説明

還元剤タンク

【課題】還元剤タンク内の凍結した液体還元剤を高い性能で解凍でき、コストを低減できる還元剤タンクを提供する。
【解決手段】液体還元剤を貯蔵するタンク本体11に、タンク本体11内から液体還元剤を取り出すための吸込管12を設け、タンク本体11に、熱交換用の媒体が循環する媒体パイプ14を一方方向に延びるように設けると共に媒体パイプ14を吸込管12の吸込口37近傍で反転するように折り返して設け、凍結した還元剤を吸込口37近傍で解凍するようにした還元剤タンク10において、媒体パイプ14の折り返し部31より上流側から折り返し部31より下流側に亘る媒体パイプ14に一対の隔壁板34、35を対向して設けると共に隔壁板34、35間の媒体パイプ14を露出させ、隔壁板34、35と、折り返し部31より上流側の媒体パイプ14と、折り返し部31と、折り返し部31より下流側の媒体パイプ14とによって囲まれる空間36内に吸込口37を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体還元剤を貯蔵する還元剤タンクに係り、特に、タンク本体内に熱交換用の媒体が循環する媒体パイプを設けて凍結した還元剤を解凍し、或いは還元剤の凍結を防止するようにした還元剤タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
SCRシステムは、尿素を還元剤の前駆体として使用し排気ガス中のNOx(窒素酸化物)を浄化するものである。尿素水は還元剤タンクに貯蔵され排気管内に適宜供給されるが、極寒地では長時間の車両停車中等に還元剤タンク内の尿素水が凍結しSCRシステムの作動が不可能になることがある。そこで、エンジン冷却水によって還元剤タンク内の尿素水を解凍するが、解凍性能を高めるため還元剤タンクの底部にエンジン冷却水が循環する冷却水パイプを巡らせる技術が開発されている(特許文献2参照)。また、冷却水パイプを取り囲む箱型の隔壁を設け、隔壁の内側に熱を閉じ込めることによって吸込管の吸込口やセンサ(水位センサ、濃度センサ)の検知部付近の凍結した尿素水を速やかに解凍する技術が開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3687918号公報
【特許文献2】特開2005−83223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の発明は吸込管の吸込口、水位センサの検知部及び濃度センサの検知部を取り囲むように箱型の隔壁を設けるものであり、これら三部品の熱容量分、解凍性能は低下する。また、本来SCRシステムを作動させるためには第一に吸込管周りの尿素水を解凍させるのが重要であり、上記三部品の解凍を同じレベルで考える上述の発明に対し優先度を考慮した方が解凍性能はより高められる。
【0005】
また、上述の発明では尿素水が解凍されたかどうかの検知に関し示唆はないが、尿素水が解凍されたかどうかを検知してSCRシステムを作動可能かどうか判断する必要がある。さらに箱型では側壁がある分コスト高になる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、還元剤タンク内の凍結した還元剤を高い性能で解凍でき、或いは還元剤の凍結を高い性能で防止でき、コストを低減できる還元剤タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、液体還元剤を貯蔵するタンク本体に、タンク本体内から液体還元剤を取り出すための吸込管を設け、上記タンク本体に、熱交換用の媒体が循環する媒体パイプを一方方向に延びるように設けると共に該媒体パイプを上記吸込管の吸込口近傍で反転するように折り返して設け、凍結した還元剤を上記吸込口近傍で解凍するようにした還元剤タンクにおいて、上記媒体パイプの折り返し部より上流側から上記折り返し部より下流側に亘る媒体パイプに一対の隔壁板を対向して設けると共にこれら隔壁板間の媒体パイプを露出させ、上記一対の隔壁板と、上記折り返し部より上流側の媒体パイプと、上記折り返し部と、該折り返し部より下流側の媒体パイプとによって囲まれる空間内に上記吸込口を配置したものである。
【0008】
上記空間内に温度センサの検知部を配置するとよい。
【0009】
上記吸込口が上記折り返し部より上流側の媒体パイプに近接されるとよい。
【0010】
また、液体還元剤を貯蔵するタンク本体に、タンク本体内から液体還元剤を取り出すための吸込管を設け、上記タンク本体に、熱交換用の媒体が循環する媒体パイプを一方方向に延びるように設けると共に該媒体パイプを上記吸込管の吸込口近傍で反転するように折り返して設け、還元剤を上記吸込口近傍で昇温するようにした還元剤タンクにおいて、上記媒体パイプの折り返し部より上流側から上記折り返し部より下流側に亘る媒体パイプに一対の隔壁板を対向して設け、これら一対の隔壁板間の空間内に上記吸込口を配置したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、還元剤タンク内の凍結した還元剤を高い性能で解凍でき、或いは還元剤の凍結を高い性能で防止でき、コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は還元剤タンクの斜視図である。
【図2】図2は図1の要部側面図である。
【図3】図3は図2の平面図である。
【図4】図4は、SCRシステムの概略図である。
【図5】図5は、他の実施の形態を示す還元剤タンクの要部側面図である。
【図6】図6は、図5のA−A線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0014】
図4に本実施形態に係る還元剤タンク(尿素タンク)10が用いられるSCRシステム1を示す。このSCRシステム1は、車両に搭載されるエンジン2に適用されるものである。
【0015】
図4に示すように、エンジン(例えば、ディーゼルエンジン)2に接続された排気管3には、排気上流側から順に、液体還元剤たる尿素水を排気管3内に噴射する尿素噴射ノズル4と、排気管3内に噴射された尿素水から生成されるアンモニアで排気ガス中のNOx(窒素酸化物)を還元浄化するSCR触媒(選択還元触媒)5とが配設される。尿素水は還元剤タンク10に貯蔵される。還元剤タンク10は、第1尿素供給配管6を介して尿素供給ポンプ7に接続され尿素供給ポンプ7は第2尿素供給配管9を介して尿素噴射ノズル4に接続される。尿素供給ポンプ7はECU(エンジン制御ユニット乃至電子制御ユニット)8により制御される。ECU8は、排気温度センサ(図示せず)で検知されるSCR触媒5の入口の排気温度がSCR触媒5の活性温度に達したとき、排気ガス中のNOxの量に見合った量の尿素水を尿素噴射ノズル4に供給する。
【0016】
図1に示すように、還元剤タンク10は、尿素水を貯蔵するタンク本体11と、タンク本体11に上方から貫通して設けられタンク本体11内から尿素水を取り出すための吸込管12と、タンク本体11内の凍結した尿素水を解凍するための熱交換用の媒体(本実施形態では、エンジン冷却水)が循環する媒体パイプ14と、タンク本体11に設けられタンク本体11内の尿素水の温度を検知する温度センサ13と、タンク本体11に設けられタンク本体11内の尿素水の水位を検知する水位センサ(図示せず)と、タンク本体11に設けられタンク本体11内の尿素水の濃度を検知する濃度センサ(図示せず)とを備える。
【0017】
タンク本体11は、略直方体状に形成されており、上部に着脱可能な天蓋16を有する。
【0018】
媒体パイプ14は、伝熱性と耐食性に優れた金属管からなり、天蓋16に上方からタンク本体11内に貫通して設けられると共にタンク本体11の底部で反転するように折り返されて天蓋16に上方に貫通して設けられている。また、媒体パイプ14の下端部に位置する折り返し部31より上流側の媒体パイプ14と折り返し部30より下流側の媒体パイプ14とは、折り返し部31側が水平になるように折り曲げられている。図2及び図3に示すように、折り返し部31は、水平面上で媒体パイプ14が屈曲するように媒体パイプ14を湾曲させて形成されている。折り返し部31の上流側の媒体パイプ14には水平方向に直線状に延びる上流側直線部32が形成されており、折り返し部31の下流側の媒体パイプ14には上流側直線部32と平行に延びる下流側直線部33が形成されており、折り返し部31と上流側直線部32と下流側直線部33とでU字状を呈している。
【0019】
上流側直線部32から下流側直線部33に亘る媒体パイプ14の上下には耐食性に優れたステンレス板からなる隔壁板34、35が対向して設けられると共にこれら隔壁板34、35間の媒体パイプ14が露出されており、隔壁板34、35間に媒体からの熱を閉じ込めるようになっている。具体的には、上側の第1隔壁板34は、外縁が折り返し部31の外周に沿う円弧状に形成された半円部分と外縁が上流側直線部32及び下流側直線部33に沿う直線状に形成された長方形部分とを直線状の辺同士で連結した形状に形成されている。第1隔壁板34は、折り返し部31と上流側直線部32と下流側直線部33とに囲まれる空間36の上側を塞ぐように折り返し部31の上面と上流側直線部32の上面と下流側直線部33の上面とに溶接されている。第1隔壁板34には、媒体パイプ14が上下に貫通されている。また、下側の第2隔壁板35は、直線部32、33の延長方向に延びる長方形部分の長さを第1隔壁板34より短く形成されており、コストを削減するようになっている。第2隔壁板35は空間36の下側を塞ぐように折り返し部31の下面と上流側直線部32の下面と下流側直線部33の下面とに溶接されている。
【0020】
吸込管12は、天蓋16に上下に貫通して設けられている。また、吸込管12は、第1隔壁板34を下方に貫通しており、下端に形成される吸込口37を隔壁板34、35間の空間36に位置させている。また特に、吸込口37は熱交換後の媒体が流れる下流側直線部33よりも高温の上流側直線部32に近接して配置されており、効率よく尿素水を取水できるようになっている。
【0021】
図1及び図2に示すように、温度センサ13は、天蓋16上に取り付けられた基部20と、基部20から天蓋16を貫通してタンク本体11内に垂下すると共に第1隔壁板34を貫通して隔壁板34、35間の空間36に下端部を位置させる延出部21と、延出部21の下端部に形成され温度を検知する検知部22とから構成されている。検知部22は、吸込口37に近接されると共に吸込口37よりも折り返し部31側の上流側直線部32に近接されており、吸込口37近傍の温度を正確に計測するようになっている。
【0022】
図示しない水位センサの検知部及び濃度センサの検知部は、隔壁板34、35間の空間36の外側の適宜箇所に各々配置されている。
【0023】
次に本実施の形態の作用を述べる。
【0024】
図4及び図2に示すように、ECU8は、温度センサ13で検知されるタンク本体11内の尿素水の温度が所定値より低くなったとき、吸込管12の吸込口37近傍の尿素水が凍結したものと診断し、媒体パイプ14に熱交換用の媒体たるエンジン冷却水を供給する。媒体パイプ14内に流れた媒体はタンク本体11内の尿素水と熱交換しながら流れる。特に折り返し部31においては上下が隔壁板34、35によって塞がれているため、隔壁板34、35が囲いの役割を果たし媒体パイプ14の熱が放散するのを防ぐ。また、水位センサの検知部及び濃度センサの検知部は、隔壁板34、35間の外側に配置されるため、吸込口37近傍の尿素水が水位センサの検知部及び濃度センサの検知部の熱容量の影響を受けることはなく、吸込口37近傍の尿素水が優先的に解凍される。このため、隔壁板34、35間の凍結した尿素水における解凍性能が向上し、尿素水が効率よく解凍される。
【0025】
温度センサ13で検知されるタンク本体11内の尿素水の温度が上記所定値以上になったら、ECU8は吸込管12の吸込口37近傍の尿素水が解凍されたものと診断し、媒体パイプ14へのエンジン冷却水の供給を停止すると共に尿素供給ポンプ7を作動させてSCRシステム1を作動させる。隔壁板34、35間の空間36内の尿素水は十分解凍されているため吸込管12から容易に吸い上げられ、第1尿素供給配管6、尿素供給ポンプ7及び第2尿素供給配管9を介して尿素噴射ノズル4に到達し、尿素噴射ノズル4から排気管3内に噴射される。
【0026】
このように、媒体パイプ14の折り返し部31より上流側の上流側直線部32から折り返し部31より下流側の下流側直線部33に亘る媒体パイプ14に一対の隔壁板34、35を対向して設けると共にこれら隔壁板34、35間の媒体パイプ14を露出させ、一対の隔壁板34、35と、折り返し部31より上流側の媒体パイプ14と、折り返し部31と、折り返し部31より下流側の媒体パイプ14とによって囲まれる空間36内に吸込口37を配置したため、箱型の隔壁を有する従来の還元剤タンクとほぼ同等の高い解凍性能で隔壁板34、35間の凍結した尿素水を解凍でき、SCRシステム1が作動できるまでの待ち時間を短縮できる。そして、従来の箱型の隔壁と比較して側壁がない分コストを削減できる。
【0027】
隔壁板34、35間の空間36内に温度センサ13の検知部22を配置したため、吸込口37近傍の尿素水の温度を正確に検知できる。
【0028】
吸込口37を折り返し部31より上流側の上流側直線部32に近接して配置したため、吸込口37近傍の尿素水の解凍が速く、解凍した尿素水を効率よく吸い込むことができる。
【0029】
なお、還元剤タンク10に貯蔵される液体還元剤は尿素水からなるものとしたがこれに限るものではない。寒冷地で凍結する他の液体還元剤であっても良い。
【0030】
また、第1隔壁板34は折り返し部31に溶接されるものとしたが、単に折り返し部31上に載置されるものとしてもよい。第1隔壁板34には媒体パイプ14が上下に貫通されているため、第1隔壁板34が媒体パイプ14から脱落することはない。
【0031】
また、折り返し部31と上流側直線部32と下流側直線部33とでU字状を呈するものとしたが、これに限るものではない。折り返し部31が直線状に形成されてコ字状を呈するものであってもよく、上流側直線部32と下流側直線部33が屈曲されて略O字状を呈するものであってもよい。
【0032】
また、媒体パイプ14は折り返し部31と上流側直線部32と下流側直線部33とが水平になるように折り曲げられるものとしたが、折り曲げられないものとし、上流側直線部32と下流側直線部33とが上下に延びるものとしてもよい。
【0033】
また、ECU8は、温度センサ13で検知されるタンク本体11内の尿素水の温度が吸込管12の吸込口37近傍の尿素水が凍結したものと考えられる温度より低くなったとき、媒体パイプ14にエンジン冷却水を供給するものとしたが、これに限るものではない。ECU8は、温度センサ13で検知されるタンク本体11内の尿素水の温度が吸込管12の吸込口37近傍の尿素水が凍結する温度より若干高い所定温度となったなったとき、媒体パイプ14にエンジン冷却水を供給して還元剤を吸込口37近傍で昇温するものとしてもよい。還元剤の凍結を防止することができる。
【0034】
また、図5及び図6に示すように、隔壁板34、35の外縁部40、41を媒体パイプ14に沿って屈曲させ、隔壁板34、35間の媒体パイプ14の側面を覆うものとしてもよい。この場合、図示するように隔壁板34、35間の媒体パイプ14の一部を露出するものとしてもよく、隔壁板34、35間の媒体パイプ14の全てを覆うものとしてもよい。またさらに、吸込管12の下端部を折り返し部31側に屈曲させ、折り返し部31に近接させるものとしてもよい。より温度の高い位置で尿素水を取り込むことができる。吸込管12の吸込口37にフィルタ42を設けてもよい。図中43は水位センサである。
【符号の説明】
【0035】
10 還元剤タンク
11 タンク本体
12 吸込管
13 温度センサ
14 媒体パイプ
22 検知部
31 折り返し部
34 第1隔壁板(隔壁板)
35 第2隔壁板(隔壁板)
36 空間
37 吸込口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体還元剤を貯蔵するタンク本体に、タンク本体内から液体還元剤を取り出すための吸込管を設け、上記タンク本体に、熱交換用の媒体が循環する媒体パイプを一方方向に延びるように設けると共に該媒体パイプを上記吸込管の吸込口近傍で反転するように折り返して設け、凍結した還元剤を上記吸込口近傍で解凍するようにした還元剤タンクにおいて、上記媒体パイプの折り返し部より上流側から上記折り返し部より下流側に亘る媒体パイプに一対の隔壁板を対向して設けると共にこれら隔壁板間の媒体パイプを露出させ、上記一対の隔壁板と、上記折り返し部より上流側の媒体パイプと、上記折り返し部と、該折り返し部より下流側の媒体パイプとによって囲まれる空間内に上記吸込口を配置したことを特徴とする還元剤タンク。
【請求項2】
上記空間内に温度センサの検知部を配置した請求項1記載の還元剤タンク。
【請求項3】
上記吸込口が上記折り返し部より上流側の媒体パイプに近接された請求項1又は2記載の還元剤タンク。
【請求項4】
液体還元剤を貯蔵するタンク本体に、タンク本体内から液体還元剤を取り出すための吸込管を設け、上記タンク本体に、熱交換用の媒体が循環する媒体パイプを一方方向に延びるように設けると共に該媒体パイプを上記吸込管の吸込口近傍で反転するように折り返して設け、還元剤を上記吸込口近傍で昇温するようにした還元剤タンクにおいて、上記媒体パイプの折り返し部より上流側から上記折り返し部より下流側に亘る媒体パイプに一対の隔壁板を対向して設け、これら一対の隔壁板間の空間内に上記吸込口を配置したことを特徴とする還元剤タンク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−137441(P2011−137441A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113739(P2010−113739)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】