説明

触媒の劣化診断装置

【課題】診断領域を狭めることなく、触媒劣化の判定を正確に行える触媒の劣化診断装置を提供する。
【解決手段】触媒3の酸素ストレージ量に基づいて触媒3の劣化を診断する制御装置6は、温度測定手段12により検出されたセンサ素子温度に基づいて酸素ストレージ量を補正し、補正された酸素ストレージ量が所定のしきい値に満たない場合に、触媒3の劣化を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気を浄化する触媒の劣化診断を行う触媒の劣化診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンなどの内燃機関の排気を浄化するために、三元触媒が広く用いられている。この三元触媒には、触媒性能の向上のため金属セリウム等の酸素吸着成分を担持させている。この酸素吸着成分による酸素ストレージ量を診断することによって、触媒の劣化を検出する方法が従来から用いられている(特許文献1、参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−113528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1のように、検出された酸素ストレージ量を積算し、これを所定値と比較することによって、触媒の劣化を検出している。ところで、触媒の酸素ストレージ量は、排気ガス中の酸素を酸素センサにより検出することによって行われる。
【0005】
一方で、この酸素センサの出力値は、運転状態により変動する。そのため、酸素ストレージ量の積算値も運転状態により変動する。しかしながら、これを一つの診断クライテリアで判定する場合は、劣化の切り分けが困難であるという問題があった。
【0006】
従来は、診断領域を狭めることによって、このような運転状態の変動に対応していた。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、診断領域を狭めることなく、触媒劣化の判定を正確に行える触媒の劣化診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様によると、内燃機関1の排気通路2に備えられる触媒3と、触媒3の上流側に備えられる上流側空燃比検出手段4と、触媒の3下流側に備えられる下流側空燃比検出手段5と、車速、アクセル開度、アクセル開度、スロットル開度、内燃機関の負荷及び吸入空気量の少なくとも一つを含む運転状態を検出する運転状態検出手段6と、上流側空燃比検出手段4によって検出された空燃比を下流側空燃比検出手段5によって検出された空燃比をフィードバックすることにより算出される触媒3の酸素ストレージ量に基づいて触媒3の劣化を診断する制御装置6と、を備え、制御装置6は、運転状態検出手段6により検出された運転状態に基づいて酸素ストレージ量を補正し、補正された酸素ストレージ量が所定のしきい値に満たない場合に、触媒3の劣化を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、触媒の酸素ストレージ能力の劣化に対して、酸素ストレージ量としきい値とを比較するだけでなく、運転状態(例えば、車速、アクセル開度、スロットル開度、エンジン負荷、吸入空気量等)に応じて酸素ストレージ量の補正を行う。このようにすることによって、触媒3の劣化診断の検出性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の触媒の診断装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態の触媒の劣化診断フローチャートである。
【図3】本発明の実施形態の酸素ストレージ指数を補正する例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態の触媒の診断装置の構成図である。
【0013】
内燃機関(エンジン)1は、吸気管7及び排気管2が接続される。
【0014】
排気管2は、触媒3を備える。この触媒3の排気の流れ上流側には、上流側空燃比検出手段としてのフロント空燃比センサ4が備えられる。また、触媒3の排気の流れ下流側には、下流側空燃比検出手段としてのリア空燃比センサ5が備えられる。
【0015】
エンジン1の吸気管7は、スロットル弁8と、スロットル弁8により調整された吸入空気量を測定するエアフローメータ9とを備える。
【0016】
フロント空燃比センサ4は、排気中の酸素濃度に応じたリニアな出力特性をもつ。また、リア空燃比センサ5は、酸素の有無に応じてより敏感に出力が変化する特性をもつ。
【0017】
また、リア空燃比センサ5は、このリア空燃比センサ5のセンサ素子温度を検出する温度検出手段としてのセンサ素子温度計12を備える。
【0018】
触媒3は、白金等の貴金属を担持したいわゆる三元触媒である。この触媒3は、雰囲気が理論空燃比のときにNOx、HC、COを最大効率で浄化する。
【0019】
エンジン1は、冷却水の温度を検出する温度センサ10を備える。また、触媒3は、触媒温度を検出する温度センサ11を備える。これら温度センサ10、11は、エンジン1の運転状態と共に触媒3の活性化状態などを判定するため等に用いられる。
【0020】
また、触媒3には、触媒担体に酸化セリウム(セリア)等の酸素ストレージ剤が担持されている。この酸素ストレージ剤は、流入する排気の空燃比に応じて酸素を保持したり、放出したりする機能(酸素ストレージ機能)をもつ。
【0021】
コントローラ6は、これらのセンサ出力に基づいてエンジン1に供給する燃料の空燃比を制御すると共に、後述する触媒の劣化診断処理を行う。
【0022】
コントローラ6は、CPU及びその周辺装置からなるマイクロコンピュータとして構成されており、エアフローメータ9、フロント空燃比センサ4及びリア空燃比センサ5の出力に基づいて触媒3の酸素ストレージ量を演算し、このストレージ量が目標値となるように空燃比をフィードバック制御する制御装置として機能する。
【0023】
具体的には、コントローラ6は、演算した酸素ストレージ量が目標値よりも少ないときは、目標空燃比をリーン側に制御することで酸素ストレージ量を増やす。逆に、目標値よりも多いときは、目標空燃比をリッチ側に制御することで酸素ストレージ量を減らす。これらの制御を繰り返すことで、目標値に一致させる。
【0024】
なお、このとき、演算誤差などによって演算された酸素ストレージ量と実際の酸素ストレージ量との間にずれを生じる。これに対して、リア空燃比センサ5が検出する酸素濃度に基づいて、例えばエンジンの燃料カット時などに、燃料カットの制御に移行してから所定のタイミングで演算された酸素ストレージ量のリセットを行い、ずれを修正する。
【0025】
また、コントローラ6は、エアフローメータ9から吸入空気量Qを検出する。また、スロットル弁8から開度(スロットル開度TVO)を検出する。また、アクセルペダル13から開度(アクセル開度APO)を検出する。また速度センサ14によって車速VSPを検出する。また、エンジン1の回転速度Ne、車速VSP等から、エンジン1の負荷(トルク)Teを検出する。すなわち、コントローラ6が、様々な運転状態を検出する運転状態検出手段として構成されている。
【0026】
次に、コントローラ6による触媒3の酸素ストレージ量の算出方法について説明する。
【0027】
まず、触媒3の上流側の空燃比センサ4が検出した排気空燃比から換算して、排気中の酸素の過剰する割合又は不足する割合である酸素過剰率を算出する。この酸素過剰率は、ストイキのときをゼロとして、リーン側で正、リッチ側で負の値となる。
【0028】
この酸素過剰率とそのときの吸入空気量とから、触媒3に吸収される酸素量又は放出される酸素量を、予め記憶されたマップやテーブルから取得する。この酸素量の値を積算することにより、触媒3の酸素ストレージ量が推定される。
【0029】
下流側の空燃比がリーン側のときは、触媒3の酸素ストレージ量が飽和保持量に達しているので、それ以上の酸素量の保持はできず、そのまま下流に流れ出る。この状態から空燃比がストイキよりもリッチ側になると、酸素の不足量に応じて保持酸素量は最大値から減っていく。
【0030】
また、下流側の空燃比がリッチのときは、酸素ストレージ量がゼロであり、その状態から空燃比がリーン側になると、そのときの酸素過剰量に応じて触媒3の酸素ストレージ量が増加していく。
【0031】
このようにして、フロント空燃比センサ4により推定した酸素ストレージ量を、リア空燃比センサ5によりフィードバック補正することによって、触媒3の酸素ストレージ量を求めることができる。これを積算することによって、現在の酸素ストレージ量を算出することができる。
【0032】
ここで、触媒3が劣化して酸素ストレージ能力が低下した場合、酸素ストレージ量が低下する。そこで、コントローラ6は、酸素ストレージ量の低下を判定し、所定の閾値を下回った場合に触媒3が劣化したと判定する。触媒の劣化を判定した場合は、例えば運転者にメンテナンスを促すためのアラームやメッセージを通知する。
【0033】
次に、触媒3の劣化の診断方法について説明する。
【0034】
コントローラ6は、前述のような方法により触媒の酸素ストレージ量を算出する。そして、この積算値と所定の定数とを乗じることにより、触媒3の酸素ストレージ能力を示す値である酸素ストレージ指数を算出する。
【0035】
そして、所定の周期で、コントローラ6は、触媒の診断処理を実行する。この触媒の診断処理では、算出した酸素ストレージ指数と所定の閾値とを比較し、酸素ストレージ指数が所定の閾値に満たない場合は、酸素ストレージ能力が低下していると判断し、触媒3が劣化していると診断する。
【0036】
ここで、コントローラ6は、エンジン1の運転に関する多種多様な制御を行っており、また、触媒3の劣化診断の優先度は低いため、一つのパラメータでの診断により触媒3の劣化を判定していた。一方で、酸素ストレージ量は、エンジン1のさまざまな運転状態(車速VSP、アクセル開度APO、スロットル開度TVO、負荷Te、吸入空気量Q等)により変動する。
【0037】
そこで、本発明の実施形態では、以下に説明するように、エンジン1の運転状態に応じた補正を行うことで、触媒3の劣化診断の精度を高めるように構成した。
【0038】
図2は、本発明の実施形態のコントローラ6で実行される触媒3の劣化診断のフローチャートである。
【0039】
本フローチャートの処理は、コントローラ6において、エンジン1の運転中に所定の周期で実行される。
【0040】
まず、コントローラ6は、触媒劣化診断の処理開始条件が成立したか否かを判定する(ステップS101)。
【0041】
この処理開始条件とは、例えば、エンジン1が運転中である、暖機が終了している、触媒3が活性化している、等の条件である。
【0042】
処理開始条件が成立していると判定した場合は次のステップS102に移行し、成立していないと判定した場合は本ステップS101の処理を繰り返す。
【0043】
ステップS102では、コントローラ6は、前述のように触媒3の酸素ストレージ量を算出する。これに所定の定数を乗じることで、触媒3が劣化しているか否かの判断に用いられる酸素ストレージ指数に換算する。
【0044】
次に、コントローラ6は、各種のセンサにより、エンジン1の運転状態を検出する(S103)。具体的には、車速VSP、アクセル開度APO、スロットル開度TVO、負荷Te、吸入空気量Q等を検出する。
【0045】
次に、コントローラ6は、触媒3が劣化しているか否かの判断の基準となるしきい値を設定する(S104)。またこのとき、検出された各種センサの値に基づいて、ステップS102で算出された酸素ストレージ指数を補正する。
【0046】
例えば、後述する図3に示す例のように、算出された酸素ストレージ指数に対して、車速に応じた補正を行う。
【0047】
なお、酸素ストレージ指数を補正するのではなく、触媒3が劣化しているか否かの判断の基準となるしきい値を、エンジン1の運転状態に応じて補正してもよい、例えば、車速が高い場合はしきい値を大きくして、センサ素子温度による酸素ストレージ量の変動を補償する。
【0048】
次に、コントローラ6は、ステップS102において算出された酸素ストレージ指数と、ステップS104で設定されたしきい値とを比較して、触媒3の劣化を診断する(S105)。
【0049】
酸素ストレージ指数がしきい値よりも大きい場合は触媒3の酸素ストレージ能力は十分であり、触媒3は劣化していないと診断し、正常判定として、処理を終了する(S106)。
【0050】
一方、酸素ストレージ量がしきい値よりも小さい場合は、触媒3の酸素ストレージ能力が十分でなく、触媒3が劣化していると診断し、異常判定として、処理を終了する(S107)。
【0051】
以上のような処理によって、触媒3の劣化診断を行う。特に、酸素ストレージ能力の劣化に対して、検出された酸素ストレージ指数としきい値とを比較するだけでなく、エンジン1の運転状態に応じて補正を行うことによって、触媒3の劣化診断の検出性能を向上することができる。
【0052】
図3は、エンジン1の車速に応じて、酸素ストレージ指数を補正する例を示す説明図である。
【0053】
この図3は、菱形のドットで示される実線が、触媒正常時の酸素ストレージ指数とリア空燃比センサ5のセンサ素子温度との関係を示す。また、円形のドットで示される実線が、触媒劣化時の酸素ストレージ指数とリア空燃比センサ5のセンサ素子温度との関係を示す。
【0054】
また、一点鎖線は、触媒3劣化しているか否かを判定する酸素ストレージ指数のしきい値を示す。
【0055】
この図3に示す例では、車速Vspが50〜70km/h付近では、正常触媒に対して劣化触媒の酸素ストレージ指数がしきい値に対して大きく下回っており。劣化であることを判定することができる。
【0056】
一方で、車速が80〜100km/h付近では、劣化触媒の酸素ストレージ指数がしきい値を超えてまで上昇している。この車速領域では触媒3が劣化してるか否かの切り分けが困難なため、従来は、この温度領域を診断対象から外していた。
【0057】
そこで、本発明の実施形態では、前述のように酸素ストレージ指数を車速Vspにより補正した。
【0058】
この結果、図3の点線で示すように、正常触媒及び劣化触媒が、しきい値に対して容易に判別され、この温度領域での劣化診断が精度高く行える。
【0059】
このように、酸素ストレージ指数を車速で補正することによって、従来、診断領域を狭めることによって対応していた状況においても、触媒3の劣化診断を精度高く行うことができる。
【0060】
なお、前述のように、酸素ストレージ指数ではなく、触媒3の劣化診断の指標となるしきい値を車速Vsp等、エンジ1の運転状態で補正することによって、従来、診断領域を狭めることによって対応していた状況においても、触媒劣化診断を行うことができる。
【0061】
以上説明したように、本発明の実施の形態では、触媒3の劣化診断を行う際に、エンジン1の運転状態(例えば、車速VSP、アクセル開度APO、スロットル開度TVO、負荷Te、吸入空気量Q等に応じて、診断パラメータである酸素ストレージ量を補正、又は、診断指標であるしきい値を補正するので、触媒3の劣化診断の検出精度が高まる。また、触媒3の劣化診断の診断領域を拡大することにより、劣化診断の頻度を高くすることができる。これにより、触媒劣化の誤診断を回避することができるので、触媒3のマージンを広く取る必要がなくなり、触媒の容量やグレードを低くすることができる。これにより、触媒3の原価を削減でき、コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 エンジン
2 排気通路
3 触媒
4 フロント空燃比センサ(上流側空燃比検出手段)
5 リア空燃比センサ(下流側空燃比検出手段)
6 コントローラ(制御装置、運転状態検出手段)
7 吸気通路
8 スロットル弁
9 エアフローメータ
10 温度センサ
11 温度センサ
13 アクセルペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に備えられる触媒と、
前記触媒の上流側に備えられる上流側空燃比検出手段と、
前記触媒の下流側に備えられる下流側空燃比検出手段と、
車速、アクセル開度、スロットル開度、内燃機関の負荷及び吸入空気量の少なくとも一つを含む運転状態を検出する運転状態検出手段と、
前記上流側空燃比検出手段によって検出された空燃比を、前記下流側空燃比検出手段によって検出された空燃比をフィードバックすることにより算出される前記触媒の酸素ストレージ量に基づいて前記触媒の劣化を診断する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記運転状態検出手段により検出された運転状態に基づいて前記酸素ストレージ量を補正し、
前記補正された酸素ストレージ量が所定のしきい値に満たない場合に、前記触媒の劣化を判定することを特徴とする触媒の劣化診断装置。
【請求項2】
内燃機関の排気通路に備えられる触媒と、
前記触媒の上流側に備えられる上流側空燃比検出手段と、
前記触媒の下流側に備えられる下流側空燃比検出手段と、
車速、アクセル開度、スロットル開度、内燃機関の負荷及び吸入空気量の少なくとも一つを含む運転状態を検出する運転状態検出手段と、
前記上流側空燃比検出手段によって検出された空燃比を、前記下流側空燃比検出手段によって検出された空燃比をフィードバックすることにより算出される前記触媒の酸素ストレージ量に基づいて、前記触媒の劣化を診断する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記運転状態検出手段により検出された運転状態に基づいて、前記触媒が劣化しているか否かを判定する前記酸素ストレージ量のしきい値を設定し、
前記補正された酸素ストレージ量が前記しきい値に満たない場合に、前記触媒の劣化を判定することを特徴とする触媒の劣化診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−100821(P2013−100821A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−7235(P2013−7235)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2009−23392(P2009−23392)の分割
【原出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】