説明

複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法及び装置

【課題】複数リンク型重機において、対象物より受ける反力荷重を正確に且つ確実に推定する方法及び装置を提供する。
【解決手段】相対的に枢動可能に直列的に連結された複数のリンクを有し、複数のリンクは重機本体20に枢支された基幹リンク26と対象物に必要な作用を行う先端リンク30とを含む複数リンク型重機10が対象物より先端リンクの作用点にて受ける反力荷重を推定する方法及び装置であって、各リンクについて作用点に作用する反力荷重を求めるためのラグランジェの運動方程式を導出し、各リンクの回転角を検出すると共に、各リンクの重機本体側の枢軸線の周りのトルクを推定し、これらに基づいてラグランジェの運動方程式を解くことにより反力荷重を演算し、反力荷重に基づいて先端リンクが作用点にて対象物より受ける反力荷重を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の解体等に使用されるニブラ重機の如く相対的に枢動可能に直列的に連結された複数のリンクを有する複数リンク型重機に係り、更に詳細には複数リンク型重機に於いて先端リンクが対象物より受ける反力荷重を推定する方法に係る。
【背景技術】
【0002】
ニブラ重機や油圧ショベルの如き複数リンク型重機に於いては、必要な作業を安全に行うためにはニブラやバケットの如き先端リンクが対象物より受ける反力荷重、即ち引張り荷重や積荷荷重等を正確に推定する必要がある。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、アームとその先端に枢支されたバケットとを有する油圧ショベルに於いてバケットの積荷荷重を演算する装置が記載されている。この装置はアームの傾斜角を検出する傾斜角センサと、バケットを所定の積荷保持姿勢に維持したときのバケットの負荷圧を検出する圧力センサとを有し、これらのセンサの検出結果に基づいてバケット支持軸周りの力の釣り合いから積荷荷重を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−245874号公報
【発明の概要】
【0005】
〔発明が解決しようとする課題〕
油圧ショベルの如き複数リンク型重機は、一般に、重機本体により枢支されたブーム、ブームの先端により枢支されたアーム、アームの先端により枢支されたバケット等(先端リンク)を有している。かかる複数リンク型重機による作業に於いては、ブーム、アーム、バケット等が同時に複合的に駆動されるため、ブーム等のリンクが同時に複合的に駆動される状況に於いてバケット等が受ける反力荷重を正確に推定する必要がある。
【0006】
しかるに上記特許文献1に記載されている如き従来の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置に於いては、ブーム、アーム、バケットが静止状態又はバケットが単純に上昇される場合でなければ、積荷荷重を演算することができない。従って当技術分野に於いてはブーム等のリンクが同時に複合的に駆動される状況に於ける反力荷重を正確に且つ確実に推定することができる方法や装置が希求されている。
【0007】
本発明は、複数リンク型重機に於いて反力荷重を推定する従来の装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものである。そして本発明の主要な課題は、ブーム等の複数のリンクが同時に複合的に駆動される状況に於いても先端リンクが対象物より受ける反力荷重を正確に且つ確実に推定することができる方法及び装置を提供することである。
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
【0008】
上述の主要な課題は、本発明によれば、相対的に枢動可能に直列的に連結された複数のリンクを有し、前記複数のリンクは重機本体により枢支された基幹リンクと対象物に必要な作用を行う先端リンクとを含む複数リンク型重機が対象物より前記先端リンクの作用点にて受ける反力荷重を推定する複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法に於いて、各リンクを示す添え字をiとし、各リンクの前記重機本体側の枢軸線と前記作用点との間の距離をλとし、各リンクについて前記作用点に作用する反力荷重をFとし、各リンクの回転角をθとし、各リンクの前記重機本体側の枢軸線の周りのトルクをτとして、各リンクについてラグランジェの運動方程式を導出し、前記回転角θを検出すると共に、前記トルクτを推定し、前記回転角θ及び前記トルクτに基づいて各リンクについての前記ラグランジェの運動方程式を解くことにより反力荷重Fを演算し、反力荷重Fに基づいて前記先端リンクが作用点にて対象物より受ける反力荷重Fを演算することを特徴とする複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法(請求項1の構成)、又は相対的に枢動可能に直列的に連結された複数のリンクを有し、前記複数のリンクは重機本体により枢支された基幹リンクと対象物に必要な作用を行う先端リンクとを含む複数リンク型重機が対象物より前記先端リンクの作用点にて受ける反力荷重を推定する複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置に於いて、各リンクを示す添え字をiとし、各リンクの前記重機本体側の枢軸線と前記作用点との間の距離をλとし、各リンクについて前記作用点に作用する反力荷重をFとし、各リンクの回転角をθとし、各リンクの前記重機本体側の枢軸線の周りのトルクをτとして、各リンクについてラグランジェの運動方程式を記憶する手段と、前記回転角θを検出する手段と、前記トルクτを推定する手段と、前記回転角θ及び前記トルクτに基づいて各リンクについての前記ラグランジェの運動方程式を解くことにより反力荷重Fを演算し、反力荷重Fに基づいて前記先端リンクが作用点にて対象物より受ける反力荷重Fを演算する演算手段と、を有することを特徴とする複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置(請求項9の構成)によって達成される。
【0009】
上記前者の構成によれば、回転角θが検出されると共に、トルクτが推定され、回転角θ及びトルクτに基づいて各リンクについてのラグランジェの運動方程式を解くことにより反力荷重Fが演算され、反力荷重Fに基づいて反力荷重Fが演算される。従って後に詳細に説明する如く、複数のリンクが同時に複合的に駆動される状況に於いても先端のリンクが受ける反力荷重を正確に且つ確実に推定することができる。
【0010】
上記後者の構成によれば、上記前者の方法を容易に且つ確実に実行することができるので、複数のリンクが同時に複合的に駆動される状況に於いても先端のリンクが受ける反力荷重を容易に且つ確実に推定することができる。
【0011】
また本発明によれば、前記複数リンク型重機はそれぞれ対応するリンクを前記重機本体側の枢軸線の周りに枢動させる複数のピストン‐シリンダ装置を有し、前記トルクτは各ピストン‐シリンダ装置に設置された軸力検出手段の検出結果に基づいて推定されるよう構成される(請求項2の構成)。
【0012】
また本発明によれば、前記複数リンク型重機はそれぞれ対応するリンクを前記重機本体側の枢軸線の周りに枢動させる複数のピストン‐シリンダ装置を有し、前記トルクτを推定する手段は各ピストン‐シリンダ装置に設置された軸力検出手段を含んでいるよう構成される(請求項10の構成)。
【0013】
トルクτは各ピストン‐シリンダ装置に作用する軸力と一義的な関係にある。上記の構成によれば、各ピストン‐シリンダ装置に作用する軸力が軸力検出手段によって検出されるので、例えば各リンクの枢軸に於けるトルクを検出したりすることなくトルクτを推定することができる。
【0014】
また本発明によれば、前記回転角θは各リンクに設置された角速度センサの検出結果に基づいて求められるよう構成される(請求項3の構成)。また前記回転角θを検出する手段は各リンクに設置された角速度センサを含んでいるよう構成される(請求項11の構成)。
【0015】
これらの構成によれば、角速度センサによって各リンクの角速度が検出されるので、各リンクの角速度に基づいて回転角θを求めることができる。
【0016】
また本発明によれば、前記複数リンク型重機はそれぞれ対応するリンクを前記重機本体側の枢軸線の周りに枢動させる複数のピストン‐シリンダ装置を有し、前記回転角θは各ピストン‐シリンダ装置に設置されピストンとシリンダとの相対変位を検出する変位計の検出結果に基づいて求められるよう構成される(請求項4の構成)。
【0017】
また本発明によれば、前記複数リンク型重機はそれぞれ対応するリンクを前記重機本体側の枢軸線の周りに枢動させる複数のピストン‐シリンダ装置を有し、前記回転角θを検出する手段は各ピストン‐シリンダ装置に設置されピストンとシリンダとの相対変位を検出する変位計を含んでいるよう構成される(請求項12の構成)。
【0018】
回転角θは各ピストン‐シリンダ装置の伸縮変位と一義的な関係がある。上記の構成によれば、変位計によって各ピストンとシリンダとの相対変位が検出されるので、各リンクの傾斜角等を検出することなく回転角θを検出することができる。
【0019】
また本発明によれば、前記軸力検出手段は歪みゲージであるよう構成される(請求項5及び13の構成)。
【0020】
上記の構成によれば、歪みゲージはピストン‐シリンダ装置の表面に取付けられればよいので、各ピストン‐シリンダ装置の改変を要することなく各ピストン‐シリンダ装置に作用する軸力を検出することができる。
【0021】
また本発明によれば、ラグランジェ関数をLとし、摩擦による損失エネルギをBとして、ラグランジェの運動方程式は
【数1】

上記式1にて表されるよう構成される(請求項6及び14の構成)。
【0022】
上記の構成によれば、検出された回転角θ及び推定されたトルクτに基づいて各リンクについて上記式1のラグランジェの運動方程式を解くことにより反力荷重Fを演算することができる。
【0023】
また本発明によれば、前記先端リンクの前記作用点に既知の荷重を負荷して各リンクを駆動することにより前記ラグランジェの運動方程式の未知数を決定するよう構成される(請求項7の構成)。
【0024】
上記の構成によれば、先端リンクの作用点に既知の荷重を負荷して各リンクが駆動されるので、ラグランジェの運動方程式の未知数を正確に決定することができる。
【0025】
また本発明によれば、前記複数リンク型重機は前記基幹リンクと、前記先端リンクと、一端にて前記基幹リンクの前記枢軸線とは反対側の端部に枢動可能に連結され且つ他端にて前記先端リンクの前記作用点とは反対側の端部に枢動可能に連結された中間リンクとを有するよう構成される(請求項8及び15の構成)。
【0026】
上記の構成によれば、基幹リンクと、先端リンクと、中間リンクとを有する複数リンク型重機が対象物より先端リンクの作用点にて受ける反力荷重を推定することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
【0027】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記の構成に於いて、複数リンク型重機はニブラ重機であり、先端リンクはニブラ装置であるよう構成される。
【0028】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記の構成に於いて、ラグランジェの運動方程式の未知数は摩擦損失を決定する粘性係数及びピストン‐シリンダ装置の軸力をトルクに変換するための換算係数βであるよう構成される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による反力荷重推定装置の一つの実施形態が適用された複数リンク型重機としてのニブラ重機を示す側面図である。
【図2】ニブラ重機全体及び各リンクについての座標系を示す説明図である。
【図3】リンク相互の角度、油圧シリンダ装置の軸線が対応するリンクに対しなす角度等を示す説明図である。
【図4】ブームの重機本体側の枢軸線と各リンクの重心との間の距離a及び枢軸線と各リンクの重心とを結ぶ直線が水平方向に対しなす角度θaiを示す説明図である。
【図5】実施形態の反力荷重推定装置を示すブロック図である。
【図6】実施形態に於いて反力荷重推定装置を使用して行われる反力荷重F(t)を推定する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0031】
図1は本発明による反力荷重推定装置の一つの実施形態が適用された複数リンク型重機としてのニブラ重機を示す側面図である。
【0032】
図1に於いて、10及び12はそれぞれニブラ重機及び反力荷重推定装置を全体的に示しており、反力荷重推定装置12はニブラ重機10に搭載されている。ニブラ重機10はクローラ14により走行可能な下部走行体16と、下部走行体16に旋回自在に搭載された上部旋回体18とを含み、下部走行体16及び上部旋回体18は重機本体20を構成している。上部旋回体18にはキャビン22が設けられており、キャビン22に搭乗する運転者によってクローラ14によるニブラ重機10の移動、上部旋回体18の旋回、上部旋回体18に装備された作業アタッチメント24の操作等が行われる。
【0033】
作業アタッチメント24は基幹リンクとしてのブーム26と、中間リンクとしてのアーム28と、先端リンクとしてのニブラ装置30とを含んでいる。ブーム26は重機本体20の側の端部にて枢軸線32の周りに上部旋回体18の前後方向及び上下方向を含む枢動平面に沿って枢動可能に枢支され、重機本体20とは反対の側の端部にて枢軸線34の周りに枢動平面に沿って枢動可能にアーム28の一端を枢支している。アーム28の他端は枢軸線36の周りに枢動平面に沿って枢動可能にニブラ装置30の一端を枢支している。枢軸線32を郭定する枢軸は上部旋回体18に対するブーム26の支持軸として機能し、枢軸線34を郭定する枢軸はブーム26に対するアーム28の支持軸として機能し、枢軸線36を郭定する枢軸はアーム28に対するニブラ装置30の支持軸として機能する。
【0034】
ニブラ装置30はブラケット38Aが一体に設けられブラケット38Aにてアーム28の他端に枢支された支持フレーム38と、回転軸線40の周りに回転可能に支持フレーム38に支持されたニブラ本体42とを有している。ニブラ本体42は回転軸線40に対し図1の紙面に垂直な方向の両側にて互いに平行に隔置された枢軸線44A及び44Bの周りに枢動可能に一対の可動爪部材46A及び46Bを支持している。可動爪部材46A及び46Bは油圧シリンダ装置(図示せず)によりニブラ本体42に対し相対的に枢動されることにより、それらの先端の爪部48A及び48Bが互いに隔置される開位置と爪部48A及び48Bが互いに係合する閉位置との間に駆動される。爪部48A及び48Bは閉位置にあるときには回転軸線40上にて互いに係合し、或いはそれらの間に対象物を挾持するようになっている。
【0035】
ブーム26の中央部の下側に一体的に設けられたブラケット26Aには油圧シリンダ装置50の一端が枢支され、油圧シリンダ装置50の他端は上部旋回体18に枢支されている。ブーム26の中央部の上側に一体的に設けられたブラケット26Bには油圧シリンダ装置52の一端が枢支され、油圧シリンダ装置52の他端はアーム28の重機本体20の側の端部に一体的に設けられたブラケット28Aに枢着されている。
【0036】
またブラケット28Aには油圧シリンダ装置54の一端が枢支され、油圧シリンダ装置54の他端は連結リンク56及び58の一端に枢着されている。連結リンク56の他端はニブラ装置30のブラケット38Aに枢支され、連結リンク58の他端はアーム28の先端近傍の部分に枢支されている。アーム28、ニブラ装置30、連結リンク56及び58は互いに共働して四節リンク機構を構成している。
【0037】
油圧シリンダ装置50〜54はシリンダ−ピストン装置として機能し、伸縮することにより作業アタッチメント24を駆動する。特に油圧シリンダ装置50は上部旋回体18に対し相対的にブーム26を枢軸線32の周りに枢動させる。油圧シリンダ装置52はブーム26に対し相対的にアーム28を枢軸線34の周りに枢動させる。油圧シリンダ装置54はアーム28に対し相対的にニブラ装置30を枢軸線36の周りに枢動させる。
【0038】
かくして作業アタッチメント24は相対的に枢動可能に直列的に連結された三つのリンク、即ちブーム26、アーム28、ニブラ装置30よりなっている。ニブラ本体42は作業アタッチメント24のブーム26等が複合的に駆動されることにより上下方向及び水平方向へ移動可能であり、また支持フレーム38に対し相対的に回転軸線40の周りに回転可能である。一対の可動爪部材46A及び46Bはそれらが開位置と閉位置との間に駆動されることにより、ハーネスの如き対象物を把持したり解放したりすることができる。よってニブラ重機10は対象物を引き上げたり、押し下げたり、横方向へ移動させたりすることができる。
【0039】
次に上述の如く構成されたニブラ重機10に適用された本発明による反力荷重推定装置12が一対の可動爪部材46A及び46Bの先端部にて対象物より受ける反力荷重の推定原理について説明する。
(1)ラグランジェの運動方程式
【0040】
ラグランジェ法は、運動の記述に適した一般化座標を考え、一般化座標にて表されたエネルギから運動方程式を導く方法であり、その運動方程式がラグランジェの運動方程式である。
【0041】
添え字iは各リンクを示し、特にi=1はブーム26を示し、i=2はアーム28を示し、i=3はニブラ装置30を示すものとする。図1には示されていないが、ニブラ装置30の作用点Pa、即ち可動爪部材46A及び46Bの先端部が対象物を把持する領域の中心に於いて対象物より反力荷重Fを受けるものとする。また各リンクについて支持軸の軸線と作用点Paとの間の距離(「反力荷重の作用半径」という)をλとし、各リンクが作用点Paにて対象物より受ける反力荷重をFとする。各リンクの支持軸の軸線の周りの回転角をθとし、各リンクの支持軸の軸線の周りのトルクをτとする。ラグランジェ関数をLとし、摩擦による損失エネルギをBとすると、各リンクについてラグランジェの運動方程式は下記の式1により表される。
【数2】

【0042】
回転角θ及びトルクτを検出し又は推定し、各リンクについての上記式1を解くことによって荷重Fを求めることができ、ニブラ重機10が対象物よりニブラ装置30の作用点Paにて受ける反力荷重Fを荷重Fに基づいて推定することができる。
(2)回転角θの検出
【0043】
図1に示されている如く、各リンク、即ちブーム26、アーム28、ニブラ装置30の側面には角速度センサ(ジャイロセンサ)60〜64が取り付けられている。角速度センサ60、62、64はそれぞれブーム26、アーム28、ニブラ装置30の角速度ω1、ω2、ω3を検出する。よって角速度ω1、ω2、ω3を積分することにより回転角θを求めることができる。
【0044】
尚、油圧シリンダ装置50〜54の伸縮長さ(シリンダに対するピストンの相対変位量)を変位計により検出することによっても各リンクの回転角θを求めることができる。しかし角速度センサによれば、三つのリンクの上下方向の枢動及び上部旋回体18の旋回による水平方向の枢動の合計で6動作の角速度を直接検出することができ、また下部走行体16に対する上部旋回体18の旋回をも検出することができるという利点が得られる。
(3)各リンクの運動方程式
【0045】
図2に示されている如く、上部旋回体18の前後方向を下部走行体16の前後方向に整合させて固定し、X軸を上部旋回体18の前後方向にとり、Y軸を上下方向にとり、Y軸をX軸及びY軸に垂直な方向にとって全体の座標系とする。
【0046】
また作業アタッチメント24の枢動平面内にて、枢軸線32を原点とし、枢軸線32と枢軸線34とを結ぶ方向をx1軸の方向とし、y1軸の方向をx1軸に垂直な上方方向として、ブーム26の座標軸を設定する。同様に作業アタッチメント24の枢動平面内にて、枢軸線34を原点とし、枢軸線34と枢軸線36とを結ぶ方向をx2軸の方向とし、y2軸の方向をx2軸に垂直な上方方向として、アーム28の座標軸を設定する。更に作業アタッチメント24の枢動平面内にて、枢軸線36を原点とし、枢軸線36と作用点Paとを結ぶ方向をx3軸の方向とし、y3軸の方向をx3軸に垂直な上方方向として、ニブラ装置30の座標軸を設定する。
【0047】
図2に示されている如く、ブーム26、アーム28、ニブラ装置30の重心をそれぞれ26G、28G、30Gとし、各座標系に於ける重心の座標を(rx1,ry1)、(rx2,ry2)、(rx3,ry3)とする。各座標系について原点から重心26G、28G、30Gまでの距離rは下記の式2により表される。
=(rxi+ryi1/2 …2
(3−1)ラグランジェ関数
【0048】
各リンクの運動エネルギをkとし、ポテンシャルエネルギをφとする。また各リンクの質量をmとし、各リンクの重心に於ける速度をVgiとする。更に各リンクの支持軸周りの慣性モーメントをIとし、地面の如き予め設定された高さを基準に見た場合の各リンクの重心の高さをPgiとし、重力加速度をgとする。ラグランジェ関数Lは運動エネルギTとポテンシャルエネルギUとの差T−Uであるので、下記式3により表される。
【数3】

【0049】
ブーム26の傾斜角、即ちブーム26の座標系のx1軸が水平方向に対しなす角度をθ1とする。ブーム26に対するアーム28の傾斜角、即ちアーム28の座標系のx2軸がx1軸に対しなす角度をθ2とする。アーム28に対するニブラ装置30の傾斜角、即ちニブラ装置30の座標系のx3軸がx2軸に対しなす角度をθ3とする。またブーム26、アーム28、ニブラ装置30の有効長さ、即ち枢軸線32と枢軸線34との間の距離、枢軸線34と枢軸線36との間の距離、枢軸線36と作用点Paとの間の距離をそれぞれl、l、lとする。枢軸線32の周りの各リンクの慣性モーメントをIωgiとする。ラグランジェ関数Lは上記式3に対応する下記式4により表される。
【0050】
【数4】

(3−2)摩擦損失
【0051】
摩擦損失として粘性摩擦を想定し、粘性係数をcとすると、ブーム26、アーム28、ニブラ装置30の摩擦による損失エネルギBについてそれぞれ下記の式5〜式7が成立する。
【数5】

(3−3)反力荷重の作用半径
【0052】
ブーム26、アーム28、ニブラ装置30の反力荷重の作用半径λはそれぞれ下記の式8〜式10により表される。
【数6】

(3−4)ブーム26の運動方程式
【0053】
ブーム26の運動方程式はi=1であるので上記式1に対応する下記の式11により表される。
【数7】

(3−5)アーム28の運動方程式
【0054】
アーム28の運動方程式はi=2であるので上記式1に対応する下記の式12により表される。
【数8】

(3−6)ニブラ装置30の運動方程式
【0055】
ニブラ装置30の運動方程式はi=3であるので上記式1に対応する下記の式13により表される。
【数9】

(4)トルクτの検出
【0056】
一般に枢動するリンクのトルクはその枢軸のトルクや枢軸表面の歪みを検出することにより求めることができる。しかし油圧シリンダ装置により枢動される各リンクの枢軸にはトルクが発生しないので、枢軸のトルクや枢軸表面の歪みを検出することにより各リンクのトルクを求めることはできない。
【0057】
これに対し各リンクは油圧シリンダ装置により枢動されるので、油圧シリンダ装置の軸力は各リンクのトルクに対応している。また油圧シリンダ装置の軸力はピストンロッドの長手方向の歪みに比例している。よってピストンロッドの長手方向の歪みを例えば図1に示されている如く歪みゲージ70〜74によって検出することにより、既存のニブラ重機に対し構造の変更や改変を加えることなく各リンクのトルクτを求めることができる。
(4−1)歪みゲージの設置
【0058】
歪みゲージが単軸ゲージである場合には、ピストンロッドの軸線を通り各リンクの枢動平面に垂直な径方向に対向する二つの位置にてピストンロッドの連結端部(非可動部)の表面に二つの単軸ゲージが貼付され、それらの検出値の平均値が検出歪みとされる。また歪みゲージがクロスゲージである場合には、上記二つの位置の何れかに一つのクロスゲージが貼付され、その検出値に基づいて軸線に沿う方向の歪みが演算され、該歪みが検出歪みとされる。尚歪みゲージがクロスゲージである場合にも単軸ゲージの場合と同様に二つのゲージが貼付され、それらの検出値の平均値が検出歪みとされてもよい。
(4−2)各リンクのトルク式
【0059】
各リンクの枢動速度をeとし、油圧シリンダ装置の油圧動力をOとし、油圧シリンダ装置の油圧をPとし、油圧シリンダ装置に対するオイルの流量をQとすると、各リンクのトルクτは下記の式14により表される。
【0060】
τ=O/e
=P×Q/e …14
【0061】
また各リンクのトルクτは支持軸と油圧シリンダ装置の枢着点とを結ぶ線分と油圧シリンダ装置の軸線とがなす角度に依存する。各リンクの初期トルクをτinとし、油圧シリンダ装置の伸縮によりトルク発生方向に作用する力成分をΔPirとし、油圧シリンダ装置を構成する材料のヤング率をEとする。また油圧シリンダ装置のピストンロッドの軸線方向の検出歪みをεとし、検出歪みεに対する補正歪みをΔεixとし、検出歪みをトルクに変換するための換算係数をβとする。更に検出歪みよりトルク作用方向の歪み成分を求めるための変換関数をdix)とし、トルクの周期をei,ω)とする。尚換算係数βは後述の如く予備試験により決定される。
【0062】
各リンクのトルクτは以上の値を使用して上記式14に対応する下記の式15により表される。尚式15に於いて、rは各リンクのトルク作用半径であり、αは各各油圧シリンダ装置のシリンダとピストンとの相対変位量であり、sは各油圧シリンダ装置のシリンダ断面積である。
【数10】

(4−3)変換関数ddi)
【0063】
図3に示されている如く、ブーム26の枢軸線32と油圧シリンダ装置50の一端の数軸線とを結ぶ直線が油圧シリンダ装置50の軸線に対しなす角度をθd1とする。またアーム28の枢軸線34と油圧シリンダ装置52の一端の数軸線とを結ぶ直線が油圧シリンダ装置52の軸線に対しなす角度をθd2とする。更に連結リンク56の軸線が油圧シリンダ装置54の軸線に対しなす角度をθd32とし、連結リンク56の軸線がニブラ装置30の枢軸線36と連結リンク56の他端の枢軸線とを結ぶ直線に対しなす角度をθd33とする。また連結リンク58の軸線が油圧シリンダ装置54の軸線に対しなす角度をθd41とし、連結リンク58の軸線がニブラ装置30の枢軸線36と連結リンク58の他端の枢軸線とを結ぶ直線に対しなす角度をθd40とする。検出歪みよりトルク作用方向の歪み成分を求めるための変換関数をdix)はブーム26、アーム28、ニブラ装置30についてそれぞれ下記の式16〜18により表される。
【0064】
1x)=sinθd1 …16
2x)=sinθd2 …17
3x)=cosθd41sinθd40−cosθd32sinθd33 …18
(4−4)初期トルクτin
【0065】
図2に示されている如く、ブーム26の両端の枢軸線32及び34を結ぶ直線26Lが水平方向に対しなす角度をθとする。アーム28の両端の枢軸線34及び36を結ぶ直線28Lが直線26Lに対しなす角度をθとする。更にニブラ装置30の枢軸線36と作用点Paとを結ぶ直線30Lが直線28Lに対しなす角度をθとする。
【0066】
図4に示されている如く、枢軸線32とブーム26の重心26Gとの間の距離をaとし、枢軸線32とアーム28の重心28Gとの間の距離をaとし、枢軸線32とニブラ装置30の重心30Gとの間の距離をaとする。また枢軸線32とブーム26の重心26Gとを結ぶが水平方向に対しなす角度をθa1とし、枢軸線32とアーム28の重心28Gとを結ぶが水平方向に対しなす角度をθa2とし、枢軸線32とニブラ装置30の重心30Gとを結ぶが水平方向に対しなす角度をθa3とする。
【0067】
ブーム26の重心26Gに作用する重力によるモーメントのアーム長さをxg1とし、アーム28の重心28Gに作用する重力によるモーメントのアーム長さをxg2とし、ニブラ装置30の重心30Gに作用する重力によるモーメントのアーム長さをxg3とする。ブーム26の初期トルクτ1n、アーム28の初期トルクτ2n、ニブラ装置30の初期トルクτ3nはそれぞれ下記の式19〜21により表される。
【0068】
【数11】

【数12】

【数13】

(4−5)補正歪みΔεix
【0069】
各油圧シリンダ装置のピストンロッドに発生する歪みには、各油圧シリンダ装置自身の作動に伴い発生する本来の歪みに加えて、計測ノイズによる歪みεi_noszeが含まれており、また当該油圧シリンダ装置が静止していても他の油圧シリンダ装置が作動することによりリンクに対する重力の作用方向が変化することに起因する歪みεix_gravが含まれている。重力の影響を補正するための補正係数をαixとすると、各リンクの補正歪みΔεixは下記の式22により表される。
【数14】

(4−6)トルクの周期ei,ω)
【0070】
作業アタッチメント24がニブラ装置30の作用点Paにて対象物より受ける反力荷重はニブラ装置30が対象物に対し行う持ち上げ等の作用の周期的変動に応じて周期的に変動する。よって各リンクのトルクの周期も各リンクの角度θ及び角速度ωの周期的変動に応じて周期的に変動する。各リンクのトルクに対する角度θの周期比をυθiとし、各リンクのトルクに対する角速度ωの周期比をυωiとすると、各リンクのトルクの周期ei,ω)は下記の式23により表されてよいと考えられる。
ei,ω)=υθiθ+υωiω …23
【0071】
尚、各リンクの重心に作用する重力によるモーメントのアーム長さのうち基幹リンクとしてのブーム26のアーム長さが最も大きい。またブーム26の油圧シリンダ装置50の作動によりすべてのリンクが駆動され、各リンクの油圧シリンダ装置の力の作用方向のうち最も上下方向に近いのはブーム26の油圧シリンダ装置50である。よってブーム26の油圧シリンダ装置50はアーム28の油圧シリンダ装置52及びニブラ装置30の油圧シリンダ装置54よりも重力による影響及び枢動速度による影響を受け易い。
(5)予備試験
【0072】
ニブラ装置30が無負荷の状態、即ちニブラ装置30に錘りが吊り下げられていない状態で、各リンクを単独で動作させた際の計測角速度及び計測歪みをそれぞれωin及び計測歪みεinとし、各リンクのトルクの周期をeinin,ωin)とする。ラグランジェ関数から得られる一般化力Jinは下記の式24により表される。
【数15】

【0073】
またニブラ装置30の作用点Paに負荷が与えられた状態、即ちニブラ装置30に重さWの錘りが吊り下げられた状態で、各リンクを単独で動作させた際の計測角速度及び計測歪みをそれぞれωif及びεifとする。また各リンクの初期トルクをτifとし、各リンクのトルクの周期をeifif,ωif)とする。ラグランジェ関数から得られる一般化力Jifは下記の式25により表される。
【数16】

【0074】
式24及び25には未知数である粘性係数c及び換算係数βが含まれているが、式24及び25を連立方程式として解くことにより粘性係数をc及び換算係数βを求めることができる。
【0075】
よってニブラ装置30が無負荷の状態及びニブラ装置30に重さWの錘りが吊り下げられた状態について予備試験を行うことにより、各リンクの運動方程式である上記式11〜13に含まれる粘性係数c及び換算係数βを決定することができる。
(5−1)初期位置での計測
【0076】
作業アタッチメント24をニブラ重機10の用途に応じた標準位置に位置決めすることにより、ニブラ装置30が無負荷の状態及び負荷ありの状態の両方について各アームが初期位置に設定される。例えばニブラ重機10が解体される自動車のワイヤハーネスの引き剥し作業に使用される場合には、各アームがワイヤハーネスの引き剥し基礎試験時と実質的に同一の位置に設定される。そして各アームが初期位置に設定された状況に於いて各アームの運動方程式に含まれる角度θ等が計測される。
(5−2)ブーム26についての予備試験
【0077】
ニブラ装置30が無負荷の状態及び負荷ありの状態の両方について、油圧シリンダ装置50を伸縮させることによりブーム26を枢軸線32の周りに枢動させる。そしてその際のブーム26の角速度ω及び油圧シリンダ装置50のピストンロッドの歪みεをそれぞれ角速度センサ60及び歪みゲージ70によって検出する。
(5−3)アーム28についての予備試験
【0078】
ニブラ装置30が無負荷の状態及び負荷ありの状態の両方について、油圧シリンダ装置52を伸縮させることによりアーム28を枢軸線34の周りに枢動させる。そしてその際のアーム28の角速度ω及び油圧シリンダ装置52のピストンロッドの歪みεをそれぞれ角速度センサ62及び歪みゲージ72によって検出する。
(5−4)ニブラ装置30についての予備試験
【0079】
ニブラ装置30が無負荷の状態及び負荷ありの状態の両方について、油圧シリンダ装置54を伸縮させることによりニブラ装置30を枢軸線36の周りに枢動させる。そしてその際のニブラ装置30の角速度ω及び油圧シリンダ装置54のピストンロッドの歪みεをそれぞれ角速度センサ64及び歪みゲージ74によって検出する。
【0080】
尚以上の各アームの予備試験に於いては、ニブラ装置30が無負荷の状態及び負荷ありの状態についての予備試験の開始前に、角速度センサ及び歪みゲージがリセットされる。また各アームの枢動角度は15〜30°程度に設定され、各アームはニブラ装置30が無負荷の状態及び負荷ありの状態について実質的に同一の枢動速度にて駆動される。
(6)予備試験の運動方程式の解法
(6−1)時間変数の取り扱い
【0081】
上記式24及び25は時間変数を含んでいる。よってこれらの式を連立方程式として解く際には、未知数である粘性係数c及び換算係数βを変動させながら計測時間全体に於ける波形の一致度合を反復法により調べることにより、未知数を効率的に求めることができる。
(6−2)ニブラ装置30が負荷ありの状態での一般化力Jifの計算
【0082】
上記式25の一般化力Jifはニブラ装置30の重量、重心位置、慣性モーメントが錘りの負荷によって変化した場合の一般化力Jである。ニブラ装置30が負荷ありの状態でのニブラ装置30の重量m′、重心位置のx座標r3x′、重心位置のy座標r3y′、ニブラ装置30の枢軸線36と重心との距離r′、ニブラ装置30の慣性モーメントIωg3はそれぞれ下記の式26〜30により表される。よって上記式25は上記式24に於けるニブラ装置30の重量m等を下記の式26〜30により表される値に置き換えたものと等価である。
【数17】

(7)各リンクの運動方程式の解法
(7−1)反復法
【0083】
時間変数を含めて上記式11〜13の運動方程式を実際に解くに当たっては、上記式26〜30の錘りの重さWを未知数とし、上記式11〜13の反力荷重FをWgに置き換えて解を反復的に求めることが実用的である。反力荷重Fを反復的に変化させる大ききは大きくないことが好ましいが、歪みの検出誤差を考慮すると、反力荷重Fを反復的に変化させる大ききが小さすぎても反力荷重Fを正確に求めることができない。
(7−2)反力荷重
【0084】
時間tの変数である反力荷重F(t)は下記の式31により表される。尚下記の式31のmaxは{}内の値のうちの最大値を意味する。
F(t)=max{F(t), F(t), F(t)} …31
【0085】
次に反力荷重推定装置12の構成及び上述の反力荷重の推定原理に基づいて行われる反力荷重F(t)の推定手順について説明する。
【0086】
図5は実施形態の反力荷重推定装置12を示すブロック図である。図5に示されている如く、反力荷重推定装置12は電子制御装置80と、電子制御装置80に対し必要な指令や情報を入力するための入力装置82と、電子制御装置80による演算結果などを表示するディスプレイ84とを含んでいる。尚電子制御装置80は反力荷重推定装置12がニブラ重機10に搭載される構成の場合にはマイクロコンピュータであってよく、また評価試験装置としてニブラ重機10に取り外し可能に適用される構成の場合にはパーソナルコンピュータであってよい。
【0087】
電子制御装置80には角速度センサ60〜64により検出されたブーム26、アーム28、ニブラ装置30の角速度ω1、ω2、ω3を示す信号が入力される。また電子制御装置80には歪みゲージ70〜74により検出された油圧シリンダ装置50〜54のピストンロッドに発生する歪みε1、ε2、ε3を示す信号が入力される。電子制御装置80は必要に応じて上述の種々の式に従って演算を行う。
【0088】
角速度センサ60〜64及び歪みゲージ70〜74はケーブルにより電子制御装置80に接続されていてもよく、また角速度センサ60〜64及び歪みゲージ70〜74の少なくとも一方のセンサが無線式に電子制御装置80に接続されていてもよい。特に一方のセンサがケーブルにより電子制御装置80に接続され、他方のセンサが無線式に電子制御装置80に接続される場合には、センサの検出値に対し時間的な同期を取るための処理が行われることが好ましい。
【0089】
図6は実施形態に於いて反力荷重推定装置12を使用して行われる反力荷重F(t)を推定する手順を示すフローチャートである。
【0090】
まずステップ10に於いては未知数、即ち粘性係数c及び換算係数βが既に決定されているか否かの判別が行われ、既に未知数が決定されているときには肯定判別が行われて手順はステップ40へ進む。これに対し未知数がまだ決定されていないときには否定判別が行われて手順はステップ20へ進む。
【0091】
ステップ20に於いては上記「(5−2)ブーム26についての予備試験」〜「(5−4)ニブラ装置30についての予備試験」に記載の要領にて各リンクが駆動され、各リンクの角速度ω及び油圧シリンダ装置のピストンロッドの歪みεが検出される。
【0092】
ステップ30に於いては上記「(5)予備試験」に記載の要領にて各リンクについて上記式24及び25を連立方程式として解くことにより各リンクについて未知数である粘性係数c及び換算係数βが演算される。
【0093】
ステップ40に於いてはブーム26、アーム28、ニブラ装置30が同時複合的に駆動されると共に、ブーム26等の角速度及び油圧シリンダ装置のピストンロッドの歪みが検出される。即ちブーム26が枢軸線32の周りに予め設定された角度枢動され、アーム28が枢軸線34の周りに予め設定された角度枢動され、ニブラ装置30が枢軸線36の周りに予め設定された角度枢動される。そしてブーム26の角速度ω、油圧シリンダ装置50のピストンロッドの歪みε、アーム28の角速度ω、油圧シリンダ装置52のピストンロッドの歪みε、ニブラ装置30の角速度ω、油圧シリンダ装置54のピストンロッドの歪みεが検出される。
【0094】
ステップ50に於いては検出された角速度ω及び歪みεに基づいてステップ30に於いて決定された粘性係数c及び換算係数βを使用する上記式11に従ってブーム26についての反力荷重F(t)が演算される。また検出された角速度ω及び歪みεに基づいてステップ30に於いて決定された粘性係数c及び換算係数βを使用する上記式12に従ってアーム28についての反力荷重F(t)が演算される。更に検出された角速度ω及び歪みεに基づいてステップ30に於いて決定された粘性係数をc及び換算係数βを使用する上記式13に従ってニブラ装置30についての反力荷重F(t)が演算される。
【0095】
ステップ60に於いてはステップ50に於いて演算された反力荷重F(t)、F(t)、F(t)に基づいて上記式31に従って最終的な反力荷重F(t)が演算される。
【0096】
かくして上述の実施形態の推定方法によれば、ブーム等の複数のリンクが同時に複合的に駆動される状況に於いても先端リンクとしてのニブラ装置30が対象物より受ける反力荷重を正確に且つ確実に推定することができることが解る。
【0097】
また上述の実施形態の推定装置によれば、上述の実施形態の推定方法を確実に且つ効率的に実行して反力荷重を正確に且つ確実に推定することができることが解る。
【0098】
更に上述の実施形態によれば、回転角θを検出する手段は各リンクに設置された角速度センサを含んでおり、油圧シリンダ装置の軸力を検出する手段は歪みゲージである。よってニブラ重機10に対し構造の変更や改変を加えることなく各リンクの回転角θやトルクτを求めることができることが解る。
【0099】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0100】
例えば上述の実施形態に於いては、複数リンク型重機は解体される自動車のワイヤハーネスの引き剥し作業等に使用されるニブラ重機10である。しかし本発明が適用される複数リンク型重機は例えば先端リンクがバケットである油圧ショベルの如く、相対的に枢動可能に直列的に連結された複数のリンクを有し、先端リンクにて対象物に必要な作用を行う任意の複数リンク型重機であってよい。
【0101】
また上述の実施形態に於いては、ニブラ重機10は基幹リンクとしてのブーム26、中間リンクとしてのアーム28、先端リンクとしてのニブラ装置30の三つのリンクを有している。しかし本発明が適用される複数リンク型重機は二つのリンクを有するものであってもよく、また四つ以上のリンクを有するものであってもよい。
【0102】
また上述の実施形態に於いては、各リンクは油圧シリンダ装置の伸縮によって枢動されるようになっているが、各リンクは油圧シリンダ装置以外の装置によって枢動されてもよい。
【0103】
また上述の実施形態に於いては、各油圧シリンダ装置の軸力を検出する手段は歪みゲージであるが、各油圧シリンダ装置の軸力は例えば荷重センサの如く歪みゲージ以外の手段によって検出されてもよい。
【符号の説明】
【0104】
10…ニブラ重機、12…反力荷重推定装置、16…下部走行体、18…上部旋回体、24…作業アタッチメント、26…ブーム、28…アーム、30…ニブラ装置、42…ニブラ本体、46A,46B…可動爪部材、50〜54…油圧シリンダ装置、60〜64…角速度センサ、70〜74…歪みゲージ、80…電子制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に枢動可能に直列的に連結された複数のリンクを有し、前記複数のリンクは重機本体により枢支された基幹リンクと対象物に必要な作用を行う先端リンクとを含む複数リンク型重機が対象物より前記先端リンクの作用点にて受ける反力荷重を推定する複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法に於いて、
各リンクを示す添え字をiとし、各リンクの前記重機本体側の枢軸線と前記作用点との間の距離をλとし、各リンクについて前記作用点に作用する反力荷重をFとし、各リンクの回転角をθとし、各リンクの前記重機本体側の枢軸線の周りのトルクをτとして、各リンクについてラグランジェの運動方程式を導出し、
前記回転角θを検出すると共に、前記トルクτを推定し、
前記回転角θ及び前記トルクτに基づいて各リンクについての前記ラグランジェの運動方程式を解くことにより反力荷重Fを演算し、
反力荷重Fに基づいて前記先端リンクが作用点にて対象物より受ける反力荷重Fを演算する
ことを特徴とする複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法。
【請求項2】
前記複数リンク型重機はそれぞれ対応するリンクを前記重機本体側の枢軸線の周りに枢動させる複数のピストン‐シリンダ装置を有し、前記トルクτは各ピストン‐シリンダ装置に設置された軸力検出手段の検出結果に基づいて推定されることを特徴とする請求項1に記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法。
【請求項3】
前記回転角θは各リンクに設置された角速度センサの検出結果に基づいて求められることを特徴とする請求項1又は2に記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法。
【請求項4】
前記複数リンク型重機はそれぞれ対応するリンクを前記重機本体側の枢軸線の周りに枢動させる複数のピストン‐シリンダ装置を有し、前記回転角θは各ピストン‐シリンダ装置に設置されピストンとシリンダとの相対変位を検出する変位計の検出結果に基づいて求められることを特徴とする請求項1又は2に記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法。
【請求項5】
前記軸力検出手段は歪みゲージであることを特徴とする請求項2に記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法。
【請求項6】
ラグランジェ関数をLとし、摩擦による損失エネルギをBとして、前記ラグランジェの運動方程式は
【数18】

上記式1にて表されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法。
【請求項7】
前記先端リンクの前記作用点に既知の荷重を負荷して各リンクを駆動することにより前記ラグランジェの運動方程式の未知数を決定することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一つに記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法。
【請求項8】
前記複数リンク型重機は前記基幹リンクと、前記先端リンクと、一端にて前記基幹リンクの前記枢軸線とは反対側の端部に枢動可能に連結され且つ他端にて前記先端リンクの前記作用点とは反対側の端部に枢動可能に連結された中間リンクとを有することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一つに記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定方法。
【請求項9】
相対的に枢動可能に直列的に連結された複数のリンクを有し、前記複数のリンクは重機本体により枢支された基幹リンクと対象物に必要な作用を行う先端リンクとを含む複数リンク型重機が対象物より前記先端リンクの作用点にて受ける反力荷重を推定する複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置に於いて、
各リンクを示す添え字をiとし、各リンクの前記重機本体側の枢軸線と前記作用点との間の距離をλとし、各リンクについて前記作用点に作用する反力荷重をFとし、各リンクの回転角をθとし、各リンクの前記重機本体側の枢軸線の周りのトルクをτとして、各リンクについてラグランジェの運動方程式を記憶する手段と、
前記回転角θを検出する手段と、
前記トルクτを推定する手段と、
前記回転角θ及び前記トルクτに基づいて各リンクについての前記ラグランジェの運動方程式を解くことにより反力荷重Fを演算し、反力荷重Fに基づいて前記先端リンクが作用点にて対象物より受ける反力荷重Fを演算する演算手段と、
を有することを特徴とする複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置。
【請求項10】
前記複数リンク型重機はそれぞれ対応するリンクを前記重機本体側の枢軸線の周りに枢動させる複数のピストン‐シリンダ装置を有し、前記トルクτを推定する手段は各ピストン‐シリンダ装置に設置された軸力検出手段を含んでいることを特徴とする請求項9に記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置。
【請求項11】
前記回転角θを検出する手段は各リンクに設置された角速度センサを含んでいることを特徴とする請求項9又は10に記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置。
【請求項12】
前記複数リンク型重機はそれぞれ対応するリンクを前記重機本体側の枢軸線の周りに枢動させる複数のピストン‐シリンダ装置を有し、前記回転角θを検出する手段は各ピストン‐シリンダ装置に設置されピストンとシリンダとの相対変位を検出する変位計を含んでいることを特徴とする請求項9又は10に記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置。
【請求項13】
前記軸力検出手段は歪みゲージであることを特徴とする請求項10に記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置。
【請求項14】
ラグランジェ関数をLとし、摩擦による損失エネルギをBとして、前記ラグランジェの運動方程式は
【数19】

上記式1にて表されることを特徴とする請求項9乃至13の何れか一つに記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置。
【請求項15】
前記複数リンク型重機は前記基幹リンクと、前記先端リンクと、一端にて前記基幹リンクの前記枢軸線とは反対側の端部に枢動可能に連結され且つ他端にて前記先端リンクの前記作用点とは反対側の端部に枢動可能に連結された中間リンクとを有することを特徴とする請求項9乃至14の何れか一つに記載の複数リンク型重機に於ける反力荷重推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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