説明

走査速度に従い調節可能な繰り返し率を有する高出力のフェムト秒レーザ

フェムト秒パルス・レーザを構築して動作させる設計態様および技術が提供される。レーザ・エンジンの一例は、フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、種パルスの存続時間を伸張する伸張器/圧縮器と、伸張済み種パルスを受信し、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して、増幅済みの伸張済みパルスを生成し、且つ、増幅された伸張済みパルスから成るレーザ光線を、該パルスの存続時間を圧縮してフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力する上記伸張器/圧縮器へと出力する増幅器と、を含んでいる。増幅器は、増幅済みの伸張済みパルスの分散を補償する分散制御器を含むことにより、各処置の間において又は走査の速度に従い上記レーザの繰り返し率を調節可能にする。レーザ・エンジンは、500メートル未満の合計の光路によりコンパクトとされ得ると共に、たとえば50個未満などの少ない個数の光学素子を有し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許明細書は、調節可能な繰り返し率を有する高出力のフェムト秒レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
今日における更に興味深いレーザ用途の多くにおいては、パルス当たりの高エネルギを担持する更に短いパルスが継続的に求められている。これらの特徴は、レーザ用途に対する更に良好な制御および更に速い動作速度を約束する。上記分野の進展における顕著な段階は、フェムト秒レーザ・パルスを出力するレーザ・システムの出現および成熟であった。これらのフェムト秒レーザは、これらの超短パルスが良好に制御された組織改変を提供し得るという幾つかの異なる形式の眼球手術などの、多様な用途に対して使用され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本明細書においては、チャーピングされたパルス増幅によるレーザ・システムの実施形態および実施方式であって、その内の幾つかは少ない個数の光学素子を有し、その内の幾つかは動作不良の頻度が低く、他のものは適切に小さな物理的広がりを有し、また別のものは当該システムのそれほどの再調節なしで繰り返し率(repetition rate)の変更を許容し得、且つ、幾つかは熱レンズ効果に対する感受性が低い、というレーザ・システムの実施形態および実施方式を含む、フェムト秒パルス・レーザを構築して動作させる設計態様および技術が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
たとえば、レーザ・エンジンの幾つかの例は、フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、上記種パルスの存続時間を伸張する伸張器/圧縮器と、上記伸張器/圧縮器からの伸張済み種パルスを受信し、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して、増幅済みの伸張済みパルスを生成し、且つ、増幅された伸張済みパルスから成るレーザ光線を出力する増幅器と、を含み、上記伸張器/圧縮器は、上記増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線を受信し、上記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を備えるフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力し、且つ、上記増幅器は、上記増幅済みの伸張済みパルスの分散を減少する分散補償器を含む。
【0005】
幾つかの例において、上記発振器は、ダイオードによりポンピングされたファイバ発振器であり、且つ、形状変化が限られた種パルスを出力する。
【0006】
幾つかの例において、上記発振器は、1,000フェムト秒未満の種パルス存続時間を以て上記光線を生成する。
【0007】
幾つかの実施方式において、上記発振器は、10〜100MHzおよび20〜50MHzの内の一方の範囲内の種パルス繰り返し率を以て上記光線を出力する。
【0008】
幾つかの実施方式において、上記伸張器/圧縮器はチャーピングされた体積ブラッグ格子を含む。
【0009】
幾つかの実施方式において、上記伸張器/圧縮器は、光熱屈折ガラスを含む。
【0010】
幾つかの実施方式において、上記伸張器/圧縮器は、10より大きい係数にて上記フェムト秒の種パルスの存続時間を伸張する。
【0011】
幾つかの実施方式において、上記伸張器/圧縮器は、上記フェムト秒の種パルスの存続時間を、1,000〜200,000フェムト秒の伸張済み存続時間へと伸張する。
【0012】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、調整可能な伸張器/圧縮器を含まない。
【0013】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、上記発振器と上記伸張器/圧縮器との間の偏光子およびλ/4プレートであって、上記伸張済み種パルスから成る光線を上記増幅器に向けて方向変換するという偏光子およびλ/4プレートを含む。
【0014】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、ファラデー・アイソレータであって、上記伸張器/圧縮器からの上記伸張済み種パルスから成る光線を受信し、上記伸張済み種パルスから成る光線を上記増幅器に向けて出力し、上記増幅器から増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線を受信し、上記増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線を、上記伸張器/圧縮器の圧縮器ポートに向けて出力し、且つ、上記増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線から上記発振器を隔離する、というファラデー・アイソレータを含む。
【0015】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は光学素子を含み、且つ、上記分散補償器は、上記増幅器の光学素子により導入される分散と符号が逆の分散を導入する。
【0016】
幾つかの実施方式において、上記分散補償器により導入される上記分散は、該分散補償器以外の上記増幅器の各光学素子により1回の往復内に導入される分散と大きさが本質的に等しく且つ符号が逆である。
【0017】
幾つかの実施方式において、上記分散補償器は、チャープ・ミラー、チャープ・ファイバ、チャープ格子、プリズム、または、チャーピングされた透過的な光学素子の内の少なくともひとつを含む。
【0018】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、上記選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅する利得材料と、共振空洞を画成する2つの端部ミラーと、該増幅器の内部にて共振光路を折返す2つの折返しミラーとを含み、上記2つの端部ミラーおよび上記2つの折返しミラーの内の少なくともひとつはチャープ・ミラーである。
【0019】
幾つかの実施方式において、上記チャープ・ミラーは、上記増幅済みの伸張済みパルスに負の分散を導入する。
【0020】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、上記レーザ光線を、第1繰り返し率により、且つ、引き続き、上記レーザ・エンジンの全ての光学素子の本質的に同一の設定を以て、異なる第2繰り返し率により、出力すべく構成される。
【0021】
幾つかの実施方式において、上記第1繰り返し率および上記第2繰り返し率は、10kHz〜2MHz、または、50kHz〜1MHz、または、100kHz〜500kHzの各範囲の内のひとつの範囲内に収まる。
【0022】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、該レーザ・エンジンが改変されなければ上記第1および第2の繰り返し率に対して上記各光学素子の異なる設定を利用する場合でも、全ての光学素子に対して上記第1繰り返し率によるのと本質的に同一の設定により上記第2繰り返し率を以て上記レーザ光線を出力すべく改変され得る。
【0023】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、繰り返し率が変更されたときに、該増幅器の光学的設定を変更せずに維持しながら、該増幅器における上記増幅済みの伸張済みパルスの往復の回数を変更すべく構成される。
【0024】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、1メートル未満の端部ミラー/端部ミラー間の折返し光路を有する。
【0025】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、空洞ダンピング型再生増幅器、チャーピングされたパルス増幅器、または、Qスィッチ増幅器である。
【0026】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、端部ミラー間の光路中における切換え可能な偏光子であって、該切換え可能な偏光子が上記増幅済みの伸張済みパルスの偏光極性を調節する、という偏光極性調節状態と、該切換え可能な偏光子が本質的に、上記増幅済みの伸張済みパルスの偏光極性を調節しない、という偏光極性非調節状態と、の間で切換わることにより伸張済みパルスを選択し得る、という切換え可能な偏光子を含む。
【0027】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、上記切換え可能な偏光子を制御して上記偏光極性非調節状態から上記偏光極性調節状態へと、5ナノ秒、4ナノ秒、または、3ナノ秒の内のひとつより短い立ち上がり時間を以て切換える高電圧パワースィッチを含み得る。
【0028】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、上記フェムト秒パルスから成るレーザ光線の第1繰り返し率を、1〜120秒、または、10〜60秒、または、20〜50秒の内のひとつの時間以内に第2繰り返し率へと変更する。
【0029】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、上記フェムト秒パルスから成るレーザ光線の第1繰り返し率を、1μs〜1sの範囲内の変更時間以内に第2繰り返し率へと変更する。
【0030】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、少なくともひとつの焦点合わせミラーと、上記焦点合わせミラーの焦点の直近に配設されたレーザ結晶とを含む。
【0031】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、該レーザ・エンジンの繰り返し率が、両方の値が10kHz〜2MHzの範囲内である第1の値から第2の値へと変更されたときに、出力されるレーザ光線の直径が10%および20%の一方未満だけ変化し、または、出力されるレーザ光線の中心が上記光線直径の20%および40%の一方未満だけ移動する様に構成される。
【0032】
幾つかの実施方式において、上記レーザ光線のフェムト秒パルスは、1〜100μJ/パルス、10〜50μJ/パルス、または、20〜30μJ/パルスの内のひとつの範囲内のエネルギを有する。
【0033】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、0.1W、1Wまたは10Wの内のひとつより大きいパワーを以てレーザ光線を出力する。
【0034】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは眼球手術システムの一部である。
【0035】
幾つかの実施方式において、レーザ・エンジンによりレーザ光線を生成する方法は、1,000フェムト秒未満の存続時間を以て種パルスから成る光線を発振器により生成する段階と、上記種パルスの存続時間をパルス伸張器により伸張する段階と、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅器により増幅し、増幅済みの伸張済みパルスを生成する段階と、上記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を、パルス圧縮器により1,000フェムト秒未満に圧縮する段階と、10kHz〜2MHzの範囲内の第1繰り返し率および1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を以て、フェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力する段階と、上記レーザ・エンジンの光学的設定を本質的に変更せずに、上記繰り返し率を、上記第1繰り返し率から、10kHz〜2MHzの範囲内の第2繰り返し率へと変更する段階と、上記第2繰り返し率を以て、且つ、1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を以て、上記フェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力する段階とを含む。
【0036】
幾つかの実施方式において、上記増幅段階は、上記増幅器において分散補償器を利用し、該増幅器の光学的構成要素により引き起こされた上記増幅済みの伸張済みパルスの分散を減少する段階を含む。
【0037】
幾つかの実施方式において、上記分散を減少する段階は、上記増幅器における少なくともひとつのチャープ・ミラーにより補償用分散を導入する段階を含み、上記補償用分散は、往復毎に上記分散補償器以外の上記増幅器の全ての光学素子により導入される分散と大きさが本質的に等しく且つ符号が逆である。
【0038】
幾つかの実施方式において、上記繰り返し率を変更する段階は、上記増幅器の光学的設定を変更せずに維持しながら、上記増幅器における往復の回数を変更する段階を含む。
【0039】
幾つかの実施方式において、上記伸張段階および上記圧縮段階は同一の伸張器/圧縮器により実行される。
【0040】
幾つかの実施方式においては、上記第1繰り返し率を以て上記レーザ光線を出力する段階を終了した後に、1〜120秒、または、10〜60秒、または、20〜50秒の内のひとつの時間以内に上記第2繰り返し率を以て上記レーザ光線を出力する。
【0041】
幾つかの実施方式においては、上記繰り返し率を、上記第1繰り返し率から上記第2繰り返し率へと1μs〜1sの範囲内の変更時間以内に変更する。
【0042】
幾つかの実施方式において、レーザ・エンジンは、1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を以てパルス化された光線を生成する発振器と、上記光線のパルスの上記存続時間を伸張する伸張器/圧縮器と、上記伸張済みの光パルスの振幅を増幅して増幅済みの伸張済みパルスを生成する増幅器と、を含み、上記伸張器/圧縮器は、上記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、レーザ光線パルスを出力し、且つ、上記レーザ・エンジンは、上記レーザ光線パルスを、10kHz〜2MHzの範囲内の第1繰り返し率により、且つ、引き続き、当該レーザ・エンジンの全ての光学素子の本質的に同一の設定を利用して、上記10kHz〜2MHzの範囲内の第2繰り返し率により出力すべく作用可能であり、上記出力されたレーザ・パルスの存続時間は、上記第1および第2の繰り返し率に対して1,000フェムト秒未満である。
【0043】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、上記増幅器の光学素子により導入される分散を少なくとも部分的に補償する分散補償器を含む。
【0044】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、該増幅器の端部ミラー間の切換え可能な偏光子であって、5ナノ秒、4ナノ秒、または、3ナノ秒の内のひとつより短い立ち上がり時間を以て、該切換え可能な偏光子が上記増幅済みの伸張済みパルスの偏光極性を調節するという状態と、該切換え可能な偏光子が上記増幅済みの伸張済みパルスの偏光極性を調節しないという状態と、の間で切換わる、という切換え可能な偏光子を含む。
【0045】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、少なくともひとつの焦点合わせミラーと、上記焦点合わせミラーの焦点の近傍に配置された利得結晶とを含む。
【0046】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、60秒、1秒および10μsの内のひとつより短い時間で、上記第1繰り返し率および上記第2繰り返し率を切換える。
【0047】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、フェムト秒の種パルスを出力する発振器と、上記種パルスの存続時間を伸張する伸張器と、上記伸張済み種パルスを増幅済みの伸張済みパルスへと増幅する増幅器であって、該増幅器の光学素子により誘起される上記増幅済みの伸張済みパルスの分散を補償する分散補償器を含むという増幅器と、上記増幅済みの伸張済みパルスを受信し、上記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、フェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力する圧縮器とを含む。
【0048】
幾つかの実施方式において、繰り返し率可変レーザ・エンジンはQスィッチ式空洞ダンピング型再生増幅器を含み、該増幅器は2つの端部ミラーを含み、上記レーザ・エンジンはフェムト秒レーザ・パルスを出力し、且つ、上記端部ミラー間の光路の長さは2メートル未満である。
【0049】
幾つかの実施方式において、上記端部ミラー間の上記光路の上記長さは1メートル未満である。
【0050】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、上記増幅器に対して送信される種パルスを生成する発振器を含み、上記発振器において上記種パルスの光子が生成される箇所から、上記レーザ・エンジンが上記レーザ・パルスを出力する箇所までの合計の自由空間光路の長さは、500メートル、300メートル、および、150メートルの内のひとつより短い。
【0051】
幾つかの実施方式において、上記増幅器の空洞の全ての辺のサイズは1メートルまたは0.5メートルの内の一方より小さく、上記増幅器の上記空洞は該増幅器の全ての光学素子を収容する。
【0052】
幾つかの実施方式において、上記増幅器の占有面積は、1m2または0.5m2の内の一方よりも小さい。
【0053】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、チャーピングされた体積ブラッグ格子を含む伸張器/圧縮器を含む。
【0054】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、該増幅器の光学素子により導入される分散を補償する分散補償器を含む。
【0055】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、発振パルスの振幅を増幅するレーザ結晶と、該増幅器の内部の共振光路を折返す2つの折返しミラーとを含み、上記2つの端部ミラーおよび上記2つの折返しミラーの内の少なくともひとつはチャープ・ミラーである。
【0056】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、レーザ光線を、所定繰り返し率範囲における第1繰り返し率により、且つ、引き続き、当該レーザ・エンジンの全ての光学素子の本質的に同一の設定を以て、上記繰り返し率範囲内の第2繰り返し率により出力すべく構成される。
【0057】
幾つかの実施方式において、上記第1および第2の繰り返し率は、10kHz〜2MHz、または、50kHz〜1MHz、または、100kHz〜500kHzの内のひとつの範囲内に収まる。
【0058】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、上記第1繰り返し率が60秒、1秒および1μsの内のひとつより短い時間で上記第2繰り返し率に変更可能である様に構成される。
【0059】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、上記端部ミラー間において5ns、4nsまたは3nsの内の一方より短い時間で切換わる切換え可能な偏光子であって、該切換え可能な偏光子が増幅済みパルスの偏光極性を調節するという状態と、該切換え可能な偏光子が上記増幅済みパルスの偏光極性を本質的に調節しないという状態と、の間で切換わる、という切換え可能な偏光子を含む。
【0060】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、少なくともひとつの焦点合わせ端部ミラーと、上記焦点合わせ端部ミラーの焦点の直近に配置されたレーザ結晶とを含む。
【0061】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、上記種パルスの存続時間を伸張する伸張器/圧縮器と、上記伸張器/圧縮器から上記伸張済み種パルスを受信し、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して増幅済みの伸張済みパルスを生成し、且つ、増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線を出力する増幅器とを含み上記伸張器/圧縮器は、上記増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線を受信し、上記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を備えるフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力し、上記発振器において上記種パルスの光子が生成される箇所から、上記レーザ・エンジンが上記レーザ・パルスを出力する箇所までの光路の長さは、500メートル未満である。
【0062】
幾つかの実施方式において、上記光路の長さは300メートル未満である。
【0063】
幾つかの実施方式において、繰り返し率可変レーザ・エンジンは、フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、上記種パルスの存続時間を伸張する伸張器/圧縮器と、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して増幅済みの伸張済みパルスを生成するチャーピングされたパルス増幅器とを含み、上記増幅器は、5nsより短い切換え時間を有する切換え可能な偏光子を含み、上記伸張器/圧縮器は上記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間をフェムト秒の値へと圧縮し、且つ、上記レーザ・エンジンは1m2より小さい面積を占有する。
【0064】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは手術用レーザ・システムの一部であり、該手術用レーザ・システムは、該手術用レーザ・システムの頂部デッキ上に上記レーザ・エンジンおよび画像化システムを有する。
【0065】
幾つかの実施方式において、繰り返し率可変レーザ・エンジンは、フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、上記種パルスの存続時間を伸張する一体化された伸張器/圧縮器と、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して増幅済みの伸張済みパルスを生成するQスィッチ式空洞ダンピング型再生増幅器と、を含み、上記伸張器/圧縮器は、上記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮してフェムト秒レーザ・パルスを出力し、且つ、上記レーザ・エンジンの光学素子の個数は75個未満である。
【0066】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンの上記光学素子の個数は50個未満である。
【0067】
幾つかの実施方式において、上記発振器以外の部分における上記レーザ・エンジンの上記光学素子の個数は50個未満である。
【0068】
幾つかの実施方式において、上記発振器以外の部分における当該レーザ・エンジンの上記光学素子の個数は35個未満である。
【0069】
幾つかの実施方式において、光学素子は、ミラー、レンズ、平行プレート、偏光子、アイソレータ、一切の切換え可能な光学素子、屈折要素、透過要素、または、反射要素の内のひとつである。
【0070】
幾つかの実施方式において、光学素子には空気中から光が入り且つ空気中へと出射する。
【0071】
幾つかの実施方式において、上記一体化された伸張器/圧縮器はチャーピングされた体積ブラッグ格子を含む。
【0072】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、該増幅器の光学素子により導入される分散を補償する分散補償器を含む。
【0073】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、共振空洞を画成する2つの端部ミラーと、該増幅器の内部にて共振光路を折返す2つの折返しミラーとを含み、上記2つの端部ミラーおよび上記2つの折返しミラーの内の少なくともひとつはチャープ・ミラーである。
【0074】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、レーザ光線を、所定繰り返し率範囲における第1繰り返し率により、且つ、引き続き、上記レーザ・エンジンの全ての光学素子の本質的に同一の設定を以て、上記繰り返し率範囲における第2繰り返し率により、出力すべく構成され、上記第1および第2繰り返し率は、10kHz〜2MHz、または、50kHz〜1MHz、または、100kHz〜500kHzの各範囲の内のひとつの範囲内である。
【0075】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンは、上記第1繰り返し率が1秒未満の変更時間で上記第2繰り返し率へと変更可能である様に構成される。
【0076】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、上記各端部ミラー間の切換え可能な偏光子であって、5ns、4ns、または、3nsの内のひとつより短い時間内に、該切換え可能な偏光子が上記増幅済みの伸張済みパルスの偏光極性を調節するという状態と、該切換え可能な偏光子が上記増幅済みの伸張済みパルスの偏光極性を本質的に調節しないという状態と、の間で切換わり得る、という切換え可能な偏光子を含む。
【0077】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、少なくともひとつの焦点合わせミラーと、上記焦点合わせミラーの焦点の近傍に配置されたレーザ結晶とを含む。
【0078】
幾つかの実施方式において、レーザ・エンジンは、フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、上記種パルスの存続時間を伸張する伸張器/圧縮器と、上記伸張器/圧縮器からの伸張済み種パルスを受信し、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して、増幅済みの伸張済みパルスを生成し、且つ、上記増幅済みの伸張済みパルスを出力する増幅器と、を含み、上記伸張器/圧縮器は、上記増幅済みの伸張済みパルスを受信し、該増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を備えるフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力し、且つ、上記発振器以外の部分における当該レーザ・エンジンにおける光学素子の個数は50個未満である。
【0079】
幾つかの実施方式において、上記レーザ・エンジンにおける光学素子の個数は75個未満である。
【0080】
幾つかの実施方式において、レーザ・システムにより走査を行う方法は、レーザ・エンジンにより、可変繰り返し率を有するレーザ・パルスを生成する段階と、走査レーザ供与システムにより、目標領域における焦点へと上記レーザ・パルスを焦点合わせする段階と、上記走査レーザ供与システムにより、上記目標領域において所定走査速度を以て上記焦点を走査させる段階と、上記走査速度を変更する段階と、上記変更された走査速度に従い上記繰り返し率を、繰り返し率制御器により調節する段階とを含む。
【0081】
幾つかの実施方式において、上記生成段階は、発振器によりフェムト秒の種パルスを生成する段階と、上記種パルスを伸張器/圧縮器により伸張する段階と、選択された伸張済み種パルスを増幅器により増幅済みの伸張済みパルスへと増幅する段階と、上記増幅済みの伸張済みパルスを上記伸張器/圧縮器によりフェムト秒レーザ・パルスへと圧縮する段階とを含む。
【0082】
幾つかの実施方式において、上記方法は、上記繰り返し率を調節し、上記目標領域においてレーザにより生成される気泡の密度を選択値の付近に略々維持する段階を含む。
【0083】
幾つかの実施方式において、上記気泡の密度は、線密度、面積密度、および、体積密度の内のひとつである。
【0084】
幾つかの実施方式において、上記繰り返し率を調節する上記段階は、上記走査速度に比例させて上記繰り返し率を調節する段階を含む。
【0085】
幾つかの実施方式において、上記繰り返し率を調節する上記段階は、上記繰り返し率を、1μ秒〜1秒の範囲内の時間で第1の値から第2の値へと調節する段階を含む。
【0086】
幾つかの実施方式において、上記焦点を走査させる上記段階は、上記焦点を、最小加速経路に沿い走査させる段階を含む。
【0087】
幾つかの実施方式において、上記方法は、上記焦点をスィッチバック経路に沿いXY走査させる段階と、上記経路のスィッチバック部分に接近するときに上記繰り返し率を減速する段階とを含む。
【0088】
幾つかの実施方式において、上記方法は、上記レーザ光線を渦巻き線に沿い走査させる段階と、上記走査段階が上記渦巻き線の中心に接近するときに上記繰り返し率を減速する段階とを含む。
【0089】
幾つかの実施方式において、上記繰り返し率を調節する上記段階は、上記繰り返し率制御器により変更された走査速度に関する情報を、変化する走査速度を検知する段階、および、上記変化する走査速度に関する電子的情報をプロセッサまたはメモリから獲得する段階、の内のひとつの段階により受信する段階と、上記変更された走査速度に関する上記受信情報に従い上記繰り返し率を調節する段階とを含む。
【0090】
幾つかの実施方式において、繰り返し率可変レーザ走査システムは、フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、上記種パルスの存続時間を伸張し、増幅器からの増幅済みの伸張済みパルスを受信し、上記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、所定繰り返し率を以てフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力するという伸張器/圧縮器であって、上記増幅器は、上記伸張器/圧縮器から上記伸張済み種パルスを受信し、選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して、増幅済みの伸張済みパルスを生成し、且つ、上記増幅済みの伸張済みパルスを出力する、という伸張器/圧縮器と、目標領域において可変走査速度を以て上記レーザ光線の焦点を走査させることで、光切断によるスポットを生成する走査用光学機器と、を含み、該レーザ走査システムは、上記繰り返し率を変更することで、所定の密度変化特性を以て上記光切断によるスポットを生成する。
【0091】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、上記増幅済みの伸張済みパルスの分散を減少する分散補償器を含む。
【0092】
幾つかの実施方式において、上記増幅器は、該増幅器において上記伸張済みパルスの偏光面を回転する切換え可能な偏光子を含み、上記切換え可能な偏光子の立ち上がり時間は、5ns、4nsおよび3nsの内のひとつより短い。
【0093】
幾つかの実施方式において、上記レーザ走査システムは、上記切換え可能な偏光子に対して制御信号を印加することにより該切換え可能な偏光子を5ns、4nsまたは3nsの内のひとつより短い立ち上がり時間を以て切換える制御電子機器を含む。
【0094】
幾つかの実施方式において、レーザ・エンジンにより走査を行う方法は、所定繰り返し率を以てフェムト秒レーザ・パルスを生成する段階と、上記レーザ・パルスを目標領域における焦点に焦点合わせし、光切断によるスポットを生成する段階と、上記目標領域において所定走査速度を以て上記焦点を走査させる段階と、上記走査の間に上記繰り返し率を調節し、所定の密度変化特性を以て上記光切断によるスポットを生成する段階とを含む。
【0095】
幾つかの実施方式において、上記調節段階は、目標領域において本質的に均一に維持される線スポット密度、面積スポット密度および体積スポット密度の内のひとつにより上記光切断によるスポットを生成する段階を含む。
【0096】
幾つかの実施方式において、上記調節段階は、上記走査速度の変更に従い上記繰り返し率を調節する段階を含む。
【0097】
幾つかの実施方式において、上記調節段階は、上記走査速度に略々比例させて上記繰り返し率を調節する段階を含む。
【0098】
幾つかの実施方式において、上記繰り返し率を調節する上記段階は、上記繰り返し率を、1μ秒〜1秒の範囲内の時間で第1の値から第2の値へと調節する段階を含む。
【0099】
幾つかの実施方式において、上記生成段階は、発振器によりフェムト秒の種パルスを生成する段階と、上記種パルスを伸張器/圧縮器により伸張する段階と、選択された伸張済み種パルスを増幅器により増幅済みの伸張済みパルスへと増幅する段階と、上記増幅済みの伸張済みパルスを上記伸張器/圧縮器によりフェムト秒レーザ・パルスへと圧縮する段階とを含む。
【0100】
幾つかの実施方式において、上記焦点を走査させる上記段階は、上記焦点を、最小加速経路に沿い走査させる段階を含む。
【0101】
幾つかの実施方式において、上記焦点をスィッチバック経路に沿い走査させる段階と、上記経路のスィッチバック部分に接近するときに上記繰り返し率を減速する段階とを含む。
【0102】
幾つかの実施方式において、上記レーザ光線を渦巻き線に沿い走査させる段階と、上記走査段階が上記渦巻き線の中心に接近するときに上記繰り返し率を減速する段階とを含む。
【0103】
幾つかの実施方式において、上記レーザ光線をラインの端部およびラインの角隅部の内の一方に沿い走査させる段階と、上記走査段階が上記ラインの端部および上記ラインの角隅部の内の一方に接近するに従い上記繰り返し率を減速する段階とを含む。
【0104】
幾つかの実施方式において、上記走査速度に関して記憶されたもしくは検知された情報を受信する段階と、上記走査速度に関する上記受信情報に従い上記繰り返し率を調節する段階とを含む。
【0105】
幾つかの実施方式において、上記方法は、上記目標領域に関して検知されたもしくは画像化された情報を受信する段階と、上記目標領域に関する上記受信情報に従い上記繰り返し率を調節する段階とを含む。
【0106】
幾つかの実施方式において、レーザ・エンジンは、フェムト秒の光学的な種パルスを出力する発振器と、上記光学的な種パルスを増幅して増幅済み光学パルスを生成する増幅器とを含み得る。該増幅器は、上記光学的な種パルスを受信して循環させるべく結合された光学的空洞と、上記光学的空洞に結合された光スィッチ・デバイスであって、上記受信された光学的な種パルスの光の上記光学的空洞内への結合を制御すると共に、当該増幅器の出力光としての上記光学的空洞の内部の光の連結を制御する光スィッチ・デバイスとを含む。該光スィッチ・デバイスは、上記光学的空洞の内部に結合された上記光の往復の回数を制御かつ調節して、当該増幅器により生成される増幅済み光学パルスのパルス繰り返し率を制御かつ調節すべく構成される。上記増幅器はまた、上記光学的空洞の内部の光学的利得媒体であって、上記光学的な種パルスを増幅済み光学パルスへと増幅するという光学的利得媒体と、上記光学的空洞の内部の分散補償器であって、当該増幅器により誘起された上記増幅済み光学パルスの分散を補償するという分散補償器と、を含む。上記レーザ・エンジンは、上記増幅器の外部のひとつ以上の光学素子であって、各光学的な種パルスが上記増幅器内へと結合される前において上記光学的な種パルスの存続時間を伸張し、且つ、上記増幅済み光学パルスを生成する上記増幅器により出力された該増幅済み光学パルスの存続時間を圧縮する、というひとつ以上の光学素子を含む。上記レーザ・エンジンは、上記増幅器の外部の分散補償用デバイスであって、上記増幅器により誘起される上記増幅済み光学パルスの分散を補償すべく配備されるという分散補償用デバイスを含まない様に構成され得る。
【0107】
更なる別の実施方式において、レーザ・エンジンを操作してフェムト秒の光パルスを生成する方法は、フェムト秒の光学的な種パルスを伸張し、各パルスにおいて減少された光パワーを有するという伸張済みの光学的な種パルスを生成する段階と、上記伸張済みの光学的な種パルスを光増幅器の光学的空洞内へと結合して各伸張済みの光学的な種パルスの光パワーを増幅することで増幅済みの伸張済み光パルスを生成する段階と、を含み得る。上記光増幅器の内部には、各光パルスに対して分散補償を提供すべく光学的補償器が使用され、該光学的補償器は、該分散補償器により引き起こされる分散を除き、上記増幅器の上記光学的空洞の内部における光の1回の往復内に上記増幅器により誘起される分散と符号が逆で大きさが実質的に等しい分散を導入すべく構造化される。この方法は、上記光学的空洞に対して結合された光スィッチ・デバイスを操作し、上記光学的空洞内への上記伸張済みの光学的な種パルスの光の結合と、上記光学的空洞への上記増幅済みの伸張済み光パルスの光の結合とを制御する段階と、上記光学的空洞から出た上記増幅済みの伸張済み光パルスのパルス存続時間を圧縮し、上記レーザ・エンジンの出力として、圧縮済みの増幅済み光学パルスを生成する段階と、上記光スィッチ・デバイスを操作することで、上記増幅器の外部に配置される分散補償用デバイスを使用することなく、上記光学的空洞の内部における光の往復の回数を制御かつ調節して上記圧縮済みの増幅済み光学パルスのパルス繰り返し率を制御かつ調節し、上記増幅器により誘起される上記分散を補償する段階とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1A】高出力のフェムト秒レーザ・エンジン1の2つの実施形態を示す図である。
【図1B】高出力のフェムト秒レーザ・エンジン1の2つの実施形態を示す図である。
【図2】高出力のフェムト秒レーザ・エンジン1の実施形態を更に詳細に示す図である。
【図3A】レーザ・パルスのチャーピングの概念を示す図である。
【図3B】伸張器200'および圧縮器400の例を示す図である。
【図3C】一体化された伸張器/圧縮器200の実施方式を示す図である。
【図4】増幅器300の実施形態を示す図である。
【図5A−5B】レーザ空洞のポンピング−利得−放出サイクルを示す図である。
【図6A】一定のおよび可変的な繰り返し率による手術用の走査パターンを示す図である。
【図6B】一定のおよび可変的な繰り返し率による手術用の走査パターンを示す図である。
【図6C】一定のおよび可変的な繰り返し率による手術用の走査パターンを示す図である。
【図6D】一定のおよび可変的な繰り返し率による手術用の走査パターンを示す図である。
【図7A】異なる2つの温度における増幅器300中のレーザ結晶310の熱レンズ効果に関する設計上の問題を示す図である。
【図7B】異なる2つの温度における増幅器300中のレーザ結晶310の熱レンズ効果に関する設計上の問題を示す図である。
【図7C】熱レンズ効果が低減された増幅器300の2つの実施方式を示す図である。
【図7D】熱レンズ効果が低減された増幅器300の2つの実施方式を示す図である。
【図8】動作温度の関数として光線の光パワーの依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0109】
初期のフェムト秒レーザにおいて、パルス長の相当の短さは、これらのパルスにおける相当の高出力に帰着していた。しかし、この高出力は、レーザの利得媒体を破損する徴侯を示した。そしてその解決策は、チャーピングされたパルス増幅(CPA)の形態に到達した。この技術においては、フェムト秒の種パルスが生成されてから、該種パルスの長さが10〜1,000の係数でピコ秒の範囲まで伸張されることから、1個のパルスにおけるパワーは大幅に減少される。これらの伸張されたパルスは、破損を引き起こさずに、利得媒体により安全に増幅され得る。この増幅に対しては、増幅された各パルスの長さを圧縮してフェムト秒に戻す、という圧縮が追随する。このCPA手法は、今日においては多くの用途に導入されている。
【0110】
しかし、CPAレーザは欠点も有している。典型的に、これらのレーザは、多数の光学素子を有すると共に、対応して相当に複雑である。これらの要因によれば、動作不良の頻度が非常に高くなると共に、レーザが確実に投入および切断され得る回数が減少される。また、非常に大きなサイズのCPAレーザは、医療デバイスに対するそれらの一体化を非常に困難とする、と言うのも、医療デバイスは典型的には、手術用の部屋または手術室の局限された空間において使用されるからである。更に、異なる処置がパルスの繰り返し率の変更を必要とするなら、この変更のためには、多数の光学素子に対する時間が掛かる再調節を実施する必要がある。これに加え、熱レンズ効果は殆どのCPAレーザの光学的性能に相当に影響し、それらをレーザの動作出力に対して相当に感受的とする。この感受性は、繰り返し率の変更に対する更なる障害である。
【0111】
本明細書中に記述されたフェムト秒パルス・レーザを構築して動作させるレーザ設計態様および技術は、他のフェムト秒パルス・レーザにおける種々の技術的問題に対処するためにも実施され得る。
【0112】
図1Aは、チャーピングされたパルス増幅(CPA)または空洞ダンピング型再生増幅器(CDRA)によるレーザ・エンジン1を示しており、これは、発振器100、伸張器/圧縮器200、および、光増幅器300を含んでいる。
【0113】
発振器100は、フェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力し得る。伸張器/圧縮器200は、これらの種パルスの存続時間を伸張し得る。増幅器300は、伸張器/圧縮器200から伸張済み種パルスを受信し、伸張済みパルスの振幅を増幅し、且つ、増幅済みの伸張済みパルスから成るレーザ光線を出力し得る。これらの増幅済みの伸張済みパルスは光学的に伸張器/圧縮器200へと戻し結合され、これは、増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮して、フェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力し得る。
【0114】
図1Bは別のCPAレーザ・エンジン1'の例を示しており、その場合、光発振器100'および光学的パルス伸張器200'の下流の光増幅器300'は、増幅済みの伸張済みパルスを、該増幅済みの伸張済みパルスを圧縮してフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力し得る別体的な圧縮器400へと光学的に結合し得る。
【0115】
レーザ・エンジン1および1'の記述は、多くの制御機能および方法の段階を含んでいる。これらの機能および段階は、ひとつ以上の制御器、プロセッサ、および、他のコンピュータ式制御器により制御され得る。これらの制御器、プロセッサおよびコンピュータ式制御器は、相互に作用する先進のソフトウェアを利用し得る。図示内容の明瞭化のために、これらのプロセッサ、制御器、および、それら対応ソフトウェアは本特許明細書の各図においては示されないが、幾つかの実施方式におけるレーザ・エンジン1および1'の記述の一部であることが意味される。
【0116】
本出願における各例の内の幾つかは、白内障手術、水晶体嚢切開術または角膜処置の如き眼科的用途に関して記述されるが、レーザ・エンジン1の各実施方式は、網膜および角膜の手術の如き多様な眼科的処置、ならびに、皮膚科的および歯科的な用途、異なる手術用途、および、レーザによる光切断または幾つかの他のレーザ支援式プロセスにより材料片を形状化する種々の材料加工用途などの、非常に広範囲な用途において使用され得る。
【0117】
上記で示された如く、幾つかのチャーピングされたパルス増幅CPA/CDRAによるレーザ・エンジンには種々の欠点が在る。レーザ・エンジン1の各実施形態は、以下の設計原理、ならびに、他の設計検討事項の幾つかもしくは全てを採用することにより、これらの問題に対する解決策を提供すべく構成され得る。
【0118】
(1)多くのレーザは、数百個以上などの多数の光学素子を有することから、それらの設計態様を複雑で高価なものとしている。これに関連して、レーザ・エンジン1の各実施形態は、全体として僅かに50個の光学素子、および、発振器100の外部にては35個以下の光学素子を有し得る。
【0119】
(2)多数の光学素子を備えると共に対応する複雑さを備えるというレーザは、動作不良が高頻度で起こり得る。幾つかのCPA/CDRAレーザにおいて、動作不良の可能性は、そのレーザが30〜40回にわたり“循環動作”され、すなわち投入かつ切断された後では、非常に高くなり得る。斯かるシステムは、30〜40回の切換えサイクルの後で、または、更に頻繁に、予防的な保守を行うことで、そのレーザの通常の動作の間において実際の動作不良が起こることを予防する必要があり得る。
【0120】
これに関連して、非常に減少された個数の光学素子および新規な分散制御解決策の故に、レーザ・エンジン1の各実施形態は、通常の動作の見込みを以て100回、200回、または、それ以上の回数だけ循環動作され得ることから、必要とされる点検の頻度を相当に減少し且つ全体的な信頼性を高め得る。
【0121】
(3)幾つかのCPA/CDRAレーザの大きな物理的広がり、および、対応する往復(roundtrip)の長い所要時間は、以下に記述される如く長い再充電時間に繋がることから、それらの繰り返し率、ならびに、空間的に限られた手術用デバイスにおける使用に対する有用性が限られる。
【0122】
これに関連して、レーザ・エンジン1の各実施形態は、幾つかの実施形態においては1メートルより短く且つ他の実施形態においては2メートルより短いという端部ミラー/端部ミラー間の光路を有し得るコンパクトな共振空洞を有し得る。このコンパクトさはまた、300、500kHzもの大きさ、または、1,000kHzとさえされ得るレーザ・エンジン1の大きな繰り返し率に寄与する要因でもある。
【0123】
上記のコンパクトさは、光子の生成の箇所から出口の箇所まで測定された全体的な光路であって、上記空洞における全ての往復を含めるという全体的な光路が、これらのレーザの大きな繰り返し率にも関わらず、150メートルもの短さであることに繋がり得る。
【0124】
(4)幾つかのCPA/CDRAレーザは、特定の繰り返し率にて動作するために微調整される。この調整は、特定繰り返し率における伸張器200および増幅器300の分散を、圧縮器200/400により補償する段階を含み得る。しかし、当該用途が上記繰り返し率の変更を必要とするなら、上記伸張器および増幅器は、この新たな繰り返し率にて異なる分散を引き起こし、上記CPA/CDRAレーザの微調整された分散/補償を混乱させる。この変化した分散を補償するために、典型的には、伸張器200および圧縮器200/400の光学素子は、時間が掛かる手順にて再調節される必要がある。この再調節は、眼球手術処置の時間的尺度にては、これらのCPA/CDRAレーザの繰り返し率を変更することは技術的に手間が掛かることになる。故に、殆どの市販の眼科的CPAレーザは可変的な繰り返し率の機能性を提供せず、且つ、手術処置の間において変更可能な繰り返し率を提供するものは皆無である。
【0125】
これに関連して、レーザ・エンジン1の各実施形態は、増幅器300により引き起こされたレーザ光線の分散を減少し且つ最小限とさえし得る分散制御器または分散補償器を含み得る。上記分散のこの最小化によれば、レーザ・エンジン1の光学素子に対する時間が掛かる再調節なしで、繰り返し率の変更が許容される。故に、上記分散制御器の包含によれば、時間的に敏感な手術処置の間において繰り返し率を変更することが可能とされる。一例は、白内障手術に対しては第1の繰り返し率を使用し、且つ、水晶体嚢切開術もしくは角膜処置に対しては第2の繰り返し率を使用することである。公知である如く、これらの手術において時間の要因は非常に重要である。
【0126】
(5)幾つかの場合、ひとつの手術処置において、レーザ光線が固定的な繰り返し率を有するときには、一様でない密度を以てレーザ・スポットを載置すべく、切断パターンが使用されることがある。その例としては、ラスタもしくは走査のパターンの転回点の回りにて、または、狭幅化されるもしくは広幅化される渦巻き線において、走査速度を減速する段階が挙げられる。
【0127】
これに関連して、レーザ・エンジン1の各実施形態は、本質的に連続的に調節可能な繰り返し率を有すべく、且つ、変化する走査速度と略々同期して繰り返し率を調節して走査速度の変動を補償すべく構成されることで、略一定の密度を以て、または、所定の密度変化特性を以て、レーザ・スポットを形成することを許容し得る。
【0128】
(6)これに加え、熱レンズ効果は、幾つかのCPA/CDRAレーザの光学的性能に不都合に影響すると共に、それらを、レーザ光線のパワーおよび繰り返し率の変化に対して不都合に敏感とする。これに関連して、レーザ・エンジン1の各実施形態は熱レンズ効果補償技術を利用することで、適用されたレーザ光線のパワーおよび繰り返し率の変化に対してこれらの実施形態を非常に非感応的とし得る。
【0129】
図2は、レーザ・エンジン1の特定の実施方式を詳細に示している。発振器100は、レーザ・エンジン1に対して種パルスを生成して出力し得る多様な光源であり得る。その例としては、ダイオードによりポンピングされたファイバ発振器が挙げられる。上記発振器は、たとえば、808nm波長にて動作するGaAsダイオードなどの単一のダイオード、または、多様な他のダイオードを含み得る。
【0130】
ファイバ発振器は、自由空間の光線伝搬に基づく発振器よりも相当に小寸である。手術室における手狭さが圧迫的な制約であるという手術用途において、上記レーザ・エンジンの空間的広がりを減少することは、非常に見事な設計特徴である。
【0131】
幾つかの例において、上記発振器は高品質の種パルスを出力する。パルスの高品質に対しては、次に詳述される如く幾つかの要因が寄与し得る。
【0132】
(i)幾つかの実施形態において、ダイオードは、該ダイオードの内側における体積ブラッグ格子の如き、周波数安定化バーを含み得る。斯かる格子は、低ノイズおよび高いパルス間安定性を以てパルスを提供し得る。上記ファイバは、NdもしくはYbがドーピングされたガラスで形成され得る。
【0133】
(ii)発振器100は、半導体可飽和吸収ミラーすなわちSESAMを含み得る。ひとつ以上のSESAMを利用すると、生成されたパルス内の各モードの可干渉性が向上され、本質的にモード固定された動作に帰着する。
【0134】
上記の設計原理を備えた発振器は、たとえば正規分布形状を備えた、本質的に形状変化が限られた種パルスを出力し得る。幾つかの例においては、平坦頂部のパルスも生成され得る。パルス存続時間は、1,000フェムト秒(fs)未満とされ得る。幾つかの実施方式においては、パルス存続時間は50〜1,000フェムト秒の範囲内とされ得、他の幾つかの実施形態においては100〜500フェムト秒の範囲内とされ得る。種パルス周波数すなわち繰り返し率は、10〜100MHzの範囲内、他の実施形態においては20〜50MHzの範囲内とされ得る。但し、種パルス周波数を10または20MHz未満に減少すると、一連の設計態様の問題が生ずる。この理由のために、殆どの発振器は20MHzより大きい周波数にて動作する。
【0135】
種パルスの光線のパワーは、10〜1,000mWの範囲内、他の実施形態においては100〜200mWの範囲内とされ得る。
【0136】
多くのタイミングの検討事項に対し、発振器100はマスタ・クロックとして使用され得る。
【0137】
伸張器/圧縮器200は、異なる周波数成分のパルスに対して異なる遅延時間を導入することにより、上記種パルスを伸張し得る。要約すると、上記伸張器/圧縮器は、分散もしくはチャープ(chirp)を導入し得る。
【0138】
図3Aは、このチャープを詳細に示している。伸張器/圧縮器200は、当該パルスの存続時間の殆どにわたり周波数内容物またはスペクトルが略々均一であり、すなわち“白色”である、という短パルスを受信し得る。換言すると、上記パルスの開始時における異なる周波数成分の振幅は、略々等しく、且つ、該パルスの存続時間の間においてその様に留まる。伸張器/圧縮器200は、斯かる“白色”パルスの赤色、緑色および青色の成分に対して異なる遅延時間を導入することにより、パルス長を伸張し得る。故に、伸張器/圧縮器200により出力されたパルスの周波数内容物もしくはスペクトルは、時間依存的となり得る。典型的な考えに依ると、先行部分が赤色周波数により支配される一方で後続部分が青色周波数により支配されるというパルスは、正の分散もしくはチャープを有すると称される。
【0139】
本記述は、時間領域におけるチャープに言及しており、すなわち、高周波成分および低周波成分の相対遅延に言及している。空間的チャープ、すなわち、光線内における高周波成分および低周波成分の空間的な分離は、種々の付加的な設計上の問題を引き起こすと共に、伸張器200'または伸張器/圧縮器200の所望の機能性の中には含まれていない。
【0140】
伸張器/圧縮器200または伸張器200'は、当初は白色である種パルスの先行部分においては赤色内容物を増進し、且つ、該パルスの後続部分においては青色内容物を増進することにより、該パルスへと正のチャープを導入し得る。同様に、伸張器/圧縮器200または伸張器200'によれば、非白色のパルスもまたチャーピングされ得る。
【0141】
伸張器/圧縮器200は、フェムト秒の種パルスの存続時間を、50〜1,000フェムト秒の範囲から、1,000〜200,000フェムト秒、すなわち1〜200ピコ秒の伸張済み存続時間まで、または、500psまでさえも伸張し得る。伸張器/圧縮器200は、フェムト秒の種パルスの存続時間を10より大きい係数だけ伸張し得る。幾つかの場合、上記伸張係数は、102、103、104、または、105より大きくされ得る。これらの伸張係数の各々は、増幅器300に対して異なる設計基準を導入する。
【0142】
図3Bは、図1Bに示された形式のレーザ・エンジン1'は、伸張器200'および別体的な圧縮器400を利用し得ることを示している。伸張器200'は、第1格子201、レンズ202、第2格子203、および、ミラー204を含み得る。短パルス211が伸張器200'に進入するとき、第1格子201は異なる周波数成分を異なる方向に屈折し得る。第1格子201を抜け出すとき、発散する光線は、レンズ202まで伝搬し、第2格子203へと方向変換され得る。幾つかの実施形態は、レンズ202の代わりに2個のレンズを使用し得る。第2格子203は第1格子201に対して所定角度を形成し、且つ、異なる周波数の光線が発散的な方向に伝搬することから、異なる周波数成分は夫々の異なる距離を踏破し、その様にするためには異なる時間を必要とする。
【0143】
たとえば、図3Bの伸張器200'において、スペクトルの青色領域における周波数を備える成分は、赤色領域内の成分よりも長い距離を踏破し、入射した短パルスの赤色成分に対する遅延を獲得する。此処で、および、至る所にて、“青色”および“赤色”という語句は、例示的で相対的な様式で使用される。それらは、更に短い波長および更に長い波長を夫々備えたパルス・スペクトルの成分を指している。特定の実施方式においては、レーザの平均波長は1,000〜1,100nmであり得ると共に、パルスの帯域幅は2〜50nmの範囲、幾つかの場合には5〜20nmの範囲内であり得る。この例においては、上記パルスのスペクトル全体が赤外領域に在る。この例において、“青色”および“赤色”という語句は夫々、そのパルスの帯域幅内において更に短い波長および更に長い波長を有する赤外スペクトルの各部分を指している。
【0144】
第2格子203の機能としては、チャープの部分的制御、すなわち、赤色成分に対する青色成分の遅延、ならびに、光線を本質的に平行な光線としてそれをミラー204による反射に対して適切なものとするという復元が挙げられる。ミラー204は周波数分離された平行な光線を反射し、それらは次にそれらの光路を、第2格子203、レンズ202および第1格子201を通り、後戻りする。上記パルスが第1格子201を出射するときまでに、上記パルスの青色成分は相当に長い距離を踏破することから、赤色成分の後方に遅延する。
【0145】
この遅延は出力されるパルスに対して少なくとも3つの効果を有する:(i)パルス長は相当に長くなり;(ii)赤色成分をパルスの前縁部へとシフトし且つ青色成分を後縁部へとシフトし、あるいは逆とし、異なる周波数成分の夫々の振幅が時間的に相互に対してシフトされ、(iii)パルスの合計エネルギは、更に長いパルス長にわたり分布されることで、出力されたパルスの光パワーを減少する。幾つかの場合、パルス存続時間は100、1,000またはそれより大きい係数で伸張され得、パワーは対応して100、1,000またはそれより大きい係数で減少され得る。要約すると、伸張器/圧縮器200または伸張器200'は、パルスを伸張し、正のチャープを導入することにより、パルスのパワーを相当に減少し得る。
【0146】
先に記述された如く、上記パルスのピーク・パワーを減少することはCPA/CDRAレーザの有用な見地である、と言うのも、次続的な増幅器300の空洞の光学機器は、過剰に大きなパワーに晒されないので、光線により破損されることが回避されるからである。
【0147】
図3Bは、第3格子205、第4格子207およびミラー208を含み得る圧縮器400の例も示している。幾つかの例は、これらの格子間にレンズを有さないが、他の例は1個もしくは2個のレンズを有し得る。此処でも、第3格子205は、伸張器200'の第1格子201と同様に、パルス・スペクトルの異なる成分を異なる方向に導向する。此処でも、第4格子207はその配向により、第2格子203と同様に、青色成分および赤色成分の相対遅延を部分的に制御する。但し、第4格子207は今や第2格子203とは逆に配向されているので、青色成分の光路は更に短く、負のチャープを引き起こしている。この負の分散によれば、上記伸張済みパルスの各成分は赤色成分に追い付き、増幅済みの伸張済みパルスの全体的な存続時間を、数百ピコ秒から数百フェムト秒まで短縮化することが許容される。別体的な伸張器200'および圧縮器400の設計態様は、図1Bのレーザ・エンジン1'の実施形態である。
【0148】
図3Bは、別体的な伸張器200'および圧縮器400を有する図1Bの設計態様の2つの繊細な見地も示している。
【0149】
(i)先ず、伸張器200'、増幅器300および圧縮器400は相互に対して微調整される必要があることから、圧縮器400は、伸張器200'により引き起こされた伸張、および、増幅器300により引き起こされた次続的な分散を、高精度で元通りにし得る。故に、レンズ202の箇所、および、第1から第4の格子201〜207の配向の設定は、増幅された伸張済みパルスの分散を補償すべく、且つ、それらを圧縮してフェムト秒パルスへと戻すべく、特別な高精度を必要とし得る。また、当然ながら、高精度の調節は摂動に対して非常に敏感であり;温度、往復の回数、および、機械的応力における僅かな変化が精密な調節を損ない、図1Bのアーキテクチャを有するレーザ・エンジン1'の保守および再較正を必要とし得る。
【0150】
(ii)幾つかの複雑なもしくは多段階の処置においては、繰り返し率の変更は好適なことがある。但し、繰り返し率の斯かる変更は典型的に、出力されるパルスを最適化するために、往復の回数の変更を伴う。一方、往復の回数の変更は、増幅器300により引き起こされる熱レンズ効果ならびに合成分散の変化を引き起こすことが多い。故に、繰り返し率および往復の回数の変更は、入念に較正された伸張、分散および圧縮のバランスを崩し得る。
【0151】
これらの変更に対処すべく、図3Bの矢印により示された如く、レーザ・エンジン1'の幾つかの実施方式は、レンズ202の箇所、格子201、203、205および207の内の幾つかの位置もしくは配向、ミラー204および208の箇所、または、光線がレンズ202に衝当する箇所を、ひとつ以上のミラーを動かして変更することにより再較正されることがある。言うまでもなく、これらの変更は典型的には、注意、および、多くの場合には反復的な機械的調節および精度較正を必要とし、それらの全ては時間が掛かる介在である。
【0152】
再較正の遅さは、パルス繰り返し率の適時の変更が望まれるという用途における問題を引き起こし得る。このことは、たとえば眼球移動を制御する患者の能力が90秒もの短さであり得るという眼球手術用途の間におけるなど、時間が重要な要因であるという用途においては、特に回避すべきであり得る。これらの理由の全てのために、殆どのレーザ・エンジンは、変更可能な繰り返し率の機能性を提供しない。
【0153】
これに加え、レーザ・エンジン1'において伸張器200'は圧縮器400とは別体的であり且つそれらの両方が複数の格子およびレンズを含むことから、図1Bにおける形式のレーザ・エンジン1'の伸張器および圧縮器の空間的広がりは典型的に、空間的に相当に広大である。
【0154】
伸張器200'および圧縮器400の空間的な占有面積を減少するために、ならびに、較正時間を減少するために、レーザ・エンジン1'の幾つかの実施方式において、伸張器200'および圧縮器400は、ひとつ以上の光学素子を共有し得る。幾つかの場合、それらは第1格子201の如き格子を共有し得ると共に、第3格子205は同一とされ得る。
【0155】
幾つかの複数回折返しの例においては、伸張器200'の2つの格子は同一の物理的格子であり得、各レンズおよび各ミラーは、異なる通過の間において異なる方向から、同一の格子に対して光線を導向する。幾つかの複数回折返しの例においては、伸張器200の2つの格子および圧縮器400の2つの格子の全ての機能は、単一の共有格子により実施され得る。
【0156】
図3Cは、これらの問題に対して高信頼性の解決策を提供する、図1Aの実施形態の伸張器/圧縮器200の例を示している。図3Cの伸張器/圧縮器200は、伸張および圧縮の機能性を一体化することから、それは図1Aのレーザ・エンジン1の実施形態において採用され得る。図3Cの例において実現されたこの伸張器/圧縮器200は、チャーピングされた体積ブラッグ格子(CVBG)である。このCVBGは、たとえば光熱屈折(PTR)ガラスにおける層の積層体であり得、各層は、適切な屈折率と、各層の位置により変化する格子周期を有する。斯かる設計態様においては、1個のパルスの異なるスペクトル成分に対して異なる位置にてブラッグ共振条件が生ずる。故に、異なるスペクトル成分は異なる箇所にて反射され、上記パルス内における異なる時間遅延が獲得される。
【0157】
図3Cの例において示された如く、短い“白色”パルス211が伸張器/圧縮器200に進入するとき、赤色周波数成分は、更に広い層間隔もしくは格子周期により近傍領域から屈折される、と言うのも、それらの波長は更に長く、且つ、これらの近傍領域においてブラッグ反射条件を満足するからである。対照的に、更に短い波長を有する青色周波数成分は、上記格子の遠方領域から戻される。青色成分は更に長い光路を縦走することから、それらは赤色成分に対して遅延を獲得する。故に、入力された短い白色パルス211は、このCVBG伸張器/圧縮器200により、更に長い伸張済みパルス212へと伸張される。特定例において、伸張済みパルス212は正のチャープを展開する、と言うのも、青色成分が赤色成分に対して遅延されるからである。他の実施方式は、赤色のスペクトル成分を青色のスペクトル成分に対して遅延させるという負のチャープを生成するCVBGを有し得る。
【0158】
このCVBG伸張器/圧縮器200はまた、増幅済みの伸張済みパルス213を一切の面倒な微調整なしで高精度で圧縮もし得る、と言うのも、増幅器300による増幅の後で伸張されたパルスは、逆端部から、または、圧縮器ポートから、同一のCVBG伸張器/圧縮器200に入力されるからである。伸張済みパルスが逆端部からCVBG伸張器/圧縮器200に進入するとき、その赤色成分は、上記伸張段階の間にその青色成分が遅延されたのと同一程度まで遅延され、上記パルスの元の短い長さが復元される。故に、この伸張器/圧縮器200は、伸張の間に導入された分散を非常に効率的に補償すると共に、適切に圧縮された増幅済みパルス214を出力し得る。
【0159】
別体的な伸張器200'および圧縮器400を備えたレーザ・エンジン1'の特定の見地と比較して、(i)レーザ・エンジン1は移動する光学素子の厳密な位置決めに対してそれほど敏感でない、と言うのも、それは何も有していないので、機械的な摂動または動作温度の変化に対して顕著な堅牢性を示すからであり、また、(ii)増幅器300の新規な設計態様は、式(1)〜(2)および図5Aから図5Bに関して更に説明される如く往復の回数に関する付加的な分散を含まないので、レーザ・エンジン1は繰り返し率が変更されたとき、その光学素子および設定の繊細な再較正および再整列を必要としない。これらの属性は、繰り返し率の迅速なもしくは適時の変更が重要であるという用途におけるレーザ・エンジン1の使用を可能とする。
【0160】
上述されたのとは異なる他の設計態様において、増幅器300は、付加的な分散を導入することがある。これらの設計態様において、伸張器/圧縮器200の統合アーキテクチャは、再調節の機能性により補完され得る、と言うのも、上記圧縮器は、伸張器の分散だけでなく、増幅器300の付加的な分散も圧縮すべきだからである。この付加的な作業は、圧縮器の機能性に関して調整可能なブロックを導入する段階を必要とする。
【0161】
図2に戻ると、レーザ・エンジン1は、実効的な偏光ビームスプリッタ150を更に含み得る。ビームスプリッタ150は、発振器100と伸張器/圧縮器200との間に、偏光子およびλ/4プレートを含み得る。他の実施形態において、ビームスプリッタ150は薄膜偏光子であり得る。この組合わせ物150は、発振器100からの種パルスを伸張器/圧縮器200へと通し得るが、伸張器/圧縮器200から戻る伸張済みパルスは増幅器300に向けて方向変換し得る、と言うのも、上記λ/4プレートは、二度目の通過時にパルスのビームの偏光面を90°だけ回転するからである。上記偏光子は、種パルスの偏光方向に対しては透過的である一方、それらのパルスが2度目に上記λ/4プレートと交差した後は、90°回転された偏光面の伸張済みパルスに対しては反射的である。
【0162】
幾つかの実施形態において、レーザ・エンジン1は、ビームスプリッタ150と増幅器300との間にファラデー・アイソレータ500を含み得る。ファラデー・アイソレータ500の機能としては、レーザ光線の高出力による発振器100に対する損傷を阻止するために、増幅済みビームからの発振器100の隔離が挙げられる。斯かるファラデー・アイソレータ500は、ビームスプリッタ150から伸張済み種パルスを受信し、該伸張済み種パルスを増幅器300へと伝達し、増幅器300から増幅済みの伸張済みパルスのレーザ光線を受信し、且つ、増幅済みの伸張済みパルスのレーザ光線を、偏光子550および560を介して伸張器/圧縮器200に向けて出力し得る。
【0163】
ファラデー・アイソレータ500は、増幅器300が、パルスを該増幅器が受信したのと同一の光路を通して、増幅済みパルスを出力するという実施形態において実用的であり得る、と言うのも、増幅済みパルスは多くの場合に、種パルスのパワーもしくは強度の数百倍または数千倍ものパワーもしくは強度を有するので、単純な方向変換用の光学機器は隔離機能に対しては非常に不適切だからである。単純な方向変換用の光学機器が、これらの増幅済みパルスの一部分のみを通したとしても、透過されたパルスは依然として、発振器100を損傷するに十分なほど強力であり得る。
【0164】
幾つかの実施形態において、ファラデー・アイソレータ500は、増幅器300からのレーザ光線の1/10,000より少ない部分を発振器100に向けるべく構成され得る。同一の隔離機能は減衰に関して理解され得る:上記ファラデー・アイソレータは、上記増幅済みレーザ光線を、たとえば40dBまで、または、幾つかの実施方式においては50dBまで減衰し得る。
【0165】
上記ファラデー・アイソレータ、または、偏光依存アイソレータは、3個の部分を含み得る:垂直に極性化された入力偏光子、ファラデー回転子、および、45°に極性化された出力偏光子すなわち検光子。
【0166】
上記入力偏光子によれば、前方向に進行する光は、その方向において既に偏光されていなければ、たとえば垂直に偏光される。(此処で、偏光面とは、電界ベクトルが位置する平面を指す。更に“垂直”とは、単に規約的なすなわち基準的な平面を確立するにすぎない。種々の実施形態において、実際の偏光面は他の特定の方向に配向され得る。)上記ファラデー回転子は、ビームの偏光面を約45°だけ回転してそれを検光子の偏光面に整列させ、該検光子は次に上記光を、偏光面の付加的な回転なしで透過する。
【0167】
増幅器300から戻る増幅済みパルスの如き、後方に進行する光は、上記検光子を出射した後における基準垂直平面に対して45°に偏光される。上記ファラデー回転子は再び、偏光を約45°だけ回転させる。故に、上記入力偏光子に向けて上記ファラデー回転子により出力される光は、水平に偏光される。上記入力偏光子は垂直に極性化されることから、水平に偏光された光は、上記入力偏光子により、発振器100へと伝達される代わりに、略々完全に反射される。故に、ファラデー・アイソレータ500は高効率で、高エネルギの増幅済みレーザ・パルスから発振器100を保護し得る。
【0168】
上記ファラデー・アイソレータは典型的に、その機能を、光軸の方向を向く磁界を生成することにより達成する。幾つかのファラデー回転子は、この機能性を達成するために永久磁石を含む。
【0169】
ファラデー回転子において使用される光学材料は典型的に、大きなベルデ定数、小さな吸収係数、小さな非線形屈折率、および、大きな損傷閾値を有する。同様に、自己収束効果および他の熱関連効果を阻止するために、光路は典型的に短い。700〜1,100ナノメータ範囲に対して最も一般的に使用される2つの材料は、テルビウムがドーピングされた硼珪酸ガラス、および、テルビウム・ガリウム・ガーネット結晶(TGG)である。
【0170】
増幅器300が、パルスが進入したのと同一の光路を介して増幅済みパルスを出力しない、というレーザ・エンジン1もしくは1'の実施形態は、ファラデー・アイソレータ500の採用を必要としないこともある。
【0171】
図2および図4は、ファラデー・アイソレータ500から伝達された光が増幅器300に進入し得ることを示している。増幅器300は、端部ミラー321および322間で往復を行う伸張済み種パルスを増幅するレーザ結晶もしくは利得媒体310を含み得る。一定の増幅器300は、折返し光路(または“z空洞”)を含み、折返しミラーによりレーザ光線を方向変換することで共振空洞の空間的広がりを減少し得る。図4における増幅器300は4個のミラーを有する:共振空洞を画成する2つの端部ミラー321および322、および、2つの折返しミラー323および324。幾つかの例において、上記光路はまさに自身上に折り重なることで交差パターンとして出現する。更に多くの折返しミラーを利用すると、光路を更にコンパクトなスペースへと折畳むことにより増幅器300のサイズを更に減少し得るが、付加的なミラーは誤整列の可能性と、価格とを高める。
【0172】
レーザ結晶310およびミラー321〜324に加え、増幅器300は、線質係数Qを制御することで該増幅器300の増幅機能を制御する切換え可能な偏光子330、ならびに、上記空洞におけるパルスに対する入力/出力ポートの役割を果たす薄膜偏光子340を含み得る。薄膜偏光子340は、第1の所定偏光を有する光は反射する一方で該第1の所定偏光に対して直交する第2の偏光を有する光は透過するという偏光選択的デバイスの特定例である。切換え可能な偏光子330は、それを通る光の偏光極性をそれが回転しないときの第1動作状態と、それに対して付与された制御信号に応じて光の偏光極性をそれが回転させるという第2動作状態との間で切換わる偏光デバイスであり得る。薄膜偏光子340および切換え可能な偏光子330の組み合わせは、以下に説明される如く、ファラデー回転子500から到来するパルスが増幅器300内へと結合される時点と、増幅器300の内部で増幅されたパルスが該増幅器から外部に結合される時点とを制御すべく使用され得る。
【0173】
図4における薄膜偏光子340および切換え可能な偏光子330のこの組み合わせは、増幅器300の共振空洞に対する光スィッチの一例である。この光スィッチに対しては、他の設計態様も使用され得る。
【0174】
増幅器300の動作および構造は、以下に更に詳細に記述される。特に、繰り返し率の変更は、端部ミラー321および322間で増幅済みパルスが行う往復の回数の変更を伴うことが多いことが示される。直上に記述された光スィッチの機能は、各パルスが上記共振空洞内へとまたは該空洞外へと結合される時点を制御することにより、これらの往復の回数を制御することである。
【0175】
増幅器300における各光学素子は、これらの往復の各々の間に、一定量の分散を導入することがある。故に、繰り返し率の変更に関連して増幅器300における往復の回数を変更すると、増幅器300により出力される増幅済みパルスの累積分散が変化する。圧縮器400が特定の往復の回数に対して分散を補償すべく調節されたとしても、往復の回数の変更により分散が変化すると、図1Bのレーザ・エンジン1'の伸張器200'、増幅器300および圧縮器400の伸張、分散的な増幅および圧縮の繊細なバランスは混乱されることで、長時間に亙る再較正が必要とされる。図1Aにおける一体化された伸張器/圧縮器200によるレーザ・エンジン1の更に発明的なアーキテクチャでさえも、往復の回数が変更されたときには補償要素の使用が調節されることを必要とする。この見地は、これらのレーザ・エンジンの利用性を制限する。
【0176】
それらの利用性を広めるために、幾つかのレーザ・エンジンは増幅器300の一部として、分散制御器または補償器を含み得る。上記分散制御器の機能は、往復の間において増幅器300の各光学素子により導入される分散と逆向きであり且つ本質的に等しい分散を導入することである。この分散補償もしくは制御の結果として、各パルスは、増幅器300の共振空洞における各往復の間において殆どまたは全く分散を伴わない。故に、往復の回数を変更しても、増幅済みパルスの分散は、僅かな程度までしか変化せず、または、全く変化しない。
【0177】
故に、レーザ・パルスの繰り返し率は、本質的に、圧縮器400または伸張器/圧縮器200の光学的設定の調節、再整列または較正なしで、変更され得る、と言うのも、往復の間においては補償すべき分散が蓄積しないからである。故に、分散が制御された増幅器300は、繰り返し率の変更時に時間が掛かる再整列の作業から圧縮器400を解放するために、図1Bのレーザ・エンジン1'において実現され得る。更に、分散が制御された増幅器300は、調節可能な補償機能性なしで、図1Aのレーザ・エンジン1における一体化された伸張器/圧縮器200の使用を可能とする。
【0178】
たとえば、レーザ結晶310が上記共振空洞の内部における発振パルスの往復の間に正の分散を導入するなら、上記分散制御器は、増幅済みの伸張済みパルスに対し、同一の大きさの負の分散を導入することで、上記発振パルスの分散を抑制、最小化または排除し得る。
【0179】
上記分散を定量する有用な尺度は、“群遅延分散”またはGDDであり、これは多くの場合に以下の如く定義される:
【数1】

式中、λは光の波長であり、cは光の速度であり、n(λ)は波長依存屈折率であり、且つ、Lは空洞における光路の長さである。光学素子310、330および340、ミラー321〜324、および、増幅器300内に存在し得る他の一切の光学素子のGDDは、たとえば、その設計態様から測定もしくは推定されることで決定され得る。上記GDDの知見を備えると、分散制御器は、増幅器300の各光学素子の決定済みGDDと略々等しく且つ逆の値のGDDを備えた空洞において実現され得る。その様に設計された空洞は、パルスの往復の間において分散を殆どもしくは全く生成しないことから、記述された問題を排除し、レーザ・エンジン1または1'の有用性を広げる。
【0180】
代表的な例において、典型的なCPAレーザ・エンジン1'においては、伸張器200'により、500フェムト秒の種パルスが、伸張されたパルス長200.5pへと、200ピコ秒だけ伸張され得る。対応する圧縮器400伸張済みパルスを200psだけ戻し圧縮すべく調節かつ較正され、理想的には約500fsの圧縮済みパルス長に帰着し得る。不完全さを考慮すると、実際的な場合おいて、圧縮済みパルス長は500〜800fsの範囲内に収まり得る。
【0181】
但し、増幅器300の共振空洞における伸張済みパルスの往復の間に、伸張済みパルスの長さは、増幅器300の種々の光学素子の分散であって、上記空洞のGDDにより表されるという分散により増進されることもある。上記GDDの典型的な値は、数百fs2〜数十万fs2に変化し得る。幾つかの場合、GDDは5,000fs2〜20,000fs2の範囲内であり得る。典型的に、伸張器200および補償器400はパルス長に関する相互の効果を打ち消し合うことから、レーザ・エンジン1により出力されるパルスの長さΔt(out)は、以下の関係により、発振器100により生成される種パルスの長さΔt(seed)、および、GDDと関連付けられる:
【数2】

式中、Nは空洞における往復の回数である。
【0182】
故に、たとえば、種パルスのΔt(seed)=200fsの長さは、単一の往復の間に、7,000fs2のGDDを有する増幅器の各光学素子により、僅かに22fsだけΔt(out)=222fsまで増大され得る。但し、一見したところでは小さいこの分散は、反復される往復の間に度合いを増してゆく。N=10回の往復の後、出力されたパルスの長さは約790fsだけ増大されてΔt(out)=990fsとなり、N=30回の往復の後、約2,700fs=2.7psだけ増大されてΔt(out)=2,920fs=2.9psとなり、且つ、N=100回の往復の後、約9.5psだけ増大されてΔt(out)=9.7psとなる。明らかに、分散が制御された増幅器300がなければ、約50までの係数によりパルス長のこの相当の劣化によれば、フェムト秒レーザはピコ秒レーザへと変換される。
【0183】
更に、圧縮器200または400が、たとえばN=100回の往復に対応する9.5psの分散などの特定の往復の回数により引き起こされる付加的な分散を補償すべく較正されたとしても、当該用途が、N=100から、たとえばN=110への往復の回数の変更を必要としたときには、別の1psの分散が増幅器300により誘起され、再び、フェムト秒の代わりにピコ秒の圧縮済みパルス長に帰着する。
【0184】
対照的に、レーザ・エンジン1または1'の実施形態は、増幅器300の内部に、共振空洞の各光学素子により引き起こされるGDDを補償する分散制御器を有し得る。この分散制御器は、上記増幅器内の各光学素子により誘起される往復当たりの数fsの分散を補償し得る。故に増幅器300は、200psのパルス長を有する伸張済みパルスを受信し、且つ、往復の回数を50回、100回、200回もしくは500回などとして、該増幅器が動作する往復の回数から略々独立して、本質的に同一である200psのパルス長を有する増幅済みパルスを発信し得る。故に、レーザ・エンジン1の伸張器/圧縮器200、または、レーザ・エンジン1'の圧縮器400は、増幅器300の内部における本発明の分散制御または補償を欠く他のレーザ・システムの時間が掛かる再調節および較正を必要とせずに、広範囲な往復の回数Nに対し、故に、広範囲な繰り返し率に対し、パルス長をフェムト秒範囲へと戻し圧縮し得る。増幅器300の内部の分散制御器は、該増幅器300の内部光路内に在ることから、光増幅器300の外部の各光学素子の再調節を必要とせずに、GDD/分散を自動的に補償し得る。増幅器300の内部における上記分散制御器の適切な設計態様に依れば、図3Bにおける分散補償格子の如き上記光増幅器の外部の調節可能な分散要素を、パルス繰り返し率を変更するために再調節する必要が排除され得る。
【0185】
上記の設計態様の考察により可能とされ、レーザ・エンジン1または1'は、発振器100の光学素子以外の該レーザ・エンジンの全ての光学素子の本質的に同一の設定により、10kHz〜2MHzの範囲内の繰り返し率を以て、1,000フェムト秒未満のパルス存続時間を有するレーザ光線を生成し得る。他の実施形態は、50kHz〜1MHzの範囲内、更に別の実施形態は100kHz〜500kHzの範囲内の繰り返し率で動作し得る。
【0186】
故に、これらのレーザ・エンジンにおいては、発振器100以外の該レーザ・エンジンの各光学素子の設定を変更せずに、繰り返し率は、第1の値から第2の値へと変更され得る。
【0187】
その第1の値から第2の値への繰り返し率の変更が、各光学素子の設定の変更を伴う、というレーザ・エンジンが在り得る。しかし、これらのレーザ・エンジンの内の幾つかは、改変されたレーザ・エンジンが、改変されない設定を以て第2の繰り返し率にてもレーザ光線を出力すべく動作され得る様に、それらの増幅器の内部における分散の補償もしくは制御に基づいて改変可能であり得る。
【0188】
レーザ・エンジン1の種々の実施方式において、繰り返し率は第1の値から第2の値へと変更され得、その場合に第2繰り返し率は第1繰り返し率から、少なくとも10%、50%、100%または200%だけ異なる。
【0189】
共振空洞が光ファイバを採用するという幾つかの設計態様においても、次続的な圧縮器400を再調整および調節せずに、繰り返し率の調節が可能とされ得る。但し、これらのファイバ・レーザは、(i)パルスのエネルギに関して深刻な制限があり、且つ、(ii)分散制御器を有さないことが多い。それらは典型的に、パルス毎に10マイクロジュール(μJ)未満のエネルギのみを有するパルスを生成することで、ファイバ空洞を損傷する危険性を回避している。以下に記述される如く、多くの眼科的および手術の用途に対し、このパルス当たりのエネルギは不十分であり得る、と言うのも、これらの用途は、目標物上での20μJ/パルス以上を必要とするので、種々の損失を考慮するとレーザにより30μJ/パルス以上となるからである。
【0190】
相違の別の点は、ファイバ・レーザにおいては、レーザの繰り返し率が熱負荷の変動の故に変化したときにビームの発散が不可避的に変化する、ということである。
【0191】
対照的に、増幅器300は典型的に、分散制御器もしくは補償器を含み、且つ、光は、レーザ・エンジン1または1'の幾つかの例は、1〜100μJ/パルスの範囲内のエネルギを以て、他の例は10〜50μJ/パルスの範囲内のエネルギを以て、更に別の例は20〜30μJ/パルスの範囲内のエネルギを以てレーザ光線を出力すべく動作され得る様に、自由空間を伝搬する。
【0192】
幾つかのレーザ・エンジン1または1'は、繰り返し率の変更には、レーザ・エンジン1の光学素子の調節が伴う様に構成され得る。但し、上記分散制御器の存在の故に、これらの実施形態においてさえも、レーザ・エンジン1または1'は、繰り返し率が変更されたときに各光学素子の本質的に同一の設定を利用すべく改変可能であり得る。
【0193】
上述の各例は、多くの異なる様式で実現され得る。幾つかの実施形態において、上記光増幅器の内部の分散制御器もしくは補償器は、入射光の分散を変更し得る、ひとつ以上のチャープ・ミラー、チャープ・ファイバ、種々のチャープ格子、チャーピングされた透過的な光学素子、プリズム、および、他の光学素子を含み得る。
【0194】
概略的に、チャーピングされた光学素子は、調節された光学特性を有する所定数の層を有し得る。各例において、各層の厚み及びそれらの屈折率の変化は、異なる波長を異なる様に制御すべく設計され得る。一例として、チャーピングされた体積ブラッグ格子(CVBG)は、伸張器/圧縮器200に関して既に記述されている。チャープ・ミラーの如き他の例は誘電物質の層を含み得、その場合に単一の各誘電層、または、層の短い積層体は、特定波長の狭幅近傍部を反射し得る。上記チャープ・ミラーは、第1波長の近傍における波長を以て光を反射するに適した厚みを以て5〜10枚の誘電層から成る第1積層体を形成することにより構築され得る。次に、第2波長の近傍における波長を以て光を反射すべく異なる厚みおよび/または屈折率を以て上記第1積層体の頂部に、5〜10枚の誘電層から成る第2積層体が形成され得、以下同様である。適切な個数の積層体にて十分な枚数の層により形成されたとき、上記チャープ・ミラーは、選択された帯域の波長における波長成分を有する光を反射する一方、他の波長を有する光は透過し得る。
【0195】
上記増幅器における分散制御機能は、ミラー321〜324の内のひとつ以上をチャーピングすることにより実施され得る。図4においては、全ての4個のミラーがチャーピングされる。他の設計態様では、各ミラーの内の1個または2個のみがチャーピングされ得る。更に他の設計態様は、ひとつ以上のチャーピングされた光学素子を採用し得る。分散制御器の可能的な実現物として、これらのひとつ以上のチャープ・ミラーは、増幅器300の共振空洞の内部における増幅された伸張済みレーザ・パルスの往復の間に光学素子310、330および340およびミラー321〜324により誘起された分散を、制御、補償、最小化、または、排除さえし得る。
【0196】
レーザ結晶310は、NdまたはYb系とされ得る。その例としては、Nd:YAGおよびYb:YAG結晶が挙げられる。他の実施方式は、NdもしくはYbがドーピングされたガラスを使用し得る。更に別の実施方式は、Yb:X(WO4)2の形態のYb:タングステン酸塩、または、Yb:X2O3の形態のYb:亜酸化物である。これらの場合、Xは、Y、Lu、Gd、または、他の適切な元素であり得る。NdまたはYbのドーピングレベルは、0.1〜100%の範囲内であり得る。
【0197】
上記レーザ結晶の空間的なドーピング変化特性は、高品質のシングルモードのレーザ・パルスの放出を確実とすべく選択され得る。幾つかのドーピング変化特性は、ポンピング光の通常より大きいM2係数により表される如く、集束性が限られたポンピング光源と互換的であり得る。上記ポンピング光源は、側部ポンピング、または、端部ポンピング配置とされ得る。上記ポンピング光源は、各々が1〜10Wのパワーを以て放出を行う2〜10個のダイオードの如き、複数のファイバ結合ダイオードを含み得る。上記ポンピング・ダイオードは、本質的に連続波(CW)動作モードで、または、同様の高周波パルスモードで動作し得る。それらは、異なる空間的配列、バー、または、他の形態で配置され得る。上記各ダイオードからの光は共有格子を通して案内され得、該格子は各ダイオードに対して上記光の非常に小さな割合を戻すことから、それらの光を位相固定することがある。
【0198】
図5Aから図5Bは図4と協働して、空洞ダンピング型再生増幅器CDRA300の動作を示している。該動作の原理は、共振空洞の線質係数Qの切換えを指す“Qスィッチング”と称されることが多い。
【0199】
“再充電”もしくは“ポンピング”段階において、薄膜偏光子340は入射光を反射し、切換え可能な偏光子330を通過させる。切換え可能な偏光子330は、シャッタ、チョッパ・ホィール、旋回プリズムもしくはミラー、音響光学的デバイス、ポッケルス・セル(Pockels cell)もしくはカー・セル(Kerr cell)の如き電気光学的デバイス、または、切換え可能なλ/4波長プレートとされ得る。バイアスされないもしくは低い電圧の状態において、切換え可能な偏光子330は、端部ミラー322に対し且つ該ミラーから、パルスが2回通過するときに90°だけ偏光面を回転させ得る。
【0200】
再充電もしくはポンピングの期間の間、ファラデー・アイソレータ500は薄膜偏光子340上へと各パルスを送信し、該偏光子はそれらを切換え可能な偏光子330を通すべく方向変換する。端部ミラー322から戻り、各パルスは切換え可能な偏光子330と2度目に交差する。その後にそれらは、端部ミラー322に対するそれらの進路上で更に2回、切換え可能な偏光子330を通過する。1回の往復後において、切換え可能な偏光子330に対するこれらの4回の通過により、各パルスの偏光面は180°だけ回転される。故に、各パルスは、本質的に増幅なしで、薄膜偏光子340により上記空洞から外方に反射される。
【0201】
この同一の再充電もしくはポンピング期間において、増幅器300は上記空洞の内部のポンピング・ダイオードにより生成された光のレーザ発振作用を抑制もする、と言うのも、切換え可能な偏光子330による偏光面の90°で2回の通過による回転によれば上記共振空洞の線質係数Qは低くされ、上記空洞をレーザ発振作用に対しては不適切とするからである。
【0202】
図5Aは、この再充電/ポンピング段階においてレーザ結晶310は、側部もしくは端部ポンピング配置にて上述のポンピング・ダイオードまたはポンピング・レーザ・ダイオードからの光を吸収することを示している。上記ポンピングによればレーザ発振原子もしくは複合体の励起エネルギ準位の分布数が増大されて分布反転が行われ、本質的にポンピング・エネルギまたは“利得”が吸収されて蓄積される。
【0203】
図5Bは、この再充電/ポンピング段階においては、増幅器300において増幅済みレーザ・パルスが生成されて該増幅器により放出されることはない、ということを示している。当然ながら、拒絶された増幅されないパルスは、増幅器300により放出される。
【0204】
図5Aから図5Bは、ポンピング/再充電段階は、所定タイミングでの操作に従い、または、レーザ結晶310におけるエネルギ蓄積量を追尾する検知電子機器により促されて、終了することを示している。いずれの場合にも、時間t(recharge)の後、制御/駆動電子機器は高電圧を切換え可能な偏光子330に印加し、偏光面を90°回転することを停止させ得る。他の形式の切換え可能な偏光子330は、異なる手段により切換えられ得る。この変更により、上記空洞の線質係数Qは十分に大きな値へと切換えられ、上記空洞をレーザ発振作用に適したものとする。
【0205】
増幅器300の単一パルスの実施形態は、単一パルスがその往復を上記空洞の内部で実施する間に、切換え可能な偏光子300を切換え得る。上記単一パルスがその往復の最後にて、切換えられた後の切換え可能な偏光子300へと戻るとき、そのパルスの偏光面はそれ以上回転されないので、該パルスは上記空洞から薄膜偏光子340により外方へと反射はされない。ポンピング段階の間におけるのと同様に拒絶される代わりに、上記パルスは、長さt(gain)の利得期間に対して更なる数回の往復のために上記空洞内に捕捉され得る。図5Bにおいて、t(gain)の時間的尺度は、明瞭化のために拡大されている。
【0206】
図5Aから図5Bは、利得期間において、上記空洞内にポンピングされて蓄積されたエネルギ(または利得)は、レーザ発振作用を開始させる誘導放出と称されるプロセスにより、レーザ結晶310から、往復を行う上記パルスへと移行されることを示している。故に、図5Aに示された如く上記空洞内のエネルギは減少するが、図5Bに示された如く、利得プロセスにおいて発振パルスにおけるエネルギは蓄積される。図5Bにおいて、t(gain)期間におけるピークは、発振パルスが上記空洞の特定点を通過するときの該発振パルスのエネルギを表すが、太い上昇曲線は、変動する往復期間の全体にわたり平均されたエネルギ利得を表す包絡線である。
【0207】
上記空洞内に単一の到来パルスを捕捉するという実施方式は、レーザ結晶310に蓄積されたエネルギのまさに略々全てを、単一発振パルスの往復の間に該パルス内へと移行し得ることを銘記されたい。対照的に、幾つかの実施方式は複数のパルスが上記空洞内に進入することを許容し得る。但し、これらの例においては、結果的なレーザ光線はパルス当たりのエネルギが更に低くなることから、パルス当たりのエネルギを、適切な形式の光切断に対して通常的に有用であるレベルよりも低く減少させ得る。
【0208】
上記空洞内へとポンピングされたエネルギが、十分な回数の往復の間に高効率で上記発振パルスへと移行された後、上記制御器/駆動器電子機器は切換え可能な偏光子330に対する高電圧の印加を停止し、該偏光子は上記発振パルスの偏光面の回転を再開する。偏光回転の再開の故に、増幅されたレーザ・パルスは、次回の往復の最後に、t(dump)と表された時点にて、薄膜偏光子340により上記空洞の外方へと反射される。
【0209】
増幅済みレーザ・パルスの上記放出は、種々の様式で制御され得る。幾つかの場合、当該往復の後に上記放出が実施されるという往復の回数を設定するために、設計計算およびコンピュータ方法が頼られ得る。他の場合、往復の回数を設定すべく先行較正が使用され得る。更に別の場合、上記共振空洞の光路内には多様なセンサが結合され得る。この単一もしくは複数のセンサは、増幅済み発振パルスのエネルギが所定値に到達した時点を検知し、且つ、制御信号を制御器に送信して上記空洞にて放出を行い得る。
【0210】
増幅済みレーザ・パルスを上記空洞から外方に反射し、それを圧縮器400に向けて送信すると、ポンピング−利得−放出サイクルが完了する。パルス放出が一旦完了したなら、上記空洞はその低Q状態に戻り、ポンピング−利得−放出サイクルを新たに再開する。幾つかの設計態様において、パルス注入ポートおよびパルス放出ポートは異なり得る。図4においては、これらのポートの両方が薄膜偏光子340により実現される。
【0211】
幾つかの実施方式において、空洞の内部で発振パルスは50〜500回の往復を、他の例においては100〜200回の往復を実施し、ポンピングされた状態のレーザ結晶310から発振パルスへのエネルギの移行が可能とされる。先に論じられた如く、発振器100は、10〜200MHzの範囲内、幾つかの場合には20〜50MHzの範囲内の周波数を有する種パルス列を生成し得る。幾つかの実施方式において、レーザ・エンジン1または1'は、10kHz〜2MHz、または、50kHz〜1MHz、または、100kHz〜500kHzの範囲内の繰り返し率を有するレーザ・パルス列を出力する。故に、切換え可能な偏光子330は、増幅のために5番目毎〜20,000番目毎の種パルスのみを捕捉することにより、到来する種パルス列を間引く。これらの捕捉シーケンスのタイミングは、発振器100をマスタ・クロックとして使用することにより制御され得る。
【0212】
繰り返し率は、レーザ・エンジンの主要な特性である。もし、(1)繰り返し率が所定範囲の周波数において変更され得ると共に、(2)その範囲の上限が大きいなら、非常に多様な機能性が達成され得る。たとえば、白内障処置は第1繰り返し率にて最適に実施され得る一方、第2繰り返し率は角膜処置に対して更に良好であり得る。もし、単一のレーザ・エンジンが上記第1および第2の繰り返し率の両方にて動作すべく調節され得るなら、これらの機能性の両方に対して単一のレーザ・エンジンが使用され得る。故に、次に、レーザ・エンジン1および1'において繰り返し率を可変とし且つその範囲の上限値を大きくし得る種々の設計検討事項が吟味される。
【0213】
図3Bから図3Cおよび図4に関して記述された如く、増幅器300においてミラー321〜324の内の任意のひとつのミラーに対するチャープ・ミラーの如き分散制御器を使用すると、空洞における往復の間に上記増幅器の各光学素子により引き起こされる発振パルスの分散が補償され得る。この設計特徴によれば、伸張器200および圧縮器200/400の、格子201、203、205および207、レンズ202およびミラー204および208の如き光学素子の較正、整列または設定を変更することなく、レーザ・エンジン1または1'の繰り返し率を変更することが許容される。
【0214】
光学的な設定を改変する代わりに、繰り返し率の変更は、レーザ・エンジン1のタイミングおよび動作を改変すべく電気制御信号を印加することによ達成され得る。たとえば、繰り返し時間t(rep)=r(recharge/pump)+t(gain)を減少する制御信号を印加することにより、繰り返し率は増大され得る。
【0215】
典型的に、t(rep)の減少は、t(pump)およびt(gain)の両方を減少することにより達成される。ポンピング時間t(pump)は、たとえばポンピング・ダイオード/レーザのポンピング強度を増大することにより短縮化され得る。利得時間t(gain)は、たとえば、発振パルスの往復の回数を減少することにより短縮化され得る。
【0216】
レーザ・パルスのエネルギは、たとえば、往復毎のエネルギ利得を増大することにより、更に少ない往復に関わらずに維持され得る。図5Bは、発振パルスが往復毎に上記空洞内の選択基準点を通過するときの、利得期間の間における該パルスのエネルギの増大を示している。次続的な数回の通過におけるエネルギの比率は、(“小信号”)利得係数gにより特性記述されることが多い。利得係数gは、レーザ結晶310の励起されたもしくはポンピングされたレベルにおいて蓄積された合計エネルギに対して感応的である。更なるエネルギが蓄積されると、g係数は更に大きくなる。故に、利得媒体310のポンピングされたレベルにおいて蓄積されるエネルギを増大する制御信号を付与すると、発振パルスは更に少ない回数で同一のエネルギに到達することで、繰り返し率を増大し得る。
【0217】
繰り返し率範囲の上限値は、種々の様式でも増大され得る。更に大きな利得係数gを有する実施形態においては、同一の増幅を達成するために必要とされる往復の回数は少ない。故に、幾つかの実施方式は、更に大きな利得係数gを有するレーザ結晶310を採用することにより、繰り返し率の大きな上限値を達成する。
【0218】
同様に、利得係数gはレーザ結晶310の励起されたもしくはポンピングされたレベルにおいて蓄積された合計エネルギに対して感応的なので、励起されたレベルを更に大きなエネルギを以てポンピングすることは、更に短いt(gain)を、故に更に大きな繰り返し率を達成する別の手法である。
【0219】
繰り返し率を制御する別の要因は、1回の往復が必要とする時間である。発振パルスは、時的間隔2L/c毎に基準点を通過し、その場合にLは上記空洞内の光路の長さであり、且つ、cは光の速度である。故に、幾つかの実施形態において、光路の長さLは、往復の時間を減少するために減少される。これらの実施方式においては、同一回数の往復、故に、同一量のエネルギの移行が、更に短い時間t(gain)で行われることから、更に別の手法で繰り返し率が増大される。
【0220】
上記で論じられた設計原理の内のひとつ以上を実現すると、レーザ・エンジン1または1'の実施形態は、500kHz、1MHz、または、幾つかの場合には2MHzまでの繰り返し率で動作し得る。
【0221】
付加的に、これらの実施方式において、t(gain)の減少によれば、ポンピングおよび放出サイクルに対して更に好適なデューティを支持すべく、合計繰り返し時間t(rep)の内の更に長い部分の使用が許容される。
【0222】
多くの場合に使用される上記デューティの定義は、低Q期間の長さを合計期間の長さで除算した商である。この定義を使用すると、たとえば400kHzの繰り返し率を有する実施方式において、t(gain)を1μ秒から0.5μ秒まで減少すると、デューティは0.6から0.75まで増大し、相当な25%の増大である。
【0223】
光路の長さLを短縮化する上記設計原理に戻ると、Lはとりわけ、切換え可能な偏光子330が上記空洞内にパルスを捕捉すべく如何に迅速に切換わり得るかということにより制御されることを銘記されたい。1メートルの光路の空洞において、往復の時間は、2L/c=6.6nsである。故に、パルスの有限の空間的広がりも考慮すると、単一パルスの実施方式は、5ns未満、他の実施方式では4ns未満、または、3ns未満とさえされる切換え可能な偏光子330を有する。
【0224】
幾つかの増幅器において、切換え可能な偏光子330はポッケルス・セルであり得る。ポッケルス・セルは多くの場合、強力な電界を印加して入射光線の偏光極性を回転させる。偏光極性の回転は、上記電界の1乗に比例することから、非常に強力であり得る。ポッケルス効果は、ニオブ酸リチウムまたは砒化ガリウムの如き反転対称を欠く結晶、および、他の非中心対称的な材料において生ずる。
【0225】
一定の場合には数キロボルトの電圧を印加することにより、ポッケルス・セルは非常に短い立ち上がり時間を以て、偏光極性回転状態から偏光極性非回転状態えと切換えられ得る。立ち上がり時間のひとつの尺度は、偏光面の回転のために、その最大/飽和値の5%から95%まで上昇するために必要な時間“5−95時間”である。幾つかの実施方式において、上記立ち上がり時間は、5ns未満、他の実施方式にては4ns未満、更に別の実施方式にては3ns未満であり得る。実際、幾つかの実施方式において、立ち上がり時間は、ポッケルス・セル自体の動態によってではなく、切換え電子機器のそれにより制限される。幾つかの実施方式は、この迅速なパワー切換えプロセスを可能とする革新的な制御および駆動回路を使用し得る。
【0226】
上述された如く、ポッケルス・セルの切換え時間の短縮化は、t(gain)を短縮化して更に高速な繰り返し率を可能とするための有効な手法である。更に、これらの更に高速なポッケルス・セルは、光路の長さの減少、故に空洞のサイズの減少も許容する。
【0227】
更に、レーザ・エンジン1の実施方式は、幾つかの既存のレーザよりも少ない個数の光学素子を有すべく構成され得る。このことは部分的に、圧縮器における調節可能な光学素子に対する必要性を排除するという分散制御器もしくは補償器の採用、ならびに、統合された伸張器/圧縮器アーキテクチャ200に依るものである。
【0228】
幾つかのレーザは百個以上の光学素子を含み得るが、レーザ・エンジン1の幾つかの実施方式において、光学素子の個数は75個未満とされ得る。他の実施方式においては、50個未満である。
【0229】
幾つかの実施方式において、上記発振器以外の部分における光学素子の個数は50個未満とされ得る。他の実施方式においては、35個未満である。
【0230】
此処で、“光学素子”という語句は、光線の光学特性に対して影響する一切の要素を指している。その例としては:ミラー、レンズ、平行プレート、偏光子、アイソレータ、一切の切換え可能な光学素子、屈折要素、透過要素、および、反射要素が挙げられる。
【0231】
光学素子は、光が空気から進入し且つ光が空気中へと出射する表面により範囲限定される。故に、対物レンズの如き機能的ブロックは、それが数枚のレンズを含むなら、該対物レンズが移動するときにそれらのレンズが厳格に一体的に移動するとしても、ひとつの“光学素子”ではない。これは、上記対物レンズのレンズ間にて光は空気中を伝搬しないが、短くても分離されているからである。2枚のレンズが、それらの中央にて空隙なしで相互に接触しても、中心から外れた光線は依然として、他方のレンズに進入する前に空気中へと出射するので、2個の光学素子としてカウントされる。レーザの概略的説明は多くの場合、レーザの実際の機能に対して必要であるよりも少ない個数の光学素子を示すことを銘記されたい。典型的に、単一のレンズが示されたとき、その機能性は、実際の単一レンズによっては実施され得ず、慎重に設計されたレンズ・アセンブリによってのみ実施され得る。故に、斯かる概略的説明は典型的に、例示的であることのみを意味し、文字通りに実施されても動作しない。
【0232】
高速なポッケルス・セル、高速な切換え電子機器、および、少ない個数の光学素子を備えたレーザ・エンジン1の実施方式は、上記空洞の内部に、2メートル未満の、他の実施方式では1メートル未満の光路を有し得る。対応して、発振器100における光子の生成からの上記レーザ・エンジンの合計の光路であって、増幅器300の空洞の内部における全ての往復を含むという合計の光路は、500メートル未満、または、300メートル、または、150メートルとさえされ得る。
【0233】
既存のフェムト秒レーザは、500メートル以上の合計の光路、および、3〜4メートル以上の空洞の端部ミラー/端部ミラー間距離を有する、と言うのも、本明細書中に記述された革新的な解決策が無ければ、光路をこれらの値より小さく短縮化することは極めて困難だからである。
【0234】
レーザ・エンジン1のサイズの減少に寄与し得る革新的なサブシステムおよび特徴を列挙すると:(i)自由空間発振器の代わりとしてのファイバ式発振器100;(ii)繰り返し率が変更されたときに調節されるべく光学素子を有さない単一のチャーピングされた体積ブラッグ格子に可能的に基づく、一体化された伸張器/圧縮器200;(iii)繰り返し率を変更しているときに伸張器/圧縮器200における調節可能な光学素子に対する必要性を排除する、分散が補償された増幅器300;(iv)非常に切換えが高速なポッケルス・セル;(v)キロボルト範囲を含む高電圧における上記ポッケルス・セルの高速な立ち上がり時間にて動作し得る非常に高速な制御電子機器;および、(vi)収容のために必要なスペースが更に小さい、少ない個数の光学素子;が挙げられる。
【0235】
これらの特徴の組み合わせもしくは全てを実現するレーザ・エンジンは、500メートル未満、幾つかの実施方式にては300メートル未満、および、幾つかの実施方式にては150メートル未満の、全体的な自由空間の光路長を支持し得る。
【0236】
同様に、上記の適切な特徴の幾つかもしくは全てを備える増幅器300は、2メートル未満、幾つかの場合には1メートル未満の端部ミラー/端部ミラー間の光路長を有し得る。
【0237】
多くの実施方式において上記光路は複数回折返されることから、共振空洞の物理的広がりは、光路の長さよりも相当に短くされ得る。短寸の折返された光路は、増幅器300の全体的に小さな広がりに繋がり得る。幾つかの場合、増幅器300の辺の大きさはいずれも、1メートルを、他の場合には0.5メートルを、超えることはない。
【0238】
対応して、レーザ・エンジン1全体の占有面積、すなわち、それがレーザ・システムのデッキ上で占める面積は、1m2より、他の例にては0.5m2より、更に別の例にては0.25m2より、且つ、可能的には0.1m2より小さくされ得る。これらの面積もしくは占有面積の各々は、非常に新しい利点に繋がり得る。
【0239】
増幅器300およびレーザ・エンジン1は、この非常に小さな空間的広がりを、上述の設計原理および構成要素の内のひとつ以上を使用することで実現し得る。故に、上記空間的広がりは、増幅器300およびレーザ・エンジン1を、これらの設計原理および構成要素を採用しない他のレーザから確実に区別し得る。
【0240】
別の検討事項も言及する価値がある:レーザ・システムの頂部デッキ上のサブシステムであって、この故に、レーザ・システムのシャーシからシステム・ブロックを出し入れして動かさずに単にカバーを外すことによりアクセス可能であるというサブシステムの点検が非常に簡単である。その様な出し入れを行うとすると、精密な機器が整列を回復し得ないことが典型的であるという使用者の環境(病院など)においてシステム・ブロックの繊細な整列が危うくなり得る。従って、手術用レーザ・システムの種々の構成要素を相互に重ねて積層することはその占有面積を減少する別の手法の様に見えるかも知れないが、その様にすると、レーザ・システムの点検に対して相当の難題が生ずる。
【0241】
故に、レーザ・エンジン1のサイズを減少すると、保守のために同様にアクセスを必要とする他のサブシステムをレーザ・システムの頂部デッキに載置することが許容される。斯かる付加的なサブシステムは、その性質上、新たな機能性を導入することから、レーザ・システム全体の利用性を相当に改善し得る。斯かる付加的なサブシステムとしては、眼球手術を案内する画像化システムが挙げられる。
【0242】
要約すると、上記の各特徴は、単独でまたは組み合わされて、物理的にコンパクトなレーザ・システムを構築すべく実施され得る。斯かる小さな空間的広がりは、少なくとも以下の理由の故に貴重な利点であり得る:(i)眼球手術用レーザ・システムは多くの場合、スペースおよびアクセスが非常に貴重となる非常に手狭な手術室であって、小さな占有面積を有するレーザ・システムが好ましいという手術室において展開され;(ii)レーザ・エンジンの殆どもしくは全ての光学的構成要素がレーザ・システムのシャーシの頂部デッキ上に装備されるなら、レーザ・エンジンの保守性は、その性質上、更に良好であり;且つ、(iii)小寸のレーザ・エンジンによれば、頂部デッキ上に付加的なシステムを展開し、全体的なレーザ・システムに対し、眼球手術を案内する画像化システムの如き非常に新たな機能性を付加することが許容される。
【0243】
増幅された伸張済みレーザ・パルスの経路の追尾に戻ると、図2は、増幅器300により一旦放出されたなら、増幅済みパルスはファラデー・アイソレータ500へと戻し送信され得ることを示している。ファラデー・アイソレータ500の機能の内のひとつは、増幅済みパルスを上記発振器から離間させて略々100%の効率で方向変換することで、増幅済みパルスによる発振器100に対する損傷を阻止することであり得る。
【0244】
幾つかの場合、増幅済みパルスは偏光子550および560を介して伸張器/圧縮器200の圧縮器ポートへと導向される。上述された如く、伸張器/圧縮器200は、増幅済みパルスを再圧縮し、フェムト秒パルスを備えるパルス化レーザ光線を発し得る。
【0245】
上述の種々の解決策を利用するレーザ・エンジン1の実施方式は、1〜1,000フェムト秒(fs)、幾つかの場合には50〜500fs、更に別の場合には100〜300fsの範囲内のパルス存続時間を有するレーザ光線を出力し得る。これらのフェムト秒パルスは、たとえば、1〜100μJ/パルス、他の例にては10〜50μJ/パルス、更に別の例にては20〜30μJ/パルスの範囲内のエネルギなどの、非常に高いエネルギに到達し得る。
【0246】
これらのパルス・エネルギによれば、パルス・エネルギが1、10または20μJ/パルス未満であるというレーザでは利用できない有用な用途が可能とされ得る、と言うのも、眼球においては、限界挙動を呈する幾つかの異なるレーザ/組織間の相互作用が在るからである。1μJ/パルス未満のエネルギのレーザ・パルスは手術的に望ましい組織改変を引き起こさない、という手術処置が在る。他の手術処置において、このスレッショルド値は10または20μJ/パルスであり得る。
【0247】
たとえば、白内障手術は、目標組織において、たとえば10mmの深度までなどの深さにレーザを導向することを必要とする。この要件は開口数を制約することから、光切断を行うためにはパルス当たりで更に大きなエネルギの値を必要とする。幾つかの場合、10〜15μJ/パルスのエネルギが十分であり得る。最大のエネルギ値における動作を回避すべく、20μJ/パルスを有するデバイスが好適であり得る。これらの数値は目標上でのエネルギなので、光路に沿う損失を考慮すると、レーザ・システムは25〜30μJ/パルスを出力するレーザを含み得る。
【0248】
たとえば、白内障手術用途において、硬度1、2、3または4の白内障部分を切断するためには、対応するスレッショルド値より大きいレーザ・パルス・エネルギが必要とされ得る。たとえば、一定の状況下で、10〜15μJ/パルスより大きいパルス・エネルギを有するレーザは硬度1の白内障部分を切断し得、10〜20μJ/パルスより大きいパルス・エネルギを有するレーザは硬度2の白内障部分を切断し得、20μJ/パルスより大きいパルス・エネルギを有するレーザは硬度3の白内障部分を切断し得、且つ、30〜50μJ/パルスより大きいパルス・エネルギを有するレーザは硬度4の白内障部分を切断し得る。これらのスレッショルド・エネルギは、パルス長、繰り返し率、全体的な目標領域におけるレーザ・スポットの箇所、および、患者の年齢などの幾つかの要因に影響され得る。
【0249】
レーザ・パルスの効果は、多様な種類の目標組織において、該パルスの各パラメータの非常に非線形の関数である。故に、同一のエネルギ/パルスを有するが、異なるパルス存続時間を有するというレーザは、手術目標物において異なる結果に帰着し得る。特定のエネルギ/パルス値を有するピコ秒パルスは、眼科的組織において制御不能的に膨張する気泡を引き起こすことがあるが、同様のエネルギ/パルスを有するフェムト秒パルスは、制御されつつある気泡を生成し得る。故に、上述のエネルギ/パルス値は、フェムト秒パルス、すなわち1ピコ秒未満の長さを有するパルスを発するレーザ・エンジンにより生成され得る。
【0250】
レーザ光線の強度は、そのパワーに関しても定量化され得る。たとえば、50kHzの繰り返し率を有する20μJ/パルスのレーザは、1Wのパワーを担持し得る。パワーに関して表現すると、上述の各スレッショルド値は、対応する繰り返し率における0.1W、1Wおよび10Wのスレッショルド・パワーに繋がり得る。故に、これらのスレッショルド値を超えるパワーを有するレーザ光線を発し得るレーザ・エンジンは、異なる機能性を提供する。
【0251】
たとえば、米国食品医薬品局は、医療用レーザを、それらのパワーにより分類している。レーザ分類3は多くの場合に眼科的処置に対して使用される、と言うのも、その効果が広範に研究されてきたからである。0.5W未満のパワーを有する光線を出力するレーザは、分類3Bに属する。故に、0.5W未満のパワーを有するレーザは、更に大きなパワーを有するレーザとは相当に異なる用途を提供する。
【0252】
図6Aから図6Dは、繰り返し率を高速にて変更する自身の能力を利用したレーザ・エンジン1の機能性を示している。種々の用途において、手術用レーザ光線は焦点にて光切断を引き起こし、その場合、切断された領域は最終的に膨張して気泡となる。焦点が所定の走査速度にてレーザ・システムの走査用光学機器により走査されるにつれ、一連の気泡が生成される。これらの気泡の列は、制御可能な様式でラインまたは表面を形成し得る。気泡の個数が多ければ、これらのラインもしくは表面に沿う目標組織の物理的一体性が減少され、各ラインもしくは表面に沿い上記目標組織を容易に分離することが可能とされる。実際、走査されたレーザ光線は、これらのラインもしくは表面に沿って目標組織を“切断”する。
【0253】
幾つかの代表的な場合において、各気泡は、10〜50μm程度、またはそれ以上の距離だけ離間された数ミクロン(μ)の直径とされ得る。手術用レーザ・システムは典型的に、繰り返し率の逆数である繰り返し時間毎に、1個の気泡を生成する。故に、レーザ・システムの走査速度が一定である限りにおいて、各気泡は本質的に等しく離間される。
【0254】
各気泡は、それらがレーザ・パルスにより生成された後に膨張する。種々の状況下で、この膨張は制御不能となり得る。斯かる制御不能な気泡膨張は、目標領域における次続的なレーザ・パルスを強く散乱させ、眼球手術の精度および制御性を深刻に損ない得る。各気泡を相互に対して近すぎる様に形成することは、斯かる制御不能な膨張の誘因のひとつである、と言うのも、そのことは各気泡を融合させ得るからである。他の有り得るプロセスは、気泡の膨張が、次続的に形成される気泡の形成を阻害し、それらの間のクロストークを引き起こし、再び、気泡の制御不能な膨張に繋がり得るということを含み得る。故に、走査の間において所定の気泡離間距離を維持することは、眼球手術用レーザ・システムに対する気泡膨張に対して制御を保持するよりも優先する事項であり得る。
【0255】
但し、焦点の走査は典型的に、ミラーおよび亜鉛メッキ鉄板の如き部材を移動する段階を伴う。非常に短い繰り返し時間とすると、これらの移動部材の最小の慣性および機械的遅延でさえも、気泡密度に影響し得る。たとえば、一定の手術パターンに沿い走査するとき、旋回点および角隅部にて走査速度は減速することがあり、可能的にはレーザ・スポットおよび気泡の大きな密度に繋がり得る。他の場合、気泡の線密度が一定に維持されたとしても、単に手術パターンの幾何学形状が、大きな面積密度の気泡に繋がる。
【0256】
図6Aは、目標組織において分離薄寸体を生成するために、固定繰り返し率のレーザがスィッチバック式の手術走査パターンにより走査を行うときの例を示している。但し、示された如く、方向転換点もしくはスィッチバック点に接近すると、繰り返し率は一定のままでありながら走査器は減速することから、気泡の大きな線密度、故に面積密度が生成される。上述された如く、斯かる大きな気泡密度は深刻な制御の問題に繋がり得る。
【0257】
この技術的問題は、幾つかの既存のレーザ・システムによれば、斯かる旋回点への接近時にレーザ光線を中断する光線遮断器の如き付加的要素を含め、大きな気泡密度の領域の形成を阻止することで対処されている。しかし、斯かる光線遮断器を含めるということは、レーザ・システム中に、その操作が制御され且つ走査自体と同期されるべきであるという付加的要素を加えることを意味している。これらの付加の全ては、更なる難題および更なる複雑さを意味する。
【0258】
また、走査が単に走査パターンにおけるラインの端部に来たときにも同様の問題が生じ、再び、走査速度が減速されると共に、大きな気泡線密度が引き起こされる。
【0259】
図6Bは、斯かる鋭角的な方向転換点は、“加速最小化”走査パターンを辿ることにより回避され得ることを示している。加速最小化パターンの例は、鋭角的なスィッチバック部分を有さない渦巻き形状である。但し、渦巻き状パターンでさえも、加速を減少するのみであり、それを排除はしない。故に、これらのシステムにおいても依然として走査速度は変化することから、固定された繰り返し率は、パターンの低速区画においてさえも気泡密度がスレッショルド値を超えて増大しない様に選択されねばならない。しかし、この設計原理は、そのパターンの大部分に対して走査速度が、切断もしくは分離機能を達成するために必要な気泡密度を達成すべくシステムがサポートし得るよりも、低いことを意味する。等価的に、更に大きな走査速度が利用されるなら、各気泡間の離間距離は更に小さくなり、形成されつつある各気泡間の干渉またはクロストークに繋がる。これらの作用の全ては、制御不能なまたは非確定的な気泡膨張の危険性を増大する。
【0260】
レーザ・エンジン1の実施方式は、これに関連して有用な機能性を提供すべく設計され得る。概略的には上記の独特の設計態様、特に増幅器300の分散制御器によれば、走査速度の変更と本質的に同期的に、繰り返し率を変更することが可能とされる。幾つかのレーザ・エンジンにおいて、繰り返し率は、10μs〜1sの範囲内、幾つかの特定の場合には1μs〜1sの範囲内の変更時間で変更され得る。故に、幾つかの実施方式は、手術用パターンに沿う走査速度の設計されたまたは測定された減速に従いレーザ・エンジン1の繰り返し率を減少することで目標領域における略々一定の気泡密度を維持する制御電子機器を含み得る。斯かる略々一定の気泡密度は、たとえば、変化する走査速度と略々比例して繰り返し率を変更することにより達成され得る。この機能性によれば、レーザ・エンジン1または1'は、略々均一である気泡線密度もしくは面積密度または離間距離を有する気泡を形成することで、制御不能な気泡膨張を阻止しまたはそれに対抗し得る。
【0261】
図6Cは図6Aにおけるのと同一のスィッチバック部分を有する手術用の走査パターンを示しており、その場合に繰り返し率は、走査がスィッチバック部分の回りを移動するときに減少されることで、各気泡間における本質的に均一である線形状の離間距離を有する切断部を生成している。
【0262】
図6Dは、渦巻き線が中央に収束するにつれて減少する繰り返し率を有する渦巻き状の手術用パターンを示しており、その場合にも各気泡はこの減少なしで相互に接近されている。故に、この実施形態は再び、本質的に均一の気泡密度を生成し得る。
【0263】
当然ながら、繰り返し率の迅速な変更性によれば、一定の密度を有するだけでなく、所定の密度変化特性も有するという気泡の生成も許容される。たとえば、眼球の核は、その中心に向けて更に硬質である。故に幾つかの実施方式において、気泡密度は、走査が核の中心と交差するときに増大され、その中心を通り越したならば、引き続き減少され得る。多数の異なる密度変化特性は、異なる医学的利点および有用性を有し得る。密度変化特性はまた、所定の基準ではなく、目標領域の画像化もしくは検知に応じても調節され得る。
【0264】
図7Aから図7Dは、本質的に走査と同期して、または、たとえば60〜120秒以内などの眼球手術の時間的尺度内で、レーザ・エンジンが繰り返し率を変更することを支援する別の設計特徴を示している。
【0265】
図7Aから図7Bは、熱レンズ効果(thermal lensing)と称される現象、および、レーザ設計態様に対するその影響を示している。レーザ結晶310がポンピング・ダイオードによりポンピングされてから、そのエネルギを、レーザ・パルスを増幅することにより移行するとき、その温度Tは上昇する。該温度Tは多くの場合に不均一に上昇し;典型的に、上記温度はポンピングされた中心領域において最も高く、可能的には光軸にてもしくはその回りにてピークとなり、径方向距離が増大するにつれて低くなる。
【0266】
この不均一な温度上昇には少なくとも2つの効果が在り;(i)屈折率nは温度により増大するn=n(T)ことから、それはレーザ結晶310の中央領域にて最大値を呈し;且つ、(ii)上昇する温度はレーザ結晶310の中央領域を、更に低温の外側領域により保持された周囲領域よりも相当に熱膨張させることで膨出させる。これらの効果の両方が、平行な入射光を集束させる傾向がある。この現象が熱レンズ効果と称される。この熱レンズ効果は、上記レーザ結晶をレンズ310'により象徴化することで参照される。該熱レンズは、数ジオプタまでの屈折を呈し得ることから、それはレーザ・エンジンの性能を相当に変化させ得る。
【0267】
図7Aは、レーザ・エンジンの設計は典型的に、動作繰り返し率および光線パワーにより決定される動作温度T=Topにおいてレーザ結晶による熱レンズ効果の屈折作用を決定する段階と、レーザ・エンジンの他の光学素子を介して上記熱レンズ効果に対する屈折補償を導入する段階とを含むことを示している。一例は、熱レンズ310'により集束された後における収束光線を平行な光線へと復元し得る付加的レンズ312を導入することである。
【0268】
図7Bは、斯かる屈折補償が、特定の動作温度T=Topに対し、故に特定の繰り返し率および光線パワーに対してのみ適切であることを示している。実際、所定用途が繰り返し率もしくはパワーの変更を必要とするなら、変更された繰り返し率および/または変更されたパワーは、レーザ結晶310の温度TをT=TopからT=Top'へと変化させる。この温度における変化は、それに伴う熱レンズによる集束を(点線により表される収束光線から、実線による光線へと)変化させ、T=Topにては平行であった光線を、T=Top'にては発散する不十分な収束特性を有する光線へと変えてしまう。
【0269】
図7Bは、屈折補償を調節することにより収束特性が回復され得ることも示している。屈折補償の変更は典型的に、レーザ・エンジンの移動レンズなどのひとつ以上の光学素子を調節し、格子を回転させ、または、光軸に対して光線を移動する段階を必要とする。図7Bは、矢印により表される如く、光軸に沿う補償レンズ312の調節を示している。先の分散補償と同様に、機械的調節によるこの屈折補償もまた時間が掛かり、微調整および較正を必要とする。故に、殆どのレーザはこの難題を全体的に避け、繰り返し率の変更を許容しない。また、変更可能な繰り返し率を提供するレーザにおいてさえ、繰り返し率は、眼球手術時間内においてさえも、レーザ・エンジンの走査と略々同期しては変更され得ない、と言うのも、補償用の光学素子の調節に時間が掛かるからである。
【0270】
図7Cから図7Dは、熱レンズ効果の影響を最小化すべく種々の設計原理を採用するレーザ・エンジン1の実施方式を示している。熱レンズ310'による屈折は、光の殆どもしくは全てが該熱レンズ310'の中央またはその非常に近くを通り伝搬するならば相当程度まで減少され得る、と言うのも、上記レンズの中心にて該レンズと交差する光線は、幾何学的な光学の近似のレベルでは屈折されないからである。但し、波動光学のレベルにて、且つ、上記レンズの有限の広がりを考慮したとき、これらの中央光線は、最小限度までのみは屈折される。
【0271】
図7Cは、たとえば、(i)焦点合わせ作用を有する端部ミラー322の実施形態を使用し、(ii)焦点合わせ用端部ミラー322からの光線の殆どが熱レンズ的レーザ結晶310/310'の中心に衝当する様に、熱レンズ的レーザ結晶310/310'を焦点合わせ用端部ミラー322の焦点の非常に近くに載置し、且つ、(iii)他の端部ミラー321も、焦点合わせ用端部ミラー322の焦点の非常に近くに、故に、レンズ作用結晶310の非常に近くに載置することで、光線が発散する代わりに該レンズ作用結晶内へと戻り反射することを確実とすることにより、光線はレンズの中心に衝当すべく圧縮され得ることを示している。斯かる設計態様においては、繰り返し率または光線のパワーが変更されて、レーザ結晶310の温度がT=TopからT=Top'へと変更されたとき、レーザ・エンジン1の一切の機械的もしくは光学的な要素を再調節する切迫した必要性はない、と言うのも、レーザ結晶310の屈折影響は既に最小化されているからである。故に、繰り返し率、または、光線のパワーは、屈折補償器の一切の対応調節なしで変更され得る。
【0272】
図4を参照すると、種々の実施形態において、端部ミラーおよび折返しミラー321〜324の内の任意のひとつ以上は、記述された焦点合わせ効果を有し得る。
【0273】
端部ミラー321とレンズ作用結晶310との距離d1、レンズ作用結晶310と焦点合わせ用端部ミラー322との距離d2、および、他のパラメータであって、各口径、レンズ作用結晶310の厚み、および、焦点合わせ用端部ミラー322の半径の如きであるという他のパラメータなどの、この実施形態の設計パラメータは、既に減少された熱レンズ効果を更に最小化すべく最適化され得る。
【0274】
図7Dは、関連する設計態様を示している。この実施形態においては、端部ミラー321および322の両方が焦点合わせ形式である。この例は熱レンズ効果を更に低減する、と言うのも、レーザ結晶310は高精度を以て、2つの端部ミラーの共有焦点へと載置され得るからである。再び、上記の他のパラメータは付加的な設計態様最適化に委ねられ得る。
【0275】
図8は、レーザ・エンジン1における熱レンズ効果の抑制の定量的な特性解析を示している。水平軸は、周囲温度Tambientに対する上記結晶の中心の動作温度Toperating=Topの比率を示している。垂直軸は、レーザ・エンジン1により発せられたレーザ光線の光パワーを示している。上記グラフは、レーザ発振作用によりレーザ・エンジンが周囲温度より10〜50%高く加熱されたとしても、光パワーは数%しか変化せず、Toperating/Tambient=150%にて約10%に留まることを示している。レーザ結晶310の光パワーは、斯かる広範囲の動作温度にわたり、その様に少しだけしか変化しない、と言うのも、図7Cおよび図7Dの設計態様によれば、レーザ結晶310の熱レンズ効果の屈折影響が効率的に最小化されるからである。
【0276】
上記の詳細な説明は、発振器100の外部の光学素子の調節を行う必要なく繰り返し率を変更する機能性を達成すべく使用され得る設計原理および例であって、(i)増幅器300の内部にて分散補償を使用すること、(ii)一体化された伸張器/圧縮器200を使用すること、および、(iii)熱レンズ効果を最小化する空洞アーキテクチャ、ならびに、上述の他の設計検討事項を使用することを含む、という設計原理および例を提供する。上記の設計態様の特徴もしくは類似物の内のひとつ以上を使用するレーザ・エンジンは、変更時間内において繰り返し率範囲内にて繰り返し率の変更を可能とし、限られたレーザ光線の改変のみを引き起こし得る。
【0277】
此処で、上記繰り返し率範囲は、10kHz〜2MHz、または、50kHz〜1MHz、または、100kHz〜500kHzとされ得、これらの範囲の各々が特定の機能性を提供する。
【0278】
上記変更時間は、手術の形式に依存して1〜120秒、または、10〜60秒、または、20〜50秒の範囲内の如き、多段階の眼球手術の時間的尺度であり得る。これらの範囲における変更時間を有するレーザ・エンジンは、第1手術処置に必要な率から、第2手術処置に必要な率へと切換える繰り返し率の変更をサポートし得る。
【0279】
図6Aから図6Dに関して記述された実施形態の如き他の場合、変更時間は、レーザ・システムの走査速度により設定される時間的尺度であって、たとえば、複数回の繰り返し時間などの時間的尺度とされ得、その場合の複数回とは1〜10,000回または100〜1,000回の範囲とされ得る。上記繰り返し時間は、10kHzにては約100マイクロ秒(100μs)であり且つ1MHzにては1μsであることから、これらの“走査変更時間”または“走査同期変更時間”は、1μs〜1sの範囲内であり得る。
【0280】
幾つかの実施方式において、気泡の線密度は、走査速度および繰り返し率の比率が本質的に一定のままである様に、走査速度の変化に応じて繰り返し率を変更することにより維持される。
【0281】
上記レーザ・システムは、繰り返し率の変更により、限られた程度までは改変されても良い。この改変は、(i)光線直径が10%または20%未満まで変化する、または、(ii)光線の中心が光線直径の20%または40%未満まで移動する、などの種々の様式で捕捉され得る。此処で、光線直径は、光線の強度が該光線の中央における強度の50%まで低下する直径の如く、種々の様式で定義され得る。他の定義も使用され得る。
【0282】
その例は、100kHzの繰り返し率、および、3ミクロンの焦点における光線直径を有するレーザ光線を発し得るレーザ・エンジン1であり、その場合にレーザ光線の繰り返し率は、15秒の変更時間にて発振器100のみを調節することにより150kHzへと変更され得ると共に、この相当な変更にも関わらず、光線は限られた程度までしか改変されず、焦点の直径は15%の3.45ミクロンまでしか変化せず、且つ、その中心は光軸に対して光線直径の30%のみ、すなわち0.9ミクロンのみ移動する。斯かるレーザ・エンジンは100kHzの繰り返し率により白内障手術を実施すべく使用され得ると共に、該レーザ・エンジンは15秒で150kHzまで変更される繰り返し率を有し得、且つ、該レーザ・エンジンは、150kHzの繰り返し率により次続的な角膜処置を実施すべく再び使用され得、非常に良好な光線品質を維持しながら、処置の全体が必要とするのは100秒または120秒以下である。
【0283】
別の例において、レーザ・エンジン1は、100kHzの繰り返し率および4ミクロンの光線直径を有するレーザ光線を発し得る。走査が、手術用パターンの鋭角的なスィッチバック箇所であって、走査速度が通常的な走査速度の半分に減速されるというスィッチバック部分に接近するとき、繰り返し率は相応に漸進的にその半分の値へと、すなわち100kHzから50kHzへと減速されることで、生成される気泡もしくはスポットの略々一定の線密度が維持され得る。もしこの減速が、たとえば100kHzの繰り返し率の10回の繰り返し時間内に実施されるなら、繰り返し率を変更する合計時間は約100μsである。
【0284】
上記繰り返し率は数段階においてまたは漸進的に変更され得、正味の結果は、繰り返し率がレーザ光線の走査時間的尺度の変更と略々同期して、100kHzから50kHzまで約100μsで変更される、ということである。レーザ・エンジン1の上記設計態様によれば、レーザ光線の高品質を維持しながら、繰り返し率をこの非常に速い時間内に変更することが可能とされる。一例において、レーザ光線直径は100kHzにおいて4ミクロンであって、これは繰り返し率が50kHzまで減少するにつれて3.6ミクロンまで10%のみ変化し、且つ、レーザ光線の中心は光軸から光線直径の20%だけ、すなわち0.8ミクロンだけ離間移動する。
【0285】
レーザ・エンジン1が如何にして、繰り返し率を変更しながら高い光線品質を維持し得るかのを表現する別の様式は、公知のg1-g2安定性平面に関連する。レーザ・エンジン1の実施方式は、たとえば10kHz〜2MHz、または、10kHz〜500kHz、または、50kHz〜200kHzの範囲などの広範囲な繰り返し率において光線パラメータg1およびg2を双曲線状の安定領域内に維持し得る。
【0286】
少ない個数の光学素子は、別の利点からレーザ・エンジン1の実施方式を区別する重要な特性であり得る。フェムト秒レーザは概略的に、周囲環境の影響に対し、指示とは異なる用法に対し、且つ、自己加熱効果などの単純な損耗に対してさえも非常に敏感であり且つそれらの故に容易に誤整列されるという切刃デバイスである。故に、フェムト秒レーザの各光学素子は、規則的な短い時的間隔で微調整、再調節および保守を必要とし得る。典型的なフェムト秒レーザは、百個以上の光学素子を含み得ると共に、これらの光学素子のいずれかひとつの動作不良が、レーザ全体の動作不良を引き起こし得る。
【0287】
幾つかの典型的なレーザは、30〜60回の“循環動作”、すなわち、レーザ・エンジンの動力の投入および切断の後毎に動作不良となり得る。動作中における動作不良の発生を予防するために、幾つかのレーザ・システムの操作者は、係員の負担および不稼働時間の全てを以て、定期的で不経済な保守巡回を計画すべきでありながらも、依然として、壊滅的な結果を伴う現場での動作不良の大きなリスクを伴い得る。
【0288】
対照的に、レーザ・エンジン1の各実施形態は、該レーザ・エンジン1の一切の光学素子を再調節する必要なしで、動力を投入および切断することにより120回以上、循環動作され得る。幾つかの実施形態に対し、循環動作の回数は、180回超、または、240回超とされされ得る。
【0289】
外科手術において、レーザ結晶310の加熱および冷却に伴う問題を最小限とするために、レーザは朝方に一度投入され且つ夕方に一度切断され、すなわち、手術用レーザは一日に一回循環動作される。単純な見積もりにおいて、レーザが一週間に5回使用されるなら、一ヶ月に約20回であり、すると30回の循環動作は1.5ヶ月後における動作不良の高確率となり、60回の循環動作ならば3ヶ月後である。
【0290】
対照的に、レーザ・エンジン1の幾つかの実施方式は、120回を超えて循環動作され、動作不良の可能性は6ヶ月にわたり低くなり得る。他の実施方式は180回もしくは240回循環動作され、動作不良の可能性は9ヶ月または丸一年にわたり低くなり得る。故に、レーザ・エンジン1の各実施形態は、ユーザならびに保守業者に対する負担が非常に軽い予防的な保守計画により動作され得る。同様に、斯かる低頻度の保守計画によれば、レーザ・システムの全体区画の交換の如き種々の形式の保守が可能とされる。幾つかの場合、レーザ・エンジン1全体が現場にて、新たに整備されたレーザ・エンジンと単純に交換され得ると共に、そのレーザ・エンジン1の保守は、外科手術者による技術程度の低い環境ではなく、技術程度の高い保守業者側の環境にて行われ得る。
【0291】
本明細書は多くの詳細事項を含むが、これらは、発明のもしくは権利請求され得る処の有効範囲に対する限定ではなく、寧ろ、本発明の特定実施形態に固有の特徴の説明と解釈されるべきである。個々の実施形態に関して本明細書において記述された幾つかの特徴は、単一実施形態において組み合わせても実施され得る。逆に、単一実施形態に関して記述された種々の特徴は、複数の実施形態において別体的にまたは任意の適切な下位組み合わせにても実施され得る。更に、各特徴は上記にては一定の組み合わせにて機能すると記述されると共に、最初においてはその様に権利請求さえもされ得るが、権利請求された組み合わせからのひとつ以上の特徴は幾つかの場合にはその組み合わせから除去され得ると共に、権利請求された組み合わせは、下位組み合わせ、または、下位組み合わせの変更例に向けられ得る。
【0292】
画像案内式のレーザ手術技術、装置およびシステムの多数の実施方式が開示された。但し、記述された実施方式の変更例および拡張例は、記述された処に基づいて為され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ・システムにより走査を行う方法であって、
レーザ・エンジンにより、可変の繰り返し率を有するレーザ・パルスを生成する段階と、
走査レーザ供与システムにより、目標領域における焦点へと前記レーザ・パルスを焦点合わせする段階と、
前記走査レーザ供与システムにより、前記目標領域において所定の走査速度を以て前記焦点を走査させる段階と、
前記走査速度を変更する段階と、
前記変更された走査速度に従い前記繰り返し率を、繰り返し率制御器により調節する段階とを有する、方法。
【請求項2】
前記生成する段階は、
発振器によりフェムト秒の種パルスを生成する段階と、
前記種パルスを伸張器/圧縮器により伸張する段階と、
選択された伸張済み種パルスを増幅器により増幅済みの伸張済みパルスへと増幅する段階と、
前記増幅済みの伸張済みパルスを前記伸張器/圧縮器によりフェムト秒レーザ・パルスへと圧縮する段階とを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記繰り返し率を調節し、前記目標領域においてレーザにより生成される気泡の密度を選択値の付近に略々維持する段階を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記気泡の密度は、線密度、面積密度、および、体積密度の内のひとつである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記繰り返し率を調節する段階は、
前記走査速度に比例させて前記繰り返し率を調節する段階を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記繰り返し率を調節する段階は、
前記繰り返し率を、1μ秒〜1秒の範囲内の時間で第1の値から第2の値へと調節する段階を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記焦点を走査させる段階は、
前記焦点を、最小加速経路に沿い走査させる段階を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記焦点をスィッチバック経路に沿いXY走査させる段階と、
前記スィッチバック経路のスィッチバック部分に接近するときに前記繰り返し率を減速する段階とを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
レーザ光線を渦巻き線に沿い走査させる段階と、
前記走査段階が前記渦巻き線の中心に接近するときに前記繰り返し率を減速する段階とを有する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記繰り返し率を調節する段階は、
前記繰り返し率制御器により変更された走査速度に関する情報を、
変化する走査速度を検知する段階、および、
前記変化する走査速度に関する電子的情報をプロセッサまたはメモリから獲得する段階、
の内のひとつの段階により受信する段階と、
前記変更された走査速度に関する前記受信の情報に従い前記繰り返し率を調節する段階とを有する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
複数のフェムト秒の種パルスから成る光線を生成して出力する発振器と、
前記種パルスの存続時間を伸張し、増幅器からの増幅済みの伸張済みパルスを受信し、前記増幅済みの伸張済みパルスの存続時間を圧縮し、且つ、所定の繰り返し率を以て複数のフェムト秒パルスから成るレーザ光線を出力するという伸張器/圧縮器であって、
前記増幅器は、
前記伸張器/圧縮器から前記伸張済み種パルスを受信し、
選択された伸張済み種パルスの振幅を増幅して、増幅済みの伸張済みパルスを生成し、且つ、
前記増幅済みの伸張済みパルスを出力する、
という伸張器/圧縮器と、
目標領域において可変走査速度を以て前記レーザ光線の焦点を走査させることで、光切断による複数のスポットを生成する走査用光学機器と、
を備える繰り返し率可変のレーザ走査システムであって、
該レーザ走査システムは、前記繰り返し率を変更することで、所定の密度変化特性を以て前記光切断による複数のスポットを生成する、繰り返し率可変レーザ走査システム。
【請求項12】
前記増幅器は、前記増幅済みの伸張済みパルスの分散を減少する分散補償器を備える、請求項11に記載のレーザ走査システム。
【請求項13】
前記増幅器は、該増幅器において前記伸張済みパルスの偏光面を回転する切換え可能な偏光子を備え、
前記切換え可能な偏光子の立ち上がり時間は、5ns、4nsおよび3nsの内のひとつより短い、請求項11に記載のレーザ走査システム。
【請求項14】
当該レーザ走査システムは、前記切換え可能な偏光子に対して制御信号を印加することにより該切換え可能な偏光子を5ns、4nsまたは3nsの内のひとつより短い立ち上がり時間を以て切換える制御電子機器を備える、請求項13に記載のレーザ走査システム。
【請求項15】
レーザ・エンジンにより走査を行う方法であって、
所定の繰り返し率を以てフェムト秒レーザ・パルスを生成する段階と、
前記レーザ・パルスを目標領域における焦点に焦点合わせし、光切断による複数のスポットを生成する段階と、
前記目標領域において所定の走査速度を以て前記焦点を走査させる段階と、
前記走査の間に前記繰り返し率を調節し、所定の密度変化特性を以て前記光切断による複数のスポットを生成する段階とを有する、方法。
【請求項16】
前記調節段階は、目標領域において本質的に均一に維持される線スポット密度、面積スポット密度および体積スポット密度の内のひとつにより前記光切断による複数のスポットを生成する段階を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記調節段階は、前記走査速度の変更に従い前記繰り返し率を調節する段階を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記調節段階は、前記走査速度に略々比例させて前記繰り返し率を調節する段階を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記繰り返し率を調節する段階は、
前記繰り返し率を、1μ秒〜1秒の範囲内の時間で第1の値から第2の値へと調節する段階を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記生成段階は、
発振器によりフェムト秒の種パルスを生成する段階と、
前記種パルスを伸張器/圧縮器により伸張する段階と、
選択された伸張済み種パルスを増幅器により増幅済みの伸張済みパルスへと増幅する段階と、
前記増幅済みの伸張済みパルスを前記伸張器/圧縮器によりフェムト秒レーザ・パルスへと圧縮する段階とを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記焦点を走査させる段階は、
前記焦点を、最小加速経路に沿い走査させる段階を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記焦点をスィッチバック経路に沿い走査させる段階と、
前記スィッチバック経路のスィッチバック部分に接近するときに前記繰り返し率を減速する段階とを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
レーザ光線を渦巻き線に沿い走査させる段階と、
前記走査段階が前記渦巻き線の中心に接近するときに前記繰り返し率を減速する段階とを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
レーザ光線をラインの端部およびラインの角隅部の内の一方に沿い走査させる段階と、
前記走査段階が前記ラインの端部および前記ラインの角隅部の内の一方に接近するに従い前記繰り返し率を減速する段階とを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
前記走査速度に関して記憶されたもしくは検知された情報を受信する段階と、
前記走査速度に関する前記受信の情報に従い前記繰り返し率を調節する段階とを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
前記目標領域に関して検知されたもしくは画像化された情報を受信する段階と、
前記目標領域に関する前記受信の情報に従い前記繰り返し率を調節する段階とを有する、請求項15に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A−5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−520848(P2013−520848A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555142(P2012−555142)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際出願番号】PCT/US2011/026061
【国際公開番号】WO2011/106516
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(510060361)アルコン レンゼックス, インコーポレーテッド (27)
【Fターム(参考)】