説明

車両用照明灯具

【課題】ハイビーム用の可変配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具において、可変配光パターンの一部を暗部として形成すべき対象物が左右2箇所で同時に出現した場合においても、前走車や対向車のドライバ等にグレアを与えてしまうことなく自車ドライバの前方視認性を高めることができるようにする。
【解決手段】上記可変配光パターンとしての付加配光パターンPA2を形成するための1対の灯具ユニットとして、可動シェードを備えたプロジェクタ型の灯具ユニットを採用する。そして、車両走行中に車両前方に存在する前走車2よび対向車4が車載カメラにより左右2箇所で同時に検知されたとき、各灯具ユニットの可動シェードを移動させることにより、可変配光パターンPA2に形成される2箇所の暗部PALa、PARaを、前走車2や対向車4の位置に合わせて左右方向にそれぞれ移動させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ハイビーム用の可変配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハイビーム用配光パターンとして、または、ハイビーム用配光パターンを形成する際にロービーム用配光パターンに対して付加される付加配光パターンとして、その配光パターン形状を変化させることができる可変配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具が知られている。
【0003】
例えば「特許文献1」には、1対の灯具ユニットからの照射光により形成される1対の配光パターンを合成して付加配光パターンを形成するようにした上で、各灯具ユニットをスイブルさせることにより付加配光パターンを可変配光パターンとするように構成された車両用照明灯具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−140661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記「特許文献1」に記載された車両用照明灯具を採用することにより、可変配光パターンを、その一部の所定領域が欠けた配光パターンとして形成することが可能となる。そして、この可変配光パターンにおいて暗部となる上記所定領域の位置を、前走車や対向車の位置に合わせて左右方向に移動させることにより、前走車や対向車のドライバ等にグレアを与えてしまうことなく自車ドライバの前方視認性を高めることが可能となる。
【0006】
このような構成を採用する代わりに、プロジェクタ型の灯具ユニットにおいて、そのリフレクタと投影レンズとの間の光路上に可動シェードを配置し、この可動シェードを、リフレクタからの反射光のうち可変配光パターンの所定領域を形成するための光を遮蔽する遮光位置とこの遮蔽を解除する遮光解除位置との間で左右方向に移動させるようにすれば、各灯具ユニットをスイブルさせなくても、前走車や対向車のドライバ等にグレアを与えてしまうことなく自車ドライバの前方視認性を高めることが可能となる。
【0007】
しかしながら、このようにした場合においても、可変配光パターンの一部を暗部として形成すべき対象物が左右2箇所で同時に出現した場合(例えば前走車と対向車とが存在する場合)には対応することができない。そして、このような場合には、グレア防止の観点から、可変配光パターンが形成されないようにする必要がある。したがって、このような場合には、自車ドライバの前方視認性を高めることができない、という問題がある。
【0008】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ハイビーム用の可変配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具において、可変配光パターンの一部を暗部として形成すべき対象物が左右2箇所で同時に出現した場合においても、前走車や対向車のドライバ等にグレアを与えてしまうことなく自車ドライバの前方視認性を高めることができる車両用照明灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、1対の灯具ユニットの各々の構成として、左右方向に移動可能な可動シェードを備えた構成とした上で、これら各可動シェードを、左右2箇所で同時に出現した対象物の各々に対応させて移動させる制御を行う構成とすることにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0010】
すなわち、本願発明に係る車両用照明灯具は、
ハイビーム用の可変配光パターンを形成するための1対の灯具ユニットと、車両前方に存在する特定の対象物を検知する検知手段と、上記各灯具ユニットの配光制御を行う配光制御手段と、を備えてなる車両用照明灯具において、
上記各灯具ユニットは、投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された光源と、この光源からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、このリフレクタと上記投影レンズとの間の光路上に配置された可動シェードと、この可動シェードを、上記リフレクタからの反射光のうち上記可変配光パターンの所定領域を形成するための光を遮蔽する遮光位置とこの遮蔽を解除する遮光解除位置とを採り得るように左右方向に移動させるアクチュエータと、を備えてなり、
上記配光制御手段は、車両走行中に上記検知手段により上記対象物が左右2箇所で同時に検知されたとき、上記各灯具ユニットのアクチュエータを駆動して、上記各灯具ユニットの可動シェードを上記各対象物に対応する遮光位置へそれぞれ移動させるように構成されている、ことを特徴とするものである。
【0011】
上記「ハイビーム用の可変配光パターン」は、ハイビーム用配光パターン自体であって、その配光パターン形状を変化させることができるものであってもよいし、ハイビーム用配光パターンを形成する際にロービーム用配光パターンに対して付加される付加配光パターンであって、その配光パターン形状を変化させることができるものであってもよい。
【0012】
上記「1対の灯具ユニット」相互間の位置関係は特に限定されるものではなく、例えば、上下2段で配置された構成や左右方向に並列で配置された構成等が採用可能である。
【0013】
上記「光源」は、投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置されているが、ここで「後側焦点よりも後方側に配置され」には、幾何学的に後側焦点よりも後方側に配置される場合だけでなく、光学的に後側焦点よりも後方側に配置される場合(すなわち、光路上にミラーが配置されており、その鏡像としての仮想光源が後側焦点よりも後方側に配置される場合)も含まれる。
【0014】
上記「可動シェード」は、上記遮光位置と上記遮光解除位置との間で左右方向に移動し得る構成となっているが、その移動の態様は特に限定されるものではなく、例えば直線往復動や回動等が採用可能である。
【0015】
上記「特定の対象物」は、この対象物に対して光照射を行うことが好ましくない対象物であれば、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、前走車や対向車あるいは歩行者や自転車等が採用可能である。
【0016】
上記「対象物に対応する遮光位置」とは、対象物に対応する位置に可変配光パターンの暗部が形成されるような遮光位置を意味するものである。
【発明の効果】
【0017】
上記構成に示すように、本願発明に係る車両用照明灯具は、ハイビーム用の可変配光パターンを形成するための1対の灯具ユニットを備えているが、これら各灯具ユニットとして、可動シェードを備えたプロジェクタ型の灯具ユニットを採用した上で、車両走行中に検知手段により車両前方に存在する特定の対象物が左右2箇所で同時に検知されたとき、各灯具ユニットのアクチュエータを駆動して、各灯具ユニットの可動シェードを各対象物に対応する遮光位置へそれぞれ移動させる構成となっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0018】
すなわち、各灯具ユニットの可動シェードによって可変配光パターンに形成される2箇所の暗部を、前走車や対向車の位置に合わせて左右方向に移動させることにより、前走車のドライバおよび対向車のドライバ等のいずれにもグレアを与えてしまうことなく自車ドライバの前方視認性を高めることができる。しかもこれを、各灯具ユニットをスイブルさせることを必要とせずに実現することができる。
【0019】
このように本願発明によれば、ハイビーム用の可変配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具において、可変配光パターンの一部を暗部として形成すべき対象物が左右2箇所で同時に出現した場合においても、前走車や対向車のドライバ等にグレアを与えてしまうことなく自車ドライバの前方視認性を高めることができる。
【0020】
上記構成において、配光制御手段として、検知手段により検知された対象物の左右幅が、可動シェードによって可変配光パターンに形成される暗部の左右幅よりも大きくなったとき、該可動シェードを有する灯具ユニットの光源を消灯させる構成とすれば、前走車や対向車のドライバ等に不用意にグレアを与えてしまうおそれをなくすことができる。
【0021】
上記構成において、1対の灯具ユニットが車両前端部の左右両側に配置されている場合には、配光制御手段として、左側に位置する灯具ユニットの可動シェードを、左側の対象物に対応する遮光位置へ移動させるとともに、右側に位置する灯具ユニットの可動シェードを、右側の対象物に対応する遮光位置へ移動させる構成とすれば、次のような作用効果を得ることができる。
【0022】
すなわち、可変配光パターンに形成される2箇所の暗部のうち、左側の暗部は左側の灯具ユニットからの照射光により形成されるとともに、右側の暗部は右側の灯具ユニットからの照射光により形成されることとなるので、検知手段により検知された各対象物の方向と各暗部が形成される方向とのなす角度を小さい値に設定することができる。そしてこれにより、各灯具ユニットのアクチュエータに対する駆動制御を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具を示す正面図
【図2】図1のII−II線断面図
【図3】図2のIII−III線断面図
【図4】上記車両用照明灯具から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるハイビーム用配光パターンを、(a)は各灯具ユニットの可動シェードが遮光解除位置にある状態で示す図、(b)は各灯具ユニットの可動シェードが同一の遮光位置にある状態で示す図
【図5】上記ハイビーム用配光パターンを、(a)は各灯具ユニットの可動シェードが互いに異なる遮光位置にある状態で示す図、(b)は各灯具ユニットの可動シェードが互いに異なる遮光位置にあり、かつ、一方の灯具ユニットの光源が消灯した状態で示す図
【図6】上記実施形態の変形例を示す、図1と同様の図
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具10を示す正面図である。
【0025】
同図に示すように、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、灯具本体12と、コントロールユニット50と、車両前方の光景を撮像するための車載カメラ52とを備えた構成となっている。
【0026】
そして、この車両用照明灯具10においては、そのコントロールユニット50に対して、車載カメラ52で撮像された画像データの信号と、ロービームとハイビームとのビーム切換えを行うためのビーム切換スイッチ54からのビーム切換信号とが入力されるようになっている。
【0027】
灯具本体12は、ランプボディ14と、その前端開口部に取り付けられた素通し状の透光カバー16とで形成される灯室内に、3つの灯具ユニット18、20L,20Rが収容された構成となっている。
【0028】
灯具ユニット18は、ロービーム用配光パターンを形成するための灯具ユニットであって、プロジェクタ型の灯具ユニットとして構成されている。
【0029】
灯具ユニット20L、20Rは、ハイビーム用配光パターンを形成する際、ロービーム用配光パターンに対して付加される付加配光パターンを形成するための灯具ユニットであって、プロジェクタ型の灯具ユニットとして構成されている。
【0030】
これら灯具ユニット20L、20Rは、左右対称の構成を有している。そこで、以下においては、灯具ユニット20Lについて説明する。
【0031】
図2は、図1のII−II線断面図であり、図3は、図2のIII−III線断面図である。
【0032】
これらの図にも示すように、灯具ユニット20Lは、投影レンズ22と、左右1対の光源24La、24Raと、左右1対のリフレクタ26L、26Rと、可動シェード28と、アクチュエータ30と、これらを支持するホルダ32とを備えた構成となっている。
【0033】
投影レンズ22は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置されている。そして、この投影レンズ22は、その後側焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影するようになっている。
【0034】
左右1対の光源24La、24Raは、いずれも白色発光ダイオード24L、24Rの発光チップであって、投影レンズ22の後側焦点Fよりも後方側で、かつ光軸Axから左右斜め上方に離れた位置において、左右対称の位置関係で略下向きに配置されている。
【0035】
左右1対のリフレクタ26L、26Rは、いずれも、左右1対の光源24La、24Raの各々を、下方側から略半ドーム状に覆うようにして、左右対称の位置関係で配置されている。その際、これら左右1対のリフレクタ26L、26Rは、互いに一体的に形成されている。
【0036】
これら各リフレクタ26L、26Rの反射面26La、26Raは、灯具前方へ向けて斜め下方に延びる軸線Ax1上に長軸を有するとともに各光源24La、24Raの発光中心をそれぞれ第1焦点とする略楕円面状の曲面で構成されており、その離心率が鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。そしてこれにより、これら各リフレクタ26L、26Rは、各光源24La、24Raからの光を、鉛直断面内においては後側焦点Fよりもやや前方において略収束させるとともに、水平断面内においてはその収束位置をかなり前方へ移動させるようになっている。
【0037】
その際、これら左右1対のリフレクタ26L、26Rは、平面視において、その中心軸となる軸線Ax1を後側焦点Fの近傍において光軸Axと交差させるように配置されており、これにより各リフレクタ26L、26Rからの反射光の後側焦点Fへの集光性を高めるようになっている。
【0038】
可動シェード28は、灯具正面視において縦長矩形状の外形形状を有する直方体ブロックで構成されており、投影レンズ22の後側焦点面近傍において左右方向(すなわち車幅方向)に移動可能に配置されている。
【0039】
この可動シェード28は、光軸Axの下方において左右方向に延びるシャフト34と螺合するとともにガイドピン36とスライド可能に係合している。その際、シャフト34は、後側焦点Fの略真下を通るようにして左右方向に延びる水平軸線Ax2上に配置されており、ガイドピン36はその下方近傍に配置されている。
【0040】
シャフト34は、その一端部においてアクチュエータ30に連結されている。このアクチュエータ30は、ホルダ32の切欠き部に載置固定されたブラケット38に固定支持されている。また、シャフト34は、その他端部において、ホルダ32の切欠き部に載置固定されたブラケット40に回転可能に支持されている。そして、ガイドピン36は、その両端部においてブラケット38、40に固定支持されている。
【0041】
アクチュエータ30は、ステッピングモータ等で構成されており、その駆動によりシャフト34を回転させて、このシャフト34と螺合する可動シェード28を水平軸線Ax2に沿って左右方向に移動させるようになっている。
【0042】
そして、このアクチュエータ30の駆動により、可動シェード28は、図2において実線で示す遮光解除位置と、例えば2点鎖線で示す遮光位置とを採り得るようになっている。
【0043】
その際、遮光解除位置は、左右1対のリフレクタ26L、26Rからの反射光を可動シェード28により遮蔽しない右端位置(灯具正面視においては左端位置)に設定されており、一方、遮光位置は、左右1対のリフレクタ26L、26Rからの反射光の一部を可動シェード28により遮蔽する位置(例えば、同図2点鎖線で示すように、上記反射光のうち後側焦点Fの近傍を通過する光を遮蔽する光軸Ax上の位置)に設定されている。
【0044】
この可動シェード28は、シャフト34と螺合した状態において、その上端面28aが光軸Axのやや上方に位置するように形成されている。そして、この可動シェード28は、ガイドピン36との係合により、シャフト34が回転した場合においても、常に直立した姿勢を維持するようになっている。
【0045】
図1に示すように、アクチュエータ30は、ビーム切換スイッチ54および車載カメラ52からの入力信号に基づいて、コントロールユニット50からの駆動制御信号により駆動されるようになっている。また、このコントロールユニット50は、ビーム切換スイッチ54からの入力信号に基づいて、灯具ユニット20Lの各光源24La、24Raおよび灯具ユニット20Rの各光源24La、24Raの点消灯制御も行うようになっている。
【0046】
図4および5は、本実施形態に係る車両用照明灯具10から前方へ照射される光により、車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるハイビーム用配光パターンを透視的に示す図である。
【0047】
図4(a)に示すハイビーム用配光パターンPH0は、通常のハイビーム用配光パターンであって、ロービーム用配光パターンPLと付加配光パターンPA0との合成配光パターンとして形成されるようになっている。
【0048】
ロービーム用配光パターンPLは、灯具ユニット18からの照射光により形成される配光パターンであって、上端縁に左右段違いの水平カットオフラインCL1、CL2を有する左配光のロービーム用配光パターンとして形成されている。
【0049】
水平カットオフラインCL1、CL2は、灯具正面方向の消点であるH−Vを通る鉛直線であるV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延びており、V−V線よりも右側が、対向車線側の水平カットオフラインCL1として水平方向に延びるようにして形成されるとともに、V−V線よりも左側が、自車線側の水平カットオフラインCL2として水平カットオフラインCL1よりも段上がりで水平方向に延びるようにして形成されている。ただし、この水平カットオフラインCL2におけるV−V線寄りの端部は、水平カットオフラインCL1とV−V線との交点から左斜め上方へ15°の傾斜角で延びる斜めカットオフラインとして形成されている。
【0050】
このロービーム用配光パターンPLにおいて、水平カットオフラインCL1とV−V線との交点であるエルボ点は、H−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。
【0051】
一方、付加配光パターンPA0は、V−V線に関して左右対称の位置関係で部分的に重複する左右1対の配光パターンPAL、PARの合成配光パターンであって、V−V線を中心にして左右両側に細長く延びる横長の配光パターンとして形成されている。
【0052】
左側の配光パターンPALは、左側の灯具ユニット20Lからの照射光により形成される配光パターンであり、右側の配光パターンPARは、右側の灯具ユニット20Rからの照射光により形成される配光パターンである。
【0053】
その際、左側の配光パターンPALは、左側の灯具ユニット20Lにおいて、その可動シェード28が遮光解除位置にある状態で、その右側の光源24Raが点灯したときに、その右側のリフレクタ26Rで反射した光により形成されるようになっており、このとき左側の光源24Laは消灯した状態となっている。
【0054】
一方、右側の配光パターンPARは、右側の灯具ユニット20Rにおいて、その可動シェード28が遮光解除位置にある状態で、その左側の光源24Laが点灯したときに、その左側のリフレクタ26Lで反射した光により形成されるようになっており、このとき右側の光源24Raは消灯した状態となっている。
【0055】
これら各配光パターンPAL、PARは、その下端縁が、H−Vを通る水平線であるH−H線の下方において略水平方向に延びるとともに、その上端縁が、この下端縁の左右両端位置から上方側へ横長略楕円状に膨らむように形成されている。その際、これら各配光パターンPAL、PARの下端縁は、H−Vの2〜3°程度下方においてV−V線と交差しており、その上端縁は、H−Vの3〜5°程度上方においてV−V線と交差するように形成されている。
【0056】
そして、この付加配光パターンPA0において、高光度領域であるホットゾーンは、左右1対の配光パターンPAL、PARが重複しているH−V近傍に位置している。
【0057】
なお、ハイビーム用配光パターンとして、ハイビーム用配光パターンPH0よりもさらに明るい配光パターンを必要とするとき(例えば山間路走行時等)には、図示しないモードスイッチの操作により、コントロールユニット50において、左側の灯具ユニット20Lにおける左側の光源24Laおよび右側の灯具ユニット20Rにおける右側の光源24Raを追加点灯させて、付加配光パターンPA0の明るさを倍増させるようになっている。
【0058】
図4(b)に示すハイビーム用配光パターンPH1は、図4(a)に示すハイビーム用配光パターンPH0に対して、その一部が欠けた形状を有するハイビーム用配光パターンである。
【0059】
このハイビーム用配光パターンPH1は、ロービーム用配光パターンPLと、図4(a)に示す付加配光パターンPA0に対してその一部が欠けた形状を有する付加配光パターンPA1との合成配光パターンとして形成されている。
【0060】
付加配光パターンPA1は、左側の灯具ユニット20Lにおける右側の光源24Raおよび右側の灯具ユニット20Rにおける左側の光源24Laが点灯した状態で、各灯具ユニット20L、20Rの可動シェード28が、遮光解除位置から第1の遮光位置(すなわち図1において2点鎖線で示す位置)に移動したときに形成される付加配光パターンである。
【0061】
この付加配光パターンPA1は、図4(a)に示す付加配光パターンPA0に対して、その左右方向の中心部における上部領域に矩形状の切欠き部として暗部PA1aが形成された配光パターンとして形成されている。
【0062】
この暗部PA1aは、第1の遮光位置にある可動シェード28の影として形成されるものである。その際、この暗部PA1aの下端縁は、可動シェード28の上端面28aが光軸Axの上方近傍において水平面として形成されていることから、H−H線の下方近傍において水平方向に延びている。また、この暗部PA1aの左右両側縁は、可動シェード28の左右両側面が鉛直面として形成されていることから、V−V線の両側において鉛直方向に延びている。
【0063】
具体的には、この暗部PA1aは、V−V線を中心にして4〜5°程度の左右幅で形成されており、その下端縁は、ロービーム用配光パターンPLの水平カットオフラインCL1と略同じ高さかそのやや上方に位置している。
【0064】
このような暗部PA1aが形成された付加配光パターンPA1を有するハイビーム用配光パターンPH1においては、前走車2のドライバにグレアを与えてしまうことなく自車ドライバの前方視認性を高めることが可能となる。
【0065】
図5(a)、(b)に示すハイビーム用配光パターンPH2、PH3も、図4(a)に示すハイビーム用配光パターンPH0に対して、その一部が欠けた形状を有するハイビーム用配光パターンである。
【0066】
その際、図5(a)に示す付加配光パターンPA2は、左側の灯具ユニット20Lにおける右側の光源24Raおよび右側の灯具ユニット20Rにおける左側の光源24Laが点灯した状態で、左側の灯具ユニット20Lの可動シェード28が第1の遮光位置よりも右側の第2の遮光位置に変位するとともに、右側の灯具ユニット20Rの可動シェード28が第1の遮光位置よりも左側の第2の遮光位置に変位したときに形成される付加配光パターンである。
【0067】
この付加配光パターンPA2においては、V−V線の左右両側の2箇所に暗部PALa、PARaが形成されている。
【0068】
その際、左側の暗部PALaは、左側の灯具ユニット20Lからの照射光により形成される左側の配光パターンPALに、第2の遮光位置にある可動シェード28の影として形成されるものである。
【0069】
一方、右側の暗部PARaは、右側の灯具ユニット20Lからの照射光により形成される右側の配光パターンPARに、第2の遮光位置にある可動シェード28の影として形成されるものである。
【0070】
この付加配光パターンPA2においては、V−V線の左右両側に離れた位置に、左右1対の暗部PALa、PARaが形成されているので、自車走行レーンにおける左側の走行レーンを走行している前走車2のドライバおよび対向車線を走行している対向車4のドライバにグレアを与えてしまうことなく、自車ドライバの前方視認性を高めることが可能となる。
【0071】
コントロールユニット50は、車載カメラ52から入力される前走車2および対向車4等の対象物の画像データに基づいて、その位置および位置変化を認識し、これらの情報に基づいて、各暗部PALa、PARaを各対象物の位置変化に追従させるようにして左右方向に変位させるようになっている。
【0072】
その際、コントロールユニット50は、車載カメラ52により検知された対象物の左右幅が、いずれかの暗部PALaまたはPARaの左右幅よりも大きくなったときには、その配光パターンPALまたはPARを形成している灯具ユニット20Lの光源24Raまたは灯具ユニット20Rの光源24Laを消灯させるようになっている。
【0073】
図5(b)に示すハイビーム用配光パターンPH3は、図5(a)に示す車両走行状況から、多少時間が経過した後の車両走行状況、すなわち、自車が前走車2にやや接近し、かつ、対向車4が自車にかなり接近した状況下で形成されるハイビーム用配光パターンである。
【0074】
このハイビーム用配光パターンPH3の付加配光パターンPA3は、ハイビーム用配光パターンPH2の付加配光パターンPA2に対して、左側の暗部PALaが左側に変位しているとともに右側の暗部PARaが右側に変位しており、かつ、この付加配光パターンPA3は左側の配光パターンPALのみで構成されており、右側の配光パターンPARは形成されていない。
【0075】
これは、前走車2に関しては、その車幅が左側の暗部PALaの左右幅よりもまだ小さいため、左側の配光パターンPALの形成を維持しても、前走車2のドライバにグレアを与えてしまうことはないが、対向車4に関しては、その車幅が左側の暗部PALaの左右幅よりもすでに大きくなっており、右側の配光パターンPARによって対向車4のドライバにグレアを与えてしまうおそれがあるため、対向車4の車幅が左側の暗部PALaの左右幅よりも大きくなった時点で、右側の灯具ユニット20Rの光源24Laが消灯されることによるものである。
【0076】
なお、図5(b)に示す車両走行状況から、さらに時間が経過すると、前走車2の車幅も左側の暗部PALaの左右幅よりも大きくなるため、左側の灯具ユニット20Lの光源24Raが消灯されて、左側の配光パターンPALも形成されなくなる。しかしながら、その頃には、対向車4が右側の配光パターンPARの形成範囲から外れるので、右側の灯具ユニット20Rの光源24Laが点灯されて、右側の配光パターンPARが再び形成されることとなる。
【0077】
次に本実施形態の作用効果について説明する。
【0078】
本実施形態に係る車両用照明灯具10は、ハイビーム用の可変配光パターンとしての付加配光パターンPA0を形成するための1対の灯具ユニット20L、20Rを備えているが、これら各灯具ユニット20L、20Rとして、可動シェード28を備えたプロジェクタ型の灯具ユニットを採用した上で、車両走行中に車両前方に存在する特定の対象物が検知手段としての車載カメラ52により左右2箇所で同時に検知されたとき、配光制御手段としてのコントロールユニット50により各灯具ユニット20L、20Rのアクチュエータ30を駆動して、各灯具ユニット20L、20Rの可動シェード28を、各対象物に対応する遮光位置へそれぞれ移動させる構成となっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0079】
すなわち、各灯具ユニット20L、20Rの可動シェード28によって可変配光パターンPA2に形成される2箇所の暗部PALa、PARaを、前走車2や対向車4の位置に合わせて左右方向に移動させることにより、前走車2のドライバおよび対向車4のドライバ等のいずれにもグレアを与えてしまうことなく自車ドライバの前方視認性を高めることができる。しかもこれを、各灯具ユニット20L、20Rをスイブルさせることを必要とせずに実現することができる。
【0080】
このように本実施形態によれば、ハイビーム用の可変配光パターンを形成するように構成された車両用照明灯具10において、可変配光パターンPA2の一部を暗部PALa、PARaとして形成すべき対象物が左右2箇所で同時に出現した場合においても、前走車2や対向車4のドライバ等にグレアを与えてしまうことなく自車ドライバの前方視認性を高めることができる。
【0081】
しかも、本実施形態のコントロールユニット50は、車載カメラ52により検知された対象物の左右幅が、可動シェード28によって可変配光パターンPA2に形成される暗部PALa(またはPARa)の左右幅よりも大きくなったとき、該可動シェード28を有する灯具ユニット20L(または20R)の光源20Ra(または20La)を消灯させる構成となっているので、前走車2や対向車4のドライバ等に不用意にグレアを与えてしまうおそれをなくすことができる。
【0082】
上記実施形態においては、1対の灯具ユニット20L、20Rが、単一の灯具本体12の構成要素となっている場合について説明したが、図6に示す車両用照明灯具110のように、車両前端部の左右両側に配置された1対の灯具本体112、112Rに1対の灯具ユニット20L、20Rが別々に配置された構成とすることも可能である。
【0083】
このような構成を採用した場合においても、上記実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0084】
その際、車両前端部の左側に位置する灯具ユニット20Lの可動シェード28を、左側の対象物に対応する遮光位置へ移動させるとともに、車両前端部の右側に位置する灯具ユニット20Rの可動シェード28を、右側の対象物に対応する遮光位置へ移動させる構成とすれば、次のような作用効果を得ることができる。
【0085】
すなわち、このような構成を採用した場合には、可変配光パターンPA2に形成される2箇所の暗部PALa、PARaのうち、左側の暗部PALaは左側の灯具ユニット20Lからの照射光により形成されるとともに、右側の暗部PARaは右側の灯具ユニット20Rからの照射光により形成されることとなる。したがって、車載カメラ52により検知された各対象物(例えば前走車2や対向車4)の方向と各暗部PALa、PARaが形成される方向とのなす角度を小さい値に設定することができる。そしてこれにより、各灯具ユニット20L、20Rのアクチュエータ30に対する駆動制御を容易化することができる。
【0086】
上記実施形態および変形例においては、各灯具ユニット20L、20Rが、左右1対の光源24La、24Raおよび左右1対のリフレクタ26L、26Rを備えた構成となっているものとして説明したが、各灯具ユニット20L、20Rの構成として、単一の光源および単一のリフレクタを備えた構成とすることも可能である。
【0087】
上記実施形態および変形例においては、各灯具ユニット20L、20Rにおける左右1対の光源24La、24Raが白色発光ダイオード24L、24Rの発光チップであるものとして説明したが、放電バルブの発光部等を光源として用いるようにした場合においても、上記実施形態および変形例と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0088】
上記実施形態および変形例においては、車両用照明灯具10、110の灯具ユニット18が、ロービーム用配光パターンPLとして、左配光のロービーム用配光パターンを形成するように構成されているが、右配光のロービーム用配光パターンを形成するように構成されている場合においても、上記実施形態および変形例と同様の構成を採用することにより同様の作用効果を得ることができる。
【0089】
なお、上記実施形態および変形例において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0090】
2 前走車
4 対向車
10、110 車両用照明灯具
12、112L、112R 灯具本体
14 ランプボディ
16 透光カバー
18、20L,20R 灯具ユニット
22 投影レンズ
24L、24R 白色発光ダイオード
24La、24Ra 光源
26L、26R リフレクタ
26La、26Ra 反射面
28 可動シェード
28a 上端面
30 アクチュエータ
32 ホルダ
34 シャフト
36 ガイドピン
38、40 ブラケット
50 コントロールユニット(配光制御手段)
52 車載カメラ(検知手段)
54 ビーム切換スイッチ
Ax 光軸
Ax1 軸線
Ax2 水平軸線
CL1、CL2 水平カットオフライン
F 後側焦点
PAL、PAR 配光パターン
PA0、PA1、PA2 付加配光パターン(可変配光パターン)
PA1a、PALa、PARa 暗部
PH0、PH1、PH2、PH3 ハイビーム用配光パターン
PL ロービーム用配光パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイビーム用の可変配光パターンを形成するための1対の灯具ユニットと、車両前方に存在する特定の対象物を検知する検知手段と、上記各灯具ユニットの配光制御を行う配光制御手段と、を備えてなる車両用照明灯具において、
上記各灯具ユニットは、投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された光源と、この光源からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、このリフレクタと上記投影レンズとの間の光路上に配置された可動シェードと、この可動シェードを、上記リフレクタからの反射光のうち上記可変配光パターンの所定領域を形成するための光を遮蔽する遮光位置とこの遮蔽を解除する遮光解除位置とを採り得るように左右方向に移動させるアクチュエータと、を備えてなり、
上記配光制御手段は、車両走行中に上記検知手段により上記対象物が左右2箇所で同時に検知されたとき、上記各灯具ユニットのアクチュエータを駆動して、上記各灯具ユニットの可動シェードを上記各対象物に対応する遮光位置へそれぞれ移動させるように構成されている、ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項2】
上記配光制御手段は、上記検知手段により検知された上記対象物の左右幅が、上記可動シェードによって上記可変配光パターンに形成される暗部の左右幅よりも大きくなったとき、該可動シェードを有する灯具ユニットの光源を消灯させるように構成されている、ことを特徴とする請求項1記載の車両用照明灯具。
【請求項3】
上記1対の灯具ユニットは、車両前端部の左右両側に配置されており、
上記配光制御手段は、左側に位置する上記灯具ユニットの可動シェードを、左側の上記対象物に対応する遮光位置へ移動させるとともに、右側に位置する上記灯具ユニットの可動シェードを、右側の上記対象物に対応する遮光位置へ移動させるように構成されている、ことを特徴とする請求項1または2記載の車両用照明灯具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−134088(P2012−134088A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287030(P2010−287030)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】