説明

移植機

【課題】 移植装置のメンテナンス作業が行い易い移植機を提供する。
【解決手段】 植付爪15aでポット苗Pを受け取って下方位置で圃場Gに植込むようにした複数の植付装置15を有する植付ユニット13を、機体11の左右両側に並設した多条のポット苗用移植機1であって、各植付ユニット13が、機体11の左右両側の幅方向に延設された支持アーム19に対して垂直軸26周りに水平回動可能に軸着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付爪が苗を受け取って下方位置で圃場に植込むようにした複数の植付装置を、進行方向に伸びる機体の左右両側に並設した多条用の移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多条のポット苗用移植機は、中央機体の左右に複数の植付装置を備え、1回の走行で複数条の植付が同時に可能とされている。例えば、4条植付用の移植機であれば、中央機体の左右に各2個ずつの植付装置を、8条植付用の移植機であれば、同各4個ずつの植付装置を備えている。このような多条のポット苗用移植機は、苗供給装置から横方向(移植機の幅方向)に作動する複数の水平搬送ベルト上に供給されたポット苗を、その搬送方向下流側端縁から円盤状植付装置の植付爪に移送し、植付爪が受取ったポット苗を、円盤状ガイド板に沿って下方へ搬送し、溝切板によって圃場に形成された植付溝に順次植付けてゆくよう構成されている。特許文献1及び特許文献2には、このような多条のポット苗用移植機が開示されている。
【0003】
ところで、前記ポット苗用移植機においては、ポット苗が前記円盤状ガイド板や溝切板の内部を通過する際に発生するポット苗の根鉢部(ポット部)の崩れ土や折損した根等が前記植付爪やガイド板、或いは溝切板の内部に堆積することがあり、これらの堆積物の除去、清掃等のメンテナンスが必要とされる。しかし、前記のような多条の移植機にあっては、中央機体の左右に複数の植付装置が併設されることになるので、中央機体寄り、即ち、内側寄りに位置する植付装置は、視認し難くまた手が届き難い等のために、メンテナンス作業が困難となる問題がある。
【特許文献1】特許2787536号公報
【特許文献2】特許2826695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、植付装置のメンテナンス作業がし易い移植機を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、植付爪で苗を受け取って下方位置で圃場に植込むようにした複数の植付装置を有する植付ユニットを、機体の幅方向に並設した多条のポット苗用移植機であって、
前記植付ユニットが、前記機体の左右両側の幅方向に延設された支持アームに対して垂直軸周りに水平回動可能に軸着されていることを特徴とする移植機を提供している。
【0006】
前記構成とすると、植付ユニットを水平回動させてスペースのある機体側方に植付装置を向けた状態とすることができるので、作業者は狭い機体内に身を入れて植付装置のメンテナンス作業をする必要がなくなり、メンテナンス性が大幅に向上する。従って、多条植付機であるが故の移植効率の良さがより活かされ、この種の多条ポット苗用移植機の実用価値が飛躍的に向上することになる。なお、植付ユニットの全てを水平回動可能としてもよいし、一部の植付ユニットのみ水平回動可能としてもよい。
【0007】
前記植付ユニットは、前記支持アームとの間に設けられたロック手段によって通常の植付位置にロック可能とされ、該ロック手段のアンロック状態で前記回動が許容される構成としていると好ましい。
【0008】
前記構成とすると、植付装置のメンテナンス時にはロック手段をアンロックするだけで植付ユニットを水平回動することができる一方、ロック手段でロックすることで植付ユニットが安定して位置保持されるので安心して移植作業を行うことができる。
【0009】
前記ロック手段は、植付ユニットに形成された係止部材と、前記支持アームに固定されて該係止部材を受止する切欠凹部を有する固定座と、前記支持アームに固定された水平支軸に上下揺動可能に取り付けられ前記係止部材を把持する把持部を有する操作レバーとを備えていると好ましい。
【0010】
前記構成とすると、植付ユニットを側方に開いた状態から通常位置に戻す際には、植付ユニット側の係止部材を支持アーム側の固定座の切欠凹部に当接させて位置決めした後に操作レバーを揺動させるだけで、確実かつ簡単に把持部で係止部材を位置決め保持することができる。
【0011】
前記垂直軸は、駆動源からの動力が伝達される垂直駆動伝達軸であり、該垂直駆動伝達軸からの駆動力は更に各植付ユニットの植付軸を介して各植付装置に駆動伝達されるよう構成され、前記各植付ユニットの垂直軸周りの水平回動は、前記垂直駆動伝達軸と植付軸との駆動連結部分に介在する傘歯車同士の相互回動を伴う構成としていると好ましい。
【0012】
前記構成とすると、動力伝達用の垂直駆動伝達軸を植付ユニットの回動支軸に兼用しているので、水平回動専用の垂直軸を新たに設ける必要がなくなり、部品点数や機体重量の増加を抑制することができる。しかも、前記垂直駆動伝達軸と該垂直駆動伝達軸から駆動伝達される植付軸との駆動連結部分に介在する傘歯車同士の相互回動を伴うものとすれば、回動基部において回転駆動伝達系が寸断されることがないので、植付ユニットを側方に向けて回動させている時においても、植付装置を作動させながらメンテナンスを行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポット苗用移植機によれば、複数の植付装置からなる植付ユニットが、機体の左右両側に幅方向に延設された支持アームに対して垂直軸周りに水平回動可能とされているので、移植機の内側寄りに位置する植付装置であっても、植付ユニットを水平回動させることによって、視認し易くまた手の届く位置に向けることができ、植付爪やガイド板、或いは溝切板の内部に堆積する崩れ土や折損した根等の堆積物の除去、清掃等のメンテナンスを容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明のポット苗用移植機の一例を示す全体側面図、図2は同移植機の概略的平面図、図3は図2におけるX−X線断面図、図4は図3におけるY−Y線断面図、図5は植付装置の概略的説明図である。
【0015】
図1及び図2はミッドマウント型の乗用ポット苗用移植機1を示し、車体フレーム(メイン機体)2の上には運転座席3及び操舵ハンドル4が装備され、該車体フレーム2は前後の車輪5、6に支持されている。座席3の下には、全ての作動部の駆動源としてのエンジン7が搭載され、エンジン7の駆動力は、減速機7a、ミッション7bを介し、一部がチェーン6aを経て後輪6に駆動伝達される。車体フレーム2の上部には複数段の苗箱載置棚8が設置され、また、該車体フレーム2の下方左右には、ポット苗供給部9及びポット苗植付部10が配設されている。ポット苗供給部9及びポット苗植付部10は、共通の機体11に支持され、機体11の先側において、車体フレーム2に連結された平行リンク機構(スイングアーム)12の上下揺動端にピン結合されている。従って、ポット苗供給部9及びポット苗植付部10はこの平行リンク機構12によって上下動可能とされ、平行リンク機構12を上下動させる為のシリンダ12aにより、圃場Gの起伏状態等に合わせてポット苗供給部9及びポット苗植付部10を適性位置に上下位置調整することが可能とされている。
【0016】
ポット苗供給部9は、苗載台9aとポット苗取出部9bを有し、ポット苗取出部9bにより苗載台9aから取り出されたポット苗Pは、後述する植付ユニット13上の水平搬送ベルト14に供給される。植付ユニット13は、夫々一対の植付装置15、内側鎮圧輪16、外側鎮圧輪17、溝切板18及び前記水平搬送ベルト14を、植付部機体13aに支持させてユニットとして構成されている。該植付ユニット13は、車体フレーム2(機体11)の左右に1ユニットずつ配設され、従って、図例のポット苗用移植機1は、4条植付用の移植機として構成されている。
【0017】
機体11の左右両側に水平な円筒状支持アーム19、19が延設され、該支持アーム19、19の各先端部には後述する分岐ケース25、25を介して垂直軸周りに回動可能な回動基体ケース20、20が連接され、該回動基体ケース20、20に前記各植付ユニット13の植付部機体13aが結合されている(図4参照)。ミッション7bの出力側には、クラッチ等を経て植付部用出力軸21が導出され、該出力軸21には自在継手22aを介して伸縮自在軸(駆動伝達軸)22が連結され、更に、伸縮自在軸22には自在継手23aを介して入力軸23が連結されている。これら伸縮自在軸22及び入力軸23は、基体11に支持されている。図2、図3に示すように、入力軸23の先端には傘歯車23bが固設され、また、支持アーム19、19内には入力軸23に直交するよう水平駆動伝達軸24が軸回転可能に配設されており、傘歯車23bは、水平駆動伝達軸24の中間部に固設された傘歯車24aに噛合する。この両傘歯車23b、24aの噛合により、入力軸23の軸回転動力が、これに直交する水平駆動伝達軸24を軸回転させるべく駆動伝達される。
【0018】
支持アーム19、19の各先端部には、垂直方向に伸びる円筒部25a、25aを備えた分岐ケース25、25が連結され、水平駆動伝達軸24の両端部はこの分岐ケース25、25内に及んでいる。水平駆動伝達軸24の両端部には傘歯車24b、24bが固設され、分岐ケース25、25内には垂直駆動伝達軸(垂直軸)26、26が軸回転可能に配設されており、傘歯車24b、24bは、各垂直駆動伝達軸26、26の上端に固設された傘歯車26a、26aに噛合する。これら傘歯車24b、24b及び傘歯車26a、26aの相互の噛合により、水平駆動伝達軸24の軸回転駆動力は、各垂直駆動伝達軸26、26を軸回転させるべく駆動伝達される。分岐ケース25、25には、円筒部25a、25aと、回動基体ケース20、20に形成された円筒部20a、20aとの嵌合をして、回動基体ケース20、20が垂直駆動伝達軸26、26の軸周りに回動可能に連接されている。回動基体ケース20の円筒部20aは、分岐ケース25の円筒部25aに対して同心的に下から外装され、相互の回動が可能とされる。20b、20cは、各回動基体ケース20が分岐ケース25から抜け落ちないようにする為の係止片と、これを円筒部20aに固定する為のボルトである。
【0019】
回動基体ケース20、20の側部には、図4に示すように各植付ユニット13、13の植付部機体13a、13aが結合されているので、各植付ユニット13、13は、回動基体ケース20、20と共に垂直駆動伝達軸26、26の軸周りに水平回動可能とされる。垂直方向に伸びる垂直駆動伝達軸26、26には、その途中の回動基体ケース20、20内において傘歯車26b、26bが固設され、また、回動基体ケース20、20内には水平方向の植付装置用入力軸(植付軸)27、27が軸回転可能に配設され、植付装置用入力軸27、27の基端部に固設された傘歯車27a、27aと傘歯車26b、26bとが噛合する。これら傘歯車26b、26bと傘歯車27a、27aとの相互の噛合により、垂直駆動伝達軸26、26の軸回転駆動力が植付装置用入力軸27、27を軸回転させるべく駆動伝達される。垂直駆動伝達軸26、26は更に下方に伸び、内側鎮圧輪16を駆動させる為の水平方向の入力軸28に、傘歯車26c、28a同士の噛合をして駆動伝達される(図1参照)。
【0020】
各植付ユニット13は、その植付部機体13a及び回動基体ケース20を介し垂直駆動伝達軸26の軸周りに回動可能とされているが、この回動の際、傘歯車27a、28aは、垂直駆動伝達軸26に固設された傘歯車26b、26cと夫々噛合関係を維持したまま垂直駆動伝達軸26の軸周りに回動することになるので、これらの駆動伝達系が寸断されることなく、各植付ユニット13の水平回動操作が支障なくなされる。そして、各植付ユニット13と支持アーム19との間には、植付ユニット13を通常の植付位置にロックさせる為のロック手段29が形設されており、ロック手段29をアンロック状態にすると、植付ユニット13の回動が許容されるようになされている。
【0021】
ロック手段29は、図2及び図4に示すように、植付ユニット13の植付部機体13aに形成された円柱状係止部材29aと、支持アーム19に固設され、係止部材29aを受止する切欠凹部29bを備えた固定座29cと、支持アーム19に固設された水平支軸29dに該支軸29dを揺動支点として上下揺動可能に取付けられた操作レバー29eとを備え、該操作レバー29eには切欠凹部29bに受止された係止部材29aを上方から把持する円弧状の把持部29fが設けられている。図4の実線位置は、ロック手段29により植付ユニット13が通常の植付位置にロックされた状態を示し、係止部材29aが、把持部29fにより切欠凹部29bとの間で挟持された状態となり、植付ユニット13の回動が不能とされる。そして、操作レバー29eを水平支軸29dの周りに(図4の反時計周り)に操作すると、把持部29も上方に退避し(図4の一点鎖線位置)、拘束状態から係止部材29aが解放されてアンロック状態となる。従って、係止部材29aが切欠凹部29bから離反可能となり、植付ユニット13の垂直駆動伝達軸26の軸周りの回動が可能となる。
【0022】
図2の進行方向右側部分の植付ユニット13は、ロック手段29をアンロック状態とし、外側に回動させた状態を示している。図のように、植付ユニット13がスペースのある機体側方に向けられ、作業者は十分なスペースから植付装置15等の状態を観察することができ、また、必要によって、ポット苗の根鉢部の崩れ土や折損した根等の除去・清掃等の手作業によるメンテナンスも可能となる。進行方向左側部分の植付ユニット13も、ロック手段29をアンロック状態とし、外側に回動させた上で、前記同様のメンテナンスを行うことができ、通常の植付作業時には、両植付ユニット13、13共ロック手段29、29によって正規の位置にロックさせ(図2の進行方向左側部分の状態)、植付走行運転が可能となる。
【0023】
各植付ユニット13には、左右一対の植付装置15、15が装備され、1つの植付ユニット13当り2条の植付が可能とされている。植付装置15は、図5に示すように、左右に振り分け搬送される一対の水平搬送ベルト14からポット苗Pを受け取る複数の植付爪15a、受取ったポット苗Pを確実に下方に搬送し、ポット苗Pを土中に植え込む為の植付溝を形成する溝切板18等により構成される。植付軸27の軸回転駆動力が、植付ユニット13に装備された不図示の駆動伝達手段によって駆動伝達され、この駆動力を受けた植付装置15の図5に示す矢示方向への回転に伴い、植付爪15aによって移送されるポット苗Pは、ガイド板15bや溝切板18の内部を通過後に圃場Gに順次移植される。また、内側鎮圧輪16は、前記の通り、入力軸28から不図示の駆動伝達手段を介した回転駆動力を受けて回転駆動がなされる。13bは、これらの不図示の駆動伝達手段(チェーン等)を覆うカバーである。
【0024】
植付ユニット13の前方には、進行方向前方の圃場Gを均一に押えると共に植付用溝を事前に形成する為のドラム状溝切輪30が幅方向に4機並設され、各溝切輪30毎にその周体に植付装置15の前方位置に対応するよう溝切刃30aが形成されている。図1に示す30bは、途中省略されているが、この溝切輪30を回転駆動させる為の駆動軸であり、後輪6を回転駆動させる為の駆動伝達手段から分岐駆動伝達されている。
【0025】
尚、4条植のポット苗用移植機を例に述べたが、8条植等の多条のポット苗用移植機にも本発明が適用され得ることは言うまでもない。また、植付ユニット13が、植付装置15に駆動伝達する為の垂直駆動伝達軸26の軸周りに水平回動可能とした例について述べたが、植付ユニット13を回動保持する為の新たな垂直軸を設け、前記同様の機能を奏するよう構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態の移植機を示す全体側面図である。
【図2】同移植機の概略的平面図である。
【図3】図2におけるX−X線断面図である。
【図4】図3におけるY−Y線断面図である。
【図5】植付装置の概略的説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 ポット苗用移植機
11 機体
13 植付ユニット
15 植付装置
15a 植付爪
19 支持アーム
22 伸縮自在軸(駆動伝達軸)
23 入力軸
24 水平駆動伝達軸
26 垂直駆動伝達軸(垂直軸)
26b 傘歯車
27 植付装置用入力軸(植付軸)
27a 傘歯車
29 ロック手段
29a 係止部材
29b 切欠凹部
29c 固定座
29d 支軸
29e 操作レバー
29f 把持部
G 圃場
P ポット苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植付爪で苗を受け取って下方位置で圃場に植込むようにした複数の植付装置を有する植付ユニットを、機体の幅方向に並設した多条の移植機であって、
前記植付ユニットが、前記機体の左右両側の幅方向に延設された支持アームに対して垂直軸周りに水平回動可能に軸着されていることを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記植付ユニットは、前記支持アームとの間に設けられたロック手段によって通常の植付位置にロック可能とされ、該ロック手段のアンロック状態で前記回動が許容される構成としている請求項1に記載の移植機。
【請求項3】
前記ロック手段は、植付ユニットに形成された係止部材と、前記支持アームに固定されて該係止部材を受止する切欠凹部を有する固定座と、前記支持アームに固定された水平支軸に上下揺動可能に取り付けられ前記係止部材を把持する把持部を有する操作レバーとを備えている請求項1または請求項2に記載の移植機。
【請求項4】
前記垂直軸は、駆動源からの動力が伝達される垂直駆動伝達軸であり、該垂直駆動伝達軸からの駆動力は更に各植付ユニットの植付軸を介して各植付装置に駆動伝達されるよう構成され、前記各植付ユニットの垂直軸周りの水平回動は、前記垂直駆動伝達軸と植付軸との駆動連結部分に介在する傘歯車同士の相互回動を伴う構成としている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−314233(P2006−314233A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138954(P2005−138954)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000100469)みのる産業株式会社 (158)
【Fターム(参考)】