説明

燃料噴射装置

【課題】 差圧検出器に異常が発生した場合でも、再生処理を適切に行うことが可能な燃料噴射装置を提供すること。
【解決手段】マイコン19は、換装スイッチが押されて設定信号が出力された後、エンジン2がアイドリング状態になると、当該時点におけるメイン噴射の噴射量を学習噴射量として記憶する。エンジン2の駆動中において、差圧センサ31からのセンサ信号の示す差圧が所定範囲外であった場合、マイコン19は、差圧センサ31に異常が発生したと判断する。そして、当該時点におけるメイン噴射の噴射量と、記憶された学習噴射量に所定量を加算した上限噴射量とを比較し、メイン噴射の噴射量が上限噴射量よりも大きい場合には、ドライブユニット18に対してポスト噴射を指示する。その際には、前述した2つの噴射量の差分量に基づいて、ポスト噴射の噴射時期および噴射量を算出することも行う

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ディーゼルエンジンにおける燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ディーゼルエンジンからの排気ガスに含まれるパティキュレート(粒子状物質)を捕捉して浄化する排気浄化装置が公知である。例えば、特許文献1の排気浄化装置では、排気ガスがパティキュレートを捕捉するフィルタを通過する際の圧力損失を検出する差圧検出器を有し、当該検出器によって検出された圧力損失を、排気ガスの温度、エンジン回転数、フィルタの再生回数に基づいて補正して、フィルタに捕捉されたパティキュレートの量を正確に算出する。算出されたパティキュレートの量が所定量を超えると、従来装置はフィルタの再生処理が必要であることを示すランプを点灯させ、ユーザーにフィルタの再生処理を行って捕捉されたパティキュレートを除去するよう促す。
【特許文献1】特開平7−11935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来装置では、差圧検出器に異常が発生すると、排気浄化装置に捕捉されたパティキュレートの量を算出できず、再生処理を適切に実行することができなくなる。これに対しては、複数の差圧検出器を設け、正常な差圧検出器からの検出結果を利用して、捕捉されたパティキュレートの量を算出する方法が考えられるが、装置の構造が複雑になり、設計面及びコスト面から好ましくない。
【0004】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、差圧検出器に異常が発生した場合でも、再生処理を適切に行うことが可能な燃料噴射装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の燃料噴射装置は、車両に搭載されたディーゼルエンジンにおける燃料噴射装置であって、ディーゼルエンジンの後段には、当該エンジンからの排気に含まれる粒子状物質を捕捉する排気浄化装置が接続されるとともに、当該装置へ流入する排気と、当該装置から流出する排気の圧力差を検出する差圧検出器を備え、燃料噴射装置は、差圧検出器によって検出された圧力差が所定の圧力差を超えると、ディーゼルエンジンに駆動力を発生させる燃料噴射に加え、排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射を行うものであり、差圧検出器の異常発生時において、ディーゼルエンジンがアイドリング状態となると、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量を計測するとともに、計測された噴射量が、設定された上限噴射量を超えた場合には、差圧検出器の検出結果によらず、排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射を行わせる異常制御手段を備えることを特徴とする。
【0006】
排気浄化装置における粒子状物質の捕捉量が多くなると、ディーゼルエンジンからの排気が当該装置を通過する際の流体抵抗が大きくなり、前述の排気が排気浄化装置を通過するために必要となるエネルギーをディーゼルエンジンから供給する必要がある。すなわち、同じエンジン回転数の場合でも、排気浄化装置における粒子状物質の捕捉量が多くなるほど、ディーゼルエンジンに駆動力を発生させる(エネルギーを発生させる)燃料噴射の噴射量も多くする必要がある。本発明の燃料噴射装置では、異常制御手段は、ディーゼルエンジンがアイドリング状態となると、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量を計測する。計測された噴射量が設定された上限噴射量を超えた場合、すなわち、排気浄化装置における粒子状物質の捕捉量が、設定された上限噴射量と対応する捕捉量を超えた場合には、差圧検出器の検出結果によらず、排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射を行わせる。これにより、本燃料噴射装置は、差圧検出器に異常が発生した場合でも、排気浄化装置に対する再生処理を適切に行うことが可能となる。
【0007】
請求項2に記載のように、異常制御手段は、排気浄化装置における粒子状物質の捕捉量が略零である時に、ディーゼルエンジンがアイドリング状態となった場合の、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量を計測するとともに、計測された噴射量に所定量を加算した噴射量を、上限噴射量として設定することが望ましい。これにより、排気浄化装置に対する再生処理を行うか否かの判断基準となる上限噴射量を、ディーセルエンジンからの排気が排気浄化装置を通過する際のエネルギー損失がない場合を基準とした、適切な噴射量に設定することができる。
【0008】
請求項3に記載のように、異常制御手段は、ディーゼルエンジンを冷却する冷却液の温度に基づき、所定量を可変とすることが望ましい。車両の起動直後には、各種車載機器の初期化動作等により、差圧検出器が前述の圧力差を正確に計測できない場合がある。ディーゼルエンジンを冷却する冷却液の温度に基づいて、前述の所定量を可変とすることで、車両の起動直後における初期化動作等を鑑みた、適切な上限噴射量の設定を行うことが可能となる。
【0009】
請求項4に記載のように、異常制御手段は、所定の噴射量を上限噴射量として設定することが望ましい。これにより、上限噴射量を設定するための専用のハードウェアやソフトウェアが不要となり、設計面およびコスト面から好ましい。
【0010】
請求項5に記載のように、上限噴射量の設定を行うよう指示する指示手段を設け、異常制御手段は、指示手段から指示を受けると、上限噴射量の設定を行うことが望ましい。これにより、異常制御手段は指示手段からの指示によって、適切な時期に、上限噴射量を確実に設定することができる。
【0011】
請求項6に記載のように、指示手段は、排気浄化装置を換装した直後、及び、粒子状物質の燃焼を完了した直後のいずれかに、上限噴射量の設定を行うよう指示することが望ましい。排気浄化装置を換装した直後や、排気浄化装置が捕捉した粒子状物質の燃焼を完了した直後には、当該装置に粒子状物質が捕捉されておらず、より適切な上限噴射量を設定できるためである。
【0012】
請求項7に記載のように、異常制御手段は、上限噴射量と、ディーゼルエンジンのアイドリング状態における、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量との差分量に基づいて、排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射の燃料噴射時期および燃料噴射量を決定することが望ましい。前述したように、排気浄化装置における粒子状物質の捕捉量が多くなると、ディーゼルエンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量も多くなる。このことは、上述した差分量が大きいほど、排気浄化装置における粒子状物質の捕捉量が多いことを意味しており、当該差分量を利用することで、排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射における、適切な燃料噴射時期や燃料噴射量を決定することができる。
【0013】
請求項8に記載のように、異常制御手段は、上限噴射量を複数設定するとともに、設定された上限噴射量の各々と、ディーゼルエンジンのアイドリング状態における、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量とに基づいて、排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射の燃料噴射時期および燃料噴射量を決定することとしても良い。前述したように、排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射に関しては、当該装置における粒子状物質の捕捉量に応じて、その噴射時期および噴射量を決定する必要がある。上限噴射量を複数設定することで、ディーゼルエンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量から、当該噴射量と最も近い上限噴射量と対応する、排気浄化装置における粒子状物質の捕捉量に応じて、排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射における、適切な燃料噴射時期や燃料噴射量を決定することができる。
【0014】
請求項9に記載のように、異常制御手段は、ディーゼルエンジンのアイドリング状態において、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量をアイドル制御の上限にしても、当該エンジンの回転数が所定の目標回転数に至らない場合には、排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射を行わせることが望ましい。前述の噴射量をアイドル制御の上限にしても、当該エンジンの回転数が所定の目標回転数に至らない場合、排気浄化装置に多くの粒子状物質が捕捉されていることが明らかであるためである。
【0015】
請求項10に記載のように、異常制御手段は、差圧検出器の検出結果が所定範囲外であった場合、差圧検出器に異常が発生したと判断することが望ましい。差圧検出器の検出結果が所定範囲外であった場合、差圧検出器に異常が発生したことが明らかであるためである。
【0016】
請求項11に記載のように、異常制御手段は、ディーゼルエンジンがアイドリング状態となると、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量を計測するとともに、計測された噴射量が上限噴射量を超えた場合には、差圧検出器に異常が発生したと判断することが望ましい。差圧検出器による検出値が所定範囲内に属しており、かつ、その検出圧力差が所定圧力差未満であっても、ディーゼルエンジンのアイドリング状態における、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量が上限噴射量を超えた場合、差圧検出器に異常が発生し、正確な検出が行われていないためと考えられるためである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態における燃料噴射装置の全体構成を示すブロック図である。本燃料噴射装置1は、車両に搭載されたディーゼルエンジンであるエンジン2の燃料噴射装置に適用される。エンジン2の後段には排気浄化装置3が接続され、当該エンジンから排出される排気ガスは、排気浄化装置3によって浄化された後、車外へと放出される。
【0018】
はじめに、排気浄化装置3の構成・動作について説明する。
【0019】
図1に示すように、排気浄化装置3は、エンジン2から排出される排気ガスを吸入して図示しないフィルタを通過させ、排気ガスに含まれるパティキュレート(粒子状物質)を捕捉することにより、排気ガスの浄化を行う。浄化された排気ガスは、車外へと放出される。なお、前述のフィルタに捕捉されたパティキュレートは、当該装置に設けられた図示しない酸化触媒に燃料蒸気を含ませた排気ガスを通過させることにより、燃焼させて除去できる(再生処理できる)よう構成される。さらに、排気浄化装置3は、エンジン2から吸入する排気ガスと車外へ放出する排気ガスとの圧力差(以下、差圧とする)を検出する差圧センサ31を備え、当該センサの出力をセンサ信号として燃料噴射装置1へ送信することも行う。
【0020】
次に、燃料噴射装置1の構成・動作について説明する。
【0021】
図1に示すように、高圧燃料ポンプ11は、車載用のサプライポンプであり、車両に搭載された図示しない燃料タンクに蓄えられた燃料を汲み上げて目標圧力(数百〜数千気圧)まで高圧化し、高圧燃料として出力する。なお、前述の目標圧力は変更することが可能である。
【0022】
コモンレール12は、高圧燃料ポンプ11から出力される高圧燃料を蓄えるとともに、蓄えられた高圧燃料を後述するインジェクタA13〜D16の各々へと圧送する。このコモンレール12には、図示しない圧力センサが取り付けられており、当該センサによってコモンレール12内部に蓄えられた高圧燃料の圧力を検出することも行う。
【0023】
インジェクタA13〜D16の各々は、図示しない電磁式の燃料噴射弁を備え、駆動電流が供給されると当該噴射弁を開放し、コモンレール12から圧送された高圧燃料を、エンジン2の第1気筒21〜第4気筒24の各々における図示しない燃焼室内へと噴射する。なお、前述の燃料噴射弁に関しては、カム等によって動作する機械式の燃料噴射弁でも良い。
【0024】
噴射制御ECU17は、インジェクタA13〜D16の各々へ駆動電流を供給するドライブユニット18と、ドライブユニット18に対し、インジェクタA13〜D16の各々へ駆動電流を供給するよう指示するマイコン19とから構成され、インジェクタA13〜D16が行う燃料噴射を制御する。この噴射制御ECU17には、マイコン19がドライブユニット18に対し、インジェクタA13〜D16の各々へ駆動電流を供給するよう指示する駆動信号ライン1A〜1Dの各々と、ドライブユニット18がマイコン19に対し、インジェクタA13〜D16へ駆動電流を供給したことを通知する、単一のダイアグ信号ライン1Eとが設けられる。以下、ドライブユニット18とマイコン19の動作について、詳細に説明する。
【0025】
ドライブユニット18は、駆動電流出力回路1Fおよび駆動電流検出回路1Gを備え、駆動信号ライン1A〜1Dの各々にHi信号が出力されると、駆動電流出力回路1Fを作動させ、インジェクタA13〜D16の各々へ駆動電流を供給する。駆動電流検出回路1Gは、駆動電流出力回路1Fから駆動電流が出力されたことを検出すると、ダイアグ信号ライン1EへHi信号を出力し、前述の駆動電流が最大(ピーク)になると、ダイアグ信号ライン1EへLow信号を出力する。すなわち、インジェクタA13〜D16へ駆動電流が正常に供給されると、駆動電流検出回路1Gはダイアグ信号ライン1Eへパルスを出力することになる。なお、駆動電流出力回路1Fから駆動電流が出力されていない間は、駆動電流検出回路1Gはダイアグ信号ライン1EへLow信号を出力する。図2に、各駆動信号ラインに出力される信号、ドライブユニット18が出力する駆動電流、ダイアグ信号ライン1Eへ出力されるパルスの一例を示す。
【0026】
マイコン19は、周知のコンピュータから構成され、アクセルペダルの踏み込み度合いを検出する図示しないアクセルセンサや、エンジン2の回転数を検出する図示しない回転数センサ、エンジン2の各気筒における図示しないクランクシャフトの回転角度を検出する図示しない回転角度センサ等から取得した各種センサ信号に基づき、ドライブユニット18に対して、インジェクタA13〜D16の各々を駆動するよう指示する。
【0027】
具体的には、マイコン19は、取得した各種センサ信号から、エンジン2の各気筒の圧縮工程において行う3回の燃料噴射と、燃焼工程において行う1回の燃料噴射(以下、メイン噴射と記述する)とにおける、噴射時期および噴射量を算出する。そして、回転角度センサから取得したセンサ信号から、エンジン2の各気筒が、算出した各噴射時期に入ったと判断される場合、マイコン19は、駆動信号ライン1A〜1Dのうち、当該気筒へ燃料噴射を行うインジェクタと対応する駆動信号ラインへ、算出した各噴射量に応じた期間だけHi信号を出力し、当該気筒への燃料噴射を行うようドライブユニット18に指示する。本実施形態のエンジン2はディーゼルエンジンであるため、各気筒に対するメイン噴射が行われた直後に燃焼が起こり、当該気筒のクランクシャフトに駆動力が発生する。すなわち、前述した圧縮工程において行う3回の燃料噴射と、燃焼工程において行う1回のメイン噴射とは、主に、エンジン2に駆動力を発生させる燃料噴射である。
【0028】
さらに、マイコン19は、排気浄化装置3に捕捉されたパティキュレートの量が所定量を超えた場合、エンジン2の各気筒の排気工程において、排気浄化装置3に捕捉されたパティキュレートを燃焼させて除去させる(再生処理させる)ための、ポスト噴射と呼ばれる燃料噴射を行うよう、ドライブユニット18に指示する。
【0029】
具体的には、マイコン19は、差圧センサ31から出力されるセンサ信号を取得し、当該信号の示す差圧から、排気浄化装置3に捕捉されたパティキュレートの量を算出する。算出されたパティキュレートの量が所定量を超えた場合、マイコン19はポスト噴射を行う必要があると判断し、前述の差圧に加え、図示しない温度センサや圧力センサが検出した排気ガスの温度や圧力、回転数センサが検出したエンジン回転数等に基づいて、ポスト噴射の噴射時期および噴射量を算出する。回転角度センサから取得したセンサ信号から、エンジン2の各気筒が算出されたポスト噴射の噴射時期に入ったと判断される場合、マイコン19は、駆動信号ライン1A〜1Dのうち、ポスト噴射を行うインジェクタと対応する駆動信号ラインへ、算出したポスト噴射の噴射量に応じた期間だけHi信号を出力する。前述のポスト噴射は、エンジン2に駆動力を発生させない(駆動力の発生に不関与な)燃料噴射である。
【0030】
特に本実施形態では、マイコン19は、差圧センサ31に異常が発生した場合、当該時点におけるメイン噴射の噴射量と後述する学習噴射量とに基づいて、ポスト噴射の実行の可否を決定し、ポスト噴射の噴射時期および噴射量を算出する。
【0031】
具体的には、マイコン19は、排気浄化装置3が換装された直後に、図示しない換装スイッチが押されて設定信号が出力されると、回転数センサのセンサ信号からエンジン2の回転数を監視する。前述の回転数から、エンジン2がアイドリング状態になったと判断される場合、マイコン19は、当該時点におけるメイン噴射の噴射量を、学習噴射量として記憶する。エンジン2の駆動中において、差圧センサ31からのセンサ信号の示す差圧が所定範囲外であった場合(例えば、センサ信号がGND電圧や電源電圧と等しく、当該信号の示す差圧がマイナスになったり、極度に大きくなった場合等)、マイコン19は、差圧センサ31に異常が発生したと判断する。そして、当該時点におけるメイン噴射の噴射量と、記憶された学習噴射量に所定量を加算した上限噴射量とを比較し、メイン噴射の噴射量が上限噴射量よりも大きい場合には、ドライブユニット18にポスト噴射を指示する。その際には、前述した2つの噴射量の差分量に基づいて、ポスト噴射の噴射時期および噴射量を算出することも行う。ポスト噴射の噴射時期および噴射量の算出に関しては、前述の温度センサや圧力センサが検出した排気ガスの温度や圧力、回転数センサが検出したエンジン回転数等も考慮される。
【0032】
なお、マイコン19は、エンジン2の各気筒における動作工程を、1工程毎にずらした形態で燃料噴射を行わせるよう、ドライブユニット18に燃料噴射を指示する。例えば、エンジン2の第1気筒21が吸気工程である場合、第2気筒22は排気工程、第3気筒23は燃焼工程、第4気筒24は圧縮工程となる。さらに、マイコン19は、回転数センサやコモンレール12の圧力センサからのセンサ信号に基づいて目標圧力を算出し、高圧燃料ポンプ11に対して目標圧力を指示することも行う。また、図示しない過吸機、排気ガス循環装置(EGR)、吸気絞り弁等を制御する制御信号や、図示しないラジエータファンリレー等の各種リレーを制御する制御信号を出力することも行う。
【0033】
図3は、本実施形態の燃料噴射装置1が、学習噴射量を記憶する処理に関するフローチャートである。本フローチャートの処理は、排気浄化装置3が換装された直後に、換装スイッチから出力される設定信号をマイコン19が取得すると、実行が開始される。
【0034】
ステップ301では、マイコン19は、回転数センサから出力されるセンサ信号を取得するとともに、当該センサ信号からエンジン2がアイドリング状態であるか否かを判定する。エンジン2がアイドリング状態であると判定された場合は、ステップ302へ進む。そうでない場合は、エンジン2がアイドリング状態であると判定されるまで、前述の判定を繰り返す。ステップ302では、当該時点におけるメイン噴射の噴射量を、学習噴射量として記憶する。
【0035】
図4は、本実施形態の燃料噴射装置1が、ポスト噴射を行う処理に関するフローチャートである。本フローチャートの処理は、マイコン19によって所定時間毎に実行される。
【0036】
ステップ401では、マイコン19は、差圧センサ31から出力されるセンサ信号を取得する。ステップ402では、ステップ401で差圧センサ31から取得したセンサ信号の示す差圧が所定範囲内であるか否か、すなわち、差圧センサ31が正常であるか否かを判定する。前述の差圧が所定範囲内にある、すなわち、差圧センサ31が正常であると判定された場合は、ステップ403へ進む。前述の差圧が所定範囲外である、すなわち、差圧センサ31に異常が発生したと判定された場合は、ステップ406へ進む。
【0037】
ステップ403では、ステップ401で差圧センサ31から取得したセンサ信号から、排気浄化装置3に捕捉されたパティキュレートの量を算出する。ステップ404では、ステップ403で算出したパティキュレートの量が所定量を超えているか否かを判定する。所定量を超えている場合は、ステップ405へ進み、ステップ401で取得した差圧センサ31の示す差圧に基づき、温度センサや圧力センサが検出した排気ガスの温度や圧力、回転数センサが検出したエンジン回転数等も考慮して、ポスト噴射の噴射時期および噴射量を算出し、ステップ410へ進む。算出したパティキュレートの量が所定量以下である場合は、処理を終了する。
【0038】
一方、ステップ406では、当該時点におけるメイン噴射の噴射量を取得する。ステップ407では、記憶されている学習噴射量に所定量を加算し、上限噴射量を算出(設定)する。これにより、ポスト噴射を行うか否かの判断基準となる、適切な上限噴射量を算出(設定)することができるのである。
【0039】
ステップ408では、ステップ406で取得したメイン噴射の噴射量が、ステップ407で算出した学習噴射量より大きいか否かを判定する。前述の上限噴射量より大きい場合は、ステップ409へ進み、ステップ406で取得したメイン噴射の噴射量と、ステップ407で算出した上限噴射量との差分量とに基づき、温度センサや圧力センサが検出した排気ガスの温度や圧力、回転数センサが検出したエンジン回転数等も考慮して、ポスト噴射の噴射時期と噴射量とを算出し、ステップ410へ進む。前述の差分量を利用することで、ポスト噴射の噴射時期や噴射量を適切に算出できるのである。メイン噴射の噴射量が前述の上限噴射量より小さい場合は、処理を終了する。
【0040】
ステップ410では、ステップ405またはステップ409で算出されたポスト噴射の噴射時期と噴射量とに基づいて、ドライブユニット18にポスト噴射を指示する。
【0041】
このように、本実施形態の燃料噴射装置は、差圧センサ31の異常発生時においては、当該時点におけるメイン噴射の噴射量が算出された上限噴射量を超えた場合に、ポスト噴射を実行する。これにより、何らかの原因によって差圧センサ31に異常が発生した場合でも、メイン噴射の噴射量と算出された上限噴射量とに基づいて、ポスト噴射を行うか否かを決定できる。言い換えれば、本燃料噴射装置では、差圧センサ31に異常が発生した場合でも、ポスト噴射を行い、排気浄化装置3に捕捉されたパティキュレートを燃焼させて除去する再生処理を適切に行うことができる。
【0042】
次に、本実施形態の第1の変形例について説明する。本変形例の燃料噴射装置では、エンジン2の冷却水(冷却液)の水温に応じて上限噴射量を算出する点が、前述の実施形態と異なる。
【0043】
本変形例のエンジン2は、前述の実施形態の機能に加え、当該エンジンの冷却水の水温を検出する図示しない水温センサを備え、エンジン2の冷却水の水温をセンサ信号として出力する。
【0044】
本変形例のマイコン19は、エンジン2の冷却水の水温に応じて、前述の上限噴射量を算出する。具体的には、マイコン19は、エンジン2の冷却水の水温と対応する補正噴射量を記憶する。差圧センサ31からのセンサ信号の示す差圧が所定範囲外であった場合、マイコン19は、水温センサのセンサ信号が示す水温に対応する補正噴射量を読み出して記憶された学習噴射量に加算し、上限噴射量を算出(可変)する。そして、メイン噴射の噴射量が算出された上限噴射量よりも大きい場合に、ドライブユニット18に対してポスト噴射を指示する。その際には、前述した2つの噴射量の差分量に基づいて、ポスト噴射の噴射時期および噴射量を算出することも行う。なお、前述の補正噴射量は、図5に示すように、エンジン2の冷却水の水温が低いほど大きくなるよう設定されており、エンジン2の冷却水の水温が低い場合には、算出された上限噴射量に占める当該補正噴射量のウェイトが大きくなる。
【0045】
その他の構成・動作に関しては、前述の実施形態の場合と同様であるため、説明を省略する。
【0046】
図6は、本変形例の燃料噴射装置1が、ポスト噴射を行う処理に関するフローチャートである。本フローチャートの処理は、前述した実施形態の図4のフローチャートに対し、水温センサからのセンサ信号が示す水温と対応する補正噴射量を読み出すステップを設ける。さらに、記憶されている学習噴射量に所定量を加算し、上限噴射量を算出するステップに代えて、記憶されている学習噴射量に補正噴射量を加算し、上限噴射量を算出するステップを設ける。言い換えれば、ステップ607と608以外の全ての処理は、前述した図4のフローチャートの場合と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
ステップ607では、マイコン19は、水温センサからのセンサ信号が示す水温と対応する補正噴射量を読み出す。ステップ608では、ステップ607で読み出した補正噴射量に対して、記憶されている学習噴射量を加算し、上限噴射量を算出する。
【0048】
このように、本変形例の燃料噴射装置では、エンジン2の冷却水の水温に対応する補正噴射量が用意され、前述の水温に応じた補正噴射量が学習噴射量に加算されて、上限噴射量が算出(可変)される。車両の起動直後には、各種車載機器の初期化動作等により、差圧センサ31が前述の差圧を正確に計測できない場合がある。エンジン2の冷却水の水温に対応する補正噴射量を学習噴射量に加算し、上限噴射量を算出することで、車両の起動直後における初期化動作等を鑑みた上限噴射量を設定することができる。
【0049】
次に、本実施形態の第2の変形例について説明する。本変形例の燃料噴射装置では、上限噴射量が所定の噴射量として予め決定されている点が、前述の実施形態と異なる。
【0050】
本変形例のマイコン19は、前述の実施形態における学習噴射量の記憶は行わず、所定の噴射量を上限噴射量として予め記憶している。差圧センサ31からのセンサ信号の示す差圧が所定範囲外であった場合、マイコン19は、当該時点におけるメイン噴射の噴射量と、予め記憶された上限噴射量とを比較し、メイン噴射の噴射量が上限噴射量よりも大きい場合には、ドライブユニット18にポスト噴射を指示する。その際には、前述した2つの噴射量の差分量に基づいて、ポスト噴射の噴射時期および噴射量を算出することも行う。なお、本変形例の燃料噴射装置1では、学習噴射量の記憶は行わないため、換装スイッチは不要となる。
【0051】
その他の構成・動作に関しては、前述の実施形態の場合と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
図7は、本変形例の燃料噴射装置1が、ポスト噴射を行う処理に関するフローチャートである。本フローチャートの処理は、前述した実施形態の図4のフローチャートにおける、記憶されている学習噴射量に所定量を加算し、上限噴射量を算出するステップに代えて、予め記憶された上限噴射量を読み出すステップを設ける。言い換えれば、ステップ707以外の全ての処理は、前述した図4のフローチャートの場合と同様であるため、説明を省略する。
【0053】
このように、本変形例の燃料噴射装置では、学習噴射量の記憶は行わず、所定の噴射量が上限噴射量としてマイコン19に記憶されている。これにより、上限噴射量を算出するための専用のハードウェアやソフトウェアが不要となり、設計面およびコスト面から好ましいのである。
【0054】
前述の実施形態および変形例では、記憶した学習噴射量から単一の上限噴射量を算出するとともに、差圧センサ31の異常発生時には、メイン噴射の噴射量と単一の上限噴射量とに基づいて、ポスト噴射の実行の可否や、ポスト噴射の噴射時期と噴射量を決定した。しかしながら、複数の上限噴射量を算出し、メイン噴射の噴射量と算出された各上限噴射量とに基づいて、ポスト噴射の実行の可否や、ポスト噴射の噴射時期と噴射量を決定しても良い。このようにしても、メイン噴射の噴射量と複数の上限噴射量の各々とから、ポスト噴射の噴射時期や噴射量を適切に決定することができる。また、前述の実施形態では、排気浄化装置3が換装された直後に学習噴射量を記憶するようにしたが、再生処理が完了した直後に、学習噴射量を記憶することとしても良い。
【0055】
さらに、前述の実施形態および各変形例では、差圧センサ31からのセンサ信号が示す差圧が所定範囲外であった場合に、当該センサに異常が発生したと判断した。しかしながら、エンジン2がアイドリング状態となった場合において、メイン噴射の噴射量を最大(アイドル制御時における上限の噴射量)にしても、エンジン2の回転数が所定の目標回転数に至らない場合に、差圧センサ31に異常が発生したと判断することとしても良い。この場合、差圧センサ31に異常が発生し、正確な検出が行われていないため、排気浄化装置3に多くのパティキュレートが捕捉されているにもかかわらず、ポスト噴射が行われていないと考えられるためである。さらに、差圧が所定範囲内であって、その差圧は、パティキュレートの所定量以上の堆積を示していない場合に、エンジン2のアイドリング時における噴射量が上限噴射量以上となった場合、差圧センサの異常と判断しても良い。
【0056】
また、前述の実施形態および各変形例では、記憶した学習噴射量から上限噴射量を算出したり、所定の噴射量を上限噴射量として予め記憶させたりした。しかしながら、換装スイッチから設定信号が出力された時点でのメイン噴射量を、上限噴射量として算出することとしても良い。これにより、上限噴射量をより簡易に算出でき、設計面およびコスト面から好ましい。
【0057】
前述の実施形態および各変形例では、噴射制御ECU17は、エンジン2の各気筒の各動作サイクルにおいて、ポスト噴射も含め最大5回の燃料噴射をインジェクタA13〜D16に行わせた。しかしながら、これに限定されるものではなく、より多くの回数の燃料噴射を行わせることとしても良い。また、より少ない回数の燃料噴射のみを行わせることとしても良い。また、ポスト噴射も複数回に分けて行うこととしても良い。
【0058】
最後に、前述の実施形態および各変形例では、車両に搭載されたディーゼルエンジンの燃料噴射装置に対して本燃料噴射装置を適用したが、これに限定されるものではなく、鉄道や航空機に搭載されたディーゼルエンジンの燃料噴射装置に対しても、好適に利用できる。しかしながら、最も好適であるのは、車両に搭載されたディーゼルエンジンの燃料噴射装置に対して適用した場合であることを言及しておく。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態における燃料噴射装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の燃料噴射装置において、駆動信号ラインに出力される信号、ドライブユニットが出力する駆動電流、ダイアグ信号ラインへ出力されるパルスの一例を示す図である。
【図3】本実施形態の燃料噴射装置が、学習噴射量を記憶する処理に関するフローチャートである。
【図4】本実施形態の燃料噴射装置が、ポスト噴射を行う処理に関するフローチャートである。
【図5】第1の変形例における燃料噴射装置の、エンジンの冷却水の水温と、補正噴射量の大きさとの関係を示すグラフである。
【図6】第1の変形例における燃料噴射装置が、ポスト噴射を行う処理に関するフローチャートである。
【図7】第2の変形例における燃料噴射装置が、ポスト噴射を行う処理に関するフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1…燃料噴射装置
11…高圧燃料ポンプ
12…コモンレール
13〜16…インジェクタA〜D
17…噴射制御ECU
18…ドライブユニット
19…マイコン
1A〜1D…駆動信号ラインA〜D
1E…ダイアグ信号ライン
1F…駆動電流出力回路
1G…駆動電流検出回路
2…エンジン
21〜24…第1気筒〜第4気筒
3…排気浄化装置
31…差圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたディーゼルエンジンにおける燃料噴射装置であって、前記ディーゼルエンジンの後段には、当該エンジンからの排気に含まれる粒子状物質を捕捉する排気浄化装置が接続されるとともに、当該装置へ流入する前記排気と、当該装置から流出する前記排気の圧力差を検出する差圧検出器を備え、前記燃料噴射装置は、前記差圧検出器によって検出された圧力差が所定の圧力差を超えると、前記ディーゼルエンジンに駆動力を発生させる燃料噴射に加え、前記排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射を行うものであり、
前記差圧検出器の異常発生時において、前記ディーゼルエンジンがアイドリング状態となると、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量を計測するとともに、計測された噴射量が、設定された上限噴射量を超えた場合には、前記差圧検出器の検出結果によらず、前記排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射を行わせる異常制御手段を備えることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
前記異常制御手段は、前記排気浄化装置における粒子状物質の捕捉量が略零である時に、前記ディーゼルエンジンがアイドリング状態となった場合の、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量を計測するとともに、計測された噴射量に所定量を加算した噴射量を、前記上限噴射量として設定することを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記異常制御手段は、前記ディーゼルエンジンを冷却する冷却液の温度に基づき、前記所定量を可変とすることを特徴とする請求項2記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記異常制御手段は、所定の噴射量を前記上限噴射量として設定することを特徴とする請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記上限噴射量の設定を行うよう指示する指示手段を設け、
前記異常制御手段は、前記指示手段から前記指示を受けると、前記上限噴射量の設定を行うことを特徴とする請求項2または請求項3記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記指示手段は、前記排気浄化装置を換装した直後、及び、粒子状物質の燃焼を完了した直後のいずれかに、前記上限噴射量の設定を行うよう指示することを特徴とする請求項5記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
前記異常制御手段は、前記上限噴射量と、前記ディーゼルエンジンのアイドリング状態における、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量との差分量に基づいて、前記排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射の燃料噴射時期および燃料噴射量を決定することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
前記異常制御手段は、前記上限噴射量を複数設定するとともに、設定された前記上限噴射量の各々と、前記ディーゼルエンジンのアイドリング状態における、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量とに基づいて、前記排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射の燃料噴射時期および燃料噴射量を決定することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の燃料噴射装置。
【請求項9】
前記異常制御手段は、前記ディーゼルエンジンのアイドリング状態において、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量をアイドル制御の上限にしても、当該エンジンの回転数が所定の目標回転数に至らない場合には、前記排気浄化装置に捕捉された粒子状物質を燃焼させる燃料噴射を行わせることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の燃料噴射装置。
【請求項10】
前記異常制御手段は、前記差圧検出器の検出結果が所定範囲外であった場合、前記差圧検出器に異常が発生したと判断することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の燃料噴射装置。
【請求項11】
前記異常制御手段は、前記ディーゼルエンジンがアイドリング状態となると、当該エンジンに駆動力を発生させる燃料噴射の噴射量を計測するとともに、計測された噴射量が前記上限噴射量を超えた場合には、前記差圧検出器に異常が発生したと判断することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の燃料噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−9598(P2006−9598A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184053(P2004−184053)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】