説明

窒化ケイ素フィルターの製造方法及び窒化ケイ素フィルター

【課題】より短時間で、しかもより低温での焼成反応を行えばよい窒化ケイ素フィルターの製造方法及び窒化ケイ素フィルターを提供する。
【解決手段】ケイ素を含む原料を主成分とすると共に、造孔剤を含む原料を、所定の配合によって混合及び成形を行った後、その成形物を窒素中において反応焼結を行う窒化ケイ素フィルターの製造方法であって、前記材料中にジルコニウムを含む原料を混入させて、窒素中で窒化反応のための第1段焼成を行った後、その第1段焼成より高温で焼結反応のための第2段焼成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ケイ素を含む原料を主成分とすると共に、造孔剤を含む材料を、所定の配合によって混合及び成形を行った後、その成形物を窒素中において反応焼結を行う窒化ケイ素フィルターの製造方法及び窒化ケイ素フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にフィルターとして、コージェライトセラミックスフィルターや、炭化ケイ素セラミックスフィルターが提案されている。しかし、コージェライトセラミックスフィルターは耐熱衝撃性に優れるものの、耐熱性、耐食性の点で必ずしも十分ではなく、また炭化ケイ素セラミックスフィルターは耐熱性、耐食性に優れるものの、耐熱衝撃性の点で必ずしも十分ではなかった。
【0003】
そこで、窒化ケイ素(Si34)焼結体は、強度や耐熱衝撃性等に優れることから、例えば、エンジン用部品材料、ベアリング材料、工具材料等の各種構造用材料として開発が進められ、その実用化が積極的に進められている。また、様々な研究開発がなされている中で、高強度高靭性な製品が得られている。
【0004】
そして、ディーゼルエンジンから排出される広い粒度分布を有する粒状物質の捕集を効率的に行うために、窒化ケイ素焼結体からなるセラミックフィルターを提供することが考えられている。
窒化ケイ素から成るフィルターは、耐熱性、耐食性及び耐熱衝撃性に優れ、さらに柱状結晶を多孔体の隔壁の気孔部の内壁表面に形成させて表面積を大きくし、流路内を漂う超微粒子を効率よく捕集する高性能セラミックフィルターを製造することが可能である。
従来、上記窒化ケイ素から成るフィルターの製造方法としては、材料中に、ケイ素を含む原料を主成分とすると共に、アルミナ(Al23)やイットリア(Y23)や鉄或いは鉄の化合物を含み、窒素中で窒化反応のための第1段焼成を行った後、その第1段焼成よりも高温で焼結反応のための第2段焼成を行うことが提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−219318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の製造方法では、第2段焼成で焼結反応を行わせるための温度が1800℃以上という高温で、しかも、長時間その温度に置かなければ強度が出ないというような欠点があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、より短時間で、しかもより低温での焼成反応が可能な窒化ケイ素フィルターの製造方法及び強度が高く圧力損失が小さい窒化ケイ素フィルターを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の窒化ケイ素フィルターの製造方法における第1の特徴構成は、ケイ素を含む原料を主成分とすると共に、造孔剤を含む原料を、所定の配合によって混合及び成形を行った後、その成形物を窒素中において反応焼結を行う窒化ケイ素フィルターの製造方法であって、前記材料中にジルコニウムを含む原料を混入させて、窒素中で窒化反応のための第1段焼成を行った後、その第1段焼成より高温で焼結反応のための第2段焼成を行うところにある。
【0009】
本発明の第1の特徴構成によれば、材料中にジルコニウムを含む原料を混入させることにより、第1段焼成において早く窒化するばかりか、第2段焼成において、1800℃より低温で短時間に焼結し、緻密な骨格を有することにより強度の高いフィルターを製造できる。
【0010】
本発明の第2の特徴構成は、前記第1段焼成は、1000℃〜1450℃で6時間以上行い、前記第2段焼成は、1700℃〜1800℃未満で3〜12時間行うところにある。
【0011】
本発明の第2の特徴構成によれば、前記第1段焼成の1000℃〜1450℃で短時間に窒化して、前記第2段焼成で、従来より低温で短時間に高い強度の焼結物が得られる。
【0012】
本発明の第3の特徴構成は、焼結助剤として、マグネシアスピネル(MgAl24)、イットリア(Y23)、アルミナ(Al23)、マグネシア(MgO)の内の少なくとも1種を含むものであるところにある。
【0013】
本発明の第3の特徴構成によれば、ジルコニアが安定化し、焼成時におけるジルコニアの作用を効果的に発揮できる。しかも、マグネシアスピネル、イットリア、アルミナ、マグネシアなどの存在で、焼結時に窒化ケイ素の柱状結晶粒が発達した微細組織が形成され、強度と靭性が著しく向上した機械的特性の高い焼結体が得られる。
【0014】
本発明の第4の特徴構成は、前記ケイ素を含む原料として、5〜500μmの粒径の物を使用するところにある。
【0015】
本発明の第4の特徴構成によれば、5μm未満の粒径の微小な原料が含まれないために、焼結によって得られた窒化ケイ素が過剰に緻密に成ることを防止でき、通気孔を確保して圧力損失を低下させない。また、100μmを超えて500μm程度の大きい粒径を有するケイ素を含む原料の窒化対象材料として進めることができ、安価に高い強度を有したフィルターとしての性能を高く維持できる。
【0016】
本発明の窒化ケイ素フィルターの特徴構成は、質量%で、窒化ケイ素を90.0〜99.6%、Zrを0.1〜4.0%、酸素及び/又は焼結助剤を0.3〜6.0%からなる組成で、内部に窒化ケイ素の柱状結晶を形成し、圧縮強度15MPa以上で圧力損失が200kPa以下であるところにある。
【0017】
本発明の窒化ケイ素フィルターの特徴構成によれば、表面積が大きく、さらに強度が高く圧力損失の小さい靭性の優れたフィルターを、短時間で、しかも従来より低温の焼成により成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態のフィルターの圧力損失を測定する試験方法を示す概略図である。
【図2】実施形態のフィルターの圧縮強度を測定する試験方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を説明する
【0020】
本発明の窒化ケイ素フィルターの製造方法について説明する。
ケイ素を含む原料を主成分とする粒径5〜500μmの物と共に、焼結助剤と造孔剤とを含む材料を、所定の配合によって混合及び成形を行った後、その成形物を窒素中において反応焼結を行う。
つまり、前記材料中にジルコニウムを含む原料を混入させて、窒素中で窒化反応のための第1段焼成を1000℃〜1450℃で6時間以上行った後、その第1段焼成より高温で焼結反応のための第2段焼成を1700℃〜1800℃未満で3〜12時間行って窒化ケイ素フィルターを得る。
尚、第2段焼成は、望ましくは1700〜1750℃で、より望ましくは、1725〜1750℃が良く、強度、圧損の低いフィルターができる。
前記焼結助剤として、マグネシアスピネル(MgAl24)、イットリア(Y23)、アルミナ(Al23)、マグネシア(MgO)の内の少なくとも1種からなるものを添加しても良い。
【0021】
次に、本発明の実施例と比較例との対比を行う。
【実施例1】
【0022】
1.ケイ素を含む原料として粒径5〜400μmの金属ケイ素と、窒化ケイ素に対して、ジルコニア(ZrO2)、マグネシアスピネル(MgAl24)、造孔剤と成形用有機バインダーを添加し、それらの原料を混合した。
2.混合粉末をプレス型で加圧成形して成形体を得た。
3.成形体を、大気中の約500℃で脱脂処理した。
4.脱脂した成形体を、第1段焼成として窒素中で1000℃〜1450℃になるまで100℃/h〜200℃/hで昇温後、6時間以上保持して金属ケイ素の窒化反応を行わせた。
5.続いて第2段焼成として、1700℃〜1800℃未満になるまで100℃/h〜200℃/hで昇温後、3〜12時間保持して焼結処理を行って焼成品を得た。
尚、上記焼成品の組成割合は、質量%で、Si58.50%、N39.16%、Zr0.88%、その他1.46%となった。
前記造孔剤としては、ポリエチレン、ポリスチレン、フェノール樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA),又はポリビニルブチラール、デンプン等の少なくとも一種の有機物質が使用される。
【実施例2】
【0023】
ケイ素を含む原料として、粒径5〜500μmの物を使用した以外は、実施例1と同じである。
【実施例3】
【0024】
焼成材料として、ケイ素を含む原料として粒径5〜400μmの金属ケイ素と、窒化ケイ素に対して、ジルコニア(ZrO2)、マグネシアスピネル(MgAl24)、造孔剤を添加し、それ以外の処理は、実施例1と同様にした。
つまり、組成割合としては、質量%で、Si56.52%、N37.83%、Zr3.39%、その他2.26%となる。
【実施例4】
【0025】
焼成材料として、ケイ素を含む原料として粒径5〜400μmの金属ケイ素と、窒化ケイ素に対して、ジルコニア(ZrO2)、マグネシアスピネル(MgAl24)、造孔剤を添加し、それ以外の処理は、実施例1と同様にした。
結果として組成割合は、質量%で、Si59.06%、N39.53%、Zr0.18%、その他1.24%となる。
【実施例5】
【0026】
焼成材料として、ケイ素を含む原料として粒径5〜400μmの金属ケイ素と、窒化ケイ素に対して、ジルコニア(ZrO2)、マグネシアスピネル(MgAl24)、造孔剤を添加し、それ以外の処理は、実施例1と同様にした。
結果として組成割合は、質量%で、Si58.50%、N39.16%、Zr0.88%、その他1.46%となる。
【実施例6】
【0027】
焼成材料として、ケイ素を含む原料として粒径5〜400μmの金属ケイ素と、窒化ケイ素に対して、ジルコニア(ZrO2)、マグネシアスピネル(MgAl24)、造孔剤を添加し、それ以外の処理は、実施例1と同様にした。
結果として組成割合は、質量%で、Si56.52%、N37.83%、Zr0.85%、その他4.80%となる。
【実施例7】
【0028】
焼成材料として、ケイ素を含む原料として粒径5〜400μmの金属ケイ素と、窒化ケイ素に対して、ジルコニア(ZrO2)、マグネシアスピネル(MgAl24)、造孔剤を添加し、それ以外の処理は、実施例1と同様にした。
結果として組成割合は、質量%で、Si59.20%、N39.62%、Zr0.89%、その他0.30%となる。
【0029】
〔比較例1〕
焼成材料として、ケイ素を含む原料として粒径5〜400μmの金属ケイ素と、窒化ケイ素に対して、マグネシアスピネル(MgAl24)、造孔剤を添加し、それ以外の処理は、実施例1と同様にした。
結果として組成割合は、質量%で、Si67.38%、N31.27%、Zr0.00%、その他1.35%となる。
【0030】
〔比較例2〕
焼成材料として、ケイ素を含む原料として粒径0〜400μmの金属ケイ素と、窒化ケイ素に対して、ジルコニア(ZrO2)、マグネシアスピネル(MgAl24)、造孔剤を添加し、それ以外の処理は、実施例1と同様にした。
結果として組成割合は、質量%で、Si58.50%、N39.16%、Zr0.88%、その他1.46%となる。
【0031】
〔比較例3〕
焼成材料として、ケイ素を含む原料として粒径5〜400μmの金属ケイ素と、窒化ケイ素に対して、ジルコニア(ZrO2)、マグネシアスピネル(MgAl24)、造孔剤を添加し、それ以外の処理は、実施例1と同様にした。
結果として組成割合は、質量%で、Si58.50%、N39.16%、Zr0.88%、その他1.46%となる。
【0032】
〔比較例4〕
焼成材料として、ケイ素を含む原料として粒径5〜400μmの金属ケイ素と、窒化ケイ素に対して、ジルコニア(ZrO2)、マグネシアスピネル(MgAl24)、造孔剤を添加し、それ以外の処理は、実施例1と同様にした。
結果として組成割合は、質量%で、Si58.50%、N39.16%、Zr0.88%、その他1.46%となる。
【0033】
上記実施例1〜7と比較例1〜4の各物性の測定結果が、次の表1に示される。
【0034】
【表1】

【0035】
尚、気孔率は、JIS R1634のファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法による。
圧力損失は、図1に示すように、外径25mm×全長75mm 200CPSI、12milのハニカム状試験片1を作成し、その試験片をフィルターFとして通気路2に配置して、空気を30L/minながし、ハニカム前後の差圧(kPa)を圧力計3で測定する。
強度は、図2に示すように、7セル×7セル×12mmの試験片1に、それらの通気孔に沿った方向から圧力Pを加えて圧縮強度(MPa)を測定する。
【0036】
つまり、原料の粒径については、実施例1、実施例2と比較例2とを対比させてみると、実施例1と実施例2とはあまり大きな差はないが、特に比較例2の圧力損失が大きく、5μm未満の微粒子が含まれると通気性が低下することが分かる。
【0037】
原料の一部としてのジルコニアについては、特に、実施例3、実施例4と比較例1との対比において、焼結体の強度(最低10.0MPa以上あれば使用できると考えられている)が低下しており、ケイ素の窒化が完了する前に、焼結処理が行われていると考えられる。つまり、所定の強度を得るためには、窒化反応に長時間をかけてしかも焼結温度を高くしなければならないと思われる。従って、表1より、Zrは、0.1〜4.0%、その他(酸素等)は0.3〜6.0%が適切であると分かる。
【0038】
造孔剤については、気孔率に影響を与えるもので、その添加量に略比例するために目標に合わせて設計できるが、実施例1、実施例5と、比較例3〜6との対比において、圧力損失の値から、フィルターとしては、現実面として約80〜200kPaが適切であると判断される。つまり、少なすぎると圧力損失が大きすぎ、多すぎると強度が低下する。
【0039】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0040】
〈1〉 焼結助剤として、実施形態ではマグネシアスピネル(MgAl24)を使用したが、イットリア(Y23)、アルミナ(Al23)、マグネシア(MgO)などの中から選択して使用してもよい。
〈2〉 前記ジルコニアは、焼結助剤が安定化の役割を示すが、一般に知られる安定化ジルコニアや部分安定化ジルコニア、窒化ジルコニウムも使用できる。尚、ジルコニアに代えて窒化ジルコニウムも使用できるが、ジルコニアの方が、反応焼結時に高速で窒化が進むので良い。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、排ガス中に含まれる有害成分の除去のためのフィルターとして使用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 試験片
2 通気路
F フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素を含む原料を主成分とすると共に、造孔剤を含む原料を、所定の配合によって混合及び成形を行った後、その成形物を窒素中において反応焼結を行う窒化ケイ素フィルターの製造方法であって、
前記材料中にジルコニウムを含む原料を混入させて、窒素中で窒化反応のための第1段焼成を行った後、その第1段焼成より高温で焼結反応のための第2段焼成を行う
窒化ケイ素フィルターの製造方法。
【請求項2】
前記第1段焼成は、1000℃〜1450℃で6時間以上行い、前記第2段焼成は、1700℃〜1800℃未満で3〜12時間行う請求項1に記載の窒化ケイ素フィルターの製造方法。
【請求項3】
焼結助剤として、マグネシアスピネル(MgAl24)、イットリア(Y23)、アルミナ(Al23)、マグネシア(MgO)の内の少なくとも1種を含むものである請求項1または2に記載の窒化ケイ素フィルターの製造方法。
【請求項4】
前記ケイ素を含む原料として、5〜500μmの粒径の物を使用する請求項1〜3の内のいずれか一項に記載の窒化ケイ素フィルターの製造方法。
【請求項5】
質量%で、窒化ケイ素を90.0〜99.6%、Zrを0.1〜4.0%、酸素及び/又は焼結助剤を0.3〜6.0%からなる組成で、内部に窒化ケイ素の柱状結晶を形成し、圧縮強度15MPa以上で圧力損失が200kPa以下の窒化ケイ素フィルター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−235421(P2010−235421A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87898(P2009−87898)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】