説明

金属板の接合構造および金属板の接合方法

【課題】一方の金属板の貫通孔内において他方の金属板を押し出して鍛圧により接合する場合、一方の金属板の方が他方よりも硬度が小さくても結合できるようにする。
【解決手段】一方の金属板11の貫通孔12内に、他方の金属板21の鍛圧部22が押し出されている。鍛圧部22の底部側のほぼ中央に鍛圧部22を外周側に広げる凹部22aが形成されている。また、第2の金属板21における鍛圧部22と反対面側には、貫通孔12よりも小さい幅の第1の溝23と、この第1の溝23よりも大きい幅の第2の溝24が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属板同士を鍛圧により接合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一方の金属板に厚さ方向に貫通する貫通孔を形成し、他方の金属板に貫通孔を貫通するピン部を設け、一方の金属板の裏面に突き出たピン部の先端部をかしめることにより、金属板同士を接合する技術が知られている。
この技術の場合、一方の金属板の貫通孔および他方の金属板のピン部の加工工数が多く、位置決めの精度も必要とされるので、コストおよび生産性に難がある。また、かしめたピン部が基板上に突き出すので、他の部材を組み付ける際に不都合である。
【0003】
そこで、加工工数を低減し、位置決めが簡単であり、かつ、かしめ部分が金属板上に突き出ることがない金属板の接合技術が知られている。
図6を参照して、この技術の概要を説明する。
第1の金属板101に貫通孔102を形成する。貫通孔102は上面101a側が下面101b側よりも径大である。この貫通孔102にダイ141の下パンチ142を嵌合すると共にダイ141により第1の金属板101を支持する。このとき、下パンチ142の上面142aは、貫通孔102の厚さ方向の中間に位置するような高さに位置決めされる。
【0004】
第2の金属板111を、貫通孔102を塞いで第1の金属板101の上面101a上に載置する。そして、上パンチ143を用いて第2の金属板111をコイニング加工する。第2の金属板111は、上パンチ143により鍛圧された部分が塑性流動を起し、貫通孔102内に流入する。
貫通孔102の周縁部は、上面101a側が下面101b側よりも径小となっているので、第1の金属板101と第2の金属板111は、強固に結合する(例えば、特許文献1参照)。
このような接合技術によれば、第2の金属板111にピン部を設けたり、第2の金属板111を正確に位置決めしたりする工程を無くすことができる。また、かしめ部が金属板上に突き出すことがなく、他の部材を取り付ける際の弊害となるようなことが無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−80328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された金属板の接合技術では、第2の金属板111を鍛圧する際、第1の金属板101の貫通孔102の周縁角部Aに大きな応力が作用する。このため、第1の金属板101と第2の金属板111との硬度が同程度の場合、あるいは第1の金属板101の硬度が第2の金属板111の硬度よりも小さい場合には、周縁角部Aが大きく変形し、結合力が不足する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の金属板の接合構造は、厚さ方向に貫通する貫通孔を有する第1の金属板と、貫通孔の厚さ方向の中間まで押し出され、底部側が貫通孔内で露出された鍛圧部を有し、第1の金属板の一面上に接合された第2の金属板とを備え、第2の金属板は、第1の金属板と対面する側と反対側である外面側における鍛圧部と対応する位置に設けられ、貫通孔より小さい幅の第1の溝と、第1の溝よりも大きい幅の第2の溝を有し、鍛圧部は、底部側のほぼ中央部に、その周囲から凹んだ凹部を有することを特徴とする。
また、本発明の金属板の接合方法は、第1の金属板に、厚さ方向に貫通する貫通孔を形成する第1の工程と、一端面のほぼ中央部に先細状の凸部を有する下パンチを、突起の先端が貫通孔の深さ方向の中間に位置するように貫通孔に嵌入する第2の工程と、第1の金属板上に、貫通孔を覆って第2の金属板を配置する第3の工程と、第2の金属板側に貫通孔よりも小さい幅の内側押圧部を有する上パンチと下パンチとにより第2の金属板の貫通孔に対応する部分を鍛圧して、第2の金属板の貫通孔に対応する部分を接合する第4の工程とを備え、第2の金属板における貫通孔内に押し出された部分の底部に、下パンチの凸部に対応する凹部が形成され、凹部と反対面側に内側押圧部による第1の溝と、第1の溝よりも大きい幅の第2の溝とが形成されるように接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、鍛圧部の底部側に凹部を形成する際、鍛圧部が貫通孔の外周方向に拡がる。このため、金属板相互の結合力の増大を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の金属板の接合構造の一実施の形態を示す拡大断面図。
【図2】本発明の金属板の接合方法の一実施の形態を示し、最初の工程を説明するための断面図。
【図3】図2に続く工程を説明するための断面図。
【図4】図3に続く工程を説明するための断面図。
【図5】図4に続く工程を説明するための断面図。
【図6】比較例としての金属板の接合構造の断面図。
【図7】本発明における作用を説明するための第1の断面図。
【図8】本発明における作用を説明するための第2の断面図。
【図9】本発明の加締め型の上パンチの側面図。
【図10】本発明の加締め型の下パンチの側面図。
【図11】本発明が搭載された装置の一実施の形態としての半導体装置の外観斜視図。
【図12】図11の半導体装置に内蔵された半導体ユニットの外観斜視図。
【図13】図12の半導体ユニットの回路図。
【図14】図12の半導体ユニットを構成するリードフレームとステーを分解した平面図。
【図15】図14のリードフレームとステーとを接合した状態を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(接合構造)
以下、図面を参照して、本発明の金属板の接合構造および接合方法を説明する。
図1は本発明の金属板の接合構造の一実施の形態としての断面図である。
金属板の接合構造1は、第1の金属板11と第2の金属板21とが鍛圧によるかしめにより接合されたものである。第1の金属板11および第2の金属板21は、例えば、銅または銅合金により形成されている。
第1の金属板11には、厚さ方向に貫通する貫通孔12が形成されている。貫通孔12は、断面が円形状または多角形状に形成されている。貫通孔12の幅は、上面11a側から下面11b側に全体に亘りほぼ同一か、または下面11b側が上面11a側よりも僅かに大きく形成されている。すなわち、貫通孔12の周側面12aは、上面11aおよび下面11bに垂直か、または上面11a側から下面11b側に向かって、貫通孔12の幅が拡大する側に僅かに傾斜している。
【0011】
第2の金属板21は、その下面21bが第1の金属板の上面11aに密着され、貫通孔12に押し出された部分(鍛圧部)22を有する。押し出された部分22は、貫通孔12の深さの中間まで達する厚さを有する。また、押し出された部分22の底部側、換言すれば、貫通孔12に露出している端面のほぼ中央部には、円錐台形状または多角円錐台形状の凹部22aが形成されている。凹部22aの底部中心部は、角のない滑らかな逆ドーム形状となっている。凹部22aは、多角錐台形状の場合、各辺の角部及び頂部側は、円弧状の滑らかな曲線であることが好ましい。
【0012】
第2の金属板21の押し出された部分22と反対面側、換言すれば第2の金属板21の上面(外面)21a側には、二段の溝が設けられている。厚さ方向の中央側には第1の溝23が、また、上面21a側には、第2の溝24が設けられている。
第1の溝23は、その平面形状が、貫通孔12の平面形状とほぼ同じで、かつ、一回り小さい寸法を有する。限定するものではないが、第1の溝23の幅は、貫通孔12の幅の0.5〜0.8倍程度とすることが好ましい。
第2の溝24は、第1の溝23とほぼ同じ平面形状を有し、かつ、第1の溝23よりも大きい寸法を有する。限定するものではないが、第2の溝24の幅は、貫通孔12の幅とほぼ同じ寸法か、貫通孔12の幅よりも第2の金属板21の板厚の3%程度小さい寸法から13%程度大きい寸法の範囲とすることが好ましい。
【0013】
また、第1の溝23の深さhは、限定するものではないが、第2の金属板21の板厚の0.2〜0.4倍とすることが好ましい。
第1の金属板11と第2の金属板21とは、限定するものではないが、ほぼ同じ硬度か、または、第1の金属板11の硬度が第2の金属板21の硬度よりもビッカース硬度でHV30以下の範囲内で小さいものとすることができる。
【0014】
図1に図示される金属板の接合構造1においては、押し出された部分22の底部側のほぼ中央部に凹部22aを形成する際、押し出された部分22が、貫通孔12の外周側に拡がる方向の作用を受けることにより、第2の金属板22と第1の金属板11との結合力が、従来の構造よりも大きくなっている。
【0015】
(接合方法)
次に、図2〜図5を参照して、本発明の金属板の接合方法の一実施の形態を説明する。
先ず、第1の金属板11に貫通孔12を、プレス加工等により形成する。貫通孔12は平面視で円形または多角形状に、かつ、周側面12aが上面11aおよび下面11bにほぼ垂直または下面11bが上面11aよりも僅かに幅広くなるように形成する。
以下の説明では、貫通孔12の断面が円形として説明する。
そして、図2に図示されるように、加締め型のダイ41で第1の金属板11の下面を支持すると共に、ダイ41の下パンチ42を貫通孔12に挿入する。
【0016】
下パンチ42は、図10に図示されるように、円筒状の本体部42aと、本体部42aの上部側に、本体部42aと同軸に設けられた、先細形状の凸部42bを有する。凸部42bは、円錐台形状を有し、その頂部側はドーム状に角のない滑らかな形状となっている。凸部42bは、多角錐台形状としてもよい。但し、多角錐台形状とする場合は、隣接する辺の角部には、円弧状の面取りをすることが望ましい。
【0017】
この状態で、プレス機械(図示せず)に固定した加締め型の上型50に位置合わせする。上型50は、上パンチ51、ストリッパ53およびストリップ用のスプリング52により構成されており、位置合わせにより、上パンチ51と下パンチ42の軸芯とを一致させる。
上パンチ51は、図9に図示されるように、円筒状の本体部51aと、本体部51aの下面(一端面)51c側に、本体部51aと同軸に設けられた円盤状の内側押圧部51bを有する。
【0018】
上パンチ51の内側押圧部51bは、貫通孔12の直径(幅)より小さい外径(幅)L1を有し、例えば、貫通孔12の直径の0.5〜0.8倍の外径を有する。内側押圧部51bの高さhは、例えば、第2の金属板21の板厚の0.2〜0.4倍である。また、上パンチ51の本体部51aの直径(幅)L2は、例えば、貫通孔12の直径とほぼ同じ寸法か、貫通孔12の直径よりも第2の金属板21の板厚の3%程度小さい寸法から13%程度大きい寸法の範囲である。
下パンチ42は、凸部42bの頂部が貫通孔12の深さ方向の中間に位置するように貫通孔12内に挿入される。
【0019】
次に、図3に図示されるように、第1の金属板11上に、貫通孔12を塞いで、第2の金属板21を載置する。第2の金属板21は、例えば、0.5〜1.2mmの板厚を有する。
【0020】
次に、図4に図示されるように、プレス機械に固定された上型50を下降し、上パンチ51により第2の金属板21をプレス加工する。
このプレス加工により、第2の金属板21が、貫通孔12内において、下パンチ42の凸部42b側に押し出される。押し出された部分22の軸芯付近には、凸部42bと逆形状、つまり、逆円錐台形状の凹部22aが形成される。凹部22aの底部中心部は、角のない滑らかなドーム形状となっている。また、押し出された部分22の貫通孔12の周側面12aに接する部分の近傍は、内側押圧部51bの外側に位置している。つまり、内側押圧部51bの底面より上方に位置する本体部の51aの下面51cに対応している。このため、内側押圧部51bの周側面12aに対応する部分の厚さが最大となり、押し出された部分22の貫通孔12の周側面12aに接する部分の近傍は、最大厚さ部分よりも、少し薄く形成される。
図4においては、押し出された部分22の下面と本体部42aの上面との間に隙間sが存在するように図示されているが、上型50の下端停止位置の調整により、隙間sが存在しないようにすることも可能である。
【0021】
そして、図5に図示するように、プレス機械に固定された上型50を上昇させて、第1の金属板11と第2の金属板21との接合が完了する。図5に図示された接合状態は、図1に図示された状態である。
【0022】
次に、本実施形態における金属板の接合構造の作用を、従来の構造の場合と対比して説明する。
図6は、比較例としての金属板の接合構造の断面図である。
図6に図示されるように、従来における下パンチ142の上面142aは平坦である。上パンチ143が第2の金属板111に食い込む体積と、第2の金属板111が貫通孔102内に押し出された部分112の体積とはほぼ等しい。第1の金属板101と第2の金属板111の接合に所定の結合力を得るためには、押し出された部分112を所定の厚さ以上とする必要がある。このことは、上パンチ143が第2の金属板111に食い込む食い込み深さFを所定の深さ以上にすることが必要であることを意味する。
【0023】
上パンチ143の食い込み深さFが大きくなると、図6から明らかな通り、上パンチ143の先端角部(下面と外周面との交差部)と貫通孔102の周縁角部Aとの距離G1が小さくなる。つまり、上パンチ143の食い込み深さFが大きくなるということは、第2の金属板21における上パンチ143の先端角部と貫通孔102の周縁角部Aとの部分の厚さが薄くなり、強度が低下することを意味する。
【0024】
また、上パンチ143により第2の金属板111を貫通孔102内に押し出すとき、押し出された部分112によって、貫通孔102の周縁角部Aに応力が集中する。
このため、第2の金属板111の硬度が第1の金属板101の硬度と同じ程度であるか、第1の金属板101の硬度より大きい場合であると、第1の金属板101の周縁角部Aは、第2の金属板111の押し出された部分112によって、角部がとれ円弧状に変形する。このように、上パンチ143の先端角部と貫通孔102の周縁角部Aとの距離G1が小さくなり、また、第1の金属板101の周縁角部Aの角部が円弧状に変形することにより、第2の金属板111と第1の金属板101との接合部の厚さが小さくなり、結合力が低下する。
このような結合力の低下は、第1の金属板101と第2の金属板111とが、ビッカース硬度でHV20以下の差である場合、および第1の金属板101の硬度が第2の金属板111の硬度よりも小さい場合に顕著である。
【0025】
図7および図8は、それぞれ、本実施形態における作用を説明するための金属板の接合構造の断面図である。
本実施形態においては、上パンチ51は、内側押圧部51bと本体部51aの下面51cとの二段の押圧面を有しており、内側押圧部51bの直径は、貫通孔12の直径よりも小さい。
図7に図示されるように、上型50が下方に移動すると、先ず、内側押圧部51bにより第2の金属板21の貫通孔12に対応する部分が、貫通孔12内に押し出される。このとき、内側押圧部51bの直径は、貫通孔12の直径より小さい。このため、押し出された部分22による貫通孔12の周縁角部Aへの集中応力が低減し、周縁角部Aの変形量は、従来の構造に比して小さくなる。
【0026】
図8は、上型50をさらに下方に移動し、下端停止位置に達した状態を示す。上パンチ51の本体部51aの下面51cが第2の金属板21の上面21aに達すると、第2の金属板21は、上パンチ51の本体部51aの下面51cによっても貫通孔12内に押し出され始める。
これにより、第2の金属板21の貫通孔12内に押し出される量は増大する。下パンチ42には、先細形状の凸部42bが形成されており、第2の金属板21の押し出された部分22は、この凸部42bにより外周側に拡げられる。押し出された部分22がこのように外周側に拡げられることにより、第2の金属板21と第1の金属板11との間に大きい結合力が得られる。
【0027】
上パンチ51の内側押圧部51bと、本体部51aの第2の金属板21に食い込んだ体積とほぼ同じ体積分が貫通孔12内に押し出される。従って、本体部51aが第2の金属板21に食い込む深さは、従来に比し、内側押圧部51bの体積分、浅くすることができる。
このことにより、本実施形態においては、次の2つの効果を奏する。
・ 上パンチ51の本体部51aによる第2の金属板21への押し出し深さが浅くなり、第1の金属板11の貫通孔12の周縁角部Aの集中応力が低減するため、周縁角部Aの変形量が小さくなる。
・ 内側押圧部51bの直径は、本体部51aの直径より小さいため、内側押圧部51bの先端角部と貫通孔12の周縁角部Aとの距離G2は、図6における上パンチ143の先端角部と貫通孔102の周縁角部Aとの距離G1よりも大きくなる。このため、従来よりも、第2の金属板21の接合部の剛性が大きくなり、第1および第2の金属板11、21の耐剥離強度を大きくすることができる。
【0028】
次に、本実施形態における試験結果を示す。
(i) 第2の金属板21の硬度が第1の金属板11の硬度に対して、ビッカース硬度でHV20より大きい硬度から、HV30小さい硬度までの範囲において、つまり、(第2の金属板21の硬度)―(第1の金属板11の硬度)=(+HV20〜−HV30)の範囲において、第1、第2の金属板11、21の結合力は、図6に図示される従来の場合よりも大きいことが確認された。第1、第2の金属板11、21の材料は銅であり、第2の金属板21の硬度はHV100程度である。
【0029】
(ii)図9に図示されるように、上パンチ51の内側押圧部51bの外径をL1、高さをh、本体部51aの外径をL2とした場合、内側押圧部51bの外径L1が貫通孔12の直径の0.5〜0.8倍の範囲において、第1、第2の金属板11、21の結合力は、図6に図示される従来の場合よりも大きいことが確認された。
この場合、第2の金属板21の板厚は0.5から1.2mmであった。上パンチ51の本体部51aの外径L2は、貫通孔12の直径とほぼ同じ寸法か、貫通孔12の直径よりも第2の金属板21の板厚の3%程度小さい寸法から13%程度大きい寸法の範囲に設定した。また、内側押圧部51bの高さhは、適宜、調整した。
【0030】
(iii)内側押圧部51bの高さhが第2の金属板21の板厚の0.2〜0.4倍程度の範囲において、第1、第2の金属板11、21の結合力は、図6に図示される従来の場合よりも大きいことが確認された。試験は、内側押圧部51bの外径L1および本体部51a外径L2を、適宜、調整しながら実施した。試験の条件は、(ii)の試験結果を得た場合の条件と同じである。
【0031】
以上の如く、本実施形態では、第1の金属板11に貫通孔12を形成し、第2の金属板21をプレス加工により貫通孔12内に押し出し、第2の金属板21の押し出された部分22と第1の金属板11とを鍛圧により接合する。第2の金属板21には、ピン部を形成する必要が無いので、加工工数が少なく、また、位置決めに高い精度が必要とされないので生産性がよい。
【0032】
本実施形態では、下パンチ42に先細状の凸部42bを設けると共に、上パンチ51に内側押圧部51bを設けて、内側押圧部51bと本体部51aの下面51cの二段で鍛圧するようにした。このため、下パンチ42の凸部42bにより、第2の金属板21の押し出された部分22が外周側に拡がり接合強度を大きくすることができる。
【0033】
内側押圧部51bの外径L1を貫通孔12の直径より小さくしたので、押し出された部分22による貫通孔12の周縁角部Aへの集中応力が低減し、周縁角部Aの変形を小さくすることができる。内側押圧部51bの外径L1を貫通孔12の直径より小さくしたので、内側押圧部51bの先端角部と貫通孔12の周縁角部Aとの距離G2を大きくすることができる。これらの作用により、接合強度を一層大きくすることができる。
次に、本発明の金属板の接合構造が採用された装置の一例について説明する。
【0034】
(半導体装置)
図11は半導体装置の外観斜視図であり、図12は、図11に図示された半導体装置に内蔵された半導体ユニットの外観斜視図である。
半導体装置200は、スイッチング素子を含みトランスファーモールドされた半導体ユニット230(図12参照)を、金属製のモジュールケース210内に収納したものである。半導体装置200は、たとえば、電気自動車やハイブリッド自動車等の電気車両に搭載される電力変換装置に用いられる。
【0035】
半導体ユニット230は、後述する半導体素子およびダイオード等の複数の電子部品を有し、半導体装置200は、半導体素子およびダイオードのオン・オフ動作を制御する制御部などの外部回路に接続される複数の中継端子208を有する。中継端子208は、絶縁樹脂製の支持体209に一体成形されており、各中継端子208の端部が半導体ユニット30の信号端子224、温度信号端子225(図12参照)に接続されている。
【0036】
モジュールケース210は、前面および背面に開口部が形成され、この開口部の周縁部に、それぞれ、多数の放熱用フィン205が一体に成形された放熱部材が、例えば、摩擦攪拌接合により接合された袋状の形状を有する。モジュールケース210は、図示はしないが、冷却ジャケットに設けられた冷却水流路内に挿入され、冷却水流路内を循環する冷却媒体により冷却されるものである。
【0037】
半導体ユニット230の表面側には、図12に図示されるように、交流出力側の導体板233と直流負極側の導体板234とが同一平面上に配置されている。また、半導体ユニット230の裏面側には、直流正極側の導体板235と交流出力側の導体板236とが同一平面上に配置されている。図示はしないが、半導体ユニット230は、導体板233〜236の表面233a、234a(235と236の表面は図示されず)信号端子224、温度信号端子225を露出して樹脂封止材により被覆されている。
【0038】
図13は、半導体ユニット230に内蔵される回路構成の一例を示す図である。
図13に図示された回路は、図示しないインバータ回路の1相分の回路構成を示す。インバータ回路は、U相、V相、W相の3相を構成する上下アーム直列回路と、それを制御する制御部とを含んで構成されている。上下アーム直列回路は、バッテリ(図示せず)から供給される直流電流を3相の交流電流に変換して、モータジェネレータ(図示せず)へ供給する電力変換装置を構成する。
上下アーム直列回路のそれぞれは、半導体素子231とダイオード232との並列接続回路からなる2つの電流スイッチ回路が直列に配置されて構成される。上側(正極側)に配置された半導体素子231Uと2ダイオード232Uとからなる電流スイッチ回路は、いわゆる、上アームとして動作する。また、下側(負極側)に配置された半導体素子231Lとダイオード232Lとからなる電流スイッチ回路は、いわゆる、下アームとして動作する。
半導体ユニット230の半導体素子231Uおよび231Lとしては、IBGT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)からなるパワートランジスタが用いられる。
【0039】
導体板233〜236は、図示は省略されているが、相互に分離され、一端側で連結フレーム部に連結された複数のリード部を有するリードフレームである。図13に図示されているように、直流正極側の導体板235には、半導体素子231Uおよびダイオード232Uから構成される上アーム回路の入出力端子がボンディングされている。導体板235の各リード(図示せず)には、複数の信号端子224Uおよび複数の温度信号端子225がワイヤ226により接続されている。各半導体素子231U、231Lは、導体板233〜236に、特に図示しないが、金属接合材を介してそれぞれボンディングでされる。金属接合材としては、例えば、半田材や銀シート及び微細金属粒子を含んだ低温焼結接合材等を用いる。
【0040】
また、交流出力側の導体板236には、半導体素子231Lおよびダイオード232Lから構成される下アーム回路の入出力端子がボンディングされている。導体板236の各リード(図示せず)には、複数の信号端子224Lがワイヤ226Lにより接続されている。
また、図12に図示されるように、導体板234には引出しリード234bが形成されており、この引出しリード234bの先端が導体板235に接続されている。
【0041】
図14は導体板235、236を構成するリードフレームとステーの分解平面図であり、図15は、リードフレームとステーとを接合した状態の平面図である。
導体板250は、リードフレーム251と、一対のステー252、253とを有する。リードフレーム251は、信号端子224Uおよび温度信号端子225が形成された導体板235と、信号端子224Lが形成された236とが連結された形状を有している。
【0042】
図14に図示されているように、リードフレーム251にステー252、253を接合する前は、導体板250には、4隅に、それぞれ、1つの貫通孔261が形成されており、各ステー252、253は、貫通孔や溝等が全く形成されていない、ほぼ平らな延べ板状に形成されている。
図15は、リードフレーム251の各貫通孔261に上述した金属板の接合方法により、ステー252、253を接合した状態を示す。リードフレーム251とステー252、253との各接合部270は、上述した本実施形態の接合方法により接合されたものであり、図1の断面図に図示された構造となっている。
【0043】
このように、本発明は、半導体装置のリードフレームとステーを接合する場合等に適用することができる。ここでは、半導体装置に適用した場合で例示したが、回路基板や他の電子装置のフレーム部材等に適用することも可能である。また、本発明は、この他にも、測定装置、分析装置、精密機械装置あるいは他の機械装置等に適用することもできる。
【0044】
上記実施形態では、第1、第2の金属板11、21の材料として銅を用いた場合で例示したが、本発明は銅に限られるものではなく、鉄、ステンレス、ニッケル、スズ、アルミニウムやこれらの合金等、他の金属材料を適用することができる。また、第1、第2の金属板11、21の一方あるいは両方を、異なる金属同士を熱拡散融合により結合したクラッド材としてもよい。
【0045】
上記実施形態では、内側押圧部51bの外形および本体部51aの外形により、第1の溝23と第2の溝24の外形を形成するとして例示した。しかし、内側押圧部51bと本体部51aとの間に中間部を設け、この中間部の外形により第2の溝24の外形を形成するようにしてもよい。
【0046】
上記実施形態では、第2の金属板21に第1、第2の溝23、24の2つの溝を形成する場合で説明した。しかし、第2の金属板21に形成する溝は3つ以上としてもよい。
【0047】
上記実施形態においては、第2の金属板21に形成される第1、第2の溝23、24は、周側面が上面21aおよび下面21bに垂直である構造として例示した。しかし、第1、第2の溝23、24の一方および両方を、その周側面が、下面21b側より上面21a側に向かって、拡がる方向の傾斜面としてもよい。
【0048】
上記実施形態では、下パンチ42に形成する凸部42bは、ほぼ円錐台形状またはほぼ角錐台形状として例示した。しかし、下パンチ42の凸部42bは、ドーム形状としたり、階段状としたり、種々の、形状を採用することが可能であり、要は、第2の金属板21の押し出された部分22を外周方向に拡げる作用をするものであればよい。
【0049】
本発明は、第1の金属板11の硬度が第2の金属板21の硬度とほぼ同じか、またはそれよりも小さい場合に大きな効果を奏する。しかし、本発明によれば、第1の金属板11の板厚が薄い場合にも、大きな接合力を得ることができるため、第1の金属板11の硬度が第2の金属板21の硬度より大きい場合にも適用することができる。
【0050】
その他、本発明は、その趣旨の範囲内において、適宜、変形して適用することができ、要は、第2の金属板21における第1の金属板11の貫通孔12内に押し出された部分22の底部側の中央部に、押し出された部分22を貫通孔12の外周側に拡げるための凹部22aが形成されると共に、その反対面側に、貫通孔12の幅よりも小さい幅の第1の溝23と、この第1の溝23によりも大きい幅の第2の溝24が形成されるように鍛圧するものであればよい。
【符号の説明】
【0051】
1 金属板の接合構造
11 第1の金属板
12 貫通孔
21 第2の金属板
22 押し出された部分(鍛圧部)
41 ダイ
42 下パンチ
42a 本体部
42b 凸部
50 上型
51 上パンチ
51a 本体部
51b 内側押圧部
51c 下面(一端面)
200 半導体装置
234〜236 導体板
250 導体板
251 リードフレーム
252 ステー
261 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に貫通する貫通孔を有する第1の金属板と、
前記貫通孔の厚さ方向の中間まで押し出され、底部側が前記貫通孔内で露出された鍛圧部を有し、前記第1の金属板の一面上に接合された第2の金属板とを備え、
前記第2の金属板は、前記第1の金属板と対面する側と反対側である外面側における前記鍛圧部と対応する位置に設けられ、前記貫通孔より小さい幅の第1の溝と、前記第1の溝よりも大きい幅の第2の溝を有し、
前記鍛圧部は、底部側のほぼ中央部に、その周囲から凹んだ凹部を有することを特徴とする金属板の接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の金属板の接合構造において、前記鍛圧部の凹部は、ほぼ円錐台形状またはほぼ角錐台形状であることを特徴とする金属板の接合構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属板の接合構造において、前記第1の溝の幅は、前記貫通孔の幅の0.5〜0.8倍であることを特徴とする金属板の接合構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属板の接合構造において、前記第1の溝の深さは、前記第2の金属板の板厚の0.2〜0.4倍であることを特徴とする金属板の接合構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属板の接合構造において、前記第2の溝の幅は、前記第2の金属板の板厚よりも3%程度小さい寸法から13%程度大きい寸法の範囲内であることを特徴とする金属板の接合構造。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の金属板の接合構造において、前記第1の金属板と前記第2の金属板は、硬度がほぼ同じか、前記第1の金属板の硬度が前記第2の金属板よりも大きく、前記第2の金属板との硬度の差は、ビッカース硬度でHV20の範囲内であることを特徴とする金属板の接合構造。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の金属板の接合構造において、前記第1の金属板と前記第2の金属板は、硬度がほぼ同じか、前記第1の金属板の硬度が前記第2の金属板よりも硬度が小さく、前記第2の金属板との硬度の差は、ビッカース硬度でHV30の範囲内であることを特徴とする金属板の接合構造。
【請求項8】
第1の金属板に、厚さ方向に貫通する貫通孔を形成する第1の工程と、
一端面のほぼ中央部に先細状の凸部を有する下パンチを、前記突起の先端が前記貫通孔の深さ方向の中間に位置するように前記貫通孔に嵌入する第2の工程と、
前記第1の金属板上に、前記貫通孔を覆って第2の金属板を配置する第3の工程と、
前記第2の金属板側に前記貫通孔よりも小さい幅の内側押圧部を有する上パンチと前記下パンチとにより前記第2の金属板の前記貫通孔に対応する部分を鍛圧して、前記第2の金属板の前記貫通孔に対応する部分を接合する第4の工程とを備え、
前記第2の金属板における前記貫通孔内に押し出された部分の底部に、前記下パンチの前記凸部に対応する凹部が形成され、前記凹部と反対面側に前記内側押圧部による第1の溝と、前記第1の溝よりも大きい幅の第2の溝とが形成されるように接合することを特徴とする金属板の接合方法。
【請求項9】
請求項8に記載の金属板の接合方法において、前記上パンチの前記内側押圧部の幅は、前記貫通孔の幅の0.5〜0.8倍であることを特徴とする金属板の接合方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の金属板の接合方法において、前記内側押圧部の前記第2の金属板の板厚方向における長さは、前記第2の金属板の板厚の0.2〜0.4倍であることを特徴とする金属板の接合方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれか1項に記載の金属板の接合方法において、前記上パンチの外周形状は、前記貫通孔の幅に対して、前記第2の金属板の板厚よりも3%程度小さい寸法から13%程度大きい寸法の範囲内の幅を有することを特徴とする金属板の接合方法。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−59790(P2013−59790A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199688(P2011−199688)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】