説明

研磨パッドおよびその製造方法

【課題】研磨面を介して内部に研磨粒子が進入不能でも研磨傷の発生を抑制し研磨レートを向上させることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド10は、ポリウレタン樹脂で形成されたウレタンシート2を備えている。ウレタンシート2は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有している。ウレタンシート2では、研磨面Pに砥粒が通過可能な開孔が形成されておらず、研磨面Pを介してウレタンシート2の内部に、砥粒が進入不能に形成されている。ウレタンシート2では、反発弾性率が2〜30%の範囲に設定されている。研磨加工時に、研磨液中の砥粒によりウレタンシート2の研磨面Pが変形してもその変形回復力が小さくなり、砥粒を保持しやすくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドおよびその製造方法に係り、特に、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有するポリウレタン樹脂シートを備えた研磨パッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造や液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料(被研磨物)の表面(加工面)では、平坦性が求められるため、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。半導体デバイスでは、半導体回路の集積度が急激に増大するにつれて高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進み、加工面を一層高度に平坦化する技術が重要となっている。一方、液晶ディスプレイ用ガラス基板では、液晶ディスプレイの大型化に伴い、加工面のより高度な平坦性が要求されている。
【0003】
加工面に要求される平坦性の高度化に伴い、研磨加工における研磨精度や研磨効率等の研磨特性、換言すれば、研磨パッドに要求される性能も高まっている。一般に、研磨加工に用いられる研磨パッドでは、加工面を研磨加工するための研磨面を有するポリウレタン樹脂シートを備えている。研磨加工時に供給される砥粒を含む研磨液(スラリ)を保持しつつ、研磨面と加工面との間に研磨液を略均等に放出するため、ポリウレタン樹脂シートが発泡構造を有しており、研削処理等により研磨面に開孔が形成されている。
【0004】
発泡構造を形成するために、例えば、樹脂製の外殻を有する中空球状微粒子を混合する技術(特許文献1〜特許文献5参照)、水を添加する技術(特許文献6参照)、不活性気体を混合する技術(特許文献7参照)、水溶性微粒子を混合する技術(特許文献8参照)が開示されている。ところが、研磨面に開孔が形成されていると、研磨加工時に供給される研磨液中の砥粒や研磨加工に伴う研磨屑によって開孔が目詰まりすることがある。これを避けるには研磨加工中にドレス処理を施す必要があるが、この場合には却って研磨効率を低下させることとなる。
【0005】
このような欠点を解消するために、開孔を形成しない、すなわち、発泡構造を有していない研磨パッドの技術が開示されている。例えば、160℃以上の融点を有するか、または、荷重4.6kg/cmにおける熱変形温度が150℃以上であって、ヤング率が0.5GPa未満であり、研磨面に複数本の溝を有する無気孔構造の高分子シートからなる研磨パッドの技術が開示されている(特許文献9参照)。また、熱硬化性樹脂からなり、荷重1.82MPaにおける熱変形温度が100℃以上であり、弾性率が1.5GPa以上であり、吸水率が0.2%未満である研磨パッドの技術が開示されている(特許文献10参照)。更に、合成樹脂製で無気孔構造の研磨パッドであって、シート状のパッド本体のショアD硬度が66.0〜78.5度、圧縮率が4%以下、圧縮回復率が50%以上の研磨パッドの技術が開示されている(特許文献11参照)。
【0006】
【特許文献1】特許3013105号公報
【特許文献2】特許3425894号公報
【特許文献3】特許3801998号公報
【特許文献4】特開2006−186394号公報
【特許文献5】特開2007−184638号公報
【特許文献6】特開2005−68168号公報
【特許文献7】特許3455208号公報
【特許文献8】特開2000−34416号公報
【特許文献9】特開平11−48128号公報
【特許文献10】特開2003−163190号公報
【特許文献11】特開2006−110665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献9、特許文献10、特許文献11の技術では、研磨パッドの弾性特性をヤング率や弾性率、圧縮率、圧縮回復率といった静的な応力と歪みとの比のみで定めるため、加工面に対する研磨傷(スクラッチ)の抑制と満足できる研磨レートとを同時に達成することが難しい、という問題がある。また、これらの技術では、いずれも、研磨加工時における研磨液の供給を均等化すると共に、研磨加工に伴う研磨屑の排出を促進することで研磨レートの向上を図るために、研磨面に溝が形成されているが、研磨面における溝の割合が大きくなると、却って研磨傷の遠因になることもある。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、研磨面を介して内部に研磨粒子が進入不能でも研磨傷の発生を抑制し研磨レートを向上させることができる研磨パッドおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有するポリウレタン樹脂シートを備えた研磨パッドにおいて、前記ポリウレタン樹脂シートは、前記研磨面を介してその内部に研磨粒子が進入不能であり、該ポリウレタン樹脂シートを一定の厚さまで重ねた上面に一定の初期高さから所定質量および所定直径を有する鋼球を落下させたときに、該鋼球が跳ね返った高さの前記初期高さに対する百分率で定義される反発弾性率が2%〜30%の範囲であることを特徴とする。
【0010】
第1の態様では、ポリウレタン樹脂シートの反発弾性率を2%〜30%の範囲とすることで、研磨加工時に研磨面が研磨粒子で変形したときの変形回復力が小さくなり、研磨面と被研磨物との相対移動により研磨粒子が研磨面に沿うように保持しやすくなるので、研磨粒子が研磨面を介してその内部に進入不能でも研磨傷の発生を抑制し研磨レートを向上させることができる。
【0011】
第1の態様において、ポリウレタン樹脂シートのショアA硬度を5度〜50度の範囲とすることができる。ポリウレタン樹脂シートにアセチルセルロースまたはアクリル樹脂が含有されていれば、反発弾性率を調整することができる。また、ポリウレタン樹脂シートの研磨面側に溝加工またはエンボス加工が施されていることが好ましい。ポリウレタン樹脂シートの厚さを0.1mm〜8.0mmの範囲とすることができる。ポリウレタン樹脂シートの研磨面と反対の面側に基材が更に貼り合わされていてもよい。
【0012】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様の研磨パッドの製造方法であって、イソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物と、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂と、前記イソシアネート基含有化合物が前記ポリオール化合物で鎖伸長されたポリウレタン樹脂および前記アセチルセルロースまたはアクリル樹脂を溶解可能な有機溶媒と、を略均一に混合した混合液を調製する調製ステップと、前記調製ステップで調製された混合液をシート状に展延し、前記混合液から前記有機溶媒を脱溶媒させて前記ポリウレタン樹脂シートを形成する形成ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリウレタン樹脂シートの反発弾性率を2%〜30%の範囲とすることで、研磨加工時に研磨面が研磨粒子で変形したときの変形回復力が小さくなり、研磨面と被研磨物との相対移動により研磨粒子が研磨面に沿うように保持しやすくなるので、研磨粒子が研磨面を介してその内部に進入不能でも研磨傷の発生を抑制し研磨レートを向上させることができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0015】
(研磨パッド)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド10は、ポリウレタン樹脂で形成されたポリウレタン樹脂シートとしてのウレタンシート2を備えている。ウレタンシート2は、一面側に被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有している。
【0016】
ウレタンシート2では、研磨面Pを介してウレタンシート2の内部に、研磨加工時に供給される研磨液(スラリ)に含まれる砥粒(研磨粒子)が進入不能に形成されている。すなわち、研磨面Pには砥粒が通過可能な開孔が形成されておらず、ウレタンシート2はいわゆる発泡構造を有していない。ウレタンシート2の製造時には、砥粒の粒径より小さい微小な気孔が形成されることもあるが、全体として、ウレタンシート2は無気孔(無発泡)構造を有している。
【0017】
ウレタンシート2を形成するポリウレタン樹脂では、イソシアネート基含有化合物が鎖伸長剤のポリオール化合物で鎖伸長されている。また、ウレタンシート2には、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂が配合されている。すなわち、ウレタンシート2は、ポリウレタン樹脂と、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂とが混合され形成されており、いわゆるポリマーアロイとして形成されている。このようなウレタンシート2では、ウレタンシート2を一定の厚さまで重ねた上面に一定の初期高さから所定質量および所定直径を有する鋼球を落下させたときに、その鋼球が跳ね返った高さの初期高さに対する百分率で定義される反発弾性率が2〜30%の範囲に設定されている。また、ウレタンシート2のショアA硬度は、5〜50度の範囲に設定されている。
【0018】
研磨面P側には、研磨加工に伴い生成する研磨屑を排出するための溝3が形成されている。溝3は、研磨面P側に格子状に形成されており、断面が矩形状に形成されている。また、ウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側には、ウレタンシート2の厚さを均一化するために表面研削処理が施されている。
【0019】
また、研磨パッド10は、ウレタンシート2の研磨面Pと反対の面側に、研磨機に装着するための両面テープ7が貼り合わされている。両面テープ7は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の基材7aを有している。基材7aの両面には、アクリル系粘着剤等の粘着剤がそれぞれ塗着され粘着剤層(不図示)が形成されている。両面テープ7は、一面側の粘着剤層でウレタンシート2と貼り合わされており、他面側の粘着剤層が剥離紙7bで覆われている。両面テープ7の基材7aは、研磨パッド10全体の基材も兼ねている。
(研磨パッドの製造)
【0020】
研磨パッド10は、図2に示す各工程を経て製造される。すなわち、イソシアネート基含有化合物をポリオール化合物で鎖伸長したポリウレタン樹脂と、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂とをそれぞれ準備する準備工程(調製ステップの一部)、ポリウレタン樹脂と、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂と、有機溶媒とを略均等、略均一に混合した混合液を調製する混合工程(調製ステップの一部)、混合液を略平坦な表面を有するシート基材上に塗布(展延)する塗布工程(形成ステップの一部)、塗布された混合液を加熱し有機溶媒を脱溶媒させてポリウレタン成形体を形成する脱溶媒工程(形成ステップの一部)、ポリウレタン成形体の厚さが一様となるように一面側を研削処理し、他面側に溝加工を施す溝加工工程、得られたウレタンシート2と両面テープ7とを貼り合わせるラミネート工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0021】
(準備工程)
準備工程では、イソシアネート基含有化合物をポリオール化合物で鎖伸長したポリウレタン樹脂と、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂とをそれぞれ準備する。イソシアネート基含有化合物としては、分子内に2つ以上の水酸基を有するポリオール化合物と、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物とを反応させることで生成したイソシアネート末端ウレタンプレポリマ(以下、単に、プレポリマと略記する。)が用いられている。このポリオール化合物と、ジイソシアネート化合物とを反応させるときに、イソシアネート基のモル量を水酸基のモル量より大きくすることで、プレポリマを得ることができる。
【0022】
プレポリマの生成に用いられるジイソシアネート化合物としては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレン−1,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン−1,4−ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。また、これらのジイソシアネート化合物の2種以上を併用してもよい。
【0023】
一方、プレポリマの生成に用いられるポリオール化合物としては、ジオール化合物、トリオール化合物等の化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール等の低分子量のポリオール化合物、および、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等の高分子量のポリオール化合物のいずれも使用することができる。また、これらのポリオール化合物の2種以上を併用してもよい。
【0024】
得られたプレポリマを更にポリオール化合物で鎖伸長してポリウレタン樹脂を調製する。このポリオール化合物としては、プレポリマの生成に用いられるものと同様のポリオール化合物を用いることができる。また、ポリウレタン樹脂の分子量(重合度)を調整することで、ポリウレタン樹脂の粘度を所望の範囲に調整することができる。ポリオール化合物に代えてポリアミン化合物を用いた場合は、プレポリマとの反応で形成されるポリウレタン樹脂中にウレア結合が形成される。このウレア結合がウレタン結合と比べて水素結合を形成しやすいため、得られるポリウレタン樹脂の硬度が上昇する。これに対して、ポリオール化合物を用いた場合は、ウレア結合が形成されず、ウレタン結合のみとなるため、水素結合が減少してポリウレタン樹脂の硬度を低下させる。従って、水素結合が減少する分で、得られるポリウレタン成形体、ひいては、ウレタンシート2を軟質化することができる。
【0025】
また、準備するアセチルセルロースまたはアクリル樹脂としては、特に制限されるものではない。アセチルセルロースとしては、セルロースの水酸基をアセチル化したものであればよく、モノアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロースのいずれのものを用いてもよい。また、アクリル樹脂としては、ポリアクリル酸やポリアクリル酸エステルであればよく、これらの誘導体であるポリメタクリル酸やポリメタクリル酸エステルを用いてもよい。アセチルセルロース、アクリル樹脂の分子量は、ポリウレタン樹脂と混合することを考慮すれば、ポリウレタン樹脂と同程度の粘度となるように調整することが望ましい。
【0026】
(混合工程)
混合工程では、準備工程で準備したポリウレタン樹脂、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂とアセチルセルロースまたはアクリル樹脂とを溶解可能な有機溶媒を混合して混合液を調製する。有機溶媒には、本例では、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)が用いられている。混合液の調製には、一般的な攪拌装置を用いることができ、ポリウレタン樹脂とアセチルセルロースまたはアクリル樹脂とを略均等、略均一に混合できるものであればよい。このとき、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂の配合割合は、得られるウレタンシート2の反発弾性率およびショアA硬度を上述した範囲とするため、ポリウレタン樹脂の100重量部に対して、5〜40重量部の範囲に設定される。アセチルセルロースまたはアクリル樹脂の配合割合が5重量部より小さいとウレタンシート2の反発弾性率が大きくなりすぎ、反対に40重量部より大きいとショアA硬度が大きくなりすぎる。
【0027】
(塗布工程)
塗布工程では、混合液を表面が略平坦な帯状のシート基材に連続的に塗布する。混合工程で調製した混合液は、常温下で塗布装置によりシート基材に略均一に塗布される。塗布装置として、本例では、ナイフコータが用いられる。このとき、ナイフコータとシート基材との間隙(クリアランス)を調整することで、混合液の塗布厚さ(塗布量)がおよそ1.3〜2.5mmの範囲となるように調整される。シート基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。不織布、織布を用いる場合は、混合液の塗布時にシート基材内部への混合液の浸透を抑制するため、予め水またはDMF水溶液(DMFと水との混合液)等に浸漬する前処理(目止め)が行われる。シート基材としてPET製等の可撓性フィルムを用いる場合は、液体の浸透性を有していないため、前処理が不要となる。以下、本例では、シート基材をPET製フィルムとして説明する。
【0028】
(脱溶媒工程)
脱溶媒工程では、混合液が塗布されたシート基材を熱風乾燥機中を通過させることで、溶媒のDMFを除去する。DMFが混合液から脱溶媒することにより、シート状のポリウレタン成形体が形成される。得られたポリウレタン成形体では、ポリウレタン樹脂とアセチルセルロースまたはアクリル樹脂とが略均等かつ略均一に混合されポリマーアロイが形成されている。
【0029】
(溝加工工程)
溝加工工程では、ポリウレタン成形体をシート基材から剥離し、ポリウレタン成形体の一面側に研削処理を施し、他面側に溝加工を施す。この研削処理では、ポリウレタン成形体の裏面(シート基材と接触した面)側にスライス処理やバフ処理等が施される。バフ処理の場合は、ポリウレタン成形体の表面(シート基材と接触しない面)側に、表面が平坦な圧接ローラの表面を圧接しながら、ポリウレタン成形体の裏面側がバフ処理される。本例では、連続的に製造されたポリウレタン成形体が帯状のため、表面に圧接ローラを圧接しながら、連続的に裏面をバフ処理する。このバフ処理により、ポリウレタン成形体は厚さのバラツキが解消される。バフ処理には一般的なバフ機を使用することができる。
【0030】
溝加工では、ポリウレタン成形体の表面側に、スラリの供給や研磨屑の排出を促進するための溝3が形成される。溝3は、本例では、研磨面P側からみて格子状に形成され、断面形状が矩形状に形成されている。溝3の形成では、機械的な研削やレーザ照射等の手法を用いることができる。溝加工が施されたポリウレタン成形体の表面が研磨面Pとなる。研削処理、溝加工が施されたウレタンシート2はロール状に巻き取られる。
【0031】
(ラミネート工程)
ラミネート工程では、溝加工工程で得られたウレタンシート2と両面テープ7とが貼り合わされる。このとき、両面テープ7の一面側の粘着剤層がウレタンシート2の研磨面Pと反対側の面と貼り合わされる。円形等の所望の形状、サイズに裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い研磨パッド10を完成させる。
【0032】
被研磨物の研磨加工を行うときは、研磨機の研磨定盤に研磨パッド10を装着する。研磨定盤に研磨パッド10を装着するときは、剥離紙7bを取り除き、露出した粘着剤層で研磨定盤に貼着する。研磨定盤と対向するように配置された保持定盤に保持させた被研磨物を研磨面P側へ押圧すると共に、外部からスラリを供給しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物(の加工面)が研磨加工される。なお、通常、研磨液の媒体としては水が使用されるが、アルコール等の有機溶剤を混合することも可能である。
【0033】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
【0034】
本実施形態では、研磨パッド10を構成するウレタンシート2の反発弾性率が2〜30%の範囲に設定されている。このため、一般的なポリウレタン発泡体の反発弾性率が40〜50%程度であることを考慮すれば、ウレタンシート2は低反発弾性である。低反発弾性の材料は、いわゆる弾性を抑制し粘性を向上させた材料であり、圧縮したのち、外力を取り除いたときに、ゆっくりと元に戻る性質を有している。このため、研磨パッド10を用いた研磨加工時には、供給される研磨液中の砥粒によりウレタンシート2の研磨面Pが変形してもその変形回復力が小さくなる。すなわち、変形した研磨面Pが元に戻るのが遅くなる。また、研磨加工時には、研磨定盤ないし保持定盤の回転により研磨面Pと被研磨物(の加工面)とが相対的に移動するため、研磨面Pと加工面との間に介在する砥粒には研磨面Pに沿う方向の力が作用する。変形した研磨面Pが元に戻るのが遅くなることから、砥粒は、研磨定盤および保持定盤間の押圧力による作用と比べて回転駆動(研磨機稼働)による研磨面Pに沿う方向の作用を受けやすくなる。これにより、砥粒が移動と保持とを繰り返しやすくなるので、加工面の研磨加工を行うことができる。砥粒の移動性、保持性を確保して研磨レートの向上を図ることを考慮すれば、反発弾性率を2〜20%の範囲とすることが好ましく、2〜8%の範囲とすることがより好ましい。
【0035】
また、本実施形態では、ウレタンシート2は発泡が形成されない無発泡構造を有している。このため、研磨面Pには開孔が形成されず、開孔ないし発泡を通じた研磨液の保持や研磨面Pおよび加工面間への放出が行われない。すなわち、研磨粒子は、研磨面Pを介してウレタンシート2の内部に進入不能である。このような無発泡構造のウレタンシート2では、上述した低反発弾性を有することで砥粒の保持性が確保されるので、研磨加工時の研磨レートを向上させることができる。また、研磨面Pに開孔が形成されないため、砥粒や研磨屑による目詰まりが生じることなく、長期間にわたり研磨加工を継続することができる。
【0036】
更に、本実施形態では、ウレタンシート2のショアA硬度が5〜50度の範囲に設定されている。一般的なポリウレタン発泡体のショアA硬度が50〜80度程度であることを考慮すれば、ウレタンシート2は低硬度、すなわち、極めて軟質なポリウレタン無発泡体である。このため、ウレタンシート2では、低反発弾性を有することと合わせて低硬度であることから、研磨加工時に砥粒の保持性を確保することができる。これにより、砥粒が加工面全体にわたり移動するため、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0037】
また更に、本実施形態では、ウレタンシート2にアセチルセルロースまたはアクリル樹脂が配合されている。このため、ポリウレタン樹脂とアセチルセルロースまたはアクリル樹脂とのポリマーアロイが形成されるので、上述したようにウレタンシート2が低反発弾性を有し粘性が向上すると共に、ウレタンシート2に若干の自己崩壊性が付与される。通常、高粘性の材料では、研磨加工時の摩擦により引きちぎられかけて残された屑が研磨加工に悪影響を及ぼすことがあるが、ウレタンシート2では比較的速やかに引きちぎれてしまい、加工面から排出される。これにより、加工面に対する悪影響を抑制し、研磨性能を確保することができる。
【0038】
更にまた、本実施形態では、ウレタンシート2の研磨面Pには、溝3が形成されている。このため、研磨加工時に、研磨液の供給や研磨加工に伴い生成する研磨屑の排出が促進されるため、加工面に対する研磨傷を抑制し研磨効率を向上させることができる。
【0039】
更に、本実施形態で示した製造方法では、ポリウレタン樹脂とアセチルセルロースまたはアクリル樹脂とを混合した混合液を調製し、脱溶媒させることでウレタンシート2を形成する。このため、混合液の有機溶媒をポリウレタン樹脂等に対して貧溶媒の水と置換する湿式成膜法と比べて無気孔構造のウレタンシート2を容易に得ることができる。また、溶媒置換ではなく脱溶媒のみで形成されるため、ポリウレタン樹脂とアセチルセルロースまたはアクリル樹脂との混合状態にバラツキの生じることを抑制することができる。
【0040】
なお、本実施形態では、プレポリマとして、ポリオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させたイソシアネート末端ウレタンプレポリマを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ポリオール化合物に代えて水酸基やアミノ基等を有する活性水素化合物を用い、ジイソシアネート化合物に代えてポリイソシアネート化合物やその誘導体を用い、これらを反応させることで得るようにしてもよい。また、多種のイソシアネート末端プレポリマが市販されていることから、市販のものを使用することも可能である。
【0041】
また、本実施形態では、プレポリマをポリオール化合物で鎖伸長してポリウレタン樹脂を調製するときのポリオール化合物として種々の例を示した。本発明は、用いるポリオール化合物に制限されるものではないが、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂を混合するとウレタンシート2を硬質化する傾向があるため、得られるウレタンシート2を軟質化する(硬度を小さくする)ことを考慮すれば、ネオペンチルグリコール等の側鎖を有するポリオール化合物を用いることが好ましい。側鎖を有するポリオール化合物を用いた場合、ポリウレタン樹脂での凝集力(分子間力)が抑制され、軟質化を図ることができる。
【0042】
更に、本実施形態では、研磨パッド10の研磨面Pに格子状の溝3を形成する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、放射状、螺旋状等としてもよく、断面形状についても矩形状に限らず、U字状、V字状、半円状等としてもよい。また、溝のピッチ、幅、深さについても、研磨屑の排出やスラリの供給が可能であればよく、特に制限されるものではない。更に、溝加工に代えてエンボス加工を施すようにしてもよい。エンボス加工においても、形状、ピッチ、深さ等に制限のないことはもちろんである。
【0043】
また更に、本実施形態では、ウレタンシート2の厚さのバラツキを解消するために、研磨面Pと反対の面側にバフ処理を施されたウレタンシート2を例示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、ウレタンシート2の厚さ精度を向上させるために両面にバフ処理を施すようにしてもよい。また、バフ処理に代えて、スライス処理を施すことも可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド10の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0045】
(実施例1)
実施例1では、ウレタンシート2の作製に、プレポリマとして2,4−トリレンジイソシアネートと、数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコールとの反応生成物(NCO当量470)をポリオール化合物としてネオペンチルグリコールで鎖伸長したポリエーテル系ポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂とトリアセチルセルロースとを重量比7:3で混合し混合液を調製した。シート基材に混合液を塗布し脱溶媒させ実施例1の研磨パッド10を製造した。
【0046】
(比較例1)
比較例1では、トリアセチルセルロースを混合しない以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。
【0047】
(物性測定)
各実施例および比較例の研磨パッドについて、ウレタンシート2の反発弾性率およびショアA硬度を測定した。反発弾性率は、日本工業規格(JIS K 6400−3 軟質発泡材料−物性特性の求め方 第3部 反発弾性)に基づき測定した。すなわち、ウレタンシート2を重ね合わせて50mmの厚みとし、100×100mmの試験片を切り出した。試験片を反発弾性試験機の下面に置き、上面より500mmの高さ(初期高さ)から直径16mm、質量16gの鋼球を落下させ、跳ね返った最高の高さの落下高さ、すなわち初期高さ(500mm)に対する百分率(%)を求めた。測定は3回(n=3)行い平均値を算出した。ショアA硬度は、日本工業規格(JIS K 7311)に準じた方法で測定した。反発弾性率およびショアA硬度の測定結果を下表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、トリアセチルセルロースを混合しない比較例1の研磨パッドのウレタンシートでは、反発弾性率が44%を示し、ショアA硬度が38度を示した。プレポリマをグリコールで鎖伸長したことから、ショアA硬度が若干小さくなっており、軟質化されることが判った。これに対して、トリアセチルセルロースを混合した実施例1の研磨パッド10では、反発弾性率が8%を示し、ショアA硬度が45度を示した。このことから、トリアセチルセルロースを混合することでショアA硬度が若干高くなるが、反発弾性率を小さくすることができることが判った。
【0050】
(研磨性能評価)
次に、各実施例及び比較例の研磨パッドを用いて、以下の研磨条件でハードディスク用のアルミニウム基板の研磨加工を行い、研磨レートを測定した。研磨レートは、1分間当たりの研磨量を厚さで表したものであり、研磨加工前後のアルミニウム基板の重量減少から求めた研磨量、アルミニウム基板の研磨面積および比重から算出した。また、目視にてスクラッチの有無を判定した。研磨レートおよびスクラッチの測定結果を下表2に示す。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:100g/cm
スラリ:コロイダルシリカスラリ(pH:11.5)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:ハードディスク用アルミニウム基板
(外径95mmφ、内径25mm、厚さ1.27mm)
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示すように、比較例1の研磨パッドでは、研磨レートが0.174μm/minを示し、研磨加工に長時間を要した。これは、軟質化したとはいえショアA硬度が高めであり、大きな反発弾性率を示したことから(表1も参照。)、砥粒の保持が不十分なため、スクラッチが生じやすくなり、研磨レートも低下したと考えられる。これに対して、実施例1の研磨パッド10では、研磨レートが0.196μm/minと向上することが判った。また、実施例1の研磨パッド10では、繰り返し研磨加工を行ったときでも同様の研磨性能の得られることが確認された。このことから、反発弾性率を小さくすることで無気孔構造のウレタンシート2でも砥粒が保持されたため、研磨レートを向上させることができ、研磨効率および研磨精度を長時間維持できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は研磨面を介して内部に研磨粒子が進入不能でも研磨傷の発生を抑制し研磨レートを向上させることができる研磨パッドおよびその製造方法を提供するため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨パッドの製造方法の要部を示す工程図である。
【符号の説明】
【0055】
P 研磨面
2 ウレタンシート(ポリウレタン樹脂シート)
3 溝
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨加工するための研磨面を有するポリウレタン樹脂シートを備えた研磨パッドにおいて、前記ポリウレタン樹脂シートは、前記研磨面を介してその内部に研磨粒子が進入不能であり、該ポリウレタン樹脂シートを一定の厚さまで重ねた上面に一定の初期高さから所定質量および所定直径を有する鋼球を落下させたときに、該鋼球が跳ね返った高さの前記初期高さに対する百分率で定義される反発弾性率が2%〜30%の範囲であることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂シートは、ショアA硬度が5度〜50度の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂シートには、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂シートは、前記研磨面側に溝加工またはエンボス加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂シートは、厚さが0.1mm〜8.0mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂シートの前記研磨面と反対の面側に基材が更に貼り合わされていることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項7】
請求項1に記載の研磨パッドの製造方法であって、
イソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物と、アセチルセルロースまたはアクリル樹脂と、前記イソシアネート基含有化合物が前記ポリオール化合物で鎖伸長されたポリウレタン樹脂および前記アセチルセルロースまたはアクリル樹脂を溶解可能な有機溶媒と、を略均一に混合した混合液を調製する調製ステップと、
前記調製ステップで調製された混合液をシート状に展延し、前記混合液から前記有機溶媒を脱溶媒させて前記ポリウレタン樹脂シートを形成する形成ステップと、
を含むことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−5746(P2010−5746A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168661(P2008−168661)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】