軸シール構造及び一次冷却材循環ポンプ
【課題】流体の漏洩防止において耐久時間を長時間化することが可能な軸シール構造及び一次冷却材循環ポンプを提供することを目的とする。
【解決手段】軸シール構造は、ポンプの軸シール構造であって、軸周りにリング状に設けられ、軸の中心方向に移動可能なシールリング1と、通常運転時にはシールリング1を軸から離隔させており、通常運転時よりも高温になったとき溶融する合成樹脂製の離隔部材7とを備え、シールリング1は、通常運転時に主軸10から離隔し、離隔部材7が溶融したとき主軸10側へ移動して主軸10との間隔を低減する。
【解決手段】軸シール構造は、ポンプの軸シール構造であって、軸周りにリング状に設けられ、軸の中心方向に移動可能なシールリング1と、通常運転時にはシールリング1を軸から離隔させており、通常運転時よりも高温になったとき溶融する合成樹脂製の離隔部材7とを備え、シールリング1は、通常運転時に主軸10から離隔し、離隔部材7が溶融したとき主軸10側へ移動して主軸10との間隔を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ内部の流体の漏洩を防止する軸シール構造及び一次冷却材循環ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所に用いられる加圧水型原子炉(PWR)は、核燃料を収容する圧力容器と、加圧器と、二次蒸気を生成する蒸気発生器と、一次冷却材循環ポンプ(RCP)などからなる。冷却材(流体)は、一次冷却材循環ポンプの駆動によって、圧力容器、加圧器及び蒸気発生器を結ぶ循環路を流れる。そして、蒸気発生器で生成された二次蒸気がタービンを駆動することによって発電が行われる。
【0003】
一次冷却材循環ポンプの主軸における軸シール構造として、例えば軸の周囲に軸線方向に沿って3組のシールが設けられる。シールは、ポンプの内側から外側に向かって第1シール(No.1 Seal)、第2シール(No.2 Seal)、第3シール(No.3 Seal)の順に配置されている。これにより、一次冷却材循環ポンプでは、主軸がシールハウジングの中で回転しつつ、ポンプハウジング内部とシールハウジング外部との間が封止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−306685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の3組のシールを1セットとした軸シール構造は、正常に機能している間、外部と内部を封止できるが、少なくとも一組のシールが完全又は一部損壊すると、シールよりも外側の構成部材が設計圧力よりも高い圧力を受ける可能性がある。この場合、圧力容器内を循環している冷却材がポンプ内部から原子炉建屋内へ流出するおそれがある。
【0006】
例えば一次冷却材循環ポンプの軸シール構造は、約70℃の冷却材(加圧水)を第1〜第3シールの3段のシールで、約15MPaから大気圧まで減圧する。具体的には、加圧水が第1シールで約15MPaから約0.3MPaまで減圧され、第2シールで約0.3MPaから約0.05MPaまで減圧される構造となっている。
【0007】
しかし、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)時には、通常運転時に70℃程度である加圧水温度が約300℃まで上昇することが想定される。この際に、セラミックス製の第1シールが破損すると、第2シールに約300℃、約15MPaの加圧水が到達してしまう。第2シールは、この約300℃、約15MPaの加圧水に耐えることができるが、第2シールの周囲に配置された耐熱OリングがSBOの最大継続時間と想定される数十時間よりも短時間で損傷し、冷却材がポンプ内部から外部へ漏洩する可能性がある。
【0008】
したがって、シール破損を想定して更に冷却材の流出を防止する技術が求められているところ、特許文献1では、2個のシールが破裂したのち、一次ポンプの主軸を長手方向に確実に封止する安全装置に関する技術が開示されている。
【0009】
一方、従来のシール破損時における漏洩防止のためのシールは、シールリング部分や作動箇所の密封のためにOリングを使用していることから、通常運転時のエロージョンやSBO時の高温に対する耐久性に問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、流体の漏洩防止において耐久時間を長時間化することが可能な軸シール構造及び一次冷却材循環ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の軸シール構造及び一次冷却材循環ポンプは以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る軸シール構造は、ポンプの軸シール構造であって、軸周りにリング状に設けられ、軸の中心方向に移動可能なシールリングと、通常運転時にはシールリングを軸から離隔させており、通常運転時よりも高温になったとき溶融する合成樹脂製の離隔部材とを備え、シールリングは、通常運転時に軸から離隔し、離隔部材が溶融したとき軸側へ移動して軸との間隔を低減する。
【0012】
この発明によれば、軸周りにリング状に設けられたシールリングは、通常運転時、離隔部材によって軸から離隔させられている。そして、ポンプ内部流体の温度上昇によって、合成樹脂製の離隔部材が高温化して溶融したとき、シールリングを軸から離隔する部材がなくなるため、シールリングが軸側へ移動する。その結果、シールリングは、通常運転時は軸回転を妨げることなく軸から離隔しているが、温度上昇が生じている異常発生状態では軸との間隔が低減して、ポンプ内部の流体の漏洩を防止する。
【0013】
上記発明において、シールリングを軸側に付勢する付勢部材を更に備え、離隔部材は、通常運転時、シールリングよりも軸側に設けられており、シールリングの軸側への移動を妨げてもよい。
【0014】
この発明によれば、通常運転時、離隔部材は、付勢部材によって付勢されているシールリングが軸側へ移動することを妨げている。一方、温度上昇によって離隔部材が溶融したとき、シールリングは、付勢部材によって軸側へ移動するため、シールリングと軸との間隔が低減して、ポンプ内部の流体の漏洩が防止される。
【0015】
上記発明において、シールアッセンブリ上流側領域からシールリングの端部まで結ばれており、ポンプ内部の流体が流入可能である流通路と、通常運転時には流通路を塞ぎ、通常運転時よりも高温になったとき溶融して流通路を開口させる栓部材とを更に備え、栓部材が溶融したとき、流通路へ流入した流体がシールリングを軸の中心方向に移動させてもよい。
【0016】
この発明によれば、通常運転時は、ポンプ内部の流体が流入可能である流通路が栓部材によって塞がれている。一方、温度上昇によって栓部材が溶融したとき、流通路が開口してポンプ内部の流体が流入する。その結果、流体がシールリングの端部を押圧して、シールリングは軸の中心方向へ移動するため、シールリングと軸との間隔が低減して、ポンプ内部の流体の漏洩が防止される。
【0017】
また、本発明に係る一次冷却材循環ポンプは、上記の軸シール構造を備える。
この発明によれば、軸シール構造が設けられていることによって、温度上昇時にポンプ内部の流体の漏洩を防止できる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、流体の漏洩防止において耐久時間を長時間化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る軸シール構造における漏えい防止シールを示す縦断面図である。
【図2】同実施形態に係る軸シール構造における漏えい防止シールを示す縦断面図である。
【図3】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す斜視図である。
【図4】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す斜視図である。
【図5】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す斜視図である。
【図6】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す端面図である。
【図7】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す斜視図である。
【図8】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す端面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る軸シール構造における漏えい防止シールを示す縦断面図である。
【図10】同実施形態に係る軸シール構造における漏えい防止シールを示す縦断面図である。
【図11】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングと固定リングを示す側面図である。
【図12】同実施形態に係る漏えい防止シールの固定リングを示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る軸シール構造について、図1〜図8を用いて説明する。
本実施形態に係る軸シール構造は、例えば原子力発電所に用いられる加圧水型原子炉(PWR)の一次冷却材循環ポンプに適用される。一次冷却材循環ポンプの軸シール構造は、ポンプの内側から外側に向かって第1シール(No.1 Seal)、第2シール(No.2 Seal)、第3シール(No.3 Seal)の順に配置されている。この3組のシールを構成する部材は、総称してシールアッセンブリともいう。そして、本実施形態では、更に第1シールと第2シールの間に漏えい防止シールが設けられる。
【0021】
以下では、本実施形態の漏えい防止シールについて説明する。漏えい防止シールは、万一第1シールの破損が生じた場合でも、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)の最大継続時間と想定される数十時間以内に一次冷却材がポンプの外部へ漏洩することを防止する。
【0022】
漏えい防止シールは、一次冷却材循環ポンプ(以下「ポンプ」という。)の軸シール構造におけるシールハウジングにて、主軸10に面するように主軸10の周囲に設けられる。漏えい防止シールは、例えばシールリング1と、流通路2と、ばね5と、栓部材6と、離隔部材7などからなる。
【0023】
シールハウジングは、主軸10に面して主軸10周りに設けられる部材であり、主軸10の軸シール構造の構成部材の一つである。シールハウジングは、図1に示すように複数の部材、例えばシールハウジング分割部材11,12,13などからなる。これらのシールハウジング分割部材11,12,13が互いにボルト結合されることによって、一体化されたシールハウジングとなる。
【0024】
シールハウジング分割部材11,12間には、図1に示すように、金属Oリング14が主軸10を囲むように設けられる。異常発生時に流体(冷却材)がシールリング収容室4内部へ流入した場合でも、金属Oリング14によって、シールハウジング外部への流体の漏洩が防止される。
【0025】
ポンプの通常運転時、シールハウジングと主軸10の間は、隙間が形成されており、主軸10が軸心周りにスムーズに回転する。
【0026】
シールリング1は、シールリング収容室4内に設置され、主軸10の周囲にリング状に設けられる。シールハウジング分割部材11,12には、凹状の溝が主軸10の周囲にリング状に形成されており、シールハウジング分割部材11,12が組み合わされることによって、シールリング1を収容することができるシールリング収容室4が形成される。
【0027】
シールリング1は、温度上昇が生じている異常発生時以外の通常運転時において、図1に示すように、シールリング1の端面1aが主軸10から離隔した位置にある。一方、温度上昇が生じると離隔部材7が溶融して流出し、シールリング1は、図2に示すように、主軸10側へ移動して、端面1aが主軸10と接触する。
【0028】
シールリング1は、主軸10と接触したときの密着面における密封性、温度上昇時の耐熱性及び圧力上昇時の耐圧性があることが望ましい。また、シールリング1は、主軸10が通常回転しているときに摺動面となることを考慮して低摩擦係数であることなどが望ましい。シールリング1は、例えばステンレス鋼製である。なお、シールリング1は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系の合成樹脂でもよい。
【0029】
シールリング1は、例えば図3〜図8に示すように、分割部材であり、互いに組み合わされて一つのシールリング1が構成される。シールリング分割部材1Aとシールリング分割部材1Bは、接合部分において隙間がないように、シップラップSが形成されてもよい。この構成により、図6の矢印に示す流体の流れを低減できる。ポンプの通常運転時、シールリング分割部材1Aとシールリング分割部材1Bは、図3に示すように離隔部分が設けられて、シールリング1の半径が長い状態である。一方、温度上昇が生じて離隔部材7が溶融して流出したとき、シールリング分割部材1Aとシールリング分割部材1Bは、図4に示すように離隔部分がなくなり、シールリング1の半径が短くなり、シールリング1と主軸10が接触する。
【0030】
流通路2は、ポンプ室側(シールアッセンブリ上流側領域)とシールリング収容室4とを結んでおり、ポンプ内部の流体が流入可能な空間である。通常時は、図1に示すように、流通路2の端部3にて栓部材6によって流通路2は封じられている。そのため、第1シール側のポンプ室の高圧流体が流通路2内部へ流入することはない。このとき、第1シール側のポンプ室の圧力は約15MPaであり、流通路2の内部は約0.3MPa程度に保たれている。一方、温度上昇が生じると栓部材6が溶融して、図2に示すように、ポンプ室の高圧(最大約18MPa、最大約340℃(過渡条件))の流体が流通路2内へ流入する。流入した流体は、シールリング収容室4へ到達する。このとき、流通路2の内部の圧力は、最大約18MPaまで上昇する。
【0031】
栓部材6は、ポンプの通常運転時には流通路2を塞ぎ、通常運転時よりも高温になったとき溶融し流出して流通路2を開口させる。栓部材6は、約150℃の溶融温度、耐放射線劣化、耐熱劣化の観点から、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂である。ポンプの通常運転時は、流体温度が約70℃であり、栓部材6は、常時流体に晒されているが、連続耐熱温度が80℃以上120℃以下のポリエチレン、ポリプロピレンであれば栓部材6の材料として使用できる。また、ポリエチレン、ポリプロピレンは、対放射線性を有することが一般的に知られている。
【0032】
そして、加圧水型原子炉(PWR)では、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)時には、ポンプ通常運転時に約70℃である流体(加圧水)温度が約300℃まで上昇することが想定される。この温度上昇途中で、栓部材6は、溶融して流通路2の下流側へ流れ、流通路2が開口する。その結果、流通路2及びシールリング収容室4内は、高圧流体で満たされることになる。
【0033】
ばね5は、シールリング収容室4内に設けられ、シールリング1に対して主軸10側と反対側に設置されている。ばね5は、シールリング1を主軸10側へ与圧、付勢している。ばね5は、例えばSUS製の圧縮コイルばねであり、ポンプの通常運転時は縮まっており、温度上昇によって離隔部材7が溶融し流出すると、離隔部材7の嵩分だけ伸張する。すなわち、ばね5は、離隔部材7が溶融するような温度上昇に伴い、シールリング1を主軸10側へ移動させる。
【0034】
離隔部材7は、シールリング収容室4内に設けられ、主軸10側に設置されている。離隔部材7は、シールリング1の端面1aよりも主軸10から離れた位置にある段差面1bと、シールリング収容室4の内壁面との間に挟まれる。これにより、離隔部材7は、ポンプの通常運転時には、シールリング1を主軸10の外周面から離隔させる。一方、離隔部材7は、通常運転時よりも高温になったとき溶融して流出する。例えばポンプ通常運転時に約70℃である流体(加圧水)温度が約150℃まで上昇したとき、離隔部材7は、溶融して第2シール側へ流れ、ばね5や流通路2を経た流体がシールリング1を主軸10側へ移動させる。離隔部材7は、溶融温度、耐放射線劣化、耐熱劣化の観点から、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂である。
【0035】
次に、本実施形態の漏えい防止シールの動作について説明する。
ポンプの通常運転時、漏えい防止シールは図1に示す状態であり、栓部材6を隔てて、第1シール側のポンプ室の圧力は約15MPaであり、流通路2の内部は約0.3MPa程度に保たれている。また、流体の温度は、約70℃である。このとき、離隔部材7によって、シールリング1は主軸10から離隔した位置にあり、シールリング1の端面1aと主軸10の間には隙間が設けられている。その結果、主軸10は、軸心周りにスムーズに回転できる。
【0036】
加圧水型原子炉(PWR)で、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)が生じると、流体の温度は、約300℃まで上昇することが想定される。この温度上昇をトリガーにして、栓部材6と離隔部材7が溶融して流出し、流通路2及びシールリング収容室4内が高圧になる。その結果、流体圧力とばね5の付勢力によって、シールリング1が主軸10側へ移動する。そして、シールリング1と主軸10が接触、密着することによって、流体が漏えい防止シールよりも下流へ漏洩することを防止できる。
【0037】
従来、第2シールは、約300℃、約15MPaの加圧水に耐えることができる。しかし、第2シールの周囲に配置された耐熱OリングがSBOの最大継続時間と想定される数十時間よりも短時間で損傷し、冷却材がポンプ内部から外部へ漏洩する可能性があった。一方、本実施形態の漏えい防止シールが設けられることによって、SBOの最大継続時間と想定される数十時間以内に流体がポンプ外へ漏洩することを防止できる。また、シールリング1は、ステンレス鋼製であることから、通常運転時やSBO時の耐久性にも問題がない。
【0038】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図9〜図12を用いて説明する。
第1実施形態では、シールリング1がシールリング収容室4内部に設けられる場合について説明したが、本発明はこの例に限定されない。以下で説明するとおり、シールリング21がシールハウジング分割部材12,13よりも主軸10側に設置される場合でも、同様に流体の漏洩を防止できる。
【0039】
シールリング21は、主軸10の周囲にリング状に設けられる。シールリング21は、図11に示すように、周方向の一部に開口を有する。これにより、シールリング21は、ポンプの通常運転時において、図9に示すように、主軸10から離隔した位置に設けられる。一方、温度上昇が生じると離隔部材22が溶融して流出し、シールリング21は、図10に示すように、主軸10側へ移動して、シールリング21が主軸10と接触する。なお、シールリング21の周方向に設けられた開口に離隔部材22と同様の合成樹脂が設置されてもよい。この合成樹脂は、ポンプの通常運転時において、シールリング21の開口を維持させ、温度上昇が生じると溶融して流出し離隔部材22の開口を閉鎖させる。
【0040】
シールリング21は、第1実施形態と同様に、例えばステンレス鋼製である。なお、シールリング21は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) 系の合成樹脂でもよい。
【0041】
流通路2は、ポンプ室側(シールアッセンブリ上流側領域)とシールリング1の端部とを結んでおり、ポンプ内部の流体が流入可能な空間である。通常時は、図9に示すように、流通路2の端部3にて栓部材6によって流通路2は封じられている。そのため、第1シール側のポンプ室の高圧流体が流通路2内部へ流入することはない。一方、温度上昇が生じると栓部材6が溶融して流出し、図10に示すように、ポンプ室の高圧流体が流通路2内へ流入する。流入した流体は、シールリング1の端部へ到達してシールリング1を押圧する。流通路2は、周方向に1箇所又は複数箇所で設けられてもよい。複数箇所に設けられることによって、流体がシールリング1を確実に移動させることができる。
【0042】
ばね23は、一端側がシールリング21内に挿入され、他端が固定リング24に固定されている。ばね23は、伸張するときシールリング1を主軸10側へ与圧、付勢する。ばね23は、例えばSUS製の圧縮コイルばねであり、ポンプの通常運転時は合成樹脂コーティングによって縮まった状態で固定されている。ばね23は、温度上昇によってばね23に施された合成樹脂コーティングと離隔部材22が溶融して流出すると、伸張する。すなわち、ばね5は、合成樹脂コーティングや離隔部材7が溶融するような温度上昇に伴い、シールリング21を主軸10側へ移動させる。
【0043】
離隔部材22は、リング状の部材であり、シールリング21よりも主軸10側に設置されている。離隔部材22は、ポンプの通常運転時には、シールリング21を主軸10の外周面から離隔させる。一方、離隔部材22は、通常運転時よりも高温になったとき溶融して流出する。例えばポンプ通常運転時に70℃である流体(加圧水)温度が約150℃まで上昇したとき、離隔部材22は、溶融して第2シール側へ流れ、ばね23や流通路2を経た流体がシールリング1を主軸10側へ移動させる。離隔部材23は、溶融温度、耐放射線劣化、耐熱劣化の観点から、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂である。
【0044】
固定リング24は、シールリング21の一端部、かつ主軸10の周囲に設けられるリング状の部材である。固定リング24は、離隔部材22と合成樹脂コーティングされたばね23を表面に固定させており、離隔部材22とばね23を介してシールリング21を固定リング24側に設置させている。
【0045】
固定リング24は、図11及び図12に示すように、周方向の一部に開口24aを有する。開口24aには、離隔部材22と同様の合成樹脂材25が設置されてもよい。この合成樹脂材25は、ポンプの通常運転時において、開口24aを維持させ、温度上昇が生じると溶融して流出し開口24aを閉鎖させる。その結果、固定リング24は、直径が短縮し、主軸10側へ移動する。そして、固定リング24に固定されているばね23とともに、シールリング21が主軸10側へ移動する。
【0046】
次に、本実施形態の漏えい防止シールの動作について説明する。
ポンプの通常運転時、漏えい防止シールは図9に示す状態であり、栓部材6を隔てて、第1シール側のポンプ室の圧力は約15MPaであり、流通路2の内部は約0.3MPa程度に保たれている。また、流体の温度は、約70℃である。このとき、離隔部材22によって、シールリング1は主軸10から離隔した位置にあり、シールリング21と主軸10の間や、離隔部材22と主軸10の間には隙間が設けられている。その結果、主軸10は、軸心周りにスムーズに回転できる。
【0047】
加圧水型原子炉(PWR)で、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)が生じると、流体の温度は、約300℃まで上昇することが想定される。この温度上昇中の温度をトリガーにして、栓部材6、離隔部材22、及びばね23に施された合成樹脂コーティングが溶融して流出し、流通路2内の圧力が上昇する。その結果、流体圧力とばね23の付勢力によって、シールリング21が主軸10側へ移動する。そして、シールハウジング分割部材13と主軸10の間に固定されるまでシールリング21が移動し、シールリング21が主軸10とシールハウジング分割部材13に接触、密着する。その結果、流体が漏えい防止シールよりも下流へ漏洩することを防止できる。また、シールリング21の第1シール側の受圧面積が第2シール側よりも大きいため、シールリング21は、流体差圧によって主軸10とシールハウジング分割部材13に接触した状態が維持される。
【0048】
従来、第2シールは、約300℃、約15MPaの加圧水に耐えることができる。しかし、第2シールの周囲に配置された耐熱OリングがSBOの最大継続時間と想定される数十時間よりも短時間で損傷し、冷却材がポンプ内部から外部へ漏洩する可能性があった。一方、本実施形態の漏えい防止シールが設けられることによって、SBOの最大継続時間と想定される数十時間以内に流体がポンプ外へ漏洩することを防止できる。また、シールリング21は、ステンレス鋼製であることから、通常運転時やSBO時の耐久性にも問題がない。
【0049】
なお、上記第1及び第2の実施形態では、流通路2が設けられることによって、ばね5,23の付勢力だけでなく流体の圧力を利用することによって、シールリング1,21を軸10側に移動させている。一方、本発明は、上記実施形態の流通路2が設けられずに、ばね5,23の付勢力だけで、シールリング1,21を軸10側に移動させるようにしてもよい。これにより、離隔部材7,22が溶融して流出した後、流体の圧力を利用していないが、ばね5,23の付勢力によって、ポンプ内部の流体の漏洩を防止できる。
【符号の説明】
【0050】
1 シールリング
2 流通路
5 ばね(付勢部材)
6 栓部材
7 離隔部材
10 主軸(軸)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ内部の流体の漏洩を防止する軸シール構造及び一次冷却材循環ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所に用いられる加圧水型原子炉(PWR)は、核燃料を収容する圧力容器と、加圧器と、二次蒸気を生成する蒸気発生器と、一次冷却材循環ポンプ(RCP)などからなる。冷却材(流体)は、一次冷却材循環ポンプの駆動によって、圧力容器、加圧器及び蒸気発生器を結ぶ循環路を流れる。そして、蒸気発生器で生成された二次蒸気がタービンを駆動することによって発電が行われる。
【0003】
一次冷却材循環ポンプの主軸における軸シール構造として、例えば軸の周囲に軸線方向に沿って3組のシールが設けられる。シールは、ポンプの内側から外側に向かって第1シール(No.1 Seal)、第2シール(No.2 Seal)、第3シール(No.3 Seal)の順に配置されている。これにより、一次冷却材循環ポンプでは、主軸がシールハウジングの中で回転しつつ、ポンプハウジング内部とシールハウジング外部との間が封止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−306685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の3組のシールを1セットとした軸シール構造は、正常に機能している間、外部と内部を封止できるが、少なくとも一組のシールが完全又は一部損壊すると、シールよりも外側の構成部材が設計圧力よりも高い圧力を受ける可能性がある。この場合、圧力容器内を循環している冷却材がポンプ内部から原子炉建屋内へ流出するおそれがある。
【0006】
例えば一次冷却材循環ポンプの軸シール構造は、約70℃の冷却材(加圧水)を第1〜第3シールの3段のシールで、約15MPaから大気圧まで減圧する。具体的には、加圧水が第1シールで約15MPaから約0.3MPaまで減圧され、第2シールで約0.3MPaから約0.05MPaまで減圧される構造となっている。
【0007】
しかし、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)時には、通常運転時に70℃程度である加圧水温度が約300℃まで上昇することが想定される。この際に、セラミックス製の第1シールが破損すると、第2シールに約300℃、約15MPaの加圧水が到達してしまう。第2シールは、この約300℃、約15MPaの加圧水に耐えることができるが、第2シールの周囲に配置された耐熱OリングがSBOの最大継続時間と想定される数十時間よりも短時間で損傷し、冷却材がポンプ内部から外部へ漏洩する可能性がある。
【0008】
したがって、シール破損を想定して更に冷却材の流出を防止する技術が求められているところ、特許文献1では、2個のシールが破裂したのち、一次ポンプの主軸を長手方向に確実に封止する安全装置に関する技術が開示されている。
【0009】
一方、従来のシール破損時における漏洩防止のためのシールは、シールリング部分や作動箇所の密封のためにOリングを使用していることから、通常運転時のエロージョンやSBO時の高温に対する耐久性に問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、流体の漏洩防止において耐久時間を長時間化することが可能な軸シール構造及び一次冷却材循環ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の軸シール構造及び一次冷却材循環ポンプは以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る軸シール構造は、ポンプの軸シール構造であって、軸周りにリング状に設けられ、軸の中心方向に移動可能なシールリングと、通常運転時にはシールリングを軸から離隔させており、通常運転時よりも高温になったとき溶融する合成樹脂製の離隔部材とを備え、シールリングは、通常運転時に軸から離隔し、離隔部材が溶融したとき軸側へ移動して軸との間隔を低減する。
【0012】
この発明によれば、軸周りにリング状に設けられたシールリングは、通常運転時、離隔部材によって軸から離隔させられている。そして、ポンプ内部流体の温度上昇によって、合成樹脂製の離隔部材が高温化して溶融したとき、シールリングを軸から離隔する部材がなくなるため、シールリングが軸側へ移動する。その結果、シールリングは、通常運転時は軸回転を妨げることなく軸から離隔しているが、温度上昇が生じている異常発生状態では軸との間隔が低減して、ポンプ内部の流体の漏洩を防止する。
【0013】
上記発明において、シールリングを軸側に付勢する付勢部材を更に備え、離隔部材は、通常運転時、シールリングよりも軸側に設けられており、シールリングの軸側への移動を妨げてもよい。
【0014】
この発明によれば、通常運転時、離隔部材は、付勢部材によって付勢されているシールリングが軸側へ移動することを妨げている。一方、温度上昇によって離隔部材が溶融したとき、シールリングは、付勢部材によって軸側へ移動するため、シールリングと軸との間隔が低減して、ポンプ内部の流体の漏洩が防止される。
【0015】
上記発明において、シールアッセンブリ上流側領域からシールリングの端部まで結ばれており、ポンプ内部の流体が流入可能である流通路と、通常運転時には流通路を塞ぎ、通常運転時よりも高温になったとき溶融して流通路を開口させる栓部材とを更に備え、栓部材が溶融したとき、流通路へ流入した流体がシールリングを軸の中心方向に移動させてもよい。
【0016】
この発明によれば、通常運転時は、ポンプ内部の流体が流入可能である流通路が栓部材によって塞がれている。一方、温度上昇によって栓部材が溶融したとき、流通路が開口してポンプ内部の流体が流入する。その結果、流体がシールリングの端部を押圧して、シールリングは軸の中心方向へ移動するため、シールリングと軸との間隔が低減して、ポンプ内部の流体の漏洩が防止される。
【0017】
また、本発明に係る一次冷却材循環ポンプは、上記の軸シール構造を備える。
この発明によれば、軸シール構造が設けられていることによって、温度上昇時にポンプ内部の流体の漏洩を防止できる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、流体の漏洩防止において耐久時間を長時間化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る軸シール構造における漏えい防止シールを示す縦断面図である。
【図2】同実施形態に係る軸シール構造における漏えい防止シールを示す縦断面図である。
【図3】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す斜視図である。
【図4】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す斜視図である。
【図5】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す斜視図である。
【図6】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す端面図である。
【図7】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す斜視図である。
【図8】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングを示す端面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る軸シール構造における漏えい防止シールを示す縦断面図である。
【図10】同実施形態に係る軸シール構造における漏えい防止シールを示す縦断面図である。
【図11】同実施形態に係る漏えい防止シールのシールリングと固定リングを示す側面図である。
【図12】同実施形態に係る漏えい防止シールの固定リングを示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る軸シール構造について、図1〜図8を用いて説明する。
本実施形態に係る軸シール構造は、例えば原子力発電所に用いられる加圧水型原子炉(PWR)の一次冷却材循環ポンプに適用される。一次冷却材循環ポンプの軸シール構造は、ポンプの内側から外側に向かって第1シール(No.1 Seal)、第2シール(No.2 Seal)、第3シール(No.3 Seal)の順に配置されている。この3組のシールを構成する部材は、総称してシールアッセンブリともいう。そして、本実施形態では、更に第1シールと第2シールの間に漏えい防止シールが設けられる。
【0021】
以下では、本実施形態の漏えい防止シールについて説明する。漏えい防止シールは、万一第1シールの破損が生じた場合でも、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)の最大継続時間と想定される数十時間以内に一次冷却材がポンプの外部へ漏洩することを防止する。
【0022】
漏えい防止シールは、一次冷却材循環ポンプ(以下「ポンプ」という。)の軸シール構造におけるシールハウジングにて、主軸10に面するように主軸10の周囲に設けられる。漏えい防止シールは、例えばシールリング1と、流通路2と、ばね5と、栓部材6と、離隔部材7などからなる。
【0023】
シールハウジングは、主軸10に面して主軸10周りに設けられる部材であり、主軸10の軸シール構造の構成部材の一つである。シールハウジングは、図1に示すように複数の部材、例えばシールハウジング分割部材11,12,13などからなる。これらのシールハウジング分割部材11,12,13が互いにボルト結合されることによって、一体化されたシールハウジングとなる。
【0024】
シールハウジング分割部材11,12間には、図1に示すように、金属Oリング14が主軸10を囲むように設けられる。異常発生時に流体(冷却材)がシールリング収容室4内部へ流入した場合でも、金属Oリング14によって、シールハウジング外部への流体の漏洩が防止される。
【0025】
ポンプの通常運転時、シールハウジングと主軸10の間は、隙間が形成されており、主軸10が軸心周りにスムーズに回転する。
【0026】
シールリング1は、シールリング収容室4内に設置され、主軸10の周囲にリング状に設けられる。シールハウジング分割部材11,12には、凹状の溝が主軸10の周囲にリング状に形成されており、シールハウジング分割部材11,12が組み合わされることによって、シールリング1を収容することができるシールリング収容室4が形成される。
【0027】
シールリング1は、温度上昇が生じている異常発生時以外の通常運転時において、図1に示すように、シールリング1の端面1aが主軸10から離隔した位置にある。一方、温度上昇が生じると離隔部材7が溶融して流出し、シールリング1は、図2に示すように、主軸10側へ移動して、端面1aが主軸10と接触する。
【0028】
シールリング1は、主軸10と接触したときの密着面における密封性、温度上昇時の耐熱性及び圧力上昇時の耐圧性があることが望ましい。また、シールリング1は、主軸10が通常回転しているときに摺動面となることを考慮して低摩擦係数であることなどが望ましい。シールリング1は、例えばステンレス鋼製である。なお、シールリング1は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系の合成樹脂でもよい。
【0029】
シールリング1は、例えば図3〜図8に示すように、分割部材であり、互いに組み合わされて一つのシールリング1が構成される。シールリング分割部材1Aとシールリング分割部材1Bは、接合部分において隙間がないように、シップラップSが形成されてもよい。この構成により、図6の矢印に示す流体の流れを低減できる。ポンプの通常運転時、シールリング分割部材1Aとシールリング分割部材1Bは、図3に示すように離隔部分が設けられて、シールリング1の半径が長い状態である。一方、温度上昇が生じて離隔部材7が溶融して流出したとき、シールリング分割部材1Aとシールリング分割部材1Bは、図4に示すように離隔部分がなくなり、シールリング1の半径が短くなり、シールリング1と主軸10が接触する。
【0030】
流通路2は、ポンプ室側(シールアッセンブリ上流側領域)とシールリング収容室4とを結んでおり、ポンプ内部の流体が流入可能な空間である。通常時は、図1に示すように、流通路2の端部3にて栓部材6によって流通路2は封じられている。そのため、第1シール側のポンプ室の高圧流体が流通路2内部へ流入することはない。このとき、第1シール側のポンプ室の圧力は約15MPaであり、流通路2の内部は約0.3MPa程度に保たれている。一方、温度上昇が生じると栓部材6が溶融して、図2に示すように、ポンプ室の高圧(最大約18MPa、最大約340℃(過渡条件))の流体が流通路2内へ流入する。流入した流体は、シールリング収容室4へ到達する。このとき、流通路2の内部の圧力は、最大約18MPaまで上昇する。
【0031】
栓部材6は、ポンプの通常運転時には流通路2を塞ぎ、通常運転時よりも高温になったとき溶融し流出して流通路2を開口させる。栓部材6は、約150℃の溶融温度、耐放射線劣化、耐熱劣化の観点から、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂である。ポンプの通常運転時は、流体温度が約70℃であり、栓部材6は、常時流体に晒されているが、連続耐熱温度が80℃以上120℃以下のポリエチレン、ポリプロピレンであれば栓部材6の材料として使用できる。また、ポリエチレン、ポリプロピレンは、対放射線性を有することが一般的に知られている。
【0032】
そして、加圧水型原子炉(PWR)では、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)時には、ポンプ通常運転時に約70℃である流体(加圧水)温度が約300℃まで上昇することが想定される。この温度上昇途中で、栓部材6は、溶融して流通路2の下流側へ流れ、流通路2が開口する。その結果、流通路2及びシールリング収容室4内は、高圧流体で満たされることになる。
【0033】
ばね5は、シールリング収容室4内に設けられ、シールリング1に対して主軸10側と反対側に設置されている。ばね5は、シールリング1を主軸10側へ与圧、付勢している。ばね5は、例えばSUS製の圧縮コイルばねであり、ポンプの通常運転時は縮まっており、温度上昇によって離隔部材7が溶融し流出すると、離隔部材7の嵩分だけ伸張する。すなわち、ばね5は、離隔部材7が溶融するような温度上昇に伴い、シールリング1を主軸10側へ移動させる。
【0034】
離隔部材7は、シールリング収容室4内に設けられ、主軸10側に設置されている。離隔部材7は、シールリング1の端面1aよりも主軸10から離れた位置にある段差面1bと、シールリング収容室4の内壁面との間に挟まれる。これにより、離隔部材7は、ポンプの通常運転時には、シールリング1を主軸10の外周面から離隔させる。一方、離隔部材7は、通常運転時よりも高温になったとき溶融して流出する。例えばポンプ通常運転時に約70℃である流体(加圧水)温度が約150℃まで上昇したとき、離隔部材7は、溶融して第2シール側へ流れ、ばね5や流通路2を経た流体がシールリング1を主軸10側へ移動させる。離隔部材7は、溶融温度、耐放射線劣化、耐熱劣化の観点から、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂である。
【0035】
次に、本実施形態の漏えい防止シールの動作について説明する。
ポンプの通常運転時、漏えい防止シールは図1に示す状態であり、栓部材6を隔てて、第1シール側のポンプ室の圧力は約15MPaであり、流通路2の内部は約0.3MPa程度に保たれている。また、流体の温度は、約70℃である。このとき、離隔部材7によって、シールリング1は主軸10から離隔した位置にあり、シールリング1の端面1aと主軸10の間には隙間が設けられている。その結果、主軸10は、軸心周りにスムーズに回転できる。
【0036】
加圧水型原子炉(PWR)で、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)が生じると、流体の温度は、約300℃まで上昇することが想定される。この温度上昇をトリガーにして、栓部材6と離隔部材7が溶融して流出し、流通路2及びシールリング収容室4内が高圧になる。その結果、流体圧力とばね5の付勢力によって、シールリング1が主軸10側へ移動する。そして、シールリング1と主軸10が接触、密着することによって、流体が漏えい防止シールよりも下流へ漏洩することを防止できる。
【0037】
従来、第2シールは、約300℃、約15MPaの加圧水に耐えることができる。しかし、第2シールの周囲に配置された耐熱OリングがSBOの最大継続時間と想定される数十時間よりも短時間で損傷し、冷却材がポンプ内部から外部へ漏洩する可能性があった。一方、本実施形態の漏えい防止シールが設けられることによって、SBOの最大継続時間と想定される数十時間以内に流体がポンプ外へ漏洩することを防止できる。また、シールリング1は、ステンレス鋼製であることから、通常運転時やSBO時の耐久性にも問題がない。
【0038】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図9〜図12を用いて説明する。
第1実施形態では、シールリング1がシールリング収容室4内部に設けられる場合について説明したが、本発明はこの例に限定されない。以下で説明するとおり、シールリング21がシールハウジング分割部材12,13よりも主軸10側に設置される場合でも、同様に流体の漏洩を防止できる。
【0039】
シールリング21は、主軸10の周囲にリング状に設けられる。シールリング21は、図11に示すように、周方向の一部に開口を有する。これにより、シールリング21は、ポンプの通常運転時において、図9に示すように、主軸10から離隔した位置に設けられる。一方、温度上昇が生じると離隔部材22が溶融して流出し、シールリング21は、図10に示すように、主軸10側へ移動して、シールリング21が主軸10と接触する。なお、シールリング21の周方向に設けられた開口に離隔部材22と同様の合成樹脂が設置されてもよい。この合成樹脂は、ポンプの通常運転時において、シールリング21の開口を維持させ、温度上昇が生じると溶融して流出し離隔部材22の開口を閉鎖させる。
【0040】
シールリング21は、第1実施形態と同様に、例えばステンレス鋼製である。なお、シールリング21は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) 系の合成樹脂でもよい。
【0041】
流通路2は、ポンプ室側(シールアッセンブリ上流側領域)とシールリング1の端部とを結んでおり、ポンプ内部の流体が流入可能な空間である。通常時は、図9に示すように、流通路2の端部3にて栓部材6によって流通路2は封じられている。そのため、第1シール側のポンプ室の高圧流体が流通路2内部へ流入することはない。一方、温度上昇が生じると栓部材6が溶融して流出し、図10に示すように、ポンプ室の高圧流体が流通路2内へ流入する。流入した流体は、シールリング1の端部へ到達してシールリング1を押圧する。流通路2は、周方向に1箇所又は複数箇所で設けられてもよい。複数箇所に設けられることによって、流体がシールリング1を確実に移動させることができる。
【0042】
ばね23は、一端側がシールリング21内に挿入され、他端が固定リング24に固定されている。ばね23は、伸張するときシールリング1を主軸10側へ与圧、付勢する。ばね23は、例えばSUS製の圧縮コイルばねであり、ポンプの通常運転時は合成樹脂コーティングによって縮まった状態で固定されている。ばね23は、温度上昇によってばね23に施された合成樹脂コーティングと離隔部材22が溶融して流出すると、伸張する。すなわち、ばね5は、合成樹脂コーティングや離隔部材7が溶融するような温度上昇に伴い、シールリング21を主軸10側へ移動させる。
【0043】
離隔部材22は、リング状の部材であり、シールリング21よりも主軸10側に設置されている。離隔部材22は、ポンプの通常運転時には、シールリング21を主軸10の外周面から離隔させる。一方、離隔部材22は、通常運転時よりも高温になったとき溶融して流出する。例えばポンプ通常運転時に70℃である流体(加圧水)温度が約150℃まで上昇したとき、離隔部材22は、溶融して第2シール側へ流れ、ばね23や流通路2を経た流体がシールリング1を主軸10側へ移動させる。離隔部材23は、溶融温度、耐放射線劣化、耐熱劣化の観点から、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂である。
【0044】
固定リング24は、シールリング21の一端部、かつ主軸10の周囲に設けられるリング状の部材である。固定リング24は、離隔部材22と合成樹脂コーティングされたばね23を表面に固定させており、離隔部材22とばね23を介してシールリング21を固定リング24側に設置させている。
【0045】
固定リング24は、図11及び図12に示すように、周方向の一部に開口24aを有する。開口24aには、離隔部材22と同様の合成樹脂材25が設置されてもよい。この合成樹脂材25は、ポンプの通常運転時において、開口24aを維持させ、温度上昇が生じると溶融して流出し開口24aを閉鎖させる。その結果、固定リング24は、直径が短縮し、主軸10側へ移動する。そして、固定リング24に固定されているばね23とともに、シールリング21が主軸10側へ移動する。
【0046】
次に、本実施形態の漏えい防止シールの動作について説明する。
ポンプの通常運転時、漏えい防止シールは図9に示す状態であり、栓部材6を隔てて、第1シール側のポンプ室の圧力は約15MPaであり、流通路2の内部は約0.3MPa程度に保たれている。また、流体の温度は、約70℃である。このとき、離隔部材22によって、シールリング1は主軸10から離隔した位置にあり、シールリング21と主軸10の間や、離隔部材22と主軸10の間には隙間が設けられている。その結果、主軸10は、軸心周りにスムーズに回転できる。
【0047】
加圧水型原子炉(PWR)で、全交流電源喪失(SBO:Station Black Out)が生じると、流体の温度は、約300℃まで上昇することが想定される。この温度上昇中の温度をトリガーにして、栓部材6、離隔部材22、及びばね23に施された合成樹脂コーティングが溶融して流出し、流通路2内の圧力が上昇する。その結果、流体圧力とばね23の付勢力によって、シールリング21が主軸10側へ移動する。そして、シールハウジング分割部材13と主軸10の間に固定されるまでシールリング21が移動し、シールリング21が主軸10とシールハウジング分割部材13に接触、密着する。その結果、流体が漏えい防止シールよりも下流へ漏洩することを防止できる。また、シールリング21の第1シール側の受圧面積が第2シール側よりも大きいため、シールリング21は、流体差圧によって主軸10とシールハウジング分割部材13に接触した状態が維持される。
【0048】
従来、第2シールは、約300℃、約15MPaの加圧水に耐えることができる。しかし、第2シールの周囲に配置された耐熱OリングがSBOの最大継続時間と想定される数十時間よりも短時間で損傷し、冷却材がポンプ内部から外部へ漏洩する可能性があった。一方、本実施形態の漏えい防止シールが設けられることによって、SBOの最大継続時間と想定される数十時間以内に流体がポンプ外へ漏洩することを防止できる。また、シールリング21は、ステンレス鋼製であることから、通常運転時やSBO時の耐久性にも問題がない。
【0049】
なお、上記第1及び第2の実施形態では、流通路2が設けられることによって、ばね5,23の付勢力だけでなく流体の圧力を利用することによって、シールリング1,21を軸10側に移動させている。一方、本発明は、上記実施形態の流通路2が設けられずに、ばね5,23の付勢力だけで、シールリング1,21を軸10側に移動させるようにしてもよい。これにより、離隔部材7,22が溶融して流出した後、流体の圧力を利用していないが、ばね5,23の付勢力によって、ポンプ内部の流体の漏洩を防止できる。
【符号の説明】
【0050】
1 シールリング
2 流通路
5 ばね(付勢部材)
6 栓部材
7 離隔部材
10 主軸(軸)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプの軸シール構造であって、
軸周りにリング状に設けられ、軸の中心方向に移動可能なシールリングと、
通常運転時には前記シールリングを前記軸から離隔させており、通常運転時よりも高温になったとき溶融する合成樹脂製の離隔部材と、
を備え、
前記シールリングは、前記通常運転時に前記軸から離隔し、前記離隔部材が溶融したとき前記軸側へ移動して前記軸との間隔を低減する軸シール構造。
【請求項2】
前記シールリングを前記軸側に付勢する付勢部材を更に備え、
前記離隔部材は、通常運転時、前記シールリングよりも前記軸側に設けられており、前記シールリングの前記軸側への移動を妨げる請求項1に記載の軸シール構造。
【請求項3】
シールアッセンブリ上流側領域から前記シールリングの端部まで結ばれており、ポンプ内部の流体が流入可能である流通路と、
通常運転時には前記流通路を塞ぎ、通常運転時よりも高温になったとき溶融して前記流通路を開口させる栓部材と、
を更に備え、
前記栓部材が溶融したとき、前記流通路へ流入した前記流体が前記シールリングを前記軸の中心方向に移動させる請求項1又は2に記載の軸シール構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の軸シール構造を備える一次冷却材循環ポンプ。
【請求項1】
ポンプの軸シール構造であって、
軸周りにリング状に設けられ、軸の中心方向に移動可能なシールリングと、
通常運転時には前記シールリングを前記軸から離隔させており、通常運転時よりも高温になったとき溶融する合成樹脂製の離隔部材と、
を備え、
前記シールリングは、前記通常運転時に前記軸から離隔し、前記離隔部材が溶融したとき前記軸側へ移動して前記軸との間隔を低減する軸シール構造。
【請求項2】
前記シールリングを前記軸側に付勢する付勢部材を更に備え、
前記離隔部材は、通常運転時、前記シールリングよりも前記軸側に設けられており、前記シールリングの前記軸側への移動を妨げる請求項1に記載の軸シール構造。
【請求項3】
シールアッセンブリ上流側領域から前記シールリングの端部まで結ばれており、ポンプ内部の流体が流入可能である流通路と、
通常運転時には前記流通路を塞ぎ、通常運転時よりも高温になったとき溶融して前記流通路を開口させる栓部材と、
を更に備え、
前記栓部材が溶融したとき、前記流通路へ流入した前記流体が前記シールリングを前記軸の中心方向に移動させる請求項1又は2に記載の軸シール構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の軸シール構造を備える一次冷却材循環ポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−108550(P2013−108550A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252825(P2011−252825)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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