説明

超音波モータ用振動子摩擦接触部材および超音波モータ用振動子

【課題】振動子先端の摩擦接触部の形状により初期動作が持続して安定な速度、推力、安定な共振周波数が保たれ、安定した動作特性が長期にわたって得られる超音波モータ用振動子を提供する。
【解決手段】被駆動体2を摩擦接触で駆動する超音波モータ用振動子1の摩擦接触部材において、振動子先端の接触子を前記被駆動体との摩擦接触で摩耗する際に軸方向に沿って横断面の外形と横断面積が同一の状態を保つピン形部材で構成したことを特徴とする超音波モータ用振動子摩擦接触部材、およびその超音波モータ用振動子摩擦接触部材を備えた超音波モータ用振動子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波モータ用振動子に関し、特に、被駆動体を摩擦接触で駆動する振動子先端の摩擦接触部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・情報技術の急速な発展に伴ない、精密部品の更なる微細化、高集積化が求められており、ナノオーダ(10-9m)での検査や超微細加工に対応する超精密位置決め装置が必要となっている。また、医療やバイオ研究において、タンパク質や細胞の制御による応用技術開発が進み、より微細な領域での位置決めが可能な顕微鏡用ステージに対するニーズが高まっている。さらに近年では高精度化への要求と併せて、検査、加工、測定などの対象物が小さくなるに伴ない、位置決め装置やその駆動源の小形化、軽量化も求められている。
【0003】
このようなナノオーダでの微細領域に対処する駆動装置として、従来の電磁モータに代わって、特許文献1〜3に記載されるような圧電振動素子を用いた超音波モータが開発されている。これらの特許文献には、後述するように被駆動体と摩擦接触する振動素子先端の摩擦接触子の材質、硬度、耐摩耗性などについて詳述されている。
【0004】
この超音波モータは、電磁モータとは全く異なる駆動原理に基づく駆動装置であり、低速、高トルク、無音、停止時の保持性など優れた特長を有している。また、振動子の構造が単純なことから小形化に有利であり、小型アクチュエータとしても期待されている。
【0005】
一般に超音波モータは振動子と移動体(被駆動体)とにより構成されており、この振動子の摩擦接触部を前記移動体に押し付け、加圧した状態で機能する。この状態で前記振動子の摩擦接触部に楕円運動を発生させることで、摩擦接触部が移動体に間欠的に圧接しながら前記移動体を一方向に送り出す。前記移動体の動作速度は楕円運動の振幅の大きさを変えることで制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−252767号公開公報
【特許文献2】特開2002−27768号特許公報
【特許文献3】特開2005−124377号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波モータでは動作特性が安定することが必要であり、そのためには振動子の楕円運動を被駆動体に伝達する振動子先端の摩擦接触部の材質、形状などの選定が特に重要となる。しかし従来は前記摩擦接触部の材質のみに配慮し、摩擦接触部の形状や構造自体には細かな注意が払われていない。前記接触部の耐摩耗性が優れていても、その形状によって動作特性が変動し、移動速度や推力の安定性、共振周波数の安定性がくずれてしまうことがある。
【0008】
例えば、前記摩擦接触部を半球体で構成した場合、長期使用で前記半球体が摩耗すると、被駆動体との接触面積が当初の状態より増加して共振周波数が上昇し、速度低下や動作停止の事態をひき起こす。また、前記摩擦接触が角柱など稜部をもつ矩形体で構成した場合、稜部の接触でチッピングを起こすことがあり、かつ稜部の摩耗による初期動作が持続せず、寿命が短くなる。さらに、前記摩擦接触部の面積が大きすぎると、接触面の摩耗が全面均等にならず、動作性が悪くなり、逆に前記摩擦接触部の面積が小さすぎると、摩耗の進行が早く、短寿命となってしまう。
【0009】
特許文献1では、振動子先端の摩擦接触部にステンレス材などの摩耗に強い鋼材を使用し、被駆動体をアルミナセラミックス、ジルコニアセラミックスその他の耐摩耗性のセラミックス材で構成して接触部全体の耐摩耗性を高めた構成について記載しているが、同文献1の図2に見られるように振動子先端の接触部は半球体であり、前述したように接触摩耗による接触面積の変化が生じる。
【0010】
また、特許文献2においても、振動子先端の押圧部材(摩擦接触部)の材質や表面粗さ、機械的強度など摩耗量低減についての対策がなされているものの、前記押圧部材の形状については言及されておらず、90°の稜部をもつ部材が図示されているのみである。特許文献3においても、摩擦部材をアルミナやアルミナと炭化チタンとの複合材料、ジルコニアなどで形成することで耐摩耗性を高めることが示されているものの、同文献3に図示された摩擦部材は半球体となっており、特許文献1と同様の問題がある。
【0011】
従って、本発明は、振動子先端の摩擦接触部の形状により初期動作が持続して安定な速度、推力、安定な共振周波数が保たれ、安定した動作特性が長期にわたって得られる超音波モータ用振動子を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、(1)被駆動体を摩擦接触で駆動する超音波モータ用振動子の摩擦接触部材において、振動子先端の接触子を前記被駆動体との摩擦接触で摩耗する際に軸方向に沿って横断面の外形と横断面積が同一の状態を保つピン形部材で構成したことを特徴とする超音波モータ用振動子摩擦接触部材が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、(2)前記ピン形部材が、横断面が直径0.3mm以上、1.0mm以下の円形状で、かつ長さが0.3mm以上、2.0mm以下である前記(1)に記載の超音波モータ用振動子摩擦接触部材が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、(3)前記ピン形部材が、横断面が1辺0.3mm以上、1.0mm以下で、長さ0.3mm以上、2.0mm以下の矩形状であり、前記矩形の稜部がR面取りされている前記(1)に記載の超音波モータ用振動子摩擦接触部材が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、(4)前記ピン形部材が振動子先端部分のピン台に設けられ、前記ピン台が直径1mm以上の円柱形もしくは角柱形である前記(2)または(3)に記載の超音波モータ用振動子摩擦接触部材が提供される。
【0016】
さらに、本発明によれば、(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の超音波モータ用振動子摩擦接触部材を備えた超音波モータ用振動子が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、超音波モータ用振動子における振動子先端の摩擦接触部が摩擦摩耗した後も、被駆動体との接触面積が一定となる形状とすることで、動作特性の安定した超音波モータ用振動子が実現できる。
また、摩擦接触部の稜部でのチッピングが起こらず、摩耗の進行や毀損が抑制され、寿命の長い超音波モータ用振動子が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1による超音波モータ用振動子の平面図(A)および側面図(B)である。
【図2】(a)〜(c)は、図1に示す振動子先端の摩擦接触子(ピン形部材)で摩耗が進行していく状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施例2による超音波モータ用振動子の平面図(A)および側面図(B)である。
【図4】本発明が適用される超音波モータの作動原理を模型的に示す図である。
【図5】(a)〜(c)は、振動子先端の摩擦接触子を半球体で構成した従来例の振動子の摩耗進行状態を示す平面図である。
【図6】本発明の実施例3による角柱形のピン形部材の拡大平面図である。
【図7】超音波モータにおける被駆動体の移動距離と共振周波数の関係を本発明と従来例の振動子を比較して示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明を、図面を参照しながら実施形態に係る超音波モータについて説明する。図4は本発明が適用される超音波モータの作動原理を模型的に示した図である。この超音波モータは振動子1とスライダ(被駆動体)2を含み、振動子1は圧電振動素子で構成され、この側面に設けた電極(図示省略)を印加することにより、伸縮動作と屈曲動作が同時に生成され、その組み合せにより、少なくともその一部が、特に被駆動体2と摩擦接触する振動子先端部が楕円運動を行って被駆動体2を間欠的に移動動作させる。例えば、図4(A)中のp点(振動子の左端面の中心点)は、(a)〜(d)の4つの状態を経て同図(B)に示す軌跡を描く。図中、xは振動子の長手方向軸線、yは振動子の上下側面1aに垂直な軸線である。
【0020】
振動子1の楕円運動している先端部分には、摩擦接触子3が固着(接着)されている。振動子1の楕円運動は摩擦接触子3を介して被駆動体2に伝達され、被駆動体2を動かす駆動力となる。図4の例では、この楕円運動の反復により被駆動体2はガイド4に沿って下方へと送られる。また、被駆動2を円環状にすれば、ガイド4のまわりの回転運動を生じさせることも可能である。なお、楕円運動の大きさは前記圧電振動素子1の電極への入力電圧によって制御される。
【0021】
次に、本発明を各種の実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の実施例1による超音波モータ用振動子の平面図(A)および側面図(B)、図2は図1に示す振動子先端の摩擦接触子(ピン形部材)6およびピン台5を示す拡大斜視図であり、使用継続により同図の(a)から(c)へとピン形部材6の摩耗が進行していく状態を示している。図1のように振動子1の先端部にはピン台5が設けられ、さらにこのピン台5の上面に、被駆動体と摩擦接触するピン形部材6が設けられている。
【0023】
実施例1のピン形部材6は横断面が軸方向に沿って同一の外径を成す円柱形に形成されている。したがって、被駆動体との摩擦接触でピン形部材6が摩耗して図2に示すように初期状態(a)から(b)、(c)へと摩耗が進んでいっても、長さが減少するだけで被駆動体との接触面積は変わらず、これにより、初期動作が持続して安定した速度、推力、共振周波数が保たれる。なお、ピン台5に設けるピン形部材6は接着手段によってピン台5に固着してもよいし、ピン台5と一体に形成してもよい。
【0024】
図5は振動子先端の摩擦接触子3を半球体で構成した従来例の振動子の摩耗進行状態を示した平面図である。初期状態(a)から(b)、(c)へと摩耗が進むにつれて被駆動体との接触部3aの面積は平坦状に増大していき、それにつれて共振周波数が上昇し、速度が次第に遅くなり、最終的には停止するに至る。
【0025】
本発明に係る実施例1の円柱形のピン形部材6はピン直径が0.3mm以上、1.0mm以下であり、好ましくは、0.5mm以上、0.8mm以下がよい。ピン形部材6の直径が1mmを超えると接触面が大きすぎてピン先端の摩耗が全面均等にならず、動作性が悪くなる。また、ピン直径が0.3mmより小さくなると、摩耗の進行が早く、寿命が短くなる。
【0026】
ピン形部材6の長さは0.3mm以上、2mm以下が好ましい。長さが2mmを超えると、ピンの根元にかかる応力でピン形部材6の破壊が起こり易くなると共に、ピン自身の振動が発生し、超音波モータの位置決め精度が低下する。
また、ピン形部材6の横断面を円形状とすることにより、被駆動体に対する接触の方向性がなくなり、セッティングの自由度が高くなり、量産性にも優れる。
【0027】
実施例1では、図1のようにピン形部材6が固着されたピン台5はその横断面が直径1mm以上の円形状に構成されている。ピン台5の直径が1mm以下になると、振動子1との接着面の曲げ応力により、ピン台5が振動子1に対して脱落し易くなる。
【実施例2】
【0028】
図3は本発明の実施例2による超音波モータ用振動子の平面図(A)および側面図(B)である。この場合は、振動子先端部分のピン台5はその横断面が矩形状に形成されている。一例として矩形状ピン台の短辺の長さが2mm、長辺の長さが3mmである。なお、矩形状ピン台5はその横断面が正方形であってもよい。この場合、正方形断面の一辺の長さは円柱形のピン台と同様に1mm以上とするのがよい。
【実施例3】
【0029】
ピン形部材はその横断面が矩形状の角柱であってもよい。図6は角柱形のピン形部材7の拡大平面図であり、この場合、角柱の4側部7aの稜部がR面取りが施されている。この実施例における角柱の一辺の長さは前述した円柱形のピン形部材の直径と大略同じでよい。また、角柱形の場合もピン長さは2mm以下が好ましい。角柱の稜部にR面取りがなされない場合は、摩擦接触中に稜部でチッピングが起こり、この部分で摩耗が加速され、初期動作が維持されず、寿命が短くなるが、稜部のR面取りにより、このような問題は起こらなくなることが確認された。
【0030】
図7は被駆動体の移動が進んでいった場合の共振周波数の変化を、本発明による摩擦接触子と従来の摩擦接触子とで比較して示した図である。図中、aは従来の半径2mmの半球体の摩擦接触子の場合、bは従来の半径2mmの円柱体を中心で軸方向に沿って分割して所定長さの半円柱とした摩擦接触子の場合であり、cは本発明による直径0.8mmの横断面の等しい円柱のピン形部材の接触子である。なお、前記半円柱の場合は円柱の分割面を振動子の先端部に固着している。また、この例では振動子側の接触子および被駆動体を部分安定化ジルコニアで形成した。この図からも分るように、半球体の場合は移動距離1000mあたりから、半円柱の場合は、移動距離500mあたりから急激に共振周波数が上昇するのに対し、本発明の横断面積一定の円柱ピン形部材では略全移動範囲にわたって共振周波数が概ね一定化し、超音波モータの動作特性が安定している。
【0031】
本発明におけるピン形部材の材質としては、各種のアルミナセラミックその他の耐摩耗性部材が採用可能である。一例を挙げると、エンジニアリングプラスチック、特にPPSを使用した場合、被駆動体は部分安定化ジルコニアもしくは96%以上のアルミナが望ましい。また、ピン形部材の材質にセラミックを選択した場合は、ピン形部材を部分安定化ジルコニアとし、被駆動体側は96%以上のアルミナとするのが望ましい。
【符号の説明】
【0032】
1 振動子
2 被駆動体(スライダ)
5 ピン台
6 円柱形のピン形部材
7 角柱形のピン形部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動体を摩擦接触で駆動する超音波モータ用振動子の摩擦接触部材において、振動子先端の接触子を前記被駆動体との摩擦接触で摩耗する際に軸方向に沿って横断面の外形と横断面積が同一の状態を保つピン形部材で構成したことを特徴とする超音波モータ用振動子摩擦接触部材。
【請求項2】
前記ピン形部材が、横断面が直径0.3mm以上、1.0mm以下の円形状で、かつ長さが0.3mm以上、2.0mm以下である請求項1に記載の超音波モータ用振動子摩擦接触部材。
【請求項3】
前記ピン形部材が、横断面が1辺0.3mm以上、1.0mm以下で、長さ0.3mm以上、2.0mm以下の矩形状であり、前記矩形の稜部がR面取りされている請求項1に記載の超音波モータ用振動子摩擦接触部材。
【請求項4】
前記ピン形部材が振動子先端部分のピン台に設けられ、前記ピン台が直径1mm以上の円柱形もしくは角柱形である請求項2または3に記載の超音波モータ用振動子摩擦接触部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の超音波モータ用振動子摩擦接触部材を備えた超音波モータ用振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−155761(P2011−155761A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15217(P2010−15217)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【出願人】(390010216)ニッコー株式会社 (49)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100081086
【弁理士】
【氏名又は名称】大家 邦久
【Fターム(参考)】