説明

真空蒸着装置

【課題】金属層の剥離が発生する可能性が低く、信頼性の高い真空蒸着装置を提供する。
【解決手段】本発明の真空蒸着装置では、冷却機構を有し、ボート11からの金属蒸気の基材方向以外への飛散を防止する第1の防着板16と、第1の防着板16よりもボート11側に防着面を有し、ボート11からの金属蒸気の基材方向以外への飛散を防止するとともに脱着自在に配設された第2の防着板19とを備えた構成とした。この構成により、蒸着時に第2の防着板19はボート11からの輻射熱にて十分に熱を帯びた状態となっているため、金属蒸気は第2の防着板19の表面上では固化しにくく、第2の防着板19に蒸着金属が付着することはほとんどないものとなる。この結果、金属層の剥離の可能性が低減され、本発明の真空蒸着装置は信頼性の高いものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化フィルムコンデンサ等の金属化フィルムの製造に用いられる、金属材料を加熱し蒸発させて基材上に蒸着を行う真空蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、あらゆる電気機器がインバータ回路で制御され、省エネルギー化、高効率化が進められている。中でも自動車業界においては、電気モータとエンジンで走行するハイブリッド車(以下、HEVと呼ぶ)が市場導入される等、地球環境に優しく、省エネルギー化、高効率化に関する技術の開発が活発化している。
【0003】
このようなHEV用の電気モータは使用電圧領域が数百ボルトと高いため、電気モータに関連して使用されるコンデンサとして高耐電圧で低損失の電気特性を有する金属化フィルムコンデンサが注目されており、更に市場におけるメンテナンスフリー化の要望からも極めて寿命が長い金属化フィルムコンデンサを採用する傾向が目立っている。
【0004】
そして、このような金属化フィルムコンデンサは、金属箔を電極に用いるものと、誘電体フィルム上に設けた蒸着金属を電極に用いるものとに大別される。中でも、蒸着金属を電極(以下、金属蒸着電極と呼ぶ)とする金属化フィルムコンデンサは、金属箔のものに比べて電極の占める体積が小さく小型軽量化が図れることと、金属蒸着電極特有の自己回復機能(絶縁欠陥部で短絡が生じた場合に、短絡のエネルギーで欠陥部周辺の金属蒸着電極が蒸発・飛散して絶縁化し、コンデンサの機能が回復する性能)により絶縁破壊に対する信頼性が高いことから、従来から広く用いられているものである。
【0005】
この種の金属化フィルムコンデンサの製造において、誘電体フィルムへの金属の蒸着は真空蒸着装置を用いて行われる。この真空蒸着装置では、一般的に金属材料を蒸発源にて加熱し、発生した金属蒸気を誘電体フィルムに付着させることにより誘電体フィルム上に金属材料の膜を形成する。
【0006】
図8を用いて特許文献1に記載の真空蒸着装置100について説明する。
【0007】
図8に示すように、特許文献1に記載の真空蒸着装置100は真空槽101の内底面中央に蒸発源102を備え、この蒸発源102にて金属材料103を加熱して金属蒸気を発生させている。そして、この金属蒸気を蒸発源102の上部に設置された蒸着対象物である誘電体フィルム104方向に飛ばし、微粒子となった金属材料103を誘電体フィルム104の表面に付着させることで蒸着が行われる。
【0008】
ところで、蒸発源102から発生した金属蒸気は誘電体フィルム104方向に向かい誘電体フィルム104に金属材料103の膜を形成するものであるが、その一方で誘電体フィルム104方向以外に飛ぶ金属蒸気も存在し、このような金属蒸気は真空槽101の内壁等に付着し、そこに金属材料103の金属層を形成してしまう。このように真空槽101の内壁等に付着して形成された金属層は、蒸発源102の加熱終了後に冷却固化されて除去されるものであるが、この作業には非常に手間がかかっていた。
【0009】
そこで、真空蒸着装置100では図8に示すように、蒸発源102を取り囲むように防着板105を設け、誘電体フィルム104以外の方向に飛んだ金属蒸気をこの防着板105に付着させるようにしている。そして、加熱終了後には、この防着板105を真空蒸着装置100から取り外し、防着板105に形成された金属層を除去することで除去作業の効率を高めている。
【0010】
さらに、この真空蒸着装置100においては、防着板105を実際に金属材料103の金属層がその表面に形成される板材106と、この板材106の背面に配置され、内部に液冷用配管107を備えた金属体108とで構成している。
【0011】
このような構成とすることで真空蒸着装置100では、板材106の表面に形成された蒸発温度の低い特性を有する金属層の再蒸発を防いでいる。
【0012】
すなわち、板材106の表面に形成された金属層は、蒸発源102からの輻射熱により再度加熱されて再蒸発することになるが、このような板材106の表面に付着した金属材料103は、蒸発源102から直接蒸発された金属材料103とは性質が異なり、これら板材106の表面からの金属材料103と蒸発源102からの金属材料103の両方が誘電体フィルム104に蒸着すると、膜質が不均一である不純な膜が形成されてしまう。
【0013】
このため、真空蒸着装置100では液冷用配管107にて防着板105を冷却し、板材106の表面に形成された金属層の再蒸発を防いでいる。そしてこの結果、誘電体フィルム104に均一な膜質を有する膜を形成することを可能としていた。
【0014】
加えて、この構成によると防着板105を冷却することで蒸発源102からの輻射熱によるダメージを軽減し、防着板105を長寿命化できるという効果も奏していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2007/069291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
確かに、上述したように特許文献1に記載の真空蒸着装置100の構成によると誘電体フィルム104に形成する膜の膜質を均一化でき、さらには防着板105の寿命を長期化させることが可能であった。
【0017】
しかしながら、この構成によると、例えば金属材料103として物性が異なる複数の金属からなる合金を用いた場合に新たな課題が生じていた。
【0018】
この課題について以下に説明する。
【0019】
まず、真空蒸着装置100を用いて蒸着を行った場合、防着板105の板材106の表面に金属材料103の金属層が逐次厚みを増して形成されていくわけであるが、金属層の厚みが厚くなるにしたがって金属層表面付近の金属材料103が液冷用配管107から受ける冷却効果は薄まってしまう。さらに、この金属層表面付近の金属材料103は蒸発源102からの輻射熱にさらされるため、金属材料103として2種類以上の金属からなる合金を用いた場合、各金属が有する蒸発温度によっては、再蒸発してしまう金属とそうでない金属が発生する可能性がある。
【0020】
このため板材106の表面に形成される金属層は、その部位によって各金属の含有濃度が異なる状態となり、この結果、局部的に応力が発生してしまう。そして、発生した応力が金属層を防着板105から剥離させてしまうのであった。
【0021】
したがって、真空蒸着装置100では1種類の金属のみを金属材料103として用いた
場合には金属層を剥離させずに問題なく蒸着を行えたにも関わらず、2種類以上の金属からなる合金を金属材料103として用いた場合には上述のような原因により金属層が剥離してしまうという課題が生じていた。さらに、この剥離した金属層が蒸発源102に落下して再度加熱された際には、スプラッシュと呼ばれる金属塊の飛散が発生することがある。スプラッシュが発生した場合、飛散した金属塊が誘電体フィルムに付着、あるいは誘電体フィルムを傷つけることによって完成品としての金属化フィルムコンデンサの品質を著しく低下させてしまう恐れがあった。
【0022】
すなわち、1種類の金属にて形成された金属材料103を蒸着させるために用いていた真空蒸着装置100を、そのままの態様にて2種類以上の金属からなる合金の蒸着に併用することは難しいものであった。
【0023】
そこで、本発明ではこのような問題点を鑑みて2種類以上の金属からなる合金を蒸着させる場合においても防着板からの金属層の剥離が発生する可能性が低く、信頼性の高い真空蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
そして、この課題を解決するために本発明の真空蒸着装置は、基材を所定の速度で搬送しながら、この基材の表面に金属微粒子を蒸着させる蒸着装置であり、金属材料を加熱して金属蒸気を発生させる蒸発源と、冷却機構を有し、前記蒸発源からの金属蒸気の前記基材方向以外への飛散を防止する第1の防着板と、前記第1の防着板よりも前記蒸発源側に防着面を有し、前記蒸発源からの金属蒸気の前記基材方向以外への飛散を防止するとともに脱着自在に配設された第2の防着板と、前記蒸発源、前記第1の防着板、および前記第2の防着板を内部に収容した真空槽を備えた構成とした。
【発明の効果】
【0025】
本発明の構成の真空蒸着装置は、物性が異なる複数の金属からなる合金を蒸着させる場合であっても防着板から金属層が剥離する可能性が低く、信頼性の高いものとなっている。
【0026】
これは、本発明の真空蒸着装置が脱着自在の第2の防着板を備えていることによる。
【0027】
すなわち、本発明の第2の防着板は第1の防着板と別体として設けているため、実際に蒸着を行う際には第2の防着板は第1の防着板に設けられた冷却機構の影響を受けにくく、蒸着源からの輻射熱にて十分に熱を帯びた状態となっている。
【0028】
したがって、蒸着源からの金属蒸気は第2の防着板の表面上では固化しにくく、第2の防着板に蒸着金属が付着することはほとんどないため、第2の防着板上において金属層が形成される可能性は低いものとなっている。
【0029】
あるいは、金属層が形成されたとしても、金属層内の各金属の含有濃度はどの部位においても同等の状態であり、金属層内部では応力が発生しにくい状態となっているため、剥離の可能性は低いものとなっている。
【0030】
これらより本発明の真空蒸着装置では防着板から金属層が剥離する可能性は低く、信頼性の高いものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の真空蒸着装置の構成を示した概略正面図
【図2】実施例1の蒸着室内の構成を示す概略正面図
【図3】実施例1の第2の防着板の透視斜視図
【図4】実施例1の第1、第2の防着板の断面図
【図5】実施例2の第1、第2の防着板の斜視図
【図6】実施例2の第2の防着板の透視斜視図
【図7】実施例2の第1、第2の防着板の断面図
【図8】従来の真空蒸着装置の構成を示した概略正面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
(実施例1)
まず、本実施例の真空蒸着装置1の全体の構成とその動作について図1を用いて説明する。図1は真空蒸着装置1の構成を示した概略正面図である。
【0033】
真空槽2は真空蒸着装置1の本体部であり、この真空槽2は図示しない真空ポンプにより真空排気され、内部が真空状態となっている。
【0034】
この真空槽2内でターゲットの基材となる誘電体フィルム3への蒸着が行われる。本実施例では誘電体フィルムとして幅650mm、厚さ3μmのポリプロピレンフィルムを用いている。ただし、ターゲットとなる誘電体フィルム3はこの態様に限られることなく、他の幅、厚さ、材質のものを用いてもよい。
【0035】
この誘電体フィルム3は原反ロール4を所定の方向(図1の矢印の向き)に回転させることで巻き出される。巻き出された誘電体フィルム3は所定の速度で連続搬送され、回転ローラ5にてその進行方向を変えてメインキャン6へと到達する。
【0036】
メインキャン6は内部に不凍液を添加した−15℃〜0℃の冷媒を循環させており、メインキャン6に到達した誘電体フィルム3は冷却されながらメインキャン6の表面に沿って矢印方向に搬送される。
【0037】
そして、まず誘電体フィルム3はパターンロール7に到達し、ここでは誘電体フィルム3の所定の部分にオイルが転写される。
【0038】
メインキャン6の下方には蒸着室8が配設されている。ここで、金属蒸着材料の誘電体フィルム3への蒸着が行われる。本実施例では金属蒸着材料としてアルミニウムとマグネシウムが99.5:0.5〜55:45wt%の比率で配合された合金にて形成された線材9を用いている。線材9は線材供給ロール10を回転させることで蒸着室8内に供給され、蒸着室8内に設けられた蒸発源であるボート11により加熱される。ここで、本実施例においてボート11の温度は1200℃前後に設定している。アルミニウムとマグネシウムの真空蒸着装置1内における蒸発温度は夫々900℃、350℃程度であるので、蒸着時のボート11は線材9を十分に溶融させることができる。
【0039】
そして、線材9が溶融、気化することでアルミニウムとマグネシウムの夫々の蒸気が入り混じった金属蒸気が誘電体フィルム3方向へ上昇し、誘電体フィルム3の表面に合金の状態にて付着する。ただし、上述したパターンロール7にてオイルが転写された箇所には蒸着が行われない。この非蒸着部は、蒸着終了後の誘電体フィルム3において絶縁マージン部や分割電極どうしの間のスリット部となる。
【0040】
なお、蒸着室8内部の構成については後に詳しく説明する。
【0041】
蒸着室8にて蒸着が行われた誘電体フィルム3はさらに亜鉛蒸着部12にて亜鉛が蒸着される。この亜鉛蒸着部12には蒸着室8と同様にボート(図示せず)が設けられており、このボートにて亜鉛の固体を溶融、気化させることで亜鉛の金属蒸気を発生させている。そして、誘電体フィルム3の表面に形成されたアルミニウムとマグネシウムの合金からなる膜の一部にさらに亜鉛の膜を形成する。この亜鉛からなる膜はアルミニウムとマグネ
シウムの合金からなる膜よりも厚みを厚く形成することで抵抗値を低くしたものであり、この低抵抗部は金属化フィルムコンデンサとして誘電体フィルム3を巻回した際にメタリコン電極と接続するようにしている。
【0042】
なお、これらアルミニウムとマグネシウムの蒸着や、亜鉛の蒸着は、誘電体フィルム3がメインキャン6にて冷却されながら行われているため、各金属蒸気は瞬時に誘電体フィルム3上で固化し、付着する。
【0043】
また、蒸着室8および亜鉛蒸着部12とメインキャンの間には蒸着のタイミングを制御するためのシャッター(図示せず)が設けられている。
【0044】
そして、蒸着が行われた誘電体フィルム3は回転ローラ13にて搬送方向を変え、最後に巻き取りロール14を矢印方向に回転させることで巻き取られ金属化フィルムが完成する。
【0045】
なお、図1に示されるように真空槽1内には金属蒸気と反応しない金属にて形成された仕切り板15が設けられている。本実施例では仕切り板15を形成する金属としてStainless Used Steel(以下、SUSと表記)を用いている。この仕切り板15は蒸着室8や亜鉛蒸着部12で発生させた金属蒸気が目的方向以外に飛散し、例えば完成体である金属化フィルムや真空槽2の内壁に付着してしまうことを防ぐものである。
【0046】
次に、蒸着室8内の構成について図2を用いて説明する。図2は蒸着室8内の構成を示す概略正面図である。
【0047】
まず、蒸着室8は、蒸着室の底面をなす底板8aと、蒸着室8の側壁をなす2枚の第1の防着板16にて形成され、上部が開放している。ただし、実際には上述したようにこの蒸着室8の上部にはシャッター(図示せず)が備えられ、蒸着のタイミングを制御している。なお、この蒸着室8は図2の奥行き方向に延在した形状となっている。
【0048】
第1の防着板16は、金属蒸気が目的方向である蒸着室8上部の誘電体フィルム3の蒸着面以外の方向、すなわち真空槽2の内壁や真空槽2内の器具へ飛散し、付着することを防止するものであり、金属蒸気と反応しないSUSを用いて形成している。SUS以外にも耐熱性やコストの観点からニッケルや銅、鉄等の金属またはこれらの合金を用いてもよい。
【0049】
この第1の防着板16には冷却機構が設けられており、第1の防着板16の熱を吸収することで冷却している。本実施例では冷却機構として、第1の防着板16内に液冷用配管(図示せず)を設け、この液冷用配管に20℃前後の水を循環させている。この冷却機構を設けたことによる効果は背景技術の項で説明したものと同様であり、金属蒸着材料の再蒸発や第1の防着板16の長寿命化の低減が挙げられる。
【0050】
この2枚の第1の防着板16のうち、一方の第1の防着板16には孔(図示せず)が穿設されており、この孔を貫通した状態でフィーダ管17が挿着されている。本実施例においてはフィーダ管17をSUSにて形成している。線材供給ロール10から巻き出された線材9はこのフィーダ管17を通って蒸着室8内に供給される。
【0051】
蒸着室8内に供給された線材9はボート11にて加熱、溶融する。ボート11は2枚の第1の防着板16に夫々固定された2つの電極18と電気的に接続されており、これら電極18に通電することで絶縁体からなるボート11が発熱し、線材9を加熱する構成となっている。なお、実際に蒸着を行う際にはボート11にて加熱された線材9が溶融し、液状となってボート11上に溜まり、さらに熱せられ気化することで金属蒸気が発生している。
【0052】
なお、図2では蒸着室8の構成を簡便に示すため、一本の線材9が蒸着室8内に供給されている状態を図示したが、実際には上述したように蒸着室8は図2の奥行き方向に延在した形状となっており、複数の線材9が同時に蒸着室8内に供給される態様となっている。また、ボート11も供給される線材9の数に応じて複数設けられている。かかる構成により、本実施例の真空蒸着装置1では広幅の誘電体フィルム3に対して蒸着を行うことが可能なものとなっている。
【0053】
このような構成の蒸着室8において、例えばアルミニウム等の単体の金属にて構成された線材を供給した場合、第1の防着板16が冷却機構を備えているため、第1の防着板16の表面に付着した金属蒸着材料の再蒸発を防ぐことができ、また第1の防着板16の表面に形成される金属層が第1の防着板16から剥離することもなかった。しかしながら、本実施例のごとく物性が異なる複数の金属からなる合金にて形成された線材9を金属蒸着材料として用いた場合、第1の防着板16の表面に形成される金属層内に各金属の含有濃度が異なる部位が生じ、このため金属層を第1の防着板16から剥離させる方向へ応力が発生してしまうことがあった。
【0054】
そこで、本実施例では図2に示されるように第2の防着板19をさらに備えた構成としている。
【0055】
この第2の防着板19の構成について図3、図4を用いて詳しく説明する。ここで、図3は第2の防着板19の透視斜視図であり、図4は第2の防着板19を第1の防着板16に装着させた状態の断面図である。
【0056】
図3に示されるように、第2の防着板19は一枚のSUS板を適宜折り曲げることによって形成され、防着面20、折り曲げ端21、折り返し片22の3つの部位によって構成される。なお、本実施例では第2の防着板19の材料としてSUSを用いて形成したが、これ以外にもニッケルや銅、鉄等の金属を用いてもよい。特に、本実施例で用いたSUS以外の金属であれば、上記で挙げた金属のうち、鉄を用いて第2の防着板19を形成することが望ましい。これは、鉄は線膨張係数が低く、ボート11からの輻射熱による変形の可能性が低いためである。チタンも鉄と同様に線膨張係数が低い金属であるが、チタンは比較的熱伝導性が低い金属であり、ボート11からの熱による第2の防着板19の加熱が困難となるため適さない。すなわち、鉄は輻射熱による変形防止とボート11による加熱のいずれにおいても優れており、第2の防着板19を形成する材料として適している。また、コスト面に関しても鉄は優れている。このように、線膨張率および熱伝導率の観点からすると、線膨張率が20.0(×10-6/K)以下かつ熱伝導率が15.0W/(m・K)以上である金属を第2の防着板19の材料として用いることが望ましい。
【0057】
具体的な形成方法としては、矩形状のSUS板の短辺側を所定の折り曲げ位置にて折り曲げて折り曲げ端21を形成する。この時点で、折り曲げられたSUS板の断面は略L字状となっている。さらにこの折り曲げ端21の防着面20とは逆側の一端をさらに折返し、折り返し片22を形成する。これらの作業によって図3で示されるような第2の防着板19を形成している。
【0058】
この第2の防着板19の内側には補強柱23が所定の間隔で複数付設されている。これら補強柱23は防着面20と折り返し片22の内面側に設けられており、防着面20、折り返し片22に設けられた夫々の補強柱23どうしが一対で対向するように配置されている。補強柱23は防着面20、折り返し片22の下端から上端にかけて設けられ、防着面20、折り返し片22がボート11から受ける輻射熱により反り返り、変形してしまうことを防止している。なお、この補強柱23は第2の防着板19と同種の金属(本実施例ではSUS)にて形成された柱状体を溶接することで配設している。
【0059】
また、折り返し片22には、ボルト孔24が所定の間隔ごとに複数穿設されている。本実施例ではこのボルト孔24を用いて第2の防着板19を第1の防着板16に固定している。第2の防着板19を第1の防着板16に固定した状態を図4に示す。
【0060】
図4に示されるように、ボルト孔24にボルト25を貫挿し第1の防着板16に設けられた固定穴26に固定することで、第2の防着板19は第1の防着板16に掛止された状
態となっている。このとき、防着面20は第1の防着板16よりもボート11側に位置することになる。
【0061】
ここで、第2の防着板19と第1の防着板16の間には断熱材27が介在した状態となっている。本実施例ではこの断熱材27としてシリカを用いているが、これ以外にもシリカを主成分とし、アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を混合させた部材を用いてもよい。この断熱材27は、ボルト25にて第2の防着板19を第1の防着板16に固定した際の圧力により第2の防着板19と第1の防着板16の間に圧着固定されている。なお、上述した補強柱23は図4の状態においては断熱材27に食い込んだ状態となっている。
【0062】
このように第2の防着板19は第1の防着板16にボルト25にて固定され、その脱着はボルト25により容易に行うことが可能である。
【0063】
以上、説明した脱着自在の第2の防着板19を備えることにより本実施例の真空蒸着装置1が奏する効果について述べる。
【0064】
本実施例の真空蒸着装置1は、物性が異なる2種類以上の金属蒸着材料からなる線材9を蒸着させる場合であっても、第2の防着板19の防着面20から金属層が剥離する可能性が低く、信頼性の高いものとなっている。
【0065】
これは第2の防着板19が第1の防着板16とは別体で設けられており、実際に蒸着を行う際には第2の防着板19は第1の防着板16に設けられた冷却機構の影響を受けにくいためである。
【0066】
すなわち、蒸着時には、第2の防着板19は冷却機構の影響を受けにくく、また第2の防着板19の防着面20は第1の防着板16よりもボート11側に位置するため、第2の防着板19はボート11からの輻射熱にて十分に熱を帯びた状態となっている。
【0067】
したがって、ボート11の加熱により発生する金属蒸気は防着面20上では固化しにくく、防着面20上に金属層が形成される可能性は低いものとなっている。特に、アルミニウムに比べマグネシウムは蒸発温度が低いため、より固化しにくい。
【0068】
あるいは、防着面20上に金属層が形成されたとしても、上述のようにマグネシウムは比較的蒸発しやすいので、金属層内のマグネシウムの含有濃度は小さく、金属層内の各金属の含有濃度はどの部位においても同等の状態となっている。
【0069】
これらより本発明の真空蒸着装置1では防着面20から金属層が剥離する可能性は低く、信頼性の高いものとなっている。
【0070】
なお、より剥離の可能性を低減させるためには予め蒸着前にボート11を加熱し、第2の防着板19の防着面20を金属蒸着材料の蒸発温度以上の温度に加熱しておくとよい。本実施例においては少なくともマグネシウムの蒸発温度である350℃以上に予め加熱するとよい。
【0071】
また、金属蒸着材料が単体の金属にて形成されたものであるならば、この第2の防着板19を第1の防着板16から取り外し、従来通り第1の防着板16を冷却させながら蒸着を行うとよい。
【0072】
このように、本実施例の真空蒸着装置1では第2の防着板19が容易に脱着できるため、様々な金属蒸着材料の蒸着に対応することが可能である。
【0073】
なお、第2の防着板19は第1の防着板16に断熱材27を介して掛止されていることが望ましい。
【0074】
このように断熱材27を介して掛止されていることにより、第1の防着板16に配設された冷却機構の冷却効果はより第2の防着板19に伝わりにくくなる。したがって、第2の防着板19はボート11からの輻射熱にてより効率的に加熱することが可能となり、金属層の剥離が発生する可能性をさらに低減することができる。
【0075】
また、第2の防着板19を略L字状とし、この折り曲げ端21を第1の防着板16の上端に引っ掛けることによって第2の防着板19を第1の防着板16に掛止させることができる。
【0076】
このように、折り曲げ端21を第1の防着板16の上端に引っ掛けることによって第2の防着板19は第1の防着板16に容易に取り付けることが可能であるが、特に本実施例では、上述したように折り返し片22にボルト25を貫挿して第2の防着板19を第1の防着板16により強固に固定している。したがって本実施例では、第2の防着板19は第1の防着板16に強固に固定されているため、蒸着中に第2の防着板19が第1の防着板16から外れることはなく信頼性の高いものとなっている。
【0077】
なお、固定の方法として上述した折り返し片22にボルト25を貫挿する以外の方法では、例えば折り返し片22を設けることなく折り曲げ端21にボルト25を貫挿させ、さらに第1の防着板16の上端面に固定用の穴を設けることで、第1の防着板16の上端面と折り曲げ端21を固定する方法等が挙げられる。
【0078】
以上、説明したように本実施例の真空蒸着装置1は剥離が発生する可能性が低く、信頼性の高いものとなっている。
【0079】
実際にアルミニウムとマグネシウムの合金にて形成された線材を用いて検証を行った結果、第2の防着板19を装着させずに蒸着させた場合は金属層の剥離が生じたことに対し、第2の防着板19を装着して蒸着させた場合は50000mの誘電体フィルムに対して連続蒸着を行ったとしても金属層の剥離は生じないことを確認した。そしてこの結果、膜質が均一な金属化フィルムを作製することができた。
【0080】
(実施例2)
本実施例の真空蒸着装置は、実施例1の真空蒸着装置1で用いた第2の防着板19の構成が異なる。この他の点に関しては実施例1と同様の構成であるのでその説明を省略する。なお、本実施例では実施例1の第2の防着板19と区別するため、「第2の防着板28」と記載する。
【0081】
第2の防着板28の構成について、図5、図6、図7を用いて詳しく説明する。ここで、図5は第2の防着板28を第1の防着板16に装着させた状態の斜視図、図6は第2の防着板28の透視斜視図、図7は第2の防着板28を第1の防着板16に装着させた状態の断面図である。
【0082】
実施例1において、第2の防着板19が第1の防着板16の一方の端部から他方の端部にかけて装着されたことに対し、第2の防着板28は図5に示されるように、いわば実施例1の第2の防着板19を個片化したような構成となっており、フィーダ管17を蒸着室8の外部から内部へと通すために第1の防着板16に設けられた貫通孔29どうしの間に配設されている。また、第1の防着板16に第2の防着板28を装着した状態において、第2の防着板28の下端部は貫通孔29の上端部よりも下方に位置する。すなわち、第2の防着板28の下端部は、実施例1の第2の防着板19の下端部よりも下方に位置することになる。すなわち、本実施例の第2の防着板28は実施例1の第2の防着板19よりも第1の防着板16を覆う面積が大きく、より効果的に金属層の剥離を防止することができる。
【0083】
図6に示されるように、第2の防着板28も実施例1の第2の防着板19と同様に一枚のSUS板を適宜折り曲げることによって形成され、防着面30、折り曲げ端31、折り返し片32の3つの部位によって構成される。なお、本実施例では第2の防着板28の材料としてSUSを用いて形成したが、これ以外にもニッケルや銅、鉄等の金属を用いてもよい。
【0084】
ただし、図6で示されるように、第2の防着板28の防着面30は、屈曲部33から上方が僅かに屈曲している。すなわち、この屈曲部33から上方を防着面上部34、下方を防着面下部35とすると、防着面下部35が折り返し片32と略平行となるように形成されていることに対し、防着面上部34は防着面下部35から僅かに外側(ボート11側)に屈曲した構成となっている。このように、防着面上部34を僅かに外側に屈曲した構成としたことにより、図5のように第2の防着板28を第1の防着板16に装着させ、防着面下部35と折り返し片32により第1の防着板16を挟んだ際に、防着面下部35に第1の防着板16方向へ応力が発生し、第2の防着板28を第1の防着板16に強固に固定することが可能となる。なお、この防着面上部34の防着面下部35に対する屈曲角は約5度となっている。
【0085】
また、第2の防着板28の折り返し片32にはボルト孔36が設けられている。
【0086】
図7に示されるように、このボルト孔36にボルト37を貫挿し第1の防着板16に設けられた固定穴26に固定することによって、さらに強固に第2の防着板28は第1の防着板16に固定される。ただし、上述したように第2の防着板28は防着面下部35と折り返し片32にて第1の防着板16を挟むことだけでも第1の防着板16に強固に固定され得るものであるので、ボルト孔36およびボルト37による固定は必ずしも必要としない。
【0087】
また、第2の防着板28と第1の防着板16の間には断熱材27が介在している。断熱材27は第2の防着板28を固定した際の圧力により第2の防着板28と第1の防着板16の間に圧着固定されており、断熱材27の形状は、第2の防着板28との接触箇所の形状に沿って変形している。このため、断熱材27は第2の防着板28に密着した状態となっている。なお、この断熱材27は実施例1と同様にシリカを用いている。
【0088】
以上、説明した第2の防着板28を備えることにより本実施例の真空蒸着装置が奏する効果について述べる。
【0089】
まず、本実施例の第2の防着板28によると、実施例1の第2の防着板19と同様に、物性が異なる2種類以上の金属蒸着材料からなる線材9を蒸着させる場合であっても、第2の防着板19の防着面20から金属層が剥離する可能性が低く、信頼性の高いものとなっている。この原理は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0090】
さらに、第2の防着板28はいわば第2の防着板19を個片化した態様となっているため、第2の防着板19と比較してボート11からの輻射熱によって反り返り、変形してしまう可能性が低減されている。このため、第2の防着板19では反り返りの対策として補強柱23を設けていたが、第2の防着板28ではこの補強柱23を必要とせず、コスト面においても優れている。
【0091】
また、第2の防着板28では、防着面上部34を防着面下部35から僅かに外側に屈曲した構成としているため、防着面下部35と折り返し片32にて第1の防着板16を挟みこむことにより、第1の防着板16に強固に固定することが可能となっている。この構成により、ボルト37を用いずとも第1の防着板16に固定できる。このように第1の防着板16にボルト37を用いずに第1の防着板16に固定させる態様によると、脱着がさらに容易となる。
【0092】
以上、説明したように本実施例の第2の防着板28を用いた真空蒸着装置は剥離が発生する可能性が低く、信頼性の高いものとなっている。
【0093】
なお、実施例1と同様に、実際にアルミニウムとマグネシウムの合金にて形成された線材を用いて検証を行った結果、第2の防着板28を装着させずに蒸着させた場合は金属層の剥離が生じたことに対し、第2の防着板28を装着して蒸着させた場合は50000mの誘電体フィルムに対して連続蒸着を行ったとしても金属層の剥離は生じないことを確認した。そしてこの結果、膜質が均一な金属化フィルムを作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明による真空蒸着装置は、金属層の剥離が発生する可能性が低く、信頼性の高いものとなっている。したがって、本発明の真空蒸着装置は各種電子機器、電気機器、産業機器、自動車等に用いられる金属化フィルムコンデンサの金属化フィルムを製造する際に好適に採用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 真空蒸着装置
2 真空槽
3 誘電体フィルム
4 原反ロール
5 回転ローラ
6 メインキャン
7 パターンロール
8 蒸着室
8a 底板
9 線材
10 線材供給ロール
11 ボート
12 亜鉛蒸着部
13 回転ローラ
14 巻き取りロール
15 仕切り板
16 第1の防着板
17 フィーダ管
18 電極
19、28 第2の防着板
20、30 防着面
21、31 折り曲げ端
22、32 折り返し片
23 補強柱
24、36 ボルト孔
25、37 ボルト
26 固定穴
27 断熱材
29 貫通孔
33 屈曲部
34 防着面上部
35 防着面下部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を所定の速度で搬送しながら、この基材の表面に金属微粒子を蒸着させる真空蒸着装置であり、
前記基材の下方に配設され、金属材料を加熱して金属蒸気を発生させる蒸発源と、
冷却機構を有し、前記蒸発源からの金属蒸気の前記基材方向以外への飛散を防止する第1の防着板と、
前記第1の防着板よりも前記蒸発源側に防着面を有し、前記蒸発源からの金属蒸気の前記基材方向以外への飛散を防止するとともに脱着自在に配設された第2の防着板と、
前記蒸発源、前記第1の防着板、および前記第2の防着板を内部に収容した真空槽を備えた真空蒸着装置。
【請求項2】
基材を所定の速度で搬送しながら、この基材の表面に金属微粒子を蒸着させる真空蒸着装置であり、
前記基材の下方に配設され、所定の位置に設けられた複数のフィード管から供給された金属材料を加熱して金属蒸気を発生させる蒸発源と、
冷却機構を有し、前記蒸発源からの金属蒸気の前記基材方向以外への飛散を防止する第1の防着板と、
前記第1の防着板よりも前記蒸発源側に防着面を有し、前記蒸発源からの金属蒸気の前記基材方向以外への飛散を防止するとともに前記複数のフィード管どうしの間に脱着自在に配設された複数の第2の防着板と、
前記蒸発源、前記第1の防着板、および前記複数の第2の防着板を内部に収容した真空槽を備えた真空蒸着装置。
【請求項3】
前記第2の防着板は、前記第1の防着板に断熱材を介して掛止された請求項1または2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記第2の防着板は、金属板を折り曲げることで形成されるとともに断面が略L字状を呈し、
前記第2の防着板を前記第1の防着板上部に断熱材を介して掛止した請求項1または2に記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記第2の防着板は金属板を折り曲げることで形成された折り曲げ端をさらに折り返すことで形成された折り返し片を有し、
前記折り返し片にボルトを貫挿し、前記折り返し片を前記第1の防着板上部と断熱材を介した状態で固定することで、前記第2の防着板を前記第1の防着板に掛止した請求項4に記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記第2の防着板は、ステンレス、銅、ニッケル、コバルト、鉄、チタンのいずれか、またはこれらの金属のうちの複数の金属の合金からなる請求項1または2に記載の真空蒸着装置。
【請求項7】
前記第2の防着板は、前記防着面上部が前記蒸発源側に屈曲した請求項2に記載の真空蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−77375(P2012−77375A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41350(P2011−41350)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】