説明

車両のキーレスエントリー装置

【課題】特定の状況において車両側で生じ得る複数の携帯機からの応答の衝突を防止し、正常な動作を保証できるキーレスエントリー装置を提供する。
【解決手段】第1車両から最初に「Sync+Wakeup ID」を送信する(時刻t1〜t2)。第1車両と対をなす第1携帯機はこれに反応しないが、他の第2携帯機が偶然に一致した反転コードを有する場合、「Welcome」応答を送信する(時刻t2〜t5)。この応答中に正規の「Sync+Wakeup ID」及び「コマンド+付加データ」からなる「Who」コマンドを送信することで、第1携帯機が正常に「Who」の応答を行うことができる(時刻t6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載機とユーザが所持する携帯機との間で無線通信による認証が成立したことを条件として、車両の装備品を動作させる制御を行う車両のキーレスエントリー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のキーレスエントリー装置に関して従来、例えばスマートエントリシステムやスマートキーシステム等の名称で知られる車載機器遠隔制御装置の先行技術がある(例えば、特許文献1参照。)。この車載機器遠隔制御装置は、車両側のアンテナから無線により定期的に車外エリアに起動信号を送信し(定期送信方式)、その起動信号を受信したユーザの携帯機からの応答を受けて相互認証が成立すると、ロック状態にあるドアを解除する動作を制御する。
【0003】
特に上記の先行技術では、同種の遠隔制御装置を搭載した多くの車両が駐車されている状況で、隣接する複数台の車両から同じタイミングで起動信号が送信された場合、通信干渉によって信号が劣化する点に着目している。すなわち先行技術は、車載機から送信する起動信号を予めPN符号(擬似雑音系列符号)としておき、これと対応する携帯機にもPN符号を保持させておくことで、通信干渉が発生した場合であっても、携帯機で受信したPN符号と自己のPN符号との相関値を演算することにより、高い確率で正規ユーザの認証を実現することができる。
【0004】
上記の先行技術をはじめとして、一般にキーレスエントリー装置における車載機と携帯機との間の認証には、車両に固有のIDコードが用いられている。車載機及び携帯機には、車両に固有のIDコードが各々に保持されることにより、車載機及び携帯機が双方の対応関係を正しく認識(相互認証)することができる。
【0005】
また、IDコードは多くの車両別にユニークである必要があり、複数台での重複を避けるため、IDコードはある程度のビット長(例えば24ビット)で記述される。ただし、相互認証のシーケンスでは、初期に車載機から携帯機へ起動信号等を送信する段階で24ビット全てを用いる必要はなく、その一部を使用すれば充分である。例えば、IDコードの全24ビット中、その下位8ビットのみを起動用に短縮したIDに使用すれば、それだけ通信時間を短縮することができ、システムの応答性を向上することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−68255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、起動用のトリガ等にIDコードを短縮して使用する手法は通信時間を短縮できる点で有用であるものの、場合によっては予期しない不具合を誘発する場合がある。例えば、車載機から携帯機に送信される起動信号に複数の異なる用途(ドアロック解除用、ウェルカム動作用等)がある場合を想定する。このうちドアロック解除用の起動信号は、正規ユーザの携帯機が車両近辺(通信エリア内)に存在する場合、例えば簡易なタッチ操作によってドアをアンロック(解錠)するものである。またウェルカム動作用の起動信号は、正規ユーザの携帯機が車両に接近すると、灯火類や照明を点灯・点滅させて自車両の存在をアピールするものである。
【0008】
これら複数の用途でそれぞれ短縮IDを使用すると、全体としてIDコードは一致していなくても、短縮ID同士で比較した場合に複数の車両間で重複が発生する確率が高くなる。このため、例えば同一のユーザが複数台の車両(例えば車両A,B)を所有し、各車両A,Bと対になる2つの携帯機A,Bを所持したまま一方の車両Aに接近した場合、車両A,BのIDコードは相互に不一致であっても、偶然にも一方の車両Aでロック解除に用いられる短縮IDが他方の車両Bでウェルカム動作に用いられる短縮IDに一致することがある。この場合、車両Aからロック解除用の起動信号が送信されると、これを受信した携帯機Bには車両Bからウェルカム動作用の起動信号が送信されたと認識されるため、本来なら対でないはずの車両Aに対して携帯機Bから応答信号が送信されてしまう。すると、携帯機Aが正常に応答信号を送信しても2つの携帯機A,Bからの応答によって通信障害が発生し、システムの動作が不安定になる可能性がある。
【0009】
本発明は上述した事情に鑑み、特定の状況において車両側で生じ得る複数の携帯機からの応答の衝突を防止し、正常な動作を保証できるキーレスエントリー装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
すなわち本発明の車両のキーレスエントリー装置は、車両識別データに応答指示データを付加せずに構成された擬似呼出信号を車載機から送信させている。ここで「擬似呼出信号(例えばダミーコマンド)」は、本来の「呼出指示信号(例えば「Who」コマンド)」が車載機から送信されるのに先立って送信されるものである。
【0011】
本来の「呼出指示信号」は、車両に固有の識別情報(IDコード)に由来して生成される車両識別データ(例えばWakeup ID)に対し、所定の応答指示データ(例えばコマンド+付加データ)を付加して構成されている。「呼出指示信号」は、上記の「擬似呼出信号」の送信後、所定の待機時間をおいて車載機から送信される。
【0012】
また車両のキーレスエントリー装置は、「呼出指示信号」とは別に「接遇信号(例えば「Welcome」コマンド)」を車載機から送信させる。「接遇信号」は、車両に固有の識別情報に由来しつつ、車両識別データとは各桁の論理値が反転した関係にある反転車両識別データで構成されている。
【0013】
上記の「擬似呼出信号(例えばダミーコマンド)」を受信した携帯機では、車両識別データの表記が自己に固有の識別情報に由来して生成される携帯機識別データの表記と一致する場合は擬似呼出信号を無視する。その一方で、車両識別データの表記が携帯機識別データとは各桁の論理値が反転した関係にある反転携帯機データの表記と一致する場合、「擬似呼出信号」を擬似的に接遇信号と解釈して「擬似応答信号(例えばダミーに対する「Welcome」の応答)」を携帯機から送信する。
【0014】
また、本来の「呼出指示信号(例えば「Who」コマンド)」を受信した携帯機では、車両識別データの表記が自己に固有の識別情報に由来して生成される携帯機識別データの表記と一致する場合、応答指示データに対する「応答信号(例えば「Who」の応答信号)」を送信する。
【0015】
また、「接遇信号(例えば「Welcome」コマンド)」を受信した携帯機では、反転車両識別データの表記が自己の有する識別情報に由来して生成される携帯機識別データの表記と一致する場合、「接遇信号」に対する「接遇応答信号(例えば正規の「Welcome」の応答信号)を送信する。
【0016】
本発明のキーレスエントリー装置によれば、例えば1台の車両に対してユーザの所持する携帯機が複数あり、ある1つの携帯機で用いる「呼出指示信号(例えば「Who」コマンド)」の表記が他の携帯機で用いる「接遇信号(例えば「Welcome」コマンド)」の表記と偶然に重複した場合、以下の流れで通信障害を回避することができる。
【0017】
(1)先ず、車載機から「擬似呼出信号(例えばダミーコマンド)」を送信することで、他の携帯機にこれを自己にとっての「接遇信号(例えば「Welcome」コマンド)」であると誤認識させる。
(2)本来の携帯機は、「擬似呼出信号(例えばダミーコマンド)」が「呼出指示信号(例えば「Who」コマンド)」としての体裁をなしていないため、これを無意味なものとして扱うことができる。
(3)一方、他の携帯機は、誤認識によって「接遇応答信号(例えば「Welcome」の応答信号)」を送信する。
(4)そして、他の携帯機が「接遇応答信号(例えば「Welcome」の応答信号)」を送信中に本来の「呼出指示信号(例えば「Who」コマンド)」を送信する。このため他の携帯機は、本来の「呼出指示信号(例えば「Who」コマンド)」が送信されてもこれを受信することはないので、繰り返しの誤認識は生じない。
(5)これにより、本来の携帯機から正規の「応答信号(例えば「Who」の応答信号)」を送信し、キーレスエントリー装置としての動作を正常に実行することができる。
(6)なお、上記(1)〜(5)とは別に、本来の携帯機が「接遇信号(例えば「Welcome」コマンド)」を受信した場合、携帯機は正規に「接遇応答信号(例えば正規の「Welcome」の応答信号)」を送信することができる。これにより、同じくキーレスエントリー装置としての動作が正常に実行される。
【0018】
本発明のキーレスエントリー装置において、互いに異なる第1識別情報及び第2識別情報のいずれか一方を固有とする第1車両及び第2車両について、第1識別情報に由来して生成される第1車両識別データの表記が第2識別情報に由来して生成される第2車両識別データとは各桁の論理値が反転した関係にあり、第1車両及び第2車両のそれぞれと対をなす第1携帯機及び第2携帯機について、第1携帯機が第1識別情報を固有とし、第2携帯機が第2識別情報を固有とする場合を想定する。
【0019】
上記の場合において、第1車両の車載機から第1車両識別データに応答指示データを付加せずに構成された擬似呼出信号を送信するものとする。そして、第1携帯機により擬似呼出信号が受信された場合、第1車両識別データの表記が第1識別情報に由来して生成される第1携帯機識別データの表記と一致することを根拠として擬似呼出信号を無視することができる。その一方で、第2携帯機により擬似呼出信号が受信された場合、第1車両識別データの表記が第1携帯機識別データとは各桁の論理値が反転した関係にある第2反転携帯機データの表記と一致することを根拠として擬似呼出信号を擬似的に接遇信号と解釈し、擬似応答信号を第2携帯機から送信することができる。そして、第1車両の車載機から擬似呼出信号が送信された後は、少なくとも第2携帯機により擬似応答信号の送信が開始されるまでの時間を待機時間として第1車両の車載機から呼出指示信号を送信することが好ましい。
【0020】
上記の態様によれば、第1車両の車載機から擬似呼出信号を送信すると、本来の対になる第1携帯機はこれを無視するが、対にならない第2携帯機は擬似呼出信号に反応して擬似応答信号を送信する。そして、第2携帯機が応答中の隙を狙って第1車両の車載機から正規に呼出指示信号を送信することができるので、第2携帯機の誤認識による通信障害を確実に回避することができる。
【0021】
また呼出指示信号の送信に際しては、第1車両の車載機から擬似呼出信号が送信された後、第2携帯機により擬似応答信号の送信が開始されてから擬似応答信号の送信が終了する前までの時間を待機時間として第1車両の車載機から呼出指示信号を送信することが好ましい。
【0022】
これにより、擬似呼出信号に対して第2携帯機が擬似応答信号の送信を開始すると、その送信が終了する前までに第1車両の車載機から正規の呼出指示信号を送信することができるため、より確実に第2携帯機の誤認識による通信障害を回避することができる。
【0023】
擬似呼出信号の送信については、第1車両の車載機から擬似呼出信号を初回に送信させた後、第2携帯機による擬似応答信号の初回の送信が終了するまでの休止時間をおいて第1車両の車載機から次回の擬似呼出信号を送信させるものであってもよい。また呼出指示信号の送信については、第1車両の車載機から初回及び次回の擬似呼出信号がそれぞれ送信された後、少なくとも次回の擬似呼出信号に対する次回の擬似応答信号の送信が第2携帯機により開始されるまでの時間を待機時間として、第1車両の車載機から呼出指示信号を送信させることが好ましい。
【0024】
上記の態様であれば、例えば通信処理能力(送信レート)の違いにより、擬似応答信号の送信に要する時間が携帯機によって違っていても、より能力が低い方の携帯機に合わせて正規に呼出指示信号を送信することができる。これにより、実用上の利便性を向上し、より汎用性の高いキーレスエントリー装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の車両のキーレスエントリー装置によれば、特定の状況が生じ得ることを想定した上でなお、通信の確実性と正常な動作を保証し、その信頼性を大きく向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一実施形態のキーレスエントリー装置の概略的な構成を示す図である。
【図2】キーレスエントリー装置の電気的な構成を概略的に示したブロック図である。
【図3】「Who」コマンド及び「Welcome」コマンドのフレーム構造例を示す概略図である。
【図4】比較事例1において車載制御モジュールと携帯機との間で行われる送受信の関係を示したタイミングチャートである。
【図5】実施事例1において車載制御モジュールと携帯機との間で行われる送受信の関係を示したタイミングチャートである。
【図6】比較事例2において車載制御モジュールと携帯機との間で行われる送受信の関係を示したタイミングチャートである。
【図7】実施事例2において車載制御モジュールと携帯機との間で行われる送受信の関係を示したタイミングチャートである。
【図8】実施事例2に対応した動作シーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0028】
〔キーレスエントリー装置の概要〕
図1は、一実施形態のキーレスエントリー装置の概略的な構成を示す図である。キーレスエントリー装置は、例えばワゴン車タイプの車両10に装備されており、車両10には受信アンテナ12をはじめ、複数の送信アンテナ14がその各所に設けられている。この例では、車両10のインストルメントパネル(参照符号なし)内に1本の受信アンテナ12が設置されている他、送信アンテナ14がルーフパネル10a内の前部に1本、運転席側と助手席側にそれぞれ1本ずつ、またルーフパネル10a内の後部に1本、合計4本が設置されている。ただし、ここで挙げた各種アンテナ12,14の配置は一例であり、その他の配置であってもよい。例えば、左右のフロントドア10b,10cやバックドア10f(テールゲート)に送信アンテナ14が内蔵されていてもよい。あるいは、左右のリアドア10d,10eに別の送信アンテナ14が追加で内蔵されていてもよい。
【0029】
また車両10の室内には、キーレスエントリー装置の車載機として、車載制御モジュール20が設置されており、上記の受信アンテナ12や送信アンテナ14は、図示しない配線を通じて車載制御モジュール20に接続されている。車載制御モジュール20には図示しない車両側の通信回路(受信回路30及び送信回路32として後述する)が組み込まれており、通信回路はユーザの所持する携帯機40との間で無線通信を行う機能を有している。
【0030】
キーレスエントリー装置は、上記のように車両側の通信回路(車載機)と携帯機40との間で無線通信を行い、IDコード等を用いた認証を行うことでドアのロック(施錠)・アンロック(解錠)を自動的に行う動作(いわゆるパッシブ機能)を実行する。またキーレスエントリー装置は、車両10に固有のIDコードを共通に有する携帯機40が通信エリア内に接近すると、ルームランプやターンシグナルランプ等を点灯・点滅させて車両10の存在をユーザにアピールする動作(ウェルカム動作)を行うこともできる。その他にキーレスエントリー装置は、携帯機40を所持したユーザ(運転者)が車室内に入ると、キーシリンダにキーを差し込むことなくメインスイッチの操作を許可することもできる。なお、このようなキーレスエントリー装置の動作や機能は公知であり、特にその詳細については説明を省略する。
【0031】
図2は、キーレスエントリー装置の電気的な構成を概略的に示したブロック図である。以下、各構成要素について説明する。
【0032】
〔車載制御モジュール(車載機)〕
上記の車載制御モジュール20は、例えば中央処理装置であるCPU22をはじめ、EEPROM24やRAM26等のメモリデバイス、入出力ドライバ(I/O)28等の周辺ICを備えたコンピュータとして構成されている。このうちCPU22は、例えば内蔵のROM22aに記憶された制御プログラムを読み出し、その命令に従った処理を実行する。
【0033】
CPU22に内蔵のROM22aには、キーレスエントリー装置の動作に必要な制御プログラムが書き込まれている。またEEPROM24には、車両10の個体別にユニークなIDコード(識別情報)が書き込まれている。RAM26は、例えばCPU22のメインメモリとして利用可能な揮発性メモリであり、ROM22aと同様にRAM26をCPU22の内蔵としても構わない。また入出力ドライバ28は、車載制御モジュール20と他の電子機器との間で各種信号を入出力するためのものである。
【0034】
また車載制御モジュール20は、車両側の通信回路として受信回路30及び送信回路32を備えている。このうち受信回路30には受信アンテナ12が接続されており、受信回路30は受信アンテナ12を用いて携帯機40から無線送信される各種の応答信号(詳細は後述)を受信する。受信回路30は、例えば受信した信号に含まれるIDコードを復号し、その値(例えば24ビットデータ)をCPU22に提供する。
【0035】
送信回路32には、上述した合計4本の送信アンテナ14が接続されている。送信回路32はCPU22からの指示に基づいて動作し、4本の送信アンテナ14を用いて携帯機40に対して各種の信号(詳細は後述)を送信する。なお各送信アンテナ14には、例えばユニバーサルタイプのLFアンテナを用いることができる。
【0036】
〔携帯機〕
携帯機40は、ユーザが所持しやすいコンパクトな形態であり、例えばカード型やキーホルダ型等のものがある。携帯機40は、CPU42やEEPROM44を内蔵する他、駆動用のバッテリ46、RF回路48及びLF回路50をも内蔵している。CPU42の記憶領域(図示していない)には制御プログラムが組み込まれており、CPU42はその命令にしたがって携帯機40の動作(主にRF回路48及びLF回路50による送受信)を制御する。
【0037】
また携帯機40にはRFアンテナ48a及びLFアンテナ50aが内蔵されている。このうちRFアンテナ48aはRF回路48に接続されており、またLFアンテナ50aはLF回路50に接続されている。LF回路50は、LFアンテナ50aを通じて車両10(送信アンテナ14)から送信される各種の信号を受信したり、その信号を復調したりする機能を有している。またRF回路48は、各種の応答信号をRFアンテナ48aから送信する機能を有している。
【0038】
携帯機40にもまた、車両10に固有のIDコードが共通に割り当てられている。IDコードは予めEEPROM44に書き込まれており、このIDコードは車両10のEEPROM24に書き込まれているIDコードと対になっている。CPU42はEEPROM44から読み出したIDコードを変調し、その変調信号をRF回路48に出力する。携帯機40と車載制御モジュール20との間の通信において、これらIDコードを信号に含めることにより、車載制御モジュール20のCPU22において携帯機40の認証を行うことができる。
【0039】
なお、1台の車両10に複数の携帯機40が用意されている態様であってもよい。この場合、携帯機40の個数分だけ予め車両10側のEEPROM24に複数通りの固有IDコードを登録しておき、携帯機40のEEPROM44には個体別に固有IDコードを登録しておくことができる。これにより、車載制御モジュール20のCPU22において携帯機40の認証を行う際、IDコードから携帯機40が正規のものであることを認証するとともに、携帯機40の個体を識別することができる。
【0040】
車両10の送信アンテナ14から送信された各種の信号は、上記のようにLFアンテナ50aを用いてLF回路50で受信される。LF回路50は、信号に含まれるIDコードやコマンドコード等を復号してCPU42に提供する。CPU42は、受け取ったIDコードやコマンドコードに基づいて応答信号の送信処理を行う。
【0041】
特に図示していないが、携帯機40には、例えば動作モニタ用のLEDが内蔵されていてもよい。この場合、例えばバッテリ46の消耗時やRF回路48及びLF回路50による送受信の実行時に、CPU42はモニタ用LEDを点灯させる制御を行うことができる。
【0042】
また本実施形態では、車載制御モジュール20が別の制御ユニット60(ECU)にも接続されている。制御ユニット60もまた、例えば図示しないCPUやEEPROM、RAM、I/O等を有したマイクロコンピュータであり、この制御ユニット60は、車載制御モジュール20と協働してドアのロック(施錠)及びアンロック(解錠)を制御したり、車両10の動作(例えばエンジン始動、照明・灯火類の点灯)を制御したりする。このため制御ユニット60には、例えばドアのロックアクチュエータ62やエンジンスタータ64の他に、ルームランプドライバ66やターンシグナルリレードライバ68等が接続されている。また、キーレスエントリー装置の作動時に車両10において反応動作(動作音の発生等)を行うため、例えば車両10のスピーカドライバ(図示していない)が制御ユニット60に接続されていてもよい。
【0043】
ロックアクチュエータ62は、例えば車両10の各ドア10b〜10fのロック又はアンロック機構を作動させるモータ又はソレノイドである。制御ユニット60は図示しない車内ドアハンドルやロックピンが操作された場合にロックアクチュエータ62を作動させるほか、キーレスエントリー装置の車載制御モジュール20からキーレスエントリー信号を受信した場合にもロックアクチュエータ62を作動させる制御を行う。
【0044】
またエンジンスタータ64は、例えば図示しないエンジンのクランキングを行うモータである。制御ユニット60は図示しないキースイッチが操作された場合にエンジンスタータ64を作動させるほか、車載制御モジュール20からキーレス始動許可信号を受信した場合にもエンジンスタータ64を作動させる制御を行う。なおキーレス始動許可信号は、携帯機40と車載制御モジュール20との間でIDコードを用いた認証が成立し、かつ、使用者(運転者)によって図示しないエンジンスタートボタン等が押下された場合に車載制御モジュール20から制御ユニット60に出力される。
【0045】
ルームランプドライバ66は、図示しない室内灯(照明)の点灯を制御するドライバ回路である。またターンシグナルリレードライバ68は、図示しないターンシグナルランプ(灯火)のリレーを駆動するドライバ回路である。車載制御モジュール20は、正規の携帯機40が車両10に接近してきた場合、携帯機40と車載制御モジュール20との間でIDコードを用いた認証が成立したことを条件として作動信号を制御ユニット60に出力する。これを受けて制御ユニット60は、ルームランプドライバ66及びターンシグナルリレードライバ68を駆動し、室内灯やターンシグナルランプを点灯・点滅させる制御(ウェルカム動作)を行う。
【0046】
〔特定状況〕
先の図1には、特定の状況でユーザが車両10に接近したときの様子が示されている。すなわち本実施形態では、車両10とは別に図示しない車両(2台以上でもよい)をユーザが所有しており、それぞれが同種のキーレスエントリー装置を搭載している状況を想定している。このような状況でユーザが車両10に乗車しようとする場合、車両10と固有のIDコードが対になる携帯機40だけをユーザが所持していればよいが、他の車両にも乗車する機会が多い場合、利便性を考えて複数の携帯機40,80をユーザが日常的に所持していることが多い。なお、複数台の車両は家族と共有しているものであってもよいし、企業や商店等の事業体で共有しているものであってもよい。
【0047】
いずれにしても、2つの携帯機40,80(3つ以上の場合もある)を所持したユーザが車両10に乗車しようとする場合、正規にIDコード(識別情報)が一致する携帯機40だけが車載制御モジュール20との間で相互認証のための通信を行い、IDコードが一致しない他の携帯機80は通信に介入しないことが前提となる。
【0048】
このため本実施形態では、複数台の車両でIDコード(以下、「Vehicle ID」と称する。)が重複することを回避するため、ある程度のデータ量(例えば24ビット長)でVehicle IDを記述している。以下にVehicle IDの記述例を示す。
(1)車両10のVehicle ID:AAAAAAh
(2)他の車両のVehicle ID:555555h
上記の記述例では、互いのVehicle IDが完全に不一致であることが分かる。なお、各IDコードの(h)は16進数表記を示す。
【0049】
ただし、相互認証を開始するための信号(携帯機40への呼出指示信号)にIDコードの全桁を用いることは通信の冗長化を招き、キーレスエントリー装置のサービス性を損ないやすい。このため本実施形態では、上記のVehicle IDに比較してビット長を短縮して表記した短縮ID(以下、「Wakeup ID」と称する。)を用いる仕組みを採用している。以下にWakeup IDの表記例を示す。
(1)車両10のWakeup ID:AAh
(2)他の車両のWakeup ID:55h
【0050】
上記の表記例は、車両10についてはVehicle ID「AAAAAAh」の下位8ビット「AAh」をWakeup IDに使用し、他の車両についてはVehicle ID「555555h」の下位8ビット「55h」をWakeup IDに使用したものである。このため各Wakeup IDは、いずれも固有のVehicle IDに由来して生成されたユニークデータ(車両識別データ)であり、Wakeup IDの表記においても互いに不一致であることが分かる。
【0051】
また携帯機40についても、車両10と共通にVehicle ID「AAAAAAh」の下位8ビット「AAh」をWakeup IDとして使用し、他の車両と対になる携帯機80については、そのVehicle ID「555555h」の下位8ビット「55h」をWakeup IDとして使用している。このため携帯機40,80が有する各Wakeup IDは、いずれも固有のVehicle IDに由来して生成されたユニークデータ(携帯機識別データ)であり、Wakeup IDの表記においても互いに不一致であることが分かる。
【0052】
〔Whoコマンド〕
上記のWakeup IDは、主に車両10側から携帯機40の存在を探索し、携帯機40からの応答を指示するための呼出指示信号に用いられている。以下の説明では便宜上、呼出指示信号を「Who」コマンドと称するものとする。
【0053】
〔Welcomeコマンド〕
その他に本実施形態では、車両10側から送信される携帯機40向けのコマンドとして「Welcome」コマンド(接遇信号)がある。「Welcome」コマンドは、上述したウェルカム動作の制御に用いられる。ウェルカム動作は、携帯機40を所持した人物が車両10に接近してくると、室内灯やターンシグナルランプの点灯・点滅を行うことで、車両10の存在をユーザにアピールするものである。
【0054】
この「Welcome」コマンドには、Wakeup IDのビット反転値を用いることで、固有のIDコードに由来して生成されたユニークコード(反転車両識別データ)とすることができる。以下にWakeup IDのビット反転値の表記例を示す。
(1)車両10のWakeup ID(反転値):55h
(2)他の車両のWakeup ID(反転値):AAh
【0055】
「Welcome」コマンドに用いるWakeup ID(反転値)についても同様に、携帯機40については、車両10と共通に「55h」をWakeup ID(反転値)として使用し、他の車両と対になる携帯機80については「AAh」をWakeup ID(反転値)として使用している。このため携帯機40,80の各Wakeup ID(反転値)もまた、それぞれ固有のVehicle IDに由来して生成されたユニークデータ(反転携帯機データ)であり、Wakeup ID(反転値)の表記においても互いに不一致となる。
【0056】
ここで問題となるのは、車両10から「Who」コマンドが送信されると、そこに含まれるWakeup IDの「AAh」が携帯機40では正常に判断されるものの、別の車両の携帯機80では「Welcome」コマンドで用いられるWakeup ID(反転値)に偶然にも一致してしまい、コマンドの誤認識が生じることである。この場合、携帯機40が「Who」コマンドに応答しても、そこへ携帯機80が誤って「Welcome」の応答を割り込ませてくるため、車載制御モジュール20と携帯機40との通信に障害が発生する。以下、この点について詳細に説明する。
【0057】
図3は、「Who」コマンド及び「Welcome」コマンドのフレーム構造例を示す概略図である。
先ず図3中(A)に示されているように、「Who」コマンドの送信フレームF1は、前段領域F1aに後段領域F1bを連結させたフレーム構造を有している。このうち前段領域F1aには、例えば「Sync+Wakeup ID」のデータ列が格納されており、後段領域F1bには「コマンド+付加データ」のデータ列が格納されている。「コマンド+付加データ」は、例えば携帯機40に対して応答指示を与える内容(ファンクションコード)である。
【0058】
次に図3中(B)に示されているように、「Welcome」コマンドの送信フレームF2は、「Who」コマンドの送信フレームF1に比較して短いフレーム構造である。すなわち「Welcome」コマンドには「コマンド+付加データ」の領域が付加されておらず、「Sync+Wakeup ID(反転値)」のデータ列で構成されている。応答性を高めるため、「Welcome」コマンドはシンプルなフレーム構成だけで携帯機40に応答指示を与える内容として定義されている。
【0059】
〔比較事例1〕
図4は、車載制御モジュール20と携帯機40,80との間で行われる送受信の関係を本実施形態と対比される比較事例1として示したタイミングチャートである。
【0060】
〔第1車両〕
図4中(A):ユーザがこれから乗車しようとする車両10を「第1車両」とすると、この「第1車両」からは、例えばアンロック時など、必要に応じて「Who」コマンドが送信されている。ここでは、ある時刻t1に「Who」コマンドの送信が開始された例を示している。
【0061】
〔第1携帯機〕
図4中(B):「第1車両」と対になる携帯機40を「第1携帯機」とすると、時刻t1〜t2で「第1携帯機」は、「Who」コマンドの前段領域「Sync+Wakeup ID」が自己のIDコードに由来するユニークコード(下位8ビット分の「AAh」)に一致することを認識する。そして、続く時刻t2〜t3で「コマンド+付加データ」を受信すると、これを受けて時刻t3から「Who」に対する応答信号を送信する。
【0062】
〔第2携帯機〕
図4中(C):特に図示していないが、車両10とは別の車両を「第2車両」とし、この「第2車両」と対になる携帯機80を「第2携帯機」とする。「第2携帯機」は時刻t1〜t2において、「Who」コマンドの前段領域「Sync+Wakeup ID」が自己のIDコードに由来するユニークコードの反転値(下位8ビット分の反転値「AAh」)に一致することを認識する。この場合、「第2携帯機」は自己に対する「Welcome」コマンドを受信したと認識し、時刻t2から「Welcome」に対する応答信号を送信する。
【0063】
「Welcome」の応答信号は「Who」の応答信号に比較して冗長であり、時刻t3以降も引き続き送信が継続している。この場合、「第1携帯機」が正規の「Who」の応答信号を送信しても、「Welcome」の応答信号に潰されて通信障害が発生する。その結果、ユーザが正規の携帯機40を所持しているにもかかわらず、車両10においてドアロックの解除に失敗することになる。
【0064】
そこで本実施形態では、上記の比較事例1で生じた通信障害を防止するため、以下の実施事例1を提供する。
【0065】
〔実施事例1〕
図5は、実施事例1において車載制御モジュール20と携帯機40,80との間で行われる送受信の関係を示したタイミングチャートである。以下では図5中(A)を「第1車両」による送信タイミング、図5中(B)を「第1携帯機」による送信タイミング、図5中(C)を「第2携帯機」による送信タイミングとし、時系列に沿って説明する。
【0066】
〔ダミーWho送信〕
時刻t1〜t2:「第1車両」は、ある時刻t1〜t2で「Sync+Wakeup ID」を送信する。これは、本来の「Who」コマンドの前段領域だけに相当するデータ列であり、ダミーの「Who」コマンド(擬似呼出信号)としての意義を有する。
【0067】
〔Welcome応答〕
時刻t2:上記のように「Who」コマンドの前段部分は、「第2携帯機」にとっての「Welcome」コマンドに見えてしまうため、時刻t2から「第2携帯機」が「Welcome」の応答信号の送信を開始する。
【0068】
〔Who送信〕
時刻t3:「第1車両」は、時刻t2〜t3までの待機時間をおき、時刻t3から本来の「Who」コマンドの送信を開始する。車載制御モジュール20の制御ロジック上、時刻t3は「第2携帯機」が「Welcome」の応答信号の送信を開始した後のタイミングに設定されている。このタイミングで「第2携帯機」は未だ「Welcome」の応答中であり、新たな「Sync+Wakeup ID」が送信されてきても、これに反応することはない。
一方、「第1携帯機」にとっては、時刻t2以降に後段部分が送信されてこないため、先の「Sync+Wakeup ID」は正常なデータ列でないとしてこれを無視することができる。
【0069】
時刻t4:「Who」コマンドの前段部分に続き、後段部分が引き続き送信される。このタイミングでも「第2携帯機」は未だ「Welcome」の応答中である。
時刻t5:「第2携帯機」から「Welcome」の応答信号の送信が終了する。このタイミングでは、「第1車両」から「Who」コマンドの後段部分の送信が継続している。
【0070】
〔Who応答〕
時刻t6:「第1携帯機」は、「Who」コマンドの前段領域「Sync+Wakeup ID」に続いて「コマンド+付加データ」を受信するため、時刻t6から「Who」に対する応答信号を送信する。
このタイミングでは既に「第2携帯機」による「Welcome」の応答信号の送信は終了しているため、正常に「Who」の応答信号を「第1車両」にて受信することができる。その結果、車両10においてドアロックの解除に成功し、キーレスエントリー装置としての正常な動作を保証することができる。
【0071】
以上のように実施事例1では、「第1車両」からダミーコマンドと「Who」コマンドを1セットとして、これらを必要に応じて送信する手順を採用する。
【0072】
(1)すなわち「第1車両」は、本来の「Who」コマンドの送信に先立ち、ダミーコマンドを送信する。これにより、「第2携帯機」に対して「Welcome」の応答信号を誤送信させるとともに、その誤送信中のタイミングを狙って、本来の「Who」コマンドを送信する。
【0073】
(2)「Who」コマンドを送信するタイミングに関しては、「第2携帯機」による「Welcome」の応答中に時刻t3を設定する(時刻t2<時刻t3)。これにより、「第2携帯機」はダミーコマンドの後の「Who」コマンドには応答できない。
【0074】
(3)また「Who」コマンドの送信が完了する時刻t6までに、「第2携帯機」の「Welcome」の応答が完了するタイミングを設定する(時刻t5<時刻t6)。
【0075】
以上の実施事例1の手法により、「第1車両」は、本来の対になる「第1携帯機」に対して「Who」コマンドを送信することができ、また「第1携帯機」からは「Who」の応答信号が正常に送信されるので、比較事例1のように「第2携帯機」からの「Welcome」の応答に邪魔されることがない。
【0076】
〔比較事例2〕
次に図6は、比較事例2において車載制御モジュール20と携帯機40,80との間で行われる送受信の関係を示したタイミングチャートである。この比較事例2は、上記の実施事例1を適用してもなお、特定の状況で通信障害を完全に排除できない事例に相当する。以下、具体的に説明する。
【0077】
図6に示される比較事例2と、図5に示される実施事例1とを比較すると、比較事例2では「第2携帯機」からの「Welcome」の応答が長引いており、上記(3)を満たすことができず、時刻t6<時刻t5となっている。つまり「第2携帯機」は、図5に示される実施事例1と比較すると、「Welcome」の応答に長い時間を要しており、その応答完了(時刻t5)の前に「Who」コマンドの送信が完了していることが分かる(時刻t6)。
【0078】
この場合、時刻t6で「第1携帯機」が「Who」コマンドに対して応答を行うものの、このタイミングで「第1車両」は、「第2携帯機」から「Welcome」の応答を依然として受信しており、「Who」の応答信号が潰されてこれを受信することができない。その結果、同じくドアロックの解除に失敗することとなる(図4の時刻t3に同じ)。
【0079】
比較事例2のように、「第2携帯機」が「Welcome」の応答に長い時間を要した原因としては、その処理能力(送信レート)の低さが挙げられる。例えば、携帯機40,80にはインテリジェント型チューナ搭載のスマートキーと、ノーマル型チューナ搭載のスマートキーといった種類があり、後者の処理能力は前者に劣るものとなっている。このため、「第2携帯機」がノーマル型チューナを搭載する場合、本来インテリジェント型ならば、「Welcome」の応答完了(時刻t5)の後に「Who」コマンドの送信が完了(時刻t6)しているはずであるが、「Welcome」の応答完了(時刻t5)の前に「Who」コマンドの送信が完了(時刻t6)してしまう可能性がある。その結果、「第1車両」においてドアロックの解除に失敗してしまうこととなる。
【0080】
この場合であっても、上述した実施事例1よりも「第1車両」から「Who」コマンドが送信されるタイミング(時刻t3)を遅延させ、「Welcome」の応答完了(時刻t5)の後に「Who」コマンドの送信が完了する(時刻t6)態様とすれば問題はない。しかし、実際の利用場面において、携帯機40,80がインテリジェント型チューナを搭載しているか、ノーマル型チューナを搭載しているかは分からないため、「第1車両」がダミーコマンドを送信した後に「Who」コマンドを送信するタイミング(時刻t3)を弾力的に変化させることは困難である。この点を踏まえ、以下に実施事例2を説明する。
【0081】
〔実施事例2〕
図7は、実施事例2において車載制御モジュール20と3つの携帯機40,80,81との間で行われる送受信の関係を示したタイミングチャートである。実施事例2では、別の車両と対になる2つの携帯機80,81(3つ以上でもよい)が存在し、これら携帯機80,81に2つのチューナタイプがあることを想定している。そして、上記のインテリジェント型チューナを搭載したタイプの携帯機80を「第2携帯機」とし、ノーマル型チューナを搭載したタイプの携帯機81を「第3携帯機」としている。したがって実施事例2は、(1)ユーザが携帯機40の他にインテリジェント型チューナ搭載の携帯機80を同時に所持していた状況、(2)ユーザが携帯機40の他にノーマル型チューナ搭載の携帯機81を同時に所持していた状況の少なくとも一方に有効であるものとする。なお携帯機81は、図1に示されている携帯機80とは別にユーザが所持しているものである。
【0082】
また、以下では図7中(A)を「第1車両」による送信タイミング、図7中(B)を「第1携帯機」による送信タイミング、図7中(C)を「第2携帯機」による送信タイミング、図7中(D)を「第3携帯機」による送信タイミングとしている。
【0083】
時刻t1:先ず「第1車両」は、初回のダミーコマンドを送信する。初回のダミーコマンドもまた、実施事例1と同様の「Sync+Wakeup ID」となる。
【0084】
時刻t2:初回のダミーコマンドは、ユーザの所持する「第1携帯機」の他に「第2携帯機」又は「第3携帯機」(両方でもよい)により受信される。ただし、時刻t2のタイミングにおいて、「第2携帯機」や「第3携帯機」にとってダミーコマンドは「Welcome」コマンドに見えるため、これら「第2携帯機」、「第3携帯機」はそれぞれ「Welcome」の応答を開始する。なお、このとき「第1携帯機」にとって、初回のダミーコマンドは正常なデータでなく、また何かしら意味のあるものと解釈されないため無視される。
【0085】
時刻t3:ここで、「第2携帯機」による「Welcome」の応答送信が先に完了する。「第2携帯機」はインテリジェント型チューナ搭載タイプであるため、「第3携帯機」に比較して処理能力(送信レート)が高い分、早期に送信を終了することができる。
【0086】
時刻t4:「第2携帯機」による「Welcome」の応答完了(時刻t3以降)までを休止時間として、「第1車両」は次回のダミーコマンドを送信する。次回のダミーコマンドもまた、初回のダミーコマンドと同様の「Sync+Wakeup ID」である。仮に、このタイミングで「第1車両」が「Who」コマンドを送信すると、その「Who」コマンドに対して「第3携帯機」は特に応答しない(できない)が、「第2携帯機」は比較事例1と同様のパターンで誤応答してしまう。よって、ここから再度のダミーコマンドを送信することで、「第2携帯機」に対して再度の誤応答を誘発する。
【0087】
時刻t5:「第1車両」から送信される次回のダミーコマンドに対しては、このタイミングで「第2携帯機」だけが「Welcome」の応答を行う。すなわち、「第3携帯機」は依然として初回のダミーコマンドに対する「Welcome」の応答中であるため、次回のダミーコマンドに対しては応答しない(できない)。また、ここでも「第1携帯機」にとって次回のダミーコマンドは正常なデータでなく、先と同様に無視される。
【0088】
時刻t6:「第1車両」は、時刻t5の後に(「第2携帯機」及び「第3携帯機」がいずれも「Welcome」の応答中)、本来の「Who」コマンドを送信する。このタイミングで「Who」コマンドが送信されると、「第2携帯機」及び「第3携帯機」がいずれも「Welcome」の応答中であるため、双方ともに「Who」コマンドに対しては誤応答しない(できない)。つまり時刻t6では、インテリジェント型チューナ搭載、又はノーマル型チューナ搭載のいずれのタイプであったとしても、別の携帯機80,81はこの「Who」コマンドに対して誤応答することはない。
【0089】
時刻t7:初回ダミーコマンドに対する「第3携帯機」の「Welcome」の応答がここでようやく終了する。
時刻t8:次回のダミーコマンドに対する「第2携帯機」の「Welcome」の応答が終了する。
時刻t9:「第1車両」からの「Who」コマンドの送信が完了すると、「第1携帯機」は正常に「Who」コマンドに対して応答を行う。その後、上述した相互認証を経て、「第1車両(車両10)」においてドアロックの解除を行うことができる。
【0090】
以上のように実施事例2では、初回及び次回(2回)のダミーコマンドに続く「Who」コマンドを1セットとして、これらを「第1車両」から必要に応じて送信することにより、ユーザがインテリジェント型チューナ搭載タイプ、又はノーマル型チューナ搭載タイプのいずれの携帯機40,80,81を所持していたとしても、実施事例2により対応可能となる。
【0091】
なお実施事例2は、「第1携帯機」の他に「第2携帯機」と「第3携帯機」が同時に(3つ)所持されていることを必須とするものではなく、「第2携帯機」又は「第3携帯機」のいずれか一方だけが「第1携帯機」とともに所持されている状況であっても適用することができる。
【0092】
図8は、実施事例2に対応した動作シーケンス図である。実施事例2における動作シーケンスは図7に示されるタイミングチャートに対応したものであるが、ここではシーケンス図の態様を用いて確認的に説明する。
【0093】
ステップS1:「第1車両(車両10)」は、初回のダミーコマンド(Dummy1)を送信する。初回のダミーコマンドは、ユーザの所持する「第1携帯機(携帯機40)」では無視されるが、他の「第2携帯機(携帯機80)」及び「第3携帯機(携帯機81)」にとっては「Welcome」コマンドに見えるので、「第2携帯機(携帯機80)」及び「第3携帯機(携帯機81)」がそれぞれ「Welcome」の応答を開始する。
【0094】
ステップS2:インテリジェント型チューナ搭載の「第2携帯機(携帯機80)」が先に「Welcome」の応答を完了する。
【0095】
ステップS3:「第2携帯機(携帯機80)」による「Welcome」の応答完了までを休止時間として、「第1車両(車両10)」が次回のダミーコマンド(Dummy2)を送信する。これを受けて「第2携帯機(携帯機80)」は、再度の「Welcome」の応答を開始する。なお、同様に「第1携帯機(携帯機40)」はこれを無視する。
【0096】
ステップS4,S5:この後、「第3携帯機(携帯機81)」及び「第2携帯機(携帯機80)」それぞれの「Welcome」の応答送信が相次いで終了する。
【0097】
ステップS6:先のステップS4,5より前に、「第1車両(車両10)」は本来の「Who」コマンドの送信を開始している。「第3携帯機(携帯機81)」及び「第2携帯機(携帯機80)」は「Welcome」の応答中であるため、この「Who」コマンドに対しては誤応答しない。
【0098】
ステップS7:「第1車両(車両10)」からの「Who」コマンドは、「第1携帯機(携帯機40)」により正常に受信される。これにより、「第1携帯機(携帯機40)」は「Who」コマンドに対する応答を行う。この後、上述した相互認証を経てドアロックの解除が行われる(図示せず)。
【0099】
以上のように、上述した一実施形態のキーレスエントリー装置によれば、認証用データ(Sync+Wakeup ID)の表記が異なる車両間の異なるコマンドとして偶然に一致する状況があったとしても、通信障害を防止してキーレスエントリー装置としての動作を確実に実行することができる。
【0100】
また、複数の携帯機で処理能力の異なるチューナタイプが混在する状況であっても、特にチューナタイプを判別することなく、一連の通信シーケンスを完了させることができる。このため、チューナタイプを検出したり、通信テストを試みたりするシーケンスを特に設ける必要がなく、より短時間で相互認証を完了させることができ、それだけキーレスエントリー装置の応答性を向上することができる。
【0101】
なお一実施形態では、車両10とは別の車両と対をなす携帯機80,81等から擬似的に「Welcome」の応答信号を送信させる例を挙げているが、車両10から正規の「Welcome」コマンドが送信された場合、これを正常に受信した携帯機40が正規の「Welcome」の応答信号を送信する。そして、車両10の車載制御モジュール20では、相互認証が成立したことを条件としてウェルカム動作を制御ユニット60に対して指示し、これを受けて制御ユニット60がルームランプドライバ66やターンシグナルリレードライバ68を駆動する。
【0102】
本発明は上述した一実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することができる。一実施形態で挙げたIDコードやWakeup IDはあくまで一例であり、その他の値をIDコードに使用してもよい。
【0103】
一実施形態ではIDコードの下位8ビットをWakeup IDとしているが、上位のビット配置をWakeup IDに使用してもよい。
【0104】
また一実施形態では、車載制御モジュール20と制御ユニット60に分かれたハード構成を例に挙げているが、これらの機能を1つのハードウェアに集約させた構成を用いてもよい。
【符号の説明】
【0105】
10 車両
12 受信アンテナ
14 送信アンテナ
20 車載制御モジュール(擬似呼出信号送信手段、呼出信号送信手段、接遇信号送信手段)
22 CPU
40 携帯機(擬似応答信号送信手段、応答信号送信手段、接遇応答信号送信手段)
42 CPU
48 RF回路
48a RFアンテナ
50 LF回路
50a LFアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された車載機とユーザに所持される携帯機との間にて、これら車載機及び携帯機の各個体に共通の識別情報を用いて非接触通信による相互の認証が成立したことを条件として、車両の装備品を動作させる制御を行う車両のキーレスエントリー装置において、
車両に固有の識別情報に由来して生成される車両識別データに対し、所定の応答指示データを付加して構成された呼出指示信号が車載機から送信されるのに先立ち、前記車両識別データに前記応答指示データを付加せずに構成された擬似呼出信号を車載機から送信させる擬似呼出信号送信手段と、
前記擬似呼出信号の送信後、所定の待機時間をおいて前記呼出指示信号を車載機から送信させる呼出指示信号送信手段と、
車両に固有の識別情報に由来しつつ、前記車両識別データとは各桁の論理値が反転した関係にある反転車両識別データで構成された接遇信号を車載機から送信させる接遇信号送信手段と、
前記擬似呼出信号を受信した携帯機にて、前記車両識別データの表記が自己に固有の識別情報に由来して生成される携帯機識別データの表記と一致する場合は前記擬似呼出信号を無視する一方、前記車両識別データの表記が前記携帯機識別データとは各桁の論理値が反転した関係にある反転携帯機データの表記と一致する場合、前記擬似呼出信号を擬似的に前記接遇信号と解釈して擬似応答信号を携帯機から送信させる擬似応答信号送信手段と、
前記呼出指示信号を受信した携帯機にて、前記車両識別データの表記が自己に固有の識別情報に由来して生成される携帯機識別データの表記と一致する場合、携帯機から前記応答指示データに対する応答信号を送信させる応答信号送信手段と、
前記接遇信号を受信した携帯機にて、前記反転車両識別データの表記が自己の有する識別情報に由来して生成される携帯機識別データの表記と一致する場合、前記接遇信号に対する接遇応答信号を携帯機から送信させる接遇応答信号送信手段と、
を備えた車両のキーレスエントリー装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のキーレスエントリー装置において、
互いに異なる第1識別情報及び第2識別情報のいずれか一方を固有とする第1車両及び第2車両について、前記第1識別情報に由来して生成される第1車両識別データの表記が前記第2識別情報に由来して生成される第2車両識別データとは各桁の論理値が反転した関係にあり、
前記第1車両及び前記第2車両のそれぞれと対をなす第1携帯機及び第2携帯機について、前記第1携帯機が前記第1識別情報を固有とし、前記第2携帯機が前記第2識別情報を固有とする場合、
前記擬似呼出信号送信手段は、
前記第1車両識別データに前記応答指示データを付加せずに構成された前記擬似呼出信号を前記第1車両の車載機から送信させ、
前記擬似応答信号送信手段は、
前記第1携帯機により前記擬似呼出信号が受信された場合、前記第1車両識別データの表記が前記第1識別情報に由来して生成される第1携帯機識別データの表記と一致することを根拠として前記擬似呼出信号を無視する一方、
前記第2携帯機により前記擬似呼出信号が受信された場合、前記第1車両識別データの表記が前記第1携帯機識別データとは各桁の論理値が反転した関係にある第2反転携帯機データの表記と一致することを根拠として前記擬似呼出信号を擬似的に前記接遇信号と解釈し、前記擬似応答信号を前記第2携帯機から送信させ、
前記呼出指示信号送信手段は、
前記第1車両の車載機から前記擬似呼出信号が送信された後、少なくとも前記第2携帯機により前記擬似応答信号の送信が開始されるまでの時間を前記待機時間として前記第1車両の車載機から前記呼出指示信号を送信させることを特徴とする車両のキーレスエントリー装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両のキーレスエントリー装置において、
前記呼出指示信号送信手段は、
前記第1車両の車載機から前記擬似呼出信号が送信された後、前記第2携帯機により前記擬似応答信号の送信が開始されてから前記擬似応答信号の送信が終了する前までの時間を前記待機時間として前記第1車両の車載機から前記呼出指示信号を送信させることを特徴とする車両のキーレスエントリー装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の車両のキーレスエントリー装置において、
前記擬似呼出信号送信手段は、
前記第1車両の車載機から前記擬似呼出信号を初回に送信させた後、前記第2携帯機による前記擬似応答信号の初回の送信が終了するまでの休止時間をおいて前記第1車両の車載機から次回の前記擬似呼出信号を送信させ、
前記呼出指示信号送信手段は、
前記第1車両の車載機から初回及び次回の前記擬似呼出信号がそれぞれ送信された後、少なくとも次回の前記擬似呼出信号に対する次回の前記擬似応答信号の送信が前記第2携帯機により開始されるまでの時間を前記待機時間として、前記第1車両の車載機から前記呼出指示信号を送信させることを特徴とする車両のキーレスエントリー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−251319(P2012−251319A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123063(P2011−123063)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】