説明

鉄ゼオライト、鉄ゼオライトの製造方法、および亜酸化窒素の触媒還元方法

本発明は、ゼオライト上の鉄の位置の数がゼオライト中のカチオン位置の数より大きな鉄含有ゼオライトに関する。本発明はまた、気相反応で鉄ペンタカルボニルを用いて製造可能な鉄含有ゼオライトであって、該ゼオライトがイオン交換で同様に製造された鉄含有ゼオライトより大きな比表面積をもち、及び/又はイオン交換で同様に製造された鉄含有ゼオライトより水熱的に安定である鉄含有ゼオライトに関する。
本発明はまた、気相反応で鉄ペンタカルボニルを用いて製造可能なBETA構造の鉄含有ゼオライトであって、10nmより大きな鉄クラスターの数が鉄の総量に対して15重量%未満である鉄含有ゼオライトに関する。本発明はさらに、気相反応で鉄ペンタカルボニルを用いて鉄をドーピングする鉄含有ゼオライト材料の製造方法に関する。本発明はさらに、上記鉄含有ゼオライト材料を含む触媒を用いてアンモニを加えながら行う酸化窒素の触媒還元方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト上の鉄の位置の数が、ゼオライト中のカチオン位置の数より大きな鉄含有ゼオライトに関する。本発明はまた、気相反応で鉄ペンタカルボニルを用いて製造可能な鉄含有ゼオライトであって、該ゼオライトが、イオン交換で同様に製造された鉄含有ゼオライトより大きな比表面積をもち、及び/又はイオン交換で同様に製造された鉄含有ゼオライトより水熱的に安定である鉄含有ゼオライトに関する。
【0002】
本発明はまた、気相反応で鉄ペンタカルボニルを用いて製造可能なBETA構造の鉄含有ゼオライトであって、10nmより大きな鉄クラスターの数が鉄の総量に対して15重量%未満である鉄含有ゼオライトに関する。本発明はさらに、気相反応で鉄ペンタカルボニルを用いて鉄をドーピングする鉄含有ゼオライト材料の製造方法に関する。本発明はさらに、上記鉄含有ゼオライト材料を含む触媒を用いて、アンモニを加えながら行う酸化窒素の触媒還元方法に関する。
【背景技術】
【0003】
先行技術には、金属含有ゼオライト材料の触媒または吸着剤の利用に関する数多くの文献が含まれる。例えば、金属でドープされたゼオライト材料が、排気ガス処理技術で酸化窒素の窒素と水への選択的触媒的還元(SCR)の触媒として用いられている。
【0004】
例えば、US4,961,917には、鉄または銅でドープされたゼオライトの、アンモニアと酸素の存在下での酸化窒素の触媒的還元プロセスでの利用が記載されている。ここに記載の触媒は、二酸化ケイ素:酸化アルミニウム比が10であるゼオライトである。このゼオライトは、結晶の三方向で、平均動的孔径が7Åである気孔とつながっている気孔構造を有している。この鉄及び/又は銅促進剤は、促進剤とゼオライトの総重量に対して0.1〜30重量%の量で存在している。このゼオライトは、USYとbetaとZSM−20からなる群から選ばれる。用いる鉄または銅の供給源は、硫酸塩である。
【0005】
酸化窒素排出による環境への有害な影響のため、さらにこれらの排出を抑えることが極めて重要である。近い将来、定置型システムや自動車の排気ガスには、現在の基準よりはかなりの低いNOxの排出限度が設定されるものと考えられる。
【0006】
燃焼ガスから窒素の除去は、DeNOxと呼ばれている。自動車技術では、選択的触媒的還元(SCR)が、一つの最も重要なDeNOx方法である。用いる還元剤は通常、炭化水素(HCSCR)またはアンモニア(Nhfo−SCR)であり、あるいは尿素(Ad−青色(R))などのNH前駆体である。なお、金属でドープされたゼオライトは、非常に高活性で広い温度範囲で使用可能なSCR触媒であることがわかっている。
【0007】
従来のゼオライトを金属でドーピングする方法には、例えば、液体イオン交換、固相イオン交換、気相イオン交換、機械化学法、含浸法、いわゆるエキスフレームワーク法などの方法がある。
【0008】
現在のところ、ドーピングは主に液体イオン交換で行われている。まずゼオライト材料を、水熱合成と結晶化と焼成で製造する。この焼成で有機構成成分が燃焼して消失し、ゼオライト材料は通常、H型またはNa型で得られる。焼成の後、イオン交換でアンモニウムイオンをゼオライト材料に導入し、このゼオライトを再度焼成した後、所望の金属イオンをイオン交換で導入する。
【0009】
固相イオン交換によるゼオライトの鉄でのドーピングも知られている(EP0955080B1)。この方法では、所望のゼオライトと金属化合物とアンモニウム化合物の混合物を保護ガス雰囲気下で焼成して、長期安定性が改善された金属含有触媒を得る。
【0010】
特にドープする金属をゼオライト中にドーピングまたは導入する場合には、しばしばこれらの触媒活性金属が相互に異なる酸化状態で存在しているため、所望の触媒活性種が常に得られないため、あるいはドーピング法の反応条件のために触媒活性種が触媒不活性種に変換されるため問題が発生する。
【0011】
しかしながら、ほとんどすべての既知の先行技術プロセスでは、ゼオライト内部での金属交換により、触媒活性がないかあっても極めて低い、触媒活性金属のクラスター種が形成されていることが分っている。またこれらのクラスターは、ゼオライト材料の安定性に悪影響を与える。なお、この「クラスター」は、少なくとも3個の同一あるいは異なる金属原子を含む多核の架橋または非架橋金属化合物を意味するものとする。
【0012】
また、不活性金属クラスターは、気孔体積を低下させてガス拡散を妨げたり、望ましくない副反応を引き起こす。
【0013】
WO2008/141823には、初めて、ゼオライト骨格の内部に金属クラスターが検出されない金属含有ゼオライトが開示されている。この金属交換ゼオライトは、触媒的に不活性または触媒的に低活性な金属クラスターを含まず、モノマー状かダイマー状の高触媒活性の金属種のみがその気孔構造中に存在していると述べられている。これらのゼオライトは、まず水性または含水のゼオライトスラリーを作り、次いでa)反応容器内の酸素含量を<10%の値に調整しながら、スラリーのpHを、好ましくはNHOHを用いて8〜10の範囲の値まで増加させ、b)pHと1.5〜6の範囲の値まで低下させ、c)金属塩を加えて、1〜15時間反応させ、d)金属でドープされたゼオライトを濾過して洗浄することで得ることができる。
【0014】
水性イオン交換のもう一つの問題は、通常、表面の金属濃度が、ゼオライト材料の内部より高いことである。したがって、水性イオン交換は、ゼオライト材料中でドープ金属の不均一な分布をもたらす。
【0015】
しかしながら、上記ゼオライトドーピング法の欠点は、ドープ金属の最大吸着量が、そのゼオライトのカチオン位置の数で制限されることである。つまり、所定量のドープ金属が必要な用途には、すべてのゼオライトが使用できるのでなく、所望数のカチオン位置を持つもののみが使用できるということである。もう一つの欠点は、したがって、多数のカチオン位置をもち、より多量のドープ金属を吸収できるゼオライトは、カチオン位置の少ないものより安定性が低い(例えば、養生後)ことである。
【0016】
上記ゼオライトドーピング法のもう一つの欠点は、これらのドーピング法が多くの反応段を持ち、各々の反応段がゼオライト骨格を損傷させ、結果として比表面積を低下させて、水熱安定性を低下させることである。
【0017】
鉄でドープされたゼオライトの製造において鉄ペンタカルボニルが鉄の供給源として適当であることは、DeNOx・SCR技術の先行技術において現在までに知られていない。
【0018】
US2,533,071には、支持体上にある鉄ペンタカルボニルを加熱して、鉄ペンタカルボニルを鉄とCOに分解させ、鉄を支持体上に析出させて金属性鉄触媒を製造することが述べられている。この触媒はCOとHから炭化水素を合成するのに使われる。合成スピネルが好ましい支持体であると記載されている。さらには、例えば12.5%の酸化ケイ素と87.5%の酸化アルミニウムとからなる組成物が述べられている。
【0019】
また、US4,003,850には、適当な支持体が鉄ペンタカルボニルを吸収し、この鉄ペンタカルボニルが酸化鉄に酸化される酸化鉄触媒の製造方法が記載されている。記載の支持体にはゼオライトが含まれる。1bar以上の圧力での一酸化炭素を用いる排ガス中の酸化窒素の還元への利用が記載されている。US4,003,850の実施例には、アルコアH−151(活性化酸化アルミニウム)と、ハーショウAL−1602(酸化ケイ素アルミニウム、91Al、6SiO)、アルコアF−14−10(活性化酸化アルミニウム)、リンデ13X(ゼオライト、NaO、Al、2.5SiO)、ハーショウFe−0301(鉄含有活性化酸化アルミニウム)が用いられている。
【0020】
CN101099932Aには、鉄でドープされた触媒で、その鉄粒子の粒度が100nm未満である触媒の製造が報告されている。これらの触媒は、鉄ペンタカルボニルを用いて製造され、これはその場で鉄に分解する。これらの鉄でドープされた触媒の使用用途は、石炭の変換(例えば、石炭の液化)や石油精製、アンモニア合成などの化学プロセスである。これらの鉄でドープされた触媒の製造方法は、(i)触媒支持体をオートクレーブに入れて減圧下に置くか、オートクレーブ内の空気を窒素または不活性ガスで置換し;(ii)鉄ペンタカルボニルを添加し;(iii)鉄ペンタカルボニルが蒸着して触媒支持体中に浸入することができるある温度にまで加熱してこの温度に維持し;(iv)さらに加熱してあるいは高圧で窒素または他の不活性ガスを導入して、支持体中に存在する鉄ペンタカルボニルを、その場で粒度が上記のナノメーター範囲にある鉄に分解させることからなる。使用可能な支持体には、ゼオライト、活性炭、γ−Al、珪藻土、炭素が含まれる。
【0021】
WO98/57743には、製造された、特に鉄カルボニルを鉄供給源として製造された鉄でドープされたゼオライトの、合成ガスのオレフィンへの変換の、特にエチレンやプロピレン、ブテンへの変換の触媒としての利用が述べられている。実施例では、ZSM−5、SAPO−34、SAPO−17が使用されている。
【0022】
気相反応で支持体にドーピングする分野での文献は数多くあるが、このプロセスのSCR触媒の製造への利用は、現在までに記載されていない。また、カチオン位置により制限される負荷量を超えるドープ金属の負荷量に関しての気相反応の可能性については、未だに検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】US4,961,917
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって本発明の目的は、ゼオライトのドーピングを可能とする方法であって、ドープ金属の量がドープされるゼオライトに依存しない、即ちそのカチオン位置に依存しない方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、高比表面積で結果として高い水熱安定性をもつ鉄含有ゼオライト材料を提供することである。本発明のもう一つの目的は、鉄含有ゼオライト材料であって、該ゼオライト系材料中で鉄が均一に分布しており、鉄凝集物/鉄クラスターを含まないものを提供することである。本発明のもう一つの目的は、気孔外での鉄の析出が最小限となっている鉄含有ゼオライト系材料を提供することである。本発明のもう一つの目的は、水中でのイオン交換と較べて安価な方法を示すことである。先行技術と較べてNOx変換率が改善されたSCR触媒を提供することも本発明の目的の一つである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
ゼオライト:
驚くべきことに、ゼオライト上の鉄の位置の数が、ゼオライト中のカチオン位置の数より大きな鉄含有ゼオライトが見出された。
【0026】
本発明はまた、気相反応での鉄ペンタカルボニルとの反応で製造可能な鉄含有ゼオライトであって、該ゼオライトがイオン交換で同様に製造された鉄含有ゼオライトより大きな比表面積をもち、及び/又はイオン交換で同様に製造された鉄含有ゼオライトより水熱的に安定である鉄含有ゼオライトに関する。
【0027】
BETA構造の鉄含有ゼオライト:
本発明はまた、気相反応での鉄ペンタカルボニルとの反応で製造できるBETA構造の鉄含有ゼオライトであって、10nmを越える鉄クラスターの数が、鉄の総量に対して15重量%未満である鉄含有ゼオライトに関する。
【0028】
この鉄クラスターの数は、鉄の総量に対して好ましくは10重量%未満であり、好ましくは5重量%未満、さらに好ましくは2重量%未満、特に1重量%未満である。鉄クラスターの数は、例えばUV−Vis測定により決めることができる(例えば、Capek et al., Mircoporous and Mesoporous Materials 80 (2005) 279−289を参照)。
【0029】
本発明のBETA構造の鉄含有ゼオライトの鉄含有量は、好ましくはBETAの重量に対して0.01〜20重量%であり、好ましくは0.1〜10重量%、特に0.5〜5重量%である。
【0030】
BETA構造のゼオライトの気孔径は、5〜10Åであることが好ましい。この鉄は、ゼオライトの気孔中に存在することが好ましい。
【0031】
ゼオライト系材料の製造方法:
本発明はまた、鉄含有ゼオライト材料(例えば、BETAまたはCHA構造の鉄含有ゼオライト)の製造方法であって、鉄ペンタカルボニルを用いる気相反応で鉄をドーピングすることからなる方法に関する。
【0032】
本発明において「ゼオライト」とは、国際鉱物学連合の定義(D.S. Coombs et al., Can. Mineralogist, 35, 1997, 1571)に準じて、三次元架橋構造をもち、次の一般式で表されるケイ酸アルミニウムの群から選ばれる結晶性物質であり、
【0033】
【化1】

【0034】
通常の酸素原子で結合したSiO/AlO四面体からなり規則的な三次元ネットワークを形成しているものをいう。他の立体配置が、例えばWO2008/141823の5〜6ページに見出される。
【0035】
原則としていずれのゼオライト系材料も本発明において使用可能である。本発明によれば、BETA、BEA、CHA、LEV(例えば、RUB−50またはZSM−45)、ZSMの構造のゼオライト系材料が好ましい。BETAとCHAの位相構造のゼオライト材料が極めて好ましい。ゼオライトのリンデ13XとZSM−5、SAPO−34、SAPO−17は除くことが好ましい。
【0036】
また、本発明によれば、同型置換されたリン酸アルミニウムから形成される、いわゆるシリコアルミノリン酸塩(SAPO)を用いることができる。
【0037】
このゼオライト系材料の比BET表面積は、好ましくは10〜1000g/mであり、好ましくは150〜800g/m、特に300〜700g/mである。
【0038】
ケイ素とアルミニウムを含むゼオライト系材料において、その二酸化ケイ素−酸化アルミニウム比は、1より大きいことが好ましく、3〜500が好ましく、特に6〜60である。
【0039】
これらのゼオライトの平均孔径は、0.2〜2nmであることが好ましく、好ましくは0.3〜1nm、特に0.35〜0.8nmである。
【0040】
本発明の方法は、2工程で、即ち(i)気相での負荷と(ii)熱分解で行われることが好ましい。
気相プロセス(i)は、好ましくは次のように行われる。
【0041】
最初の工程(i)では、ゼオライト系材料中にガス状の鉄ペンタカルボニルを通過させる。この鉄ペンタカルボニルはキャリアーガス中に存在していることが好ましい。用いるキャリアーガスは、一酸化炭素や二酸化炭素、窒素、ヘリウムまたはアルゴンなどの不活性ガス、またはこれらの混合物であることが好ましい。一酸化炭素または窒素を用いることが特に好ましい。
【0042】
ガス流中の鉄ペンタカルボニルの濃度は、好ましくは0.1〜100体積%であり、好ましくは0.5〜20体積%、特に1〜5体積%である。
【0043】
加工工程(i)の温度は、好ましくは10〜250℃であり、好ましくは20〜200℃、特に50〜150℃である。
【0044】
加工工程(i)の、ゼオライト床の下流で測定した圧力は、好ましくは0.1〜10barであり、好ましくは0.5〜2bar、特に0.9〜1.2barである。
【0045】
加工工程(i)の反応時間は、好ましくは0.1分〜10時間であり、好ましくは0.5分〜5時間、特に1〜120分である。
【0046】
第二の工程(ii)では、鉄ペンタカルボニルが付着したゼオライト系材料中に熱キャリアーガスを通過させる。用いるキャリアーガスは、空気または窒素またはアルゴンなどの不活性ガス、またはこれらの混合物であることが好ましい。窒素または空気の使用が特に好ましい。
【0047】
加工工程(ii)のキャリアーガスの温度は、好ましくは10〜500℃であり、好ましくは50〜400℃、特に100〜350℃である。
【0048】
加工工程(ii)の圧力(ゼオライト床下流の圧力)は、好ましくは0.1〜10barであり、好ましくは0.5〜2bar、特に0.9〜1.2barである。
【0049】
加工工程(i)の反応時間は、好ましくは0.1分〜10時間であり、好ましくは0.5分〜5時間、特に1〜120分である。
【0050】
孔径が0.5〜0.7nmより小さなゼオライト系材料を得るためには、ゼオライト系材料中に、工程(ii)より高温の熱キャリアーガスを通過させる第三の工程(iii)を続けて設けることが好ましい。これにより気孔外部に析出した鉄が気孔内部に移動する。
【0051】
用いるキャリアーガスは、スチーム、空気、窒素、ヘリウムまたはアルゴンなどの不活性ガス、あるいはこれらの混合物である。スチーム、空気または窒素の使用が好ましい。
【0052】
加工工程(iii)の温度は、好ましくは500〜1000℃であり、好ましくは600〜900℃、特に650〜850℃である。
【0053】
加工工程(iii)の圧力(ゼオライト床下流の圧力)は、好ましくは0.1〜10barであり、好ましくは0.5〜2bar、特に0.9〜1.2barである。
【0054】
加工工程(i)の反応時間は1分〜240時間が好ましい。500〜750℃の範囲の低温を使用する場合、反応時間は、好ましくは1時間〜240時間であり、特に2時間〜150時間である。750〜1000℃の範囲の高温を使用する場合、反応時間は、好ましくは1分〜150時間であり、特に10分〜100時間である。
【0055】
ゼオライト系材料の用途:
本発明はまた、本発明により製造された鉄含有ゼオライト材料の炭化水素の変換反応での、酸化反応、フィッシャートロプシュ反応、酸化窒素の選択的触媒還元での触媒としての利用に関する。
【0056】
酸化窒素の選択的触媒還元は、アンモニアまたはアンモニア前駆体、例えば尿素の添加をしながら行うことが好ましい。BETA構造の鉄含有ゼオライトをこのSCR触媒に用いることが好ましい。
【0057】
利点:
本発明の方法により、カチオン位置により制限される鉄含量より大きな鉄含量をもつ鉄含有ゼオライト系材料を製造することができる。また、イオン交換反応で同様に製造した鉄含有ゼオライト材料より大きな比表面積をもつ鉄含有ゼオライト材料を製造することができる。結果として、本発明の鉄含有ゼオライトは大きな水熱安定性をもつ。また、気孔中に金属鉄が均一かつ選択的に分布した鉄含有ゼオライト材料が製造される。また、気孔外部への鉄の析出が見られない。また、従来の湿式化学的な方法と較べて、気相での負荷と熱分解の2工程を用いてこの製造を安価に実施することができる。また、本発明の鉄含有ゼオライト系材料は、DeNOxプロセスでの高い排ガス分解活性に特徴がある。
【0058】
実施例
1.鉄含有ゼオライト材料の製造
【0059】
実施例1
ベータゼオライトへの2.4重量%のFeの添加
115℃で、やや減圧下(−15mbar)で、31分間、15gのベータゼオライト中に、一酸化炭素中の濃度が1.2体積%の鉄ペンタカルボニルのガス流を通過させた。その後、このゼオライト床をもつ容器を外から200℃に加熱し、200℃で25分間、やや減圧下(−15mbar)でアルゴンを通過させた。TEM(透過型電子顕微鏡)分析の結果、得られた触媒には、気孔外部に鉄の析出が見られなかった。EDX・X線スペクトロスコピー分析では、ゼオライト支持体上での均一な鉄の分布が示された。
【0060】
実施例2
ベータゼオライトへの1.6重量%のFeの添加
14gのベータゼオライトに、150℃でやや減圧下(−15mbar)で31分間、アルゴン中の濃度が1.2体積%の鉄ペンタカルボニルを含むガス流を通した。この試験では、最初からゼオライト床をもつ容器を外部から200℃に加熱した。その後、この床に、直接的やや減圧下(−15mbar)で、アルゴンを200℃で28分間通した。
【0061】
実施例3
ベータゼオライトへの5重量%のFeの添加
12gのベータゼオライトに、115℃でやや減圧下(−15mbar)で27分間、アルゴン中の濃度が1.2体積%の鉄ペンタカルボニルを含むガス流を通過させた。その後、ゼオライト床をもつ容器を外部から200℃に加熱し、やや減圧下(−15mbar)、200℃で22分間アルゴンを通した。
【0062】
実施例4
チャバザイトSS2−13への1.4重量%のFeの添加
115℃で、やや減圧下(−15mbar)で31分間、11gのベータゼオライト中に、一酸化炭素中の濃度が1.2体積%の鉄ペンタカルボニルのガス流を通過させた。その後、このゼオライト床をもつ容器を外から200℃に加熱し、200℃で22分間、やや減圧下(−15mbar)でアルゴンを通過させた。この触媒を次いで、700℃で48時間スチームで処理した。
【0063】
2.触媒試験
He中に500ppmのNO、500ppmのNH、10%のO、5%のHOを含む混合ガスを用い、オーブン中で、体積ベースでのガス空間速度(GH)が80000h−1で、このガスを粉末床に通して変換率を測定した。用いた比較用触媒は、標準的な方法でイオン交換で製造したベータゼオライトで、1.4重量%のFeと0.15重量%のCeOを含むものである。その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
3.鉄含有ゼオライト材料の安定性の比較
750℃で10%スチームで24時間養生後(DIN66135)、(i)気相反応で製造した鉄含有ベータゼオライト(1.2重量%のFe)と(ii)イオン交換反応で製造した鉄含有ベータゼオライト(1.5重量%のFe)の比表面積を測定した。
【0066】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト上の鉄の位置の数がゼオライト中のカチオン位置の数より大きな鉄含有ゼオライト。
【請求項2】
気相反応で鉄ペンタカルボニルを用いて製造可能な鉄含有ゼオライトであって、該ゼオライトがイオン交換で同様に製造された鉄含有ゼオライトより大きな比表面積をもち、及び/又はイオン交換で同様に製造された鉄含有ゼオライトより水熱的に安定である鉄含有ゼオライト。
【請求項3】
気相反応で鉄ペンタカルボニルを用いて製造可能なBETA構造の鉄含有ゼオライトであって、10nmより大きな鉄クラスターの数が鉄の総量に対して15重量%未満である鉄含有ゼオライト。
【請求項4】
10nmより大きな鉄クラスターの数が鉄の総量に対して5重量%未満である請求項3に記載のBETA構造の鉄含有ゼオライト。
【請求項5】
金属状態の鉄含有量がゼオライト系材料に対して0.01〜20重量%である請求項3または4に記載のBETA構造の鉄含有ゼオライト。
【請求項6】
気相反応で鉄ペンタカルボニルを用いて鉄をドーピングし、この鉄でのドーピングを(i)気相の添加と(ii)熱分解の二成分工程で行う鉄含有ゼオライト材料の製造方法。
【請求項7】
成分工程(i)において、温度が10〜250℃で、圧力が0.1〜10barで、0.1分〜10時間、ガス流中の鉄ペンタカルボニルの濃度が0.1〜100体積%であるガス状鉄ペンタカルボニルを上記ゼオライト系材料に通す請求項6に記載の方法。
【請求項8】
成分工程(ii)において、鉄ペンタカルボニルをもつゼオライト系材料にキャリアーガスを通過させ、工程(ii)での温度が10〜500℃で、圧力が0.1〜10barで、反応時間が0.1分〜10時間である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
もう一つの工程(iii)において、温度が500〜1000℃で、圧力が0.1〜10barで、上記ゼオライト系材料にキャリアーガスを通過させる請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1、2、又は3〜5のいずれか一項に記載の鉄含有ゼオライト材料を、
アンモニア又はアンモニア前駆体を添加しながら行う酸化窒素の触媒還元に使用する方法。

【公表番号】特表2013−514247(P2013−514247A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543650(P2012−543650)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069476
【国際公開番号】WO2011/073123
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】