説明

線電流推定装置および電力変換システム

【課題】たとえスイッチングパターンが長期間に渡って維持されるとしても、その期間において線電流を得ることができる線電流推定装置を提供する。
【解決手段】線電流取得部32は、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンが変化する第1タイミングの前後において電流検出部4によって検出される直流電流を、スイッチパターンによって決定される第1相及び第2相の線電流として推定する。分解部34は第1相及び第2相の線電流をそれぞれ基本波成分と高調波成分とに分解する。基本波成分推定部35はこの基本波成分に基づいて、第2タイミングでの第1相及び第2相の線電流の基本波成分を推定する。高調波成分推定部36はこの高調波成分に基づいて、第2タイミングでの第1相及び第2相の線電流の高調波成分を推定する。合成部37は推定した基本波成分と推定した高調波成分とを加算して、第2タイミングでの第1相及び第2相の線電流を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線電流推定装置および電力変換システムに関し、特に直流電流を検出して線電流を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には三相インバータが記載されている。三相インバータは入力された直流電圧を交流電圧に変換する。この変換はインバータが有するスイッチング素子の導通/非導通を適宜に切り替えることで実現される。
【0003】
また特許文献1では三相インバータの入力側を流れる直流電流を用いて、三相インバータの出力側を流れる電流、即ち3相の相電流を検出する。この検出は、インバータが採用する通電パターンに基づいて母線電流と相電流とを対応させることで行われる。例えば所定周期において、異なる2つの通電パターンが採用される期間の各々で母線電流を検出し、これらを当該2つの通電パターンに基づいて決定される2相の相電流として検出する。そして、3相の相電流の総和が零であるという関係に基づいて残りの1相の相電流を算出している。
【0004】
本発明に関連する技術として特許文献2〜7が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4429338号公報
【特許文献2】特許第4578500号公報
【特許文献3】特開2004−48868号公報
【特許文献4】特開2011−67023号公報
【特許文献5】特開2004−64093号公報
【特許文献6】特開2007−312511号公報
【特許文献7】特許第3611492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
三相インバータの相電圧がその1周期当たりに例えば1パルスを有するように三相インバータを制御する場合、一つのスイッチグパターンが維持される期間が比較的長い。この場合、特許文献1に記載の技術では、直流電流から3相の線電流を得ることは困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、たとえスイッチングパターンが長期間に渡って維持されるとしても、その期間において線電流を得ることができる線電流推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる線電流推定装置の第1の態様は、誘導性負荷(2)に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)の各々と、相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)とを備える電力変換装置において、前記3つの交流線を流れる3相の線電流(iu,iv,iw)を推定する推定装置であって、前記第1及び前記第2のスイッチング素子へスイッチング信号を出力して前記第1及び前記第2のスイッチング素子のスイッチングパターンを制御するスイッチング制御部(31)と、前記第1又は前記第2の直流線を流れる直流電流(Idc)を検出する電流検出部(4)と、前記スイッチングパターンが変化する第1タイミング(t(0))の前の第1の時点(t1)において前記電流検出部から検出された前記直流電流を前記第1の時点での前記スイッチパターンによって一つ決定される第1相の線電流として推定し、前記第1タイミングの後の第2の時点(t2)において前記電流検出部から検出された前記直流電流を前記第2の時点での前記スイッチパターンによって一つ決定される第2相の線電流として推定する線電流取得部(32)と、前記線電流取得部から受け取った前記第1相及び前記第2相の線電流を、それぞれ基本波成分(iu0,iv0,iw0)と高調波成分(iuh,ivh,iwh)とに分解する分解部(34)と、前記分解部から受け取った前記基本波成分に基づいて、前記第1タイミングとは異なる第2タイミング(t(1),t(n))での前記第1及び前記第2相の線電流の前記基本波成分を推定する基本波成分推定部(35)と、前記分解部から受け取った前記高調波成分に基づいて、前記第2タイミングでの前記第1及び前記第2相の線電流の前記高調波成分を推定する高調波成分推定部(36)と、推定した前記基本波成分と、推定した前記高調波成分とを加算して、前記第2タイミングでの前記第1及び前記第2相の線電流を推定する合成部(37)とを備える。
【0009】
本発明にかかる線電流推定装置の第2の態様は、第1の態様にかかる線電流推定装置であって、前記高調波成分推定部(36)は、前記分解部(34)からの前記高調波成分(iuh,ivh,iwh)と、前記高調波成分についての前記誘導性負荷(2)の等価回路の電圧方程式とを用いて、前記第2タイミング(t(0),t(n))での前記高調波成分を推定する。
【0010】
本発明にかかる線電流推定装置の第3の態様は、第2の態様にかかる線電流推定装置であって、前記等価回路において、前記誘導性負荷(2)の抵抗成分(R2)及び誘導成分(L2)が、前記交流線(Pu,Pv,Pw)に印加される相電圧の高調波成分による電圧源(E1)と直列に接続される。
【0011】
本発明にかかる線電流推定装置の第4の態様は、第1から第3の何れか一つの態様にかかる線電流推定装置であって、前記基本波成分推定部(35)は、前記分解部(34)からの前記基本波成分(iu0,iv0,iw0)と、前記基本波成分についての波形の式とを用いて、前記第2タイミング(t(1),t(n))での前記基本波成分を推定する。
【0012】
本発明にかかる線電流推定装置の第5の態様は、第4の態様にかかる線電流推定装置であって、前記3つの交流線に印加される相電圧についての電圧位相(θv)を取得する電圧位相取得部(38)を更に備え、前記基本波成分推定部(35)は、前記第1タイミング(t(0))における前記第1及び前記第2相の線電流(iu,iv,iw)の前記基本波成分(iu0,iv0,iw0)から電流振幅(Im)および電流位相(θi)を算出し、前記第1タイミングにおける前記電流位相と前記電圧位相との位相差(Δθ)を算出し、前記第2タイミング(t(1),t(n))における前記電圧位相に前記位相差を加算して前記第2タイミングにおける前記電流位相を算出し、前記電流振幅と前記第2タイミングにおける前記電流位相と前記波形の式とを用いて前記第2タイミングにおける前記基本波成分を推定する。
【0013】
本発明にかかる線電流推定装置の第6の態様は、第4の態様にかかる線電流推定装置であって、前記基本波成分推定部(35)は、前記第1タイミング(t(0))における前記第1及び前記第2相の線電流(iu,iv,iw)の前記基本波成分から電流振幅(Im)および電流位相(θi)を算出し、前記第1タイミングから前記第2タイミング(t(1),t(0))までの前記電流位相の進みを、前記第1タイミングにおける前記電流位相に加算して前記第2タイミングにおける前記電流位相を算出し、前記電流振幅と前記第2タイミングにおける前記電流位相と前記波形の式とを用いて前記第2タイミングにおける前記基本波成分を推定する。
【0014】
本発明にかかる線電流推定装置の第7の態様は、第4の態様にかかる線電流推定装置であって、前記第2タイミング(t(1),t(n))における前記直流電流(Idc)を、前記第2タイミングにおける前記スイッチングパターンに基づいて決定される1相の線電流(iu)として推定し、前記1相の線電流の前記基本波成分(iu0)を抽出する1相基本波成分抽出部(39)と、前記3つの交流線に印加される相電圧についての電圧位相(θv)を取得する電圧位相取得部(38)とを更に備え、前記基本波成分推定部(35)は、前記第1タイミング(t(0))における前記第1及び前記第2相の線電流(iu,iv,iw)の前記基本波成分(iu0,iv0,iw0)から電流位相(θi)を算出し、前記第1タイミングにおける前記電流位相と前記電圧位相との位相差(Δθ)を算出し、前記第2タイミングにおける前記電圧位相に前記位相差を加算して前記第2タイミングにおける前記電流位相を算出し、前記1相の線電流の前記基本波成分と、前記第2タイミングにおける前記電流位相と、前記波形の式とに基づいて、前記1相の線電流の前記基本波成分の電流振幅(Im)を算出し、前記電流振幅と前記第2タイミングにおける前記電流位相と前記波形の式とに基づいて前記1相以外の2相の線電流(iv,iw)のうち少なくとも1相の線電流の前記基本波成分(iv0,iw0)を推定する。
【0015】
本発明にかかる線電流推定装置の第8の態様は、第4の態様にかかる線電流推定装置であって、前記第2タイミング(t(1),t(n))における前記直流電流(Idc)を、前記第2タイミングにおける前記スイッチングパターンに基づいて決定される1相の線電流(iu)として推定し、前記1相の線電流の前記基本波成分(iu0)を抽出する1相基本波成分抽出部(39)を更に備え、前記基本波成分推定部(35)は、前記第1タイミング(t(0))における前記第1及び前記第2相の線電流(iu,iv,iw)の前記基本波成分から電流位相(θi)を算出し、前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの電流位相の進みを、前記第1タイミングにおける前記電流位相に加算して前記第2タイミングにおける前記電流位相を算出し、前記1相の線電流の前記基本波成分と、前記第2タイミングにおける前記電流位相と、前記波形の式とに基づいて、前記1相の線電流の前記基本波成分の電流振幅(Im)を算出し、前記電流振幅と前記第2タイミングにおける前記電流位相と前記波形の式とに基づいて前記1相以外の2相の線電流(iv,iw)のうち少なくとも1相の線電流の前記基本波成分(iv0,iw0)を推定する。
【0016】
本発明にかかる線電流推定装置の第9の態様は、第6又は第8の態様にかかる線電流推定装置であって、前記3相の線電流(iu,iv,iw)の角速度(ω)を取得する角速度取得部(381)を更に備え、前記基本波成分推定部(35)は、前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの前記電流位相の進みを、前記前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの期間と前記角速度との積として算出する。
【0017】
本発明にかかる線電流推定装置の第10の態様は、第6又は第8の態様にかかる線電流推定装置であって、前記3つの交流線に印加される相電圧についての電圧位相(θv)を取得する電圧位相取得部(38)を更に備え、前記基本波成分推定部(35)は、前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの前記電流位相の進みを、前記第1タイミング及び前記第2タイミングにおける前記電圧位相の差として算出する。
【0018】
本発明にかかる線電流推定装置の第11の態様は、第4の態様にかかる線電流推定装置であって、前記第2タイミング(t(1),t(n))における前記直流電流(Idc)を、前記第2タイミングにおける前記スイッチングパターンに基づいて決定される1相の線電流(iu)として推定し、前記1相の線電流の前記基本波成分(iu0)を抽出する1相基本波成分抽出部(39)を更に備え、前記基本波成分推定部(35)は、前記第1タイミング(t(0))における前記第1及び前記第2相の線電流(iu,iv,iw)の前記基本波成分(iu0,iv0,iw0)から電流振幅(Im)を算出し、前記電流振幅と前記1相の線電流の前記基本波成分と前記波形の式とに基づいて、前記第2タイミングにおける電流位相(θi)を算出し、前記電流振幅と前記第2タイミングにおける前記電流位相と前記波形の式とに基づいて前記1相以外の2相の線電流(iv,iw)のうち少なくとも1相の線電流の前記基本波成分(iv0,iw0)を推定する。
【0019】
本発明にかかる線電流推定装置の第12の態様は、第1から第11の何れか一つの態様にかかる線電流推定装置であって、前記第1時点(t1)から前記第1タイミング(t(0))までの期間(ts1)は、前記電流検出部が前記直流電流の値をアナログ値からデジタル値へ変換するのに要する期間よりも大きい。
【0020】
本発明にかかる線電流推定装置の第13の態様は、第1から第12の何れか一つの態様にかかる線電流推定装置であって、前記第1タイミング(t(0))から前記第2時点(t2)までの期間(ts2)は、前記スイッチングパターンの変化に伴う前記直流電流の過渡変動が所定の範囲内に収まるのに要する期間よりも大きい。
【0021】
本発明にかかる電力変換システムの第1の態様は、相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、誘導性負荷に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)と、前記第1又は前記第2の直流線を流れる直流電流を検出する電流検出部(4)と、第1から第13の何れか一つの態様にかかる線電流推定装置(3)とを備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる線電流推定装置の第1の態様によれば、たとえスイッチングパターンが長期間に渡って維持されるとしても、その期間において第1相及び第2相の線電流を推定することができる。しかも、基本波成分と、高調波成分とを分解してそれぞれ推定しているので、それぞれに適した推定方法を採用することができる。これにより、線電流の推定精度を向上できる。
【0023】
本発明にかかる線電流推定装置の第2の態様によれば、高調波成分についての等価回路による式を用いているので、適切に高調波成分を推定することができる。
【0024】
本発明にかかる線電流推定装置の第3の態様によれば、簡易な等価回路を用いているので、比較的簡易な演算で高調波成分を推定できる。
【0025】
本発明にかかる線電流推定装置の第4の態様によれば、基本波成分についての等価回路を用いるよりも簡易な演算で基本波成分を推定することができる。
【0026】
本発明にかかる線電流推定装置の第5及び第6の態様によれば、第4の態様にかかる基本波成分推定部の実現に資する。
【0027】
本発明にかかる線電流推定装置の第7及び第8の態様によれば、第2タイミングにおける1相の線電流を検出しているので、第5及び第6の態様のいずれかにかかる基本波成分推定部に比して、推定精度が高い。
【0028】
本発明にかかる線電流検出装置の第9及び第10の態様によれば、第6又は第8の態様にかかる線電流推定部の実現に資する。
【0029】
本発明にかかる線電流推定装置の第11の態様によれば、第2タイミングにおける1相の線電流を検出しているので、第5及び第6の態様のいずれかにかかる基本波成分推定部に比して、推定精度が高い。しかも、第2タイミングにおける電流位相の算出が容易である。
【0030】
本発明にかかる線電流推定装置の第12及び第13の態様によれば、より適切に直流電流を検出できる。
【0031】
本発明にかかる電力変換システムの第1の態様によれば、基本波成分と高調波成分とのそれぞれに適した推定方法を採用することができる電力変換システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】インバータの概念的な構成の一例を例示する図である。
【図2】相電圧の一例を模式的に示す図である。
【図3】インバータを流れる電流を示す図である。
【図4】インバータを流れる電流を示す図である。
【図5】インバータを流れる電流を示す図である。
【図6】インバータを流れる電流を示す図である。
【図7】インバータを流れる電流を示す図である。
【図8】インバータを流れる電流を示す図である。
【図9】インバータを流れる電流を示す図である。
【図10】インバータを流れる電流を示す図である。
【図11】直流電流の検出タイミングおよび相電流の推定タイミングの一例を模式的に示す図である。
【図12】線電流推定部の概念的な構成の一例を例示する図である。
【図13】線電流についての等価回路を模式的に示す図である。
【図14】高調波成分についての等価回路を模式的に示す図である。
【図15】線電流推定部の概念的な構成の一例を例示する図である。
【図16】線電流推定部の概念的な構成の一例を例示する図である。
【図17】分解部の概念的な構成の一例を示す図である。
【図18】相電圧の一例を模式的に示す図である。
【図19】相電圧の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<構成>
図1に示すように、電力変換システムは電力変換装置1と制御部3と電流検出部4とを備えている。電力変換装置1は直流線LH,LL及び交流線Pu,Pv,Pwと接続される。電力変換装置1は例えばインバータであって、直流線LH,LLの間に印加される直流電圧を交流電圧に変換して、当該交流電圧を交流線Pu,Pv,Pwへと出力する。ここでは直流線LLに印加される電位は直流線LHに印加される電位よりも低い。また図1の例示では平滑コンデンサC1が設けられている。平滑コンデンサC1は直流線LH,LLの間の直流電圧を平滑する。ただし平滑コンデンサC1が設けられていなくても構わない。
【0034】
インバータ1はスイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタなどである。スイッチング素子S1〜S3は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LHとの間に設けられる。以下では、各スイッチング素子S1〜S3を上側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD1〜D3はそれぞれスイッチング素子S1〜S3と並列に接続され、ダイオードD1〜D3のアノードはそれぞれ交流線Pu,Pv,Pwに接続される。
【0035】
各スイッチング素子S4〜S6は交流線Pu,Pv,Pwの各々と直流線LLとの間に設けられている。以下では各スイッチング素子S4〜S6を下側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD4〜D6はそれぞれスイッチング素子S4〜S6と並列に接続され、ダイオードD4〜D6のアノードは直流線LLに接続される。なお、スイッチング素子S1〜S6がMOS電界効果トランジスタなどのように寄生ダイオードを有する場合には、ダイオードD1〜D6は当該寄生ダイオードであってもよい。
【0036】
かかるスイッチング素子S1〜S6には制御部3からそれぞれスイッチング信号Sが与えられる。かかるスイッチング信号Sにより各スイッチング素子S1〜S6が導通する。制御部3が適切なタイミングでスイッチング素子S1〜S6へとそれぞれスイッチング信号Sを与えることにより、インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換する。インバータ1の制御については後に詳述する。
【0037】
インバータ1は例えば誘導性負荷2を駆動することができる。誘導性負荷2は交流線Pu,Pv,Pwに接続される。誘導性負荷2は例えばモータである。インバータ1によって交流線Pu,Pv,Pwには略正弦波状の交流電圧が印加される。ここでいう略正弦波状の交流電圧とは、例えばパルス幅を異ならせて近似的に略正弦波の形状を実現するパルス状の交流電圧を含む。そして、誘導性負荷2に交流電圧が印加されれば、誘導性負荷2に略正弦波状の線電流iu,iv,iwが流れる。これによって誘導性負荷2が駆動される。ここでは、インバータ1から誘導性負荷2へと流れる線電流の方向を正、誘導性負荷2からインバータ1へと流れる線電流の方向を負とそれぞれ定義する。
【0038】
直流線LH,LLに流れる直流電流Idcは電流検出部4によって検出され、制御部3へと出力される。図1の例示では電流検出部4は直流線LLに設けられている。なお電流検出部4は直流線LHに設けられても良い。
【0039】
電流検出部4は例えばシャント抵抗R41と検出部41とを備えている。図1の例示ではシャント抵抗R41は直流線LLに設けられている。検出部41は例えばシャント抵抗R41に印加される電圧を検出して、シャント抵抗R41の抵抗値と、検出した電圧とに基づいて直流電流Idcを得る。検出部41はかかる直流電流Idcの値を制御部3に出力する。なお検出部41がシャント抵抗R41の電圧を検出して制御部3に出力し、制御部3が直流電流Idcを算出しても良い。また電流検出部4はシャント抵抗を用いて検出する必要はなく、任意の直流電流検出センサーが採用され得る。例えばホールCTなどの電流センサーを用いても良い。
【0040】
制御部3はスイッチング制御部31と線電流取得部32と線電流推定部33とを備えている。スイッチング制御部31はスイッチング信号Sをスイッチング素子S1〜S6へと出力してスイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンを制御する。このスイッチング信号Sは例えば次のように生成される。即ち、例えば交流線Pu,Pv,Pwに印加する相電圧Vu,Vv,Vwについての相電圧指令値を線電流取得部32及び線電流推定部33からの線電流iu,iv,iwに基づいて生成し、かかる相電圧指令値とキャリア波形との比較によってスイッチング信号Sを生成する。線電流iu,iv,iwに基づく相電圧指令値の生成および相電圧指令値とキャリア波形との比較に基づくスイッチング信号Sの生成は公知技術であるので詳細な説明は省略する。
【0041】
線電流取得部32および線電流推定部33は線電流iu,iv,iwを検出あるいは推定するものの、より詳細な動作については後に詳述する。
【0042】
またここでは、制御部3はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部3はこれに限らず、制御部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0043】
<インバータ1の制御>
インバータ1はスイッチング信号Sによって例えば以下で述べるように制御される。まず、同じ交流線に接続される上側のスイッチング素子および下側のスイッチング素子は相互に排他的に導通する。即ち、スイッチング素子S1,S4は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S2,S5は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S3,S6は相互に排他的に導通する。これは、直流線LH,LLが短絡して各スイッチング素子S1〜S6に大電流が流れることを防止するためである。
【0044】
一例として交流線Pu,Pv,Pwに印加される相電圧Vu,Vv,Vwが図2に例示する波形を採るように、スイッチング素子S1〜S6を制御する。図2の例示では、相電圧Vu,Vv,Vwの各々はその1周期当たりに1パルスを有している。また図2の例示では、各相電圧Vu,Vv,Vwが高電圧値を採る高電圧期間と低電圧値を採る低電圧期間とが互いにほぼ等しく、相電圧Vu,Vv,Vwの高電圧期間が電気角においてほぼ120度互いにずれている。
【0045】
なお相電圧Vu,Vv,Vwの波形は理想的には矩形波であって、それぞれスイッチング素子S1〜S3の導通/非導通に対応した二値をとる。なぜなら、例えばスイッチング素子S1が導通すれば直流線LHが交流線Puと接続されて相電圧Vuが高電圧値を採り、スイッチング素子S1が非導通すればスイッチング素子S4が導通するので、直流線LLが交流線Puと接続されて相電圧Vuが低電圧値を採るからである。図2では「Vu(S1)」と記載して、相電圧Vuの高電圧値/低電圧値が、それぞれスイッチング素子S1の導通/非導通であることをも示している。
【0046】
よって、スイッチング素子S1〜S3の各々において導通期間と非導通期間とを互いにほぼ等しくし、スイッチング素子S1〜S3の導通期間を互いに120度ずつずらすことで、インバータ1は図2の相電圧Vu,Vv,Vwを出力することができる。
【0047】
また、このような制御によれば、スイッチング素子S1〜S6は次の6つのスイッチパターンのいずれかを採用する。ここで、上側および下側のスイッチング素子が導通することをそれぞれ「1」「0」で示し、各相のスイッチングパターンを並べて表すと、上述の制御で採用されるスイッチングパターンは次の6種類である。即ち、スイッチングパターンは、(001)(010)(011)(100)(101)(110)である。例えば下側のスイッチング素子S4,S5が導通し、上側のスイッチング素子S3が導通するときにはスイッチングパターン(001)が採用されている(図2の電気角300度から360度の期間を参照)。
【0048】
また、これらのスイッチングパターンが採用されるときにインバータ1が出力する相電圧についてのベクトルを、上記数字の並びを2進数の数字と把握し、これを10進数で表して、それぞれ電圧ベクトルV1〜V6と表す。かかる電圧ベクトルV1〜V6は図2にも付記されている。
【0049】
なお、本実施の形態でのスイッチング素子S1〜S6の制御方法は上述の例に限らず任意の制御方法が採用され得る。例えば、スイッチング素子S1〜S6のスイッチングパターンとして、上述の6種類に次の2種類を加えて8種類のスイッチングパターンを採用しても良い。この2種類のスイッチングパターンとは、上側のスイッチング素子S1〜S3の全てが非導通する(000)と、上側のスイッチング素子S1〜S3の全てが導通する(111)とである。よって、この2種類のスイッチングパターンにおいて、交流線Pu,Pv,Pwのいずれもが同じように直流線LH又は直流線LLと導通する。そしてインバータ1が出力する相電圧Vu,Vv,Vwの近似が例えばより正弦波に近付くように、8種類のスイッチングパターンを適宜に採用してスイッチング素子S1〜S6を制御してもよい。このような制御は従来公知であるので詳細な説明は省略する。
【0050】
<線電流の取得方法>
上述の各スイッチングパターンが採用されているときにインバータ1に流れる電流について考察する。なお上述の通りスイッチングパターンは電圧ベクトルと対応するので、以下では電圧ベクトルをも用いて説明する。図3〜図10はそれぞれ電圧ベクトルV0〜V7が採用されたときにインバータ1に流れる電流を示している。図3,10に示すように零電圧ベクトルV0,V7が採用されている場合は、交流線Pu,Pv,Pwが互いに短絡するので、直流線LH,LLには直流電流Idcが流れない。
【0051】
図4に示すように非零電圧ベクトルV1が採用されるときには上側のスイッチング素子S3と下側のスイッチング素子S4,S5とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcはスイッチング素子S3を経由して線電流iwとして交流線Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iwは誘導性負荷2において分岐する。分岐された2つの電流は線電流iu,ivとしてそれぞれ交流線Pu,Pvを負の方向に流れる。線電流iu,ivはそれぞれスイッチング素子S4,S5を経由して直流線LLにおいて合流し、直流電流Idcとして流れる。したがって、非零電圧ベクトルV1が採用されているときには直流電流Idcは線電流iwと等しい。
【0052】
また図6に示すように非零電圧ベクトルV3が採用されるときには、上側のスイッチング素子S2,S3と下側のスイッチング素子S4とが導通する。したがって直流線LHを流れる直流電流Idcは分岐してそれぞれスイッチング素子S2,S3を経由して線電流iv,iwとして交流線Pv,Pwを正の方向に流れる。かかる線電流iv,iwは誘導性負荷2において合流して線電流iuとして交流線Puを負の方向に流れる。線電流iuはスイッチング素子S4を経由して直流電流Idcとして直流線LLを流れる。したがって、非零電圧ベクトルV3が採用されているときには直流電流Idcは、値が負である線電流iuの絶対値−iuと等しい。以下では、線電流の値が負であるときにその絶対値を表現すべく負号を付記することもある。
【0053】
図5、図7〜図9に示すように、他の非零電圧ベクトルV2,V4〜V6が採用されるときにも直流電流Idcと線電流とが対応付けられる。図2には各非零電圧ベクトルに対応して直流電流Idcとして流れる線電流が付記されている。
【0054】
図2の例示では、任意の時点において非零電圧ベクトルが採用されるので、任意の時点において直流電流Idcは正負を無視すれば線電流iu,iv,iwのいずれかと対応する。したがって、このときの直流電流Idcを、スイッチングパターンに基づいて決定される1相の線電流として推定することができる。例えばスイッチングパターン(100)が採用される期間において直流電流Idcを線電流iuとして検出することができる(図7も参照)。
【0055】
さて図2及び図11に例示するように、スイッチングパターンは電気角60度毎に切り替わる。そして、このスイッチングパターンが切り替わる前後の2つの時点t1,t2において検出される線電流の相は互いに相違する。そこで、線電流取得部32は、時点t1において電流検出部4によって検出された直流電流Idcを時点t1におけるスイッチングパターンによって一つ決定される相の線電流として推定し、時点t2において電流検出部4によって検出された直流電流Idcを時点t2におけるスイッチングパターンによって一つ決定される相の線電流として推定する。例えば図11を参照して、スイッチングパターンに採用される電圧ベクトルが電圧ベクトルV5から電圧ベクトルV4に切り替わるタイミングt(0)に対してそれぞれ前後となる時点t1,t2において、電流検出部4は直流電流Idcとして、それぞれ線電流−iv,iuを検出する。
【0056】
例えば時点t1において、スイッチングパターン(101)(電圧ベクトルV5)が採用されている。このとき、時点t1において直流電流Idcを、負の値をとるv相の線電流ivの絶対値−ivとして推定する。線電流ivの値は直流電流Idcの符号を負にして得られる値である。また時点t2において、スイッチングパターン(100)(電圧ベクトルV4)が採用される。したがって、時点t2において直流電流Idcを、u相の線電流iuとして推定する。
【0057】
この2相の線電流は、ほぼ同じタイミングで検出された線電流であると近似することができる。この近似は2つの時点t1,t2の間の期間が短いほど妥当である。実質的には当該期間は相電圧の周期の数十分の1程度以下であれば妥当である。そして、同じタイミングでの3相の線電流の和は零であるので、線電流取得部32はこの関係に基づいて当該2相の線電流から残りの1相の線電流を算出する。例えば上述のようにして検出された線電流iu,ivに基づいて線電流iwを算出する。なお、線電流iwの算出は必須要件ではない。たとえば線電流iu,iv,iwを二相の固定座標系に変換するときには、線電流iw=−iu−ivであることに鑑みて線電流iu,ivのみを用いて変換することが可能であるからである。
【0058】
なお図1に例示するように、線電流取得部32には直流電流Idcとスイッチング信号Sとが入力されている。線電流取得部32はスイッチング信号Sによって、現時点で採用されているスイッチングパターンを認識し、スイッチングパターンに基づいて直流電流Idcあるいはその値に負号を付した電流を線電流として推定する。また線電流取得部32は、直流電流Idcを検出する時点t1,t2を例えば次のようにして認識することができる。すなわち、線電流取得部32は相電圧指令値をスイッチング制御部31から受け取ってスイッチングパターンの変化の予定を認識し、スイッチングパターンの変化の予定から例えば予め設定された期間前及び期間後に時点t1,t2を設定する。そして現在時点が時点t1,t2に至ったと判断したときに、直流電流Idcを線電流として検出する。この判断は例えば公知のタイマ回路やカウンタ回路などを用いて実現できる。
【0059】
また、スイッチングパターンが変化すると、例えば図3〜図10に示すとおり、電流の流れる経路が変化する。このように電流の経路が変化することは転流と呼ばれる。したがってスイッチングパターンが変化するタイミングとは、インバータ1に転流が生じるタイミング、と見なすことができる。
【0060】
以上の線電流検出方法によって、スイッチパターンが変化する毎に、即ち電気角60度毎に、直流電流Idcを用いて3相の線電流を検出することができる。
【0061】
次に、時点t1,t2の各々と、スイッチングパターンが変化するタイミングt(0)との間の期間をどの程度の期間にするのか、について考慮する。スイッチングパターンが変化した直後では、直流電流Idcは当該変化に伴って過渡的に変動する。このような過渡的な変動が収まる、即ち直流電流Idcの過渡変動が所定の範囲内に収まった状態で、直流電流Idcを検出することが望ましい。よって、スイッチングパターンが変化してから時点t2までの期間ts2は、直流電流Idcの過渡変動が所定の範囲内に収まるのに要する過渡期間よりも長いことが望ましい。この過渡期間は電力変換装置1及び誘導性負荷2、さらにコンデンサC1の静電容量及びコンデンサC1に直流電圧を供給する電源の電力容量等の回路条件によって決定されるので、予め設計或いは実験によって決定することができる。
【0062】
また例えば電流検出部4が、検出した直流電流Idcのアナログ値をデジタル値に変換する必要がある場合、当該変換に要する期間が経過するまでスイッチングパターンが変化しないことが望ましい。よって時点t1からスイッチングパターンが変化するまでの期間ts1は、電流検出部4がこの変換に要する期間よりも長いことが望ましい。
【0063】
さて、線電流取得部32によってスイッチングパターンが変化する度に、線電流iu,iv,iwのうち少なくとも2相の線電流を検出することができる。しかしながら、スイッチングパターンが維持される期間では、直流電流Idcに基づいて1相の線電流を検出できるものの、直流電流Idcに基づいて2相の線電流を検出することは困難である。そこで、線電流推定部33は、スイッチパターンが変化するタイミングにおける3相の線電流iu,iv,iwのうち少なくとも2相を用いて、他のタイミングにおける3相の線電流iu,iv,iwのうち少なくとも2相を推定する。以下では、主として、3相の線電流の全てを用いて3相の線電流の全てを推定する場合について説明する。
【0064】
図12に示すように、線電流推定部33は分解部34と基本波成分推定部35と高調波成分推定部36と合成部37とを備えている。分解部34は、線電流取得部32から受け取った3相の線電流iu,iv,iwを、それぞれ基本波成分iu0,iv0,iw0と高調波成分iuh,ivh,iwhとに分解する。基本波成分推定部35は分解部34から受け取った基本波成分iu0,iv0,iw0に基づいて、他のタイミングにおける3相の線電流iu,iv,iwの基本波成分iu0,iv0,iw0を推定する。高調波成分推定部36は分解部34から受け取った高調波成分iuh,ivh,iwhに基づいて当該他のタイミングにおける3相の線電流iu,iv,iwの高調波成分iuh,ivh,iwhを推定する。そして、合成部37は、基本波成分推定部35によって推定された基本波成分と、高調波成分推定部36によって推定された高調波成分とを加算して、当該他のタイミングにおける線電流iu,iv,iwを推定する。
【0065】
これによって、スイッチングパターンが維持される比較的長い期間が存在していたとしても、当該期間において3相の線電流iu,iv,iwを推定することができる。しかも本線電流の推定方法によれば、線電流を基本波成分と高調波成分とに分解してそれぞれ他のタイミングにおける基本波成分と高調波成分とを推定している。よって、それぞれに適した推定方法を採用することができる。以下、具体的な例を詳細に説明する。
【0066】
<高調波成分の推定の一例>
高調波成分推定部36は、分解部34からの高調波成分iuh,ivh,iwhと、高調波成分iuh,ivh,iwhについての誘導性負荷2の等価回路の電圧方程式とを用いて、他のタイミングにおける高調波成分iuh,ivh,iwhを推定する。図13はx(xはu,v,wを代表する、以下、同様)相の線電流ixについての、誘導性負荷2の簡易的な等価回路を示している。ここでは誘導性負荷2として例えば永久磁石モータを含む同期モータを採用して説明する。当該等価回路において、誘導性負荷2の抵抗成分R2及び誘導成分L2と、相電圧Vxである交流電圧源E1と、誘導性負荷2の誘起電圧を表す交流電圧源E2とが直列に接続される。
【0067】
さて、誘導性負荷2の誘起電圧は、線電流ixの基本波成分ix0の角速度ωと、永久磁石によるx相電機子鎖交磁束(以下、鎖交磁束と呼ぶ)φxとの乗算値で表される。この鎖交磁束φxは基本波成分ix0と同じ周期を有する正弦波形状を有すると近似することができる。よって重ね合わせの定理により、図13の等価回路から、線電流ixの高調波成分ixhについての等価回路を導くと、図14に例示する等価回路を得ることができる。本等価回路において、誘導性負荷2の抵抗成分R2及び誘導成分L2が、相電圧Vxの高調波成分Vhxを表す交流電圧源E3と直列に接続される。図14の等価回路では交流電圧源E2が設けられていない。これは、上述のとおり、交流電圧源E2が基本波成分ix0と同じ周期を有する正弦波形状と近似しているため、高調波成分を含まないからである。また交流電圧源E1の代わりに、相電圧Vxの高調波成分Vxhを表す交流電圧源E3が設けられる。これは、交流電圧源E1が基本波成分Vx0を含んだ相電圧Vxによる電圧源であるからである。なお、必ずしも図14に例示する簡易的な等価回路を用いる必要はないが、これを用いることで演算量を低減することができる。
【0068】
図14の等価回路に基づいて、高調波成分ixhについて次式が成立する。
【0069】
【数1】

【0070】
ここで、Rは抵抗成分R2の抵抗値を示し、Lは誘導成分L2のインダクタンスを示す。式(1)について例えば前方差分により差分方程式を求めると次式が導かれる。
【0071】
【数2】

【0072】
ここで、Vxh(tn)は時点t(n)における相電圧Vxの高調波成分であり、Δtは時点t(n+1)から時点t(n)までの時間であり、Δiuhは時点t(n+1)における高調波成分ixh(tn+1)から時点t(n)における高調波成分ixh(tn)を減算した値である。なお、差分方程式は、例えば後方差分や中央差分によって求められても構わない。
【0073】
さて、抵抗値RおよびインダクタンスLは誘導性負荷2に固有の値であるので既知である。時間Δtは予め任意に決定すればよく既知である。例えばより短時間毎に高調波成分を推定する必要があれば時間Δtをより小さい値に設定すればよい。x相の相電圧Vxの高調波成分Vhx(tn)は例えば次のようにして取得することができる。例えば相電圧Vxを検出する電圧検出部を設け、ハイパスフィルタなどを用いて各相電圧Vxから高調波成分を抽出する。或いは相電圧Vxについての相電圧指令値と、交流線Pxに印加される相電圧Vxとが互いに等しいと見なして、相電圧指令値を用いても良い。より詳細には相電圧指令値の基本波成分と、相電圧指令値とを減算して高調波成分Vhx(tn)を算出してもよい。
【0074】
そして、時点t(0)における高調波成分ixh(t0)として、スイッチングパターンが変化する前後で検出した線電流ixの高調波成分ixhを採用する。これにより、式(2)に基づいて、線電流ixの高調波成分ixh(t0)から時間Δt経過後の高調波成分ixh(t1)を求めることができる。さらに時間Δt経過後の高調波成分ixh(t2)を、高調波成分ixh(t1)を用いて求めることができ、以後、順次に時点t(k)(kは自然数、以下同様)における高調波成分ixh(tk)を、時点t(k−1)における高調波成分ixh(k−1)を用いて求めることができる。
【0075】
<基本波成分の推定>
線電流iu,iv,iwの基本波成分iu0,iv0,iw0は次式を満たす。
【0076】
iu0=Im・sinθi ・・・(3)
iv0=Im・sin(θi−2π/3) ・・・(4)
iw0=Im・sin(θi+2π/3) ・・・(5)
【0077】
ここで、Imは基本波成分iu0,iv0,iw0の振幅(以下、電流振幅と呼ぶ)であり、θiは基本波成分iu0,iv0,iw0の位相(以下、電流位相と呼ぶ)である。これらの式(3)から式(5)は基本波成分ix0の波形の式である。
【0078】
基本波成分推定部35は、分解部34からの基本波成分ix0と、基本波成分ix0についての波形の式とを用いて、他のタイミングでの基本波成分ix0を推定する。すなわち、電流振幅Imと電流位相θiを算出することにより、式(3)から式(5)に基づいて、他の時点における基本波成分iu0,iv0,iw0を算出することを企図する。
【0079】
まずその概要について説明する。基本波成分推定部35は、スイッチングパターンが変化する時点t(0)における3相の基本波成分iu0,iv0,iw0から電流振幅Imおよび時点t(0)における電流位相θiを算出する。次に、基本波成分推定部35は時点t(k)における電流位相θiを算出する。そして、基本波成分推定部35は電流振幅Imと時点t(k)における電流位相θiとを用いて式(3)から式(5)に基づいて時点t(k)における基本波成分iu0,iv0,iw0を算出する。以下、詳細に説明する。
【0080】
まず電流振幅Imの算出の一例について説明する。電流振幅Imは時点t(0)における基本波成分iu0,iv0,iw0から例えば次のように算出することが可能である。即ち、まず基本波成分iu0,iv0,iw0を2相の固定座標系におけるα軸の電流iα及びβ軸の電流iβへと変換する。かかる変換として、例えば公知の絶対変換を採用する。そして、電流iα,iβを用いて次式に基づいて電流振幅Imを算出する。
【0081】
Im=sqrt(2/3)×sqrt(iα^2+iβ^2) ・・・(6)
【0082】
ここで、sqrt()は括弧内の値の平方根を示し、A^BはAのB乗を示す。なお、電流振幅Imは、スイッチングパターンが変化する度に算出された複数の電流振幅Imの平均値であってもよく、或いは算出された電流振幅Imをローパスフィルタに入力し、その出力を電流振幅Imとして用いても良い。
【0083】
次に時点t(0)における電流位相θiの算出の一例について説明する。時点t(0)における電流位相θiは時点t(0)において検出された基本波成分iu0,iv0,iw0から算出することが可能である。例えば次式に基づいて時点t(0)における電流位相θiたる電流位相θi(t0)を算出する。
【0084】
θi(t0)=arctan(iα/iβ) ・・・(7)
ここでarctan()は、括弧内の値の逆正接を示す。
【0085】
以上のように、電流振幅Imと時点t(0)においける電流位相θi(t(0))とが算出される。
【0086】
時点t(k)における電流位相θiは例えば以下で説明するように算出することが可能である。即ち、電流位相θiは次式を満たす。
【0087】
θi=θv+Δθ ・・・(8)
【0088】
ここで、θvは相電圧の位相(以下、電圧位相と呼ぶ)であり、Δθは電流位相θiと電圧位相θvとの間の位相差である。時点t(0)における電流位相θiは上述のようにして得ることができるので、時点t(0)における電圧位相θvを得ることで位相差Δθを算出することができる。
【0089】
この時点t(0)における電圧位相θvは次のように取得することができる。即ち、図1に示すように制御部3は電圧位相取得部38を備えている。電圧位相取得部38は例えばスイッチング制御部31から相電圧指令値を受け取り、相電圧指令値に基づいて電圧位相θvを取得する。なお、図2に例示する相電圧Vxを出力するための相電圧指令値は矩形波であるので、その基本波成分を抽出し、電流位相θiと同様にして電圧位相θvを算出しても良い。或いは、交流線Pu,Pv,Pwに印加される相電圧を検出する電圧検出部を設け、電圧位相取得部38が検出された相電圧から電圧位相θvを算出しても構わない。
【0090】
そして基本波成分推定部35は、時点(t0)における電流位相θiと電圧位相θvとを用いて時点t(0)における位相差Δθ算出する(式(8)参照)。なお、位相差Δθは、スイッチングパターンが変化する度に算出された複数の位相差Δθの平均値であっても良く、また算出された位相差Δをローパスフィルタに入力し、その出力を位相差Δθとして用いても良い。
【0091】
この時点t(0)における位相差Δθは時点t(k)における位相差Δθとほぼ等しい。これは、誘導性負荷2が例えばモータであれば特にモータを安定した速度で回転させる定常状態において妥当である。
【0092】
そして基本波成分推定部35は、時点t(k)における電圧位相θvに位相差Δθを加算して時点t(k)における電流位相θiを算出する(式(8)参照)。なお、時点t(k)における電圧位相θvの取得方法は、時点t(0)における電圧位相θvの取得方法と同様であるので、繰り返しの説明を避ける。
【0093】
そして、電流振幅Imと時点t(k)における電流位相θiとを用いて式(3)から式(5)に基づいて時点t(k)における基本波成分ix0(tk)を算出する。これにより、スイッチングパターンが維持される期間の任意の時点においても基本波成分ix0を推定することができる。
【0094】
しかも、基本波成分についての等価回路を用いるよりも簡易な演算で基本波成分を推定することができる。
【0095】
次に時点t(k)における電流位相θiの算出の他の一例について説明する。電流位相θiは次式を満たす。
【0096】
θi(tk)=θi(t0)+ωΔt’ ・・・(9)
【0097】
ここで、θi(tk)は時点t(k)における電流位相θiを示し、θi(t0)は時点t(0)における電流位相θiを示し、ωは線電流ixの基本波成分ix0の角速度を示し、Δt’は時点t(0)からの経過時間を示す。時点t(0)における電流位相θi(t0)は上述のように算出できるので、角速度ωおよび時間Δt’を取得できれば時点tkにおける電流位相θi(tk)を算出できる。
【0098】
角速度ωは例えば図15に示すように制御部3に属する角速度取得部381によって取得される。以下、角速度ωの算出について詳述する。なお相電圧Vxの角速度と線電流ixの角速度とは互いに等しいので、角速度ωは相電圧Vxの角速度である、とも把握できる。よって、角速度ωは電流位相θiから算出しても良く、電圧位相θvから算出しても良い。ここでは、まず電流位相θiから角速度ωを算出する場合について説明する。角速度ωは次式で表される。
【0099】
ω=(θi1−θi2)/ΔT ・・・(10)
【0100】
ここで、θi1,θi2は、それぞれ電気角60度毎に検出された線電流iu,iv,iwの電流位相θiのうち、異なる2つの時点における電流位相θiである。例えば電気角60度毎の時点t(0)のうち、時点t(k)に最も近い2つの時点t(0)における電流位相θiである。ΔTは当該2つの時点同士の間の期間である。時間ΔTは任意の計時手段(例えばタイマ回路)を用いて取得することができる。よって、この2つの時点の間の期間における角速度ω、を式(10)に基づいて算出することができる。
【0101】
そして、角速度ωはほぼ一定であると見なして、この2つの時点の間の期間における角速度ωが時点t(0)から時点t(k)までの期間における角速度ωと等しいと仮定する。この仮定は、誘導性負荷2が例えばモータであれば特にモータを一定速度で回転させる定常状態において妥当である。
【0102】
よって、基本波成分推定部35は、角速度ωと、時点t(0)から経過した時間Δt’と、時点t(0)における電流位相θiとを用いて、式(9)に基づいて、時点t(k)における電流位相θiを算出することができる。言い換えれば、基本波成分推定部35は、角速度ωと時点t(0)から時点t(k)までの時間Δt’とに基づく電流位相θiの進みを、時点t(0)における電流位相θiに加算して時点t(k)における電流位相θiを算出する。
【0103】
また上述のとおり、角速度ωは相電圧Vxについての角速度でもある。よって、電圧位相θvを用いて角速度ωを算出することができる。例えば任意の2つの時点における電圧位相θvたる電圧位相θv1,θv2と、これらの2つの時点の間の期間ΔT’とを用いて、次式に基づいて角速度ωを算出することができる。
【0104】
ω=(θv2−θv1)/ΔT’ ・・・(11)
したがって、電圧位相θvに基づいて算出した角速度ωを用いて、式(9)に基づいて時点t(k)における電流位相θiを算出し、続いて式(3)から式(5)に基づいて時点t(k)における線電流iu,iv,iwを算出してもよい。
【0105】
なお、角速度ωを任意の複数の時点(例えばスイッチングパターンが変化するたびに)で算出し、その平均値を角速度ωとして用いても良く、或いはその角速度ωをローパスフィルタに入力し、その出力を角速度ωとして用いても良い。
【0106】
なお当該2つの時点として時点t(0),t(k)を採用すれば、式(11)における期間ΔT’は期間Δt’と一致する。このときの式(11)を式(10)に代入すれば次式が導かれる。
【0107】
θi(tk)=θi(t0)+θv(tk)−θv(t0) ・・・(12)
基本波成分推定部35は式(12)に基づいて時点t(k)における電流位相θiを算出しても良い。換言すれば、時点t(k)及び時点t(0)における電圧位相θv同士の差を、時点t(0)における電流位相θiに加算して時点t(k)における電流位相θiを算出てもよい。これによれば、角速度ωを算出することなく電流位相θiを算出することができる。よってこの場合、角速度取得部381の代わりに電圧位相取得部38が設けられる。なおこの技術において、角速度ωに基づく電流位相の進みω・Δt’として、電圧位相の差(θv(tk)−θv(t0))を採用している、とも把握できる。
【0108】
なお誘導性負荷2がモータであれば、モータの回転速度を検出する回転速度検出センサーを設け、角速度取得部381が回転速度に基づいて角速度ωを算出しても良い。回転速度をモータの回転子の極対数で除算した値が角速度ωである。またモータの回転速度を公知のセンサレス技術によって算出してもよい。
【0109】
さて、上述の例のいずれもが、時点t(k)における基本波成分iu0,iv0,iw0を推定している。以下では、時点t(k)における1相の線電流を検出し、1相の線電流の基本波成分を検出する場合について説明する。
【0110】
図16の例示では、制御部3は一相基本波成分抽出部39を更に備えている。一相基本波成分抽出部39は、時点t(k)における直流電流Idcを、時点t(k)におけるスイッチングパターンに基づいて決定される1相の線電流として推定する。例えば時点t(k)におけるスイッチングパターンが(100)である場合には、直流電流Idcをu相の線電流iuとして推定する。そして、一相基本波成分抽出部39は、この1相の線電流の基本波成分を抽出する。かかる基本波成分の抽出の一例については後述する分解部34の一例と同様である。
【0111】
以上のように、一相基本波成分抽出部39によって、時点t(k)における線電流iu,iv,iwのうち1相の線電流の基本波成分が検出される。
【0112】
基本波成分推定部35は上述したいずれかの方法に基づいて時点t(k)における電流位相θiを算出する。そして、基本波成分推定部35は、時点t(k)における1相の基本波成分と、時点t(k)における電流位相θiと、基本波成分の波形の式(式(3)〜式(5))とに基づいて電流振幅Imを算出する。例えば時点t(k)における1相の基本波成分としてu相の基本波成分iu0が検出される場合、式(3)に基づいて電流振幅Imを算出する。
【0113】
次に、基本波成分推定部35は、電流振幅Imと時点t(k)における電流位相θiとを用いて、基本波成分の波形の式に基づいて、残りの2相の線電流の基本波成分を算出する。例えば式(4)及び式(5)に基づいて基本波成分iv0,iw0を算出する。
【0114】
この推定方法によれば、時点t(k)における1相の線電流の基本波成分を検出しているので、推定精度を向上することができる。
【0115】
また基本波成分推定部35は以下のようにして残りの2相の線電流の基本波成分を算出しても良い。即ち、まず基本波成分推定部35は時点t(0)において検出された基本波成分iu0,iv0,iw0に基づいて電流振幅Imを算出する。電流振幅Imは例えば式(6)に基づいて算出される。そして、時点t(k)において検出された1相の基本波成分と、電流振幅Imと、基本波成分の波形の式とに基づいて、時点t(k)における電流位相θiを算出する。例えば1相の基本波成分として基本波成分iu0が検出された場合には、式(3)に基づいて時点t(k)における電流位相θiを算出する。
【0116】
次に、基本波成分推定部35は、電流振幅Imと時点t(k)における電流位相θiとを用いて、基本波成分の波形の式(式(3)〜(5))に基づいて、残りの2相の線電流の基本波成分を算出する。例えば式(4)及び式(5)に基づいて基本波成分iv0,iw0を算出する。
【0117】
この推定方法であっても、時点t(k)における1相の線電流を検出しているので、推定精度を向上することができる。しかも時点t(k)における電流位相θiを簡易な演算で算出することができる。
【0118】
<基本波成分と高調波成分の合成>
上述のようにして推定した時点t(k)における基本波成分ix0と、高調波成分ixhとを加算して、時点t(k)における線電流ixを推定する。これによってより適切な線電流ixを推定できる。言い換えれば、線電流ixの推定精度を向上できる。
【0119】
なお、例えば次のような線電流の推定方法の推定精度は低い。即ち、例えば電気角60度毎に検出される線電流ixを用いて式(3)から式(5)に基づいて線電流ixを推定すれば、その推定精度は低い。なぜなら、線電流ixに含まれる高調波成分ixhは式(3)から式(5)を満足しないからである。他方、本実施の形態では、線電流ixを基本波成分ix0と高調波成分ixhとに分解しているので、基本波成分ix0と高調波成分ixhとをそれぞれに適した方法で推定することができる。これにより、推定精度を向上することができる。
【0120】
なお、必ずしも線電流iu,iv,iwを推定する必要はなく、いずれか二相の線電流を推定してもよい。例えば線電流取得部31が2相の線電流iu,ivを取得した場合、これらをそれぞれ基本波成分iu0,iv0と、高調波成分iuh,ivhに分解し、それぞれ所定の時点における基本波成分iu0,iv0と高調波成分iuh,ivhとを推定してから、これらを合成すればよい。また、例えば線電流取得部31によって取得される2相の線電流のいずれか一方と、一相基本波成分抽出部39によって取得される1相の線電流とが同じ場合、分解部34は2相の線電流の他方のみを基本波成分と高調波成分とに分解し、基本波成分推定部35および高調波成分推定部36は2相の線電流の他方のみをそれぞれ推定し、合成部36がこれらを合成して2相の線電流の他方のみを推定してもよい。もちろん、2相の線電流の両方を推定しても良い。
【0121】
<線電流の基本波成分及び高調波成分への分解>
分解部34は、線電流取得部32によって検出された線電流iu,iv,iwを受け取る。なおここでは、一例として、3相の線電流iu,iv,iwを受け取る場合について説明する。分解部34は線電流ixを基本波成分ix0と高調波成分ixhとに分解する。この分解は任意の方法によって実行されてよいものの、より詳細な一例について説明する。図17に例示するように、分解部34は第一変換部341と抽出部342と第二変換部343と減算部344とを備えている。
【0122】
第一変換部341は線電流取得部32から受け取った線電流iu,iv,iwに対して座標変換を施す。より詳細には線電流iu,iv,iwを2相の回転座標系におけるγ軸の電流iγとδ軸の電流iδへと変換する。かかる回転座標は、線電流ix(或いは相電圧Vx)の位相と同期した座標である。つまり、γ軸とδ軸とが角速度ωと同じ速度で回転する。かかる変換によって、線電流iu,iv,iwの基本波成分iu0,iv0,iw0は直流成分となる。よって、基本波成分を抽出しやすい。そして、抽出部342は例えばローパスフィルタを用いて当該直流成分を抽出する。第二変換部343は抽出部342からの直流成分を3相の固定座標系に変換して基本波成分iu0,iv0,iw0を算出する。減算部344は線電流iu,iv,iwから基本波成分iu0,iv0,iw0を減算して高調波成分iuh,ivh,iwhを算出する。
【0123】
なお、抽出部342が例えばハイパスフィルタを用いて電流iγ,iδの高調波成分を抽出し、第二変換部343がこれを3相の固定座標系へと変換して高調波成分iuh,ivh,iwhを算出し、減算部344が線電流iu,iv,iwから高調波成分iuh,ivh,iwhを減算して基本波成分iu0,iv0,iw0を算出しても良い。或いは、抽出部342が例えばローパスフィルタとハイパスフィルタを用いて、電流iγ,iδの直流成分と高調波成分を抽出し、第二変換部343がこれらを3相の固定座標系へと変換して基本波成分iu0,iv0,iw0と高調波成分iuh,ivh,iwhとを算出してもよい。なお、分割部34への線電流の入力は必ずしも3相分必要ではなく、2相分でもよい。たとえば線電流iu,ivを二相の固定座標系に変換するときには、線電流iw=−iu−ivであることに鑑みて線電流iu,ivのみを用いて変換することが可能だからである。
【0124】
<インバータの制御の具体的な他の例>
上述したように、本線電流推定方法は、任意の制御に適用することができる。例えば図18に示すように、相電圧Vxはその1周期当たりに複数のパルスを含んでいても良い。図18の例示では、各相電圧Vxは5つのパルスを有している。この場合であっても、スイッチングパターンが切り替わるタイミングにおいて上述の通り線電流取得部32によって3相の線電流を検出することができる。また、スイッチングパターンが維持される期間においては、上述のように線電流推定部33によって3相の線電流を推定することができる。
【0125】
また図19に例示するように、相電圧Vxの近似が略正弦波となるように制御されてもよい。なお図19の例示では、近似された正弦波を示しているものの、実際には相電圧Vxは複数のパルスを含む。例えば図19に拡大して示すように、所定期間(例えば相電圧Vxの周期の数十分の1)内において、相電圧Vu,Vv,Vwはそれぞれパルス幅の相違するパルスを有している。
【0126】
図19の例示では、この所定期間において、零電圧ベクトルV0,V7と2つの非零電圧ベクトルV2,V3とが採用される。この2つの非零電圧ベクトルV2,V3が採用される期間が十分に長ければ、適切な精度で直流電流Idcを用いて線電流を推定することができる。例えば図19において、電気角が240度付近の所定期間においては、非零電圧ベクトルV2,V3が採用される期間は十分に長い。したがって、これらの期間において線電流iu,−iwを検出し、残りの線電流ivを算出することができる。このように3相の線電流iu,iv,iwを検出することができる。以下では、直流電流Idcを用いて3相の線電流が検出可能な所定期間を検出可能所定期間と呼ぶ。
【0127】
一方、電気角270度付近の所定期間においては、非零電圧ベクトルV2が採用される期間は非常に短い。よって、この所定期間においては、非零電圧ベクトルV4に対応した1相の線電流−iwしか検出できない。したがって、この所定期間における線電流iu,ivについては、上述のように推定してもよい。なお、この推定で用いられる時点t(0)における線電流iu,iv,iwは、検出可能所定期間で検出された3相の線電流iu,iv,iwを採用すればよい。
【符号の説明】
【0128】
1 インバータ
4 電流検出部
31 スイッチング制御部
32 線電流取得部
34 分解部
35 基本波成分推定部
36 高調波成分推定部
37 合成部
38 電圧位相取得部
381 角速度取得部
39 一相基本波成分取得部
LH,LL 入力線
Pu,Pv,Pw 交流線
S1〜S6 スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導性負荷(2)に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)の各々と、相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)とを備える電力変換装置において、前記3つの交流線を流れる3相の線電流(iu,iv,iw)を推定する推定装置であって、
前記第1及び前記第2のスイッチング素子へスイッチング信号を出力して前記第1及び前記第2のスイッチング素子のスイッチングパターンを制御するスイッチング制御部(31)と、
前記第1又は前記第2の直流線を流れる直流電流(Idc)を検出する電流検出部(4)と、
前記スイッチングパターンが変化する第1タイミング(t(0))の前の第1の時点(t1)において前記電流検出部から検出された前記直流電流を前記第1の時点での前記スイッチパターンによって一つ決定される第1相の線電流として推定し、前記第1タイミングの後の第2の時点(t2)において前記電流検出部から検出された前記直流電流を前記第2の時点での前記スイッチパターンによって一つ決定される第2相の線電流として推定する線電流取得部(32)と、
前記線電流取得部から受け取った前記第1相及び前記第2相の線電流を、それぞれ基本波成分(iu0,iv0,iw0)と高調波成分(iuh,ivh,iwh)とに分解する分解部(34)と、
前記分解部から受け取った前記基本波成分に基づいて、前記第1タイミングとは異なる第2タイミング(t(1),t(n))での前記第1及び前記第2相の線電流の前記基本波成分を推定する基本波成分推定部(35)と、
前記分解部から受け取った前記高調波成分に基づいて、前記第2タイミングでの前記第1及び前記第2相の線電流の前記高調波成分を推定する高調波成分推定部(36)と、
推定した前記基本波成分と、推定した前記高調波成分とを加算して、前記第2タイミングでの前記第1及び前記第2相の線電流を推定する合成部(37)と
を備える、線電流推定装置。
【請求項2】
前記高調波成分推定部(36)は、前記分解部(34)からの前記高調波成分(iuh,ivh,iwh)と、前記高調波成分についての前記誘導性負荷(2)の等価回路の電圧方程式とを用いて、前記第2タイミング(t(0),t(n))での前記高調波成分を推定する、請求項1に記載の線電流推定装置。
【請求項3】
前記等価回路において、前記誘導性負荷(2)の抵抗成分(R2)及び誘導成分(L2)が、前記交流線(Pu,Pv,Pw)に印加される相電圧の高調波成分による電圧源(E1)と直列に接続される、請求項2に記載の線電流推定装置。
【請求項4】
前記基本波成分推定部(35)は、前記分解部(34)からの前記基本波成分(iu0,iv0,iw0)と、前記基本波成分についての波形の式とを用いて、前記第2タイミング(t(1),t(n))での前記基本波成分を推定する、請求項1から3の何れか一つに記載の線電流推定装置。
【請求項5】
前記3つの交流線に印加される相電圧についての電圧位相(θv)を取得する電圧位相取得部(38)を更に備え、
前記基本波成分推定部(35)は、
前記第1タイミング(t(0))における前記第1及び前記第2相の線電流(iu,iv,iw)の前記基本波成分(iu0,iv0,iw0)から電流振幅(Im)および電流位相(θi)を算出し、
前記第1タイミングにおける前記電流位相と前記電圧位相との位相差(Δθ)を算出し、
前記第2タイミング(t(1),t(n))における前記電圧位相に前記位相差を加算して前記第2タイミングにおける前記電流位相を算出し、
前記電流振幅と前記第2タイミングにおける前記電流位相と前記波形の式とを用いて前記第2タイミングにおける前記基本波成分を推定する、請求項4に記載の線電流推定装置。
【請求項6】
前記基本波成分推定部(35)は、
前記第1タイミング(t(0))における前記第1及び前記第2相の線電流(iu,iv,iw)の前記基本波成分から電流振幅(Im)および電流位相(θi)を算出し、
前記第1タイミングから前記第2タイミング(t(1),t(0))までの前記電流位相の進みを、前記第1タイミングにおける前記電流位相に加算して前記第2タイミングにおける前記電流位相を算出し、
前記電流振幅と前記第2タイミングにおける前記電流位相と前記波形の式とを用いて前記第2タイミングにおける前記基本波成分を推定する、請求項4に記載の線電流推定装置。
【請求項7】
前記第2タイミング(t(1),t(n))における前記直流電流(Idc)を、前記第2タイミングにおける前記スイッチングパターンに基づいて決定される1相の線電流(iu)として推定し、前記1相の線電流の前記基本波成分(iu0)を抽出する1相基本波成分抽出部(39)と、
前記3つの交流線に印加される相電圧についての電圧位相(θv)を取得する電圧位相取得部(38)と
を更に備え、
前記基本波成分推定部(35)は、
前記第1タイミング(t(0))における前記第1及び前記第2相の線電流(iu,iv,iw)の前記基本波成分(iu0,iv0,iw0)から電流位相(θi)を算出し、
前記第1タイミングにおける前記電流位相と前記電圧位相との位相差(Δθ)を算出し、
前記第2タイミングにおける前記電圧位相に前記位相差を加算して前記第2タイミングにおける前記電流位相を算出し、
前記1相の線電流の前記基本波成分と、前記第2タイミングにおける前記電流位相と、前記波形の式とに基づいて、前記1相の線電流の前記基本波成分の電流振幅(Im)を算出し、
前記電流振幅と前記第2タイミングにおける前記電流位相と前記波形の式とに基づいて前記1相以外の2相の線電流(iv,iw)のうち少なくとも1相の線電流の前記基本波成分(iv0,iw0)を推定する、請求項4に記載の線電流推定装置。
【請求項8】
前記第2タイミング(t(1),t(n))における前記直流電流(Idc)を、前記第2タイミングにおける前記スイッチングパターンに基づいて決定される1相の線電流(iu)として推定し、前記1相の線電流の前記基本波成分(iu0)を抽出する1相基本波成分抽出部(39)を更に備え、
前記基本波成分推定部(35)は、
前記第1タイミング(t(0))における前記第1及び前記第2相の線電流(iu,iv,iw)の前記基本波成分から電流位相(θi)を算出し、
前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの電流位相の進みを、前記第1タイミングにおける前記電流位相に加算して前記第2タイミングにおける前記電流位相を算出し、
前記1相の線電流の前記基本波成分と、前記第2タイミングにおける前記電流位相と、前記波形の式とに基づいて、前記1相の線電流の前記基本波成分の電流振幅(Im)を算出し、
前記電流振幅と前記第2タイミングにおける前記電流位相と前記波形の式とに基づいて前記1相以外の2相の線電流(iv,iw)のうち少なくとも1相の線電流の前記基本波成分(iv0,iw0)を推定する、請求項4に記載の線電流推定装置。
【請求項9】
前記3相の線電流(iu,iv,iw)の角速度(ω)を取得する角速度取得部(381)を更に備え、
前記基本波成分推定部(35)は、前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの前記電流位相の進みを、前記前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの期間と前記角速度との積として算出する、請求項6又は8に記載の線電流推定装置。
【請求項10】
前記3つの交流線に印加される相電圧についての電圧位相(θv)を取得する電圧位相取得部(38)を更に備え、
前記基本波成分推定部(35)は、前記第1タイミングから前記第2タイミングまでの前記電流位相の進みを、前記第1タイミング及び前記第2タイミングにおける前記電圧位相の差として算出する、請求項6又は8に記載の線電流推定装置。
【請求項11】
前記第2タイミング(t(1),t(n))における前記直流電流(Idc)を、前記第2タイミングにおける前記スイッチングパターンに基づいて決定される1相の線電流(iu)として推定し、前記1相の線電流の前記基本波成分(iu0)を抽出する1相基本波成分抽出部(39)を更に備え、
前記基本波成分推定部(35)は、
前記第1タイミング(t(0))における前記第1及び前記第2相の線電流(iu,iv,iw)の前記基本波成分(iu0,iv0,iw0)から電流振幅(Im)を算出し、
前記電流振幅と前記1相の線電流の前記基本波成分と前記波形の式とに基づいて、前記第2タイミングにおける電流位相(θi)を算出し、
前記電流振幅と前記第2タイミングにおける前記電流位相と前記波形の式とに基づいて前記1相以外の2相の線電流(iv,iw)のうち少なくとも1相の線電流の前記基本波成分(iv0,iw0)を推定する、請求項4に記載の線電流推定装置。
【請求項12】
前記第1時点(t1)から前記第1タイミング(t(0))までの期間(ts1)は、前記電流検出部が前記直流電流の値をアナログ値からデジタル値へ変換するのに要する期間よりも大きい、請求項1から11の何れか一つに記載の線電流推定装置。
【請求項13】
前記第1タイミング(t(0))から前記第2時点(t2)までの期間(ts2)は、前記スイッチングパターンの変化に伴う前記直流電流の過渡変動が所定の範囲内に収まるのに要する期間よりも大きい、請求項1から12の何れか一つに記載の線電流推定装置。
【請求項14】
相互間に直流電圧が印加される第1及び第2の直流線(LH,LL)と、
誘導性負荷に接続される3つの交流線(Pu,Pv,Pw)と、
前記3つの交流線の各々と前記第1の直流線との間に設けられる第1のスイッチング素子(S1〜S3)と、
前記3つの交流線の各々と前記第2の直流線との間に設けられる第2のスイッチング素子(S4〜S6)と、
請求項1から13の何れか一つに記載の線電流推定装置(3)と
を備える、電力変換システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2013−115883(P2013−115883A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258510(P2011−258510)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】