説明

苗移植機

【課題】簡易な操作によって植付条位置を変更することができる簡易な構成の苗移植機を提供する。
【解決手段】苗移植機は、周回駆動される移送カップ(3c)により苗を移送しつつ所定位置で投下する移送装置(3)と、その下方で駆動リンク(4a)によって上下駆動される開閉可能な嘴状の植付具(4b)により投下苗を受けて植付けする植付装置(4)と、その後方位置でハンドル(23h)により上下操作可能に支持した覆土輪(21)によって圃場面を押さえる覆土装置とを備えて構成され、上記植付具(4b)は、駆動リンク(4a)に対して植付位置を左右移動可能に支持し、かつ、上記覆土装置(21,23h)は、機体幅方向に移動可能に支持したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移送装置、植付装置、覆土装置等からなる植付部を備えて圃場を走行しつつ苗を植付けする苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、畝を跨いで圃場走行可能な機体に左右の植付部を備え、それぞれの植付部には、投入された苗を順次移送する多数の開閉可能な移送カップによる移送装置と、開閉可能な嘴状の植付具が上下動作することにより個々の苗を圃場に植付けする植付装置とを備え、圃場を走行しつつ複数条の苗を植付けする苗移植機が知られている。
【0003】
上記左右の植付部の移送装置は、車幅方向に延びる長円形の移送経路を有する駆動機構によって周回する移送カップが作業者から投入供給された苗を移送して所定位置で順次投下し、植付装置は、駆動リンクによって上下動作する植付具に投下苗を受けることにより、圃場を走行しつつ畝上の所定の植付条位置に苗を植付けすることができ、また、スライドフレーム構成の左右の植付部の位置を調節することにより、植付条間距離を変更して植付けすることができる。
【特許文献1】特開2002−159204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成の苗移植機では、左右の植付部の間にスライドフレームによる複雑な連結支持手段が必要となり、また、スライドフレームによって植付部の位置を調節する際は、その移送装置と植付装置およびその駆動部を含む全体を同時に移動させる大掛かりな作業を要するという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、簡易な操作によって植付条位置を変更することができる簡易な構成の苗移植機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、周回駆動される移送カップ(3c)により苗を移送しつつ所定位置で投下する移送装置(3)と、その下方で駆動リンク(4a)によって上下駆動される開閉可能な嘴状の植付具(4b)により投下苗を受けて植付けする植付装置(4)と、その後方位置でハンドル(21h)により上下操作可能に支持した覆土輪(21)によって圃場面を押さえる覆土装置とを備えて圃場を植付け走行可能な苗移植機において、上記植付具(4b)は、駆動リンク(4a)に対して植付位置を左右移動可能に支持し、かつ、上記覆土装置(21,23h)は、機体幅方向に移動可能に支持したことを特徴とする。
【0007】
上記植付具は、駆動リンクをそのままで植付位置が変更可能となり、また、覆土装置は、植付装置とは別に、機体に対してその幅方向に移動可能となり、両方の操作により植付条位置が変更され、畝を跨いだ植付け走行により植付けと覆土とを行う。
【発明の効果】
【0008】
上記苗移植機は、植付装置および覆土装置が簡易に構成され、かつ、機体に対してその幅方向に個々に位置を移動する簡易な操作によって植付条位置が変更され、植付けとその覆土とを行う。したがって、上記苗移植機は、簡易な構成による植付装置と覆土装置について個別の簡易な操作により植付条位置を変更して条件に応じた植付けが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明の一実施形態としての苗移植機を以下に説明する。尚、以下の図示例についての説明で「前」又は「後」というときは、エンジン5を配置した側を「前」とし、その反対側、即ち操縦ハンドル2を配置した側を「後」とする。そして、「右」又は「左」というときは、機体後部において機体前部側を前側として立つ作業者から見て右手側を「右」とし、左手側を「左」とする。
【0010】
図1、図2は、それぞれ、苗移植機の側面図、平面図である。
本例の苗植付機は、前進走行を可能とする機体1と、この機体1から延びるハンドルフレーム2bの後部に設けた歩行操縦用の操縦ハンドル2と、投入された苗を所定位置まで移送する移送装置3と、この移送装置3から投下された苗を受けて圃場に植付ける植付装置4と、ハンドル21hによって上下操作可能な覆土輪21,21による覆土装置等を備えて構成される。
【0011】
機体1は、図示例では、エンジン5と、該エンジン5の動力が伝達されて駆動回転する左右一対の駆動車輪である後輪6,6と、該後輪6,6の前方に転動自在に支持した左右一対の前輪7,7とを備えたものとしている。エンジン5の後部にはミッションケース8を配置し、そのミッションケース8は、その片側部からエンジン5の側方に延びるケース部分を有し、これがエンジン5の片側部と連結している。このケース部分にエンジン5の出力軸が入り込んでミッションケース8内の伝動機構に動力を伝達する構成となっている。
【0012】
ミッションケース8の両側部には、左右に延びるアクスルケース9a,9aを介して左右の後輪伝動ケース9,9を回動自在に取り付けてその後端部に後輪6,6を高さ位置調節可能に支持することにより上下調節支持機構を構成する。走行用の動力は、左右のアクスルケース9a,9a内を挿通する車輪駆動軸から後輪伝動ケース9,9内の伝動機構を介して後輪6,6を駆動回転する。
【0013】
上記アクスルケース9a,9aは、畝幅に対応して左右に伸縮調節可能に設けている。また、アクスルケース9a,9aを支持するために、アクスルケース9a,9aと略平行する状態で支持フレーム9b、9bをミッションケース8に固着していて、その支持フレーム9b、9bの外端部に固着した支持プレート9c、9cでアクスルケース9a,9aの外側部を回動自在に支持している。
【0014】
また、左右のアクスルケース9a,9aには、後輪伝動ケース9,9の前部側を回動支点として後輪6,6を上下させるよう上下回動する駆動手段が連結している。具体的には、左右のアクスルケース9a,9aには上方に延びるアーム11,11を一体的に取り付けて、これがミッションケース8に固定された昇降用油圧シリンダ12のピストンロッド先端に取り付けた連結体13の左右両側部と連結している。左右一方側(図例では右側)は、ロッド14で連結し、他方側(左側)は、機体の傾斜に応じて伸縮作動可能な左右水平制御用油圧シリンダ15で連結している。
【0015】
昇降用油圧シリンダ12が作動してそのピストンロッドが機体後方に突出すると、左右の前記アーム11,11は後方に回動し、それに伴い後輪伝動ケース9,9が下方に回動して機体が上昇する。反対に、昇降用油圧シリンダ12のピストンロッドが機体前方に移動してシリンダ12内に引っ込むと、左右の前記アーム11,11は前方に回動し、これに伴い後輪伝動ケース9,9が上方に回動して機体が下降する。
【0016】
機体下部には接地センサーSを備え、機体と畝面との上下問隔に応じて機体1が畝上面高さに対して設定高さになるよう昇降用油圧シリンダ12を駆動制御し、後輪6,6の支持高さを畝高さに合わせて変更し、ハンドルフレーム2bの高さ位置を上下に調節することにより、苗の植付け深さを一定に維持することができる。また、操縦ハンドル2近傍に操作具を配置して人為操作によって機体を上昇させるように昇降用油圧シリンダ12を駆動制御することにより、操縦ハンドル2の押下げ操作によって機体前部を上げることにより機体の方向転換を可能とする。
【0017】
また、前記左右水平制御用油圧シリンダ15が伸縮作動すると、その左右水平制御用油圧シリンダ15と連結する左側のアーム11が回動して、左右の後輪6,6を互いに異なる高さにし、機体を左右に傾斜させる。この左右水平制御用油圧シリンダ15は、左右水平に対する機体の左右傾斜を検出するセンサの検出結果に基づいて機体を左右水平になるように作動するよう構成している。
【0018】
前記左右前輪7,7は、エンジン5下方の車幅中心軸線周りに回動自在に取り付けた横断フレーム16の左右両側部に縦フレーム16a,16aを取付け、その下端部に軸支する。従って、左右の前輪7,7は、車幅中心軸線周りにローリング動作自在となっている。縦フレーム16a,16aは上下調節可能に設けていて、前輪7,7の高さ調節をすることができるようになっている。
【0019】
上記機体1は四輪構成としたものであるが、左右一対の駆動輪のみの2輪構成の走行支持でもよいし、前輪の替わりに畝上面を転動する鎮圧輪としてもよい。また、クローラー式の走行装置としてもよい。
【0020】
前記操縦ハンドル2は、ミッションケース8に前端部を固定したハンドルフレーム2bを後輪6,6より後方まで延出してその後端部に取り付ける。ハンドルフレーム2bは、後輪6,6の位置まで低位で延出し、次第に立ち上がりつつ傾斜して後方に延び、その後端部から左右に分かれて左右のグリップ部2a,2aを構成する。なお、図例ではグリップ部2a,2aを左右に分かれた構成としているが、操縦ハンドル2の左右の後端部を互いに左右に連結してその連結部分をグリップ部としても良い。
【0021】
次に、苗植付部は、周回駆動機構3dにより開閉可能な多数の移送カップ3c…に苗を受けて周回移送しつつ所定位置で苗を投下する移送装置3および駆動リンク4aにより上下駆動される開閉可能な嘴状構成の左右の植付具4b,4bによって苗を植付けする植付装置4とによって構成される。また、左右の植付具4b,4bの後方位置にハンドル21hで上下操作可能な覆土輪21,21による覆土装置を備える。
【0022】
苗植付部について詳細に説明すると、移送装置3の周回駆動機構3dは、ハンドルフレーム2bに設けたステー3fを介してミッションケース3mを取付け、このミッションケース3mから動力を受けることにより、多数の移送カップ3c…を車幅方向に延びる長円形状の移送経路に沿って周回駆動する。多数の移送カップ3c…はカップ底を開閉可能に構成し、移送経路に沿って移送されることにより歩行作業者によって投入された苗を所定位置まで順次移送し、カム機構により所定位置でカップ底を開放し、苗を投下して植付装置4に供給するように構成する。
【0023】
植付装置4の左右の植付具4b、4bは、要部拡大正面図を図3に示すように、ミッションケース3mから動力を受けて揺動動作する平行リンクに準ずる異形リンク機構4aに連結したホルダリンク4hにより、その両側位置で略直立姿勢で上下動作可能に支持する。上記ホルダリンク4hは、その両側に支軸4p、4pを備え、上記両植付具4b、4bそれぞれの片側部に取付けた略L字状の支持アーム4s、4sを介して左右揺動可能に軸支するとともに、上記ホルダリンク4hの一端に軸支したハンドル付きのスクリュウ軸4tによって両支持アーム4s、4sの一端をそれぞれ螺合保持する。
【0024】
上記構成の植付装置4は、在来の植付装置の1条植えの植付具4bを上記ホルダリンク4hを介して新たな植付具4bを取付けることにより左右2条植えに簡易に構成することができる。また、植付条位置を変更する際は、ハンドル操作によりスクリュウ軸4tを回動するとそのねじ作用により支持アーム4s、4sがそれぞれ傾動され、これら両支持アーム4s、4sを介して左右の植付具4b、4bが傾動されることによりそれぞれの下端の植付位置が車幅方向にワンタッチのハンドル操作で変更される。この場合、植付具4b、4bのガイド口4gに近い上位部に支持アーム4s、4sを設けることにより、植付具4b、4bの傾動によるガイド口4gの位置ずれが小さく抑えられることから、移送装置3からの苗の受け継ぎが確保される。
【0025】
スクリュウ軸4tのねじ構成については、両支持アーム4s、4sの一端がそれぞれ螺合する左右のねじ部が、たとえば、ハンドルフレーム2b側のねじピッチを他方より大きく、かつ、逆ねじに形成することにより、スクリュウ軸4tのハンドル操作によってハンドルフレーム2b側の植付具4bが他方と反対向きに大きく傾動されてそれぞれの植付け位置および条間距離を変更することができる。また、左右のねじ部を同一ねじとした場合は条間距離を維持しつつ両植付け位置をそのまま横移動することができる。
【0026】
さらに、図4の例のように、ホルダリンク4hの両側に設けた左右の支軸4p、4qの高さ位置に差を付けて左右の植付具4b、4bを軸支することによっても、それぞれの植付け位置および条間距離を変更することができる。
【0027】
次に、覆土輪21による覆土装置について説明すると、その構成例の側面図および平面図を図5,図6にそれぞれ示すように、左右の覆土輪21,21を対にして軸支した矩形状のホイール異形リンク機構を左右に並べてそれぞれの前端をハンドルフレーム2b側に軸支し、また、ハンドルフレーム2b後部のハンドル2の近傍に、全覆土輪21…を上下操作するために側面視が略L字状に屈曲するハンドル付アーム23を軸支して覆土装置を構成する。
【0028】
詳細には、覆土装置の要部斜視図を図7に示すように、左右の支持フレーム22,22には、それぞれ左右の覆土輪21,21を軸支し、その前端はハンドルフレーム2bから機体幅方向に延びる水平軸部材22hについてその軸線方向にスライド可能に軸支する。水平軸部材22hにはピン22p等による位置設定手段を設けて左右の支持フレーム22,22の機体幅方向位置を変更可能に構成する。また、ハンドル付アーム23はその屈曲部をハンドルフレーム2bに取付けたブラケット23bに軸支し、後端側に上下方向の回動操作用のハンドル部23hを形成し、下端に機体幅方向に延びる吊部材22cを軸支して左右の支持フレーム22,22の後端をそれぞれを吊り上げるように縦ロッド23r、23rを介して連結する。これらの縦ロッド23r、23rは、吊部材22cについて機体幅方向に位置変更可能に取付ける。
【0029】
このように構成することにより、作業者がハンドル付アーム23の操作を介して全覆土輪21…を同時に畝面に対して上下操作することができ、また、左右の支持フレーム22,22をそれぞれ左右に移動してピン22p…で位置決めし、これと合わせて縦ロッド23r、23rを移動することにより、左右の支持フレーム22,22別に覆土輪21,21の位置を簡易に移動することができる。
【0030】
したがって、前記植付装置4について簡易な操作によって植付条位置を変更することができ、また、覆土装置21、23の左右の支持フレーム22,22の位置調節により、変更後の植付条位置に合わせて覆土輪21,21を簡易に配置することができる。
【0031】
次に、通信機能を有する苗移植機について説明する。この苗移植機は、その平面図を図8に示すように、ハンドル2の近傍に携帯電話等による通信手段31を設ける。通信するべきデータとして植付伝動部の回転センサ等に基づき前日植付けた面積を記憶して発信し、サーバにて管理する。所定のアドレスにアクセスした場合のみ情報閲覧可能とし、ランキング表示等により楽しむことができる。、
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】苗移植機の側面図である。
【図2】苗移植機の平面図である。
【図3】植付装置の拡大正面図である。
【図4】植付装置の別例の要部正面図である。
【図5】別例の苗移植機の側面図である。
【図6】別例の苗移植機の平面図である。
【図7】覆土装置の斜視図である。
【図8】別構成例の苗移植機の平面図である。
【符号の説明】
【0033】
2b ハンドルフレーム
3 移送装置
3c 移送カップ
3d 周回駆動機構
3m ミッションケース
4 植付装置
4a 異形リンク機構
4b 植付具
4g ガイド口
4t スクリュウ軸
4h ホルダリンク
4s 支持アーム
4p 支軸
21 覆土輪(覆土装置)
22 支持フレーム
22p ピン
22c 吊部材
22h 水平軸部材
23 ハンドル付アーム
23h ハンドル部(覆土装置)
23r 縦ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周回駆動される移送カップ(3c)により苗を移送しつつ所定位置で投下する移送装置(3)と、その下方で駆動リンク(4a)によって上下駆動される開閉可能な嘴状の植付具(4b)により投下苗を受けて植付けする植付装置(4)と、その後方位置でハンドル(23h)により上下操作可能に支持した覆土輪(21)によって圃場面を押さえる覆土装置とを備えて圃場を植付け走行可能な苗移植機において、
上記植付具(4b)は、駆動リンク(4a)に対して植付位置を左右移動可能に支持し、かつ、上記覆土装置(21,23h)は、機体幅方向に移動可能に支持したことを特徴とする苗移植機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−300860(P2007−300860A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132950(P2006−132950)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】