説明

義肢用ソケットならびに義肢用ソケットおよび義肢装置からなるシステム

遠位の義肢装置(2)のための結合手段を有し、肢の切断断端を受け入れるための義肢用ソケットであって、この義肢用ソケット(1)は、少なくとも1つのシェル(11,12)を有し、このシェルは、湾曲した、開いた横断面部分を有し、シェルの両端は、装着された状態では、互いに少なくとも部分的に重なり合い、少なくとも1つの緊定手段(14、15)が、シェル(11,12)に設けられており、周方向に作用し、シェルの両端を互いに緊張させる。シェル(11,12)は、異なった弾性の領域をもって形状安定的なプラスチックから形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠位の義肢装置のための結合手段を有し、肢の切断断端を受け入れるための義肢用ソケットと、義肢用ソケットおよび義肢装置からなるシステムとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術からは、例えば下肢の切断の際に患者に義肢を装着するための種々の方法およびコンセプトが知られている。大腿または下腿を切断した患者または関節離断術を受けた患者の場合、義肢用ソケットを製造するための古典的方法は、石膏注型法である。この方法では、患者から切断断端の石膏型を取り、この石膏型を、断端模型の鋳型として用い、この断端模型に基づいて、義肢用ソケット、例えば大腿用ソケットを成形する。この大腿用ソケットは、プラスチックからなり、切断断端を完全に取り囲む。
【0003】
大腿用ソケットを断端に取り付けるために、種々のコンセプトが提案される。例えば、切断断端を覆うようにライナが引き被せられる。このライナの外側は、ソケットに密接している。放出弁またはポンプによって、空気が、ライナと、外側ソケットとの間の空間から除去される。それ故に、義肢用ソケットは、低圧によって、患者の切断断端へ保持される。放出弁の場合、発生した空気は、一歩ごとに放出され、能動的な排気は生じない。ピンを緩める際に、ライナの端部には、突出部がある。この突出部は、ソケットの中でロックされる。このとき、義肢用ソケット自体には、他の義肢装置、例えば、人工膝関節ならびに結合要素および人工足部のような追加的な手段が取り付けられる。
【0004】
義肢用ソケットを切断断端に個々に適合させることは、極めて面倒でありかつ時間がかかり、教育を受けた整形外科専門家を必要とする。義肢用ソケットを個々に適合させるために、数回の試着が必要である。それ故に、かように適合される義肢用ソケットの作業と完成との間には、9から12ヶ月が経過することがある。これらの義肢用ソケットによって、義肢使用者のための安定性および活動性の高い程度を、保証することができる。上肢の切断を受けた患者の面倒も、同程度になされる。
【0005】
しかしながら、義肢装置を供給される患者のだれもが、大きな可動性への要求を持つわけではない。例えば、糖尿病を患っており、かつ、糖尿病によって引き起こされた壊死の故に下肢の複数の部分が切断されねばならない年配の患者は、長い道のりを歩くことがしばしばできない。更に、切断断端は、ボリュームの大きな変動を有する。それ故に、断端への義肢用ソケットの正確な適合は、非常に困難である。更に、義肢用ソケットの適合の際に、患者は、しばしば積極的に協力することができない。しかしながら、まさしくこのような患者にとって、特に重要であるのは、寝たきりの期間を短縮するために、出来る限り速く患者に義肢を着用させることである。上肢の治療の際には、運動能力が失われないように、出来る限り速く義肢を適合させることが、同様に重要である。
【0006】
特許文献1は、閉じたシェルと、このシェルに外側に設けられた要素とを有する義肢用ソケットを記載する。この要素は、2つのスリットを通してシェルへ導かれる緊定ベルトを介して、断端の方向に引っ張られる。シェルの底部に詰め物がされ、底部は、下腿のための結合手段を有する。
【0007】
特許文献2は、少なくとも1つのシェルを有する、人工関節のための断端受入れシェルに関する。前者のシェルは、湾曲した、開いた横断面部分を有し、シェルの両端は、装着された状態で、互いに少なくとも部分的に重なり合う。シェルには、緊定手段が設けられており、緊定手段は、周方向に作用し、シェルの両端を互いに締め付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP 1 656 911 A1
【特許文献2】DE 32 29 812 A1
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、特に、高齢の患者のために、義肢用ソケットと、義肢用ソケットおよび義肢用ソケットに取り付けられた義肢装置からなるシステムとを提供することである。義肢用ソケットおよびこのシステムによって、患者への迅速な適合性および安価な取付が可能である。それ故に、患者は、出来る限り迅速に歩けるようになりあるいは活動的である。
【0010】
この目的は、本発明により、請求項1の特徴を有する義肢用ソケットと、請求項29の特徴を有するシステムとによって解決される。本発明の好都合な実施の形態および改善は、従属請求項に記載されている。
【0011】
遠位の義肢装置のための結合手段を有し、肢の切断断端を受け入れるための、本発明に係わる義肢用ソケットは、この義肢用ソケットが、少なくとも1つのシェルを有し、このシェルは、湾曲した、開いた横断面部分を有し、シェルの両端は、装着された状態では、互いに少なくとも部分的に重なり合い、少なくとも1つの緊定手段が、シェルに設けられており、周方向に作用することを提案する。緊定手段によって、義肢用ソケットの、特に大腿用ソケットの、切断断端の輪郭部への即座かつ容易な適合性が与えられている。何故ならば、緊定によって、シェルの両端の、互いに向かっての径方向の移動が引き起こされることができ、それ故に、もはや個別的な型取りを行なう必要がないからである。同様に、緊定手段を設けることによって、義肢用ソケット従ってまた義肢全体を、緊迅速かつ容易に装着し、再度取り外すことができる。このことによって、義肢の着用のための受け入れが高められる。このことによって、手術を受けたばかりの患者にも、迅速に、義肢を備えることができる。それ故に、制限される可動性または活動性の時間が減じられる。シェルは、例えば、らせん形にデザインされていることができ、1つまたは複数の緊定手段によって、ソケットの周面が変化される。同様に、2つの互いに向かい合ったシェル部分が、重なり合う。それ故に、1つまたは複数の緊定手段の有効長が変化する際に、回転する重なり移動の代わりに、折りたたみ式の重なり移動が生じる。シェルは一体的に形成されていてもよい。シェルまたは複数の部分シェルは、形状安定的なプラスチックで製造されていることは好ましい。その目的は、出来る限り軽量の義肢用ソケットを提供することができるためである。この場合、シェルまたは複数の部分シェルは、異なった弾性の領域を有する。その目的は、一方では、安定性への要求に応えるためであり、他方では、快適な着用を可能にするためである。例えば、シェルまたは複数の部分シェルの近位領域で、特に、前部方向または背部方向に、シェルまたは複数の部分シェルが、可撓性をもってデザインされている。それ故に、患者は、義肢を装着したままで座っても、それを不快とは感じない。弾性の異なる領域を、物理的特性の異なる材料の使用によって、材料の厚さが異なることによって形成することができる。この場合、可撓性のある領域は、通常、剛性のある領域よりも薄く形成されており、あるいは、シェルの残部よりも可撓性のある材料から、例えば、2成分の射出成形法または注型法によって、形成されていてもよい。
【0012】
シェルは、互いに移動可能にデザインされている複数の部分シェルから、製造されていてもよい。2つのまたそれより多い部分シェルは、複数の部分シェルが、葉状に、互いに部分的に重なるように設けられていることによって、組み合わされて、シェル全体に形成される。同様に、部分シェルは、遠位部分で、互いに結合されており、または互いに一体成形されていてもよい。それ故に、複数のシェル状の部分の弾性的な支持が、共通の領域に形成される。
【0013】
シェルまたは複数の部分シェルが、内側及び外側で、切断断端に設けられており、それぞれシェルまたは遠位に接続している義肢装置のための少なくとも1つの結合手段を有する。内側の配置および外側の配置によって、シェルの両端のまたは部分シェルの重なりを、前部および背部に設けることが可能である。その目的は、そこで、増大した安定性を得るためである。更に、義肢装置を取り付けるための結合手段を、内側及び外側に設けることが可能である。代替の実施の形態が提案するのは、片側の取付がなされることである。この取付は、結合手段の内側のまたは外側の配置を可能にし、このことによって、義肢のための構造上の遊び空間が、全体として増大される。このことによって、個人的な選り好みまたは必要性を容易に考慮することができる。
【0014】
この場合、シェルまたは複数の部分シェルは、内側および外側で、硬く形成されており、特に、軸を中心として前方方向すなわち歩行方向に曲げることに対し、高い変形抵抗を有する。その目的は、十分な安定性をもたらすためである。剛性は、シェルまたは複数の部分シェルの湾曲によって支持される。フレームへのシェルまたは複数の部分シェルの取付は、片側でもなされてもよい。片側の取付の際には、この取付が内側または外側で実行されていてもよい。
【0015】
シェルまたは複数の部分シェルの、容易な適合および重なりが与えられているのは、シェルまたは複数の部分シェルが湾曲部を有するときである。それ故に、シェルまたは複数の部分シェルが互いに押し込まれまたは差し込まれることができる。この場合、一方の部分シェルが、他方の部分シェルよりも大きな局率半径を有する。それ故に、一方の部分シェルが、他方の部分シェルによって、両端で外側に重ね合わせることができる。断端の形状への大まかな予備成形は、同様になされることができる。
【0016】
遠位の義肢装置を取り付けるための結合手段が、シェルまたは複数の部分シェルの、硬い近位領域に設けられていることは好ましい。特に、大腿の切断の場合には、結合手段が、大転子の領域に位置決めされている。本発明の改善は、結合手段の回旋点が、大転子の領域に設けられており、他方、結合手段自体が、シェルまたは複数の部分シェルの他方の部分に取り付けられていることを提案する。例えば、回旋点を、適切に湾曲したガイドを介して、大転子の方向に移動することができる。
【0017】
結合手段は、義肢装置を旋回可能に取り付けるために設けられまたはデザインされていることが可能である。旋回可能性は、小さい角度範囲のためにのみ意図されている。その目的は、義肢のアラインメント、すなわち、義肢要素の、互いに対するおよび身体に対する整列を容易化するためである。義肢のアラインメントを一度調整した後に、義肢装置を、固定手段、例えば、ねじまたはピンを介して、正確な位置に固定することができる。この場合、固定手段は、長孔、例えば、湾曲した長孔の中で案内されていてもよい。その目的は、義肢のアラインメントを容易化するためである。
【0018】
基本的には、シェルまたは複数の部分シェルが、装着された状態でまたは互いに結合された状態で、近位および遠位に開口部を形成することが提案されている。この開口部を閉じるためには、遠位の閉鎖部材として、シェルにまたは少なくとも1つの部分シェルに、キャップが取り付けられ、特に取外し可能に取り付けられている。その目的は、切断断端の遠位端を保護するためである。
【0019】
一方では、ライナを備えた切断断端の挿入を容易化するために、他方では、切断断端と義肢用ソケットとの安定的なあてがいを保証するために、シェルまたは複数の部分シェルの内側が、方向依存性の表面構造、例えば、毛羽のあるベロアを有し、あるいは該表面構造で被覆されており、この表面構造は、容易な挿入を可能にし、しかしながら挿入方向と反対方向に大きな抵抗をもたらす方向づけ(Orientierung)を有することが提案されている。表面構造、例えば繊維は、この目的のために、遠位方向に傾斜しており、他方、ライナの外側は、反対方向に向いた毛羽の形で構造またはコーティングを有し、あるいは、表面構造またはベロアと適切に協働する表面を有する。方向依存性の表面構造を有するソケットおよびライナのデザインは、ソケットのデザインが異なる場合でも、ソケットの構造に関係なく使用可能であり、ライナをソケットに保持するという問題の自主的解決をもたらす。
【0020】
このことの代わりにまたはこれに追加して提案されていることは、複数の部分シェルの内側面が、接着層で、例えばシリコーン、ポリウレタンまたは共重合体で被覆されており、場合によっては、部分的にのみ、接着層を有することであって、その目的は、対応の外層を備えたライナに、より良好に付着するこができるためである。
【0021】
緊定手段としては、ベルクロテープ、スキーブーツ用ファスナ、クリップまたはストラップがあってもよい。同様に、シェルの内周あるいは複数の部分シェル同士の間隔または重なりを可変に調整するための、および複数の部分シェルまたはシェルの両端を互いに取り付けるための代替の取付手段が設けられていてもよい。緊定手段がソケットの外側に設けられておりかつ案内されていることは好ましい。その目的は、断端との直の接触従ってまた断端の締付の危険性を回避するためである。
【0022】
緊定手段は、前部で案内されていてもよい。特に、閉鎖手段またはレバーが前部に設けられている。その目的は、義肢および義肢用ソケットの着脱を容易化するためである。1つの緊定手段または複数の緊定手段が輪状に作用することは好ましい。
【0023】
シェルまたは複数の部分シェルを断端の輪郭に個々に適合させるために、少なくとも2つの緊定手段が、軸方向に互いにずれて義肢用ソケットに設けられている。このことによって、近位方向に拡大する錐体が形成される。同様に、切断断端の長さに亘って著しく変化している、ボリュームの変動が、複数の緊定手段によって、より良好に補償されることが可能である。実際また、軸方向にずれて係合する2つのガイドによって、緊定手段が、設けられてもよい。
【0024】
義肢用ソケットに取付可能な義肢装置は、好ましくは外側および/または内側で義肢用ソケットに取り付けされているフレームを有する。フレームが、例えば金属形材から製造されている外フレームとしてデザインされていることは好ましい。片側の取付でも十分であるが、内側の取付を選択することは好ましい。このとき、フレームには、更なる義肢装置、例えば人工膝関節または同種のものを取り付けることができる。断端の高さに応じて異なってデザインされている、義肢用ソケットおよび義肢装置は、患者に義肢を装着するためのシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】装着された状態にある、義肢用ソケットおよび義肢装置からなるシステムを示す。
【図2】義肢用ソケットと、この義肢用ソケットに取り付けられた義肢装置との単独図を示す。
【図3】組み合わされた義肢用ソケットの詳細図を示す。
【図4】分離した部分シェルを有する義肢用ソケットを示す。
【図5】義肢用ソケットの分解図を示す。
【図6】取り付けられたフレームを有する部分シェルの詳細図を示す。
【図7】取り付けられたフレームの側面図を示す。
【図8】旋回される部分シェルを示す。
【図9】開いた位置にあるソケットの代替の実施の形態を示す。
【図10】閉じた位置にある、図9に示した義肢用ソケットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述する。図1には、義肢用ソケット1、ここでは、大腿用ソケットと、このソケットに取り付けられた義肢装置2とからなるシステムが、装着された状態で示されている。健康な右脚は、略示されている。義肢用ソケット1は、実施の形態では、2つの部分シェル11,12からなる。これらの部分シェルは、互いに重なるようにして、切断断端の周りに設けられている。軸方向に互いにずれて部分シェル11,12に取り付けられた2つの緊定手段14,15によって、義肢用ソケット1が、切断断端の外周および輪郭に適合されている。義肢用ソケット1と切断断端との間に、図示しないライナが設けられている。このライナは、切断断端を覆うように引き被せられており、部分シェル11,12の、切断断端の皮膚との、全面に亘っての直の接触を回避する。ライナによって、義肢用ソケット1と切断断端との間の機械的結合が作られる。
【0027】
2つの部分シェル11,12は、平らな、形状安定的なプラスチックから製造されており、湾曲部を有する。それ故に、部分シェルは、出来る限り大きな面積で、切断断端およびライナに接触している。図示した実施の形態では、内側の部分シェル12が、前面領域の外で、外側の部分シェル11によって重ね合わされている。このような重なりは、背部領域でも生じることができる。このことは、外側の部分シェル11の曲率半径が、内側の部分シェル12の曲率半径よりも大きいことを意味する。別々の部分シェル11,12は、開いた横断面部分を有し、装着した状態では、複数個構成のスリーブを形成する。このスリーブは、近位端および遠位端で開いている。義肢用ソケット1の遠位端は、ここでは、部分シェル11,12に取り付けられているキャップ13によって、閉じられている。キャップ13は、切断断面の遠位端を保護するために用いられる。原理的には、このキャップ13がライナに取り付けられまたは形成されている可能性もある。
【0028】
部分シェル11,12には、義肢用ソケット1の近位領域に、フレーム20を取り付けるための結合手段16が設けられている。ねじ結合手段としてデザインされている結合手段16は、側面でのみ示されているが、実際は、2つの部分シェル11,12にある。フレーム20は、金属形材またはプラスチック形材からなるU字形の湾曲部材として形成されており、義肢着用者に出来る限り少ない負荷をかけるために、外フレームとして用いられる。U字形の外フレーム20の2つのアームは、内側および外側に設けられている。
【0029】
フレーム20には、遠位端で、義肢装置20の他の構成要素、ここでは、義肢用関節21と、結合要素22と、義足23とが設けられている。義肢装置2が、全体として、ロック式膝関節または高い安全性を有する膝関節として形成されていることは好ましい。このような膝関節は、簡単な構造を有し、取り分け、義肢用関節21の望ましくない曲がりが生じないことを保証する。システムが、高齢の患者を世話するために用いられず、一次治療として用いられる限り、義肢用関節21の他の構造も考えられる。
【0030】
図2では、義肢用ソケット1および義肢装置2からなるシステムが別個に示されている。図1とは異なって、内側の部分シェル12は、ここでは、外側に設けられており、外側の部分シェル11と重なり合う。ストラップ、ベルクロテープまたは例えばスキーブーツ用ファスナとしてデザインされていてもよい緊定手段14,15は、1つの部分シェル11,12にのみ取り付けられており、部分シェル11,12が互いに向かって動かされるように、周方向に作用し、あるいは、2つの部分シェル11,12の間の結合を作ることができる。それ故に、緊定手段14,15の一方の終点は、内側の部分シェル12に設けられており、第2の終点は外側の部分シェル11に設けられている。
【0031】
義肢用ソケット1および義肢装置2からなるシステムが、特に、しばしば座っている活動的でない患者のために適切であるように思われるので、床ずれを回避するためにおよび着用の快適性を高めるために、提案されていることは、義肢用ソケット1が、部分シェル11,12の、前面のおよび背部の領域で、特に、近位領域で、可撓性をもってかつ軟らかにデザインされており、他方、部分シェル11,12の遠位領域が、特に内側および外側で安定していることである。特に、結合手段16の領域は安定している。その目的は、歩行中にまたは立っている最中に生じる力を、義肢用ソケット1に導入することができるためである。義肢用ソケット1が大腿用ソケットとしてデザインされているとき、結合手段16は、部分シェル11,12の出来る限り近位端に、好ましくは、大転子の領域に、取り付けられている。
【0032】
図3には、2つの部分シェルおよび緊定手段14,15を有する義肢用ソケット1が、拡大単独図で示されている。部分シェルおよび緊定手段は、形による結合手段(Formschlusseinrichtungen)を介して、義肢用ソケット1の周面を調整可能に構成する。予め形成された部分シェル11,12は、十分な量の可撓性および同時に安定性を有する。その目的は、緊定手段14,15における応力を変えることによって、切断断端への十分に正確な適合をもたらすためである。湾曲部材を有する外フレーム20は、特にねじ結合手段によって、内側および外側に取り付けられている。
【0033】
図4には、義肢用ソケット1が開いた状態で示されている。内側の部分シェル12が外側の部分シェル11に容れられており、外側の部分シェルによって前面および背部で覆われることが、認められる。部分シェル11,12の近位領域110,120には、剛性の少なくかつ可撓性が大きい区域が形成されている。これらの区域は、座ることをより容易にする。同様に、これらの領域110,120における肉厚は、減じられていてもよい。その目的は、義肢を装着したままでも、座ることをより容易にするためである。緊定手段14,15は、開いた状態で示されている。緊定手段14,15を開けることによって、義肢用ソケット1を開けることができる。それ故に、義肢着用者は、非常に容易に義肢用ソケット1を装着することができる。詳しくは、義肢着用者が、開いた義肢用ソケット1を着用し、分部シェル11,12を互いに押し入れ、かつ必要に応じて緊定手段14,15を閉じるのである。緊定手段14,15の可変の構成によって、切断断端の体積変化を受け止めて、常に、切断断端、特にライナにおける義肢用ソケット1の十分に確かな締付を保証することが可能である。
【0034】
図5には、義肢用ソケット1の分解図が示されている。外側の部分シェル11は、大転子を覆うように、デザインされている。他方、内側の部分シェル12は、坐骨が覆われない、または可撓性の領域120とのみ接触するように、デザインされている。部分シェル11,12の遠位端には、キャップ13が、取付テープ、例えばベロクロテープによって取り付けられている。取付テープ18は、交差して設けられており、キャップ13を、義肢用ソケット1に保持する。このキャップは、自らの開いた縁部に、弾性的なフィンガを形成する。
【0035】
部分シェル11,12の内側面111,121は、異なったコーティングを有してもよい。その目的は、ライナへの密着およびライナと部分シェル11,12との間の結合を行なうためである。コーティング111,121は、例えば、毛羽のあるベロア(Strichvelours)、あるいは繊維の適切な方向付けを有する他の織物として、デザインされていてもよい。このような方向づけは、ライナおよび切断断端を、実質的に管状の義肢用ソケット1に容易に挿入することができ、同時に、滑り落ちを防止することができる。この目的のために、繊維またはホックは、遠位縁部の方向に傾斜して設けられていることができる。それ故に、挿入移動が容易化され、他方、逆方向の移動がブロックされ、または困難にされる。ソケット1をライナから外すためには、緊定手段14,15を開き、義肢用ソケット1を、義肢装置2と共に取り外す。同様に、部分シェル11,12の内側を、共重合体またはシリコーンでコーティングすることが可能である。その目的は、適切なコーティングを外側に有するライナの密着を支援するためである。
【0036】
図5には、更に、外フレーム20が示されている。この外フレームは、近位端に、複数の孔25を有する。これらの孔を通って、ねじまたはボルトの形態の結合手段16は、案内される。同様に、湾曲した長孔24も、フレーム20に形成されている。これらの長孔は、義肢用ソケット1をフレーム20に対し固定するための手段を受け入れる。
【0037】
図6には、このような実施の形態が、組み立てされた状態で示されている。ここでは、外側の部分シェル11が、結合手段であるねじ込み式ボルト16を介して、フレーム20に取り付けられている。更に、湾曲した長孔24には、他のねじ26が案内されており、このねじは、長孔24を通って突出し、外側の部分シェル11に螺入されている。部分シェル11のプラスチックには、適切なねじがはめ込まれておりかつラミネート加工されていることが可能である。その目的は、部分シェル11にフレーム20を安定的に取り付けるためである。
【0038】
図7は、図6に示した状態の側面図で示す。図8には、義肢用ソケット1、ここでは、部分シェル11が、フレーム20に対し相対的に、ねじの形態の結合手段16の周りに旋回可能であることが示されている。このことは、二重矢印によって示される。長孔24の中を、ねじ26が往復摺動して、フレーム20に対する義肢用ソケットの最適な方向づけが見出される。このとき、ねじは締め付けられ、義肢用ソケット1が、フレーム20に対ししっかり取り付けられる。このような調整可能性は必要である。何故ならば、伸展がなされないとき、腰の筋肉が縮まる傾向にあるからである。大部分座った状態での活動の際には、鼠径部の筋肉が縮まる。切断の故に、釣り合い重りがないときにも、同様のことが認められる。この屈曲を埋め合わせ、かつ更に義肢の正確なアラインメントをもたらすことができるためには、旋回可能性および調整可能性が好都合である。
【0039】
義肢用ソケット1および義肢装置2からなるシステムによって、座り心地の良さが可能である。同様に、義肢の容易な着脱を行なうことができる。断端のボリュームの変動への適合は、容易に行なうことができ、同様に、患者の断端への面倒な試着および取り外しが省略される。関節手段21は、例えば、着座および起立を支援することができる。何故ならば、種々のロック・モードおよび制動段階を調整することができるからである。同様に、人工関節21を、ロック式膝関節としてデザインすることが可能である。このシステムを、高齢の患者の世話のほかに、迅速な一次治療のために用いることができる。その目的は、患者を、出来る限り短い間、不動の状態に晒さねばならないためである。治癒過程の故に退行することがある、断端のボリュームへの適合を、簡単な適合性の故に、迅速かつ容易に行なうことができる。適合は、この場合、別個の部分シェル11,12を互いに向かって移動させることによって、行なう。その目的は、かように、切断断端の変化する周面を受け入れることができるためである。
【0040】
図9は、一体型のシェル10を有する本発明の代替の実施の形態の斜視図を示す。シェルは、開いた横断面部分を有し、開いた状態で示されている。開口部は、ここでは、正面に向いている。それ故に、義肢用ソケット1を、容易に装着することができるのは、義肢用ソケット10を広げ、ライナを備えた断端を置き、開いた義肢用ソケットつまり開いたシェル10に挿入することができることによってである。この目的のために、シェルの両端を引き離し、容易に外側へ湾曲することができる。その目的は、かようにして、容易な挿入を行なうことができるためである。このとき、シェルの両端、ここでは、シェルの左端およびシェルの、右側の、外側の端部を重なり合わせる。それ故に、正面で、重なり合いが達成される。続いて、緊定手段14を、例えば、ループの中を通して折り返す。その目的は、取付を可能にするためである。この場合、取付を、ベルクロ・ファスナまたはいわゆるスキーブーツ用ファスナによって行なうことができる。
【0041】
図9からは、シェル10の遠位端が開いているので、正確な位置でのシェル10の取付が損なわれることなく、種々の断端長への容易な適合がなされることが見て取れる。
【0042】
図10には、図9に示した実施の形態が、閉じた状態で示されている。この状態では、シェルの左端は、シェルの右端の下に設けられている。緊定手段14は、義肢用ソケットのシェル10に、ジグザグ状に取り付けられており、複数の転換点で、アイの中を通されている。シェル10の外側での緊定手段14の取付は、ベルクロ・ファスナによって行なうことができる。同様に、代替の取付手段も意図される。締付は、端部側に設けられたトグルレバー機構またはスキーブーツ用ファスナにおいてなされることができる。図10からも、義肢用ソケットの遠位端が開いていることが見て取れる。端部を、閉鎖キャップによって閉じまたは区画することができる。シェル10は、らせん形の配列を有する。それ故に、周面の調整の際に、シェルの両端がらせん形に互いに相手の周りを回るように摺動し、あるいは、シェル10の右端が、シェルの、内側の左端を覆うように移動する。
【符号の説明】
【0043】
1 義肢用ソケット
2 義肢装置
10 シェル
11 シェル
12 シェル
14 緊定手段
15 緊定手段
16 結合手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位の義肢装置(2)のための結合手段を有し、下肢の切断断端を受け入れるための義肢用ソケットであって、この義肢用ソケット(1)は、少なくとも1つのシェル(10;11,12)を有し、このシェルは、湾曲した、開いた横断面部分を有し、前記シェルの両端は、装着された状態では、互いに少なくとも部分的に重なり合い、少なくとも1つの緊定手段(14、15)が、前記シェル(10;11,12)に設けられており、周方向に作用し、前記シェルの両端を互いに緊張させてなる義肢用ソケットにおいて、
前記シェル(10;11,12)は、異なった弾性の領域をもって形状安定的なプラスチックから形成されていることを特徴とする義肢用ソケット。
【請求項2】
前記シェル(11,12)は、複数の部分シェルからなることを特徴とする請求項1に記載の義肢用ソケット。
【請求項3】
前記シェル(10;11,12)は、前記切断断端に対し内側および外側に設けられており、前記遠位の義肢装置(2)のための結合手段(16)を有することを特徴とする請求項1または2に記載の義肢用ソケット。
【請求項4】
前記シェル(10;11,12)は、近位領域(110,120)において可撓性をもって形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項5】
前記シェル(10;11,12)は、内側および外側方向に、剛性をもって形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項6】
前記シェル(10;11,12)は、前記切断断端の縦方向の広がりの回りに湾曲部を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項7】
前記シェル(10;11,12)は、前記切断断端への適合のために予備成形されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項8】
前記結合手段(16)は、前記シェル(10;11,12)の、剛性の近位領域に設けられていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項9】
前記結合手段(16)は、大転子の領域に設けられていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項10】
前記結合手段(16)の回旋点が、大転子の領域に設けられていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項11】
前記結合手段(16)は、前記義肢装置(2)を旋回可能に取り付けるためにデザインされていること、および固定手段(26)が、前記義肢用ソケット(1)に対して前記義肢装置(2)を整列するためにデザインされていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項12】
前記固定手段(20)は、長孔(24)の中を案内されていることを特徴とする請求項11に記載の義肢用ソケット。
【請求項13】
前記長孔(24)は湾曲していることを特徴とする請求項12に記載の義肢用ソケット。
【請求項14】
前記シェル(10;11,12)には、遠位の閉鎖部材として、キャップ(13)が取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項15】
前記キャップ(13)は、前記シェル(10;11,12)に取り外し可能に取り付けられていることを特徴とする請求項14に記載の義肢用ソケット。
【請求項16】
前記シェル(11,12)の内側面(111,112)が、方向依存性の表面構造を有し、この表面構造は、切断断端の挿入方向と反対方向に挿入方向より大きな抵抗をもたらすことを特徴とする請求項1ないし15のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項17】
前記表面構造は、遠位方向に向けられている毛羽のあるベロアとしてデザインされていることを特徴とする請求項16に記載の義肢用ソケット。
【請求項18】
前記内側面(111,112)は、密着層で、特にシリコーンで被覆されていることを特徴とする請求項1ないし17のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項19】
前記緊定手段(14、15)は、ベルクロテープ、スキーブーツ用ファスナ、クリップまたはストラップとしてデザインされていることを特徴とする請求項1ないし18のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項20】
前記緊定手段(14、15)は、前部で案内されていることを特徴とする請求項1ないし19のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項21】
2つの緊定手段(14、15)は、軸方向にずれて、前記義肢用ソケット(1)に設けられていることを特徴とする請求項1ないし20のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項22】
前記緊定手段(14、15)は、輪状に作用することを特徴とする請求項1ないし21のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項23】
前記緊定手段(14、15)は、軸方向にずれて係合する2つのガイドによって、前記シェル(10;11,12)に設けられていることを特徴とする請求項1ないし22のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項24】
前記シェル(10;11,12)は、近位方向に拡大する錐体を形成することを特徴とする請求項1ないし23のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項25】
前記義肢装置(2)は、外側および/または内側で前記義肢用ソケット(1)に取付可能であるフレーム(20)を有することを特徴とする請求項1ないし24のいずれか1項に記載の義肢用ソケット。
【請求項26】
前記フレーム(20)は、外フレームとしてデザインされていることを特徴とする請求項25に記載の義肢用ソケット。
【請求項27】
前記フレーム(20)は、金属形材から製造されていることを特徴とする請求項25または26に記載の義肢用ソケット。
【請求項28】
前記フレーム(20)には、人工関節(21)、特に人工膝関節および他の遠位の構成部材(22,23)が取り付けられていることを特徴とする請求項25ないし27のいずれか1に記載の義肢用ソケット。
【請求項29】
請求項1ないし28のいずれか1に記載の義肢用ソケット(1)および義肢装置(2)からなるシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−534496(P2010−534496A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517270(P2010−517270)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【国際出願番号】PCT/DE2008/001243
【国際公開番号】WO2009/012774
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(502220838)オットー・ボック・ヘルスケア・ゲーエムベーハー (7)
【氏名又は名称原語表記】Otto Bock HealthCare GmbH
【Fターム(参考)】