走査レンズ、及び回折レンズ
【課題】回折レンズ構造が形成された走査レンズを射出成型により製造する場合にも、段差面及びその近傍での形状の崩れを防ぎ、回折効率を高く保つこと。
【解決手段】走査レンズ10は、第1面11が偏向器側、第2面12が感光体ドラム側となるように配置される。光束が透過するレンズ面の周囲には、レンズを装置に組み付ける際の固定部となる外枠部13が形成されている。第1面11が凹面、第2面12の巨視的形状が凸面であり、第2面12には、回折レンズ構造が形成されている。回折レンズ構造は、光軸Ax1を中心とした同心円状に形成された回転対称な輪帯構造を有する。回折レンズ構造の輪帯間の段差面12aは、隣接する輪帯の法線に対して傾くよう形成されている。段差面12aの傾きは、金型からの離型時に段差面12aと金型との間に作用する応力を軽減できるように定められている。
【解決手段】走査レンズ10は、第1面11が偏向器側、第2面12が感光体ドラム側となるように配置される。光束が透過するレンズ面の周囲には、レンズを装置に組み付ける際の固定部となる外枠部13が形成されている。第1面11が凹面、第2面12の巨視的形状が凸面であり、第2面12には、回折レンズ構造が形成されている。回折レンズ構造は、光軸Ax1を中心とした同心円状に形成された回転対称な輪帯構造を有する。回折レンズ構造の輪帯間の段差面12aは、隣接する輪帯の法線に対して傾くよう形成されている。段差面12aの傾きは、金型からの離型時に段差面12aと金型との間に作用する応力を軽減できるように定められている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ面上に複数の輪帯を持つ回折レンズ構造を形成した走査レンズ、及び回折レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ面上に回折レンズ構造を形成した回折レンズは、種々の用途に使用されている。例えば、特許文献1,2には、走査レンズとして回折レンズを含む走査光学系が開示されている。走査光学系は、レーザー光源からの光束をポリゴンミラーやガルバノミラー等の偏向器により偏向、走査させ、fθレンズのような走査レンズを介して感光体ドラム等の走査対象面上にスポットとして結像させる。感光体ドラム上のスポットは、偏向器の回転に伴って主走査方向に走査し、この際レーザー光をオンオフ変調することにより走査対象面上に静電潜像を形成する。
【0003】
近年、レーザープリンタの高速化やカラー化の要求を受けて、複数光源からの光束を単一の偏向器で走査させるマルチビーム走査光学系やタンデム走査光学系が実用化されている。ただし、複数の光源を有する走査光学系では、複数の光源の発光波長が互いに異なる場合、光学系の持つ倍率色収差により複数の走査線の長さが変化する現象(走査幅誤差)が起こる。特許文献1,2に開示される走査光学系は、このような走査幅誤差を低減するため、走査レンズ面に色収差補正用の回折レンズ構造を形成している。
【特許文献1】特開平10−197820号公報
【特許文献2】特開平11−095145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
なお、レーザープリンタに用いられる一般的な走査レンズはプラスチックの射出成型で製造されるが、上記公報に開示される回折レンズ構造が形成された走査レンズを射出成型で製造すると、離型する際のレンズの収縮により、回折レンズ構造を形成する各輪帯間の段差面及びその近傍が崩れ、設計形状、すなわち金型通りの形状にならず、回折効率の低下を招くという問題がある。特に、輪帯の幅が狭く密度が大きいレンズ周辺部では、上記の形状の崩れによる影響が大きく、周辺光量が低下して印字品質の悪化を招く。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、回折レンズ構造が形成されたレンズを射出成型により製造する場合にも、段差面及びその近傍での形状の崩れを防ぎ、回折効率を高く保つことができる走査レンズ、及び回折レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる走査レンズは、光源部から発して偏向器により反射、偏向された光束を収束させて被走査面上で主走査方向に走査するスポットを形成する結像光学系に含まれ、少なくとも一面に同心円状の複数の輪帯を有する回折レンズ構造が形成され、射出成型により製造される樹脂製レンズであり、回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面と、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面とを有し、回折レンズ構造の設計形状は、輪帯の回転軸を含み主走査方向に平行な一断面において、段差面を回転軸に対して傾け、あるいは、隣接する回折作用面の法線に対して傾けることにより、離型時に段差面と金型との間に作用する応力を軽減した形状であることを特徴とする。
【0007】
段差面の設計上の傾きを、離型時のレンズ収縮に伴うレンズの変形方向にほぼ一致させてもよい。また、前記の一断面に略平行な面上に配置されたゲートから樹脂が射出されて製造される場合には、段差面の設計形状は、一断面内において、段差面とそれに接続する回折作用面との境界点と、ゲートの略中心を一断面上に投影した点とを結ぶ直線に対してほぼ平行としてもよい。
【0008】
一方、本発明にかかる回折レンズは、少なくとも一面に同心円状の複数の輪帯を有する回折レンズ構造が形成され、射出成型により製造される樹脂製レンズであり、回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面と、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面とを有し、回折レンズ構造の設計形状は、輪帯の回転軸を含む少なくとも一断面において、段差面を回転軸に対して傾けることにより、離型時に段差面と金型との間に作用する応力を軽減した形状であることを特徴とする。
【0009】
上記と同様に、段差面の設計上の傾きを、離型時のレンズ収縮に伴うレンズの変形方向にほぼ一致させてもよい。回折レンズが走査光学系の結像レンズに含まれる場合には、前記の一断面は主走査方向と平行であることが望ましい。
【0010】
また、前記の一断面に略平行な面上に配置されたゲートから樹脂が射出されて製造される場合には、段差面の設計形状は、一断面内において、段差面とそれに接続する回折作用面との境界点と、ゲートの略中心を一断面上に投影した点とを結ぶ直線に対してほぼ平行としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走査レンズに形成される回折レンズ構造の輪帯間の段差面を、隣接する輪帯の法線に対して傾けることにより、離型時に段差面と金型との間に作用する応力を軽減することができ、走査レンズを射出成型により製造する場合にも、段差面及びその近傍での形状の崩れを防ぎ、回折効率を高く保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明にかかる走査レンズの実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1(A)は、第1の実施形態に係る走査レンズの主走査方向の断面図、図1(B)はその正面図である。なお、図1(A)は、図1(B)のP−P線に沿う断面図である。この走査レンズ10は、走査光学系のポリゴンミラーと感光体ドラムとの間に配置される。図中左側となる第1面11がポリゴンミラー側、右側となる第2面12が感光体ドラム側となるように配置される。光束が透過するレンズ面の周囲には、レンズを装置に組み付ける際の固定部となる外枠部(リブ)13が形成されている。図中の符号Gはゲート、GCはその中心である。
【0013】
レーザープリンタ等に使用される走査レンズは、一方向(主走査方向)に走査する光束を透過させるため、主走査方向には所定の幅が必要であるが、副走査方向(光軸に対して垂直な面内で主走査方向と直交する方向)の幅は小さくとも足りる。このため、図1(B)に示すように、主、副走査方向の長さが異なる。
【0014】
図1(A)に示すように、走査レンズ10は、第1面11が凹面、第2面12の巨視的形状が凸面のメニスカス形状の正レンズであり、第2面12には、回折レンズ構造が形成されている。回折レンズ構造は、光軸Ax1を中心として同心円状に形成された回転対称な複数の輪帯を有する。回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面12bと、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面12aとを有する。なお、図1では、形状の理解を容易にするため、輪帯数を実際より少なく示している。実際には、より細かいピッチで輪帯が形成される。
【0015】
回折レンズ構造の段差面12aの設計形状は、輪帯の回転軸を含み主走査方向に平行な一断面において、回転軸(この例では光軸Ax1に一致する)に対して傾くよう定められている。第1の実施形態の走査レンズ10は、金型を用いてプラスチックの射出成型により製造される。段差面12aの設計上の傾きは、金型からの離型時に段差面12aと金型との間に作用する応力を軽減できるように定められている。離型時には、金型が光軸方向にスライドしてレンズから離れる。なお、段差面12aの光軸方向から見た幅は微小であるため、図1(B)では図示されていない。
【0016】
以下、離型時の段差面近傍の形状の変化について、金型の段差面が隣接する輪帯の法線に対してほぼ平行な比較例と、第1の実施形態とを比較し、図2〜図4に基づいて説明する。
【0017】
比較例の金型は、図2に拡大して示すように、隣り合う回折作用面Dどうしをつなぐ段差面Sが隣接する回折作用面Dの法線に対してほぼ平行になるように形成されている。一方、プラスチックレンズの凸面は、冷却・固化時に図3に示すように破線で示した金型形状に対して、実線で示したように弓なりにカーブがきつくなる方向に収縮する。したがって、収縮による応力Fは図3に矢印で示すように回折レンズ構造が形成されたレンズ面の曲率中心側に向かい、かつ、光軸からの距離に応じて異なる方向となる。それぞれの段差面に着目すると、この応力Fは段差面に垂直な成分F1と平行な成分F2とに分解することができる。平行な成分F2は、離型の際にレンズを金型に沿って滑らせる方向に作用するため、レンズに対してストレスとならないが、垂直な成分F1は、段差面を金型に押し付ける方向に作用するため、離型時にレンズに対してストレスとなる。比較例のように段差面が輪帯に対して垂直であると、段差面に垂直な成分F1が比較的大きく、離型時に段差面及びその近傍の形状を崩す原因となる。
【0018】
図4は、比較例の金型を用いて成型した場合の離型後の段差面近傍の形状の一例を示す。実線が実際の形状、破線が設計形状(収縮がないと仮定した金型通りの形状)を示している。レンズは全体としては収縮するが、段差面が金型に引っかかるようにして局部的に膨張し、実際の形状が設計形状から大きく崩れる。このため、回折効率が低下し、光量の損失が大きくなる。
【0019】
一方、第1の実施形態の走査レンズ10は、図5に拡大して示すような金型により成型される。この金型は、回折作用面D間の段差面Sを隣接する回折作用面Dの法線に対して傾け、かつ、段差面Sを回転軸に対して傾けることにより、収縮による応力Fのうち段差面に対して垂直な成分F1を比較例より小さくし、これにより離型時の段差面近傍の変形を抑えることができる。
【0020】
図6は、第1の実施形態の走査レンズを形成するための他の金型の拡大図である。図6の例では、段差面Sの傾きを図5の例より大きくし、収縮による応力Fの方向にほぼ一致するように設定している。レンズの収縮による変形は、レンズの各部分に作用した応力によって生じたものであるから、レンズの各部分が変形した方向と応力が作用した方向は概ね一致すると予測される。したがって,段差面の傾きを図6のように応力Fの方向と一致させることにより、離型時にレンズに作用するストレスを図5の例より低減し、段差面近傍の変形をより小さく抑えることができる。
【0021】
図7は、第1の実施形態の金型を用いて成型した場合の離型後の段差面近傍の形状を示す。実線が実際の形状、破線が設計形状を示している。段差面の設計形状を隣接する回折作用面の法線に対して傾け、かつ、段差面Sを回転軸に対して傾けることにより、成型後の実際のレンズ形状と設計形状との差を小さくすることができ、これにより、使用時の回折効率の低下と、これに伴う光量の損失を抑えることができる。
【0022】
なお、上記の段差面に関する説明は、光軸(輪帯の回転軸)を含み、主走査方向に平行な一断面(主走査断面)内の形状に関する。輪帯構造は回転対称であるため、主走査断面を光軸回りに回転させた平面内では、同一の段差面は主走査断面内と同一の傾きを持つ。
【0023】
各輪帯間の段差面の法線が光軸に対してなす角度(鋭角)は、比較例では図8のグラフに破線で示したように変化する。回折レンズ構造は凸面のベースカーブ上に形成されているため、各回折作用面の法線が光軸に対してなす角度は、レンズ周辺に向かうにしたがって大きくなる。このため、比較例のように段差面を隣接する回折作用面の法線とほぼ平行になるよう設計した場合、設計上は段差面の法線が光軸に対してなす角度は、図8に破線で示したように光軸からの距離が大きくなるにしたがって小さくなる。
【0024】
一方、第1の実施形態の図6の構成では、段差面は応力Fとほぼ平行になるよう形成されている。応力Fが光軸に対してなす角度は、図3に示したように光軸からの距離が大きくなるにしたがって大きくなるため、設計上は段差面の法線が光軸に対してなす角度は、図8に破線で示したように光軸からの距離が大きくなるにしたがって小さくなる。比較例と第1の実施形態とで光軸からの距離に対する角度変化の傾向は同一であるが、同一の距離における角度は第1の実施形態の方が比較例より15度から34度小さく、光軸からの距離が大きくなるにしたがって角度の差が大きくなる傾向がある。
【0025】
なお、回折レンズ構造の回折作用は、隣接する段差面の光路長差により生じるため、回折作用面間の段差面は回折作用には寄与しない無効部分となる。したがって、段差面が設計値通りに形成されるのであれば、光軸に垂直な面内に投影した段差面の幅は小さい方が望ましい。しかしながら、実際には段差面の幅を小さくしようとすると、図4に示すような形状の崩れが生じる。このような形状の崩れがあるよりは、第1の実施形態のように無効部分が増加したとしても、形状の崩れが小さい方が総合的な光の利用効率は高くなる。
【0026】
次に、第1の実施形態の走査レンズ10の製造方法について説明する。段差面の離型時の変形を避けるためには、レンズに対してどのような力が作用するか把握する必要がある。上述のように、凸面の場合には、弓なりにカーブがきつくなる方向に収縮するため、応力は概ね曲率中心に向かう方向となる。しかしながら、段差面の角度を決める際には、レンズの各部位について変形の方向をより正確に把握することが望ましい。なお、前記のように走査レンズ10は主走査方向に長いため、収縮についても主走査方向についてのみ考慮すればよい。
【0027】
そこで、試作した走査レンズの回折レンズ構造の段差面を計測し、レンズ各部の変形状況に基づいて各段差面での変形方向を求め、この変形方向に合わせて段差面の傾きを決定する。そして、各段差面がそれぞれ決定された傾きを持つように製造用の金型を製作し、その製造用の金型を用いてレンズを製造する。これにより、回折レンズ構造の段差面においてレンズを金型に押し付ける方向の応力F1を小さくすることができ、結果として段差面近傍での形状の崩れを小さくすることができる。
【0028】
図9は、本発明の第2の実施形態にかかる走査レンズ100を示す。第2の実施形態の走査レンズは、射出成型時のゲートを外枠部103のうち主走査断面に平行な面の光軸上に設定する場合に有効である。図9の走査レンズ100は、第1面101が凹面、第2面102の巨視的形状が凸面のメニスカス形状の正レンズであり、第2面102には、回折レンズ構造が形成されている。回折レンズ構造は、光軸Ax1を中心として同心円状に形成された回転対称な複数の輪帯を有する。回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面102bと、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面102aとを有する。光束が透過するレンズ面の周囲には、レンズを装置に組み付ける際の固定部となる外枠部(リブ)103が形成されている。図中の符号Gはゲート、GCはその中心である。
【0029】
図10は、図9の走査レンズ100を設計する際の手順を示す。図10(A)は離型時の変形を考慮しない設計例、(B)は(A)に基づいて図9の走査レンズ100を設計する際の基準となる直線を加えた図、(C)は、(B)の拡大図である。図10(A)の設計形状では、離型時に金型との間に作用する応力により、回折レンズ構造の形状が崩れ、回折効率が低下する。そこで、第2の実施形態では、図10(B)及び(C)に示すように、回折レンズ構造の段差面102aを、主走査断面内において、段差面102aとそれに接続する回折作用面102bとの境界点と、ゲートのほぼ中心GCを主走査断面に投影した点とを結ぶ直線L1、L2、L3、L4…に対して設計上ほぼ平行となる(この例では各直線に一致する)よう決定している。一般的に、射出成型により成型されるレンズは、ゲート方向に向かって収縮する傾向がある。したがって、各段差面の傾きを上記の直線とほぼ平行にすることにより、回折レンズ構造の段差面においてレンズを金型に押し付ける方向の応力F1を小さくすることができる。なお、図9及び図10においては、説明のため段差面を強調して表現している。また、本発明の実施例においては、走査レンズの光軸上にゲートが存在する場合を用いて説明を行なったが、ゲートが光軸から外れた位置にある場合においても本発明の内容は有効である。つまり、隣接する回折面の間をつなぐ段差面の光軸に対する傾きが、光軸を軸として回転対称でない場合も含まれる。
【0030】
次に、実施形態の走査レンズを適用した走査光学系について説明する。図11は、第1の実施形態の走査レンズ10を適用したマルチビーム走査光学系の斜視図である。図11に示すマルチビーム走査光学系は、光源部20から発した2本のレーザー光束をポリゴンミラー30により反射・偏向させ、ポリゴンミラー30により反射された光束を結像光学系Lによって被走査面である感光体ドラム40上に収束させ、主走査方向に走査する2つのスポットを形成する。
【0031】
光源部20は、それぞれ発散光を発する第1,第2の半導体レーザー21,22と、各半導体レーザーから発した発散光を平行光にする第1,第2のコリメートレンズ23,24と、平行光とされたレーザー光を副走査方向に収束させるアナモフィック光学素子(シリンドリカルレンズ)25とを備えている。また、結像光学系Lは、図1に示した第1の実施形態の走査レンズ(第1レンズ)10と、この第1レンズ10と感光体ドラム40との間に配置された第2レンズ50とから構成されている。
【0032】
図11に示すマルチビーム走査光学系では、第1,第2の半導体レーザー21,22の発光波長が互いに異なる場合にも走査幅誤差を発生させないように、第1レンズ10の第2面に形成した回折レンズ構造に、倍率色収差を補正する機能を持たせている。なお、第1の実施形態の走査レンズ10に代えて、第2の実施形態の走査レンズ100を用いることもできる。
【0033】
次に、第1の実施形態の走査レンズ10の具体的な設計例について説明する。走査レンズ10の第1面11は、回転対称な凹の非球面である。また、第2面12は、回転対称な凸の非球面であるベースカーブ上に倍率色収差を補正する作用を持つ回折レンズ構造が形成されている。
【0034】
回転対称な非球面の形状は、走査レンズの光軸Ax1からの距離hにおける光軸Ax1と回折レンズ構造との交点での接平面からのサグ量X(h)で表すことができ、そのサグ量は、以下の式(1)で表される。
X(h)=h2/[r{1+√(1−(κ+1)h2/r2)}]+A4h4+A6h6+A8h8+A10h10…(1)
上式中、rは光軸上の曲率半径、κは円錐係数、A4,A6,A8,A10はそれぞれ4次、6次、8次、10次の非球面係数である。
【0035】
回折レンズ構造の形状は、走査レンズの光軸Ax1からの距離hにおける光軸Ax1と回折レンズ構造輪帯構造との交点での接平面からのサグ量SAG(h)で表すことができ、かつ、そのサグ量SAG(h)は以下の式(2)で表される。
SAG(h)=X(h)+S(h) …(2)
ここで、X(h)は回折レンズ構造の巨視的形状(ベースカーブ)で、球面の場合には曲率半径をrとして以下の(3)式で表される。
X(h)=h2/[r{1+√(1−h2/r2)}]…(3)
【0036】
一方、回折レンズ構造が持つべき光路長付加量Δφ(h)は、光軸Ax1からの高さをh、n次(偶数次)の光路差関数係数をPnとして、以下の式(4)により求められる。
Δφ(h)=P2h2+P4h4+P6h6+P8h8+P10h10 …(4)
式(2)中のS(h)は、この光路長付加量Δφ(h)に基づいて以下の式(5)により求められる値であり、主走査方向に変化する階段状のサグ量を表す。
S(h)={|MOD(Δφ(h)+C,−1)|−C}λ/{n−1+Dh2} …(5)
ここで、MOD(X、Y)はXをYで割った剰余を与える関数、Cは輪帯の境界位置の位相を設定する定数であり、0から1の任意の値をとる。また、Dは、光束が回折レンズ構造に対して斜めに入射するために生じる位相付加量の変化を補正する係数である。
【0037】
回折レンズ構造の各輪帯の番号Nは、光軸上の領域を0として、以下の式(6)により表される。INT(X)は、Xの整数部分を与える関数である。
N=INT(|Δφ(h)+C|) …(6)
【0038】
表1は、第1の実施形態の走査レンズの基本形状の数値構成を示す。表中の記号rは光軸上での各レンズ面の曲率半径(単位:mm)、他は上記の通りである。
【0039】
【表1】
【0040】
上記の数値例により、走査レンズ10の第1面11の形状、第2面12のベースカーブ、そして、第2面12に形成された回折レンズ構造の各輪帯の形状が特定される。そして、各輪帯間の段差面の角度を上述した第1の実施形態のいずれかで決定することにより、走査レンズ10の具体的な形状が決定される。決定された形状に基づいて金型を製作し、製作した金型を用いて射出成型により実施形態の走査レンズ10が成型される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(A)は本発明の第1の実施形態にかかる走査レンズの主走査方向の断面図、(B)はその正面図である。
【図2】比較例の金型形状を示す拡大図である。
【図3】プラスチックレンズの冷却時の変形を示す説明図である。
【図4】比較例の金型により成型したレンズの段差面とその設計形状とを示す説明図である。
【図5】第1の実施形態の走査レンズを形成するための金型の拡大図である。
【図6】第1の実施形態の走査レンズを形成するための金型の他の例を示す拡大図である。
【図7】第1の実施形態の金型を用いて成型したレンズの段差面とその設計形状とを示す説明図である。
【図8】段差面の法線が光軸に対してなす角度と光軸から段差面までの距離との関係を示すグラフであり、実線が実施形態、破線か比較例を示す。
【図9】本発明の第2の実施形態にかかる走査レンズの主走査方向の断面図である。
【図10】図9の走査レンズを設計する際の手順を示し、(A)は離型時の変形を考慮しない設計例、(B)は(A)に基づいて図9の走査レンズを設計する際の基準となる直線を加えた図、(C)は(B)の拡大図である。
【図11】第1の実施形態の走査レンズを適用したマルチビーム走査光学系を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
10、100 走査レンズ
11、101 第1面
12、102 第2面
12a、102a 段差面
12b、102b 回折作用面
13 外枠部
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ面上に複数の輪帯を持つ回折レンズ構造を形成した走査レンズ、及び回折レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ面上に回折レンズ構造を形成した回折レンズは、種々の用途に使用されている。例えば、特許文献1,2には、走査レンズとして回折レンズを含む走査光学系が開示されている。走査光学系は、レーザー光源からの光束をポリゴンミラーやガルバノミラー等の偏向器により偏向、走査させ、fθレンズのような走査レンズを介して感光体ドラム等の走査対象面上にスポットとして結像させる。感光体ドラム上のスポットは、偏向器の回転に伴って主走査方向に走査し、この際レーザー光をオンオフ変調することにより走査対象面上に静電潜像を形成する。
【0003】
近年、レーザープリンタの高速化やカラー化の要求を受けて、複数光源からの光束を単一の偏向器で走査させるマルチビーム走査光学系やタンデム走査光学系が実用化されている。ただし、複数の光源を有する走査光学系では、複数の光源の発光波長が互いに異なる場合、光学系の持つ倍率色収差により複数の走査線の長さが変化する現象(走査幅誤差)が起こる。特許文献1,2に開示される走査光学系は、このような走査幅誤差を低減するため、走査レンズ面に色収差補正用の回折レンズ構造を形成している。
【特許文献1】特開平10−197820号公報
【特許文献2】特開平11−095145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
なお、レーザープリンタに用いられる一般的な走査レンズはプラスチックの射出成型で製造されるが、上記公報に開示される回折レンズ構造が形成された走査レンズを射出成型で製造すると、離型する際のレンズの収縮により、回折レンズ構造を形成する各輪帯間の段差面及びその近傍が崩れ、設計形状、すなわち金型通りの形状にならず、回折効率の低下を招くという問題がある。特に、輪帯の幅が狭く密度が大きいレンズ周辺部では、上記の形状の崩れによる影響が大きく、周辺光量が低下して印字品質の悪化を招く。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、回折レンズ構造が形成されたレンズを射出成型により製造する場合にも、段差面及びその近傍での形状の崩れを防ぎ、回折効率を高く保つことができる走査レンズ、及び回折レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる走査レンズは、光源部から発して偏向器により反射、偏向された光束を収束させて被走査面上で主走査方向に走査するスポットを形成する結像光学系に含まれ、少なくとも一面に同心円状の複数の輪帯を有する回折レンズ構造が形成され、射出成型により製造される樹脂製レンズであり、回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面と、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面とを有し、回折レンズ構造の設計形状は、輪帯の回転軸を含み主走査方向に平行な一断面において、段差面を回転軸に対して傾け、あるいは、隣接する回折作用面の法線に対して傾けることにより、離型時に段差面と金型との間に作用する応力を軽減した形状であることを特徴とする。
【0007】
段差面の設計上の傾きを、離型時のレンズ収縮に伴うレンズの変形方向にほぼ一致させてもよい。また、前記の一断面に略平行な面上に配置されたゲートから樹脂が射出されて製造される場合には、段差面の設計形状は、一断面内において、段差面とそれに接続する回折作用面との境界点と、ゲートの略中心を一断面上に投影した点とを結ぶ直線に対してほぼ平行としてもよい。
【0008】
一方、本発明にかかる回折レンズは、少なくとも一面に同心円状の複数の輪帯を有する回折レンズ構造が形成され、射出成型により製造される樹脂製レンズであり、回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面と、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面とを有し、回折レンズ構造の設計形状は、輪帯の回転軸を含む少なくとも一断面において、段差面を回転軸に対して傾けることにより、離型時に段差面と金型との間に作用する応力を軽減した形状であることを特徴とする。
【0009】
上記と同様に、段差面の設計上の傾きを、離型時のレンズ収縮に伴うレンズの変形方向にほぼ一致させてもよい。回折レンズが走査光学系の結像レンズに含まれる場合には、前記の一断面は主走査方向と平行であることが望ましい。
【0010】
また、前記の一断面に略平行な面上に配置されたゲートから樹脂が射出されて製造される場合には、段差面の設計形状は、一断面内において、段差面とそれに接続する回折作用面との境界点と、ゲートの略中心を一断面上に投影した点とを結ぶ直線に対してほぼ平行としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走査レンズに形成される回折レンズ構造の輪帯間の段差面を、隣接する輪帯の法線に対して傾けることにより、離型時に段差面と金型との間に作用する応力を軽減することができ、走査レンズを射出成型により製造する場合にも、段差面及びその近傍での形状の崩れを防ぎ、回折効率を高く保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明にかかる走査レンズの実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1(A)は、第1の実施形態に係る走査レンズの主走査方向の断面図、図1(B)はその正面図である。なお、図1(A)は、図1(B)のP−P線に沿う断面図である。この走査レンズ10は、走査光学系のポリゴンミラーと感光体ドラムとの間に配置される。図中左側となる第1面11がポリゴンミラー側、右側となる第2面12が感光体ドラム側となるように配置される。光束が透過するレンズ面の周囲には、レンズを装置に組み付ける際の固定部となる外枠部(リブ)13が形成されている。図中の符号Gはゲート、GCはその中心である。
【0013】
レーザープリンタ等に使用される走査レンズは、一方向(主走査方向)に走査する光束を透過させるため、主走査方向には所定の幅が必要であるが、副走査方向(光軸に対して垂直な面内で主走査方向と直交する方向)の幅は小さくとも足りる。このため、図1(B)に示すように、主、副走査方向の長さが異なる。
【0014】
図1(A)に示すように、走査レンズ10は、第1面11が凹面、第2面12の巨視的形状が凸面のメニスカス形状の正レンズであり、第2面12には、回折レンズ構造が形成されている。回折レンズ構造は、光軸Ax1を中心として同心円状に形成された回転対称な複数の輪帯を有する。回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面12bと、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面12aとを有する。なお、図1では、形状の理解を容易にするため、輪帯数を実際より少なく示している。実際には、より細かいピッチで輪帯が形成される。
【0015】
回折レンズ構造の段差面12aの設計形状は、輪帯の回転軸を含み主走査方向に平行な一断面において、回転軸(この例では光軸Ax1に一致する)に対して傾くよう定められている。第1の実施形態の走査レンズ10は、金型を用いてプラスチックの射出成型により製造される。段差面12aの設計上の傾きは、金型からの離型時に段差面12aと金型との間に作用する応力を軽減できるように定められている。離型時には、金型が光軸方向にスライドしてレンズから離れる。なお、段差面12aの光軸方向から見た幅は微小であるため、図1(B)では図示されていない。
【0016】
以下、離型時の段差面近傍の形状の変化について、金型の段差面が隣接する輪帯の法線に対してほぼ平行な比較例と、第1の実施形態とを比較し、図2〜図4に基づいて説明する。
【0017】
比較例の金型は、図2に拡大して示すように、隣り合う回折作用面Dどうしをつなぐ段差面Sが隣接する回折作用面Dの法線に対してほぼ平行になるように形成されている。一方、プラスチックレンズの凸面は、冷却・固化時に図3に示すように破線で示した金型形状に対して、実線で示したように弓なりにカーブがきつくなる方向に収縮する。したがって、収縮による応力Fは図3に矢印で示すように回折レンズ構造が形成されたレンズ面の曲率中心側に向かい、かつ、光軸からの距離に応じて異なる方向となる。それぞれの段差面に着目すると、この応力Fは段差面に垂直な成分F1と平行な成分F2とに分解することができる。平行な成分F2は、離型の際にレンズを金型に沿って滑らせる方向に作用するため、レンズに対してストレスとならないが、垂直な成分F1は、段差面を金型に押し付ける方向に作用するため、離型時にレンズに対してストレスとなる。比較例のように段差面が輪帯に対して垂直であると、段差面に垂直な成分F1が比較的大きく、離型時に段差面及びその近傍の形状を崩す原因となる。
【0018】
図4は、比較例の金型を用いて成型した場合の離型後の段差面近傍の形状の一例を示す。実線が実際の形状、破線が設計形状(収縮がないと仮定した金型通りの形状)を示している。レンズは全体としては収縮するが、段差面が金型に引っかかるようにして局部的に膨張し、実際の形状が設計形状から大きく崩れる。このため、回折効率が低下し、光量の損失が大きくなる。
【0019】
一方、第1の実施形態の走査レンズ10は、図5に拡大して示すような金型により成型される。この金型は、回折作用面D間の段差面Sを隣接する回折作用面Dの法線に対して傾け、かつ、段差面Sを回転軸に対して傾けることにより、収縮による応力Fのうち段差面に対して垂直な成分F1を比較例より小さくし、これにより離型時の段差面近傍の変形を抑えることができる。
【0020】
図6は、第1の実施形態の走査レンズを形成するための他の金型の拡大図である。図6の例では、段差面Sの傾きを図5の例より大きくし、収縮による応力Fの方向にほぼ一致するように設定している。レンズの収縮による変形は、レンズの各部分に作用した応力によって生じたものであるから、レンズの各部分が変形した方向と応力が作用した方向は概ね一致すると予測される。したがって,段差面の傾きを図6のように応力Fの方向と一致させることにより、離型時にレンズに作用するストレスを図5の例より低減し、段差面近傍の変形をより小さく抑えることができる。
【0021】
図7は、第1の実施形態の金型を用いて成型した場合の離型後の段差面近傍の形状を示す。実線が実際の形状、破線が設計形状を示している。段差面の設計形状を隣接する回折作用面の法線に対して傾け、かつ、段差面Sを回転軸に対して傾けることにより、成型後の実際のレンズ形状と設計形状との差を小さくすることができ、これにより、使用時の回折効率の低下と、これに伴う光量の損失を抑えることができる。
【0022】
なお、上記の段差面に関する説明は、光軸(輪帯の回転軸)を含み、主走査方向に平行な一断面(主走査断面)内の形状に関する。輪帯構造は回転対称であるため、主走査断面を光軸回りに回転させた平面内では、同一の段差面は主走査断面内と同一の傾きを持つ。
【0023】
各輪帯間の段差面の法線が光軸に対してなす角度(鋭角)は、比較例では図8のグラフに破線で示したように変化する。回折レンズ構造は凸面のベースカーブ上に形成されているため、各回折作用面の法線が光軸に対してなす角度は、レンズ周辺に向かうにしたがって大きくなる。このため、比較例のように段差面を隣接する回折作用面の法線とほぼ平行になるよう設計した場合、設計上は段差面の法線が光軸に対してなす角度は、図8に破線で示したように光軸からの距離が大きくなるにしたがって小さくなる。
【0024】
一方、第1の実施形態の図6の構成では、段差面は応力Fとほぼ平行になるよう形成されている。応力Fが光軸に対してなす角度は、図3に示したように光軸からの距離が大きくなるにしたがって大きくなるため、設計上は段差面の法線が光軸に対してなす角度は、図8に破線で示したように光軸からの距離が大きくなるにしたがって小さくなる。比較例と第1の実施形態とで光軸からの距離に対する角度変化の傾向は同一であるが、同一の距離における角度は第1の実施形態の方が比較例より15度から34度小さく、光軸からの距離が大きくなるにしたがって角度の差が大きくなる傾向がある。
【0025】
なお、回折レンズ構造の回折作用は、隣接する段差面の光路長差により生じるため、回折作用面間の段差面は回折作用には寄与しない無効部分となる。したがって、段差面が設計値通りに形成されるのであれば、光軸に垂直な面内に投影した段差面の幅は小さい方が望ましい。しかしながら、実際には段差面の幅を小さくしようとすると、図4に示すような形状の崩れが生じる。このような形状の崩れがあるよりは、第1の実施形態のように無効部分が増加したとしても、形状の崩れが小さい方が総合的な光の利用効率は高くなる。
【0026】
次に、第1の実施形態の走査レンズ10の製造方法について説明する。段差面の離型時の変形を避けるためには、レンズに対してどのような力が作用するか把握する必要がある。上述のように、凸面の場合には、弓なりにカーブがきつくなる方向に収縮するため、応力は概ね曲率中心に向かう方向となる。しかしながら、段差面の角度を決める際には、レンズの各部位について変形の方向をより正確に把握することが望ましい。なお、前記のように走査レンズ10は主走査方向に長いため、収縮についても主走査方向についてのみ考慮すればよい。
【0027】
そこで、試作した走査レンズの回折レンズ構造の段差面を計測し、レンズ各部の変形状況に基づいて各段差面での変形方向を求め、この変形方向に合わせて段差面の傾きを決定する。そして、各段差面がそれぞれ決定された傾きを持つように製造用の金型を製作し、その製造用の金型を用いてレンズを製造する。これにより、回折レンズ構造の段差面においてレンズを金型に押し付ける方向の応力F1を小さくすることができ、結果として段差面近傍での形状の崩れを小さくすることができる。
【0028】
図9は、本発明の第2の実施形態にかかる走査レンズ100を示す。第2の実施形態の走査レンズは、射出成型時のゲートを外枠部103のうち主走査断面に平行な面の光軸上に設定する場合に有効である。図9の走査レンズ100は、第1面101が凹面、第2面102の巨視的形状が凸面のメニスカス形状の正レンズであり、第2面102には、回折レンズ構造が形成されている。回折レンズ構造は、光軸Ax1を中心として同心円状に形成された回転対称な複数の輪帯を有する。回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面102bと、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面102aとを有する。光束が透過するレンズ面の周囲には、レンズを装置に組み付ける際の固定部となる外枠部(リブ)103が形成されている。図中の符号Gはゲート、GCはその中心である。
【0029】
図10は、図9の走査レンズ100を設計する際の手順を示す。図10(A)は離型時の変形を考慮しない設計例、(B)は(A)に基づいて図9の走査レンズ100を設計する際の基準となる直線を加えた図、(C)は、(B)の拡大図である。図10(A)の設計形状では、離型時に金型との間に作用する応力により、回折レンズ構造の形状が崩れ、回折効率が低下する。そこで、第2の実施形態では、図10(B)及び(C)に示すように、回折レンズ構造の段差面102aを、主走査断面内において、段差面102aとそれに接続する回折作用面102bとの境界点と、ゲートのほぼ中心GCを主走査断面に投影した点とを結ぶ直線L1、L2、L3、L4…に対して設計上ほぼ平行となる(この例では各直線に一致する)よう決定している。一般的に、射出成型により成型されるレンズは、ゲート方向に向かって収縮する傾向がある。したがって、各段差面の傾きを上記の直線とほぼ平行にすることにより、回折レンズ構造の段差面においてレンズを金型に押し付ける方向の応力F1を小さくすることができる。なお、図9及び図10においては、説明のため段差面を強調して表現している。また、本発明の実施例においては、走査レンズの光軸上にゲートが存在する場合を用いて説明を行なったが、ゲートが光軸から外れた位置にある場合においても本発明の内容は有効である。つまり、隣接する回折面の間をつなぐ段差面の光軸に対する傾きが、光軸を軸として回転対称でない場合も含まれる。
【0030】
次に、実施形態の走査レンズを適用した走査光学系について説明する。図11は、第1の実施形態の走査レンズ10を適用したマルチビーム走査光学系の斜視図である。図11に示すマルチビーム走査光学系は、光源部20から発した2本のレーザー光束をポリゴンミラー30により反射・偏向させ、ポリゴンミラー30により反射された光束を結像光学系Lによって被走査面である感光体ドラム40上に収束させ、主走査方向に走査する2つのスポットを形成する。
【0031】
光源部20は、それぞれ発散光を発する第1,第2の半導体レーザー21,22と、各半導体レーザーから発した発散光を平行光にする第1,第2のコリメートレンズ23,24と、平行光とされたレーザー光を副走査方向に収束させるアナモフィック光学素子(シリンドリカルレンズ)25とを備えている。また、結像光学系Lは、図1に示した第1の実施形態の走査レンズ(第1レンズ)10と、この第1レンズ10と感光体ドラム40との間に配置された第2レンズ50とから構成されている。
【0032】
図11に示すマルチビーム走査光学系では、第1,第2の半導体レーザー21,22の発光波長が互いに異なる場合にも走査幅誤差を発生させないように、第1レンズ10の第2面に形成した回折レンズ構造に、倍率色収差を補正する機能を持たせている。なお、第1の実施形態の走査レンズ10に代えて、第2の実施形態の走査レンズ100を用いることもできる。
【0033】
次に、第1の実施形態の走査レンズ10の具体的な設計例について説明する。走査レンズ10の第1面11は、回転対称な凹の非球面である。また、第2面12は、回転対称な凸の非球面であるベースカーブ上に倍率色収差を補正する作用を持つ回折レンズ構造が形成されている。
【0034】
回転対称な非球面の形状は、走査レンズの光軸Ax1からの距離hにおける光軸Ax1と回折レンズ構造との交点での接平面からのサグ量X(h)で表すことができ、そのサグ量は、以下の式(1)で表される。
X(h)=h2/[r{1+√(1−(κ+1)h2/r2)}]+A4h4+A6h6+A8h8+A10h10…(1)
上式中、rは光軸上の曲率半径、κは円錐係数、A4,A6,A8,A10はそれぞれ4次、6次、8次、10次の非球面係数である。
【0035】
回折レンズ構造の形状は、走査レンズの光軸Ax1からの距離hにおける光軸Ax1と回折レンズ構造輪帯構造との交点での接平面からのサグ量SAG(h)で表すことができ、かつ、そのサグ量SAG(h)は以下の式(2)で表される。
SAG(h)=X(h)+S(h) …(2)
ここで、X(h)は回折レンズ構造の巨視的形状(ベースカーブ)で、球面の場合には曲率半径をrとして以下の(3)式で表される。
X(h)=h2/[r{1+√(1−h2/r2)}]…(3)
【0036】
一方、回折レンズ構造が持つべき光路長付加量Δφ(h)は、光軸Ax1からの高さをh、n次(偶数次)の光路差関数係数をPnとして、以下の式(4)により求められる。
Δφ(h)=P2h2+P4h4+P6h6+P8h8+P10h10 …(4)
式(2)中のS(h)は、この光路長付加量Δφ(h)に基づいて以下の式(5)により求められる値であり、主走査方向に変化する階段状のサグ量を表す。
S(h)={|MOD(Δφ(h)+C,−1)|−C}λ/{n−1+Dh2} …(5)
ここで、MOD(X、Y)はXをYで割った剰余を与える関数、Cは輪帯の境界位置の位相を設定する定数であり、0から1の任意の値をとる。また、Dは、光束が回折レンズ構造に対して斜めに入射するために生じる位相付加量の変化を補正する係数である。
【0037】
回折レンズ構造の各輪帯の番号Nは、光軸上の領域を0として、以下の式(6)により表される。INT(X)は、Xの整数部分を与える関数である。
N=INT(|Δφ(h)+C|) …(6)
【0038】
表1は、第1の実施形態の走査レンズの基本形状の数値構成を示す。表中の記号rは光軸上での各レンズ面の曲率半径(単位:mm)、他は上記の通りである。
【0039】
【表1】
【0040】
上記の数値例により、走査レンズ10の第1面11の形状、第2面12のベースカーブ、そして、第2面12に形成された回折レンズ構造の各輪帯の形状が特定される。そして、各輪帯間の段差面の角度を上述した第1の実施形態のいずれかで決定することにより、走査レンズ10の具体的な形状が決定される。決定された形状に基づいて金型を製作し、製作した金型を用いて射出成型により実施形態の走査レンズ10が成型される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(A)は本発明の第1の実施形態にかかる走査レンズの主走査方向の断面図、(B)はその正面図である。
【図2】比較例の金型形状を示す拡大図である。
【図3】プラスチックレンズの冷却時の変形を示す説明図である。
【図4】比較例の金型により成型したレンズの段差面とその設計形状とを示す説明図である。
【図5】第1の実施形態の走査レンズを形成するための金型の拡大図である。
【図6】第1の実施形態の走査レンズを形成するための金型の他の例を示す拡大図である。
【図7】第1の実施形態の金型を用いて成型したレンズの段差面とその設計形状とを示す説明図である。
【図8】段差面の法線が光軸に対してなす角度と光軸から段差面までの距離との関係を示すグラフであり、実線が実施形態、破線か比較例を示す。
【図9】本発明の第2の実施形態にかかる走査レンズの主走査方向の断面図である。
【図10】図9の走査レンズを設計する際の手順を示し、(A)は離型時の変形を考慮しない設計例、(B)は(A)に基づいて図9の走査レンズを設計する際の基準となる直線を加えた図、(C)は(B)の拡大図である。
【図11】第1の実施形態の走査レンズを適用したマルチビーム走査光学系を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
10、100 走査レンズ
11、101 第1面
12、102 第2面
12a、102a 段差面
12b、102b 回折作用面
13 外枠部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源部から発して偏向器により反射、偏向された光束を収束させて被走査面上で主走査方向に走査するスポットを形成する結像光学系に含まれる走査レンズにおいて、
少なくとも一面に同心円状の複数の輪帯を有する回折レンズ構造が形成され、射出成型により製造される樹脂製レンズであり、前記回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面と、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面とを有し、前記回折レンズ構造の設計形状は、前記輪帯の回転軸を含み前記主走査方向に平行な一断面において、前記段差面を前記回転軸に対して傾けることにより、離型時に前記段差面と金型との間に作用する応力を軽減した形状であることを特徴とする走査レンズ。
【請求項2】
光源部から発して偏向器により反射、偏向された光束を収束させて被走査面上で主走査方向に走査するスポットを形成する結像光学系に含まれる走査レンズにおいて、
少なくとも一面に同心円状の複数の輪帯を有する回折レンズ構造が形成され、射出成型により製造される樹脂製レンズであり、前記回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面と、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面とを有し、前記回折レンズ構造の設計形状は、前記輪帯の回転軸を含み前記主走査方向に平行な一断面において、前記段差面を隣接する回折作用面の法線に対して傾けることにより、離型時に前記段差面と金型との間に作用する応力を軽減した形状であることを特徴とする走査レンズ。
【請求項3】
前記段差面の設計上の傾きは、離型時の樹脂収縮に伴うレンズの変形方向にほぼ一致していることを特徴とする請求項1または2に記載の走査レンズ。
【請求項4】
前記一断面に略平行な面上に配置されたゲートから樹脂が射出されて製造され、前記段差面は、前記一断面内において、該段差面とそれに接続する回折作用面との境界点と、前記ゲートの略中心を前記一断面上に投影した点とを結ぶ直線に対して設計上ほぼ平行であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の走査レンズ。
【請求項5】
少なくとも一面に同心円状の複数の輪帯を有する回折レンズ構造が形成され、射出成型により製造される樹脂製レンズであり、前記回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面と、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面とを有し、前記回折レンズの設計形状は、前記輪帯の回転軸を含む少なくとも一断面において、前記段差面を前記回転軸に対して傾けることにより、離型時に前記段差面と金型との間に作用する応力を軽減した形状であることを特徴とする回折レンズ。
【請求項6】
前記段差面の設計上の傾きは、離型時の樹脂収縮に伴うレンズの変形方向にほぼ一致していることを特徴とする請求項5に記載の回折レンズ。
【請求項7】
前記回折レンズは、光源部から発して偏向器により反射、偏向された光束を収束させて被走査面上で主走査方向に走査するスポットを形成する結像光学系に含まれ、
前記一断面は、前記主走査方向と平行であることを特徴とする請求項5または6に記載の回折レンズ。
【請求項8】
前記一断面に略平行な面上に配置されたゲートから樹脂が射出されて製造され、前記段差面の設計形状は、前記一断面内において、該段差面とそれに接続する回折作用面との境界点と、前記ゲートの略中心を前記一断面上に投影した点とを結ぶ直線に対してほぼ平行であることを特徴とする請求項6または7に記載の回折レンズ。
【請求項1】
光源部から発して偏向器により反射、偏向された光束を収束させて被走査面上で主走査方向に走査するスポットを形成する結像光学系に含まれる走査レンズにおいて、
少なくとも一面に同心円状の複数の輪帯を有する回折レンズ構造が形成され、射出成型により製造される樹脂製レンズであり、前記回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面と、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面とを有し、前記回折レンズ構造の設計形状は、前記輪帯の回転軸を含み前記主走査方向に平行な一断面において、前記段差面を前記回転軸に対して傾けることにより、離型時に前記段差面と金型との間に作用する応力を軽減した形状であることを特徴とする走査レンズ。
【請求項2】
光源部から発して偏向器により反射、偏向された光束を収束させて被走査面上で主走査方向に走査するスポットを形成する結像光学系に含まれる走査レンズにおいて、
少なくとも一面に同心円状の複数の輪帯を有する回折レンズ構造が形成され、射出成型により製造される樹脂製レンズであり、前記回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面と、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面とを有し、前記回折レンズ構造の設計形状は、前記輪帯の回転軸を含み前記主走査方向に平行な一断面において、前記段差面を隣接する回折作用面の法線に対して傾けることにより、離型時に前記段差面と金型との間に作用する応力を軽減した形状であることを特徴とする走査レンズ。
【請求項3】
前記段差面の設計上の傾きは、離型時の樹脂収縮に伴うレンズの変形方向にほぼ一致していることを特徴とする請求項1または2に記載の走査レンズ。
【請求項4】
前記一断面に略平行な面上に配置されたゲートから樹脂が射出されて製造され、前記段差面は、前記一断面内において、該段差面とそれに接続する回折作用面との境界点と、前記ゲートの略中心を前記一断面上に投影した点とを結ぶ直線に対して設計上ほぼ平行であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の走査レンズ。
【請求項5】
少なくとも一面に同心円状の複数の輪帯を有する回折レンズ構造が形成され、射出成型により製造される樹脂製レンズであり、前記回折レンズ構造は、透過する光を回折させる回折作用面と、隣接する回折作用面の間をつなぐ段差面とを有し、前記回折レンズの設計形状は、前記輪帯の回転軸を含む少なくとも一断面において、前記段差面を前記回転軸に対して傾けることにより、離型時に前記段差面と金型との間に作用する応力を軽減した形状であることを特徴とする回折レンズ。
【請求項6】
前記段差面の設計上の傾きは、離型時の樹脂収縮に伴うレンズの変形方向にほぼ一致していることを特徴とする請求項5に記載の回折レンズ。
【請求項7】
前記回折レンズは、光源部から発して偏向器により反射、偏向された光束を収束させて被走査面上で主走査方向に走査するスポットを形成する結像光学系に含まれ、
前記一断面は、前記主走査方向と平行であることを特徴とする請求項5または6に記載の回折レンズ。
【請求項8】
前記一断面に略平行な面上に配置されたゲートから樹脂が射出されて製造され、前記段差面の設計形状は、前記一断面内において、該段差面とそれに接続する回折作用面との境界点と、前記ゲートの略中心を前記一断面上に投影した点とを結ぶ直線に対してほぼ平行であることを特徴とする請求項6または7に記載の回折レンズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−41542(P2007−41542A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148011(P2006−148011)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】
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