説明

狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法

【課題】基材内部の細孔の直径を維持したまま細孔の入口の直径を容易に狭小化することができ、ガス分離性能が十分に高い狭小化多孔質アルミナ基材を製造することが可能な狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法を提供すること。
【解決手段】多孔質アルミナ基材1にアルミナを物理蒸着させて、該多孔質アルミナ基材の細孔の入口を0.2〜1.5nmと狭小化し、狭小化多孔質アルミナ基材を得ることを特徴とする狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法に関し、より詳しくは、多孔質アルミナ基材の細孔の入口が狭小化された狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多孔質アルミナ基材を製造するために様々な方法が研究されており、アルミニウムの表面にナノオーダーの細孔を形成できる技術として陽極酸化法が知られている。
【0003】
例えば、1991年発行の「表面技術」vol.42の133頁〜134頁(非特許文献1)において、アルミニウム板に対して、シュウ酸等の電解液を用いて2V〜40Vの電圧を印加して電解を行うことで多孔質アルミナ基材を得る方法が開示されている。また、特開2002−119856号公報(特許文献1)においては、アルミニウム板又は少なくとも10μmのアルミニウム層を有する基板のアルミニウム表面を、陽極酸化槽の液温が50℃以下となるように陽極酸化し、該陽極酸化終了後、10分〜720分間そのまま陽極酸化槽に基板を浸漬し続けることにより陽極酸化によって形成されたアルマイト表面の細孔の孔径を拡大し、水洗した後、水和処理し、焼成する多孔質アルミナ基材の製造方法が開示されている。更に、特開平9−316692号公報(特許文献2)においては、アルミニウムの電気分解によって多孔質アルミナ基材を製造する方法であって、微細な細孔を保有せしめるために電圧を間欠的に印加する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−119856号公報
【特許文献2】特開平9−316692号公報
【非特許文献1】小野幸子、馬場宣良ら著,「アルミニウムアノード酸化被膜の孔径とセル径」,表面技術,1991年発行,vol.42,133頁〜134頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1及び特許文献1〜2に記載のような従来の多孔質アルミナ基材の製造方法においては、得られる多孔質アルミナ基材のガス分離性能が十分なものとはならなかった。
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、基材内部の細孔の直径を維持したまま細孔の入口の直径を容易に狭小化することができ、ガス分離性能が十分に高い狭小化多孔質アルミナ基材を製造することが可能な狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させることにより、基材内部の細孔の直径を維持したまま基材表面の細孔の入口の直径を容易に狭小化することができ、ガス分離性能が十分に高い狭小化多孔質アルミナ基材を製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法は、多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させて、該多孔質アルミナ基材の細孔の入口を狭小化し、狭小化多孔質アルミナ基材を得ることを特徴とする方法である。
【0008】
上記本発明の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法においては、前記多孔質アルミナ基材の法線に対して30〜85°の方向にアルミナターゲットを配置し、前記アルミナターゲットをスパッタすることにより、前記多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させることが好ましい。
【0009】
また、上記本発明の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法においては、前記細孔の入口の直径の平均値が0.2〜1.5nmとなるように、前記多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させることが好ましい。
【0010】
さらに、上記本発明の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法においては、前記多孔質アルミナ基材に蒸着させるアルミナの量が0.02〜0.84g/mとなるように、前記多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させることが好ましい。
【0011】
なお、本発明の狭小化多孔質アルミナ基材によって、上記目的が達成される理由を、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明においては、多孔質アルミナ基材に対して、アルミナを物理蒸着させている。このようにして多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させることによって、多孔質アルミナ基材の細孔の入口近傍にアルミナが堆積され、アルミナの柱状構造が細孔を塞ぐようにして成長する。従って、本発明においては、多孔質アルミナ基材の細孔の入口を、蒸着させたアルミナによって狭小化しつつ細孔内部の細孔径を維持することが可能となるもの推察する。そして、本発明においては、細孔の入口の直径をアルミナの蒸着量に応じて容易に制御することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基材内部の細孔の直径を維持したまま細孔の入口の直径を容易に狭小化することができ、ガス分離性能が十分に高い狭小化多孔質アルミナ基材を製造することが可能な狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法を提供することが可能となる。
【0013】
そして、このような本発明の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法によって得られる狭小化多孔質アルミナ基材は、ガス分離材料等として好適に利用できるばかりか、細孔の入口の直径が狭く、細孔内部の直径が広い細孔構造を有するものとなるため、細孔内部の空間を反応場として利用する材料等としても好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
本発明の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法は、多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させて、該多孔質アルミナ基材の細孔の入口を狭小化し、狭小化多孔質アルミナ基材を得ることを特徴とする方法である。
【0016】
先ず、本発明に用いられる多孔質アルミナ基材について説明する。このような多孔質アルミナ基材としては特に制限されないが、いわゆる陽極酸化法により少なくとも基材の一方の面の表面に複数の細孔が形成されたアルミナ基材を用いることが好ましい。本発明においては、細孔の入口を狭小化することができ、得られる狭小化多孔質アルミナ基材において、細孔を細孔の入口の直径が狭く且つ細孔内部の直径が広い構造とすることが可能であるため、いわゆる陽極酸化法により製造された多孔質アルミナ基材を用いた場合においても、基材のガス分離性能を十分に向上させることが可能である。
【0017】
また、このような多孔質アルミニウム基材としては、細孔の直径の平均値が5〜200nmであることが好ましく、5〜30nmであることがより好ましい。このような細孔の直径の平均値が前記下限未満では、多孔質アルミナ基材を製造することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、直径の偏差が大きくなり、細孔径を精密に制御することが困難となる傾向にある。なお、細孔が円形でない場合には「直径」は、最大外接円の直径をいう。
【0018】
また、このような多孔質アルミナ基材としては、細孔の長さが10〜1000μmであることが好ましく、50〜500μmであることがより好ましい。このような細孔の長さが前記下限未満では、得られる狭小化アルミナ基材をガス分離材料等として使用した場合に高度なガス分離性能が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、多孔質アルミナ基材を製造することが困難となる傾向にある。
【0019】
また、このような多孔質アルミナ基材としては、前記基材のBET比表面積が2〜100m/gであることが好ましい。このような基材のBET比表面積が前記下限未満では、単位重量あたりのガス分離性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、細孔壁が薄くなるので実質的な機械強度が得にくくなる傾向にある。
【0020】
また、このような多孔質アルミナ基材の厚みとしては特に制限されないが、0.05〜1mm程度であることが好ましい。このような厚みが前記下限未満では、実用に耐える機械強度が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、単位重量あたりのガス分離性能が低下する傾向にある。
【0021】
さらに、このような多孔質アルミナ基材としては、得られる狭小化アルミナ基材をガス分離材料として用いるという観点からは、一方の面から他方の面まで細孔が貫通した貫通構造の細孔を有する多孔質アルミナ基材が好ましい。そのため、例えば、多孔質アルミナ基材を陽極酸化法により製造した場合には、細孔を形成せしめた後に硫酸等を用いて、いわゆるバリア層(基材表面のうちの一方の面に細孔を形成せしめた場合における細孔が形成されていないもう一方の面側の細孔が形成されていない層)を溶解せしめて、細孔を貫通構造とすることが好ましい。
【0022】
また、このような多孔質アルミナ基材の製造方法としては特に制限されないが、陽極酸化法を採用することが好ましい。なお、陽極酸化法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、アルミニウム板(好ましくは、アルミニウムの含有比率が99.0質量%以上のアルミニウム板)を電解液に浸し、前記アルミニウム板を陽極とし、白金めっきしたチタン板等を陽極にして直流電流を印加する方法を採用できる。なお、このような陽極酸化法に用いる電解質としては特に制限されず、シュウ酸、硫酸、リン酸等の公知の電解質を適宜用いることができる。また、印加する電流の条件等も特に制限されず、多孔質アルミナ基材の設計に合わせて適宜変更することができる。
【0023】
次に、前記多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させる工程について説明する。このような工程は、前記多孔質アルミナ基材の細孔が形成されている表面にアルミナを物理蒸着させて多孔質アルミナ基材の細孔の入口近傍にアルミナを堆積させることにより、アルミナ蒸着層が細孔を塞ぐようにして成長することを利用して、多孔質アルミナ基材の細孔の入口を狭小化する工程である。
【0024】
このような物理蒸着の方法としては特に制限されず、イオンプレーディング法やスパッタ法等の公知の蒸着方法を適宜採用することができ、高融点の金属酸化物を蒸着する観点から、スパッタ法を採用することが好ましい。また、このようなスパッタ法としては、マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法、RF(高周波)スパッタ法等の公知のスパッタ方法を適宜採用できるが、絶縁物のターゲットを使用する観点から、RF(高周波)スパッタ法を採用することが好ましい。また、このような物理蒸着を施す際に用いるターゲットとしては、アルミナを蒸着させることが可能なものを用いればよく、アルミナからなるターゲットを用いることが好ましい。また、このような物理蒸着に際しては、アルミナを物理蒸着させることが可能な公知の装置(例えば公知のスパッタ装置等)を適宜用いることができる。また、物理蒸着の際の雰囲気、温度等の各種条件も特に制限されず、多孔質アルミナ基材にアルミナを蒸着させることが可能な条件であればよい。以下、図面を参照しながら、このような物理蒸着の好適な方法について、より詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0025】
図1は、多孔質アルミナ基材とアルミナターゲットとの配置関係の好適な一実施形態を示す概略断面図であり、図2は、アルミナ蒸着層が形成された多孔質アルミナ基材の好適な一実施形態を示す概略断面図である。
【0026】
本発明においては、前記物理蒸着の方法として、多孔質アルミナ基材1の法線Nに対して30〜85°(より好ましくは65〜75°)の方向にアルミナターゲット2を配置し、アルミナターゲット2をスパッタする方法を採用することが好ましい。ここで、「多孔質アルミナ基材1の法線Nに対して30〜85°の方向にアルミナターゲット2を配置する」とは、多孔質アルミナ基材1の中心点C及びアルミナターゲット2の中心点Cを結ぶ線Aと、多孔質アルミナ基材1の法線Nとのなす角度θが30〜85°となるようにアルミナターゲット2を配置することをいう(図1参照)。このような角度θが前記下限未満では、スパッタにより細孔の入口から比較的深い部位にまでアルミナが堆積し、細孔の入口近傍に効率よくアルミナを蒸着させることができないため、細孔の入口を効率よく狭小化することができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、アルミナ基板の微細な凹凸の影になる部分において蒸着が不十分となる傾向にある。また、より効率よく多孔質アルミナ基材1の細孔を狭小化するという観点からは、線Aとアルミナターゲット2の法線とが平行となることが更に好ましい。
【0027】
また、このようなスパッタの際の多孔質アルミナ基材1とアルミナターゲット2との配置関係において、多孔質アルミナ基材1の中心点Cと、アルミナターゲット2の中心点Cとの間の距離は特に制限されないが、75〜200mmとすることが好ましい。このような距離が前記下限未満では、アルミナ基材の位置によって蒸着されるアルミナの量にバラツキが生じる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、多孔質アルミナ基材に対して効率よくアルミナを蒸着させることができなくなる傾向にある。
【0028】
また、前記物理蒸着の方法としてスパッタ法を採用する場合においては、多孔質アルミナ基材1に対するスパッタ粒子Pの到達角度θ(粒子Pが基材1へ到達する際の粒子Pの進行方向Dと基材1の法線Nとのなす角度)が30〜70°(より好ましくは40〜50°)となるようにしてスパッタを行うことが好ましい(図2参照)。このような角度θが前記下限未満では、スパッタにより細孔の入口から比較的深い部位にまでアルミナが堆積し、細孔の入口を効率よく狭小化することができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、蒸着したアルミナの影になる部分が生じるため細孔径を制御し難くなる傾向にある。
【0029】
また、本発明においては、アルミナ蒸着後の細孔の入口の直径の平均値が0.2〜1.5nm(より好ましくは0.3〜0.6nm)となるように、多孔質アルミナ基材1にアルミナを物理蒸着させることが好ましい。このような細孔入口の直径の平均値が前記下限未満となると、細孔が閉塞した部分が生じ易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる多孔質アルミナ基材をガス分離材量として用いた場合に、十分なガス分離性能が得られなくなる傾向にある。
【0030】
さらに、多孔質アルミナ基材1に蒸着させる前記アルミナの量としては、アルミナの蒸着量が多孔質アルミナ基材1に対して0.02〜0.84g/m(より好ましくは0.05〜0.24g/m)となるようにすることが好ましい。このような蒸着量が前記下限未満では、多孔質アルミナ基材1の細孔をガス分離できる程度にまで狭小化できなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、蒸着量の精度誤差が大きくなる傾向にある。
【0031】
本発明においては、アルミナ蒸着層3の高さhが多孔質アルミナ基材1の細孔径に対して0.3〜1.7倍(より好ましくは0.7〜1.0倍)となるようにして、多孔質アルミナ基材1にアルミナを物理蒸着させることが好ましい。このような高さhが前記下限未満では、得られる狭小化多孔質アルミナ基材のガス分離性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、細孔を閉塞し易くなる傾向にある。
【0032】
このようにして多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させることで、多孔質アルミナ基材の細孔の入口を狭小化することができ、狭小化多孔質アルミナ基材を得ることができる。また、このような本発明の狭小化アルミナ基材の製造方法を採用して得られる狭小化アルミナ基材としては、細孔の入口の直径の平均値が0.2〜1.5nm(より好ましくは0.3〜0.6nm)であることが好ましい。また、このような狭小化アルミナ基材としては、アルミナが蒸着していない細孔内部の直径の平均値が5〜30nmであることが好ましく、細孔の長さが50〜500μmであることが好ましい。また、このような狭小化アルミナ基材は、細孔の入口の直径が狭く、細孔内部の直径が広い細孔構造を有するものとなるため、ガス分離材料や、細孔内部の空間を反応場として利用する材料等として好適に利用できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
先ず、図3に示す装置を用いて、いわゆる陽極酸化法により多孔質アルミナ基材を製造した。すなわち、陰極に白金をめっきしたチタン板電極10を用い、陽極に厚さ0.2ミリのアルミニウム板11(5センチ角)を用い、電解質液12として4質量%シュウ酸溶液を用い、恒温槽13により製造時の温度が10℃未満となるように制御しながら、電源14を用いて電流密度が10mA/cmで一定となるようにして10時間通電し、厚みが0.1ミリの多孔質アルミナ基材(A)を製造した。なお、得られた多孔質アルミナ基材(A)においては、基材の両方の面に複数の細孔が形成されており、その細孔の直径の平均値は30nmであり、細孔の長さは100μmであった。次に、このようにして得られた多孔質アルミナ基材(A)の一方の面を、35℃の温度条件下において、13.7質量%の硫酸に10時間浸し、表面からバリア層までを溶解して、厚みが100μmで且つ貫通構造の細孔を有する多孔質アルミナ基材(B)を製造した。
【0035】
次に、前記多孔質アルミナ基材(B)に対してスパッタ蒸着法を採用してアルミナを蒸着せしめ、狭小化多孔質アルミナ基材を得た。すなわち、図1に示す角度θが70°で且つ多孔質アルミナ基材1の中心点とアルミナターゲット2の中心点との間の距離が120mmとなるようにして多孔質アルミナ基材(B)とアルミナターゲットとを設置し、10容量%のOと、Arガスとの混合ガス雰囲気、雰囲気圧0.3Pa、温度25℃の条件下において、蒸着速度を0.9nm/分とし、アルミナ蒸着層の高さhが約30nmとなるようにして、RFスパッタ法により多孔質アルミナ基材(B)に対してアルミナを蒸着し、多孔質アルミナ基材(B)の表面近傍の細孔の口径(細孔の入口の直径)を狭小化して、狭小化アルミナ基材を得た。
【0036】
(実施例2)
先ず、4質量%シュウ酸溶液の代わりに3.8質量%のリン酸溶液を電解質液12として用いた以外は実施例1と同様にして、厚みが100μmの貫通構造の細孔を有する多孔質アルミナ基材(C)を製造した。なお、得られた多孔質アルミナ基材(C)においては、細孔の直径の平均値が200nmであり、細孔の長さが100μmであった。
【0037】
次に、前記多孔質アルミナ基材(C)を用い且つアルミナ蒸着層の高さhが約200nmとなるようにした以外は実施例1と同様にして、狭小化アルミナ基材を得た。
【0038】
(比較例1)
アルミナを蒸着しなかった以外は実施例1と同様にして、貫通構造の細孔を有する多孔質アルミナ基材を得た。
【0039】
(比較例2)
アルミナを蒸着しなかった以外は実施例2と同様にして、貫通構造の細孔を有する多孔質アルミナ基材を得た。
【0040】
[実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた基材の特性の評価]
〈走査型電子顕微鏡による観察〉
実施例1〜2で得られた狭小化アルミナ基材及び比較例1〜2で得られた多孔質アルミナ基材を走査型電子顕微鏡により観察した。実施例1で得られた狭小化アルミナ基材の表面近傍の電子顕微鏡写真を図4に示し、比較例1で得られた多孔質アルミナ基材の表面近傍の電子顕微鏡写真を図5に示す。
【0041】
このような走査型電子顕微鏡による観察の結果、実施例1〜2で得られた狭小化アルミナ基材においては、アルミナを蒸着させることにより多孔質アルミナ基材の表面近傍の細孔の直径が狭小化されていることが確認され(図4参照)、各狭小化アルミナ基材の細孔の入口の直径の平均値が、それぞれ0.5nm(実施例1)、0.6nm(実施例2)となっていることが確認された。一方、アルミナを蒸着させていない比較例1〜2で得られた多孔質アルミナ基材においては、細孔の入口の直径と基材内部の細孔の直径はほとんど変化がないことが確認され(図5参照)、各多孔質アルミナ基材の細孔の直径の平均値は、それぞれ30nm(比較例1)、200nm(比較例2)であることが分かった。
【0042】
〈ガス分離性能の評価〉
実施例1〜2で得られた狭小化アルミナ基材及び比較例1〜2で得られた多孔質アルミナ基材のガス分離性能を測定した。すなわち、先ず、実施例1〜2で得られた狭小化アルミナ基材及び比較例1〜2で得られた多孔質アルミナ基材を用いて、それぞれ、直径18mm、厚み0.1mmの大きさの試料を調製した。次に、得られた各試料を、それぞれ直径が18mmのガス供給管中に設置し、各試料の温度が100℃となるように加温した。次いで、各ガス供給管内に、C1022とNガスとCOとの混合ガスを、300cc/分の流通速度で流通させた。そして、前記ガス供給管内の各試料を通過する前の混合ガスと、各試料を通過した後の混合ガスとを、それぞれ質量分析し、各試料を通過する前後の混合ガス中のCOとC1022の強度比(CO/C1022)を求め、各基材のガス分離性能を測定した。なお、前記混合ガスは、C1022溶液を70℃に加熱しながらN(窒素)ガスをバブリングして得たガスと、N中に1.5容量%のCO(一酸化炭素)を含むガスとを混合することにより調製した。また、このようにして調製した混合ガス中のCOとC1022との質量分析による強度比は1:1であった。
【0043】
このような測定の結果、実施例1で得られた狭小化アルミナ基材からなる試料を利用した場合においては、試料を通過した後の混合ガス中のCO/C1022比が、試料を通過する前の混合ガス中のCO/C1022比に対して2.2倍の値となっていることが確認された。そのため、実施例1で得られた狭小化アルミナ基材においては、C1022を選別し、COを優先して透過する性能を有していることが確認された。
【0044】
また、実施例2で得られた狭小化アルミナ基材からなる試料を利用した場合においては、試料を通過した後の混合ガス中のCOとC1022の強度比(CO/C1022)が、基材を通過する前の混合ガス中のCO/C1022比に対して1.6倍の値となっていることが確認された。そのため、実施例2で得られた狭小化アルミナ基材においては、C1022を選別し、COを優先して透過する性能を有していることが確認された。
【0045】
一方、比較例1〜2で得られた多孔質アルミナ基材からなる各試料においては、試料の通過前の混合ガス中のCOとC1022の強度比(CO/C1022)と、試料通過後の混合ガス中のCOとC1022の強度比(CO/C1022)が同一の値となり、各試料に混合ガスを通過させても混合ガスの組成に変化がないことが確認された。
【0046】
このような結果から、本発明の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法を採用して得られた狭小化アルミナ基材は、十分に高いガス分離性能を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、基材内部の細孔の直径を維持したまま細孔の入口の直径を容易に狭小化することができ、ガス分離性能が十分に高い狭小化多孔質アルミナ基材を製造することが可能な狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法を提供することが可能となる。
【0048】
そして、このような本発明の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法によって得られる狭小化多孔質アルミナ基材は、ガス分離材料や、細孔内部の空間を反応場として利用する材料等として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】多孔質アルミナ基材とアルミナターゲットとの配置関係の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【図2】アルミナ蒸着層が形成された多孔質アルミナ基材の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【図3】多孔質アルミナ基材を陽極酸化法により製造するために実施例1で利用した装置の概略縦断面図である。
【図4】実施例1で得られた狭小化アルミナ基材の表面近傍の電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例1で得られた多孔質アルミナ基材の表面近傍の電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0050】
1…多孔質アルミナ基材、1a…多孔質アルミナ基材に形成されている細孔の細孔壁、2…アルミナターゲット、3…アルミナ蒸着層、C…多孔質アルミナ基材の中心点、C…アルミナターゲットの中心点、A…中心点Cと中心点Cを結ぶ線、N…多孔質アルミナ基材の法線、θ…線Aと線Nとのなす角度、D…スパッタ粒子の進行方向、P…スパッタ粒子、θ…線Dと線Nとのなす角度、h…蒸着層の高さ、10…白金をめっきしたチタン板電極(陰極)、11…アルミニウム板(陽極)、12…電解質液、13…恒温槽、14…電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させて、該多孔質アルミナ基材の細孔の入口を狭小化し、狭小化多孔質アルミナ基材を得ることを特徴とする狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質アルミナ基材の法線に対して30〜85°の方向にアルミナターゲットを配置し、前記アルミナターゲットをスパッタすることにより、前記多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させることを特徴とする請求項1に記載の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法。
【請求項3】
前記細孔の入口の直径の平均値が0.2〜1.5nmとなるように、前記多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させることを特徴とする請求項1又は2に記載の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質アルミナ基材に蒸着させるアルミナの量が0.02〜0.84g/mとなるように、前記多孔質アルミナ基材にアルミナを物理蒸着させることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の狭小化多孔質アルミナ基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−68038(P2009−68038A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235085(P2007−235085)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】