説明

車内販売用のワゴン

【課題】 キャスターを制動する際に、ゴム屑が床面に落ちることがなく、かつ、ワゴンの総重量が比較的に大きなものであってもキャスターの転動を確実に制止することのできるブレーキ装置を備える車内販売用のワゴンを提供する。
【解決手段】 前後方向X,Yと、荷台2と、荷台2の底面において前方Xと後方Yとに取り付けられた一対のキャスター3a,3a,3b,3bと、前記キャスター3a,3a,3b,3bのうち少なくとも後方Yに位置するキャスター3b,3bを制動するためのブレーキ装置6とを含む車内販売用のワゴン1。ブレーキ装置が、キャスター3b,3bと一体に回転する円弧状のドラム13と、ドラム13の内周面13aに当接してキャスター3b,3bを制動するブレーキ動作部とを含む内拡式のドラムブレーキ装置6である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新幹線等の列車で使用される車内販売用のワゴン、特に詳しくは、ワゴンのキャスターのブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、新幹線等の列車の車内販売を円滑かつ安全に行うために、ワゴンの非操作時、すなわち、販売者が、荷台の後端に設けられた操作レバーから両手を離した状態において、ブレーキが作動し、操作レバーを握った状態においてブレーキが外れてキャスターが転動可能となるブレーキ装置を備える車内販売用のワゴンは公知である。例えば、特許文献1には、操作レバーと、操作レバーが軸着されているリンク杆と、リンク杆に連結されているブレーキシューとを含む。
【特許文献1】実用新案登録第3050213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示されたワゴンでは、ワゴンの非操作時においてキャスターに棒状のライニング部材が当接しているので、車内販売中にワゴンが不用意に動き出すことはない。また、ワゴンを移動する際には、販売員が操作レバーを握ることによって、リンク杆が引き上げられ、キャスターからライニング部材が離間するので、容易にブレーキを外すことができる。
【0004】
しかし、ワゴンを移動している際に、このようにライニング部材を直接キャスターに摺接させてその摩擦抵抗によりキャスターの転動を制止する場合には、通常、ライニングは天然又は合成のゴムから作られているので、摩擦によって摺接面にゴム屑が生じ、制止するごとに床面にゴム屑が落ちるおそれがある。ワゴンを移動した後に、このようなゴム屑を回収することは手間であり、また、新幹線等の車内では床面に絨毯が敷かれているので、ゴム屑が床面に散在していることは見た目にも好ましくない。
【0005】
また、ワゴンの総重量が大きければ大きいほどに、キャスターの回転トルクは大きくなるので、ワゴンが飲食料品や土産物を積んで総重量が100kgを超える場合には、このようにキャスターに直接ライニング部材を摺接するブレーキ装置のみによって転動しているキャスターを制止することは困難である。さらに、新幹線等の列車の車内は、列車がブレーキをかけたときに大きく揺れることがあるので、揺れが生じた場合であっても、停止しているワゴンがみだりに動き出すことがないような制動力が必要となる。
【0006】
そこで、本発明では、キャスターの転動を制止する際に、ゴム屑が床面に落ちることがなく、かつ、ワゴンの総重量が比較的に大きなものであってもキャスターの転動を確実に制止することのできるブレーキ装置を備える車内販売用のワゴンの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明が対象とするのは、前後方向と、荷台と、前記荷台の底面において前方と後方とに取り付けられた一対のキャスターと、前記キャスターのうち少なくとも後方に位置する一対のキャスターを制動するためのブレーキ装置とを含む車内販売用のワゴンである。
【0008】
本発明の特徴とするところは、前記ブレーキ装置が、前記キャスターと一体に回転する円弧状のドラムと、前記ドラムの内周面に当接して前記キャスターを制動するブレーキ動作部とを含む内拡式のドラムブレーキ装置であることである。
【0009】
本発明は、前記特徴とする構成のほかに、以下の好ましい実施の形態を含む。
(1)前記ブレーキ動作部が、円弧状を有し、前記ドラムの内周面と対向して配置され、かつ、その外径が拡径可能であるブレーキシューと、前記ブレーキシューの外面に固着されたライニング部材と、前記荷台の後端から後方へ延びる上下動可能な操作レバーと、前記ブレーキシューを拡径する回転可能なカムを有するカム機構と、前記操作レバーに連結されたコードと、一端部が前記コードに連結され、他端部が前記カム機構に連結されており、前記コードの上下動と連動して前記カムを回転させるアームとを含み、前記ブレーキシューが一対の半円弧状の第1可動部と第2可動部とから形成され、前記カムが前記第1可動部の端部と、前記第1可動部の端部と対向する前記第2可動部の端部との間に位置してそれらに当接しており、前記コードが上方へ引っ張られることによって前記カムが回転し、前記第1可動部の端部と前記第2可動部の端部とが互いに離間する方向へ押圧されて前記ブレーキシューが拡径される。
(2)前記ドラムブレーキ装置が、前記ブレーキシューが固定された円形の支持部と、前記支持から外方へ延出し、前記アームと離間対向する延出部とを有するベースプレートと、前記ブレーキシューに固定されたU字状の第1ばね要素と、前記アームと前記延出部との間に介在され、それらを互いに離間する方向へ付勢するコイル状の第2ばね要素とをさらに含む。
(3)コイル状の第3ばね要素が、前記アームと前記延出部との間において、前記第2ばね要素と並列して配置されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、新幹線等の列車の車内で使用される車内販売用ワゴンのブレーキ装置が、キャスターと一体に回転する円弧状のドラムと、ライニング部材をドラムの内周面に摺接してキャスターを制動するブレーキ動作部とを含む内拡式のドラムブレーキ装置であるので、たとえワゴンの総重量が100kgを超えるような場合であっても、確実にキャスターの転動を制止し、ワゴンを停止することができる。また、このブレーキ装置によれば、ブレーキの作動時に、ドラム内部においてドラムの内周面にゴム部材からなるライニング部材が摺接されるので、摺接により生じるゴム屑がドラムの外部に排出されることはなく、絨毯等が敷かれた新幹線等の列車の車内の床にゴム屑が散乱することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、ワゴン1の斜視図、図2はドラムブレーキ装置6の一部破断斜視図、図3はドラムブレーキ装置6の分解斜視図、図4は、図3の矢印IVから見たカム機構27の拡大図である。図1では、ワゴン1の前方がX、後方がYで示されている。
【0012】
図1に示すように、ワゴン1は、複数のトレー棚を有する荷台2と、荷台2の底面に取り付けられ、前後方向X,Yにおいて離間対向する一対のキャスター3a,3a;3b,3bと、荷台2の後端から後方Yへ延出する上下動可能な操作レバー4と、操作レバー4の下方に位置し、ワゴン1の制動状態において操作レバー4と縦方向において離間対向する握持部5と、後方Yに位置するキャスター3b,3bを制動するための内拡式のドラムブレーキ装置6とを含む。本実施形態では、後方Yに位置するキャスター3b,3bにのみドラムブレーキ装置6が取り付けられているが、必要に応じて、後方Yのキャスター3b,3bのみならず、前方Xに位置するキャスター3a,3aに取り付けられていてもよい。
【0013】
荷台2は、平面凸状を有し、縦方向に所与寸法離間して並列するトレー棚を支持するための側板8a,8bと、側板8a,8bの下端部を固定し、ワゴン1の底面を形成する枠状の底板9とを含む。側板8a,8bの内面には、操作レバー4の連結端部4aが延びていて、連結端部4aには下方へ延びるコード10の上端部10aが連結されている。
【0014】
コード10は、キャスター3b,3bの背面から前方Xに延びるドラムブレーキ装置6のアーム11に固定された下端部10bをさらに有し、リンク機構(図示せず)を介して、アーム11が操作レバー4の上下動と連動するようにこれらに連結されている。具体的に言えば、操作レバー4が下方に押し下げられるとアーム11は上方へ引っ張られてドラムブレーキ装置6が解除され、操作レバー4が下方に押し下げられた位置から上方へ、すなわち、元の位置に戻されると、アーム11は下方へ移動して元の位置に戻り、ドラムブレーキ装置6が作動する。
【0015】
図2、図3及び図4に示すとおり、ドラムブレーキ装置6は、底板9の下面に固定される固定フレーム12と、キャスター3b,3bと一体に回転する円弧状のドラム13と、ドラム13の内周面に摺接してキャスター3b,3bを制動するブレーキ作動部14とを含む。固定フレーム12、ドラム13を含むキャスター3b,3bおよびブレーキ動作部14は、それらを貫通するシャフト15によって連結されている。
【0016】
固定フレーム12は、底板9の下面に固定される上端部12aと、上端部12aから下方へ延びる第1側部12bと第2側部12cとを有しており、第1側部12bには角形の角孔16が形成されており、第2側部12cには角孔16と対向する位置に円形の孔17と、孔17の上方に位置する孔18とが形成されている。
【0017】
ドラム13は、円形の底部19と、底部19の周縁から外方に突出し、その内面がドラム13の内周面13aを形成する外周壁部20と、中心に設けられた第1シャフト貫通孔21aと、第1シャフト貫通孔21aの外周縁から突出し、内周にベアリング(図示せず)が組み込まれた軸受け21とを有する。
【0018】
ブレーキ動作部14は、ドラム13の内周面13aに沿って配置される円弧状のブレーキシュー24を有するベースプレート25と、ドラム13の内周面13aに摺接してキャスター3b,3bを制動するライニング部材26a,26bと、ブレーキシュー24を拡径するカム機構27と、カム機構27と連結され、コード10とカム機構27とを連動させるアーム11とを有する。
【0019】
ブレーキシュー24は、半円弧状を有し、外面にゴム製のライニング部材26a,26bが固着されている第1可動部28と第2可動部29とからなり、第1可動部28の第1端部28aと第2可動部29の第1端部29aとが、カム機構27を介して対向し、かつ、第1可動部28の第2端部と第2可動部29の第2端部とが雄ねじ部を有するピボット30を介して互いに固定されていることによって、円弧状を呈している。第1可動部28の第1端部28aとそれに対向する第2可動部29の第1端部29aとは、回転可能なカム33に当接しており、ブレーキシュー24の中心には、開口部32が形成されている。
【0020】
ブレーキシュー24とベースプレート25との間には、U字状を有し、対向する端部が外方へ突出する一対の係止片34a,34bからなる第1ばね要素34が介装されており、係止片34a,34bが第1及び第2可動部28,29の第1端部28a,29a寄りの透孔に挿着されている。このように、第1及び第2可動部28,29には第1ばね要素34が取り付けられているので、ブレーキシュー24は、第1ばね要素34の収縮作用によって径方向に付勢されて円弧状を呈するとともに、ドラムブレーキ装置6の作動、非作動に応じて、拡縮を繰り返すことができる。
【0021】
カム機構27は、短矩形状のカム33と、カム33を回転可能とし、雄ねじ部を有するロッド35と、上側からカム33に固定されたピン36とを有する。カム33は、ドラムブレーキ装置6の解除時において、第1可動部28の第1端部28a及び第2可動部29の第1端部29aと並行し、かつ、それらに当接する両側部33b,33cを有する。第1可動部28の第1端部28aと第2可動部29の第1端部29aとには鋼板からなる補強部材37a,37bがリベットによって固定されており、補強部材37a,37bのカム33と当接する面は外方へわずかに突出し、その突出部位がピン36の下端部に当接している。これにより、ブレーキシュー24が拡縮を繰り返しても、第1可動部28の第1端部28aと第2可動部29の第1端部29aとの位置がずれて、外方へ外れることはない。
【0022】
再び、図2及び3を参照すると、ベースプレート25は、円形皿状を有し、中心に第2シャフト貫通孔38と、その周縁から背面側へ延出する延出部(図示せず)と、ドラムブレーキ装置6の組立時においてドラム13の軸受け21に嵌挿される円筒状部39とを有する支持部40と、支持部40の背面から外方へ延出するL型の延出部41と、延出部41から上方へ突出する舌片41aとを有する。支持部40は、透孔42と、円筒状部39を介して透孔42と離間対向し、かつ、中心に透孔を有する突出部43と、背面側へ突出する係止片44とを有し、舌片41aには孔45が形成され、延出部41には、孔46と、延出部41の端縁を切欠する切欠部47aと連通する挿通孔47とが形成されている。
【0023】
アーム11は、尖形状の第1端部11aと、下方へ僅かに屈曲している第2端部11bと、背面側へ延出する固定部49とを有する。第1端部11aと固定部49との間には角孔50、第2端部11bには孔51、固定部49には、孔52がそれぞれ形成されている。また、延出部41では、固定具54によってコード10の外面を形成する被覆部材が固定されており、コード10から露出したワイヤー48が切欠部47aから挿通孔47に挿通され、挿通孔47と対向するアーム11の第2端部11bの孔51においてナット55によって締着されている(図2参照)。
【0024】
アーム11と延出部41とは、ドラムブレーキ装置6の作動状態において、上下方向へ離間対向しており、アーム11と延出部41との間には、コイル状の第2ばね要素57と第3ばね要素58とが並列して固定されている。具体的には、第2ばね要素57は、上端部が延出部41の丸孔46に挿入されたボルト60によって固定され、下端部が、丸孔52に挿入されたボルト61によって固定されており、固定部49上に位置している。また、第3ばね要素58は、アーム11の第2端部11bと、延出部41との間において、その内部をワイヤー48が貫通するように固定されている。このように、アーム11と延出部41との間には、第2ばね要素57と第3ばね要素58が固定されているので、それらの拡圧作用によって、アーム11と延出部41とは、互いに離間する方向へ付勢されている。
【0025】
このような構成からなるブレーキ動作部14では、組立て状態において、支持部40とブレーキシュー24との間に第1ばね要素34が介装された状態で、ピボット30の雄ねじ部が支持部40のねじ孔42に挿入されて座金64とナット65によって締め付けられており、ロッド35の雄ねじ部が突出部43の透孔に挿入されるとともに、アーム11の角孔50に挿入されて、ロッド35がアーム11に座金66とナット67とによって軸着されている。これにより、アーム11の上下動によってロッド35が回転し、アーム11が下方に位置する場合には、カム33がブレーキシュー24の外径を拡径するので、ブレーキシュー24のライニング部材26a,26bがドラム13の内周面13aに圧接又は摺接されて、キャスター3b,3bを制動することができ、一方、操作レバー4が押し下げられてアーム11が上方へ引っ張られた場合には、カム33の両側部33b,33cが第1可動部28の第1端部28aと第2可動部29の第1端部29aとにそれぞれ並行して当接した状態となり、ブレーキシュー24が周方向へ収縮するので、ライニング部材26a,26bがドラム13の内周面13aから離間し、キャスター3b,3bが回転可能となる。
【0026】
ドラムブレーキ装置6の組立て状態では、ライニング部材26a,26bがドラム13の内周面13aと対向するように、ブレーキシュー24がドラム13に嵌挿されているとともに、支持部40の円筒状部39がドラム13の軸受け21に挿入されており、ブレーキ動作部14と固定フレーム12とは、第2側部12cの孔18とベースプレート25の舌片41aの孔45とに挿入されたボルト69と、座金70,71と、ナット72とによって固定されている。また、シャフト15が、固定フレーム12の第1側部12bの角孔16と、ドラム13の第1シャフト貫通孔21aと、ブレーキシュー24の開口部32と、支持部40の第2シャフト貫通孔38と固定フレーム12の第2側部12cの孔17に貫通され、座金73,74と、ナット75とによって締め付けられていることによって、これらの部材が連結されている。
【0027】
なお、ドラムブレーキ装置6を構成する各部材は、その一部又は全体が別体ではなく一体に成形されていてもよいし、各部材の固定には、ボルトやナットを用いるほかに、溶接、接着、ビス止め等の適宜の固定手段を用いることができる。
【0028】
図5(a)は、ドラムブレーキ装置6が作動した状態におけるブレーキ動作部14の平面図、図5(b)は、ドラムブレーキ装置6が解除された状態におけるブレーキ動作部14の平面図である。図5(a)(b)では、説明の便宜上、ドラム13とドラム13の内周面13a、カム機構27のピン36とが破線で示されている。
【0029】
図5(a)に示すとおり、ドラムブレーキ装置6が作動した状態、すなわち、キャスター3b,3bが制動されている場合では、操作レバー4は握持部5から上方へ離間した位置にあり、コード10が上方(矢印P)へ引っ張られていないので、アーム11とベースプレート25の延出部41とが、第2ばね要素57と第3ばね要素58の拡圧作用によって互いに離間する方向へ付勢されており、カム33は第1ばね要素34の付勢に抗して回転している。このとき、カム33は第1可動部28の第1端部28aと第2可動部29の第2端部29aとに対して傾斜した状態、すなわち、両側部33b,33cの全体がこれらの第1端部28a,29aに当接しておらず、側部33bの内側の隅部が第1可動部28の第1端部28a、側部33cの外側の隅部が第2可動部29の第1端部29aにそれぞれ当接し、ブレーキシュー24の周方向へ押圧している。これにより、第1可動部28と第2可動部29とが離間するように、ブレーキシュー24はピボット30を支点としてカム33によって拡径されており、ライニング部材26a,26bがドラム13の内周面13aに圧接、摺接されるので、ワゴン1が移動している場合には、回転するドラム13の内周面13aとの摩擦抵抗によってドラム13の回転が制止され、キャスター3b,3bが制動される。
【0030】
一方、図5(b)に示すとおり、ドラムブレーキ装置6が解除された状態、すなわち、キャスター3b,3bの非制動時では、販売員が両手を操作レバー4に掛けて、操作レバー4を握持部5と重なるように押し下げることによって、コード10が上方へ引っ張られ、それにより、第2ばね要素57と第3ばね要素58との拡圧作用に抗してアーム11がベースプレート25の延出部41側へ引っ張られて、第2ばね要素57と第3ばね要素58とが収縮する。このとき、第1ばね要素34の収縮作用によって、第1可動部28の第1端部28aと第2可動部29の第1端部29aがカム33の両側部33b,33cを押圧するので、カム33が時計回り(図5(a)の矢印Q)に回転して、図5(a)に示した、第1可動部28の第1端部28aと第2可動部29の第1端部29aとに対して傾斜した状態から、両側部33b,33cが第1可動部28の第1端部28a及び第2可動部29の第1端部29aと並行する状態となり、それらに当接している。これにより、ブレーキシュー24は、周方向へ収縮されて、ライニング部材26a,26bはドラム13の内周面13aから離間するので、ライニング部材26a,26bとの圧接、摺接による摩擦抵抗によりドラム13の回転が制止されることはない。
【0031】
このように、ブレーキ装置6は、操作レバー4を上下動させることによって、ドラム13の内周面13aとライニング部材26a,26bとを圧接、摺接させた際の摩擦抵抗力を利用して、ワゴン1を確実に停止することができ、新幹線等の列車で車内販売をする際に、ワゴン1を安全に操作することができる。
【0032】
また、ブレーキ装置6を作動させるためには、第2ばね要素57と第3ばね要素58とがアーム11と延出部41とを互いに離間する方向へ付勢し、アーム11と連動するカム33が第2ばね要素57と第3ばね要素58との付勢に抗してブレーキシュー24を拡径しなければならないので、第2ばね要素57と第3ばね要素58とによる弾性力は第1ばね要素34の弾性力よりも大きいものであることが必要である。ただし、第2ばね要素57および第3ばね要素58のうちのいずれか一方が、このような作用を奏するための所要の弾性力を有するものであれば、その一方のみがアーム11と延出部41との間に介在していてもよい。
【0033】
本発明のような内拡式のドラムブレーキ装置6によれば、従来のブレーキシューのライニングを直接キャスターに摺接させてキャスターを制動するブレーキ装置に比べて、キャスターにより大きな制動力を掛けることができ、たとえワゴンの総重量が10kgを超える場合であっても、キャスターを確実に制止することができる。
【0034】
さらに、通常、ライニング部材は天然又は合成のゴムから作られているので、ブレーキを掛ける際に、ライニング部材をキャスターやリム、ドラムに摺接させるときに、摩擦によって摺接面にゴム屑が生じ、制止する度に床面にゴム屑が落ちることがある。このようなゴム屑をワゴンが移動する度に収集することは手間であり、また、新幹線等の列車の車内では床面に絨毯が敷かれているので、ゴム屑が床面に散在していることは見た目にも好ましくない。
【0035】
しかし、本発明のドラムブレーキ装置6であれば、ライニング部材26a,26bをドラム13の内周面13aに摺接させる際に生じるゴム屑は、ドラム13内部に溜まり、外部に排出されることはないので、床面に落ちることはない。また、図3に示すとおり、組立式のドラムブレーキ装置6であれば、ドラム13からブレーキシュー24を取り外すことができるので、ゴム屑の回収やライニング部材26a,26bの交換を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ワゴンの斜視図。
【図2】ドラムブレーキ装置の一部破断斜視図。
【図3】ドラムブレーキ装置の分解斜視図。
【図4】カム機構の拡大図。
【図5】(a)ドラムブレーキ装置の作動状態におけるブレーキ動作部の平面図。(b)ドラムブレーキ装置の解除状態におけるブレーキ動作部の平面図。
【符号の説明】
【0037】
1 車内販売用ワゴン
2 荷台
3a,3a キャスター
3b,3b キャスター
4 操作レバー
6 ドラムブレーキ装置
10 コード
11 アーム
11a アームの第1端部
11b アームの第2端部
12 固定フレーム
13 ドラム
13a ドラムの内周面
14 ブレーキ動作部
24 ブレーキシュー
25 ベースプレート
26a,26b ライニング部材
27 カム機構
28 第1可動部
28a 第1可動部の第1端部
29 第2可動部
29a 第2可動部の第1端部
33 カム
34 第1ばね要素
40 支持部
41 ベースプレートの延出部
57 第2ばね要素
58 第3ばね要素
X 前方
Y 後方

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向と、荷台と、前記荷台の底面において前方と後方とに取り付けられた一対のキャスターと、前記キャスターのうち少なくとも後方に位置する一対のキャスターを制動するためのブレーキ装置とを含む車内販売用のワゴンにおいて、
前記ブレーキ装置が、前記キャスターと一体に回転する円弧状のドラムと、前記ドラムの内周面に当接して前記キャスターを制動するブレーキ動作部とを含む内拡式のドラムブレーキ装置であることを特徴とする前記ワゴン。
【請求項2】
前記ブレーキ動作部が、円弧状を有し、前記ドラムの内周面と対向して配置され、かつ、その外径が拡径可能であるブレーキシューと、前記ブレーキシューの外面に固着されたライニング部材と、前記荷台の後端から後方へ延びる上下動可能な操作レバーと、前記ブレーキシューを拡径する回転可能なカムを有するカム機構と、前記操作レバーに連結されたコードと、一端部が前記コードに連結され、他端部が前記カム機構に連結されており、前記コードの上下動と連動して前記カムを回転させるアームとを含み、
前記ブレーキシューが一対の半円弧状の第1可動部と第2可動部とから形成され、
前記カムが前記第1可動部の端部と、前記第1可動部の端部と対向する前記第2可動部の端部との間に位置してそれらに当接しており、
前記コードが上方へ引っ張られることによって前記カムが回転し、前記第1可動部の端部と前記第2可動部の端部とが互いに離間する方向へ押圧されて前記ブレーキシューが拡径される請求項1記載のワゴン。
【請求項3】
前記ドラムブレーキ装置が、前記ブレーキシューが固定された円形の支持部と、前記支持部から外方へ延出し、前記アームと離間対向する延出部とを有するベースプレートと、前記ブレーキシューに固定されたU字状の第1ばね要素と、前記アームと前記延出部との間に介在され、それらを互いに離間する方向へ付勢するコイル状の第2ばね要素とをさらに含む請求項1又は2記載のワゴン。
【請求項4】
コイル状の第3ばね要素が、前記アームと前記延出部との間において、前記第2ばね要素と並列して配置されている請求項1〜3のいずれかに記載のワゴン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−298197(P2009−298197A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152085(P2008−152085)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000152169)株式会社栃木屋 (50)
【Fターム(参考)】