説明

組電池の監視装置、及び該監視装置を備えた電池パック

【課題】異常の単位セルが所定数発生するまで組電池の充電経路及び/又は放電経路の遮断を許容することにより、異常の度に組電池全体を遮断することを極力回避できる組電池の監視装置及び該監視装置を備えた電池パックを提供する。
【解決手段】組電池の監視装置は、共通の単位セルに対して二重化された第1の電圧検出手段と第2の電圧検出手段を有している。第1、2の電圧検出手段は、それぞれ異なるレベルの単位セルの異常を検出する。軽度の過充電状態の単位セルの、全セル数が基準割合を上回った場合に、充電経路が遮断される。つまり、充電経路の遮断は異常の単位セルが複数発生するまで許容される。一方、重度の過充電状態の単位セルが少なくとも1つ存在する場合、速やかに充電経路が遮断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池からなる単位セルを複数個直列に接続して構成される組電池について、該組電池を構成する個々の単位セルの電圧を検出してセルの状態を監視する組電池の監視装置、及び該監視装置を備えた電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車等の駆動用として、複数の二次電池を電気的に直列接続した組電池が知られている。この種の二次電池の一例として、リチウムイオン電池が知られている。
【0003】
リチウムイオン電池は、容量が大きいという利点を有する反面、過充電状態や過放電状態ではその機能を発揮できなくなるという欠点を有する。
【0004】
したがって、組電池を使用する場合、過充電状態や過放電状態に至らないようにするため、各単位セルの充電状態を監視する必要がある。通常、組電池には各単位セルの状態を監視するための監視装置が接続され、その指標となる各単位セルの電圧又は電流を測定している。
【0005】
従来、監視装置の一例として、特許文献1には、ヒューズを介して2組の電池ブロックを直列に接続するとともに、単位セルの出力側にコンタクタを接続した監視装置が開示されている。この監視装置は、単位セルに過電流が流れるとヒューズを溶断して単位セルの電流を遮断し、さらに、過電流を検出してコンタクタをオフに切替えて電流を遮断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−193776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている組電池の監視装置は、1つの単位セルに過電流が流れるとヒューズを溶断して電流を遮断するので、組電池全体を遮断することになる。この状態になると、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両は、モータでの走行ができなくなる。単位セルの状態が異常であっても組電池全体として許容できる範囲であるならば、異常の度に組電池全体を遮断することは極力避けるべきである。
【0008】
したがって、本発明は、このような問題点を解決することを課題としてなされたものであり、その目的とするところは、異常の単位セルが複数発生するまで組電池の充電回路及び/又は放電回路の遮断を許容することにより、異常の度に組電池全体を遮断することを極力回避できる組電池の監視装置、及び該監視装置を備えた電池パックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の組電池の監視装置は、二次電池からなる単位セルを複数個直列に接続して構成され、充電回路を有する組電池について、該組電池を構成する個々の単位セルの電圧を検出してセルの充電状態を監視する組電池の監視装置である。組電池の監視装置は、電圧検出手段と、閾値設定手段と、配線遮断手段とを備え、閾値設定手段により第1の電圧閾値が設定され、監視手段をさらに備え、監視手段は、電圧検出手段により第1の電圧閾値を上回る単位セルが複数検出された場合、前記充電経路を遮断する。
【0010】
この構成によると、異常(電圧閾値を上回る状態)の単位セルが複数発生するまで組電池の充電経路の遮断を許容できるので、異常の度に組電池全体を遮断することを極力避けることができる。
【0011】
好ましくは、監視装置は、さらに第2の電圧閾値を有し、電圧検出手段により前記第2の電圧閾値を上回る単位セルが少なくとも1個検出された場合、前記充電経路を遮断する。
【0012】
この構成によると、組電池全体を遮断すべき事象に陥った場合に、組電池の充電経路を確実に遮断できる。
【0013】
好ましくは、監視装置は、第1の電圧閾値を上回るセル数の組電池全セル数に対する割合を演算し、該演算結果が予め定められた基準割合を超えた場合、充電経路を遮断する。また、基準割合は、50%を超え100%未満の範囲から選ばれる値である。
【0014】
この構成によると、充電経路を遮断する条件をよりきめ細かに設定できる。
【0015】
さらに好ましくは、電圧検出手段は、共通の単位セルに並列に接続される第1の電圧検出手段と第2の電圧検出手段を備え、第1の電圧検出手段には、第1の電圧閾値が設定され、第2の電圧検出手段には、第2の電圧閾値が設定される。
【0016】
この構成によると、単位セルに対して二重化された第1の電圧検出手段と第2の電圧検出手段により、それぞれ異なるレベルの単位セルの異常を検出できる。また、仮に第1の電圧検出手段と第2の電圧検出手段のいずれか一方が故障した場合でも、残りの電圧検出手段で単位セル電圧の検出を継続できる。
【0017】
さらに好ましくは、第1の電圧検出手段と第2の電圧検出手段のうちの一方の電圧検出手段は、マイコンを含む回路で構成され、他方の電圧検出手段は、マイコンを含まない回路で構成される。
【0018】
全ての電圧検出手段を、マイクロコンピュータを含む回路で構成した場合、直列接続する単位セルの数が増えると、マイクロコンピュータを主体とした回路では回路規模の増加と消費電力の増加が比例関係にあるため、電池容量は増えないのに消費電力が増大するという問題が生じるが、この構成によると、直列接続する単位セルの数が増えても消費電力を極力抑えることができる。また、マイコンは外来ノイズ等の要因により暴走する虞を有するため、全ての電圧検出手段を、マイクロコンピュータを含む回路で構成した場合と比較して電圧検出手段における単位セルの異常発生の検出や判定の確実性が担保される。
【0019】
本発明の組電池の監視装置は、二次電池からなる単位セルを複数個直列に接続して構成され、放電回路を有する組電池について、該組電池を構成する個々の単位セルの電圧を検出してセルの放電状態を監視する組電池の監視装置である。組電池の監視装置は、電圧検出手段と、閾値設定手段と、配線遮断手段とを備え、前記閾値設定手段により第3の電圧閾値が設定され、監視手段をさらに備え、前記監視手段は、電圧検出手段により第3の電圧閾値を下回る単位セルが複数検出された場合、放電経路を遮断する。この構成によると、異常(電圧閾値を上回る状態)のセルが複数発生するまで組電池の放電経路の遮断を許容できるので、異常の度に組電池全体を遮断することを極力避けることができる。
【0020】
好ましくは、監視装置は、さらに第4の電圧閾値を有し、電圧検出手段により第4の電圧閾値を下回る単位セルが少なくとも1個検出された場合、放電経路を遮断する。この構成によると、組電池全体を遮断すべき事象に陥った場合に、組電池の放電経路を確実に遮断できる。
【0021】
好ましくは、監視装置は、第3の電圧閾値を下回るセル数の組電池全セル数に対する割合を演算し、該演算結果が予め定められた基準割合を超えた場合、放電経路を遮断する。この構成によると、放電経路を遮断する条件をよりきめ細かに設定できる。
【0022】
さらに好ましくは、電圧検出手段は、共通の単位セルに並列に接続される第3の電圧検出手段と第4の電圧検出手段を備え、第3の電圧検出手段には、第3の電圧閾値が設定され、第4の電圧検出手段には、第4の電圧閾値が設定される。この構成によると、単位セルに対して二重化された第3の電圧検出手段と第4の電圧検出手段により、それぞれ異なるレベルの単位セルの異常を検出できる。また、仮に第3の電圧検出手段と第4の電圧検出手段のいずれか一方が故障した場合でも、残りの電圧検出手段で単位セル電圧の検出を継続できる。
【0023】
さらに好ましくは、第3の電圧検出手段と第4の電圧検出手段のうちの一方の電圧検出手段は、マイコンを含む回路で構成され、他方の電圧検出手段は、マイコンを含まない回路で構成される。また、第3の電圧検出手段は、前記第1の電圧検出手段であり、第4の電圧検出手段は、前記第2の電圧検出手段である。全ての電圧検出手段を、マイクロコンピュータを含む回路で構成した場合、直列接続する単位セルの数が増えると、マイクロコンピュータを主体とした回路では回路規模の増加と消費電力の増加が比例関係にあるため、電池容量は増えないのに消費電力が増大するという問題が生じるが、この構成によると、直列接続する単位セルの数が増えても消費電力を極力抑えることができる。また、マイコンを含まない電圧検出手段を有するので、全ての電圧検出手段を、マイクロコンピュータを含む回路で構成した場合と比較して電圧検出手段における単位セルの異常発生の検出や判定の確実性が担保される。
【0024】
さらに好ましくは、第3の電圧検出手段は、前記第1の電圧検出手段であり、第4の電圧検出手段は、前記第2の電圧検出手段である。この構成によると、電圧検出手段を新たに設ける必要がなく、監視装置本体を小型にできる。
【0025】
さらに好ましくは、前記単位セルは、リチウムイオン電池であり、組電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車の駆動用電源である。また、二次電池からなる単位セルを複数個直列に接続して構成され、前記充電経路及び/又は前記放電経路を有する前記組電池と、請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の組電池の監視装置を備えている。この構成によると、高いエネルギ密度を有する一方、より厳密な過充電或いは過放電対策を要するリチウムイオン電池を単位セルとして組電池を構成することにより、リチウムイオン電池の状態を監視して安全に制御したうえで当該電池の性能を十分に引き出すことができる。また、組電池を電気自動車、ハイブリッド自動車の駆動用として用いるので、高出力電圧を得るために多数の単位セルを直列接続して構成される駆動用電源の使用効率を向上させることができる。さらに、異常の単位セルが複数発生するまで組電池の充電経路及び/又は放電経路の遮断を許容できるので、異常の度に組電池全体を遮断することを極力回避できる電池パックを提供できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、異常の単位セルが複数発生するまで組電池の充電回路又は放電回路の遮断を許容することにより、異常の度に組電池全体を遮断することを極力回避可能な組電池の監視装置、及び該監視装置を備えた電池パックを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施の形態に係る組電池の監視装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】第1の電圧検出手段と第2の電圧検出手段の構成を説明する図である。
【図3】単位セルの電圧データが閾値設定部、監視手段で処理される手順を説明する図である。
【図4】本実施の形態に係る組電池の監視装置による異常判定と遮断制御を説明するフローチャートである。
【図5】本実施の形態に係る組電池の監視装置による異常判定と遮断制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態に係る組電池の監視装置について、添付図面に従って説明する。以下の実施の形態では、主として電気自動車、ハイブリッド自動車等の電動車両の駆動用として用いる組電池の監視装置を説明するが、本発明は例えば、電動二輪車の駆動用として用いる組電池にも同様に採用できる。
【0029】
なお、以下の説明では、方向や位置を表す用語(例えば、「後段」等)を便宜上用いるが、これらは発明の理解を容易にするためであり、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
図1に示すように、組電池の監視装置1(以下、単に「監視装置1」と称する。)は、二次電池からなる単位セルをN個(Nは2以上の整数)直列接続した直列接続体の各単位セルの電圧を検出し、各単位セルの状態を監視するものである。図示するように、監視装置1は、組電池2、電圧検出手段3及び監視手段(BMU[バッテリーマネージメントユニット])4を備えてなる。図において、符号5は電動車両全体の制御を司る上位CPUであり、図示しない通信回線を介して監視手段4と接続されている。
【0031】
組電池2は、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両に搭載される走行用モータの駆動用電源として用いられる。組電池2を構成する二次電池としては、例えばリチウムイオン電池が用いられる。なお、図1においては、組電池2を構成する単位セルの直列接続体の一部の単位セル20−1,20−2,20−3を記載しているが、実際には数百ボルトの高電圧を出力するため、数十個から数百個の単位セルの直列接続体で組電池2が構成される。
【0032】
図示するように、組電池2の両端の正極端子と負極端子には、充電経路6と放電経路7がそれぞれ接続されている。
【0033】
充電経路6は、組電池2の両端の正極端子と負極端子からそれぞれ引き出された電力供給線60と、電力供給線60における組電池2の正極端子側と負極端子側にそれぞれ接続された遮断器62a,62b(配線遮断手段)を有する。組電池2への充電の際は遮断器62aと62bとの間に充電器64が接続される。充電器64から組電池2への充電電力の遮断は遮断器62a,62bの開動作により電気的に実行される。
【0034】
同様に、放電経路7は、組電池2の両端の正極端子と負極端子からそれぞれ引き出された電力供給線70と、電力供給線70における組電池2の正極端子側と負極端子側にそれぞれ接続された遮断器72a,72b(配線遮断手段)を有する。遮断器72aと72bとの間にインバータを介して走行用モータ74等からなる負荷が接続される。組電池2から負荷への電力の遮断は遮断器72a,72bの開動動作により電気的に実行される。
【0035】
充電経路6の遮断器62a,62b及び放電経路7の遮断器72a,72bの制御については後述する。
【0036】
電圧検出手段3は、共通の単位セルに対して並列接続された2つの電圧検出回路で構成されている。図示するように、電圧検出手段3は、単位セル20−1の電圧を検出する第1の電圧検出回路(第1の電圧検出手段又は第3の電圧検出手段)30aと第2の電圧検出回路(第2の電圧検出手段又は第4の電圧検出手段)32aとを有する。同様に、単位セル20−2の電圧を検出する第1の電圧検出回路30bと第2の電圧検出回路32bとを有し、単位セル20−3の電圧を検出する第1の電圧検出回路30cと第2の電圧検出回路32cとを有する。
【0037】
また、第1の電圧検出回路30a,30b,30c、及び第2の電圧検出回路32a,32b,32cと、監視手段4との間には、第1の電圧検出回路30a,30b,30c、及び第2の電圧検出回路32a,32b,32cにより検出された単位セル20−1,20−2,20−3の電圧データを監視手段4に出力する冗長回路35a,35b,35cが設けられている。
【0038】
さらに、図2を参照して第1の電圧検出回路30aの構成を説明する。なお、第1の電圧検出回路30b,30cについても同一の構成であるので説明を省略する。図示するように、第1の電圧検出回路30aは、第1の切替え回路300と、アナログ−ディジタル変換回路310(以下、単に「AD変換回路310」と称する。)と、マイクロコンピュータ312(以下、単に「マイコン312」と称する。)を含む。
【0039】
第1の切替え回路300は、単位セル20−1の正極端子側と負極端子側の各電位検出点301a,302aとAD変換回路310との間を接続する電圧検出線303,304を有する。
【0040】
電圧検出線303には電界効果型トランジスタ305(スイッチング素子)が介在している。電界効果型トランジスタ305のゲート側には、電界効果型トランジスタ305を所定の周期でオン、オフさせるためのスイッチング回路306が接続されている。
【0041】
単位セル20−1の正極端子側の電位検出点301aと電界効果型トランジスタ305のドレイン間、及び単位セル20−1の負極端子側の電位検出点302aとAD変換回路310との間には、保護抵抗R1,R2が接続されている。また、電界効果型トランジスタ305のソースとAD変換回路310との間であって電圧検出線303,304との間には、コンデンサ307が接続されている。このような構成により、電界効果型トランジスタ305がオンした時に、保護抵抗R1,R2との間(つまり、コンデンサ307の接続点間)で変化する電位がコンデンサ307に蓄積される。
【0042】
AD変換回路310は、電界効果型トランジスタ305がオフした時に、コンデンサ307に蓄積された電位(つまり単位セル20−1の電圧データ)を取り込み、アナログ信号をディジタル信号に変換して該ディジタル信号を後段のマイコン312に出力する。
【0043】
マイコン312は、中央演算処理装置として機能するCPU、プログラム及びプログラムデータが記憶されたROM、CPUの動作領域及び電圧データを一時的に格納するバッファとして機能するRAMを有する(共に図示せず。)。マイコン312は図示しない電力供給源からの電力供給を受けて動作する。
【0044】
マイコン312内には、単位セル20−1の状態を検出するための図示しない第1の閾値設定部(閾値設定手段)が設定されており、該第1の閾値設定部には第1の判定閾値と第3の判定閾値(第1、第3の電圧閾値)が設定されている。この第1、第3の判定閾値については後述する。
【0045】
図示するように、第1の電圧検出回路30aは、マイコン312の異常動作や暴走を検出するための第1のウォッチドッグタイマWDT1を有する。マイコン312に異常が発生するとウォッチドッグタイマWDT1によりリセットをかけることによってマイコン312の異常動作や暴走を防止している。この第1のウォッチドッグタイマWDT1によるマイコン312の監視情報は、監視手段4を介して上位CPU5に出力されるようにしてある。
【0046】
次に、第2の電圧検出回路32aの構成を説明する。図2に示すように、第2の電圧検出回路32aは、第2の切替え回路320と、AD変換回路330と、第2の閾値設定部340(閾値設定手段)を含む。なお、第2の電圧検出回路32b,32cについても同一の構成であるので説明を省略する。図において、第2の切替え回路320及びAD変換回路330の構成は、第1の電圧検出回路30aの第1の切替え回路300と及びAD変換回路310と符号が異なるだけであり、構成は同じである。
【0047】
第2の閾値設定部340には第2の判定閾値と第4の判定閾値(第2、第4の電圧閾値)が設定されている。なお、第2、第4の判定閾値については、第1、第3の判定閾値と併せて後述する。
【0048】
このように、第2の電圧検出回路32aの電圧検出機能をCPU(マイコン)を用いたソフトウエア的な処理を行うことなくハードウェア回路のみによって実現している。その結果、故障や誤動作に対して信頼性が高くなる。また、全ての電圧検出回路を、マイクロコンピュータを含む回路で構成した場合と比較して消費電力を低減できる。
【0049】
冗長回路35aは、第1の電圧検出回路30a、及び第2の電圧検出回路32aにより得られた単位セル20−1の電圧データを監視手段4に出力する機能のほか、マイコン312の異常動作や暴走を検出する機能を有する。
【0050】
具体的には、冗長回路35a内に第2のウォッチドッグタイマWDT2が備えられており、第1のウォッチドッグタイマWDT1と協働してマイコン312を相互に監視している。この第2のウォッチドッグタイマWDT2によるマイコン312の監視情報も同様に、監視手段4を介して上位CPU5に出力されるようにしてある。
【0051】
次に、マイコン312内に設定されている第1の閾値設定部315(第1、第3の判定閾値)、及び第2の閾値設定部340(第2、第4の判定閾値)について、図3を参照して説明する。
【0052】
本実施の形態で用いられる単位セル20−1,20−2,20−3は、例えば、2.7V〜4.15Vの範囲で電動車両を正常に動作させるよう設計されている。第1、第3の判定閾値及び第2、第4の判定閾値は、この電圧範囲を逸脱する単位セルを検出するべく設定されている。なお、各判定閾値は、二次電池の種類や特性に応じて適宜に設定できる。
【0053】
具体的に説明すると、第1の判定閾値は各単位セル20−1,20−2,20−3について軽度の過充電を検出するための閾値電圧であり、例えば4.2Vが設定されている。第3の判定閾値は各単位セル各単位セル20−1,20−2,20−3について軽度の過放電を検出するための閾値電圧であり、例えば2.7Vが設定されている。
【0054】
一方、第2の判定閾値は各単位セル各単位セル20−1,20−2,20−3について重度の過充電を検出するための閾値電圧であり、例えば4.25Vが設定されている。第4の判定閾値は各単位セル各単位セル20−1,20−2,20−3について重度の過放電を検出するための閾値電圧であり、例えば2.65Vが設定されている。
【0055】
上述のように構成することにより、第1の電圧検出回路30a,30b,30cと第2の電圧検出回路32a,32b,32cとで二重化された電圧検出手段3によって単位セル20−1,20−2,20−3についてそれぞれ異なる異常のレベルを検出できる。
【0056】
次に、監視手段4について説明する。図3に示すように、監視手段4は第1の比較判定回路40(第1の比較判定手段)、第2の比較判定回路42(第2の比較判定手段)及び遮断回路44を有する。
【0057】
第1の比較判定回路40は、組電池2を構成する各電池セル20−1,20−2,20−3…20−nの電圧について、第1の判定閾値を上回るセル数、又は第3の判定閾値を下回るセル数の、全セル数に対する割合を演算し、該割合の演算結果が予め定められた基準割合を上回るか否かを判定する回路である。本実施の形態では、割合の演算結果が例えば基準割合55%を上回った場合に、その判定結果を遮断回路44に出力する構成としてある。なお、基準割合は、所定の単位セルの状態が異常であっても組電池2全体として許容できる範囲内(二次電池の特性等に応じて例えば、50%を超え100%未満の範囲から選ばれる値。)であれば適宜に設定できる。
【0058】
第2の比較判定回路42は、第2の判定閾値を上回る単位セル、又は第4の判定閾値を下回る単位セルが存在するか否かを判定する回路である。本実施の形態では、当該第2の比較判定回路42により、第2の判定閾値を上回る(重度の過充電状態)単位セル、又は第4の判定閾値を下回る(重度の過放電状態)単位セルが少なくとも1つ存在すると判定された場合に、その判定結果を遮断回路44に出力する構成としてある。
【0059】
遮断回路44(配線遮断手段)は、第1の比較判定回路40及び第2の比較判定回路42から出力された単位セル20−1,20−2,20−3の状態を示す情報に基づき、充電経路6の遮断器62a,62b、又は放電経路7の遮断器72a,72bを遮断する回路である。
【0060】
遮断回路44は、第1の比較判定回路40から充電経路6、又は放電経路7を遮断すべきである旨の情報を受信した場合、当該情報を上位CPU5に出力し、上位CPU5から返送される充電経路6、又は放電経路7の遮断許可信号を受けて当該充電経路6の遮断器62a,62b、又は放電経路7の遮断器72a,72bを遮断する。つまり、充電経路6、又は放電経路7の遮断は異常の単位セルが複数発生するまで許容される。
【0061】
また、遮断回路44は、第2の比較判定回路42から充電経路6、又は放電経路7を遮断すべきである旨の情報を受信した場合、当該情報を上位CPU5に出力することなく、充電経路6の遮断器62a,62b、又は放電経路7の遮断器72a,72bを直接遮断する。つまり、充電経路6、又は放電経路7は異常の単位セルが少なくとも1個検出された場合に遮断される。
【0062】
次に、上述のように構成された監視装置1の動作について、図3、図4及び図5を参照して説明する。本動作説明では、各単位セル20−1,20−2,20−3の電圧データに基づき、充電経路6、又は放電経路7を遮断する動作に着目して説明する。図4は、第1の電圧検出回路30a,30b,30cで検出された各単位セル20−1,20−2,20−3の電圧データに基づく動作を示し、図5は、第2の電圧検出回路32a,32b,32cで検出された各単位セル20−1,20−2,20−3の電圧データに基づく動作を示す。
【0063】
監視装置1による組電池2の監視は、例えば、電動車両のイグニッションがオンした時、又は電動車両の走行時に行われる。組電池2を構成する各単位セル20−1,20−2,20−3の電圧が第1の電圧検出回路30a,30b,30cと第2の電圧検出回路32a,32b,32cにより検出される。
【0064】
図3及び図4に示すように、各単位セル20−1,20−2,20−3の電圧データは、第1の閾値設定部315(第1、第2の判定閾値)に取り込まれる。そして、取り込まれた各電圧データについて、第1の判定閾値又は第3の判定閾値を超える単位セルの有無が検出される(ステップS1)。
【0065】
第1の比較判定回路40において、組電池2を構成する各単位セル20−1,20−2,20−3の電圧に関し、第1の判定閾値を上回るセル数、又は第3の判定閾値を下回るセル数の、全セル数に対する割合を演算が演算される(ステップS2)。
【0066】
第1の比較判定回路40での割合の演算結果について、第1の判定閾値を上回るセル数、又は第3の判定閾値を下回るセル数の、全セル数に対する割合が55%を上回ったか否か(基準割合55%を超えたか否か)が判定される(ステップS3)。
【0067】
ステップS3での判定結果がYESと判定された場合、組電池2は充電経路6、又は放電経路7を遮断すべき状態であるので、ステップS4に進む。
【0068】
ステップS4において、遮断回路44は、第1の比較判定回路40から充電経路6、又は放電経路7を遮断すべきである旨の情報を受信すると、当該情報を上位CPU5に出力する。そして、上位CPU5は遮断回路44に対して充電経路6、又は放電経路7の遮断許可信号を返送する。
【0069】
一方、ステップS3での判定結果がNOと判定された場合、第1、第3の判定閾値の基準割合を超える単位セルの割合が全セル数の55%以上になるまでステップS1からステップS3のループが繰り返される。
【0070】
遮断回路44が上位CPU5から返送された充電経路6、又は放電経路7の遮断許可信号を受信すると、充電経路6の遮断器62a,62b、又は放電経路7の遮断器72a,72bを遮断する。すなわち、第1の判定閾値を上回るセル数の全セル数に対する割合が55%を超えると充電経路6が上位CPU5の制御で遮断され、第3の判定閾値を下回るセル数の全セル数に対する割合が55%を超えると放電経路7が上位CPU5の制御で遮断される(ステップS5)。このように、充電経路6、又は放電経路7の遮断は異常の単位セルが複数発生するまで許容される。
【0071】
次に、第2の電圧検出回路32a,32b,32cで検出された各単位セル20−1,20−2,20−3の電圧データに基づく動作について説明する。図3及び図5に示すように、各単位セル20−1,20−2,20−3の電圧データは、第2の閾値設定部340(第2、第4の判定閾値)に取り込まれる。そして、取り込まれた各電圧データについて、第2の判定閾値又は第4の判定閾値を超える単位セルの有無が検出される(ステップS10)。
【0072】
第2の比較判定回路42において、第2の判定閾値を上回る(重度の過充電状態)単位セル、又は第4の判定閾値を下回る(重度の過放電状態)単位セルが少なくとも1つ存在するか否かが判定される(ステップS20)。
【0073】
ステップS20の判定結果がYESと判定された場合、遮断回路44は、第2の比較判定回路42から充電経路6、又は放電経路7を遮断すべきである旨の情報を受信すると、当該情報を上位CPU5に出力することなく、充電経路6の遮断器62a,62b、又は放電経路7の遮断器72a,72bを直接遮断する。すなわち、第2の判定閾値を上回る単位セルが少なくとも1つ存在すると、充電経路6が上位CPU5の制御によることなく遮断され、第4の判定閾値を下回る単位セルが少なくとも1つ存在すると、放電経路7が上位CPU5の制御によることなく遮断される(ステップS30)。このように、充電経路6、又は放電経路7は異常の単位セルが少なくとも1個検出された場合に遮断される。
【0074】
一方、ステップS20での判定結果がNOと判定された場合、重度の過充電状態又は重度の過放電状態の単位セルを検出するまでステップS10からステップS20のループが繰り返される。
【0075】
このように、本実施の形態の監視装置1によれば、異常の単位セルが複数発生するまで充電経路6、又は放電経路7の遮断を許容できるので、異常の度に組電池2全体を遮断することを極力回避できる。また、単位セル20−1,20−2,20−3に対して二重化された第1の電圧検出回路30a,30b,30cと第2の電圧検出回路32a,32b,32cにより、それぞれ異なるレベルの単位セルの異常を検出できる。さらに、直列接続する単位セルの数が増えても消費電力を極力抑えることができるとともに、全ての電圧検出手段を、マイクロコンピュータを含む回路で構成した場合と比較して電圧検出手段における単位セル20−1,20−2,20−3…20−nの異常発生の検出や判定の確実性が担保される。
【0076】
なお、本実施の形態では、電圧検出手段3は、共通の単位セルに対して並列接続された第1の電圧検出回路(第1の電圧検出手段又は第3の電圧検出手段)30aと第2の電圧検出回路(第2の電圧検出手段又は第4の電圧検出手段)32aで構成されている例を説明したが、これは単なる例示であってこれに限定するものではない。例えば、1つの電圧検出手段と閾値設定手段を備えるとともに、内部に第1の電圧閾値が設定され、該電圧検出手段により第1の電圧閾値を上回る単位セルが複数検出された場合、充電経路6を遮断する監視手段であってもよい。さらに第2の電圧閾値を有し、電圧検出手段により第2の電圧閾値を上回る単位セルが少なくとも1個検出された場合、充電経路6を遮断してもよい。
【0077】
また、同様に、1つの電圧検出手段と閾値設定手段を備えるとともに、内部に第3の電圧閾値が設定され、該電圧検出手段により第3の電圧閾値を下回る単位セルが複数検出された場合、放電経路7を遮断する監視手段であってもよい。さらに第4の電圧閾値を有し、電圧検出手段により第4の電圧閾値を下回る単位セルが少なくとも1個検出された場合、放電経路7を遮断してもよい。
【0078】
また、本実施の形態では、第1の閾値設定部315に軽度の過充電を検出する第1の判定閾値と、軽度の過放電を検出する第3の判定閾値を格納し、第2の閾値設定部340に重度の過充電を検出する第2の判定閾値と、重度の過放電を検出する第4の判定閾値を格納する例を説明したが、これは単なる例示であってこれに限定するものではない。例えば、第1の閾値設定部315に軽度の過充電を検出する判定閾値を格納し、第3の閾値設定部340に重度の過充電を検出する判定閾値を格納して、各単位セル20−1,20−2,20−3について過充電の異常を検出し、充電経路6のみを遮断してもよい。また、例えば、第1の閾値設定部315に軽度の過放電を検出する判定閾値を格納し、第3の閾値設定部340に重度の過放電を検出する判定閾値を格納して、各単位セル20−1,20−2,20−3について過放電の異常を検出し、放電経路7のみを遮断してもよい。
【0079】
さらに、本発明は、充電経路6及び/又は放電経路7を有し、単位セル20−1,20−2,20−3…20−nを電気的に接続した組電池2と、本実施の形態で説明した監視装置1を備えた電池パックの形態も採用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 組電池の監視装置
2 組電池
3 電圧検出手段
4 監視手段
5 上位CPU
6 充電経路
7 放電経路
20−1,20−2,20−3 単位セル
30a,30b,30c 第1の電圧検出回路
32a,32b,32c 第2の電圧検出回路
35a,35b,35c 冗長回路
40 第1の比較判定回路
42 第2の比較判定回路
44 遮断回路
315 第1の閾値設定部
340 第2の閾値設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池からなる単位セルを複数個直列に接続して構成され、充電経路を有する組電池について、該組電池を構成する個々の単位セルの電圧を検出してセルの充電状態を監視する組電池の監視装置であって、
電圧検出手段と、
閾値設定手段と、
配線遮断手段とを備え、前記閾値設定手段により第1の電圧閾値が設定され、
監視手段をさらに備え、前記監視手段は、前記電圧検出手段により前記第1の電圧閾値を上回る単位セルが複数検出された場合、前記充電経路を遮断することを特徴とする組電池の監視装置。
【請求項2】
前記監視装置は、さらに第2の電圧閾値を有し、
前記電圧検出手段により前記第2の電圧閾値を上回る単位セルが少なくとも1個検出された場合、前記充電経路を遮断する請求項1に記載の組電池の監視装置。
【請求項3】
前記監視装置は、前記第1の電圧閾値を上回るセル数の組電池全セル数に対する割合を演算し、該演算結果が予め定められた基準割合を超えた場合、前記充電経路を遮断する請求項1又は請求項2に記載の組電池の監視装置。
【請求項4】
前記基準割合は、50%を超え100%未満の範囲から選ばれる値である請求項3に記載の組電池の監視装置。
【請求項5】
前記電圧検出手段は、共通の単位セルに並列に接続される第1の電圧検出手段と第2の電圧検出手段を備え、
前記第1の電圧検出手段には、第1の電圧閾値が設定され、
前記第2の電圧検出手段には、第2の電圧閾値が設定される請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の組電池の監視装置。
【請求項6】
前記第1の電圧検出手段と前記第2の電圧検出手段のうちの一方の電圧検出手段は、マイコンを含む回路で構成され、他方の電圧検出手段は、マイコンを含まない回路で構成される請求項5に記載の組電池の監視装置。
【請求項7】
二次電池からなる単位セルを複数個直列に接続して構成され、放電経路を有する組電池について、該組電池を構成する個々の単位セルの電圧を検出してセルの放電状態を監視する組電池の監視装置であって、
電圧検出手段と、
閾値設定手段と、
配線遮断手段とを備え、前記閾値設定手段により第3の電圧閾値が設定され、
監視手段をさらに備え、前記監視手段は、
前記電圧検出手段により前記第3の電圧閾値を下回る単位セルが複数検出された場合、前記放電経路を遮断することを特徴とする組電池の監視装置。
【請求項8】
前記監視装置は、さらに第4の電圧閾値を有し、
前記電圧検出手段により前記第4の閾値を下回る単位セルが少なくとも1個検出された場合、前記放電経路を遮断する請求項7に記載の組電池の監視装置。
【請求項9】
前記監視装置は、前記第3の電圧閾値を下回るセル数の組電池全セル数に対する割合を演算し、該演算結果が予め定められた基準割合を超えた場合、前記放電経路を遮断する請求項7又は請求項8に記載の組電池の監視装置。
【請求項10】
前記電圧検出手段は、共通の単位セルに並列に接続される第3の電圧検出手段と第4の電圧検出手段を備え、
前記第3の電圧検出手段には、第3の電圧閾値が設定され、
前記第4の電圧検出手段には、第4の電圧閾値が設定される請求項8又は請求項9に記載の組電池の監視装置。
【請求項11】
前記第3の電圧検出手段と前記第4の電圧検出手段のうちの一方の電圧検出手段は、マイコンを含む回路で構成され、他方の電圧検出手段は、マイコンを含まない回路で構成される請求項10に記載の組電池の監視装置。
【請求項12】
前記第3の電圧検出手段は、前記第1の電圧検出手段であり、前記第4の電圧検出手段は、前記第2の電圧検出手段である請求項10又は請求項11に記載の組電池の監視装置。
【請求項13】
前記単位セルは、リチウムイオン電池である請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の組電池の監視装置。
【請求項14】
前記組電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車の駆動用電源である請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の組電池の監視装置。
【請求項15】
二次電池からなる単位セルを複数個直列に接続して構成され、前記充電経路及び/又は前記放電経路を有する前記組電池と、
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の組電池の監視装置を備えた電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−78233(P2013−78233A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217845(P2011−217845)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(508110205)株式会社リチウムエナジージャパン (32)
【Fターム(参考)】