説明

色素増感太陽電池およびそれを備えた腕時計

【課題】 色素増感太陽電池は、コスト化あるいはカラフル表現が出来る太陽電池として、最近注目を浴びている。これは2枚の対向した電極の間に色素を担持した光励起材料と電解質を封入した、特異な構造を有している。しかし、その電極を対向させた基本構造ゆえに、外部への電気的取出しにはリード線を取り付けるなど、面倒なものであった。
【解決手段】 第1薄膜電極を有した第1基板と、第2薄膜電極を有した第2基板と、第1薄膜電極または第2薄膜電極のどちらかに接触しており色素が吸着する半導体層と、対向して配置された第1薄膜電極と第2薄膜電極の間には絶縁スペーサと、第1薄膜電極と第2薄膜電極と絶縁スペーサにより囲まれた空間には電解質層と、を有する色素増感太陽電池であり、第1基板には第1薄膜電極に至るスルーホールが設けられ、スルーホール内部に露出した第1接続電極の反対面には補強層を有する色素増感太陽電池とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色素増感太陽電池の構造に関し、特にその外部取り出し電極の特徴的な構造に関する。また、本発明は、色素増感太陽電池を備えた腕時計に関する。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題に関連して、クリーンエネルギー源である太陽電池はさらに注目が大きくなっており、各所でその利用が検討されている。一般的に太陽電池と言えば、単結晶、多結晶、アモルファスを含めて、シリコン系半導体を積層したものが実用化しているもののほとんどである。しかし、これに対して、製造コストの低減が期待されており、さらにはシリコン系太陽電池にはないカラフルな表現が出来る太陽電池として、色素増感太陽電池が注目を浴び、急速に開発が行われている。
【0003】
色素増感太陽電池はシリコン系の太陽電池の薄膜を積層したタイプとは異なり、電気化学的な反応を伴ういわゆる湿式系太陽電池と呼ばれるものであり、古くからの開発が行われているが、近年グレッツェルらにより実用化可能な構造が提案された。これに関してはたとえば特許文献1、あるいは特許文献2に示されている。
【0004】
そこで従来の色素増感太陽電池について図13を用いて説明をする。まずガラスあるいは耐熱性のプラスチックなどの第1基板10には、触媒金属となる第1薄膜電極11が形成され対極を形成している。触媒金属には白金やパラジウムなど貴金属性のものが使われる。
【0005】
また、同様にガラスや耐熱性のプラスチックなどからなる第2基板20には、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明性の第2薄膜電極21が形成され、さらにその上にはTiO2(二酸化チタン)の微粒子半導体層30が形成されて、作用極として備えられている。さらにこの半導体層表面には所望の色素31が吸着している。
【0006】
作用極と対極はその導電面を対向させて配置され、接着層ともなる絶縁スペーサ40を挟んで接合されている。両基板と絶縁スペーサに挟まれた空間には、レドックス反応が行える電解質層50で満たされている。一般に電解質層にはヨウ素の酸化還元を利用するものが多い。
【0007】
動作原理は次のようである。第2基板20側から入射してきた外部光は半導体層30を通過して、その表面に担持されている色素31が吸収する。それにより色素31中の電子は基底状態から励起状態に励起される。励起電子は近接している半導体層30に速やかに移動し、半導体層30内部を通って第2薄膜電極21に到達する。そして、外部回路を経由し、対極である第1薄膜電極11に到達する。
一方電子を失った色素31は、電解質層50中の還元剤から電子を引き抜き、もとの状態に還元されるが、それによって酸化された還元剤は、対極に移動してきた電子を受け取り、またもとの状態の還元剤となる。この様に、色素増感太陽電池は光を吸収して、外部回路に電子を流すことが出来、いわゆる光発電効果を有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3336528号公報(図1)
【特許文献2】特許第4085421号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように色素増感太陽電池は、内部での酸化還元反応を利用して作用する光エネルギー変換装置であり、基本的な発電に関わる構造については多くの開発がなされているが、残念ながら発電エネルギーの取り出し方法に関しては、あまり考慮されていない。
【0010】
光吸収により発生した電子は外部回路を経て両電極間を移動すると述べたが、外部回路につなぐ場所は、たとえば図13に示したリード線25のように、絶縁スペーサ40からはみ出した電極部分を使うのが一般的である。
【0011】
色素増感太陽電池を大きな面積で利用し、たとえば屋外での発電に利用する場合であれば、十分なスペースを利用出来ることからこの様な引き出し方法も利用可能と考えられる。しかし、太陽電池の利用は大規模発電には限らず、各種の電子機器と組み合わせて、利便性を考えて利用されるケースも多い。たとえば代表的なものとして、腕時計や電卓などに搭載し、一次電池がなくとも長期間動作が可能なようなシステムとして活躍するものとしても期待されている。
【0012】
たとえば腕時計に色素増感太陽電池を搭載する場合、非常に狭いスペースの中で太陽電池の装着や配線の接続が必要である。従来の様な2本のリード線25を扱うことは、長さや引き出し方向が異なる2本の線を、個別に電気的接続をすることから、取り扱いが非常に面倒である。また、スペース的にも非効率になる面が大きい。
【0013】
そこで、腕時計のような限られた場所での実装では、たとえば外部回路から導通用のピンを立て、その上に太陽電池を単純に乗せることで、太陽電池の電極部分とピンが接触して回路との導通を得ることがなされている。しかしながら、従来の色素増感太陽電池では、上下の基板の電極は対向した位置にあることから、一方向から同時に両電極に接触することは不可能であるため、その様な簡単な実装構造をとることも出来ない。
【0014】
そこで、本発明の目的は上記課題を解決し、外部との接続が簡便に出来る色素増感太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明の色素増感太陽電池においては、下記に記載する手段を採用する。
【0016】
第1薄膜電極を有した第1基板と、第2薄膜電極を有した第2基板と、第1薄膜電極または第2薄膜電極のどちらかに接触しており色素が吸着する半導体層と、対向して配置された第1薄膜電極と第2薄膜電極の間に配置された絶縁スペーサと、第1薄膜電極と第2薄膜電極と絶縁スペーサにより囲まれた空間に充填された電解質層と、を有する色素増感太陽電池であり、第1基板には第1薄膜電極に至るスルーホールが設けられた構造とすることを特徴とする。
【0017】
スルーホール内部に露出した第1薄膜電極の面は第1接続電極となし、第1接続電極の反対面である第1薄膜電極上には補強層を有する、そして絶縁スペーサが補強層の機能を兼ねていることも出来る。また第2基板は第1基板の外周より延出した部分を有し、延出部分には第2接続電極を有することが好ましい。
【0018】
さらに第2薄膜電極に電気的に接触し、第1薄膜電極とは絶縁された状態で第1基板に至る導電スペーサを有することが好ましく、導電スペーサと第1基板との間には、補助電極を有するとなお良い。
【0019】
また補強層あるいは絶縁スペーサが接触する第1基板の反対面には、第1スルーホールが設けられ、第1スルーホールの内部にて第1接続電極が露出しており、導電スペーサが接触する第1基板の反対面には第2スルーホールが設けられ、第2スルーホール内部にて第2接続電極が露出していることが好ましい。
【0020】
そしてスルーホール内部の第1接続電極に電気的に接触する第1電極パッドを有する、あるいは第2接続電極に電気的に接触する第2電極パッドを有することがより好ましい。
【0021】
そしてケース、風防ガラス、裏蓋で形成された空間に、表示板、ムーブメント、回路基板を搭載している腕時計において、本発明の色素増感太陽電池が、表示板とムーブメントの間で第2基板が表示板と対向するように装着され、第1接続電極および第2接続電極とが対向した回路基板と、導電端子を用いて電気的に接続することを特徴とし、導電端子は回路基板にあらかじめ具備されていると良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明の色素増感太陽電池は、片側の基板にスルーホールを形成し、露出した電極面を利用することから、上下の電極からの取出しが同一方向から行える。これにより、従来のようにリード線を引き回す必要が生じないため、材料および工程的に削減できる。特に、本発明の色素増感太陽電池を限られた狭い領域に実装する場合には、リード線の引き回しがないことはスペース効率として有利になる。
【0023】
そして、本発明の色素増感太陽電池の二つの電極は同一方向に面していることから、接続先の回路基板等は対向させ、バネ性のある導電端子を介在させることで、半田付けや接着などなしに、従来より簡便な接続が可能となる。そして、スルーホール内に露出した電極面の反対面に補強層を設ける場合には、ピンなどの力が定常的に与えられても電極膜は強度的に耐えうる構造となる。
【0024】
また、絶縁スペーサに補強層の効果を持たせることで、補強層の製造工程が簡略化できるとともに、絶縁スペーサを外周近くまで配置することが可能となることから、発電領域を広範囲に広げられ、性能を向上させることが可能となる。
【0025】
さらには第2基板の薄膜電極に導電スペーサを接触させ、その導電スペーサは第1基板まで至ることから、一つの基板から外部への電気的取出しが可能となる。これに加え、第1基板に二つのスルーホールを形成することで、同一面での簡便な外部接続が可能となる。
【0026】
以上のような色素増感太陽電池は、たとえば腕時計の内部では、表示板の下に実装し、ムーブメントにある回路基板と接続電極を対向させることで、介在している導電端子で簡単に接続ができ、非常に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態における第1の実施例の色素増感太陽電池を示した断面図である。
【図2】本発明の実施形態における第1の実施例の色素増感太陽電池を第1基板側から見た平面図である。
【図3】本発明の実施形態における第1の実施例の色素増感太陽電池を示した断面図である。
【図4】本発明の実施形態における第2の実施例の色素増感太陽電池を示した断面図である。
【図5】本発明の実施形態における第3の実施例の色素増感太陽電池を示した断面図である。
【図6】本発明の実施形態における第3の実施例の色素増感太陽電池を示した断面図である。
【図7】本発明の実施形態における第3の実施例の色素増感太陽電池を示した断面図である。
【図8】本発明の実施形態における第3の実施例の色素増感太陽電池を示した断面図である。
【図9】本発明の実施形態における第3の実施例の色素増感太陽電池を第1基板側から見た平面図である。
【図10】本発明の実施形態における色素増感太陽電池を実装した腕時計の断面図である。
【図11】本発明の実施形態における色素増感太陽電池を腕時計に実装する場合の要部断面図である。
【図12】本発明の実施形態における色素増感太陽電池を腕時計に実装する場合の要部断面図である。
【図13】従来の色素増感太陽電池を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔実施例1〕
まず初めに図1を用いて、本発明の太陽電池の構造を説明する。図1は本発明の色素増感太陽電池の断面構造を示している。
本発明の色素増感太陽電池の基本的な構成部材は、第1基板10、第1薄膜電極11、第2基板20、第2薄膜電極21、半導体層30、色素31、絶縁スペーサ40、電解質層50、補強層70からなっている。
【0029】
第1基板10は透明性のフィルム材を用いており、本発明ではPEN(ポリエチレンナフタレート)を用いているが、その他PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PI(ポリイミド)、PA(ポリアミド)、PAI(ポリアミドイミド)など、耐熱性の高分子材が利用することが出来る。
【0030】
第1基板10には第1薄膜電極11が形成されているが、こちらは触媒活性を有した金属薄膜が利用される。主に白金を利用するが、その他パラジウム、ロジウム、オスミウム、イリジウムなども利用可能である。また、これらの金属は高価であるため、非常に薄い膜とし、その下に導通をとるために他の金属材料や酸化物半導体層などを介在させても良い。
【0031】
第2基板20も基本的に第1基板10と同じように透明フィルム材を用いている。そして、フィルムの表面には第2薄膜電極21が形成されている。第2薄膜電極21は、透明性を有したITO(Indium Tin Oxide)、二酸化スズ、酸化亜鉛などの酸化物半導体が用いられる。
【0032】
さらに第2薄膜電極21の上には二酸化チタンの微粒子からなる半導体層30が形成されている。そして半導体層30の表面には色素31が吸着している。半導体層30にはその他、酸化スズ、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ニオブなども、利用可能である。ま
た、色素31はビピリジン構造を持つルテニウム錯体、ポルフィリン、フタロシアニンなどの金属錯体、あるいはローダミン、メロシアニン、インドリン、クマリンなど有機色素といった、その目的によって数多くの色素群が利用可能である。
【0033】
図1では半導体層30と色素31は膜が重なったように表現されているが、実際には半導体層30は二酸化チタン微粒子により多孔質構造を有しているため、半導体層30にある無数の孔の表面にも色素31は吸着しており、半導体層30と複合化したような構造となっている。
【0034】
この2枚の基板は表面に形成されている両電極を対向させた形で、配置されている。そして、半導体層30の周囲には絶縁スペーサ40が設置され、その厚さ分のクリアランスを持って両基板は接合されている。絶縁スペーサ40には、ホットメルト材、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などの接着性樹脂が利用され、基本的にスペースを保つことの他に上下の基板を接着するのにも役立っている。
【0035】
絶縁スペーサ40により作られた上下の電極の間隙は電解質層50で満たされている。電解質層50には、ヨウ素、ヨウ素化合物、臭素化合物などの電解質成分を、アセトニトリル、エチレンカーボネート、ポリエチレングリコール、メトキシプロピオニトリルなどに溶解したものが用いられる。
【0036】
ここまでの構造は従来の色素増感太陽電池とほぼ同じであるが、本発明の色素増感太陽電池では、第1基板10には第1薄膜電極11に至るスルーホール60が形成されている。スルーホール60により第1薄膜電極11の一部は露出するようになっているが、その露出部分は第1接続電極65となっている。
【0037】
そして、第1薄膜電極11面上で第1接続電極65の反対面側には補強層70が形成されている。補強層70は熱硬化性あるいは光硬化性などの有機樹脂から構成されており、大きさはスルーホール60の穴径よりも大きく第1接続電極65全体を反対面で覆う形になっている。第1接続電極65は外部と電気的接触をする場合、何らかの手段により電極膜には応力がかかることとなり、薄い電極膜だけでは耐えられない。そこで、補強層70があることで強度的に実用化出来るようになる。
【0038】
本発明の色素増感太陽電池において、第1基板10と第2基板20はほとんど形状は同じであるが、一部分において異なっている。図2には本発明の色素増感太陽電池を第1基板10側から見た平面図を示している。図2に見られるように、ほぼ円形の第1基板10には、一部切り欠き部63がある。第2基板20は円形をしているため、第1基板10の切り欠き部63から第2基板20の一部が延出している構成となっており、そこにあらわれた部分が第2接続電極66となっている。図面では第2接続電極66の延出部分は第1基板10の切り欠き部であったが、たとえば第1基板10と第2基板20の配置を多少ずらすことで、形成することも出来る。
【0039】
以上の様な構成を取ることにより、本発明の色素増感太陽電池は、外部への接続をとるための第1接続電極65と第2接続電極66の接続面が同じ方向を向いている。つまり、図1における下方に両電極が向いていることになる。これから、本発明の色素増感太陽電池では、第1基板10に対向させて外部回路を配置することで、直接接続が出来ることになる。
【0040】
図1に示した構造で、本発明の効果は得られるが、さらに上下基板の接続電極には電極パッドを形成してもよい。その構造は図3に示した。第1接続電極65と第2接続電極66に電気接触するよう、導電性の樹脂からなる第1電極パッド81と第2電極パッド82
が形成されている。導電性樹脂としてはエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂やシリコーン系樹脂にカーボンや銀などの導電粒子が混練されているものを用いる。電極パッドがあることで、外部との接続時に薄膜電極に直接接触することがないので、膜の損傷などの危険性がなく、信頼性がさらに高まるものである。
【0041】
続いて簡単に本発明の色素増感太陽電池の製造方法を述べる。まず、フィルム状の第1基板10を用意し、スパッタリング法を用いて白金薄膜を形成し第1薄膜電極11とする。この時下地層としてチタン膜を形成しても良い。第1薄膜電極11の上には、その一部に補強層70を設けておく。補強層70は後に太陽電池の接続電極としたい部分に形成するが、エポキシ樹脂をディスペンスあるいは印刷することで塗布しておき、熱や紫外線によって硬化させる。また図示はしていないが、第1基板10には後に電解液を注入するための微小な注入孔を形成しておく。
【0042】
同じくフィルム状の第2基板20を用意し、やはりスパッタリング法を用いてITO薄膜を形成し、第2薄膜電極21とする。つづいて、二酸化チタンの微粒子をポリエチレングリコール、アルコール、アセトンなどの有機溶媒や水に分散させたペーストを用意し、スキージ法を用いて第2薄膜電極21上に所望の形状で印刷する。ペーストは室温で溶媒をある程度蒸発させた後、電気炉中で焼成して半導体層30とする。この時、二酸化チタンの粒子同士は結合をし、全体の抵抗を下げることとなる。
【0043】
さらに色素31を有機溶媒で溶かした色素溶液を用意し、その中に先の第2基板20を浸漬し、半導体層30である二酸化チタン粒子表面に色素31を吸着させる。液から出した後加熱あるいは自然乾燥させることで、色素31付きの基板が出来上がる。
【0044】
ホットメルト型の接着剤を所望の形状に加工しておき、第2基板20に形成した半導体層30の外周に配置する。第2基板20に対向して先に用意した第1基板10を合わせ、加圧をしながら加熱をする。ホットメルト材は融解することにより上下の基板に親和し、常温に戻すと再度固化し絶縁スペーサ40となり貼り合わせが完了する。
【0045】
つづいて、第1基板10の下面よりレーザー光線を照射し、第1基板10の一部を溶解除去しスルーホール60を形成する。スルーホール60は先に形成しておいた補強層70の位置に形成するが、補強層70の面積よりも小さい方がよい。これにより、露出した第1薄膜電極11部分が第1接続電極65となる。
【0046】
また、必要に応じて、第1接続電極65と第2接続電極66にはディスペンス法や印刷法を用いて第1電極パッド81と第2電極パッド82を形成する。電極パッドとなる導電性樹脂は原液を所定の場所に配置した後、加熱や紫外線照射により硬化させることで出来上がる。
【0047】
最後に、予め形成しておいた第1基板10の注入孔よりシリンジなどを利用して電解液を内部のスペースに注入し電解質層50を形成する。注入孔はホットメルト剤を乗せ、再加熱することで封止する。以上の工程を経ることで、本発明の色素増感太陽電池は完成する。
【0048】
以上の説明において、スルーホール60の形成は基板を貼り合わせた後に行っていたが、第1基板10に補強層70を形成した後に引き続き行うこともできる。また、第1電極パッド81の形成もこれに引き続いて行える。第2電極パッド82も第2薄膜電極21が形成した後なら、いつ行ってもかまわない。また、スルーホール60は、図面上では第1基板10の内部に形成しているため、文字通り穴の形状をしているが、外周部に形成しても良い。この場合、穴形状ではなく切り欠き部のようになるが、その上に絶縁スペーサ4
0があれば必要な機能は果たすことができる。
〔実施例2〕
【0049】
つづいて本発明の色素増感太陽電池における第2の構造を図4に示した。第1基板10、第1薄膜電極11、第2基板20、第2薄膜電極21、半導体層30、色素31、電解質層50、絶縁スペーサ40からなる構成は図1に示した太陽電池と同じであり、第1基板10から延出した第2基板20の部分に第2接続電極66があることも同じである。
【0050】
ここで、第2の色素増感太陽電池では、スルーホール60が絶縁スペーサ40の下面に形成されており、つまり絶縁スペーサ40が先に述べた補強層70を兼ねた構造となっている。スルーホール60の大きさは当然ながら、絶縁スペーサ40の幅よりも小さくなっているが、絶縁スペーサ40幅が小さい場合には、スルーホール60を空ける場所に相当する絶縁スペーサ40部分の幅を広くしても良い。この様にして、絶縁スペーサ40の下面に第1接続電極65が形成されるとともに、絶縁スペーサ40で補強されているため、強度的に実用可能な電極となる。
【0051】
以上の第2の色素増感太陽電池では、絶縁スペーサ40が補強層70を兼ねることにより、製造工程が簡略化できるとともに、絶縁スペーサ40を外周近くまで配置することが可能となることから、発電領域を広範囲に広げることが可能となる。
〔実施例3〕
【0052】
続いて本発明の色素増感太陽電池における第3の構造について、図5を用いて説明する。図5は本発明の色素増感太陽電池の断面構造を示している。
【0053】
第3の実施例における色素増感太陽電池の基本的な構成部材は、透明性のフィルム材からなる第1基板10および第2基板20、金属膜からなる第1薄膜電極11、金属酸化物透明電極である第2薄膜電極21、主に二酸化チタン微粒子からなる半導体層30、色素31、二つの基板を接合する機能を持つ絶縁スペーサ40、電解質層50からなっており、この基本的構成は第2の実施例と同じである。そしてさらに本実施例では導電スペーサ41を設けている。
【0054】
本実施例における色素増感太陽電池では、絶縁スペーサ40の外周部分に上下の基板に接する導電スペーサ41が設けられている。導電スペーサ41は合成樹脂やゴム系材料にカーボンや銀などの導電粒子が混練されて、固体として導通を有するものである。ただし、第1薄膜電極11は導電スペーサ41に接触しないよう、導電スペーサ41のある部分には形成されていない。
【0055】
そして、導電スペーサ41が第1基板10に接しているところにおいて、第1基板10には第2スルーホール62が形成されている。第2スルーホール62は導電スペーサ41まで達するよう形成されていることから、第2スルーホール62の底面には導電スペーサ41が露出しており、第2接続電極66となっている。導電スペーサ41は第2薄膜電極21に電気接触していることから、第2接続電極66では第2薄膜電極21と導通をとることができる。
【0056】
また第1基板10の別の場所では第1薄膜電極11に至る第1スルーホール61が形成されている。第1スルーホール61により第1薄膜電極11の一部は露出するようになっているが、その露出部分は第1接続電極65となっている。ただし第1スルーホール61は第1接続電極65の強度を維持するために、絶縁スペーサ40が設けられている部分に形成するのが望ましい。この第1スルーホール61は、基本的に先の実施例に述べてきた、スルーホール60と同じである。
【0057】
以上の様な構成を取ることにより、本発明の色素増感太陽電池は、外部への接続をとるための第1接続電極65と第2接続電極66の接続面が同じ面内に存在するようになる。これから、本発明の色素増感太陽電池では、第1基板10に対向させて外部回路を配置するばあい、非常に簡単に直接接続が出来ることになる。
【0058】
また、図6に示しているように、導電スペーサ41と第1基板10との間には、補助電極12を設けることもできる。補助電極12は第1薄膜電極11と同じ面内で第1基板10の表面に形成されている。補助電極12は金属薄膜からなっているが、基本的に第1薄膜電極11と同じ材料である。補助電極12は金属膜であることから、導電スペーサ41から直接外部接触を取るより、接触抵抗を下げることが可能である。
【0059】
さらに図5あるいは図6に示した構造で、本発明の効果は得られるが、さらに上下基板の接続電極には電極パッドを形成してもよい。その構造は図7に示した。第1接続電極65と第2接続電極66に電気接触するよう、導電性の樹脂からなる第1電極パッド81と第2電極パッド82が形成されている。導電性樹脂としてはエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂やシリコーン系樹脂にカーボンや銀などの導電粒子が混練されているものを用いる。電極パッドがあることで、外部との接続時に薄膜電極に直接接触することがないので、膜の損傷などの危険性がなく、信頼性が高まる。また第1基板10の表面より突出させることができるため、外部からの接触が容易になる。
【0060】
また、図8に示したように、導電スペーサ41を絶縁スペーサ40の外周に配置するだけでなく、内部に入り込ませても良い。この構造を平面的に示したのが図9である。両者の図から明らかなように、このような構造をとることで、絶縁スペーサ40を最外周まで配置することができるようになる。これにより、従来のように基板の外周にて基板がフリーの状態になることがなく、また第1薄膜電極11と第2薄膜電極21の膜面がまったく露出していないことから、耐湿性などの信頼性を向上させることができる。さらに、図には示していないが、基板の側面にも絶縁性接着剤などで、封止をするとさらに効果的である。
【0061】
続いて第3の実施例の色素増感太陽電池の製造方法を述べる。まず、フィルム状の第1基板10を用意し、スパッタリング法を用いて白金薄膜を形成し第1薄膜電極11とする。基板との密着を取るため、あるいは膜抵抗を下げるために下地層としてチタン、ニッケル、クロム、アルミ膜などを形成しても良い。この第1薄膜電極11を形成する際、導電スペーサ41と接触する部分には、薄膜は形成しない。あるいは第1薄膜電極11となる部分とは電気的に分離させて、補助電極12を第1薄膜電極11と同じ材料で同時に形成する。
【0062】
パターン化された第1薄膜電極11および補助電極12の形成は、形成したい薄膜の形状にあらかじめ加工された金属板マスクを利用し、成膜する際にパターン化を行うことで可能である。あるいは第1基板10のほぼ全面に薄膜を形成し、フォトリソグラフィーを利用したエッチング法によりパターン形成することも出来る。また、図示はしていないが、第1基板10には後に電解液を注入するための微小な注入孔を形成しておく。
【0063】
同じくフィルム状の第2基板20を用意し、やはりスパッタリング法を用いてITO薄膜を形成し、第2薄膜電極21とする。つづいて、二酸化チタンの微粒子をポリエチレングリコール、アルコール、アセトンなどの有機溶媒や水に分散させたペーストを用意し、スキージ法を用いて第2薄膜電極21上に所望の形状で印刷する。ペーストは室温で溶媒をある程度蒸発させた後、電気炉中で焼成して半導体層30とする。この時、二酸化チタンの粒子同士は結合をし、全体の抵抗を下げることとなる。
【0064】
さらに色素31を有機溶媒で溶かした色素溶液を用意し、その中に先の第2基板20を浸漬し、半導体層30である二酸化チタン粒子表面に色素31を吸着させる。液から出した後加熱あるいは自然乾燥させることで、色素31付きの基板が出来上がる。
【0065】
ホットメルト型の接着剤を所望の形状に加工しておき、第2基板20に形成した半導体層30の外周に配置する。また同時に、電気伝導性のホットメルト型接着剤も第2接続電極66を形成したい場所に配置する。第2基板20に対向して先に用意した第1基板10を合わせ、加圧をしながら加熱をする。ホットメルト材は融解することにより上下の基板に親和し、常温に戻すと再度固化し絶縁スペーサ40と導電スペーサ41となり、貼り合わせが完了する。
【0066】
また、貼り合わせに関しては、絶縁スペーサ40の材料として、熱硬化性や光硬化性の接着剤を用意して、半導体層30の外周に配置しても良い。そして、導電スペーサ41の材料としても、導電粒子が混練された熱硬化性や光硬化性の接着剤を使うことも可能である。これらは、印刷あるいはディスペンスなどの工程により第1基板10あるいは第2基板20に接着剤を配置しておき、両基板を合わせた後に加熱あるいは光照射することで硬化させて固定する。
【0067】
つづいて、第1基板10の下面よりレーザー光線を照射し、第1基板10の一部を溶解除去し第1スルーホール61を形成する。第1スルーホール61は先に形成しておいた絶縁スペーサ40の位置に形成するが、絶縁スペーサ40の幅よりも小さい方がよい。これにより、露出した第1薄膜電極11部分が第1接続電極65となる。
【0068】
同様にレーザー照射により、第2スルーホール62を形成する。第2スルーホール62は導電スペーサ41のある部分に形成するが、導電スペーサ41の幅より小さいほうが望ましい。そして、第2スルーホール62は導電スペーサ41の面あるいは補助電極12の面が露出するまで加工されるが、この露出面が第2接続電極66となる。ここで、第1スルーホール61と第2スルーホール62の形成順はどちらが先でもかまわない。
【0069】
さらに必要に応じて、第1接続電極65と第2接続電極66にはディスペンス法や印刷法を用いて第1電極パッド81と第2電極パッド82を形成する。電極パッドとなる導電性樹脂は原液を所定の場所に配置した後、加熱や紫外線照射により硬化させることで出来上がる。
【0070】
最後に、予め形成しておいた第1基板10の注入孔よりシリンジなどを利用して電解液を内部のスペースに注入し電解質層50を形成する。その後注入孔にはホットメルト剤を乗せ、再加熱することで封止する。以上の工程を経ることで、本発明の色素増感太陽電池は完成する。
【0071】
以上の説明において出てきた第1スルーホール61と第2スルーホール62は、図面上では第1基板10の内部に形成しているため、文字通り穴の形状をしているが、外周部に形成しても良い。この場合、穴形状ではなく切り欠き部のようになるが、その上に絶縁スペーサ40や導電スペーサ41があれば必要な機能は果たすことができる。また、第1接続電極65と第2接続電極66を隣接させて作る場合は、第1スルーホール61と第2スルーホール62をつなげて一つにすることもできる。
【0072】
以上それぞれの実施例では、第1基板10にスルーホール60あるいは第1スルーホール、第2スルーホールを形成することとしている。しかしながら、スルーホールは、第2基板20に形成することも可能である。この場合、外部との電気的接触は第2基板側から
行うこととなる。ただし、第2スルーホールを第2基板20に設ける場合は、第1薄膜電極11をパターン化する代わりに、第2薄膜電極21をパターン化するようになる。
【0073】
引き続いて、本発明の色素増感太陽電池を腕時計用の発電セルとして利用する場合の構成について説明する。図10には、本発明の色素増感太陽電池を装着した腕時計の断面図を示している。
【0074】
図10ではアナログ式の腕時計を示しており、ケース101、風防ガラス102、裏蓋103で形成された空間に、表示板104、色素増感太陽電池105、ムーブメント106、回路基板107を搭載している。回路基板107は基本的にムーブメント106と一体化しており、ムーブメント106には歯車など機械的な部品、モーター、振動子、二次電池なども含まれている。
【0075】
外部光は透明な風防ガラス102を通過し、表示板104に達するが、表示板104は半透明性を有しているため、光の一部はその下部まで達する。表示板104のすぐ下部に色素増感太陽電池105が配置されていることから、色素増感太陽電池105は到達した光で発電することができる。光は風防ガラス102を通して入射するため、色素増感太陽電池105は上側、つまりは風防ガラス102側に透明性を有した基板である、第2基板20が向けられるように配置される。
【0076】
色素増感太陽電池105で発電したエネルギーは回路側に供給されるが、そのための回路基板107は色素増感太陽電池105のすぐ下に来るように配置される。本発明の色素増感太陽電池105は図1で説明したように、その第1接続電極65と第2接続電極66が両者とも下側を向いているため、回路基板107とはすぐ近くで対向できる。回路基板107にはあらかじめ導電端子108を備えておくことにより、導電端子108が第1接続電極65と第2接続電極66に直接触ることができ、それぞれは腕時計内部に実装するだけで電気的な接続が取れるようになる。
【0077】
導電端子108による詳しい接続の様子は図11に示した。図11では、色素増感太陽電池には図4に示したような、絶縁スペーサ40が補強層となっているものを利用しており、第1接続電極65と第2接続電極66がすぐ近くに来るように配置されている。図11より明らかなように、本発明の色素増感太陽電池では、太陽電池の接続電極と外部回路が導電端子108により、簡単に接続できることが分かる。そして、導電端子108は接触を確実にするよう、コイルバネ、板バネ、伸縮性の金属筒の中にバネの入ったバネ棒など、弾性部材を利用するのが良い。
【0078】
また実施例3における色素増感太陽電池を用いたときの、導電端子108による詳しい接続の様子は図12に示した。図から明らかなように、第2接続電極66も第1基板10に設けることで、長さの同じ導電端子108を利用でき、接続位置あわせなどがさらに簡単になる。
【0079】
そして色素増感太陽電池105から回路基板107に送られた電気エネルギーは、二次電池に蓄えられ、この二次電池のエネルギーを利用して腕時計は継続的に駆動することができるようになる。
【0080】
なお、本発明の色素増感太陽電池を備えた腕時計では、表示板104の下に色素増感太陽電池105を設置した。しかし、用いる色素増感太陽電池105そのものに文字などを印刷することで、表示板104としての機能を兼ねさせることは可能であり、その場合別の材料で表示板104を供える必要はない。
【符号の説明】
【0081】
10 第1基板
11 第1薄膜電極
12 補助電極
20 第2基板
21 第2薄膜電極
25 リード線
30 半導体層
31 色素
40 絶縁スペーサ
41 導電スペーサ
50 電解質層
60 スルーホール
61 第1スルーホール
62 第2スルーホール
63 切り欠き部
65 第1接続電極
66 第2接続電極
70 補強層
81 第1電極パッド
82 第2電極パッド
101 ケース
102 風防ガラス
103 裏蓋
104 表示板
105 色素増感太陽電池
106 ムーブメント
107 回路基板
108 導電端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1薄膜電極を有した第1基板と、第2薄膜電極を有した第2基板と、前記第1薄膜電極または前記第2薄膜電極のどちらかに接触しており色素が吸着する半導体層と、対向して配置された前記第1薄膜電極と前記第2薄膜電極の間に配置された絶縁スペーサと、前記第1薄膜電極と前記第2薄膜電極と前記絶縁スペーサにより囲まれた空間に充填された電解質層とを有する色素増感太陽電池であって、前記第1基板には前記第1薄膜電極に至るスルーホールを有する色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記スルーホール内部に露出した前記第1薄膜電極の面は第1接続電極となし、該第1接続電極の反対面である前記第1薄膜電極上には補強層を有することを特徴とする請求項1に記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記絶縁スペーサが前記補強層の機能を兼ねていることを特徴とする請求項2に記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記第2基板は前記第1基板の外周より延出した部分を有し、延出部分には第2接続電極を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
前記第2薄膜電極に電気的に接触し、前記第1薄膜電極とは絶縁された状態で前記第1基板に至る導電スペーサを有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項6】
前記導電スペーサと前記第1基板との間には、補助電極を有することを特徴とする請求項5に記載の色素増感太陽電池。
【請求項7】
前記補強層または前記絶縁スペーサが接触する前記第1基板の反対面には、第1スルーホールが設けられ、該第1スルーホールの内部にて第1接続電極が露出しており、さらに前記導電スペーサが接触する前記第1基板の反対面には第2スルーホールが設けられ、該第2スルーホール内部にて第2接続電極が露出していることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の色素増感太陽電池。
【請求項8】
前記スルーホール内部の前記第1接続電極に電気的に接触する第1電極パッドを有することを特徴とする請求項2、請求項3または請求項7に記載の色素増感太陽電池。
【請求項9】
前記第2接続電極に電気的に接触する第2電極パッドを有することを特徴とする請求項4または請求項7に記載の色素増感太陽電池。
【請求項10】
ケース、風防ガラス、裏蓋で形成された空間に、表示板、ムーブメント、回路基板を搭載している腕時計であって、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載された色素増感太陽電池が、前記表示板と前記ムーブメントの間で前記第2基板が前記表示板と対向するように装着され、前記第1接続電極および前記第2接続電極とが、対向した前記回路基板と、導電端子を用いて電気的に接続することを特徴とする色素増感太陽電池を備えた腕時計。
【請求項11】
前記導電端子は前記回路基板にあらかじめ具備されていることを特徴とする請求項10に記載の色素増感太陽電池を備えた腕時計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−211971(P2010−211971A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54335(P2009−54335)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【出願人】(307023373)シチズン時計株式会社 (227)
【Fターム(参考)】