説明

移植機

【課題】既植付条側に位置する外側整地ロータを整地作業姿勢と上方退避姿勢とに切り換えることにより、泥水の側方押出流による既植苗への悪影響を防止しながら整地作業を行い、植付装置による植付作業をスムーズに行うことができる移植機を提供する。
【解決手段】走行機体2の後部に複数条分の苗を植付ける植付装置6を装着し、該植付装置6の前側に整地ロータを植付巾にわたって複数並設した整地装置5を備えた移植機であって、前記整地装置5の内側整地ロータ31の左右端に設ける外側整地ロータ32,32を、整地作業姿勢と整地作用をしない上方退避姿勢とに切換自在に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付装置の前部に整地装置を備えた移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行機体の後部に整地装置と植付装置を装着し、整地装置によって整地した地面に苗を植付けるようにした移植機は、特許文献1で示されるように既に公知である。
上記移植機の整地装置は、植付装置のフロートの前部で複数の代掻ロータが接地回転するとき泥水を前押しし側方へ押し出すため、この側方押出流を規制する遮蔽板を、左右の外側整地ロータの外側に設けた構成としたものがあった。
【特許文献1】特開平10−84708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1で示される移植機は、湛水量が多い水田或いは走行速度を上げて植付作業を行う際に、発生する多量の側方押出流が遮蔽板を乗り越えて側方に勢いよく流出し、既植苗を倒し易い問題がある。
そこで外側整地ロータは既植苗からできるだけ離間させて、既植苗との接触及び側方押出流による苗の押し倒しを防止する必要があるので、外側整地ロータの巾長さに制約をうけ短く構成される。このため植付作業時の往路と復路端で行われる機体旋回時に形成される大きな旋回轍跡を、外側整地ロータが十分に轍跡消しできず一部残したままで整地する等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために本発明の移植機は、第1に、走行機体2の後部に複数条分の苗を植付ける植付装置6を装着し、該植付装置6の前側に整地ロータを植付巾にわたって複数並設した整地装置5を備えた移植機において、前記整地装置5の内側整地ロータ31の左右端に設ける外側整地ロータ32,32を、整地作業姿勢と整地作用をしない上方退避姿勢とに切換自在に構成したことを特徴としている。
【0005】
第2に、外側整地ロータ32,32を、内側整地ロータ31との伝動を断った状態で、整地作業姿勢から上方退避姿勢に切り換えることを特徴としている。
【0006】
第3に、外側整地ロータ32,32を、地面に指標を形成するマーカ21の指標形成姿勢と非指標形成姿勢との切換操作に連動させて、整地作業姿勢と上方退避姿勢とに切り換える構成としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
以上のように本発明による移植機は、内側整地ロータの左右端に設ける外側整地ロータ,を、整地作業姿勢と上方退避姿勢とに切換自在に構成したことにより、整地作業を行いながら植付作業を行うとき、既植付条側に位置する外側整地ロータを上方退避姿勢にし、且つ未植付側の外側整地ロータを整地作業姿勢に切り換えて整地をすることができるので、既植付条側への泥水の押し出しを抑制でき、既植苗への悪影響を防止しながら整地作業を行い、植付装置による植付作業を精度よくスムーズに行うことができる。
また上方退避作動を行うことができる外側整地ロータは、下降させた時には整地巾をできるだけ広くするように構成することができるので、前輪或いは後輪による轍跡の整地を行い易くすることができる。
【0008】
また外側整地ロータを上方退避姿勢にすると同時に、内側整地ロータとの伝動を断つことができるので、整地装置の無駄な駆動を防止した整地作業を行うことができる。
【0009】
またマーカの姿勢切換と外側整地ロータの姿勢切換を連動させることにより、植付作業時のマーカの切換操作に連動し、既植苗側の外側整地ロータを自動的に上方退避姿勢にすることができ、またマーカの指標形成姿勢への切り換えに連動し、対応する側の外側整地ロータを整地作業姿勢に切り換えることができるので、外側整地ロータの切り換え忘れ等に伴う既植苗への悪影響を防止し、整地作業を能率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図面において符号1は、走行機体2の後部に設けた昇降リンク機構3を介し、整地装置5を備えた植付装置6を昇降可能に装着した移植機1である。この移植機1は、前輪2a,後輪2bを有する走行機体2に、前部にボンネットで覆ったエンジン7を搭載し、その後方に操縦部8を配置し、機腹部にエンジン7から伝動されるトランスミッション9を備えている。トランスミッション9は前輪2a,後輪2bを駆動すると共に、自在継手部を有する伝動軸10によって植付装置6を駆動し、伝動軸11によって整地装置5を駆動して、機体の走行に伴い整地装置5によって整地した圃場面に植付装置6により苗の植付けを行う。
【0011】
実施形態の植付装置6は、6条分のマット苗を載置する苗載台12と、苗載台12から苗を掻き取って植付ける6条分の植付部13と、植付時に接地させる複数のフロート15等を、従来のものと同様の配置構造によって植付部フレーム16に構成している。
そして、前記伝動軸10に接続されて植付部フレーム16の横フレームを兼用する伝動ケース17は、3本の植付伝動ケース19を後方に向けて延設しており、該植付伝動ケース19は両側に対をなす左右の植付爪20を設けている。これにより植付装置6は植付爪20によって図2に示すように、各フロート15の左右に苗載台12から掻き取った苗を植え付ける。
【0012】
次に図2,図3を参照し整地装置5の第1実施形態について説明する。この整地装置5は、フロート15群の前方で横向きに軸支される複数の整地ロータを備えるロータ軸を、内側ロータ軸22と、その両側に後述する継手部23を介して接続される外側ロータ軸25,25とによって構成している。
上記内側ロータ軸22はその両端部を、植付部フレーム16の左右から前方に延設した支持ブラケット26に上下スライド可能に支持した、昇降支持杆27の軸支部29に回転自在に軸支している。そして、内側ロータ軸22はその中央部位に前記伝動軸11と接続する整地伝動ケース30が設置されて矢印方向に回転する。
【0013】
内側ロータ軸22は整地伝動ケース30と左右の軸支部29との間に、複数のカゴ型整地ロータ(以下内側整地ロータと言う)31を着脱可能に取付支持している。外側ロータ軸25には1個のカゴ型整地ロータ(以下外側整地ロータと言う)32を着脱可能に軸支している。
そして、外側ロータ軸25,25は、内側ロータ軸22の両端に設ける継手部23を介して伝動自在に接続すると共に、切換支持機構36によって外側ロータ軸25に軸支される外側整地ロータ32を、内側ロータ軸22の延長上となる整地作業姿勢と、地面から上方に離間して整地作用を行わない上方退避姿勢とに切換可能に支持している。
【0014】
上記切換支持機構36は、昇降支持杆27の中途部に設けた取付ブラケット37に、内側ロータ軸22の外端を軸支する軸支部38を有した支持アーム39を、取付軸40を介して上下方向に回動自在に設けている。
そして、支持アーム39の他端に突設したアーム部41と昇降支持杆27の上部とを、
引っ張りスプリング42によって連結している。また支持アーム39は、腕の中途部に枢支される切換ハンドル43をオペレータ側に向けて延長している。
【0015】
上記切換ハンドル43は、昇降支持杆27の上部に設けた環状のレバーガイド45内に挿入支持させ、図2の実線で示す外側整地ロータ32の整地作業姿勢から切換ハンドル43を引き上げ操作したとき、該切換ハンドル43の中途部に突設したストッパ43aをレバーガイド45に係止させることができる。
これにより支持アーム39に片持ち状に軸支される外側整地ロータ32を、同図の点線で示すように取付軸40を支点に回動させて上方に引き上げ、地表から離間させた上方退避姿勢に簡単に切換保持することができる。
【0016】
前記継手部23は、例えば図2で示すように内側ロータ軸22の軸端にフック状の係合突起46を設け、且つ外側ロータ軸23の軸端に上記係合突起46を係脱自在に挿入係合させる、図示しない係合孔を穿設した係合部47を形成した構成にすることができる。
これにより継手部35は、係合突起46を係合部47に係合させた伝動状態となし、外側整地ロータ32を整地作業姿勢にすることができ、外側整地ロータ32を内側整地ロータ31と一体的に回転させることができる。
【0017】
また切換ハンドル43を操作し外側整地ロータ32を上方退避姿勢にするとき、外側ロータ軸23の係合部47が、取付軸40を中心に回動し係合突起46から外れるので、外側整地ロータ32を上方退避姿勢に簡単に切り換えることができると共に、当該外側整地ロータ32の回転駆動を断ち、非整地作業時に無駄な駆動を防止することができる等の特徴がある。
【0018】
以上のように構成される整地装置5を植付装置6に備えた移植機1は、水田圃場において機体を往復走行させて植付作業を行う際に、各切換ハンドル43を操作し既植付条側に位置する外側整地ロータ32を上方退避姿勢と、未植付条側の外側整地ロータ32を整地作業姿勢に選択して切り換えることにより、整地装置5による整地作業を行いながら植付装置6による植付作業を精度よくスムーズに行うことができる。
【0019】
即ち、既植付条側で上方退避姿勢に切り換えた外側整地ロータ32は、地表から上方に離間しているので泥水の前押しや側方押出流を発生させることがない。また従来の整地装置のように、既植付条側で接地回転する外側整地ロータが、田面の泥水を前押しし外側に押し出して既植苗を押し倒すトラブルや、蛇行時に既植苗に接触したり押し倒したりし易い等の既植苗への悪影響を防止することができる。
さらに、上方退避作動させることができる外側整地ロータ32は、該外側整地ロータ32の長さを泥水の押し出し防止のために敢えて短めに形成することなく、整地巾をできるだけ広げるように長く構成することができる。従って、外側整地ロータ32を整地作業姿勢にしたとき、広い範囲で整地精度を向上させると共に、圃場面に形成される前輪2a及び後輪2bの轍跡を整地して確実に消すことができる。
【0020】
次に整地装置5の第2実施形態について図4〜図8を参照し説明する。尚、第1実施形態のものと同様な構成及び作用については説明を諸略する。図示例の整地装置5は、外側整地ロータ32の姿勢切換を、植付装置6の左右に設置されて次工程の植付走行の指標を形成するマーカ21の、指標形成姿勢と非指標形成姿勢との切換に連動して行うようにしている。
即ち、各マーカ21はマーカ切換機構50によって、植付部フレーム16の左右に張り出した横フレーム51の端部に設けた支持軸52を支点に、指標形成姿勢と非指標形成姿勢とに切換可能に設けている。
【0021】
マーカ切換機構50は、マーカ21の基部に形成した扇状の支持片55の中途部を前記支持軸52に支持し、該支持片55の一側に穿設した長孔状の支持孔56に、横フレーム50に取付固定される電動アクチュエータ57の作動軸59先端部を係合させ、且つ支持片55の他側に突出形成した作動片60を、外側ロータ軸25に設けた切換杆61にワイヤ62を介して接続している。
この構成により、オペレータが操縦部8から各電動アクチュエータ57を択一的にON操作すると、作動軸59が進退作動し支持孔56を介してマーカ21を、支持軸52を支点に図4で示すように、指標形成姿勢と非指標形成姿勢とに切り換えることができる。
【0022】
次に図7,図8を参照し上記マーカ切換機構50と連動して切換作動する整地装置5の連動構造について説明する。即ち、整地装置5の外側整地ロータ32は、内側ロータ軸22と外側ロータ軸25とを自在継手型の継手部23によって接続している。また外側ロータ軸25は切換杆61を有するブラケット部70を遊嵌しており、該ブラケット部70はその両側に、継手部23の継手軸71を中心とする円弧状のガイド孔72を穿設した作動片73を取付固定している。
【0023】
上記両側の作動片73,73は軸支部29を挟むように嵌挿した状態で、該軸支部29の両側に突設したガイドピン75,75に上記作動片73,73を嵌挿し、且つガイド片70,70の先端部を引っ張りスプリング76,76によって昇降支持杆27の上方と連結している。
これにより外側整地ロータ32をスプリング76,76の付勢力とガイド孔72がガイドピン75で規制される位置において、整地作業姿勢に保持することができ、また作動片73とガイドピン75の係合によって、外側整地ロータ32が回転する際の、切換杆61の伴回りを防止する。また第1実施形態のもののように支持アーム39等で内側ロータ軸22の外端を支持する構成を不要にすることができる。
【0024】
またマーカ切換機構50の操作によって、切換杆61がワイヤ62によって引き作動されると、外側整地ロータ32をスプリング76に抗して、前記継手軸71を支点に上方退避姿勢に切換作動することができる。
上記構成によりマーカ切換機構50は、電動アクチュエータ57の作動によって右マーカ21が図5,図6の実線で示す指標形成姿勢から点線で示すように上方回動すると、作動片60の回動によりワイヤ62が切換杆61を引き作動し、対応する右側の外側整地ロータ32を整地作業姿勢から上方退避姿勢に同時に切り換えることができる。
【0025】
尚、このとき図4で示すように左側のマーカ切換機構50を介して左側マーカ21を非指標形成姿勢から指標形成姿勢に切り換えると共に、左側外側整地ロータ32を上方退避姿勢から整地作業姿勢に切り換えることができる。また左右のマーカ切換機構50は、左右のマーカ21及び外側整地ロータ32を同時に同方向に切換操作することもできる。
【0026】
従って、植付作業時に必然的に行われるマーカ21の切換操作に連動させて、指標形成姿勢に切り換えられるマーカ21側の外側整地ロータ32を整地作業姿勢に、また既植付条側で非指標形成姿勢に切り換えられるマーカ21側の外側整地ロータ32を自動的に上方退避姿勢にすることができる。このようにマーカ21の姿勢切換と外側整地ロータ32の姿勢切換を連動させた移植機1は、外側整地ロータ32の切り換え忘れによる接触や押し倒し等の既植苗への悪影響を防止しながら、整地作業及び植付作業を能率よく簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の整地装置を備えた移植機の側面図である。
【図2】図1の整地装置の構成を示す背面図である。
【図3】整地装置の支持構造を示す側面図である。
【図4】マーカと整地装置の作用を示す移植機の正面図である。
【図5】図4のマーカ切換機構の構造を示す正面図である。
【図6】図5のマーカ切換機構を非指標形成姿勢に切り換えた状態を示す正面図である。
【図7】第2実施形態に係わる整地装置の構成を示す正面図である。
【図8】図7の整地装置の要部の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 移植機
2 走行機体
5 整地装置
6 植付装置
21 マーカ
22 内側ロータ軸
23 継手部
25 外側ロータ軸
31 内側整地ロータ
32 外側整地ロータ
50 マーカ切換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(2)の後部に複数条分の苗を植付ける植付装置(6)を装着し、該植付装置(6)の前側に整地ロータを植付巾にわたって複数並設した整地装置(5)を備えた移植機において、前記整地装置(5)の内側整地ロータ(31)の左右端に設ける外側整地ロータ(32),(32)を、整地作業姿勢と整地作用をしない上方退避姿勢とに切換自在に構成した移植機。
【請求項2】
外側整地ロータ(32),(32)を、内側整地ロータ(31)との伝動を断った状態で、整地作業姿勢から上方退避姿勢に切り換える請求項1記載の移植機。
【請求項3】
外側整地ロータ(32),(32)を、地面に指標を形成するマーカ(21)の指標形成姿勢と非指標形成姿勢との切換操作に連動させて、整地作業姿勢と上方退避姿勢とに切り換える構成とした請求項1又は2記載の移植機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−202494(P2007−202494A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26363(P2006−26363)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】