説明

空間光変調素子及び空間光変調方法

変調駆動光として極短パルスの高パワーレーザー光を用いても光変調特性が劣化せず長寿命であり、かつ、1.55μm等の波長の光を用いての応答速度が速い空間光変調素子の提供。 プリズム2と、光照射によって複素屈折率が変化する光機能性材料からなる光機能性材料層3との間に、プリズム2の屈折率よりも低屈折率である透明材料からなる低屈折率層4を介在させてなり、光機能性材料としてカーボンナノチューブを用いることを特徴とする空間光変調素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ装置、光情報処理装置などに用いられる空間光変調素子及び空間光変調方法に関する。さらに詳細には、被変調光を反射させる層として、従来の金属層に代えて低屈折率材料から形成した層を用い、かつ、色素を含有する光機能性材料層に代えてカーボンナノチューブを必須とする光機能性材料から形成した層を用いた空間光変調素子に関する。さらに、該空間光変調素子を用いて、被変調光を導波モードで閉じ込める、または、反射させることによって、使用寿命が長く、変調応答感度が高く、高速度での光変調を可能にした空間光変調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、表面プラズモン共鳴を用いた空間光変調素子としては、プリズムの一面に金属層と、光照射により屈折率が変化する物質からなる光機能性膜(色素含有膜などとも称される)とを積層してなる素子が知られている。該素子に、変調するべき被変調光をプリズムを通して入射し、金属膜で閉じ込めまたは反射させてプリズムから出射する際に、光機能性膜に変調駆動光を必要に応じて照射すると、変調駆動光のON/OFFによって被変調光の閉じ込め条件を変化させることができ、高速光変調が実行可能であると報告されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
カーボンナノチューブが光機能性材料として使用できることは知られている。またカーボンナノチューブの光応答特性は高速であり、かつ、1〜2μmの波長領域でこれらの特性が発揮できることが報告されている(例えば、特許文献4、非特許文献1〜3を参照。)。
【特許文献1】特開平5−273503号公報
【特許文献2】米国特許6611367号明細書
【特許文献3】特開2002−258332号公報
【特許文献4】特開2003−121892号公報
【非特許文献1】Y.C.Chen et al,Applied PhysicsLetters,81,p.975−977(2002)
【非特許文献2】M.Ichida et al,Physica B,323,p.237−238(2002)
【非特許文献3】S.Tatsuura et al,AdvancedMaterials,15,p.534−537(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の空間光変調素子は、変調駆動光としてフェムト秒レーザー等の極短パルスの高パワーレーザー光を用いると金属層がダメージを受け、被変調光の光変調特性が劣化する可能性がある。また、素子の寿命が短いという問題がある。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、変調駆動光として極短パルスの高パワーレーザー光を用いても光変調特性が劣化せず長寿命であり、かつ、1.55μm等の波長の光を用いての応答速度が速い空間光変調素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、誘電体層と、光照射によって複素屈折率が変化する光機能性材料から形成した光機能性材料層との間に、前記誘電体より低屈折率である透明材料から形成した低屈折率層が介在してなり、該光機能性材料層がカーボンナノチューブを必須とする光機能性材料から形成した層であることを特徴とする空間光変調素子を提供する。
【0007】
本発明の空間光変調素子において、誘電体層としては、誘電体から形成される層であり、透明な誘電体から形成される層であるのが好ましい。透明な誘電体としては、光学ガラス(たとえばBK7等)、石英ガラス、高屈折率ガラス、またはポリカーボネート等の誘電材料が挙げられる。
【0008】
光機能性材料層としては、カーボンナノチューブからなる層、またはカーボンナノチューブと他の材料からなる層が好ましい。他の材料としては、本発明における誘電体の屈折率よりも低屈折率である透明材料であるのが好ましい。該透明材料は該低屈折率層の形成に用いる透明材料と同じ材料であっても、異なる材料であってもよい。さらに、光機能性材料層は、カーボンナノチューブと、該低屈折率層をなす透明材料と同じ透明材料とから形成した層であるのが好ましい。カーボンナノチューブは、シングルウォール・カーボンナノチューブであることが好ましい。
【0009】
低屈折率層は有機材料からなることが好ましく、含フッ素樹脂からなることが特に好ましい。該含フッ素樹脂はC−H結合を有しない非結晶性の含フッ素重合体からなることが好ましい。
【0010】
また本発明は、誘電体層と、光照射によって複素屈折率が変化する光機能性材料から形成した光機能性材料層との間に、前記誘電体より低屈折率である透明材料から形成した低屈折率層を介在してなり、該光機能性材料層がカーボンナノチューブを必須とする光機能性材料から形成した層である空間光変調素子を用い、該誘電体と低屈折率層との界面で該誘電体を通して入射される被変調光の反射を変調駆動光により制御することを特徴とする空間光変調方法を提供する。
【0011】
本発明に係る空間光変調方法において、該変調駆動光による被変調光の反射の制御は、被変調光の反射と、導波モードによる被変調光の閉じ込めとの組み合わせにより行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の空間光変調素子は、従来の金属層に代えて透明な低屈折率層を備え、被変調光を誘電体層と低屈折率層との界面で反射させ、光機能性材料に変調駆動光を必要に応じて照射することにより、変調駆動光のON/OFFによって被変調光の変調、制御を行うものである。そのため、光機能性材料層に照射される変調駆動光及び被変調光によって素子が受けるダメージが低減され、フェムト秒レーザー光などの高パワーレーザー光を用いても長期間安定に動作し、耐久性に優れ、長寿命の素子を得ることができる。
【0013】
特に光機能性材料として、カーボンナノチューブを用いることで、波長が1.55μm等の近赤外波長領域の光を用いての応答速度が速い空間光変調素子が得られる。すなわち、既存の通信系で採用されている光学系をそのまま流用して、高速の応答特性を有する光回路が設計可能となる。
【0014】
また金属層に代えて透明な低屈折率層を備えた構成としたことで、変調駆動光のON/OFFによってより高感度に被変調光の反射率が変化し、変調応答感度が極めて高くなる。その結果、より高速度での変調が可能となり、ピコ秒オーダーの応答速度を有する空間光変調素子が実現可能となる。
【0015】
さらに金属層に代えて透明な低屈折率層を備えた構成としたことで、被変調光の入射角と出射角が大きくなり、変調駆動光が出射側に漏れ出して検出されることに起因するノイズの発生が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の空間光変調素子の第1の実施形態を示す概念図である。
【図2】本発明の空間光変調素子の第2の実施形態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0017】
1、7…空間光変調素子、2…プリズム(誘電体)、3…光機能性材料層、4…低屈折率層、5…被変調光、6…変調駆動光、8…スライドガラス(誘電体)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本発明に係る空間光変調素子の第1の実施形態を示す図である。この空間光変調素子1は、誘電体からなるプリズム2(誘電体)と、光照射によって屈折率が変化する光機能性材料からなる光機能性材料層3との間に、プリズム2を構成する誘電体の屈折率(n1)よりも低い屈折率(n2)をもつ透明材料からなる低屈折率層4を介在させてなり、プリズム2と低屈折率層4との界面で、プリズム2を通して入射される被変調光5の反射が変調駆動光6により制御されるように構成されている。
【0019】
本発明において被変調光5を入射する誘電体層の形状としては、このプリズム2に限定されず、板状、厚板状、ブロック状などの他の形状とし得る。断面三角形をなすプリズム2を用いることにより、その第1面に低屈折率層4と光機能性材料層3とを積層し、プリズム2の別面から被変調光5を入射し、プリズム2の残余の面から反射した光を出射させる構造が容易に構築できることから、好ましい。
【0020】
プリズム2は、被変調光5の波長に対して透明である誘電体から形成される。誘電体は、特に被変調光の波長に対する屈折率が1.4〜3の範囲にある材質からなるものが好ましい。具体的には光学ガラス(たとえばBK7等)、石英ガラス、高屈折率ガラス、ポリカーボネート等が挙げられる。プリズム2と低屈折率層4の屈折率の差(n1−n2)は0.05〜0.9の範囲が好適である。
【0021】
前記低屈折率層4を構成する材料は、その材料の屈折率(n2)が、プリズム2を構成する誘電体の屈折率(n1)よりも小さい(すなわち、n2<n1の関係を有する。)透明材料であればよく、被変調光の波長に対し耐光性の良好な無機材料又は有機材料が好ましい。無機材料としては、フッ化物結晶、フッ素添加石英ガラスなどが挙げられる。有機材料としては、例えば含フッ素樹脂が挙げられる。
【0022】
無機材料からなる低屈折率層4は、スパッタ法、CVD法、蒸着法などによって成膜できる。また有機材料からなる低屈折率層4は、樹脂溶液をスピンコート法などによって成膜できる。製造コスト、製造の容易さなどの利点から、本発明の空間光変調素子1に用いる低屈折率層4としては、有機材料、特に含フッ素樹脂から形成した層であることが好ましい。
【0023】
この低屈折率層4の厚さは100〜1000nm、好ましくは200〜1000nm、より好ましくは300〜800nmの範囲とする。低屈折率層の厚さは、本発明の空間光変調素子に入射する被変調光の波長に応じて変更するのが好ましい。通常、低屈折率層4の厚さが前記範囲であれば、被変調光5の変調が良好に行われ、充分な耐久性を得ることができ、長寿命の空間光変調素子1を得ることができる。
【0024】
本発明の好適な実施形態において、低屈折率層4は含フッ素樹脂からなることが好ましい。さらにこの含フッ素樹脂は、C−H結合を有しない非結晶性の含フッ素重合体からなることが好ましい。この含フッ素重合体はC−H結合の代わりにC−F結合(すなわち、炭素−フッ素結合)を有する。
【0025】
含フッ素重合体としては、テトラフルオロエチレン樹脂、ペルフルオロ(エチレン−プロピレン)樹脂、ペルフルオロアルコキシ樹脂、ビニリデンフルオライド樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂等が使用される。しかしながら、これらの含フッ素樹脂は結晶性を有するため、光の散乱が起こり、透明性が劣り、変調駆動光6が照射された際に融解などが生じ、耐久性が劣る可能性がある。
【0026】
これに対して、非結晶性の含フッ素重合体は、結晶による光の散乱がないため、透明性に優れる。該含フッ素重合体としては、C−H結合を有しない非結晶性の含フッ素重合体であれば何ら限定されず、主鎖に環構造を有する含フッ素重合体が好ましい。主鎖に環構造を有する含フッ素重合体としては、含フッ素脂肪族環構造、含フッ素イミド環構造、含フッ素トリアジン環構造または含フッ素芳香族環構造を有する含フッ素重合体が好ましい。含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体としては、含フッ素脂肪族エーテル環構造を有する重合体がさらに好ましい。
【0027】
含フッ素脂肪族環構造を有する重合体としては、含フッ素環構造を有するモノマーを重合して得られる重合体、少なくとも2つ(好ましくは2つ)の重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合して得られる主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体が好適である。
【0028】
含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーを重合して得られる主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体は、特公昭63−18964号公報等により知られている。即ち、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)等の含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーを単独重合することにより、またこのモノマーをテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニールエーテル)などのラジカル重合性モノマーと共重合することにより主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体が得られる。
【0029】
また、少なくとも2つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合して得られる主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体は、特開昭63−238111号公報や特開昭63−238115号公報等により知られている。即ち、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)やペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等のモノマーを環化重合することにより、またはこのようなモノマーをテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)などのラジカル重合性モノマーと共重合することにより主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体が得られる。
【0030】
前記重合体のうち、ペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)を環化重合して得られた、主鎖に脂肪族環構造を有し、C−H結合を有しない非結晶性の含フッ素重合体の例としては、旭硝子社製の商品名サイトップ(屈折率は1.34)等が挙げられる。
【0031】
また、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)等の含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーとペルフルオロ(アリルビニルエーテル)やペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等の少なくとも2つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーとを共重合することによっても主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体が得られる。
【0032】
前記の含フッ素脂肪族環構造を有する重合体としては、具体的には以下の(I)〜(IV)式から選ばれる繰り返し単位を有するものが例示される。これらの含フッ素脂肪族環構造を有する重合体中において、フッ素原子の一部は、塩素原子で置換されていてもよい。
【0033】
【化1】

【0034】
[前記(I)〜(IV)式において、kは0〜5、mは0〜4、nは0〜1、k+m+nは1〜6、u、pおよびqは独立して0〜5、u+p+qは1〜6、RはFまたはCF、RはFまたはCF、RはFまたはCF、XはFまたはCl、XはF、Cl、ORまたはR(Rは炭素数1〜3のペルフルオロアルキル基)、である。]
含フッ素脂肪族環構造を有する重合体は、主鎖に環構造を有する重合体が好適であるが、環構造を有する繰り返し単位を20モル%以上、好ましくは40モル%以上含有するものが透明性、機械的特性等の面から好ましい。
【0035】
本発明において光機能性材料としては、カーボンナノチューブを必須とする。カーボンナノチューブとしては、シングルウォール・カーボンナノチューブであることが応答特性の点から好ましい。
【0036】
カーボンナノチューブは光照射により屈折率が変化することが知られており、紫外〜可視〜近赤外領域の波長の光、特に1〜2μm(より特徴的には1.3〜1.6μm)の領域の波長の光、を吸収して、光機能性材料として使用できる。
【0037】
本発明の空間光変調素子は、紫外〜可視〜近赤外領域の光変調素子として用いうる。すなわち、既存の光通信で用いられる1.55μmの波長の光を用いても、本発明による空間光変調素子は駆動できる。また本発明の空間光変調素子は、紫外〜可視領域の光を用いても駆動でき、該通信波長域で高速の応答特性が得られる。また本発明の空間光変調素子において使用されうる透明材料とは、該素子に入射する光、すなわち紫外〜可視〜近赤外領域の光、の波長において透明であることを意味する。
【0038】
本発明において、光機能性材料層はカーボンナノチューブを必須とする光機能性材料から形成した層であり、カーボンナノチューブのみからなる層であってもカーボンナノチューブと他の材料から形成した層であってもよく、後者の層であるのが好ましい。前者の層としては、カーボンナノチューブを積層した層が挙げられる。また後者の層としては、カーボンナノチューブと透明材料とから形成した層であるのが好ましく、カーボンナノチューブが透明材料に含まれてなる層であるのが好ましい。カーボンナノチューブが透明材料に含まれてなる層とは、カーボンナノチューブが透明材料中に均一に分散してなる層が好ましい。
【0039】
光機能性材料層を形成する透明材料とは、前述の誘電体層と光機能性材料層との間に設ける透明材料層に用いる透明材料と同じであっても、異なっていてもよい。また該透明材料は、特に近赤外領域で吸収がほとんどない材料が好ましい。
【0040】
また光機能性材料層の屈折率をn3とすると、このn3と低屈折率層の屈折率(n2)との関係は、n3≧n2であることが好ましく、n3>n2であることがより好ましい。特に光機能性材料層と低屈折率層との屈折率の差(n3−n2)は0.04〜0.9の範囲が好適である。
【0041】
本発明の素子の構成の具体例としては、誘電体層と特定の透明材料からなる低屈折率層を設け、さらにカーボンナノチューブを含む同じ特定の透明材料からなる層を設けて素子とする例が挙げられる。より詳細な例としては、ガラス基体に透明な含フッ素樹脂等からなる低屈折率層を設け、さらにカーボンナノチューブを分散させた同じ透明な含フッ素樹脂からなる層を設ける例が挙げられる。
【0042】
特にこの透明な含フッ素樹脂が溶液として供給された場合には、誘電体層に樹脂層を設ける際にスピンコート法等の方法が採用でき、かつ、カーボンナノチューブを容易に樹脂中に分散させることができ好ましい。また、他の具体的な構成の例としては、カーボンナノチューブを含む透明材料として、低屈折率層に用いた透明材料とは異なる他の透明材料(含フッ素樹脂に限定されない)を用いて、上記と同様に素子を得ることが挙げられる。
【0043】
本発明の空間光変調素子1において、光機能性材料層3の厚さは100〜1000nm、好ましくは150〜1000nm、より好ましくは250〜800nmの範囲とする。
光機能性材料層3の厚さが前記範囲であれば、被変調光5の変調が良好に行われ、充分な耐久性を得ることができ、長寿命の空間光変調素子1を得ることができる。
次に、この空間光変調素子1における光変調動作特性を説明する。
【0044】
この空間光変調素子1を用いて光変調を行う方法の例としては、図に示す例が挙げられる。図1は、断面三角形をなしたプリズム2の1つの面に低屈折率層4と光機能性材料層3とを積層し、プリズム2の積層面とは別の面から被変調光5を入射する。被変調光5は、入射角θが所定の範囲内である時にプリズム2と低屈折率層4との界面で反射され、プリズム2の残りの面から出射する。この時の入射角θの範囲は40度〜85度の範囲とされるのが好ましい。特に変調駆動光6を光機能性材料層3に照射した時に導波モードが生成され被変調光5が閉じ込められる角度に合わせることが好ましい。プリズム2に入射する被変調光5の波長は特に限定されない。
【0045】
空間光変調素子1の光機能性材料層3に、必要に応じて変調駆動光6を照射すると、光機能性材料層3の消衰係数(k)が増加する。この消衰係数(k)の増加に伴って、前記被変調光5の反射率が鋭敏に変化し、変調駆動光6のON/OFFによってプリズム2から出射する被変調光5の変調が行われる。変調駆動光6を光機能性材料層3に照射した時に導波モードが生成され被変調光5が閉じ込められる角度に合わせて被変調光5を入射した場合、変調駆動光6を照射しないOFF時には、被変調光5の反射率が変化せず、ほぼ全ての入射光がプリズム2と低屈折率層4との界面で反射され、プリズム2の出射面から出射する。一方、光機能性材料層3に変調駆動光6を照射する(ON時)と、光機能性材料層3の消衰係数(k)が増加し、この消衰係数(k)の増加に伴って、被変調光5の反射率が急落し、プリズム2の出射面から出射する被変調光5が急激に弱くなるか、又は実質的に無くなる。ここで被変調光5の反射率の急落は、プリズム2と低屈折率層4との界面から、低屈折率層4、光機能性材料層3までの間で定在波が導波モードとして生成し、結果として反射が見られなくなるためである。従って、変調駆動光6のON/OFFによって、被変調光5の光スイッチング又は強度変調が可能である。
【0046】
変調駆動光6のON/OFF切り換えにより生じる反射率変化は、ON時では0.2ピコ秒以下、OFF時では1ピコ秒以下であり、この空間光変調素子1により極めて高速度の光変調が可能となる。
【0047】
空間光変調素子1は、従来の金属層に代えて透明な低屈折率層4を備え、被変調光5をプリズム2と低屈折率層4との界面で反射させ、光機能性材料3に変調駆動光6を必要に応じて照射することによる。すなわち変調駆動光6のON/OFFによって被変調光5の変調を行うものなので、光機能性材料層3に照射される変調駆動光6及び被変調光5によって素子が受けるダメージが低減され、フェムト秒レーザー光などの高パワーレーザー光を用いても長期間安定に動作し、耐久性に優れ、長寿命の素子を得ることができる。
【0048】
また金属層に代えて透明な低屈折率層4を備えた構成としたことで、変調駆動光6のON/OFFによってより高感度に被変調光5の反射率が変化し、変調応答感度が極めて高くなり、より高速度での変調が可能となり、ピコ秒オーダーの応答速度を有する空間光変調素子が実現可能となる。
【0049】
さらに金属層に代えて透明な低屈折率層4を備えた構成としたことで、被変調光5の入射角と出射角が大きくなり、変調駆動光6が出射側に漏れ出して検出されることに起因するノイズの発生が低減される。
【0050】
図2は本発明の空間光変調素子の第2の実施形態を示す図である。この空間光変調素子7は、図1に示す第1の実施形態による空間光変調素子1とほぼ同様の構成要素を備えて構成されており、同じ構成要素には同一符号を付してある。この空間光変調素子7が第1の実施形態による空間光変調素子1と異なる点は、プリズム2と同じ屈折率(n1)を持つスライドガラス8を用い、このスライドガラス8の一面側に低屈折率層4と光機能性材料層3とを積層し、そのスライドガラス8の他面側にプリズム2を固定し、プリズム2から入射した被変調光5を、スライドガラス8と低屈折率層4との界面で反射させるように構成した点である。プリズム2とスライドガラス8とは、それらの材料と同じ屈折率のマッチング液や透明樹脂接着剤を介して固定することが望ましい。
【0051】
空間光変調素子7は、図1に示す第1の実施形態による空間光変調素子1と同様に、変調駆動光6のON/OFFによって被変調光5を高速度変調することが可能であり、第1の実施形態による空間光変調素子1と同様の効果を得ることができる。さらに空間光変調素子1は、スライドガラス8の一面側に低屈折率層4と光機能性材料層3とを積層したものなので、スピンコート法などによって低屈折率層4と光機能性材料層3とを形成が容易であり製造し易い。
他の形態としては、プリズムに代えて回折格子を用いて空間光変調素子を構成した例が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、フェムト秒レーザー光などの極短パルスの高パワーレーザー光を用いても長期間安定に動作し、耐久性に優れ、長寿命の空間光変調素子が提供できる。さらに既存の1.3〜1.6μmの波長の光源に対しても高速の応答特性が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と、光照射によって複素屈折率が変化する光機能性材料から形成した光機能性材料層との間に、前記誘電体より低屈折率である透明材料から形成した低屈折率層が介在してなり、該光機能性材料層がカーボンナノチューブを必須とする光機能性材料から形成した層であることを特徴とする空間光変調素子。
【請求項2】
低屈折率層を形成する透明材料が有機材料である請求項1に記載の空間光変調素子。
【請求項3】
低屈折率層を形成する透明材料が含フッ素樹脂である請求項1に記載の空間光変調素子。
【請求項4】
低屈折率層を形成する透明材料がC−H結合を有しない非結晶性の含フッ素重合体から形成した層である請求項1に記載の空間光変調素子。
【請求項5】
光機能性材料層が、カーボンナノチューブと、誘電体より低屈折率である透明材料とから形成した層であり、該透明材料が低屈折率層を形成する透明材料と同じまたは異なる材料からなる請求項1〜4のいずれかに記載の空間光変調素子。
【請求項6】
光機能性材料層が、カーボンナノチューブと、前記低屈折率層を形成する透明材料と同じ材料とからなる請求項1〜4のいずれかに記載の空間光変調素子。
【請求項7】
カーボンナノチューブがシングルウォール・カーボンナノチューブである請求項1〜6のいずれかに記載の空間光変調素子。
【請求項8】
誘電体層が、透明材料から形成した層である請求項1〜7のいずれかに記載の空間光変調素子。
【請求項9】
誘電体層と、光照射によって複素屈折率が変化する光機能性材料から形成した光機能性材料層との間に、前記誘電体より低屈折率である透明材料から形成した低屈折率層を介在してなり、該光機能性材料層がカーボンナノチューブを必須とする光機能性材料から形成した層である空間光変調素子を用い、該誘電体層と低屈折率層との界面で該誘電体層を通して入射される被変調光の反射を変調駆動光により制御することを特徴とする空間光変調方法。
【請求項10】
変調駆動光による被変調光の反射の制御を、被変調光の反射と、導波モードによる被変調光の閉じ込めとの組み合わせにより行う請求項9に記載の空間光変調方法。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/054934
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515972(P2005−515972)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017964
【国際出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】