説明

車両用灯具のギヤ固定構造

【課題】ギヤ固定時の脚部の折損を防ぐことができる車両用灯具のギヤ固定構造を提供すること。
【解決手段】車両用灯具に使用されるギヤ2をこれに形成されたフック2bによってハウジングに固定する構造であって、前記ギヤ2の円筒ボス部の端部に軸方向スリット3によって周方向に分割された複数の脚部を一体に形成するとともに、各脚部の先端に前記フック2bを形成し、ギヤ2を前記ハウジングに形成された円筒ボス部に脚部を先にして挿入し、各脚部の先端に形成されたフック2bがハウジングの前記円筒部を通過した時点で該フック2bがハウジングの円筒部端面のフック受けに係止されることによってギヤ2をハウジングに固定するようにした車両用灯具のギヤ固定構造において、前記ギヤ2側のフック2bの周方向両端部の前記ハウジング側のフック受けへの掛かり代aを同フック2bの幅方向中央部の掛かり代aよりも小さく設定する(b<a)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に使用されるギヤをこれに形成されたフックによってハウジングに固定するようにした車両用灯具のギヤ固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ヘッドライト等の車両用前照灯には、照射光の照射角度を調整するためのレベリング装置が設けられており、このレベリング装置には駆動用のギヤがハウジングに回転可能に固定支持されており、斯かるギヤの固定構造として例えば特許文献1には図に示す構成が提案されている。
【0003】
即ち、図7は特許文献1において提案されたギヤ固定構造を示すレベリング装置要部の側断面図であり、ギヤ102のボス部102Aの軸方向端部外周には係合溝102aが全周に亘って形成されている。又、ハウジング104に一体に形成された円筒部104Aの長手方向端部内周には凸状のフック104aが全周に亘って一体に突設されている。
【0004】
而して、ギヤ102は、そのボス部102Aを先にしてハウジング104の円筒部104Aに挿入し、ハウジング104側のフック104aをギヤ102側の係合溝102aに係合させることによってハウジング104に固定される。
【0005】
しかしながら、上記構成はハウジング104側にフック104aを設けているため、金型構造が複雑化するとともに、フック104aの係合状況を外部から目視することができないという問題がある。
【0006】
そこで、本出願人は、図8及び図9に示すギヤ及びその固定構造を提案した。
【0007】
即ち、図8はレベリング装置要部の側断面図、図9はギヤの側面図であり、図9に示すように、ギヤ202の円筒ボス部202Bの端部には軸方向スリット203によって周方向に分割された3つの脚部202aが一体に形成されており、各脚部202aの先端にはフック202bが一体に突設されている。又、ハウジング204には円筒部204Aが一体に形成されており、この円筒部204の端面はフック受け204aを構成している。
【0008】
而して、ギヤ202をハウジング204に形成された円筒部204Aに脚部202aを先にして挿入すると、脚部202aの先端に形成されたフック202bがハウジング204の円筒部204Aの内周面に摺接しながら脚部202aが撓んで縮径し、その先端のフック202bがハウジング204の円筒部204Aを通過した時点で脚部202aが拡径して元の状態に復帰し、フック202bがハウジング204の円筒部204A端面のフック受け204aに係止されることによってギヤ202がハウジング204に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3928687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図8に示した従来のギヤ固定構造においては、ギヤ202に形成された各脚部202aの横断面形状は円弧状であるために平面よりも剛性が高くて撓みにくく、ギヤ202の組み込み時にこれを強引に撓ませると応力が集中する根元部から該脚部202aが折損してしまうという問題がある。
【0011】
又、図10にギヤ202の各脚部202aの先端に形成されたフック202bのハウジング204側のフック受け204aへの係合状態を示すが、従来、フック202aの外周は軸心を中心とする真円(フック受け204aの内周円と同心円を成す)の一部を構成しているため、該フック202bのフック受け204aへの掛かり代δは周方向に一定となる。ここで、フック202bがフック受け204aを乗り越えるためには、フック202bの周方向中央部は図示のδだけ撓めば良いが、フック202bの周方向両端部は周方向中央部よりも図示のΔδだけ余分に撓む必要があり、結局、周方向中央部を含むフック202b全体を周方向両端部の必要撓み量(δ+Δδ)だけ大きく撓ませる必要がある。このため、ギヤ202の各脚部202aの撓み量が大きくなり、応力が集中する根元部から該脚部202aが折損するという問題が発生する。
【0012】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、ギヤ固定時の脚部の折損を防ぐことができる車両用灯具のギヤ固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、車両用灯具に使用されるギヤをこれに形成されたフックによってハウジングに固定する構造であって、前記ギヤの円筒ボス部の端部に軸方向スリットによって周方向に分割された複数の脚部を一体に形成するとともに、各脚部の先端に前記フックを形成し、ギヤを前記ハウジングに形成された円筒ボス部に脚部を先にして挿入し、各脚部の先端に形成されたフックがハウジングの前記円筒部を通過した時点で該フックがハウジングの円筒部端面のフック受けに係止されることによってギヤをハウジングに固定するようにした車両用灯具のギヤ固定構造において、前記ギヤ側のフックの周方向両端部の前記ハウジング側のフック受けへの掛かり代を同フックの幅方向中央部の掛かり代よりも小さく設定したことを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記フックの周方向両端部の外周に接する包絡円の直径を前記フック受けの内径以下に設定したことを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記各脚部の根元部にフラット部を形成してその部分の肉厚を他の部分よりも薄くしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び2記載の発明によれば、ギヤ側のフックの周方向両端部のハウジング側のフック受けへの掛かり代を同フックの幅方向中央部の掛かり代よりも小さく設定したため、ギヤのハウジングへの固定時にフックを最大でもその周方向中央部がフック受けを乗り越えられる量だけ撓ませれば良く、脚部の撓み量が必要最小限に抑えられ、応力が集中する根元部からの脚部の折損が防がれる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、各脚部の根元部にフラット部を形成してその部分の肉厚を他の部分よりも薄くしたため、脚部の剛性が下がって撓み易くなり、該脚部の根元部に発生する応力が緩和され、このことと併せて根元部からの脚部の折損が一層確実に防がれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るギヤ固定構造を備えた車両用灯具のレベリング装置要部の側断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図2のB部拡大詳細図(フックのフック受けへの係止状態を示す図)である。
【図4】本発明に係るギヤ固定構造を備えたレベリング装置に使用されるギヤの側面図である。
【図5】図4のC−C線断面図である。
【図6】(a),(b)はギヤのハウジングへの固定要領を示す側断面図である。
【図7】特許文献1において提案されたギヤ固定構造を示すレベリング装置要部の側断面図である。
【図8】従来のギヤ固定構造を示すレベリング装置要部の側断面図である。
【図9】従来のギヤ固定構造を備えたレベリング装置に使用されるギヤの側面図である。
【図10】従来のギヤ固定構造を備えたレベリング装置に使用されるギヤの各脚部に形成されたフックのハウジング側のフック受けへの係合状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明に係るギヤ固定構造を備えた車両用灯具のレベリング装置要部の側断面図、図2は図1のA−A線断面図、図3は図2のB部拡大詳細図(フックのフック受けへの係止状態を示す図)、図4はギヤの側面図、図5は図4のC−C線断面図、図6(a),(b)はギヤのハウジングへの固定要領を示す側断面図である。
【0021】
本実施の形態に係るレベリング装置1は、例えばヘッドライトの照射光の照射角度を調整するものであって、これには図4に示すようなギヤ2が使用されている。このギヤ2は、歯部2Aの中心から軸方向(図4の左右方向)に一体に延びる円筒ボス部2Bを備えている。そして、この円筒ボス部2Bの端部には3つの軸方向スリット3(図2参照)によって周方向に分割された3つの脚部2aが一体に形成されており、各脚部2aの先端にはフック2bが一体に突設されている。又、図1に示すように、ハウジング4には円筒部4Aが一体に形成されており、この円筒部4Aの端面はフック受け4aを構成している。
【0022】
ところで、本実施の形態では、図4に示すように、ギヤ2の各脚部2aの根元部外周面には、根元から先端に向かって幅が狭くなる平面視三角形のフラット部2cが形成されており、図5に示すように、このフラット部2cが形成された部分の肉厚は他の部分よりも薄くなっている。
【0023】
又、図3に示すように、ギヤ2側の各フック2bの周方向両端部でのハウジング4側のフック受け4aへの掛かり代(係合代)bは、同フック2bの幅方向中央部の掛かり代aよりも小さく設定されている(b<a)。具体的には、フック2bの周方向両端部の外周に接する包絡円C1の直径D1はフック受け4aの内径D2以下に設定されている(D1≦D2)。つまり、フック2bの周方向両端部の外周はカットされ、フック2bの周方向中心点Pを通る真円C1’よりも図示のΔb(掛り代のカット分)だけ径方向内方に位置している。従って、フック2bのハウジング4側のフック受け4aに対する掛かり代は周方向に一定ではなく、周方向中央において最大値aを示し、周方向中央から周方向両端部に向かって次第に小さくなり、周方向両端において図示の最小値bを示す。
【0024】
尚、本実施の形態では、各フック2bの周方向両端部の掛かり代bは、周方向中央の掛かり代aを1とした場合、0.4〜0.8(b/a=0.4〜0.8)に設定されており、フック2bの周方向両端から周方向中央までの外周形状は円弧曲線で滑らかに結ばれている。
【0025】
而して、ギヤ2は、図6(a)に示すように、これをハウジング4に形成された円筒部4Aに脚部2aを先にして挿入すると、各脚部2aの先端に形成されたフック2bがハウジング4の円筒部4Aの内周面に形成されたテーパ面4bに沿って絞られるために脚部4aが撓んで縮径する。そして、フック2bが図6(b)に示すようにハウジング4の円筒部4Aを通過する直前において脚部2aが最大に撓んで縮径し、その先端のフック2bがハウジング4の円筒部4Aを通過した時点で脚部2aが弾性によって拡径して元の状態に復帰し、図1に示すようにフック2bがハウジング4の円筒部4A端面のフック受け4aに係止されるため、ギヤ2がハウジング4に固定される。
【0026】
以上において、本実施の形態では、図3に示すように、ギヤ2側のフック2bの周方向両端部のハウジング4側のフック受け4aへの掛かり代bを同フック2bの幅方向中央部の掛かり代aよりも小さく設定したため(b<a)、ギヤ2のハウジング4への固定時にフック2bを最大でもその周方向中央部がフック受け4aを乗り越えられる量(フック2bの周方向中央の掛かり代a)だけ撓ませれば良く、脚部2aの撓み量が必要最小限に抑えられ、応力が集中する根元部からの脚部2aの折損が防がれる。
【0027】
又、本実施の形態では、図4及び図5に示すように、ギヤ2の各脚部2aの根元部にフラット部2cを形成してその部分の肉厚を他の部分よりも薄くしたため、脚部2aの剛性が下がって該脚部2aが撓み易くなり、該脚部2aの根元部に発生する応力が緩和され、このことと併せて根元部からの脚部2aの折損が一層確実に防がれる。尚、本実施の形態では、ギヤ2の各脚部2aに発生する応力の値を従来の値に対して70%程度にまで下げることができた。
【0028】
以上のようにギヤ2の脚部2aの折損が防がれる結果、ギヤ2をハウジング4に対して繰り返し着脱して使用することが可能となった。
【0029】
尚、以上は本発明を車両用灯具のレベリング装置に使用されるギヤの固定構造に適用した形態について説明したが、本発明は、レベリング装置以外の他のアクチュエータ等に使用されるギヤの固定構造に対しても同様に適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
1 レベリング装置
2 ギヤ
2A ギヤの歯部
2B ギヤの円筒ボス部
2a ギヤの脚部
2b ギヤのフック
2c ギヤのフラット部
3 軸方向スリット
4 ハウジング
4A ハウジングの円筒部
4a ハウジングのフック受け
4b ハウジングのテーパ面
a フックの周方向中央部での掛かり代
b フックの周方向両端部での掛かり代
Δb フックの周方向両端部における掛かり代のカット分
C1 フックの周方向両端部の外周に接する包絡円
C1’ フックの周方向中心点を通る真円
D1 包絡円の直径
D2 フック受けの内径
P フックの周方向中心点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用灯具に使用されるギヤをこれに形成されたフックによってハウジングに固定する構造であって、前記ギヤの円筒ボス部の端部に軸方向スリットによって周方向に分割された複数の脚部を一体に形成するとともに、各脚部の先端に前記フックを形成し、ギヤを前記ハウジングに形成された円筒部に脚部を先にして挿入し、各脚部の先端に形成されたフックがハウジングの前記円筒ボス部を通過した時点で該フックがハウジングの円筒部端面のフック受けに係止されることによってギヤをハウジングに固定するようにした車両用灯具のギヤ固定構造において、
前記ギヤ側のフックの周方向両端部の前記ハウジング側のフック受けへの掛かり代を同フックの幅方向中央部の掛かり代よりも小さく設定したことを特徴とする車両用灯具のギヤ固定構造。
【請求項2】
前記フックの周方向両端部の外周に接する包絡円の直径を前記フック受けの内径以下に設定したことを特徴とする請求項1記載の車両用灯具のギヤ固定構造。
【請求項3】
前記各脚部の根元部にフラット部を形成してその部分の肉厚を他の部分よりも薄くしたことを特徴とする請求項1又は2記載の車両用灯具のギヤ固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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