説明

走行作業機械の油圧駆動システム

【課題】作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線を作業の種類に応じて自動で変更することができ、操作性に優れ、かつ部品点数が少なく構造が簡単である走行作業機械の油圧駆動システムを提供する。
【解決手段】HST走行油圧回路2は走行駆動回路11と走行制御回路12を備え、走行制御回路12は油圧式開閉弁38と油圧式切換弁41を有し、油圧式開閉弁38は走行負荷圧力が導かれる第1受圧部38c、常時作業機負荷圧力が導かれる第2受圧部38d、油圧式切換弁41を介して選択的に作業機負荷圧力が導かれる第3受圧部38eを有し、油圧式切換弁41は作業機負荷圧力が導かれる受圧部41cを有している。作業機負荷圧力が所定値Pfaを超えると、油圧式切換弁41は切り換えられ、第3受圧部38eにも作業機負荷圧力を導く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走行作業機械の油圧駆動システムに係わり、特に、同一の原動機により駆動される走行用の可変容量型油圧ポンプと作業機用の油圧ポンプを備え、走行と作業機の複合動作で作業を行うホイールローダ等の走行作業機の油圧駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダ等の走行作業機械の油圧駆動システムとして、原動機により駆動される走行用の可変容量型油圧ポンプと、原動機により駆動される作業機用の油圧ポンプと、走行用の可変容量型油圧ポンプと閉回路接続され、可変容量型油圧ポンプからの吐出油によって駆動される走行用油圧モータと、作業機用の油圧ポンプを油圧源とする作業機用油圧回路と、可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を変化させる油圧アクチュエータと、この油圧アクチュエータに対する圧油の給排を制御し可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を制御する走行制御回路とを備えたものが知られている(特許文献1)。この油圧駆動システムにおいて、走行制御回路には前後進切換弁が配置されており、オペレータが前後進切換レバーにより前後進切換弁をF(前進)位置に切り換えると、可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積可変機構を前進側に駆動するよう油圧アクチュエータを駆動し、オペレータが前後進切換弁をR(後進)位置に切り換えると、可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積可変機構を後進側に駆動するよう油圧アクチュエータを駆動する。これにより可変容量型油圧ポンプは前後進切換弁の操作位置に応じて前進側或いは後進側に圧油を吐出し、走行用油圧モータを前進側或いは後進側に駆動して走行作業機械を前進方向或いは後進方向に走行する。
【0003】
このような油圧駆動システムにおいて、特許文献1の第9図には、走行制御回路の前後進切換弁と油圧アクチュエータとの間に、走行用油圧モータの負荷圧力(以下、適宜走行負荷圧力という)が導かれる第1受圧部及び作業機用油圧回路の負荷圧力(以下、適宜作業機負荷圧力という)が導かれる第2受圧部を有する油圧式開閉弁を配置し、走行負荷圧力が予め設定した値を超えると可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積可変機構を中立位置に戻すよう油圧アクチュエータの駆動を制御し、走行用の可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を減らすようにしたものが記載されている。これにより作業機負荷圧力が上昇するにしたがって走行負荷圧力を低下させ、走行用の可変容量型油圧ポンプの駆動トルク(走行トルク)と作業機用の油圧ポンプの駆動トルク(作業トルク)の和がエンジンの出力トルクを超えないようにしている。
【0004】
また、特許文献1の第1図、第3図等には、走行制御回路に配置した油圧式開閉弁に第2受圧部より受圧面積が大きい第3受圧部を設けるとともに、油圧式開閉弁の第2受圧部及び第3受圧部と作業機用油圧回路及びタンクとの間に電磁切換弁を配置し、電磁切換弁を、第2受圧部及び第3受圧の両方をタンクに連通させる第1位置と、第2受圧部を作業機用油圧回路に連通させ、第3受圧部をタンクに連通させる第2位置と、第2受圧部をタンクに連通させ、第3受圧部を作業機用油圧回路に連通させる第3位置のいずれかに切り換えるようにしたものが記載されている。この油圧駆動システムにおいて、電磁切換弁が第1位置にあるときは、作業機負荷圧力が変化しても走行負荷圧力は変化せず、このときの作業機負荷圧力が上昇するときの走行負荷圧力の低下割合を表す作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線C1の傾きはゼロとなる。電磁切換弁が第2位置に切り換わると、第2受圧部の受圧面積に応じて作業機負荷圧力が上昇するにしたがって走行負荷圧力が低下し、このときの作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線C2は第2受圧部の受圧面積に応じた傾きとなる。電磁切換弁が第3位置に切り換わると、第3受圧部の受圧面積に応じて作業機負荷圧力が上昇するにしたがって走行負荷圧力が低下し、このときの作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線C3は第3受圧部の受圧面積に応じた傾きとなる。ここで、第3受圧部の受圧面積は第2受圧部の受圧面積より大きいため、特性線C3の傾きは特性線C2の傾きより大きくなる。これによりオペレータがスイッチを操作して電磁切換弁を切り換えることにより、作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線を3つの特性線C1,C2,C3の中から任意に選択することができ、路面状態や作業状態に応じた走行トルク(走行力)の設定やオペレータの好みに応じた走行トルク(走行力)の設定を行うことがができる。
【0005】
特許文献1の第3図に記載の油圧駆動システムでは、更に、電磁切換弁と作業機用油圧回路との間に電磁比例減圧弁を配置し、作業機負荷圧力を所定圧力だけ減圧して電磁切換弁に導くようにしている。これにより作業機負荷圧力が所定圧力になるまでは作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線の傾きはゼロとなり、作業機負荷圧力が所定圧力を超えたときに2つの特性線C2,C3のいずれかの傾きを持つようにすることができる。
【0006】
【特許文献1】特開平4−83907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ホイールローダのような走行作業機械においては、走行と作業機の複合動作によって作業が行われることが多い。走行と作業機の複合動作によって作業を行う場合、作業の種類によって、作業に必要な作業トルクと最適の走行トルク(走行力)との関係が異なる。例えば、走行力で作業具(バケット)を土砂に貫入しながら持ち上げて土砂を掬い込む押土作業では、できるだけ大きな押し込み掘削力(作業トルク)が必要であり、作業機負荷圧力は最大まで上昇するが、走行力は余り大きすぎない方がよい。押し込み掘削力(作業トルク)に対して走行力が大きすぎると、土砂に貫入しながらバケットを持ち上げるときにタイヤがスリップしてしまい、複合動作時の走行力はかえって小さくなってしまい、結果として作業効率が低下する。押土作業によりバケット内に土砂を掬い込んだ後、車体を移動(走行)しながらバケットを持ち上げ、ダンプの荷台に放土する土砂積み込み作業では、バケット持ち上げ力(作業トルク)は押し込み掘削力に比べて小さく、作業機負荷圧力はそれほど高くならないが、走行力はある程度大きい方がよい。バケット持ち上げ力(作業トルク)に対して走行力が小さすぎると、走行速度が遅くなり、この場合も作業効率が低下する。
【0008】
特許文献1の第9図に記載の油圧駆動システムにおいては、作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線の傾きの設定は一通りしかないため、作業の種類に応じた最適の特性線を設定することができない。すなわち、上記の作業例では、押土作業を優先して特性線の傾きを大きく設定した場合は、土砂積み込み作業では走行力が小さくなりすぎるため、走行速度が遅くなり、作業効率が低下する。また、土砂積み込み作業を優先して特性線の傾きを小さく設定した場合は、押土作業では走行力が大きくなすぎるため、タイヤがスリップしてしまい、やはり作業効率が低下する。
【0009】
特許文献1の第1図、第3図等に記載の油圧駆動システムでは、押土作業を行うときは、傾きの大きな特性線C3を選択して設定することで、押土作業に最適の走行力が得られ、タイヤがスリップすることなく、効率良く押土作業を行うことができる。また、土砂積み込み作業を行うときは、傾きの小さな特性線C2を選択して設定することで、土砂積み込み作業に最適の走行力が得られ、素早くダンプまで移動し、効率良く土砂積み込み作業を行うことができる。
【0010】
しかし、特許文献1の第1図、第3図等に記載の油圧駆動システムでは、作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線を変更するのに、その都度、オペレータがスイッチを操作して電磁切換弁を切り換える必要があり、極めて不便である。特に、上記作業例の押土作業と土砂積み込み作業は一連の作業であるため、押土作業から土砂積み込み作業に変わるときに、オペレータがスイッチを操作して特性線を変更することは、実際上極めて困難である。
【0011】
また、特許文献1の第1図、第3図等に記載の油圧駆動システムでは、電磁切換弁を切り換えるのにスイッチやコントローラが必要であり、第3図に記載の油圧駆動システムでは更に電磁比例減圧弁が必要である。その結果、部品点数が多く、構造が複雑となり、製造コストの増加の原因となる。また、電気制御であるため、動作の信頼性を確保するための措置が必要であり、この点でも構造が複雑とな。
【0012】
本発明の目的は、作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線を作業の種類に応じて自動で変更することができ、操作性に優れ、かつ部品点数が少なく構造が簡単である走行作業機械の油圧駆動システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、原動機により駆動される走行用の可変容量型油圧ポンプと、前記原動機により駆動される作業機用の油圧ポンプと、前記可変容量型油圧ポンプと閉回路接続され、前記可変容量型油圧ポンプからの吐出油によって駆動される走行用油圧モータと、前記作業機用の油圧ポンプを油圧源とする作業機用油圧回路と、前記可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を変化させる油圧アクチュエータと、この油圧アクチュエータに対する圧油の給排を制御し前記可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を制御する走行制御回路とを備えた走行作業機械の油圧駆動システムにおいて、前記走行用油圧モータの負荷圧力が導かれる第1受圧部及び前記作業機用油圧回路の負荷圧力が導かれる第2受圧部及び第3受圧部を有し、前記走行用油圧モータの負荷圧力と前記作業機用油圧回路の負荷圧力の和が予め設定した値を超えると前記可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を減らすように前記油圧アクチュエータを作動させる油圧式開閉弁と、前記油圧式開閉弁の第3受圧部と前記作業機用油圧回路の間に配置され、前記作業機用油圧回路の負荷圧力が導かれる第4受圧部を有する油圧式切換弁とを有し、前記油圧式開閉弁の第2受圧部は前記作業機用油圧回路に常時連通するよう接続され、前記油圧式開閉弁の第3受圧部は前記油圧式切換弁を介して前記作業機用油圧回路に接続され、前記油圧式切換弁は、前記作業機用油圧回路の負荷圧力が所定値以下にあるときは第1位置にあり、この第1位置では前記第3受圧部と前記作業機用油圧回路との連通を遮断し、前記作業機用油圧回路の負荷圧力が前記所定値を超えると第2位置に切り換えられ、この第2位置では前記第3受圧部を前記作業機用油圧回路に連通させるものとする。
【0014】
このように構成した本発明においては、できるだけ大きな作業トルクを必要とする作業(例えば押土作業)では、作業機用油圧回路の負荷圧力(以下、適宜作業機負荷圧力という)は最大まで上昇するため、作業機用油圧回路の負荷圧力は上記所定値より高くなって油圧式切換弁は第2位置に切り換えられ、油圧式開閉弁の第3受圧部を作業機用油圧回路に連通させる。これにより油圧式開閉弁の第2受圧部と第3受圧部の両方に作業機負荷圧力が導かれ、作業機負荷圧力が上昇するときの走行負荷圧力の低下割合を表す作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線の傾きは第2受圧部の受圧面積と第3受圧部の受圧面積の合計に応じた大きめの値となる。そして、このときの走行負荷圧力は比較的大きく低下する。その結果、走行トルクは比較的大きく減少し、例えば押土作業で土砂に貫入しながらバケット掬い上げる場合に、タイヤがスリップすることが防止され、押土作業に最適の走行トルクが得られ、効率良く押土作業を行うことができる(作業効率向上)。
【0015】
押土作業ほど大きな作業トルクを必要としない作業(例えば押土作業後の土砂積み込み作業)では、作業機負荷圧力がそれほど高くならないため、作業機用油圧回路の負荷圧力は上記所定値以下となって油圧式切換弁は第1位置にあり、油圧式開閉弁の第3受圧部と作業機用油圧回路との連通を遮断する。これにより油圧式開閉弁の第2受圧部のみに作業機負荷圧力が導かれ、作業機負荷圧力が上昇するときの走行負荷圧力の低下割合を表す作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線の傾きは第2受圧部の受圧面積だけに応じた小さめの値となる。そして、このときの走行負荷圧力は少し低下するだけである。その結果、走行トルクの減少量は少なく、例えば押土作業後の土砂積み込み作業において、走行速度は大きく低下せず、土砂積み込み作業に対する最適の走行トルクが得られ、作業効率が向上する。
【0016】
このように作業の種類によって、作業に必要な作業トルクと最適の走行トルク(走行力)との関係が異なる点に着目し、作業機負荷圧力が所定値以下か、それを超えたかによって作業機負荷圧力を制御パイロット圧として油圧式切換弁を第1位置と第2位置との間で切り換えるので、作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線を作業の種類に応じて自動で変更することができ、優れた操作性が得られる。
【0017】
また、油圧式開閉弁に第3受圧部を追加し、機器類として油圧式切換弁を追加設置しただけの構成であり、部品点数が少なく、かつ純油圧的な構成であって電気制御が不要であり、構造が簡単である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作業機負荷圧力を制御パイロット圧として油圧式切換弁を第1位置と第2位置との間で切り換えるので、作業機負荷圧力に対する走行負荷圧力の特性線を作業の種類に応じて自動で変更することができ、優れた操作性が得られ、作業効率を向上することができる。
【0019】
また、油圧式開閉弁に第3受圧部を追加し、機器類として油圧式切換弁を追加設置しただけの構成であり、部品点数が少なく、かつ純油圧的な構成であって電気制御が不要であり、構造が簡単で、製造コストの増加を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係わる走行作業機械の油圧駆動システムを示す図である。本実施の形態において、走行作業機械は例えばホイールローダである。
<全体構成>
本実施の形態の走行作業機械の油圧駆動システムは、大別して、エンジン(例えばディーゼルエンジン)1と、HST走行油圧回路2と、作業機用油圧回路3とで構成されている。エンジン1はアクセルペダル4の操作により回転数と出力トルクとが制御され、作業機用油圧ポンプ6と走行用のチャージポンプ7を駆動する。また、エンジン1は、接続関係は図示していないが、走行用の可変容量型油圧ポンプ20を駆動する。作業機用油圧ポンプ6は作業機用油圧回路3の油圧源を構成しており、油圧ライン8を介して作業機用油圧回路3に接続されている。作業機用油圧回路3はブームシリンダ、バケットシリンダ等の油圧アクチュエータ(後述)を含み、それら油圧アクチュエータは作業機用油圧ポンプ6からの圧油により駆動され、ホイールローダ(走行作業機械)のフロント作業機を駆動する。
<HST走行油圧回路2>
HST走行油圧回路2は走行駆動回路11を備え、走行駆動回路11は、上記の可変容量型油圧ポンプ20と、可変容量型油圧ポンプ20に1対の主管路21a,21bを介して閉回路接続された走行用の油圧モータ22と、1対の主管路21a,21b間に接続されたオーバロードリリーフ弁23a,23b、フラッシング弁24及び補給用チェック弁25a,25bとを有している。
【0022】
可変容量型油圧ポンプ20は両傾転型の押しのけ容積可変機構20a(例えば斜板等)と、この押しのけ容積可変機構20aを変位させる傾転シリンダ(油圧アクチュエータ)27とを有している。傾転シリンダ27は、ピストン27aにより仕切られた2つのシリンダ室27b,27cを有する両シリンダ型であり、シリンダ室27b,27cには中立位置保持用のバネ27d,27eが配置されている。走行用の油圧モータ22は、変速機、プロペラシャフトを介して前輪及び後輪(後述)と接続されている。フラッシング弁24の排出側は低圧リリーフ弁28を介してタンクに接続され、補給用チェック弁25a,25bの入力側は管路29及び管路30を介してチャージポンプ7に接続されている。
【0023】
また、HST走行油圧回路2は走行制御回路12を備え、走行制御回路12は、チャージポンプ7の吐出管路である管路30に設けられた固定絞り31と、管路30の固定絞り31の下流側に設置されたパイロットリリーフ弁32と、管路30の固定絞り31の前後(上流側及び下流側)を傾転シリンダ27の左右のシリンダ室27b,27cに接続する管路34a,34b及び管路35a,35bと、管路34a,34bと管路35a,35bとの間に配置された前後進切換弁36とを備えている。
【0024】
前後進切換弁36は、F(前進)位置、N(中立)位置、R(後進)位置の3つのバルブ位置を有しており、前後進切換レバー39により操作される。
【0025】
前後進切換弁36は、N位置にあるとき、管路35a,35bを管路34bに連通させ、傾転シリンダ27の左右のシリンダ室27b,27cを固定絞り31の上流側に連通させる。このとき傾転シリンダ27のピストン27aは作動せず、ピストン27a及び押しのけ容積可変機構20aはバネ27d,27eによって傾転量ゼロの中立位置に保持され、油圧ポンプ20はエンジン1により駆動されても圧油を吐出しない(吐出流量ゼロ)。
【0026】
前後進切換弁36がF位置に切り換えられると、管路34aを管路35aに連通させかつ管路34bを管路35bに連通させる。その結果、傾転シリンダ27の図示左側のシリンダ室27bに固定絞り31の上流側の圧力が供給され、傾転シリンダ27の図示右側のシリンダ室27cに固定絞り31の下流側の圧力が供給される。ここで、チャージポンプ7から吐出した圧油が通過する固定絞り31の上流側と下流側との間には固定絞り31の圧損により通過流量に応じた圧力差(前後差圧)が発生しており(上流側の圧力>下流側の圧力)、傾転シリンダ27のピストン27aはその圧力差に応じて図示右方向に移動し、油圧ポンプ20の押しのけ容積可変機構20aを前進側に変位させることで、油圧ポンプ20は主管路21a(前進側の主管路)に圧油を吐出する。油圧モータ22はその吐出油により駆動され、車輪(前輪及び後輪)を前進方向に駆動し車体を前進させる。
【0027】
前後進切換弁36がR位置に切り換えられると、管路34aを管路35bに連通させかつ管路34bを管路35aに連通させる。その結果、傾転シリンダ27の図示右側のシリンダ室27cに固定絞り31の上流側の圧力が供給され、傾転シリンダ27の図示左側のシリンダ室27bに固定絞り31の下流側の圧力が供給される。これにより、傾転シリンダ27のピストン27aは固定絞り31の前後の圧力差に応じて図示左方向に移動し、油圧ポンプ20の押しのけ容積可変機構20aを後進側に変位させ、油圧ポンプ20は主管路21b(後進側の主管路)に圧油を吐出する。油圧モータ22はその吐出油により駆動され、車輪(前輪及び後輪)を後進方向に駆動し車体を後進させる。
【0028】
チャージポンプ7の吐出流量はエンジン1の回転数の上昇に応じて増加し、チャージポンプ7の吐出流量が増加すると、それに応じて固定絞り31の上流側と下流側との間の圧力差(前後差圧)が増大する。固定絞り31の前後差圧が増大すれば、それに応じて傾転シリンダ27のピストン27aの移動量も増大し、油圧ポンプ20の押しのけ容積可変機構20aの変位(押しのけ容積又は傾転量)も増大する。これにより上記のように前後進切換弁36をF位置に切り換えた状態でアクセルペダルを踏み込む走行始動時や加速時においては、油圧ポンプ20はエンジン回転数の上昇に応じて滑らかに応答良く吐出流量を増大させ、油圧モータ22の回転数を増大させる。よってエンジン回転数の上昇に応じて油圧モータ22の出力回転数も滑らかに応答良く増大し、滑らかで力強い加速走行が可能となる。
【0029】
また、走行始動時や加速時に、主管路21a又は21bの圧油の圧力が過渡的に大きく上昇してオーバロードリリーフ弁23a又は23bの設定圧を超えようとした場合は、オーバロードリリーフ弁23a又は23bが作動し、主管路21a又は21b内の圧力は反対側の主管路21b又は21aへとオーバロードリリーフ弁23a又は23bを介して流れ、主管路21a又は21bの圧油の圧力がオーバロードリリーフ弁23a又は23bの設定圧以下に抑えられる。一方、重負荷作業が長時間続いた場合など、主管路21a,21b内の圧油の温度が上昇して低圧側主管路の圧油の圧力が定圧リリーフ弁28の設定圧を超えようとした場合は、低圧側主管路の圧油がフラッシング弁24、低圧リリーフ弁28を介してタンクに排出されるるとともに、主管路21a,21b内の油量が不足した場合は、補給用チェック弁25a又は25b、管路29及び30を介してチャージポンプ7から圧油が補給され、この圧油の排出と補給により主管路21a,21b内の圧油は適宜入れ替えられる。また、走行中に油圧ポンプ20の押しのけ容積可変機構20aを中立位置に戻す走行制動時或いは坂道降坂時等においては、油圧モータ22は慣性により回転し続けることによりポンプ作用をするが、このときは、油圧モータ22の背圧側主管路(圧油排出側主管路)の圧力上昇がオーバロードリリーフ弁23a又は23bの設定圧に制限されることで、油圧モータ22に制動力を付与する。また、ポンプ作用をする油圧モータ22の吸い込み側となる主管路内の圧力が負圧になろうとするときは、補給用チェック弁25a又は25b、管路29及び30を介してチャージポンプ7から圧油が補給され、キャビテーションの発生を防止する。
【0030】
また、本実施の形態においては、その特徴的構成として、走行制御回路12は、管路35aと管路35bとを接続する管路37a,37b間に配置された油圧式開閉弁38と、油圧式開閉弁38に対して作業用油圧回路3の負荷圧力の伝達経路を切り換える油圧式切換弁41とを有している。
【0031】
油圧式開閉弁38は管路37aと管路37bとの連通を遮断する閉位置と、管路37aと管路37bとを連通させる開位置の2つのバルブ位置に切り換え可能な弁体38aと、この弁体38aを閉位置に向けて付勢するバネ38bと、弁体38aを開位置に向けて付勢する第1〜第3の3つの受圧部38c,38d,38eとを有している。走行駆動回路11の主管路21a,21bには主管路21a,21bの高圧側の圧力(油圧モータ22の負荷圧力)を走行負荷圧力として検出するシャトル弁40が設けられ、油圧式開閉弁38の第1受圧部38cは管路42を介してシャトル弁40の出力側に接続され、第1受圧部38cに、常時、シャトル弁40により検出された走行負荷圧力が導かれている。油圧式開閉弁38の第2受圧部38dは管路43を介して作業機用油圧回路3の管路6に接続され、第2受圧部38dに、常時、作業機用油圧回路3の負荷圧力(作業機負荷圧力)が導かれている。油圧式開閉弁38の第3受圧部38eは管路44,油圧式切換弁41、管路45,46を介してタンクT及び作業機用油圧回路3の管路6に接続され、油圧式切換弁41の切り換え位置に応じてタンクTと作業機用油圧回路3に選択的に連通し(後述)、第3受圧部38eにタンクTの圧力(タンク圧)と作業機用油圧回路3の負荷圧力(作業機負荷圧力)が選択的に導かれる。第1〜第3受圧部38c,38d,38eの受圧面積は例えば同じである。
【0032】
バネ38bは油圧式開閉弁38の切換圧力を設定するものであり、3つの受圧部38c,38d,38eの圧力の和(合計)がバネ38bの設定値(設定圧)以下にあるときは、油圧式開閉弁38は図示の閉位置にあり、3つの受圧部38c,38d,38eの圧力の和がバネ38bの設定圧を超えると、油圧式開閉弁38は図示の閉位置から開位置に切り換えられる。
【0033】
油圧式切換弁41は第1位置及び第2位置の2つのバルブ位置に切り換え可能な弁体41aと、この弁体41aを第1位置に向けて付勢するバネ41bと、弁体41aを第2位置に向けて付勢する受圧部41c(第4受圧部)とを有している。受圧部41cは管路48を介して作業機用油圧回路3の管路6に接続され、受圧部41cに、常時、作業機用油圧回路3の負荷圧力が導かれている。バネ41bは油圧式切換弁41の切換圧力を設定するものであり、受圧部41cの圧力がバネ41bの設定値(設定圧)以下にあるときは、油圧式切換弁41は図示の第1位置にあり、受圧部41cの圧力がバネ41bの設定圧を超えると、油圧式切換弁41は図示の第1位置から第2位置に切り換えられる。油圧式切換弁41は、第1位置にあるときは管路44を管路45に連通させ、油圧式開閉弁38の第3受圧部38eにタンク圧を導き、第2位置にあるときは、管路44を管路46に連通させ、油圧式開閉弁38の第3受圧部38eに作業機用油圧回路3の負荷圧力(作業機負荷圧力)を導く。
【0034】
図2は、本発明が適用されるホイールローダ(走行作業機械)の外観を示す図であり、ホイールローダが符号100で示されている。このホイールローダ100は、車体前部101と車体後部102を有し、車体前部101と車体後部102は、ステアリングシリンダ103により車体後部102に対して車体前部101の向きが変わるように相対回動自在に連結されている。車体前部101にはフロント作業機104と前輪105が設けられ、車体後部102には運転室106と後輪107が設けられている。運転室106には、操作レバー109、ハンドル110や、前述したアクセルペダル4及び前後進切換レバー39(図1)等の操作手段が設けられている。
【0035】
フロント作業機104は、バケット(作業具)111とブーム112を有し、バケット111は、バケットシリンダ113の伸縮によりチルト・ダンプ動作し、ブーム112はブームシリンダ114の伸縮により上下に動作する。ブーム112とブームシリンダ114は支持部115にピン結合され、支持部115と共にリンク機構を構成している。
【0036】
前輪105及び後輪107は図1に示した走行駆動回路11の油圧モータ22にプロペラシャフト、変速機を介して連結されている。ステアリングシリンダ103、バケットシリンダ113、ブームシリンダ114は図1に示した作業機用油圧回路3の一部を構成し、操作レバー109により作業機用油圧回路3内のコントロールバルブを操作されることにより駆動される。
【0037】
図3は、油圧式開閉弁38及び油圧式切換弁41を設けた本実施の形態における油圧駆動システムの作業機負荷圧力と走行負荷圧力との関係を示す特性線図である。図3中、Psmaxはバネ38bの設定圧であり、Ptmaxは最大走行負荷圧力であり、Pfmaxは最大作業機負荷圧力であり、Pfaはバネ41bの設定圧である。また、Caは作業機負荷圧力がバネ41bの設定圧に対応する所定値Pfa以下にあるときの作業機負荷圧力Pfに対する走行負荷圧力Ptの特性線であり、Cbは作業機負荷圧力が所定値Pfaを超えた範囲にあるときの作業機負荷圧力Pfに対する走行負荷圧力Ptの特性線であり、それぞれの傾きが作業機負荷圧力Pfが上昇するときの走行負荷圧力Ptの低下割合を表している。
【0038】
図4は、走行負荷圧力の変化による走行トルクの変化を示す図である。図4中、縦軸のqmaxは押しのけ容積可変機構20aの最大変位(最大押しのけ容積又は最大傾転量)であり、最大押しのけ容積qmaxと走行負荷圧力Ptとの積(面積)が走行トルクを表している。
【0039】
フロント作業機104を操作せずにアクセルペダル4を踏み込む単独走行を行うときは、上記のように傾転シリンダ27が動作して走行負荷圧力のみが発生しており、油圧式開閉弁38の第1受圧部38cに導かれる走行負荷圧力がバネ38bの設定圧Psmaxを超えると油圧式開閉弁38は図示の閉位置から開位置に切り換えられ、管路35aと管路35bを連通させることで、傾転シリンダ27のピストン27aは中立位置に復帰しようとする。これにより油圧ポンプ20の押しのけ容積が減少し、油圧ポンプ20の吐出流量が減少するため、走行負荷圧力は低下する。走行負荷圧力がバネ38bの設定圧Psmax以下に低下すると、油圧式開閉弁38は開位置から閉位置へと切り換えられ、管路35aと管路35bとの連通を遮断することで、傾転シリンダ27のピストン27aは固定絞り31の前後差圧に応じて再び駆動され、油圧ポンプ20の押しのけ容積を増加させる。これにより油圧ポンプ20の吐出流量が増加し、走行負荷圧力が再び上昇する。走行負荷圧力がバネ38bの設定圧Psmaxを超えると油圧式開閉弁38は再び閉位置から開位置に切り換えられ、上記のように油圧ポンプ20の押しのけ容積を減少させ、吐出流量を減少させる。以上の動作の繰り返しにより、走行負荷圧力Ptはバネ38bの設定圧Psmaxに維持される。すなわち、バネ38bの設定圧Psmaxは最大の走行負荷圧力Ptmaxに相当する。走行負荷圧力PtがPtmaxにあるときの走行トルクTtは、図4において、Ttmax=Ptmax×qmax(面積)で表され、走行トルクTtは最大となる。
【0040】
アクセルペダル4を踏み込みながらフロント作業機104を操作する走行と作業機の複合動作を行う場合において、作業機負荷圧力Pfがバネ41bの設定圧(所定値)Pfa以下にあるときは、油圧式切換弁41は図示の位置にあり、油圧式開閉弁38の第2受圧部38dには作業機負荷圧力が導かれるが、第3受圧部38eには作業機負荷圧力は導かれない。油圧式開閉弁38の第1受圧部38cに導かれる走行負荷圧力と第2受圧部38dに導かれる作業機負荷圧力の和がバネ38bの設定圧Psmaxを超えると、油圧式開閉弁38は図示の閉位置から開位置に切り換えられ、上記のように油圧ポンプ20の吐出流量は減少し、走行負荷圧力が低下する。走行負荷圧力がバネ38bの設定圧Psmax以下に低下すると、油圧式開閉弁38は開位置から閉位置へと切り換えられ、油圧ポンプ20の吐出流量が増加し、走行負荷圧力が再び上昇する。これらの動作の繰り返しにより、走行負荷圧力Ptと作業機負荷圧力Pfの和はバネ38bの設定圧Psmaxに維持される。このことは、走行負荷圧力Ptがバネ38bによって設定される最大走行負荷圧力Ptmaxからそのときの作業機負荷圧力Pfに応じた値だけ低い値に維持されることを意味する。その結果、走行負荷圧力Ptは、作業機負荷圧力Pfが上昇するにしたがって特性線Caのように低下する。Pt2は作業機負荷圧力が所定値Pfaまで上昇したときの走行負荷圧力である。このときの特性線Caの傾き(作業機負荷圧力Pfが上昇するときの走行負荷圧力Ptの低下割合)は作業機負荷圧力の影響度合いによって決まり、作業機負荷圧力の影響度合いは第2受圧部38dの受圧面積に依存する。走行負荷圧力PtがPt2にあるときの走行トルクTtは、図4において、Tt2=Pt2×qmax(面積)で表され、走行トルクTtは最大のTtmaxからTt2へと少し減少する。
【0041】
走行と作業機の複合動作を行う場合において、作業機負荷圧力Pfがバネ41bの設定圧Pfa(所定値)を超えると、油圧式切換弁41は図示の位置から切り換えられ、油圧式開閉弁38の第2受圧部38dと第3受圧部38eの両方に作業機負荷圧力が導かれる。したがって、このときは、油圧式開閉弁38の第1受圧部38cに導かれる走行負荷圧力と第2及び第3受圧部38d,38eに導かれる作業機負荷圧力の和がバネ38bの設定圧Psmaxを超えると、油圧式開閉弁38は図示の閉位置から開位置に切り換えられ、上記のように油圧ポンプ20の吐出流量は減少し、走行負荷圧力が低下する。走行負荷圧力がバネ38bの設定圧Psmax以下に低下すると、油圧式開閉弁38は開位置から閉位置へと切り換えられ、油圧ポンプ20の吐出流量が増加し、走行負荷圧力が再び上昇する。これらの動作の繰り返しにより、走行負荷圧力Ptと作業機負荷圧力Pfの和はバネ38bの設定圧Psmaxに維持される。すなわち、走行負荷圧力Ptは作業負荷圧力Pfが所定値Pfaにあるときの走行負荷圧力Pt2からそのときの作業機負荷圧力Pfに応じた値だけ低い値に維持される。その結果、走行負荷圧力Ptは、作業機負荷圧力Pfが上昇するにしたがって特性線Cbのように低下する。Pt1は作業機負荷圧力が最大のPfmaxまで上昇したときの走行負荷圧力である。このときの特性線Cbの傾き(作業機負荷圧力Pfが上昇するときの走行負荷圧力Ptの低下割合)は作業機負荷圧力の影響度合いによって決まり、作業機負荷圧力の影響度合いは第2受圧部38dの受圧面積と第3受圧部38eの受圧面積に依存する。このときは、第2受圧部38dと第3受圧部38eの両方に作業機負荷圧力が導かれているため、作業機負荷圧力Pfがバネ41bの設定圧Pfa(所定値)以下にあるときよりも作業機負荷圧力の影響度合いは大きく、特性線Cbの傾きは特性線Caの傾きよりも大きくなる。走行負荷圧力PtがPt1にあるときの走行トルクTtは、図4において、Tt1=Pt1×qmax(面積)で表され、走行トルクTtは最大のTtmaxからTt1へと大きく減少する。
【0042】
次に、以上のように構成した本実施の形態の効果を説明する。
(A)単独走行時
フロント作業機104を操作せずにアクセルペダル4を踏み込む単独走行を行うとき、業機負荷圧力Pfは0であり、上記のように走行負荷圧力Ptと走行トルクTtは、それぞれ、走行負荷圧力Pt=Ptmax、走行トルクTt=Ttmax(最大)となる。このように走行トルクTtが最大のTtmaxとなることにより、ホイールローダは高速で走行することができる。
(B)作業時
(B1)押土作業(押し込み掘削作業)
押土作業とは走行力でバケット111を土砂に貫入しながら持ち上げてバケット111内に土砂を掬い込む作業であり、走行と作業機の複合動作により行われる。この押土作業では作業機負荷圧力Pfは最大のPfmaxとなる。このときは上記のように、油圧式切換弁41は図示の位置から切り換えられ(Pfmax>Pfa)、最大の作業機負荷圧力Pfmaxが油圧式切換弁41の第2及び第3受圧部38d,38eの両方に導かれ、走行負荷圧力Ptと走行トルクTtは、それぞれ、走行負荷圧力Pt=Pt1、走行トルクTt=Tt1=Pt1×qmaxとなる。すなわち、このときの走行負荷圧力Pt1は最大の走行負荷圧力Ptmaxに対して比較的大きく低下し、これに応じて走行トルクTt1も最大の走行トルクTtmaxに対して、比較的大きく減少する。このように走行トルクTtが小さめとなることにより、押土作業で土砂に貫入しながらバケット掬い上げる場合に、タイヤがスリップすることが防止され、押土作業に最適の走行トルクが得られ、効率良く押土作業を行うことができる(作業効率向上)。
(B2)押土作業の後の土砂積み込み作業
押土作業によりバケット111内に土砂を掬い込んだ後は、車体を移動(走行)しながらバケット111を持ち上げ、その状態でダンプへと接近してダンプの荷台に放土する土砂積み込み作業を行う。この土砂積み込み作業でバケット111を持ち上げるときの作業機負荷圧力Pfは最大で所定値Pfa程度である。このときは上記のように、油圧式切換弁41は図示の位置にあり(Pf≦Pfa)、そのときの作業機負荷圧力Pfが油圧式開閉弁38の第2受圧部38dのみに導かれ、走行負荷圧力Ptと走行トルクTtは、それぞれ、走行負荷圧力Pt≧Pt2、走行トルクTt≧Pt2×qmaxとなる。すなわち、このときの走行負荷圧力Ptは最大の走行負荷圧力Ptmaxに対して少し低下するだけであり、走行トルクTtも最大の走行トルクTtmaxに対して少し減少する。このように走行トルクTtが走行トルクTtmaxに対して少し減少することにより、走行速度が大きく低下せず、土砂積み込み作業に対する最適の走行トルクが得られ、作業効率が向上する。
【0043】
図5は、図1に示す油圧駆動システムにおいて、油圧式切換弁41がなく、油圧式開閉弁38に第3受圧部38eがない場合に、押土作業重視で第2受圧部38dの受圧面積を設定し、作業機負荷圧力Pfに対する走行負荷圧力Ptの特性線を設定した場合の作業機負荷圧力と走行負荷圧力との関係を示す特性線図であり、図6は、同じく油圧式切換弁41がなく、油圧式開閉弁38に第3受圧部38eがない場合に、押土作業の後の土砂積み込み作業重視で第2受圧部38dの受圧面積を設定し、作業機負荷圧力Pfに対する走行負荷圧力Ptの特性線を設定した場合の作業機負荷圧力と走行負荷圧力との関係を示す特性線図である。
【0044】
図5に示すように特性線Ccを設定した場合は、押土作業では本実施の形態と同様、走行負荷圧力PtはPtmaxに対してPt1へと大きく低下し、これに伴い走行トルクTtもTtmaxに対して大きく減少するため、押土作業に最適の走行トルクが得られる。しかし、この場合は、押土作業の後の土砂積み込み作業においても、走行負荷圧力PtはPt3へとPt2より大きく低下してしまい、これに伴って走行トルクTtも走行負荷圧力がPt2のときの走行トルクTt2よりも大きく低下する。その結果、土砂積み込み作業に対しては走行トルク不足となり、走行速度が遅くなり、作業効率が低下する。
【0045】
図6に示すように特性線Cdを設定した場合は、押土作業の後の土砂積み込み作業では、本実施の形態と同様、走行負荷圧力PtはPtmaxに対してPt2へと少し低下するだけであり、これにより走行トルクTtもTtmaxに対して少し減少するだけであるため、走行速度が大きく低下せず、土砂積み込み作業に対する最適の走行トルクが得られ。しかし、この場合は、押土作業でも走行負荷圧力PtはPt4へとPtmaxより少し低下するだけであり、走行トルクTtもTtmaxより少し低下するだけであるため、押土作業に最適の走行トルクが得られない。その結果、押土作業で土砂に貫入しながらバケット掬い上げる場合に、タイヤがスリップしてしまい、バケットの押し込み力が低下し、効率良く押土作業を行うことができない(作業効率低下)。
【0046】
本実施の形態の油圧駆動システムにおいては、上記のように、作業機負荷圧力Pfが所定値Pfaを超えると、作業機負荷圧力Pfに対する走行負荷圧力Ptの特性線がCaからCbに変更されるので、押土作業及びその後の土砂積み込み作業のいずれの場合も最適の走行トルクが得られ、作業効率を向上することができる。
【0047】
また、作業機負荷圧力Pfが所定値Pfaを超えると、作業機負荷圧力Pfを制御パイロット圧として油圧式切換弁41が第1位置から第2位置へと切り換わり、作業機負荷圧力Pfに対する走行負荷圧力Ptの特性線がCaからCbに自動で変更されるので、操作性に優れ、作業効率を向上することができる。
【0048】
以上のように本実施の形態によれば、作業機負荷圧力Pfを制御パイロット圧として油圧式切換弁41を第1位置と第2位置との間で切り換えるので、作業機負荷圧力Pfに対する走行負荷圧力Ptの特性線を作業の種類に応じて自動で変更することができ、優れた操作性が得られ、作業効率を向上することができる。
【0049】
また、本実施の形態の油圧駆動システムにおいては、油圧式切換弁41がなく、油圧式開閉弁38に第3受圧部38eがない油圧駆動システムに対して、油圧式開閉弁に第3受圧部を追加し、機器類として油圧式切換弁を追加設置しただけの純油圧的な構成であり、部品点数が少なくかつ電気制御が不要で、構造が簡単であり、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0050】
なお、以上の実施の形態では、油圧式開閉弁38に油圧式切換弁41により作業機負荷圧力が選択的に導かれる受圧部として1つの受圧部(第3受圧部38e)を設けたが、第3受圧部及び第4受圧部の2つ以上の受圧部を設けてもよい。この場合、例えば油圧式切換弁41を第1〜第3の3以上の切り換え位置を有するものとし、作業機負荷圧力が第1所定値を超えると油圧式切換弁41を第1位置から第2位置に切り換えて上記第3受圧部に作業機負荷圧力を導き、作業機負荷圧力が更に上昇して第1所定値より大きな第2所定値を超えると油圧式切換弁を第2位置から第3位置に切り換えて上記第3受圧部と第4受圧部の両方に作業機負荷圧力を導くように構成する。これにより図3に示した特性線図においては、特選線は第1及び第2所定値の少なくとも2点で傾きが変わるようになり、より多様な制御が可能となる。
【0051】
また、上記実施の形態では、一例として、第1〜第3受圧部38c,38d,38eの受圧面積は同じであるとしたが、これらの受圧面積を適宜異ならせてもよい。これにより図3に示した特性線図における特性線Ca,Cbの傾きを適宜変更することができ、より作業の種類に適した走行トルクを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる走行作業機械の油圧駆動システムを示す図である。
【図2】本発明が適用されるホイールローダ(走行作業機械)の外観を示す図である。
【図3】本実施の形態における油圧駆動システムの作業機負荷圧力と走行負荷圧力との関係を示す特性線図である。
【図4】本実施の形態における油圧駆動システムの走行負荷圧力の変化による走行トルクの変化を示す図である。
【図5】本実施の形態における油圧駆動システムにおいて、油圧式切換弁と油圧式開閉弁の対応する受圧部が備えられていない場合に、押土作業重視で油圧式開閉弁の受圧部の受圧面積を設定した場合の作業機負荷圧力と走行負荷圧力との関係を示す特性線図である。
【図6】本実施の形態における油圧駆動システムにおいて、油圧式切換弁と油圧式開閉弁の対応する受圧部が備えられていない場合に、押土作業の後の土砂積み込み作業重視で油圧式開閉弁の受圧部の受圧面積を設定した場合の作業機負荷圧力と走行負荷圧力との関係を示す特性線図である。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン
2 HST走行油圧回路
3 作業機用油圧回路
4 アクセルペダル
6 作業機用油圧ポンプ
7 チャージポンプ
8 油圧ライン
11 走行駆動回路
12 走行制御回路
20 走行用の可変容量型油圧ポンプ
20a 押しのけ容積可変機構
21a,21b 主管路
22 走行用の油圧モータ
23a,23b オーバロードリリーフ弁
24 フラッシング弁
25a,25b 補給用チェック弁
27 傾転シリンダ
27a ピストン
27b,27c シリンダ室
27d,27e バネ
28 低圧リリーフ弁
29,30 管路
31 固定絞り
32 パイロットリリーフ弁
34a,34b 管路
45a,35b 管路
36 前後進切換弁
37a,37b 管路
38 油圧式開閉弁
38a 弁体
38b バネ
38c,38d,38e 第1〜第3受圧部
39 前後進切換レバー
40 シャトル弁
41 油圧式切換弁
41a 弁体
41b バネ
41c 受圧部(第4受圧部)
42〜45 管路
48 管路
100 ホイールローダ
101 車体前部
102 車体後部
103 ステアリングシリンダ
104 フロント作業機
105 前輪
106 運転室
107 後輪
109 操作レバー
110 ハンドル
111 バケット
112 ブーム
113 バケットシリンダ
114 ブームシリンダ
115 支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により駆動される走行用の可変容量型油圧ポンプと、
前記原動機により駆動される作業機用の油圧ポンプと、
前記可変容量型油圧ポンプと閉回路接続され、前記可変容量型油圧ポンプからの吐出油によって駆動される走行用油圧モータと、
前記作業機用の油圧ポンプを油圧源とする作業機用油圧回路と、
前記可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を変化させる油圧アクチュエータと、
この油圧アクチュエータに対する圧油の給排を制御し前記可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を制御する走行制御回路とを備えた走行作業機械の油圧駆動システムにおいて、
前記走行用油圧モータの負荷圧力が導かれる第1受圧部及び前記作業機用油圧回路の負荷圧力が導かれる第2受圧部及び第3受圧部を有し、前記走行用油圧モータの負荷圧力と前記作業機用油圧回路の負荷圧力の和が予め設定した値を超えると前記可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を減らすように前記油圧アクチュエータを作動させる油圧式開閉弁と、
前記油圧式開閉弁の第3受圧部と前記作業機用油圧回路の間に配置され、前記作業機用油圧回路の負荷圧力が導かれる第4受圧部を有する油圧式切換弁とを有し、
前記油圧式開閉弁の第2受圧部は前記作業機用油圧回路に常時連通するよう接続され、
前記油圧式開閉弁の第3受圧部は前記油圧式切換弁を介して前記作業機用油圧回路に接続され、
前記油圧式切換弁は、前記作業機用油圧回路の負荷圧力が所定値以下にあるときは第1位置にあり、この第1位置では前記第3受圧部と前記作業機用油圧回路との連通を遮断し、前記作業機用油圧回路の負荷圧力が前記所定値を超えると第2位置に切り換えられ、この第2位置では前記第3受圧部を前記作業機用油圧回路に連通させることを特徴とする走行作業機械の油圧駆動システム

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−25179(P2010−25179A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185390(P2008−185390)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】