説明

緩衝器

【課題】パイロット型のメインバルブを有する減衰力調整式緩衝器において、安定した減衰力が得られるようにする。
【解決手段】シリンダ2内のピストンの摺動によって生じる油液の流れをパイロット型のメインバルブ27及びパイロットバルブ28により制御して減衰力を発生させ、パイロットバルブ28によりパイロット室51の内圧を調整してメインバルブ27の開弁を制御する。パイロット室51に対して、可撓性ディスク部材53により体積補償室83を画成し、体積補償室83を連通路87によってリザーバ4側に連通する。メインバルブ27の開弁時に、パイロット室51の容積の減少に対して、可撓性ディスク部材53が体積補償室83側へ撓むことにより、パイロット室51内の圧力の過度の上昇を抑制して、パイロットバルブ28及びメインバルブ27の作動の不安定化を防止して安定した減衰力を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンロッドのストロークに対して、流体の流れを制御することにより、減衰力を発生させる油圧緩衝器等の緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のサスペンション装置に装着される緩衝器は、一般的に、流体が封入されたシリンダ内にピストンロッドが連結されたピストンを摺動可能に嵌装し、ピストンロッドのストロークに対して、シリンダ内のピストンの摺動によって生じる流体の流れをオリフィス、ディスクバルブ等からなる減衰力調整機構によって制御して減衰力を発生させるようになっている。
【0003】
また、例えば特許文献1に記載された油圧緩衝器では、減衰力発生機構であるメインディスクバルブの背部に背圧室(パイロット室)を形成し、流体の流れの一部を背圧室に導入し、メインディスクバルブに対して、背圧室の内圧を閉弁方向に作用させ、パイロット弁によって背圧室の内圧を調整することにより、メインディスクバルブの開弁を制御するようにしている。これにより、減衰力特性の調整の自由度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−10069号公報
【特許文献2】特開2009−243634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたもののように、背圧室の内圧によってメインバルブの開弁を制御する緩衝器では、次のような問題がある。このような緩衝器では、構造上、メインバルブの開弁により、背圧室の容積が減少するため、メインバルブの開弁時に背圧室の内圧が過度に上昇し易く、所望の減衰特性が得られないという問題を生じる。
【0006】
本発明は、所望の減衰力を得ることができるようにした緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装されたピストンと、該ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延出されたピストンロッドと、前記ピストンの摺動によって生じる流体の流れを制御して減衰力を発生させるメインバルブと、該メインバルブに対して閉弁方向に内圧を作用させるパイロット室と、該パイロット室に流体を導入する導入通路と、前記パイロット室と前記メインバルブの下流側とを連通するパイロット通路と、該パイロット通路に設けられ前記パイロット室の流体を排出するパイロットバルブとを備えた緩衝器において、前記パイロット室に対して隔壁部材によって画成された体積補償室を形成し、該体積補償室を前記メインバルブの下流側に連通させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る緩衝器によれば、安定した減衰力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る減衰力調整式緩衝器の要部である減衰力発生機構を拡大して示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る減衰力調整式緩衝器の縦断面図である。
【図3】図1に示す減衰力発生機構のパイロット室を拡大して示す図である。
【図4】図1に示す減衰力発生機構の切欠付ディスクの平面図である。
【図5】図1に示す減衰力発生機構のプレーンディスクの平面図である。
【図6】図1に示す減衰力発生機構の長孔付ディスクの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図2に示すように、本実施形態に係る緩衝器である減衰力調整式緩衝器1は、シリンダ2の外側に外筒3を設けた複筒構造となっており、シリンダ2と外筒3との間にリザーバ4が形成されている。シリンダ2内には、ピストン5が摺動可能に嵌装されており、このピストン5によってシリンダ2内がシリンダ上室2Aとシリンダ下室2Bとの2室に画成されている。ピストン5には、ピストンロッド6の一端がナット7によって連結されており、ピストンロッド6の他端側は、シリンダ上室2Aを通り、シリンダ2及び外筒3の上端部に装着されたロッドガイド8およびオイルシール9に挿通されて、シリンダ2の外部へ延出されている。シリンダ2の下端部には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを区画するベースバルブ10が設けられている。
【0011】
ピストン5には、シリンダ上下室2A、2B間を連通させる通路11、12が設けられている。そして、通路12には、シリンダ下室2B側からシリンダ上室2A側への流体の流通のみを許容する逆止弁13が設けられ、また、通路11には、シリンダ上室2A側の流体の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、これをシリンダ下室2B側へリリーフするディスクバルブ14が設けられている。
【0012】
ベースバルブ10には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを連通させる通路15、16が設けられている。そして、通路15には、リザーバ4側からシリンダ下室2B側への流体の流通のみを許容する逆止弁17が設けられ、また、通路16には、シリンダ下室2B側の流体の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、これをリザーバ4側へリリーフするディスクバルブ18が設けられている。作動流体として、シリンダ2内には、油液が封入され、リザーバ4内には油液及びガスが封入されている。
【0013】
シリンダ2には、上下両端部にシール部材19を介してセパレータチューブ20が外嵌されており、シリンダ2とセパレータチューブ20との間に環状通路21が形成されている。環状通路21は、シリンダ2の上端部付近の側壁に設けられた通路22によってシリンダ上室2Aに連通されている。セパレータチューブ20の下部には、側方に突出して開口する円筒状の接続部材23が取付けられている。また、外筒3の側壁には、接続部材23と略同心に大径の開口24が設けられ、外筒3の側壁の開口24に減衰力発生機構25が取付けられている。
【0014】
次に、減衰力発生機構25について、主に図1を参照して説明する。
図1に示すように、減衰力発生機構25は、外筒の開口24に取付けられた円筒状のケース26内に、パイロット型(背圧型)のメインバルブ27及びメインバルブ27の開弁圧力を制御するソレノイド駆動の圧力制御弁であるパイロットバルブ28が設けられ、更に、パイロットバルブ28の下流側に、フェイル時に作動するフェイルバルブ29が設けられている。
【0015】
ケース26内には、開口24側から順に、環状の通路プレート30、凸形状の通路部材31、環状のメインバルブ部材32、凸形状のオリフィス通路部材33、中間部に底部を有する円筒状のパイロットバルブ部材34、環状の保持部材35及び円筒状のソレノイドケース36が挿入され、これらは、互いに当接し、ソレノイドケース36をナット37によってケース26に結合することによって固定されている。
【0016】
通路プレート30は、ケース26の端部に形成された内側フランジ26Aに当接して固定されている。通路プレート30には、リザーバ4とケース26内の室26Bとを連通する複数の通路38が軸方向に沿って貫通されている。通路部材31は、小径の先端部が通路プレート30を貫通し、大径部の肩部が通路プレート30に当接して固定されている。通路部材31の先端部は、セパレータチューブ20の接続部材23に嵌合し、これらの嵌合部がシール部材39によってシールされて、通路部材31を軸方向に貫通する通路40が環状通路21に連通している。
【0017】
メインバルブ部材32は、一端部が通路部材31の大径部に当接して固定され、メインバルブ部材32と通路部材31との当接部は、シール部材43によってシールされている。メインバルブ部材32には、軸方向に貫通する通路44が円周方向に沿って複数設けられている。通路44は、メインバルブ部材32の一端部に形成された環状凹部41を介して通路部材31の通路40に連通している。メインバルブ部材32の他端部には、複数の通路44の開口部の外周側に環状のシート部45が突出し、内周側に環状のクランプ部46が突出している。
【0018】
メインバルブ部材32のシート部45には、メインバルブ27を構成するディスクバルブ47の外周部が着座している。ディスクバルブ47の内周部は、クランプ部46とオリフィス通路部材33の大径部の肩部とによってクランプされている。ディスクバルブ47の背面側外周部には、環状の摺動シール部材48が固着されている。凸形状のオリフィス通路部材33は、小径部がメインバルブ部材32の中央の開口部に挿入され、大径部の肩部がディスクバルブ47に当接して固定されている。オリフィス通路部材33には、軸方向に沿って通路49が貫通し、通路49は、小径部の先端部に形成された固定オリフィス50を介して通路部材31の通路40に連通している。
【0019】
パイロットバルブ部材34は、中間部に底部34Aを有する略円筒状で、底部34Aの一端側がオリフィス通路部材33に当接して固定されている。パイロットバルブ部材34の一端側の円筒部の内周面にディスクバルブ47の摺動シール部材48が摺動可能かつ液密的に嵌合して、ディスクバルブ47の背部にパイロット室51を形成している。ディスクバルブ47は、通路44側の圧力を受けて開弁し、通路44を下流側のケース26内の室26Bに連通させる。パイロット室51の内圧は、ディスクバルブ47に対して閉弁方向に作用する。パイロットバルブ部材34の底部34Aの中央部にポート52が貫通しており、ポート52は、オリフィス通路部材33の通路49に連通している。
【0020】
オリフィス通路部材33とパイロットバルブ部材34の底部34Aとの間には、図3に示すように、後に詳述する積層された3枚の環状のシート部材53A、53B、53Cからなる可撓性ディスク部材53がクランプされている。パイロット室51は、オリフィス通路部材33に当接するシート部材53Cに形成された径方向の長孔80(図6も参照)によってオリフィス通路部材33の通路49に連通しており、この長孔80がパイロット室51に油液を導入する導入通路を構成している。
【0021】
保持部材35は、その一端部がパイロットバルブ部材34の他端側の円筒部の端部に当接して固定され、パイロットバルブ部材34の円筒部の内部に弁室54を形成している。パイロットバルブ部材34及び保持部材35は、ケース26内に嵌合されたソレノイドケース36の円筒部が外周部に嵌合して径方向に位置決めされている。弁室54は、保持部材35を軸方向に貫通する通路55及び保持部材35の外周部に形成された切欠き部56及びパイロットバルブ部材34の外周部に形成された切欠き部57を介してケース26内の室26Bに連通している。弁室54内には、パイロット室51をメインバルブ47の下流側に連通するパイロット通路を構成するポート52を開閉する圧力制御弁であるパイロットバルブ28の弁体58が設けられている。
【0022】
ソレノイドケース36には、コイル59と、コイル59内に挿入されたコア60、61と、コア60、61に案内されたプランジャ62と、プランジャ62に連結された中空の作動ロッド63が組込まれており、これらは、ソレノイドケース36の後端部にカシメによって取付けられた環状のスペーサ73及びカップ状のカバー74によって固定されている。コイル59、コア60、61、プランジャ62及び作動ロッド63によってソレノイドアクチュエータSを構成し、作動ロッド63の先端部が保持部材35を貫通して弁室54内の弁体58に連結している。そして、リード線75を介してコイル59に通電することにより、通電電流に応じてプランジャ62に軸方向の推力を発生させるようになっている。
【0023】
弁体58は、パイロットバルブ部材34のポート52に対向するテーパ状の先端部に環状のシート部65が形成され、シート部65がポート52の周囲のシート面66に離着座することにより、ポート52を開閉するようになっている。そして、弁体58は、弁体58とパイロットバルブ部材34の底部34Aとの間に介装された付勢手段であるであるバルブスプリング67(圧縮コイルバネ)のバネ力によって付勢されて、通常は、保持部材35側の後退位置にあって開弁状態となっており、コイル59への通電によるプランジャ62の推力によってバルブスプリング67のバネ力に抗して前進し、シート部65がシート面66に着座してポート52を閉じ、プランジャ62の推力、すなわち、コイル59への通電電流によって開弁圧力を調整することにより、ポート52すなわちパイロット室51の内圧を制御する。
【0024】
弁体58には、中空の作動ロッド63が貫通しており、閉弁時、すなわち、シート部65がシート面66に着座したとき、作動ロッド63内の通路63Aをポート52内に開口させ、通路63Aによってポート52とコア61内の作動ロッド63の背部の室61Aとを連通することにより、ポート52に対する弁体58の受圧面積を小さくして、ソレノイドアクチュエータSの負荷を小さくしている。
【0025】
次に、フェイルバルブ29について説明する。
弁体58の後端面の外周部には、環状のシート部58Aが突出している。シート部58Aには、1枚又は複数積層された環状のシートディスク68が当接し、シートディスク68は、内周部が作動ロッド63に取付けられた止輪69に当接して弁体58に固定されている。保持部材35とパイロットバルブ部材34とによって形成された内周溝72に環状のフェイルディスク70の外周部が挿入されて軸方向に一定距離だけ移動可能に浮動支持されている。そして、フェイルディスク70の内周縁部に、弁体58に固定されたシートディスク68の外周縁部が離着座することにより、弁室54内において、ポート52と通路55との間の流路を開閉するようになっている。
【0026】
シートディスク68の外周縁部、又は、フェイルディスク70の内周縁部には、ポート52と通路55とを常時連通させるオリフィス68A(切欠き)が設けられている。保持部材35には、シートディスク68に当接して、弁体58の後退位置を制限するストッパ71が突出している。なお、弁体58の後退位置を制限するストッパは、設けなくともよく、他の部位に設けてもよい。また、弁体58の後退位置の制限はプランジャ62とコア61の当接する位置で規制してもよい。
【0027】
そして、コイル59への非通電時には、弁体58は、バルブスプリング67のバネ力によって後退して、シートディスク68がフェイルディスク70に当接して、弁室54内において、ポート52と通路55との間の流路を閉じる。この状態において、弁室54内のポート52側の流体の圧力が上昇して所定圧力に達すると、フェイルディスク70は、撓み、弁体58の後退位置がストッパ71によって制限された後、シートディスク68から離間してポート52と通路55との間の流路を開く。
【0028】
また、図1に示すように、コイル59に通電して、ソレノイドアクチュエータSの推力により、バルブスプリング67のバネ力に抗して弁体58のシート部65をシート面66に着座させたパイロットバルブ28による圧力制御状態では、シートディスク68がフェイルディスク70から離間して、弁室54内のポート52と通路55との間の流路が連通状態となる。
【0029】
次に、主に図3を参照して、パイロット室51の構造について、更に詳細に説明する。
図3に示すように、パイロット室51を形成する有底円筒状のケース部材であるパイロットバルブ部材34の底部34Aには、その外周部側に環状のシート部81が突出し、内周部にシート部である環状のクランプ部82が突出している。そして、隔壁部材である環状の可撓性ディスク部材53の内周部が内周部側のシート部としてのクランプ部82とオリフィス通路部材33との間でクランプされ、可撓性ディスク部材53の外周部がシート部81に着座している。外周側のシート部81は、内周側のクランプ部82よりも突出高さが高くなっており、可撓性ディスク部材53は、一定のセット荷重をもってシート部81に着座している。これにより、パイロットバルブ部材34の底部34Aと可撓性ディスク部材53との間に、環状の体積補償室83が形成されている。すなわち、体積補償室83は、隔壁部材である可撓性ディスク部材53によってパイロット室51に対して画成されている。なお、クランプ部82の外周に、さらに、環状のシート部を設けてもよい。
【0030】
可撓性ディスク部材53は、パイロットバルブ部材34の底部34Aとの間隔Hによって、その撓み量が制限されており、底部34Aがストッパとなって過度の撓みによる損傷を防止している。なお、底部34Aにストッパとして突起を設け、この突起が可撓性ディスク部材53に当接することにより、その撓み量を制限するようにしてもよい。
【0031】
可撓性ディスク部材53は、積層された3枚のシート部材53A、53B、53Cからなり、これらのシート部材53A、53B、53Cには、それぞれ外周部に等間隔で配置された3つの突起部84A、84B、84Cが形成されている。そして、シート部材53A、53B、53Cは、突起部84A、84B、84Cにより、パイロット室51内の円筒部内において径方向に位置決めされ、可撓性ディスク部材53とパイロット室51の内周面との間に円弧状の隙間85を形成している。
【0032】
シート部81に当接するシート部材53Aの外周部には、切欠き86が形成され、円弧状の隙間85及び切欠き86を介してパイロット室51と体積補償室83とが連通するエア抜き流路を形成している。このエア抜き通路は、ここで、切欠き86は、隙間85と体積補償室83との間の流路面積が充分小さくなるように、非常に小さくしてある。体積補償室83は、パイロットバルブ部材34の底部34Aを軸方向に沿って貫通する連通路87によって弁室54に連通している。オリフィス通路部材33に当接するシート部材53Cには、中央部の開口につながる径方向に延びる長孔80が形成され、この長孔80によって、オリフィス通路部材33の通路49とパイロット室51とが連通している。なお、このエア抜き通路は、形成することが望ましいが、必須の構成ではない。
【0033】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
減衰力調整式緩衝器1は、車両のサスペンション装置のバネ上バネ下間に装着され、リード線75が車載コントローラ等に接続され、通常の作動状態では、コイル59に通電して、弁体58のシート部65をシート面66に着座させて、パイロットバルブ28による圧力制御を実行する。
【0034】
ピストンロッド6の伸び行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5の逆止弁13が閉じ、ディスクバルブ14の開弁前には、シリンダ上室2A側の流体が加圧されて、通路22及び環状通路21を通り、セパレータチューブ20の接続部材23から減衰力発生機構25の通路部材31の通路40へ流入する。
【0035】
このとき、ピストン5が移動した分の流体がリザーバ4からベースバルブ10の逆止弁17を開いてシリンダ下室2Bへ流入する。なお、シリンダ上室2Aの圧力がピストン5のディスクバルブ14の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ14が開いて、シリンダ上室2Aの圧力をシリンダ下室2Bへリリーフすることにより、シリンダ上室2Aの過度の圧力の上昇を防止する。
【0036】
減衰力発生機構25では、通路部材31の通路40から流入した流体は、メインバルブ27のディスクバルブ47の開弁前(ピストン速度低速域)においては、オリフィス通路部材33の固定オリフィス50、通路49及びパイロットバルブ部材34のポート52を通り、パイロットバルブ28の弁体58を押し開いて弁室54内へ流入する。更に、フェイルディスク70の開口を通り、保持部材35の通路55、切欠き部56、パイロットバルブ部材34の切欠き部57、ケース26内の室26B及び通路プレート30の通路38を通ってリザーバ4へ流れる。そして、ピストン速度が上昇してシリンダ上室2A側の圧力がディスクバルブ47の開弁圧力に達すると、通路40に流入した流体は、環状凹部41及び通路44を通り、ディスクバルブ47を押し開いてケース26内の室26Bへ直接流れる。
【0037】
ピストンロッド6の縮み行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5の逆止弁13が開き、ベースバルブ10の通路15の逆止弁17が閉じて、ディスクバルブ18の開弁前には、ピストン下室2Bの流体がシリンダ上室2Aへ流入し、ピストンロッド6がシリンダ2内に侵入した分の流体がシリンダ上室2Aから、上記伸び行程時と同様の経路を通ってリザーバ4へ流れる。なお、シリンダ下室2B内の圧力がベースバルブ10のディスクバルブ18の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ18が開いて、シリンダ下室2Bの圧力をリザーバ4へリリーフすることにより、シリンダ下室2Bの過度の圧力の上昇を防止する。
【0038】
これにより、ピストンロッド6の伸縮行程時共に、減衰力発生機構25において、メインバルブ27のディスクバルブ47の開弁前(ピストン速度低速域)においては、固定オリフィス50及びパイロットバルブ28の弁体58の開弁圧力によって減衰力が発生し、ディスクバルブ47の開弁後(ピストン速度高速域)においては、その開度に応じて減衰力が発生する。そして、コイル59への通電電流によってパイロットバルブ28の開弁圧力を調整することにより、ピストン速度にかかわらず、減衰力を直接制御することができる。このとき、パイロットバルブ28の開弁圧力によって、その上流側の通路49に連通するパイロット室51の内圧が変化し、パイロット室51の内圧は、ディスクバルブ47の閉弁方向に作用するので、パイロットバルブ28の開弁圧力を制御することにより、ディスクバルブ47の開弁圧力を同時に調整することができ、これにより、減衰力特性の調整範囲を広くすることができる。
【0039】
また、コイル59への通電電流を小さくして、プランジャ62の推力を小さくすると、パイロットバルブ28の開弁圧力が低下して、ソフト側の減衰力が発生し、通電電流を大きくして、プランジャ62の推力を大きくすると、パイロットバルブ28の開弁圧力が上昇して、ハード側の減衰力が発生するので、一般的に使用頻度の高いソフト側の減衰力を低電流で発生させることができ、消費電力を低減することができる。
【0040】
コイル59の断線、車載コントローラの故障等のフェイルの発生により、プランジャ62の推力が失われた場合には、バルブスプリング67のバネ力によって弁体58が後退して、ポート52が開き、弁体58のシートディスク68がフェイルディスク70に当接して、弁室54内のポート52と通路55との間の流路を閉じる。この状態では、弁室54内におけるポート52から通路55への流体の流れは、フェイルバルブ29、すなわち、オリフィス68A及びフェイルディスク70によって制御されることになるので、オリフィス68Aの流路面積及びフェイルディスク70の開弁圧力の設定によって所望の減衰力を発生させると共に、パイロット室51の内圧、すなわち、メインバルブ27の開弁圧力を調整することができる。その結果、フェイル時においても適切な減衰力を得ることができる。
【0041】
このように、通電時の流体通路とフェイル時の流体通路とを共通化(直列化)しているので、構造を簡単にでき、またスペース効率を高めることができる。さらに、フェイルディスク70がディスクバルブであるので、例えばボールバルブを用いた構成と比して、ディスクバルブと弁体の端によりフェイル時の通路の開閉を行っているので、生産性、組立性を高めることができる。また、コイル59への低電流の通電により、一般的に使用頻度の高いソフト側の減衰力が得られるので、消費電力を低減することができ、また、非通電時には、フェイルバルブ29によってソフト側よりも大きな適度な減衰力が得られるので、車両の操縦安定性を確保して、フェイルセーフを実現することができ、更に、ハード側固定による車体への振動入力の増大等の弊害を防止することができる。
【0042】
次に、パイロット室51に設けられた可撓性ディスク部材53及び体積補償室83の作用について説明する。
ディスクバルブ47が開弁したとき、パイロット室51の容積の減少に対して、可撓性ディスク部材53が体積補償室83側へ撓んでパイロット室51の容積を補償することにより、パイロット室51内の圧力の過度の上昇を抑制する。このとき、体積補償室83の容積が減少した分の油液が連通路87を通って弁室54側へ排出される。パイロット室51の圧力の過度の上昇は、パイロットバルブ28の作動に影響してパイロットバルブ28の作動を不安定にし、更に、パイロットバルブ28の作動の不安定は、パイロット室51の圧力の不安定すなわちディスクバルブ47の不安定に繋がるので、パイロット室51内の圧力の過度の上昇を抑制することにより、これらの悪影響の相互作用を抑制することができ、安定した減衰力を得ることができる。
【0043】
可撓性ディスク部材53は、シート部材53A、53B、53Cを重ねた積層構造となっているので、その撓みに対して、シート部材53A、53B、53C間の摩擦による減衰力が作用するので、異常振動を抑制して作動の安定化を図ることができる。
【0044】
パイロット室51内は、油液の流れが生じないため、気泡が滞留し易くなっている。一般的に、緩衝器においては、気泡が滞留しやすい部分に対して、そのケーシングの上部にオリフィス通路を設けて、気泡をリザーバへ排出する構造が採られている(例えば特許文献2参照)。これに対して、本実施形態では、ディスクバルブ47の開閉時に、パイロット室51と体積補償室83との間に僅かな油液の流れが生じ、これにより、パイロット室51内の気泡を可撓性ディスク部材53のシート部材53Aの切欠き86を介して体積補償室83へ移動させ、連通路87を介して弁室54側へ排出することができる。これにより、パイロットバルブ部材34に穴あけ加工することなく、シート部材53Aに切欠き86を設けるだけで、パイロット室51から気泡を排出することができる。
【0045】
なお、シート部材53Aの切欠き86を省略し、あるいは、シート部材53Aを省略し、可撓性ディスク部材53とシート部81との当接部を通してパイロット室51から体積補償室83に気泡を移動させるようにしてもよい(可撓性ディスク部材53とシート部81との当接部は、液体に対しては充分なシール性を有するが、気体に対しては、ある程度の透過性を有するエア抜き流路となる)。
【0046】
上記実施形態では、パイロット室51の内圧を制御するパイロットバルブ28は、ソレノイドアクチュエータSによって内圧を制御しているが、これに限らず、パイロット流路の流路面積をアクチュエータにより制御する制御弁であってもよく、また、単にアクチュエータを設けずに、ディスクバルブ等のバネ手段によって所定圧力で開弁する制御弁であってもよい。
【0047】
また、上記実施形態は、減衰力発生機構25をシリンダ2の側部に配置した例を示しているが、減衰力発生機構は、ピストンの摺動により油液の流れが生じる流路であれば他の部位に配置することもでき、例えばピストン部に設けてもよい。
さらに、上記実施の形態では、隔壁部材を可撓性ディスク部材53とした例を示したが、これに限らず、撓まない環状ディスクを背面からバネやゴムで押す構成であってもよい。また、ディスクバルブ47も、撓まないバルブとし、コイルばねで付勢する構成であってもよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、前記体積補償室83を連通路87を介してリザーバ4と接続した例を示したが、これに限らず、可撓性ディスク部材53の背面を直接、リザーバや下流側の室に開放する構成としてもよい。
また、上記実施の形態では、油圧緩衝器の例を示したが、流体は油に限らず、水などであってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 減衰力調整式緩衝器、2 シリンダ、5 ピストン、6 ピストンロッド、27 メインバルブ、28 パイロットバルブ、51 パイロット室、52 ポート(パイロット通路)、53 可撓性ディスク部材(隔壁部材)、55 連通路、80 長孔(導入通路)、83 体積補償室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装されたピストンと、該ピストンに連結されて前記シリンダの外部へ延出されたピストンロッドと、前記ピストンの摺動によって生じる流体の流れを制御して減衰力を発生させるメインバルブと、該メインバルブに対して閉弁方向に内圧を作用させるパイロット室と、該パイロット室に流体を導入する導入通路と、前記パイロット室と前記メインバルブの下流側とを連通するパイロット通路と、該パイロット通路に設けられ前記パイロット室の流体を排出するパイロットバルブとを備えた緩衝器において、
前記パイロット室に対して隔壁部材によって画成された体積補償室を形成し、該体積補償室を前記メインバルブの下流側に連通させたことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記パイロットバルブは、ソレノイドアクチュエータによって作動する制御バルブであることを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記パイロット室は、有底円筒状のケース部材によって形成され、前記体積補償室は、前記ケース部材の底部の内周側及び外周側に突出された環状の少なくとも2つのシート部に着座する前記隔壁部材である可撓性ディスク部材によって画成され、前記ケース部材の底部に前記連通路が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の緩衝器。
【請求項4】
前記可撓性ディスク部材は、内周側が前記内周側のシート部によってクランプされていることを特徴とする請求項3に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記可撓性ディスク部材の撓み量を制限するストッパが設けられていることを特徴とする請求項3又は4に記載の緩衝器。
【請求項6】
前記パイロット室内に滞留する気泡を前記可撓性ディスク部材と前記外側シート部との間を通して前記体積補償室へ移動させるエア抜き流路が形成されていることを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−132995(P2011−132995A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291189(P2009−291189)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】