションプレート10とセパレータプレート20とを密着させる。これによりフリクションプレート10とセパレータプレート20とが摩擦係合され、クラッチ1が係合状態に切り替わる。この係合状態から油圧室6の油圧が低下するとリターンスプリング7によって油圧ピストン4が図1の右側に駆動される。これによりフリクションプレート10とセパレータプレート20との密着が解除され、クラッチ1が解放状態に切り替わる。上述したようにフリクションプレート10及びセパレータプレート20の内周側には、オイルが供給される。そのため、解放状態のときにはフリクションプレート10とセパレータプレート20との間にオイルが供給される。
【0022】
図1〜図3を参照してフリクションプレート10について詳しく説明する。図1に示すようにフリクションプレート10は、リング状のコアプレート11を備えている。コアプレート11の両面には湿式のライニング材12が固着されている。この図に示すようにライニング材12は、フリクションプレート10のうちセパレータプレート20と対向するリング状の摩擦面10aに設けられている。
【0023】
図2は、軸線Axの方向から見た摩擦面10aの一部を拡大して示している。なお、この図の矢印Rは、フリクションプレート10の回転方向を示している。この図に示したように摩擦面10aには摩擦面10aから軸線Axの方向に凹む複数の油溝13が設けられている。各油溝13は、摩擦面10aの内周から外周まで径方向に延びるように設けられている。複数の油溝13は、摩擦面10aに周方向に所定の間隔を空けて配置されている。フリクションプレート10の内周に供給されたオイルの一部は、この油溝13を介してフリクションプレート10の外周に排出される。このように油溝13を設けることにより、摩擦面10aにはセグメント部14が設けられる。この図に示すようにセグメント部14は摩擦面10aのうち隣り合う油溝13の間の部分である。
【0024】
セグメント部14には、撥油処理が施された撥油部15が設けられている。撥油部15は、各セグメント部14にそれぞれ設けられている。撥油処理は、例えば炭化フッ素系化合物を塗布することによって施せばよい。また、ライニング材12のうち撥油部15の部分のライニングの繊維を炭化フッ素系化合物で形成することによってこの部分に撥油処理を施してもよい。図に示すように撥油部15は、セグメント部14の径方向の中央よりも外周側の部分に扇状に設けられている。撥油部15の内周側の端部15aは、セグメント部14の周方向の略中央、かつセグメント部14の径方向の中央よりも少し外周寄りに設定されている。そして、撥油部15は、その内周側の端部15aから外周に向かうに従って左右にそれぞれ徐々に拡がるようにして摩擦面10aの外周まで形成されている。これにより撥油部15が内周から外周に向かうに従って周方向に拡がるように形成される。なお、撥油部15の外周側の端部15bは、油溝13に達しないように設定されている。なお、セグメント部14のうち撥油部15以外の部分については未処理部16と称する。
【0025】
図3を参照してセグメント部14におけるオイルの流れを説明する。フリクションプレート10の内周側からセグメント部14に乗り上げたオイルは、内周側から外周側に流れて撥油部15に達する。撥油部15はオイルをはじくため、この図に矢印F1で示したようにオイルは撥油部15と未処理部16との境界に沿って流れる。そして、このオイルは図において破線で囲んだ部分A1、すなわち油溝13の外周側の端の周囲に集められる。この際、隣り合う2つのセグメント部14の一方から流れてきたオイルと他方から流れてきたオイルとが衝突するため、このオイルの衝突により図3において紙面と垂直の方向すなわち軸線Axの方向の力が発生する。そして、この衝突により発生した力によりセパレータプレート20がフリクションプレート10から引き離される。
【0026】
以上に説明したように、この第1の形態によれば、フリクションプレート10の摩擦面10aに設けた撥油部15により軸線Axの方向の力を発生させることができる。これによりフリクションプレート10からセパレータプレート20を引き離す力を強くすることができるので、クラッチ1が解放状態のときにフリクションプレート10とセパレータプレート20とが接触し難くなる。そのため、ドラグトルクを低減できる。また、油溝13の外周側の端の周囲で衝突したオイルは、遠心力によって迅速に排出されるため、さらにドラグトルクを低減できる。
【0027】
第1の形態のフリクションプレート10によれば、セグメント部14上に乗り上がるオイルの量を積極的に増加させる必要がない。そのため、フリクションプレート10とセパレータプレート20との間に生じるせん断力の増加を防止できる。さらに、第1の形態のフリクションプレート10によれば、セグメント部14のうちクラッチ1が係合状態になったときにセパレータプレート20と接触する部分を減少させる必要がない。そのため、フリクションプレート10の熱容量の低下を防止できる。
【0028】
なお、第1の形態における撥油部15の形状は図2に示した形状に限定されない。例えば、図4に示すように撥油部15を設けてもよい。なお、図4は図2に対応する図である。この図において図2と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。この図に示すように撥油部15は、内周側の端部15aがセグメント部14の周方向の中央、かつ摩擦面10aの内周に設定されている。また、撥油部15の外周側の端部15bは、セグメント部14の外周側の端かつ油溝13に達するように設定されている。この変形例においても油溝13の外周側の端の周囲にオイルを集めることができるので、オイルを衝突させて軸線Axの方向の力を発生させることができる。これによりフリクションプレート10からセパレータプレート20を引き離す力を強くすることができるので、ドラグトルクを低減できる。また、衝突したオイルを遠心力で迅速に排出できるので、さらにドラグトルクを低減できる。
【0029】
(第2の形態)
次に図5〜図7を参照して本発明の第2の形態に係るフリクションプレート10について説明する。図5は、第1の形態の図2に対応する図である。この図に示したように第2の形態では、セグメント部14にオイル乗り上げ部17を設けた点が第1の形態と異なり、それ以外は同じである。そのため、この形態において第1の形態と共通する部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
オイル乗り上げ部17は、軸線Axの方向に凹む溝である。オイル乗り上げ部17も撥油部15と同様に各セグメント部14にそれぞれ設けられている。この図に示すようにオイル乗り上げ部17は、撥油部15よりも内周側に撥油部15と重ならないように設けられている。オイル乗り上げ部17は、セグメント部14の中央部分に設定された外周側の端部17aから内周に向かって左右に漸次拡がるようにして摩擦面10aの内周まで形成されている。これによりオイル乗り上げ部17が外周から内周に向かうに従って周方向に拡がるように形成される。オイル乗り上げ部17は、その外周側の端部17aが撥油部15の内周側の端部15aと径方向に並ぶように形成されている。これによりオイル乗り上げ部17は撥油部15と同じ位相になる。また、オイル乗り上げ部17は、内周側の端部17bの周方向の長さL1が撥油部15の外周側の端部15bの周方向の長さL2よりも小さくなるように形成されている。図6は、図5のVI−VI線におけるセグメント部14の断面の一部を示している。この図に示すようにオイル乗り上げ部17は、内周側の端部17bがフリクションプレート10の内周面に開口し、その内周側の端部17bから外周側の端部17aに向かって深さが漸次浅くなるように形成されている。オイル乗り上げ部17には、撥油部15と同様に撥油処理が施されている。
【0031】
図7を参照してこの形態のセグメント部14におけるオイルの流れを説明する。この形態ではフリクションプレート10の内周から未処理部16に乗り上げるオイルの他に矢印F2で示したようにオイル乗り上げ部17を介しても未処理部16にオイルが導かれる。上述したようにオイル乗り上げ部17はフリクションプレート10の内周面に開口しているので、未処理部16に乗り上げるオイルの量が増加する。オイル乗り上げ部17の外周側の端部17aと撥油部15の内周側の端部15aとは径方向に並んでいるため、オイル乗り上げ部17から撥油部16にオイルを確実に導くことができる。また、オイルはオイル乗り上げ部17から未処理部16に乗り上げた直後に撥油部15に導かれる。従って、オイルは矢印F1で示したように撥油部15に沿って油溝13に速やかに導かれる。このようにこの形態では、油溝13の外周側の端の周囲に集められるオイルの量が増加する。
【0032】
以上に説明したように第2の形態によれば、セグメント部14にオイル乗り上げ部17を設けたので、未処理部16に乗り上げるオイルの量を増加させることができる。これにより油溝13の外周側の端の周囲に集められるオイルの量が増加するので、オイルの衝突時に発生する軸線Axの方向の力を強くすることができる。そのため、ドラグトルクをさらに低減できる。また、オイル乗り上げ部17に撥油処理を施したので、撥油処理を施していない場合と比較して同じ量のオイルを導く場合にオイル乗り上げ部17の面積を小さくできる。そのため、フリクションプレート10の熱容量の低下を低減できる。
【0033】
(第3の形態)
図8及び図9を参照して本発明の第3の形態に係るフリクションプレート10について説明する。なお、この形態において第1の形態と共通する部分については同一の符号を付して説明を省略する。図8は、第1の形態の図2に対応する図である。この図に示したようにこの形態では、上述した2つの形態と比較して撥油部15の形状が異なる。この形態では、撥油部15が油溝13の両側に油溝13を中心として対称に設けられている。そのため、同じセグメント部14に2つの撥油部15が設けられる。各撥油部15は、内周側の端部15aが油溝13の内周側の端に設定されている。そして、各撥油部15は、その内周側の端部15aから外周に向かうに従って油溝13から周方向に拡がるように形成されている。そのため、未処理部16は、摩擦面10aの内周から外周に向かって周方向の幅が漸次狭くなるように形成されている。
【0034】
図9を参照してこの形態のセグメント部14におけるオイルの流れを説明する。この形態では、フリクションプレート10の内周から未処理部16にオイルが乗り上げると、そのオイルは矢印F3で示したように撥油部15と未処理部16との境界に沿って未処理部16の外周の中央部分に向かって流れる。そのため、オイルはこの図の破線で囲んだ部分A2に集められる。これによりこの部分A2でオイルの衝突が発生し、軸線Axの方向の力が発生する。
【0035】
以上に説明したように第3の形態のフリクションプレート10によれば、未処理部16の破線で囲んだ部分A2にオイルを集めて軸線Axの方向の力を発生させることができる。そのため、フリクションプレート10からセパレータプレート20を引き離す力を強くすることができる。これによりクラッチ1が解放状態のときにフリクションプレート10とセパレータプレート20とが接触し難くなるので、ドラグトルクを低減できる。また、この形態では未処理部16上にオイルを集めるので、油溝13にオイルを集める場合と比較して軸線Axの方向の力をさらに強くすることができる。また、オイルは摩擦面10aの外周部分に集められるので、衝突したオイルを遠心力によって迅速にフリクションプレート10の外周に排出することができる。そのため、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0036】
(第4の形態)
図10及び図11を参照して本発明の第4の形態に係るフリクションプレート10について説明する。なお、この形態において上述した第1〜第3の形態と共通する部分については同一の符号を付して説明を省略する。図10は、第3の形態の図8に対応する図である。この図に示したように第4の形態では、第3の形態と比較してセグメント部14にオイル乗り上げ部17を設けた点が異なり、それ以外は同じである。図10に示したようにオイル乗り上げ部17は、第2の形態と同様にセグメント部14の周方向の中央に形成されている。また、オイル乗り上げ部17には撥油部15と同様に撥油処理が施されている。なお、オイル乗り上げ部17の形状は第2の形態と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0037】
図11を参照してこの形態のセグメント部14におけるオイルの流れを説明する。この形態では、第3の形態と同様に矢印F3で示したように撥油部15に沿ってオイルが破線で囲んだ部分A2に導かれる。また、この他に矢印F4で示すようにオイルは、オイル乗り上げ部17を介しても破線で囲んだ部分A2に導かれる。上述したようにオイル乗り上げ部17はフリクションプレート10の内周面に開口しているので、オイル乗り上げ部17を設けたことにより未処理部16に乗り上げるオイルの量が増加する。そのため、破線で囲んだ部分A2に集められるオイルの量が増加する。
【0038】
以上に説明したように第4の形態によれば、未処理部16に乗り上がるオイルの量を増加させて破線で囲んだ部分A2に集められるオイルを増加させることができる。そのため、オイルの衝突時に発生する軸線Axの方向の力をさらに強くすることができる。そのため、ドラグトルクをさらに低減できる。また、オイル乗り上げ部17に撥油処理を施したので、オイル乗り上げ部17の面積を小さくできる。そのため、フリクションプレート10の熱容量の低下を低減できる。
【0039】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、撥油部を各セグメント部にそれぞれ設けなくてもよい。例えば上述した第3の形態や第4の形態では、セグメント部に1つ置きに撥油部を設けてもよい。この場合でも撥油部を設けたセグメント部で軸線方向の力を発生させることができるので、ドラグトルクを低減できる。1つのセグメント部に設けられる撥油部の数は1つ又は2つに限定されない。1つのセグメント部に3つ以上の撥油部を設けてもよい。さらに、オイル乗り上げ部には撥油処理を施さなくてもよい。
【0040】
撥油部の形状は、上述した形態で示した形状に限定されない。例えば図12に示すように撥油部15は内周側の端部15aも周方向に長い台形に近い形状であってもよい。また、図13に示すように撥油部15は半円状であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 フリクションプレート(湿式摩擦板)
10a 摩擦面
13 油溝
14 セグメント部
15 撥油部
15a 撥油部の内周側の端部
15b 撥油部の外周側の端部
17 乗り上げ部
17a 乗り上げ部の外周側の端部
17b 乗り上げ部の内周側の端部
20 セパレータプレート(係合対象)
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式多板クラッチ又は湿式多板ブレーキに組み込まれる湿式摩擦板に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式多板クラッチ又は湿式多板ブレーキに組み込まれる湿式摩擦板として、摩擦面にオイルが通過する溝が設けられ、その溝に撥油処理が施されたものが知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−118647号公報
【特許文献2】特開2005−076759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の湿式摩擦板では、溝に施した撥油処理により摩擦板の内周から外周へのオイルの排出性は向上するが、摩擦面のうち溝と溝との間の部分であるセグメントに乗り上げるオイルの量が減少する。これにより係合対象、例えばセパレータプレートを湿式摩擦板から引き離す力が減少するので、湿式摩擦板とセパレータプレートとが接触し易くなる。そのため、ドラグトルク(引き摺りトルク)が増加するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、ドラグトルクを低減することが可能な湿式摩擦板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の湿式摩擦板は、係合対象と対向するリング状の摩擦面に内周から外周まで径方向に延びる油溝が周方向に間隔を空けて複数設けられた湿式摩擦板であって、前記摩擦面の隣り合う油溝の間の部分であるセグメント部に、撥油処理が施された撥油部が設けられ、前記撥油部は、内周から外周に向かうに従って周方向に拡がるように設けられている(請求項1)。
【0007】
本発明の湿式摩擦板によれば、セグメント部に乗り上げたオイルを撥油部に沿って導くことができる。撥油部は内周から外周に向かうに従って周方向に拡がっているため、オイルを摩擦面の外周側に設定された所定の部分に集めることができる。これによりその所定の部分でオイルを衝突させることができるので、係合対象を湿式摩擦板から引き離す力を発生させることができる。そのため、係合対象と湿式摩擦板とが接触し難くなる。従って、ドラグトルクを低減できる。また、オイルは摩擦面の外周側に集められるので、集まったオイルを遠心力で迅速に摩擦面から排出できる。そのため、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0008】
本発明の湿式摩擦板の一形態において、前記撥油部は、前記撥油部に沿って前記セグメント部上を内周側から外周側に流れるオイルが前記油溝の外周側の端に導かれるように形成されていてもよい(請求項2)。この場合、撥油部にてオイルを油溝の外周側の端に集めることができる。この場合、油溝を流れてきたオイルとセグメント部に乗り上げたオイルとを合流させることができるので、油溝の外周側の端に集まるオイルの量を増加させることができる。これにより係合対象を湿式摩擦板から引き離す力を強くすることができるので、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0009】
本発明の湿式摩擦板の一形態において、前記撥油部は、内周側の端部が前記摩擦面の内周に達しないように設けられ、前記セグメント部には、前記撥油部と重ならないように前記撥油部の内周に配置され、外周側の端部が前記撥油部の内周側の端部と径方向に並び、かつその外周側の端部から内周に向かうに従って深さが深くなるとともに周方向の幅が広くなるように前記摩擦面の内周まで形成された溝状の乗り上げ部が設けられていてもよい(請求項3)。この形態では、乗り上げ部によってセグメント部に乗り上げるオイルの量を増加させることができる。また、乗り上げ部の外周側の端部が撥油部の内周側の端部と径方向に並んでいるので、乗り上げ部の外周側の端部からセグメント部に乗り上げたオイルを撥油部に確実に導くことができる。そのため、摩擦面の外周側に設定された所定の部分に集まるオイルの量を増加させることができる。また、乗り上げ部のオイルが速やかに撥油部に導かれるので、その所定の部分に速やかにオイルを移動させるこができる。これによりオイルの衝突時に発生する力を強くすることができるので、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0010】
この形態においては、前記乗り上げ部に撥油処理が施されていてもよい(請求項4)。この形態では、撥油処理を施していないものと比較して同じ量のオイルをセグメント部に導く場合に乗り上げ部の面積を小さくできる。そのため、湿式摩擦板の熱容量の低下を低減できる。
【0011】
本発明の湿式摩擦板の一形態において、前記撥油部は、前記油溝の両側にそれぞれ設けられ、内周側の端部が前記油溝の内周側の端に設定され、かつその内周側の端部から外周に向かうに従って前記油溝から周方向に拡がるように形成されていてもよい(請求項5)。この形態では撥油部が油溝の両側に設けられているので、撥油部にてオイルをセグメント部の周方向の中央付近で、かつ外周側の部分に集めることができる。そのため、その部分でオイルを衝突させて係合対象を湿式摩擦板から引き離す力を発生させることができる。そのため、ドラグトルクを低減できる。また、セグメント部上にオイルを集めるので、油溝にオイルを集めた場合と比較して係合対象を湿式摩擦板から引き離す力をさらに強くすることができる。そのため、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0012】
この形態において、前記セグメント部には、前記セグメント部の中央部に配置された外周側の端部から内周に向かうに従って深さが深くなるとともに周方向の幅が広くなるように前記摩擦面の内周まで形成された溝状の乗り上げ部が前記撥油部と重ならないように設けられていてもよい(請求項6)。この場合、乗り上げ部によってセグメント部上に乗り上げるオイルを増加させることができる。そのため、セグメント部の周方向の中央付近で、かつ外周側の部分に集められるオイルの量を増加させることができる。これにより係合対象を湿式摩擦板から引き離す力を強くすることができるので、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0013】
また、前記乗り上げ部に撥油処理が施されていてもよい(請求項7)。この場合、乗り上げ部の面積を小さくできるので、湿式摩擦板の熱容量の低下を低減できる。
【発明の効果】
【0014】
以上に説明したように、本発明の湿式摩擦板によれば、セグメント部に乗り上げたオイルを撥油部に沿って導くことができるので、そのオイルを摩擦面の外周側に設定された所定の部分に集めることができる。これにより係合対象を湿式摩擦板から引き離す力を発生させることができるので、ドラグトルクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の形態に係る湿式摩擦板が組み込まれたクラッチの要部を概略的に示す図。
【図2】軸線方向から見た湿式摩擦板の摩擦面の一部を拡大して示す図。
【図3】セグメント部におけるオイルの流れを説明するための図。
【図4】第1の形態に係る湿式摩擦板の変形例を示す図。
【図5】本発明の第2の形態に係る湿式摩擦板の要部を示す図。
【図6】図5のVI−VI線におけるセグメント部の断面の一部を示す図。
【図7】第2の形態に係る湿式摩擦板のセグメント部におけるオイルの流れを説明するための図。
【図8】本発明の第3の形態に係る湿式摩擦板の要部を示す図。
【図9】第3の形態に係る湿式摩擦板のセグメント部におけるオイルの流れを説明するための図。
【図10】本発明の第4の形態に係る湿式摩擦板の要部を示す図。
【図11】第4の形態に係る湿式摩擦板のセグメント部におけるオイルの流れを説明するための図。
【図12】本発明の湿式摩擦部に設けられる撥油部の他の形状を示す図。
【図13】本発明の湿式摩擦部に設けられる撥油部のさらに他の形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の形態)
図1は本発明の第1の形態に係る湿式摩擦板が組み込まれたクラッチの要部を概略的に示している。このクラッチ1は、車両の自動変速機等に組み込まれる周知のものである。クラッチ1は、湿式多板クラッチとして構成されている。クラッチ1は、軸線Axの回りに回転可能に設けられたハブ2と、ハブ2の外周に同軸に設けられたドラム3とを備えている。ドラム3は、軸線Axの回りに回転可能かつハブ2に対して相対回転可能に設けられている。
【0017】
ハブ2の外周面2aには、湿式摩擦板としての複数のフリクションプレート10が設けられている。各フリクションプレート10はリング状に形成されている。ハブ2の外周面2aには、軸線Axの方向に延びるスプライン2bが設けられている。各フリクションプレート10は軸線Axの方向には移動可能かつハブ2と一体回転するようにハブ2のスプライン2bにスプライン係合されている。この図に示すようにドラム3には円筒状の円筒部3aが設けられている。ドラム3は、その円筒部3aの内周面3bがハブ2の外周面2aと対向するように配置されている。円筒部3aの内周面3bには、係合対象としての複数のセパレータプレート20が設けられている。各セパレータプレート20はリング状に形成されている。円筒部3aの内周面3bには、軸線Axの方向に延びるスプライン3cが設けられている。各セパレータプレート20は軸線Axの方向には移動可能かつドラム3と一体回転するように円筒部3aのスプライン3cにスプライン係合されている。この図に示すようにフリクションプレート10とセパレータプレート20とは軸線Axの方向に交互に並ぶように配置されている。
【0018】
フリクションプレート10及びセパレータプレート20の並び方向の一方の側(図1の右側)には、油圧ピストン4が設けられている。油圧ピストン4は、ドラム3に形成されたシリンダ3d内に軸線Axの方向に移動可能に収容されている。油圧ピストン4とシリンダ3dとの間にはシール材5、5が介在し、これによりシリンダ3d内に油圧室6が形成されている。ドラム3には、油圧ピストン4を図1の右側に付勢するリターンスプリング7が設けられている。この図に示すように油圧室6と油圧ピストン4を挟んで反対の側には、スプリングリテーナ8が設けられている。スプリングリテーナ8は、スナップリング8aにてドラム3に固定されている。リターンスプリング7は、油圧ピストン4とスプリングリテーナ8との間に圧縮状態で設けられ、これにより油圧ピストン4を図1の右側に付勢している。
【0019】
フリクションプレート10及びセパレータプレート20の並び方向の他方の側(図1の左側)には、リテーニングプレート9が設けられている。リテーニングプレート9は、セパレータプレート20と同様に円筒部3aの内周面3bに軸線Axの方向に移動可能かつドラム3と一体回転するようにスプライン係合されている。ただし、リテーニングプレート9は、図1に示した位置よりも左側に移動不能なようにスナップリング9aにより軸線Ax方向への移動が規制されている。
【0020】
ハブ2には、一端が外周面2aに開口し、かつ径方向に貫通したオイル供給孔2cが設けられている。これによりフリクションプレート10及びセパレータプレート20の内周側にオイルが供給される。
【0021】
このクラッチ1では、油圧室6内の油圧が上昇すると油圧ピストン4が図1の左側に移動し、フリクションプレート10とセパレータプレート20とを密着させる。これによりフリクションプレート10とセパレータプレート20とが摩擦係合され、クラッチ1が係合状態に切り替わる。この係合状態から油圧室6の油圧が低下するとリターンスプリング7によって油圧ピストン4が図1の右側に駆動される。これによりフリクションプレート10とセパレータプレート20との密着が解除され、クラッチ1が解放状態に切り替わる。上述したようにフリクションプレート10及びセパレータプレート20の内周側には、オイルが供給される。そのため、解放状態のときにはフリクションプレート10とセパレータプレート20との間にオイルが供給される。
【0022】
図1〜図3を参照してフリクションプレート10について詳しく説明する。図1に示すようにフリクションプレート10は、リング状のコアプレート11を備えている。コアプレート11の両面には湿式のライニング材12が固着されている。この図に示すようにライニング材12は、フリクションプレート10のうちセパレータプレート20と対向するリング状の摩擦面10aに設けられている。
【0023】
図2は、軸線Axの方向から見た摩擦面10aの一部を拡大して示している。なお、この図の矢印Rは、フリクションプレート10の回転方向を示している。この図に示したように摩擦面10aには摩擦面10aから軸線Axの方向に凹む複数の油溝13が設けられている。各油溝13は、摩擦面10aの内周から外周まで径方向に延びるように設けられている。複数の油溝13は、摩擦面10aに周方向に所定の間隔を空けて配置されている。フリクションプレート10の内周に供給されたオイルの一部は、この油溝13を介してフリクションプレート10の外周に排出される。このように油溝13を設けることにより、摩擦面10aにはセグメント部14が設けられる。この図に示すようにセグメント部14は摩擦面10aのうち隣り合う油溝13の間の部分である。
【0024】
セグメント部14には、撥油処理が施された撥油部15が設けられている。撥油部15は、各セグメント部14にそれぞれ設けられている。撥油処理は、例えば炭化フッ素系化合物を塗布することによって施せばよい。また、ライニング材12のうち撥油部15の部分のライニングの繊維を炭化フッ素系化合物で形成することによってこの部分に撥油処理を施してもよい。図に示すように撥油部15は、セグメント部14の径方向の中央よりも外周側の部分に扇状に設けられている。撥油部15の内周側の端部15aは、セグメント部14の周方向の略中央、かつセグメント部14の径方向の中央よりも少し外周寄りに設定されている。そして、撥油部15は、その内周側の端部15aから外周に向かうに従って左右にそれぞれ徐々に拡がるようにして摩擦面10aの外周まで形成されている。これにより撥油部15が内周から外周に向かうに従って周方向に拡がるように形成される。なお、撥油部15の外周側の端部15bは、油溝13に達しないように設定されている。なお、セグメント部14のうち撥油部15以外の部分については未処理部16と称する。
【0025】
図3を参照してセグメント部14におけるオイルの流れを説明する。フリクションプレート10の内周側からセグメント部14に乗り上げたオイルは、内周側から外周側に流れて撥油部15に達する。撥油部15はオイルをはじくため、この図に矢印F1で示したようにオイルは撥油部15と未処理部16との境界に沿って流れる。そして、このオイルは図において破線で囲んだ部分A1、すなわち油溝13の外周側の端の周囲に集められる。この際、隣り合う2つのセグメント部14の一方から流れてきたオイルと他方から流れてきたオイルとが衝突するため、このオイルの衝突により図3において紙面と垂直の方向すなわち軸線Axの方向の力が発生する。そして、この衝突により発生した力によりセパレータプレート20がフリクションプレート10から引き離される。
【0026】
以上に説明したように、この第1の形態によれば、フリクションプレート10の摩擦面10aに設けた撥油部15により軸線Axの方向の力を発生させることができる。これによりフリクションプレート10からセパレータプレート20を引き離す力を強くすることができるので、クラッチ1が解放状態のときにフリクションプレート10とセパレータプレート20とが接触し難くなる。そのため、ドラグトルクを低減できる。また、油溝13の外周側の端の周囲で衝突したオイルは、遠心力によって迅速に排出されるため、さらにドラグトルクを低減できる。
【0027】
第1の形態のフリクションプレート10によれば、セグメント部14上に乗り上がるオイルの量を積極的に増加させる必要がない。そのため、フリクションプレート10とセパレータプレート20との間に生じるせん断力の増加を防止できる。さらに、第1の形態のフリクションプレート10によれば、セグメント部14のうちクラッチ1が係合状態になったときにセパレータプレート20と接触する部分を減少させる必要がない。そのため、フリクションプレート10の熱容量の低下を防止できる。
【0028】
なお、第1の形態における撥油部15の形状は図2に示した形状に限定されない。例えば、図4に示すように撥油部15を設けてもよい。なお、図4は図2に対応する図である。この図において図2と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。この図に示すように撥油部15は、内周側の端部15aがセグメント部14の周方向の中央、かつ摩擦面10aの内周に設定されている。また、撥油部15の外周側の端部15bは、セグメント部14の外周側の端かつ油溝13に達するように設定されている。この変形例においても油溝13の外周側の端の周囲にオイルを集めることができるので、オイルを衝突させて軸線Axの方向の力を発生させることができる。これによりフリクションプレート10からセパレータプレート20を引き離す力を強くすることができるので、ドラグトルクを低減できる。また、衝突したオイルを遠心力で迅速に排出できるので、さらにドラグトルクを低減できる。
【0029】
(第2の形態)
次に図5〜図7を参照して本発明の第2の形態に係るフリクションプレート10について説明する。図5は、第1の形態の図2に対応する図である。この図に示したように第2の形態では、セグメント部14にオイル乗り上げ部17を設けた点が第1の形態と異なり、それ以外は同じである。そのため、この形態において第1の形態と共通する部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
オイル乗り上げ部17は、軸線Axの方向に凹む溝である。オイル乗り上げ部17も撥油部15と同様に各セグメント部14にそれぞれ設けられている。この図に示すようにオイル乗り上げ部17は、撥油部15よりも内周側に撥油部15と重ならないように設けられている。オイル乗り上げ部17は、セグメント部14の中央部分に設定された外周側の端部17aから内周に向かって左右に漸次拡がるようにして摩擦面10aの内周まで形成されている。これによりオイル乗り上げ部17が外周から内周に向かうに従って周方向に拡がるように形成される。オイル乗り上げ部17は、その外周側の端部17aが撥油部15の内周側の端部15aと径方向に並ぶように形成されている。これによりオイル乗り上げ部17は撥油部15と同じ位相になる。また、オイル乗り上げ部17は、内周側の端部17bの周方向の長さL1が撥油部15の外周側の端部15bの周方向の長さL2よりも小さくなるように形成されている。図6は、図5のVI−VI線におけるセグメント部14の断面の一部を示している。この図に示すようにオイル乗り上げ部17は、内周側の端部17bがフリクションプレート10の内周面に開口し、その内周側の端部17bから外周側の端部17aに向かって深さが漸次浅くなるように形成されている。オイル乗り上げ部17には、撥油部15と同様に撥油処理が施されている。
【0031】
図7を参照してこの形態のセグメント部14におけるオイルの流れを説明する。この形態ではフリクションプレート10の内周から未処理部16に乗り上げるオイルの他に矢印F2で示したようにオイル乗り上げ部17を介しても未処理部16にオイルが導かれる。上述したようにオイル乗り上げ部17はフリクションプレート10の内周面に開口しているので、未処理部16に乗り上げるオイルの量が増加する。オイル乗り上げ部17の外周側の端部17aと撥油部15の内周側の端部15aとは径方向に並んでいるため、オイル乗り上げ部17から撥油部16にオイルを確実に導くことができる。また、オイルはオイル乗り上げ部17から未処理部16に乗り上げた直後に撥油部15に導かれる。従って、オイルは矢印F1で示したように撥油部15に沿って油溝13に速やかに導かれる。このようにこの形態では、油溝13の外周側の端の周囲に集められるオイルの量が増加する。
【0032】
以上に説明したように第2の形態によれば、セグメント部14にオイル乗り上げ部17を設けたので、未処理部16に乗り上げるオイルの量を増加させることができる。これにより油溝13の外周側の端の周囲に集められるオイルの量が増加するので、オイルの衝突時に発生する軸線Axの方向の力を強くすることができる。そのため、ドラグトルクをさらに低減できる。また、オイル乗り上げ部17に撥油処理を施したので、撥油処理を施していない場合と比較して同じ量のオイルを導く場合にオイル乗り上げ部17の面積を小さくできる。そのため、フリクションプレート10の熱容量の低下を低減できる。
【0033】
(第3の形態)
図8及び図9を参照して本発明の第3の形態に係るフリクションプレート10について説明する。なお、この形態において第1の形態と共通する部分については同一の符号を付して説明を省略する。図8は、第1の形態の図2に対応する図である。この図に示したようにこの形態では、上述した2つの形態と比較して撥油部15の形状が異なる。この形態では、撥油部15が油溝13の両側に油溝13を中心として対称に設けられている。そのため、同じセグメント部14に2つの撥油部15が設けられる。各撥油部15は、内周側の端部15aが油溝13の内周側の端に設定されている。そして、各撥油部15は、その内周側の端部15aから外周に向かうに従って油溝13から周方向に拡がるように形成されている。そのため、未処理部16は、摩擦面10aの内周から外周に向かって周方向の幅が漸次狭くなるように形成されている。
【0034】
図9を参照してこの形態のセグメント部14におけるオイルの流れを説明する。この形態では、フリクションプレート10の内周から未処理部16にオイルが乗り上げると、そのオイルは矢印F3で示したように撥油部15と未処理部16との境界に沿って未処理部16の外周の中央部分に向かって流れる。そのため、オイルはこの図の破線で囲んだ部分A2に集められる。これによりこの部分A2でオイルの衝突が発生し、軸線Axの方向の力が発生する。
【0035】
以上に説明したように第3の形態のフリクションプレート10によれば、未処理部16の破線で囲んだ部分A2にオイルを集めて軸線Axの方向の力を発生させることができる。そのため、フリクションプレート10からセパレータプレート20を引き離す力を強くすることができる。これによりクラッチ1が解放状態のときにフリクションプレート10とセパレータプレート20とが接触し難くなるので、ドラグトルクを低減できる。また、この形態では未処理部16上にオイルを集めるので、油溝13にオイルを集める場合と比較して軸線Axの方向の力をさらに強くすることができる。また、オイルは摩擦面10aの外周部分に集められるので、衝突したオイルを遠心力によって迅速にフリクションプレート10の外周に排出することができる。そのため、ドラグトルクをさらに低減できる。
【0036】
(第4の形態)
図10及び図11を参照して本発明の第4の形態に係るフリクションプレート10について説明する。なお、この形態において上述した第1〜第3の形態と共通する部分については同一の符号を付して説明を省略する。図10は、第3の形態の図8に対応する図である。この図に示したように第4の形態では、第3の形態と比較してセグメント部14にオイル乗り上げ部17を設けた点が異なり、それ以外は同じである。図10に示したようにオイル乗り上げ部17は、第2の形態と同様にセグメント部14の周方向の中央に形成されている。また、オイル乗り上げ部17には撥油部15と同様に撥油処理が施されている。なお、オイル乗り上げ部17の形状は第2の形態と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0037】
図11を参照してこの形態のセグメント部14におけるオイルの流れを説明する。この形態では、第3の形態と同様に矢印F3で示したように撥油部15に沿ってオイルが破線で囲んだ部分A2に導かれる。また、この他に矢印F4で示すようにオイルは、オイル乗り上げ部17を介しても破線で囲んだ部分A2に導かれる。上述したようにオイル乗り上げ部17はフリクションプレート10の内周面に開口しているので、オイル乗り上げ部17を設けたことにより未処理部16に乗り上げるオイルの量が増加する。そのため、破線で囲んだ部分A2に集められるオイルの量が増加する。
【0038】
以上に説明したように第4の形態によれば、未処理部16に乗り上がるオイルの量を増加させて破線で囲んだ部分A2に集められるオイルを増加させることができる。そのため、オイルの衝突時に発生する軸線Axの方向の力をさらに強くすることができる。そのため、ドラグトルクをさらに低減できる。また、オイル乗り上げ部17に撥油処理を施したので、オイル乗り上げ部17の面積を小さくできる。そのため、フリクションプレート10の熱容量の低下を低減できる。
【0039】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、撥油部を各セグメント部にそれぞれ設けなくてもよい。例えば上述した第3の形態や第4の形態では、セグメント部に1つ置きに撥油部を設けてもよい。この場合でも撥油部を設けたセグメント部で軸線方向の力を発生させることができるので、ドラグトルクを低減できる。1つのセグメント部に設けられる撥油部の数は1つ又は2つに限定されない。1つのセグメント部に3つ以上の撥油部を設けてもよい。さらに、オイル乗り上げ部には撥油処理を施さなくてもよい。
【0040】
撥油部の形状は、上述した形態で示した形状に限定されない。例えば図12に示すように撥油部15は内周側の端部15aも周方向に長い台形に近い形状であってもよい。また、図13に示すように撥油部15は半円状であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 フリクションプレート(湿式摩擦板)
10a 摩擦面
13 油溝
14 セグメント部
15 撥油部
15a 撥油部の内周側の端部
15b 撥油部の外周側の端部
17 乗り上げ部
17a 乗り上げ部の外周側の端部
17b 乗り上げ部の内周側の端部
20 セパレータプレート(係合対象)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
係合対象と対向するリング状の摩擦面に内周から外周まで径方向に延びる油溝が周方向に間隔を空けて複数設けられた湿式摩擦板であって、
前記摩擦面の隣り合う油溝の間の部分であるセグメント部に、撥油処理が施された撥油部が設けられ、
前記撥油部は、内周から外周に向かうに従って周方向に拡がるように設けられている湿式摩擦板。
【請求項2】
前記撥油部は、前記撥油部に沿って前記セグメント部上を内周側から外周側に流れるオイルが前記油溝の外周側の端に導かれるように形成されている請求項1に記載の湿式摩擦板。
【請求項3】
前記撥油部は、内周側の端部が前記摩擦面の内周に達しないように設けられ、
前記セグメント部には、前記撥油部と重ならないように前記撥油部の内周に配置され、外周側の端部が前記撥油部の内周側の端部と径方向に並び、かつその外周側の端部から内周に向かうに従って深さが深くなるとともに周方向の幅が広くなるように前記摩擦面の内周まで形成された溝状の乗り上げ部が設けられている請求項1又は2に記載の湿式摩擦板。
【請求項4】
前記乗り上げ部に撥油処理が施されている請求項3に記載の湿式摩擦板。
【請求項5】
前記撥油部は、前記油溝の両側にそれぞれ設けられ、内周側の端部が前記油溝の内周側の端に設定され、かつその内周側の端部から外周に向かうに従って前記油溝から周方向に拡がるように形成されている請求項1に記載の湿式摩擦板。
【請求項6】
前記セグメント部には、前記セグメント部の中央部に配置された外周側の端部から内周に向かうに従って深さが深くなるとともに周方向の幅が広くなるように前記摩擦面の内周まで形成された溝状の乗り上げ部が前記撥油部と重ならないように設けられている請求項5に記載の湿式摩擦板。
【請求項7】
前記乗り上げ部に撥油処理が施されている請求項6に記載の湿式摩擦板。
【請求項1】
係合対象と対向するリング状の摩擦面に内周から外周まで径方向に延びる油溝が周方向に間隔を空けて複数設けられた湿式摩擦板であって、
前記摩擦面の隣り合う油溝の間の部分であるセグメント部に、撥油処理が施された撥油部が設けられ、
前記撥油部は、内周から外周に向かうに従って周方向に拡がるように設けられている湿式摩擦板。
【請求項2】
前記撥油部は、前記撥油部に沿って前記セグメント部上を内周側から外周側に流れるオイルが前記油溝の外周側の端に導かれるように形成されている請求項1に記載の湿式摩擦板。
【請求項3】
前記撥油部は、内周側の端部が前記摩擦面の内周に達しないように設けられ、
前記セグメント部には、前記撥油部と重ならないように前記撥油部の内周に配置され、外周側の端部が前記撥油部の内周側の端部と径方向に並び、かつその外周側の端部から内周に向かうに従って深さが深くなるとともに周方向の幅が広くなるように前記摩擦面の内周まで形成された溝状の乗り上げ部が設けられている請求項1又は2に記載の湿式摩擦板。
【請求項4】
前記乗り上げ部に撥油処理が施されている請求項3に記載の湿式摩擦板。
【請求項5】
前記撥油部は、前記油溝の両側にそれぞれ設けられ、内周側の端部が前記油溝の内周側の端に設定され、かつその内周側の端部から外周に向かうに従って前記油溝から周方向に拡がるように形成されている請求項1に記載の湿式摩擦板。
【請求項6】
前記セグメント部には、前記セグメント部の中央部に配置された外周側の端部から内周に向かうに従って深さが深くなるとともに周方向の幅が広くなるように前記摩擦面の内周まで形成された溝状の乗り上げ部が前記撥油部と重ならないように設けられている請求項5に記載の湿式摩擦板。
【請求項7】
前記乗り上げ部に撥油処理が施されている請求項6に記載の湿式摩擦板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−72508(P2013−72508A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212650(P2011−212650)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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