説明

溶接検査用プローブ及びそれを用いた溶接検査システム

【課題】 検査作業者の負担を軽減することのできる溶接検査用プローブを提供する。
【解決手段】 本発明の溶接検査用プローブは、スポット溶接が施された被検査部材Wの溶接部43に超音波を照射し、その反射波を用いて当該溶接部43内に形成されたナゲット状態が適切であるか否かを検査するために用いられる溶接検査用プローブであって、一方端に被検査部材Wの溶接部43に接触し、超音波とその反射波の入出射をするための接触部28を有する本体27と、本体27の他方端に弾性部材8を介在させて取り付けられ、超音波の放射方向に対して直交する方向に本体27を変位させる水平揺動装置7と、被検査部材Wの溶接部43に対して略垂直に本体27及び水平揺動装置7を所定の押圧力で押し当てるエアシリンダ6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接の検査に用いられる溶接検査用プローブ及びそれを用いた溶接検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられる鋼構造物の接合において、従来、スポット溶接が汎用的に用いられている。このスポット溶接では、図12に示すように、その溶接後において被検査部材Wである上板41及び下板42の溶接部43(「スポット痕」ともいう)にナゲットNが形成される。スポット溶接が適切に行われているか否かの判定は、例えば上記ナゲットNの状態が適切であるか否かによって行われる。
【0003】
ナゲットの検査には、従来、被検査部材Wの溶接部43を破壊してナゲットNの径を計測するといった破壊試験が用いられていたが、最近では、超音波を用いてナゲットを検査する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】石川昌一、「スポット溶接部の超音波検査について」、溶接技術、産報出版、2002年9月20日発行、10月号、p62−65
【0005】
この超音波を用いてナゲットを検査する方法では、図13に示すように、専用の検査プローブ44を被検査部材Wの溶接部43に押し当て、検査プローブ44から発信された超音波が被検査部材W等に反射され、その反射された超音波の波形を評価することによってなされる。
【0006】
検査プローブ44は、略円筒状であって内部に水分が充填された本体45と、その本体45の先端に設けられたゴム状の接触部46とを有している。検査プローブ44には、専用ケーブル47が接続され、専用ケーブル47には、波形評価用のソフトウェアが搭載されたパーソナルコンピュータ48等が接続されている。
【0007】
検査プローブ44から被検査部材Wに向けて発せられた超音波は、ある一定の時間の間に上板41の表面と、下板42の裏面との間で何度か往復し、最終的にはエネルギーが減衰し消失する。この超音波の被検査部材Wの上板41及び下板42内を往復する間に被検査部材Wの表面と下板42の裏面とで反射した超音波の一部は検査プローブ44を通ってパーソナルコンピュータ48に取り込まれ、当該パーソナルコンピュータ48で所定の処理が行われてモニタ48aに、図14に示すように、超音波の繰り返し反射された波形が表示される。
【0008】
図14は、ナゲットの状態が正常である場合の超音波波形であり、上板41及び下板42の板厚による繰り返し波形が複数本表れ、それらの繰り返し波形が所定の減衰カーブを描くといった波形パターンが出力される。ナゲットの状態の良否判定では、これらの波形の本数、各波形の波高値H、各波形間の距離D、本来出現しない波形の有無等を評価することにより行う。
【0009】
なお、図14において、縦軸は超音波のレベルであり、横軸は時間である。超音波の被検査部材Wの溶接部43内を伝播する速度は一定であるから、被検査部材Wの下板42の裏面で反射される複数の反射波は、被検査部材Wの板厚に応じた超音波の伝送時間間隔Dで表れるので、横軸は被検査部材Wの板厚方向の距離を示す時間軸となっている。
【0010】
しかしながら、上記の検査方法では、ナゲットの状態の良否をソフトウェアによって自動判定することは可能であるが、検査プローブ44を被検査部材Wの溶接部43に適正に押し当てなければ、上記波形パターンが得られないといった問題点がある。
【0011】
出願人が確認したところでは、正常にスポット溶接された被検査部材Wの溶接部43に対して上記した正常な波形のピーク値を得るためには、図15に示すように、
溶接部43(スポット痕)の中心位置Oから直径約1.0mm以内の許容範囲ΔRに検査プローブ44の超音波を入射する方向の中心軸Mを位置合わせする必要があった。また、検査プローブ44の中心軸Mの溶接部43の法線方向nに対する傾き角θは、約1度以内にする必要があった。
【0012】
現状では、検査プローブ44を被検査部材Wの溶接部43に押し当てる操作は、微妙でかつ繊細な操作が可能な人間(特に熟練作業者)の手によって行われており、熟練作業者が検査プローブ44の照射方向Mを微妙に傾けてその押し当て方向を変化させながら、上記波形のピーク値が得られる適切な押し当て方向を探し出している。
【0013】
このため、超音波を用いたスポット溶接の非破壊検査の自動化が要望されているが(例えば自動車の組み立て工程においては、スポット溶接箇所が数千箇所もあり、検査効率、生産効率を向上させるためにスポット溶接の非破壊検査工程の自動化が要望されている)、検査の前工程である検査プローブ44の被検査部材Wの溶接部43への適切な圧接作業を熟練作業者に頼らざるを得ないことが障害となって、スポット溶接の非破壊検査の自動化は困難となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、超音波を用いたスポット溶接の非破壊検査の自動化を可能にする溶接検査用プローブを提供することを、その課題とする。また、その溶接検査用プローブを用いた溶接検査システムを提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0016】
本願発明の第1の側面によって提供される溶接検査用プローブは、スポット溶接が施された被検査部材の溶接部に超音波を照射し、その反射波を用いて当該溶接部内に形成されたナゲットの状態が適切であるか否かを検査するために用いられる溶接検査用プローブであって、一方端に前記被検査部材の溶接部に接触し、前記超音波とその反射波の入出射をするための接触部を有する本体と、前記本体の他方端に弾性部材を介在させて取り付けられ、前記超音波の放射方向に対して直交する方向に前記本体を変位させる変位手段と、前記被検査部材の溶接部に対して略垂直に前記本体及び前記変位手段を所定の押圧力で押し当てる押し当て手段と、を備えることを特徴とする(請求項1)。
【0017】
なお、上記溶接検査用プローブにおいて、前記変位手段は、互いに直交する方向に変位させる2個の変位部材で構成するとよい(請求項2)。また、前記弾性部材は、樹脂で構成するとよい(請求項3)。
【0018】
この構成によれば、溶接検査用プローブは、本体及び変位手段が押し当て手段によって所定の圧力で押圧され、本体先端の接触部が被溶接部材の溶接部に対して略垂直に押し当てられる。その状態で変位手段によって本体の他方端が超音波の放射方向に対して直交する方向に変位されると、その変位力と押し当て手段による押圧力を合成した力(以下、合成力という。)が変位手段と本体との間に介在された弾性部材を介して本体に伝達される。
【0019】
本体先端の接触部は合成力の超音波の放射方向の成分により被溶接部材の溶接部に圧接されているので、本体は、合成力の超音波の放射方向に対して直交する方向の成分により他方端のみが変位し、結果的に本体先端の接触部を支点として傾くことになる。
【0020】
そして、本体と変位手段との間には弾性部材が介在し、合成力は弾性部材の弾性変形により弱められて本体に伝達されるので、本体の他方端の変位量は変位手段による変位量よりも小さくなり、これにより本体の傾き角の微小変化が可能になる。
【0021】
従って、超音波の照射方向に対して直交する面内の任意の方向に変位手段を微小動作させ、弾性部材を介してその変位力を本体に伝達することにより、被溶接部材の溶接部に対する本体の傾斜角、すなわち当該溶接部に対する超音波の照射角を微小変位させることが可能になる。
【0022】
これにより、従来熟練作業者によって行われていた溶接検査用プローブ本体を被検査部材の溶接部に対して適切な姿勢で押し当てる作業を溶接検査用プローブによって実現することが可能になり、更にはこの溶接検査用プローブを用いることにより被溶接部材のスポット溶接部を非破壊で検査する溶接検査システムの自動化が可能になる。
【0023】
本願発明の第2の側面によって提供される溶接検査システムは、請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接検査用プローブと、前記溶接検査用プローブを前記被検査部材に形成された1又は複数の溶接部の上方位置に移動させる移動手段と、前記溶接検査用プローブの本体を前記押し当て手段により前記被検査部材の溶接部に押し当てた状態で、当該溶接検査用プローブによって検出される前記超音波の前記被検査部材からの反射波の波形に基づいて各溶接部のナゲットの状態が適切であるか否かを判定するナゲット状態判定手段とを備えることを特徴とする(請求項4)。
【0024】
なお、上記溶接検査システムにおいて、前記移動手段は、連結された複数のアームと各アームを連結軸の周りに回転させる駆動部材とを備えたマニピュレータからなり、前記溶接検査用プローブの移動中に当該溶接検査用プローブの前記超音波の照射軸が前記被検査部材と交叉する位置を撮像する撮像手段と、前記撮像手段によって撮像される画像を用いて前記被検査部材の溶接部の位置を検出する位置検出手段と、前記位置検出手段により前記被検査部材の溶接部の位置が検出されると、前記移動手段による前記溶接検査用プローブの移動を停止させる移動停止手段とを備えるとよい(請求項5)。
【0025】
また、上記溶接検査システムにおいて、前記押し当て手段により前記溶接検査用プローブを前記被検査部材の溶接部を押し当てた状態で、前記変位手段により当該被検査部材の溶接部と平行面内で予め設定された複数の方向に順次、変位力を発生させる変位制御手段をさらに備え、前記ナゲット状態判定手段は、前記変位制御手段により複数の方向に順次、変位力を発生させている期間に、前記溶接検査用プローブによって検出される前記超音波の前記被検査部材からの反射波の波形に基づいて各溶接部のナゲットの状態が適切であるか否かを判定するとよい(請求項6)。
【0026】
本発明に係る溶接検査システムによれば、移動手段により溶接検査用プローブが被検査部材に形成された1又は複数の溶接部の上方位置に移動された後、押し当て手段により本体の接触部が所定の押圧力で溶接部に押し当てられ、その状態で変位手段により本体が溶接部に対して微小角の範囲で複数の方向に傾けられながら、ナゲット状態判定手段により超音波の当該溶接部からの反射波の波形に基づいて当該溶接部のナゲットの状態が適切であるか否かが判定される。従って、被溶接部に施された1又は複数のスポット溶接のナゲット状態の良否判定を作業者の作業を介することなく自動的に行うことができる。
【0027】
本願発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本願発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0029】
図1は、本願発明に係る溶接検査用プローブを含む溶接検査システムの構成図である。この溶接検査システムは、例えば被検査部材Wである上板41及び下板42(図12参照)がスポット溶接によって接合されることにより形成されるナゲットの状態を検査することにより、スポット溶接が適切に施されているか否かの良否判定を行うものである。
【0030】
この溶接検査システムは、マニピュレータ1、ロボット制御装置2、位置決め揺動制御装置3、及び検査判定装置4によって大略構成され、マニピュレータ1に、本実施形態の特徴的な構成要素である、CCDカメラ5、エアシリンダ6、水平揺動装置7、弾性部材8、及び検査プローブ9等を設けることにより、例えば直線状若しくは円弧状に複数個のスポット溶接が行われている被測定部材Wの各溶接部43(スポット痕)に検査プローブ9をロボット制御により順次、移動させて各溶接部43のスポット溶接の良否を自動的に判定することができるようになっている。
【0031】
マニピュレータ1は、ナゲットの状態を検査するための検査プローブ9を、例えば図1のR方向に移動させて被検査部材Wの各溶接部43に順番に搬送させるものである。マニピュレータ1は、いわゆる6軸ロボットであり、図2に示すように、フロア等に固定されるベース部材11と、それに6本の軸を介して連結された6本のアーム12と、6本のアーム12の両端又は片端に設けられた6個の駆動モータ(サーボモータ)13(一部図示略)とによって構成されている。
【0032】
マニピュレータ1は、6個の駆動モータ13がそれぞれロボット制御装置2からの駆動信号によって回転駆動され、これにより各アーム12が変位し、検査プローブ9を所定の待機位置から被検査部材Wの溶接部43の上方位置に移動させる。また、マニピュレータ1は、予め設定された教示データに基づいてその溶接部43の上方位置から他の溶接部43の上方位置に移動させたり、他の溶接部43の上方位置から待機位置に移動させたりする。
【0033】
なお、各駆動モータ13には、図示しないエンコーダが設けられており、エンコーダの出力は、ロボット制御装置2に与えられる。ロボット制御装置2では、エンコーダの出力によって各駆動モータ13の回転位置が検出される。したがって、ロボット制御装置2では、各駆動モータ13の回転位置から各アーム12の変位状態と先端のアーム12に取り付けられた検査プローブ9の現在位置を認識するようになっている。
【0034】
ロボット制御装置2は、マニピュレータ1の動作やマニピュレータ1に取り付けられたエアシリンダ6の動作をそれぞれ制御するためのものである。ロボット制御装置2は、図示しないメモリに予め記憶されている作業プログラム、及び図示しないエンコーダからの現在位置情報に基づいて、マニピュレータ1の各駆動モータ13を駆動制御する。すなわち、ロボット制御装置2のメモリには、作業プログラムとともに、マニピュレータ1の動作軌跡を表す教示データが予め記憶されており、ロボット制御装置2は、作業者の操作部材(図略)の操作により被検査部材Wの溶接部43のスポット溶接の検査開始が指示されると、その教示データに基づいて所定のタイミングでマニピュレータ1を動作させる。
【0035】
また、ロボット制御装置2は、位置決め揺動制御装置3からの制御信号に基づいて、エアシリンダ6の駆動を制御する。
【0036】
マニピュレータ1の先端のアーム12には、断面視で略V字状のブラケット15を用いてCCDカメラ5が取り付けられている。CCDカメラ5は、検査プローブ9の長手方向の中心軸M(検査プローブ9から照射される超音波の中心軸に相当)の位置を正確に被溶接部材の各溶接部43の中心位置O(図15参照)に合わせるために用いられるものである。従って、CCDカメラ5は、被検査部材Wの表面を撮像することができるように、その撮像方向rが被検査部材Wの法線方向nに対して所定の傾斜角θとなるようにブラケット15で保持されている。
【0037】
すなわち、ブラケット15は、先端のアーム12に取り付けられた本体部15aと、本体部15aから下方向に所定の角度で折り曲げられて延びた延設部15bとからなり、CCDカメラ5は延設部15bの先端に当該延設部15bの長手方向に対して垂直方向に取り付けられている。
【0038】
マニピュレータ1は、検査プローブ9を被溶接部材Wのある溶接部43から隣の溶接部43に移動させる際、検査プローブ9を被溶接部材Wから予め設定された所定の高さhの位置に保持して水平に隣の溶接部43の上方位置に移動させる。従って、この水平移動の際は、CCDカメラ5も被溶接部材Wに対して一定の高さを保持して水平に移動されるので、このときに被溶接部材Wの各スポット痕が明瞭にCCDカメラ5で撮像し得るようにCCDカメラ5の焦点が調整されている。すなわち、図1の状態では、CCDカメラ5の焦点は被溶接部材Wの検査プローブ9の真下の溶接部43に調節されている。
【0039】
CCDカメラ5には、撮像受信装置16が接続されている。撮像受信装置16は、CCDカメラ5で撮像された撮像信号に対して所定の処理を施して位置決め揺動制御装置3に送信するものである。例えば、撮像受信装置16は、CCDカメラ5から出力される撮像信号(アナログ信号)をディジタル信号に変換した後、例えばフィルタ処理等の所定のディジタル信号処理を施し撮像データとして位置決め揺動制御装置3に送信する。
【0040】
位置決め揺動制御装置3では、撮像受信装置16からの撮像データに基づいて被検査部材Wの溶接部43(スポット痕)が例えばパターンマッチングの方法によって検出される。すなわち、位置決め揺動制御装置3には、標準的なスポット痕をCCDカメラ5の位置から撮像したときの当該スポット痕の輪郭形状(楕円形状)が予め登録されており、位置決め揺動制御装置3は、撮像受信装置16から入力される撮像データからスポット痕の輪郭形状を抽出し、この輪郭形状を登録された輪郭形状(基準形状)と比較することによりスポット痕が撮像画面の略中心位置にあるか否かを判別する。そして、スポット痕が撮像画面の略中心位置にあると、位置決め揺動制御装置3は、検査プローブ9の中心軸Mがスポット痕の中心位置Oの近傍位置に来ていると判断し、その判断結果をロボット制御装置2に送信する。
【0041】
上述のように、検査プローブ9を被溶接部材Wの任意の溶接部43から隣の溶接部43に移動させる際、マニュプレータ1は、検査プローブ9及びCCDカメラ5を被溶接部材Wから所定の高さ位置に保持して水平に移動させるので、検査プローブ9が隣の溶接部43に近接すると、その近接動作に応じて当該溶接部43の光像がCCDカメラ5の撮像画面内に入るようになり、その光像はCCDカメラ5によって撮像されて撮像信号が順次、撮像受信装置16に入力され、更にはその撮像信号から生成された撮像データが位置決め揺動制御装置3に入力される。
【0042】
従って、位置決め揺動制御装置3は、CCDカメラ5の水平移動に伴い撮像画面内を相対的に移動する溶接部43の輪郭形状が撮像画面の中心位置に移動するタイミングを検出し、その検出信号をロボット制御装置2に送信する。ロボット制御装置2はその検出信号に基づいてマニピュレータ1を停止させることにより、検査プローブ9を溶接部43の中心位置Oの上方位置に停止させる。
【0043】
ブラケット15の本体部15aの下部には、エアシリンダ6が取り付けられている。エアシリンダ6は、検査プローブ9を被検査部材Wに押し当てる押し当て機構として機能するものであり、図1における上下方向に伸縮自在とされている。エアシリンダ6は、ロボット制御装置2からの駆動信号により駆動され、通常縮退した状態から伸長した状態に変位し、検査プローブ9の先端を所定の押圧力で被検査部材Wに押し当てる。ロボット制御装置2は、マニピュレータ1による検査プローブ9の移動を停止させた後、エアシリンダ6に駆動信号を出力し、検査プローブ9の先端を被検査部材Wに押し当てるようにエアシリンダ6を動作させる。
【0044】
なお、このエアシリンダ6によって検査プローブ9が上下動する距離は、エアシリンダ6が伸長したとき、検査プローブ9が被検査部材Wに接触しても損傷しない程度に予め定められている。また、エアシリンダ6の停止位置、すなわち、縮退した状態から伸長した状態に変位するときの停止位置及び伸長した状態から縮退した状態に変位するときの停止位置は、図示しない近接スイッチ等によって設定されていてもよい。
【0045】
また、エアシリンダ6の上下方向における伸縮動作は、マニピュレータ1の駆動モータ13等の回転により代用させることも可能であるが、このようにすると、ロボット制御装置2の作業プログラムが複雑になる。そのため、エアシリンダ6を用いることにより、コスト低減に寄与している。
【0046】
エアシリンダ6の下部には、水平揺動装置7が設けられている。水平揺動装置7は、それに接続された検査プローブ9を中心軸Mに対して直交する方向に変位させるものである。水平揺動装置7は、2つの揺動装置からなり、所定の方向(この方向を「X方向」とする)に検査プローブ9を変位させるX方向揺動装置17と、X方向と直交する方向(この方向を「Y方向」とする)に検査プローブ9を変位させるY方向揺動装置18とからなる。
【0047】
なお、水平揺動装置7に設定されているXY座標の原点位置は、検査プローブ9の中心軸Mと一致するように設定されている。従って、水平揺動装置7のX方向揺動装置17及びY方向揺動装置18を初期位置にリセットすると、検査プローブ9の中心軸MはXY座標の原点位置に設定される。
【0048】
X方向揺動装置17及びY方向揺動装置18は、図示しないモータを有しており、X方向揺動装置17及びY方向揺動装置18に接続された揺動駆動装置19からの駆動信号によりそれぞれ独立して各モータが駆動されることにより、検査プローブ9の先端が被溶接部材Wに圧接されていないときは、検査プローブ9の中心軸Mの位置をX方向、Y方向又は両方向を組み合せた斜め方向に変位させる。この変位制御は、検査プローブ9の中心軸Mの位置を溶接部43の中心位置Oに正確に位置合せする際の微調整に使用される。
【0049】
また、検査プローブ9の先端が被溶接部材Wに圧接されている状態では、検査プローブ9の先端は溶接部43の中心位置Oに固定され、検査プローブ9の基端部(検査プローブ9の弾性部材8に固定されている端部)だけがX方向、Y方向又は両方向を組み合せた斜め方向に変位されるので、上記変位制御は、検査プローブ9の中心軸Mを溶接部43の中心位置Oにおける法線方向nに対して微小角(例えば1°以内の微小角)だけ傾ける動作(揺動動作)に使用される。この検査プローブ9の揺動動作の制御については後述する。
【0050】
揺動駆動装置19は、制御部21と、X方向揺動装置17を駆動させるX方向駆動部22と、Y方向揺動装置18を駆動させるY方向駆動部23とによって構成される。制御部21は、位置決め揺動制御装置3から制御信号が入力されることによって、X方向駆動部22及びY方向駆動部23によりX方向揺動装置17とY方向揺動装置18を動作させる。
【0051】
水平揺動装置7の下部には、図3に示すように、移動板25が設けられている。移動板25は、X方向揺動装置17及びY方向揺動装置18に接続されており、X方向及びY方向並びにそれらの方向が組み合わされた方向に変位される。
【0052】
移動板25の下面には、略直方体形状の樹脂からなる弾性部材8が取り付けられている。弾性部材8は、弾性変形自在とされ、水平揺動装置7と検査プローブ9との間に介在されることにより、検査プローブ9の先端を被溶接部材Wの溶接部43に圧接した状態で水平揺動装置7により移動板25をXY面内で変位させたときに、当該移動板25の変位量を一部吸収して検査プローブ9の基端部に伝達し、これにより、検査プローブ9の基端部だけが水平面内で微小変位し、検査プローブ9の中心軸Mが溶接部43の中心位置Oにおける法線方向nに対して微小角βだけ傾けられる動作を実現する。
【0053】
なお、弾性部材8の形状は、略直方体形状に限らず、略円柱形状や略三角柱形状等であってもよい。また、弾性部材8としては、例えばゴム等の樹脂が適しているが、上述の検査プローブ9の揺動動作を実現し得る弾性部材であれば樹脂に限定されるものではなく、例えばリン青銅等の弾性性質を有する金属からなる板材やバネ材を用いたものであってもよい。要するに、弾性部材8は、水平揺動装置7の変位力を検査プローブ9に伝達する際の緩衝材として機能させるものであるから、検査プローブ9を適切に揺動させ得る弾性変形特性を有しているものであれば、特に材質は問われないものである。
【0054】
弾性部材8の下部には、検査プローブ9が設けられている。検査プローブ9は、弾性部材8の下部に取り付けられた弾性変形自在なプローブホルダ26と、略円筒状の本体27とを有している。プローブホルダ26には凹部(図略)が設けられており、この凹部に本体27の上部が収納されている。なお、弾性部材8とブローブホルダ26とは、一体的に形成されていてもよい。
【0055】
検査プローブ9は、ウォーターチャンバー(Water Chamber)式フレキシブルメンブレンプローブ(Flexible membrane Probe)からなる。すなわち、検査プローブ9は、先端(図3では下端)に超音波の出射とその反射波の入射をするための開口が形成された本体27内に水が充填され、開口をシリコンゴムからなる薄膜で栓をした構成を成している。シリコンゴムは水圧により開口から略半球形状に膨出しており、この膨出部分が検査プローブ9を被溶接部材Wの溶接部43に接触させる接触部28となっている。本体27の他端面(上面)寄りの内部には、超音波を発するための発信部(図略)が設けられ、発信部は、接触部28に向かって超音波を発することにより、超音波が接触部28を介して被溶接部材Wの溶接部43に照射される。また、溶接部43内で反射した超音波(以下、エコーという。)は、接触部28を介して本体27に入射され、本体27内の受信部(図略)に受信される。
【0056】
接触部28には水が充填されているので、溶接部43の形状に応じて接触面がフレキシブルに変化し、極めて高い密着度で安定して溶接部43に接触させることができるようになっている。また、本体27及び接触部28には水が充填されているので、超音波及びそのエコーが高い効率で溶接部43との間で伝播され、可能な限り感度低下が抑制されるようになっている。
【0057】
図1に戻り、検査プローブ9には、検査プローブユニット30が接続されている。検査プローブユニット30は、検査プローブ9から出力されるエコーを検出した電気信号(アナログ信号)をディジタル信号に変換し、そのディジタル信号を検査判定装置4に送るものである。
【0058】
検査判定装置4は、例えばノートブック型のパーソナルコンピュータからなり、検査プローブユニット30から送信されるエコーの検出信号に基づいて、ナゲットの状態の良否判定を行うものである。良否判定の手順は、検査判定装置4内のメモリ(図略)に記憶された専用のソフトウェアプログラムに組み込まれている。検査判定装置4は、モニタ(図略)を有し、モニタには、検査プローブユニット30から送信されるエコーの検出信号を表した波形がリアルタイムで表示される。
【0059】
例えば、検査判定装置4のモニタには、図14に示したような波形が出力される。このモニタ画面の横軸は時間を示し、モニタ画面の縦軸は波形の波高値(エコーのレベル)を示す。ナゲットの状態が正常であるときには、同図に示すように、上板41及び下板42の板厚に基づく所定の時間間隔Dで複数本のエコーが繰り返し検出され、これらのエコーの波高値を結んだ減衰カーブCは、所定の減衰カーブを描くといった波形パターンが出力される。
【0060】
検査判定装置4は、検査プローブユニット30から送られるエコーの検出信号の波形に基づいて、ナゲット状態の良否判定を行う。ナゲット状態の良否判定では、検出されるエコーの本数、各エコーの波高値H、各エコー間の時間間隔D、本来出現しないエコーの有無等を評価することにより行う。なお、ナゲット状態の良否判定の条件は、複数の良好なナゲット状態をサンプル的に検査し、それによって得られたデータから求めるようにしてもよい。
【0061】
例えば、図4に示すように、スポット溶接で形成されたナゲットNの径が比較的小さいとき、検査プローブ9から照射された超音波の一部はナゲットNを通らないので、モニタ画面に表示される波形は、図5に示すように、ナゲットNを通って上板41と下板42とで反射された複数のエコーの繰り返し波形の間に、ナゲットNを通らないで上板41と下板42との境界によって反射されたエコーの波形(図中、A参照)が出現する。
【0062】
この場合は、ナゲットNを通った複数のエコーの繰り返し波形の波高値を結んだ減衰カーブC’は、図14に示した正常な繰り返し波形の波高値を結んだ減衰カーブCと類似していても、本来出現してはならないエコーAが存在することにより、ナゲット状態は不良、すなわち、スポット溶接は不良と判定される。
【0063】
また、図6に示すように、ナゲットNの径は正常であるが、厚みが例えば比較的薄いときは、モニタ画面に表示される波形は、図7に示すように、本来出現してはならないエコーAは存在しないが、各エコーの減衰が小さく、複数のエコーの繰り返し波形の波高値を結んだ減衰カーブC”は、図14に示した正常な繰り返し波形の波高値を結んだ減衰カーブCよりも減衰の仕方が緩く、本来ならば減衰により殆どレベルが出ない高次のエコーが存在する。従って、この場合は、減衰カーブC”の減衰特性若しくは高次のエコーの存在により、ナゲット状態は不良(すなわち、スポット溶接は不良)と判定される。
【0064】
なお、エコーの波形によるナゲット状態の良否判定は、検査プローブ9が被溶接部材Wの溶接部43に対して適切な方向で押し当てられた状態で行われるべきものであるから、本実施形態のように検査プローブ9を揺動させて最適な押し当て方向に探索する場合は、その探索により検査プローブ9を最適な方向に設定した後にナゲット状態の良否判定を行うのが基本となる。
【0065】
しかしながら、検査プローブ9の溶接部43への押し当て方向の適否は、ナゲット径の良否判定と同様に、モニタ画面に表示されるエコーの波形を観測しながら行われるので、後述するように、検査プローブ9の基端部を溶接部43の法線方向nを中心として略360°の全方向に変位させ、何れの変位位置でも正常と判定されるエコーの波形が出力されなければ、ナゲット状態は不良と判定され、何れかの変位位置で正常と判定されるエコーの波形が出力されれば、その時点でナゲット状態は正常と判定され、検査プローブ9の溶接部43への押し当て方向の探索は終了することになる。
【0066】
すなわち、検査プローブ9の溶接部43への最適な押し当て方向を探索する処理は、実質的に正常なエコーの波形が得られるか否かを探索しているので、同時にナゲット状態の良否判定の処理にもなっている。従って、検査判定装置4は、検査プローブ9の溶接部43への最適な押し当て方向を探索する処理中においてナゲット状態が正常であると判定される押し当て方向が見つかると、直ちにその探索動作を停止する機能(以下、この機能をオートフリーズ機能という。)を有している。そして、本実施形態に係る溶接検査システムでは、このオートフリーズ機能により、被溶接部材Wの各溶接部43の良否判定の処理時間が可及的に短縮されるようになっている。
【0067】
検査判定装置4は、エコーの波形を判定しながら検査プローブ9の被溶接部材Wの溶接部43に対する押し当て方向を変化させているときに、正常なエコーの波形が見つかると、オートフリーズ機能によって、直ちにその判定処理を停止し、判定処理を終了したことを示すオートフリーズ信号をロボット制御装置2に送信する。ロボット制御装置2では、このオートフリーズ信号を受信すると、位置決め揺動制御装置3に水平揺動装置7の動作を停止させるための制御信号を送信し、位置決め揺動制御装置3はこの制御信号を受けて水平揺動装置7の動作を停止する。
【0068】
位置決め揺動制御装置3は、例えばパーソナルコンピュータからなり、図示しないメモリに記憶された動作プログラム、及び撮像受信装置16からの撮像信号に基づいてスポット痕の位置の検出処理を行う。また、位置決め揺動制御装置3は、ロボット制御装置2からの制御信号に基づいて、揺動駆動装置19を駆動制御して水平揺動装置7を動作させ、検査プローブ9を揺動させる。
【0069】
ここで、位置決め揺動制御装置3による検査プローブ9の揺動動作について説明する。
【0070】
位置決め揺動制御装置3では、検査プローブ9の溶接部43への押し当て方向を変化させるために、揺動駆動装置19の駆動を制御して、検査プローブ9の基端部(弾性部材8に固定されている端部)を溶接部43の法線方向nを中心として複数の方向に変位させる。
【0071】
具体的には、水平揺動装置7は、図8(a)に示すように、中心位置P0を通過しながら複数の円弧を描くような軌道で検査プローブ9の基端部をXY面内で変位させる。なお、図8(a)は、検査プローブ9を上方から見た図であり、中心位置P0がXY座標の原点と一致している。上記軌道は、円弧部分とその円弧で想定される円(点線S参照)の直径又は半径を示す直線部分とからなり、それらが連続的につながっている。円Sの半径L(例えば2mm)及び円Sの分割数M(例えば12)は、位置決め揺動制御装置3に予め設定入力されている。なお、円Sの半径L及び円Sの分割数Mは、位置決め揺動制御装置3において設定変更することが可能であり、上記値に限るものではない。
【0072】
位置決め揺動制御装置3は、図8(a)に示す軌道を検査プローブ9の基端部が移動するように、揺動駆動装置19に駆動信号を送信する。揺動駆動装置19は、その駆動信号に基づいて、水平揺動装置7であるX方向揺動装置17及びY方向揺動装置18を動作させ、両揺動装置17,18の各方向の移動動作により、移動板25が変位し、これにより検査プローブ9の基端部が変位する。
【0073】
より詳細には、図8(a)における上方向をY方向とすると、水平揺動装置7は、中心位置P0からY方向に向けて動作距離Lだけ検査プローブ9の基端部を位置P1に移動させる(a参照)。次いで、位置P1から中心位置P0に一旦戻るように移動させ(b参照)、中心位置P0から位置P1とは逆方向に向けて動作距離Lだけ検査プローブ9の基端部を位置P2に移動させる(c参照)。なお、位置P1から中心位置P0への移動、及び中心位置P0から位置P2への移動は、連続的に行われてもよい。
【0074】
次に、位置P2から、中心位置P0からの半径Lを一定に保ちながら中心位置P0のなす角αが約30度になる位置P3まで検査プローブ9の基端部を円Sの周上に沿って移動させる(d参照)。以後、上記の円Sの直径上を通って位置P1から位置P2へ移動させた後、円Sの円周を通って位置P2から位置P3へと移動させる移動方法と同様の方法を繰り返して、位置P3〜位置P12を経由して最後に中心位置P0に戻るように検査プローブ9の基端部を移動させる。
【0075】
図9に示すように、エアシリンダ6によって水平揺動装置7及び検査プローブ9を所定の押圧力Pで被溶接部材W側に押し当てた状態で水平揺動装置7により移動板25をXY面内で変位させると、エアシリンダ6による押圧力Pと水平揺動装置7による変位力Qとを合成した力(以下、合成力という。)が弾性部材8を介して検査プローブ9に伝達される。
【0076】
検査プローブ9の接触部28はエアシリンダ6による押圧力Pにより被溶接部材Wの溶接部43に圧接されているので合成力が作用しても移動せず、検査プローブ9の本体26は、図9に示すように、基端部に作用する合成力の変位力Qに平行な成分により接触部28(図9では溶接部43の中心位置O)を支点として溶接部43の法線方向に対して微小角βで傾けられることになる。
【0077】
このとき、検査プローブ9に伝達される合成力は弾性部材8の弾性変形により一部吸収され、検査プローブ9の基端部の変位量は移動板25の変位量よりも小さくなるので、検査プローブ9の本体27は、例えば1°以内の非常に小さい角度βで変化することになる。
【0078】
そして、水平揺動装置7が検査プローブ9の基端部を図8(a)に示す軌道で変位するように動作させるため、検査プローブ9は、接触部28を支点として、図8(b)に示すように、Y軸方向に微小角βで+方向(図8(a)では上方向)と−方向(図8(b)では下方向)とに傾けられた後、反時計回りに30°のピッチで傾ける方向を変化させながら各方向で同様の傾け動作が5回繰り返され、XY面内で全の方向に略均等に揺動することになる。
【0079】
なお、本実施形態では、検査プローブ9の揺動方向を30°ピッチで変化させるようにしているが、言うまでもなく揺動方向の変化ピッチを小さくすれば、検査プローブ9の被溶接部材Wの溶接部43に対する押し当て方向をより細かく探索することができる。好ましくは、全方向に検査プローブ9を揺動させて最適な押し当て方向を探索することが望ましいが、このようにすると、探索時間が長くなり、ナゲット状態の良否判定処理に要する時間が長くなるので、処理効率との関係で適切な揺動方向の角度ピッチを設定すればよい。また、検査プローブ9の揺動軌道は、上記した軌道に限らず、渦巻き状に中心位置Oに向かって進行するような軌道等でもよい。
【0080】
以上のように、従来では、熟練作業者が検査プローブ44を微妙でかつ繊細な操作によって傾けてその押し当て方向を変化させながら、超音波波形のピーク値が得られる適切な押し当て方向を探し出していたが、本実施形態によれば、上記方法により適切な押し当て方向を探し出す操作を、熟練作業者に代えて自動で行うことができる。したがって、作業者の負担を軽減することができるとともに、作業効率の向上を図ることができる。
【0081】
次に、上記構成における検査手順について、図10に示すフローチャートを参照して説明する。
【0082】
まず、検査が開始されると、マニピュレータ1がロボット制御装置2によって駆動され、検査プローブ9が被検査部材W上を走査するように教示データに基づいて移動される(S1)。この移動中では、CCDカメラ5によって被検査部材Wの表面が撮像され(S2)、CCDカメラ5で撮像された撮像信号は、撮像受信装置16においてディジタル信号に変換された後、位置決め揺動制御装置3に送られる。
【0083】
位置決め揺動制御装置3では、撮像受信装置16から送られた撮像信号に基づいて、画像が解析され、被検査部材Wに形成されたスポット痕が検出されたか否かを判別する(S3)。位置決め揺動制御装置3においてスポット痕が検出されると(S3:YES)、位置決め揺動制御装置3では、画像の解析動作が一旦停止され(S4)、位置決め揺動制御装置3からロボット制御装置2に対して、スポット痕を検出した旨の信号が送られる。
【0084】
ロボット制御装置2では、位置決め揺動制御装置3からスポット痕を検出した旨の信号が送られると、マニピュレータ1の教示データに基づく動作を停止させるとともに(S5)、折り返し、位置決め揺動制御装置3に対してマニピュレータ1が一旦停止された旨の信号が送られる。
【0085】
これにより、位置決め揺動制御装置3では、CCDカメラ5で撮像した画像の再取り込みが行われ(S6)、スポット痕の輝度重心位置(中心位置O)が計算され(S7)、検査プローブ9の本体27の中心軸Mを中心位置P0に移動するように揺動駆動装置19に対して制御信号が出力される。
【0086】
揺動駆動装置19では、位置決め揺動制御装置3からの制御信号に基づいて、水平揺動装置7を駆動し、検査プローブ9の本体27の中心軸Mが中心位置P0に一致するように検査プローブ9を移動させる(S8)。
【0087】
次いで、位置決め揺動制御装置3では、エアシリンダ6を下降させる旨の信号をロボット制御装置2に送る。ロボット制御装置2では、この信号を受け取ると、エアシリンダ6に対してそれを伸長させる旨の駆動信号が送られ、この駆動信号に応じてエアシリンダ6が伸長される(S9)。これにより、検査プローブ9が下方に向けて下降され、検査プローブ9の接触部28がスポット痕の表面と接触する。
【0088】
検査プローブ9の下降が完了すると、位置決め揺動制御装置3によって水平揺動装置7が駆動される。すなわち、水平揺動装置7は、図8(a)に示したような揺動軌道で検査プローブ9を変位させる揺動動作が開始される(S10)。
【0089】
すなわち、検査プローブ9では、図9に示したように、その接触部28がエアシリンダ6によって所定の押圧力Pで被検査部材Wに押し当てられており、かつ水平揺動装置7によって水平方向に変位させられるため、図8(b)に示すように、被検査部材Wに対して直交する方向(XY平面)において検査プローブ9の本体27の中心軸Mが微小角βで傾けられて検査プローブ9の本体27が揺動するようになる。
【0090】
このとき、検査判定装置4では、検査プローブ9からの受信信号に基づいて検査判定処理が行われる(S11)。すなわち、検査判定装置4から検査プローブユニット30に対して超音波を発振させるための信号が送られ、検査プローブユニット30では、検査プローブ9に対して超音波を発振させるための信号が送られる。
【0091】
検査プローブユニット30では、検査プローブ9からのエコーを検出した信号がディジタル信号に変換され、その検出信号が検査判定装置4に送られ、検査判定装置4において、エコーの波形に基づいて適切なナゲットの波形が検出されたか否かが判定される(S12)。
【0092】
検査判定装置4において適切なナゲット径を有するエコーの波形が検出されないと判定される場合(S12:NO)、一連の揺動動作(図8(a)に示すP0〜P12を移動する動作)が終了したか否かが判別される(S13)。一連の揺動動作が終了していない場合(S13:NO)、処理はステップS10に戻り、揺動動作が継続される。一方、適切なナゲット径を有するエコーの波形が検出されずに、一連の揺動動作が終了した場合(S13:YES)、スポット痕におけるナゲット状態は不良であると判定する(S14)。
【0093】
一方、検査判定装置4による上記検査判定の結果、適切なナゲット径を有するエコーの波形が検出された場合(S12:YES)、上述したオートフリーズ機能によって検査判定動作が一旦停止され(S15)、その旨のオートフリーズ信号がロボット制御装置2に送られる。また、ステップS14において、スポット痕におけるナゲット状態は不良であると判定された場合も、検査判定動作を停止させる。
【0094】
すなわち、ロボット制御装置2では、検査動作が開始された後、検査判定装置4からのオートフリーズ信号(例えば検査中は「HIGH」を出力、停止中は「LOW」を出力)を常時監視しており、例えばオートフリーズ信号が「LOW」になると、検査判定動作が一旦停止されたと認識される。そして、その後、その旨の信号が位置決め揺動制御装置3に対して送られ、位置決め揺動制御装置3では、この信号が入力されると、揺動駆動装置19に対して揺動を停止させる旨の信号が送られ、これにより、揺動駆動装置19では、水平揺動装置7の揺動を停止させる(S16)。
【0095】
また、位置決め揺動制御装置3では、検査動作を停止する旨の信号がロボット制御装置2に送られる。これにより、ロボット制御装置2では、エアシリンダ6を縮退させ、検査プローブ9を上方向に変位させる(S17)。
【0096】
ロボット制御装置2では、エアシリンダ6の縮退動作が完了した旨の信号がエアシリンダ6から入力されると、検査すべきスポット痕の有無を判別し(S18)、検査すべきスポット痕が残っている場合(S18:NO)、処理はステップS1に戻り、マニピュレータ1を起動させ、被検査部材W上の次のスポット痕の検出が開始される。すなわち、ロボット制御装置2では、エアシリンダ6の縮退動作が完了した旨の信号が位置決め揺動制御装置3に送られ、位置決め揺動制御装置3では、画像の解析が再開される。
【0097】
一方、ステップS18において、検査すべきスポット痕が残っていない場合(S18:YES)、検査動作の終了となり(S19)、ロボット制御装置2では、マニピュレータ1を待機位置に移動させる。
【0098】
このように、スポット痕の一連の検査動作は自動で行われるため、検査作業の短縮化を図ることができる。特に、従来では熟練作業者によって行われた検査プローブ9の揺動操作が自動で行われるため、作業者の負担が軽減され、検査作業の効率化が図られる。
【0099】
もちろん、この発明の範囲は上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、被検査対象として上板41と下板42とを接合させる場合に生じたスポット痕に対する検査方法を示したが、被検査対象としては、上記に限るものではない。
【0100】
また、上記実施形態では、検査プローブ9を待機位置から被検査部材Wのスポット痕に、スポット痕から他のスポット痕に、他のスポット痕から待機位置に移動させる手段としてマニピュレータ1を用いたが、これに代えて、例えば小型クレーンや検査プローブ9を直線状に移動させるスライダ等の簡易な他の移載装置を用いるようにしてもよい。
【0101】
また、本実施形態では、被溶接部材Wに施された複数のスポット溶接の溶接部43を連続的に検査する溶接検査システムについて説明したが、本発明に係る溶接検査用プローブは、1個のスポット溶接しか行われていない被溶接部材Wに対する溶接検査装置にも適用することができる。この場合は、溶接検査装置に被溶接部材Wの搭載部を設け、この搭載部に載置された被溶接部材Wの溶接部43に対して所定の高さ位置に検査プローブ9を配置し、エアシリンダ6により当該検査プローブ9を昇降させるだけで検査プローブ9の本体27の接触部28を正確に溶接部43に押し当てることができるので、検査プローブ9を移動させる移動装置が不要になり、溶接検査装置の構成が簡単になる。
【0102】
また、弾性部材8及び検査プローブ9の構成は、上記実施形態に限るものではない。例えば、図11に示すように、移動板25の下面に支持部材31が設けられ、支持部材31に設けられた略球状の空間に、検査プローブ9の上面に形成された略球状の突起32と、その突起32と支持部材31とに介在された弾性部材33とが設けられた構成とされてもよい。この構成においても、水平揺動装置7による変位力が弾性部材33の弾性変形により一部吸収されて検査プローブ9に伝達されるので、支持部材31が例えば水平揺動装置7によって略水平方向に変位されることにより、検査プローブ9が微小角で揺動され、上記した検査方法と同様の方法を実施することができる。
【0103】
また、上記実施形態では、スポット溶接の溶接判定について説明したが、本発明は、アーク溶接の溶接判定(特にビードの形状の良否判定)にも適用することができる。この場合は、図10に示すフローチャートのステップS3の判定処理をアーク溶接された溶接部43のビードの幅が設定値よりも小さいか否かの判定処理に変更することにより、アーク溶接によって被溶接部材Wの溶接部43に連続的に形成されたビードの形状の良否判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本願発明に係る溶接検査用プローブを含む溶接検査システムの構成図である。
【図2】マニピュレータの外観図である。
【図3】検査プローブ近傍の構成を示す図である。
【図4】ナゲット径が小さい場合における超音波の進行状態を示す図である。
【図5】ナゲット径が小さい場合における検査判定装置のモニタに表示される波形図である。
【図6】ナゲットの厚みが薄い場合における超音波の進行状態を示す図である。
【図7】ナゲットの厚みが薄い場合における検査判定装置のモニタに表示される波形図である。
【図8】検査プローブの揺動軌跡を説明するための図である。
【図9】傾けられた検査プローブを説明するための図である。
【図10】本願発明の作用を説明するためのフローチャートである。
【図11】検査プローブ近傍の他の実施例の構成を示す図である。
【図12】被検査部材の断面図である。
【図13】従来の溶接検査システムの構成を示す図である。
【図14】ナゲット状態が正常の場合における検査判定装置のモニタに表示される波形図である。
【図15】被溶接部材の溶接部に対する検査プローブの位置合わせ及び押し当て方向を説明するための図である。
【符号の説明】
【0105】
1 マニピュレータ
2 ロボット制御装置
3 位置決め揺動制御装置
4 検査判定装置
5 CCDカメラ
6 エアシリンダ
7 水平揺動装置
8 弾性部材
9 検査プローブ
16 撮像受信装置
17 X方向揺動装置
18 Y方向揺動装置
19 揺動駆動装置
27 本体(検査プローブの)
28 接触部
N ナゲット
W 被検査部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接が施された被検査部材の溶接部に超音波を照射し、その反射波を用いて当該溶接部内に形成されたナゲットの状態が適切であるか否かを検査するために用いられる溶接検査用プローブであって、
一方端に前記被検査部材の溶接部に接触し、前記超音波とその反射波の入出射をするための接触部を有する本体と、
前記本体の他方端に弾性部材を介在させて取り付けられ、前記超音波の放射方向に対して直交する方向に前記本体を変位させる変位手段と、
前記被検査部材の溶接部に対して略垂直に前記本体及び前記変位手段を所定の押圧力で押し当てる押し当て手段と、
を備えることを特徴とする、溶接検査用プローブ。
【請求項2】
前記変位手段は、互いに直交する方向に変位させる2個の変位部材からなることを特徴とする、請求項1に記載の溶接検査用プローブ。
【請求項3】
前記弾性部材は、樹脂からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の溶接検査用プローブ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接検査用プローブと、
前記溶接検査用プローブを前記被検査部材に形成された1又は複数の溶接部の上方位置に移動させる移動手段と、
前記溶接検査用プローブの本体を前記押し当て手段により前記被検査部材の溶接部に押し当てた状態で、当該溶接検査用プローブによって検出される前記超音波の前記被検査部材からの反射波の波形に基づいて各溶接部のナゲットの状態が適切であるか否かを判定するナゲット状態判定手段と
を備えることを特徴とする、溶接検査システム。
【請求項5】
前記移動手段は、連結された複数のアームと各アームを連結軸の周りに回転させる駆動部材とを備えたマニピュレータからなり、
前記溶接検査用プローブの移動中に当該溶接検査用プローブの前記超音波の照射軸が前記被検査部材と交叉する位置を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段によって撮像される画像を用いて前記被検査部材の溶接部の位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段により前記被検査部材の溶接部の位置が検出されると、前記移動手段による前記溶接検査用プローブの移動を停止させる移動停止手段と、
を備えることを特徴とする、請求項4に記載の溶接検査システム。
【請求項6】
前記押し当て手段により前記溶接検査用プローブを前記被検査部材の溶接部を押し当てた状態で、前記変位手段により当該被検査部材の溶接部と平行面内で予め設定された複数の方向に順次、変位力を発生させる変位制御手段をさらに備え、
前記ナゲット状態判定手段は、前記変位制御手段により複数の方向に順次、変位力を発生させている期間に、前記溶接検査用プローブによって検出される前記超音波の前記被検査部材からの反射波の波形に基づいて各溶接部のナゲットの状態が適切であるか否かを判定することを特徴とする、請求項4又は5に記載の溶接検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−153710(P2006−153710A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346169(P2004−346169)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】