説明

鏡枠及び偏心測定方法

【課題】被検面の形状誤差に関わらず、常に高精度に偏心量を測定できる偏心測定方法等を提供できる。
【解決手段】レンズ枠100cが備える3つの球100d等の位置を測定する第1の基準物位置測定工程と、レンズ100の所定面の形状を測定する光学素子形状測定工程と、レンズ枠100cに関する測定座標系の位置を計算する測定座標系計算工程と、光学素子形状測定工程の測定結果を測定座標系に座標変換する座標変換計算工程と、固定枠140(取り付け部160)によりレンズ枠100cを支持する支持工程と、支持されているレンズ枠100cの球100dの位置を測定する第2の基準物位置測定工程と、レンズ枠100cの基準軸160aに対する偏心量を算出する第1枠体偏心量計算工程と、基準軸160aに対するレンズ100の偏心量を計算する光学素子偏心量計算工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を保持する鏡枠、及びこの鏡枠内の所定位置に配置された光学素子の偏心量を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鏡枠内の所定位置に配置された光学系の偏心量を測定する方法が知られている。ここで、測定対象である光学系は、複数のレンズ(複数の被検面)で構成されている。代表的な、偏心測定方法として、オートコリメーション法を用いた技術が提案されている。オートコリメーション法を用いた偏心測定では、測定対象である各被検面の近軸曲率中心位置に、光を照射する。そして、各被検面での反射光の像位置を検出する。更に、像位置に基づいて、所定の基準軸に対する各被検面の偏心を計算する。
【0003】
ここで、被検面が非球面のときを考える。このとき、被検面の偏心は、近軸曲率中心の位置と、非球面軸の傾きとの両者を測定する必要がある。そこで、測定対象となる光学系が非球面を含んでいるときに、光学系(被検面)の偏心を測定する偏心測定方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では、図13に示すように、球面と非球面とから構成される被検レンズ系1の、基準軸2に対する各被検面の偏心を、オートコリメーション法を用いて測定する。ここで、被検面は、4つのレンズ面S1、S2、S3、S4である。そして、レンズ面S1、S3は非球面、レンズ面S2、S4は球面である。
【0004】
まず、被検面が球面のとき、例えばレンズ面S2については、曲率中心S2’の像位置を反射光により検出する。これにより、レンズ面S2の基準軸2に対する偏心量を求める。また、被検面が非球面のとき、例えばレンズ面S1については、近軸曲率中心S1’の像位置を反射光により検出する。同時に、レンズ面S1の非球面軸S1”から所定距離だけ離れた非球面部分の曲率中心の像位置を検出する。そして、レンズ面S1の近軸曲率中心S1’の位置と非球面軸S1”の傾きとを演算する。この結果、レンズ面S1の基準軸2に対する偏心を計算する。このようにして、各レンズ面の基準軸に対するチルト量ε1、ε3、シフト量σ1、σ2、σ3、σ4等を求める。
【0005】
【特許文献1】特開平9−325085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、図13に示した従来技術では、被検面が非球面のとき、非球面軸から所定距離だけ離れた非球面部分の曲率中心の位置を検出して、非球面軸の傾きを求めている。具体的には、被検面の非球面軸を中心とした、所定の輪帯状部分での反射光の像の重心位置を検出する。そして、像の重心位置に基づいて非球面軸を計算する。ここで、測定した非球面の輪帯状部分が凹凸等の形状誤差を有しているときがある。このような形状誤差があると、反射光の像位置が変化してしまう。このため、被検面の非球面軸を正確に求めることができない。また、被検面の近軸領域に凹凸等の形状誤差が生じているときもある。このとき、近軸曲率中心の像位置が変化してしまう。このため、被検面の近軸曲率中心の位置を正確に求めることができない。従って、従来技術の偏心測定方法は、被検面に形状誤差が存在すると、高精度に偏心量を求めることができずに問題である。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、被検面の形状誤差に関わらず、常に高精度に偏心量を測定できる偏心測定方法、及びこの偏心測定方法に用いる鏡枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、第1の本発明によれば、光学素子を保持し、少なくとも3つの基準物を備える第1の枠体と、第1の枠体を支持する第2の枠体とからなることを特徴とする鏡枠を提供できる。
【0009】
また、本発明の好ましい態様によれば、基準物は、球または半球の形状を有していることが望ましい。さらに、本発明の好ましい態様によれば、第2の枠体は、第1の枠体が備える基準物と対向する位置に開口部を有していることが望ましい。加えて、本発明の好ましい態様によれば、第2の枠体は、複数の第1の枠体を支持することが望ましい。
【0010】
また、本発明の好ましい態様によれば、第1の枠体の外周部に形成されているカムピンと、第2の枠体の内周部に形成されているカム溝とをさらに有し、第1の枠体は、第2の枠体に対して光学素子の光軸に沿った方向に移動可能に支持されていることが望ましい。さらに、本発明の好ましい態様によれば、第1の枠体は、第2の枠体に対して固着されていることが望ましい。
【0011】
また、第2の本発明によれば、第1の枠体が備える少なくとも3つの基準物の位置を測定する第1の基準物位置測定工程と、第1の枠体が保持する光学素子の所定面の形状を測定する光学素子形状測定工程と、第1の基準物位置測定工程の測定結果に基づいて第1の枠体に関する測定座標系の位置を計算する測定座標系計算工程と、光学素子形状測定工程の測定結果を測定座標系に座標変換する座標変換計算工程と、第2の枠体により第1の枠体を支持する支持工程と、支持されている第1の枠体の基準物の位置を測定する第2の基準物位置測定工程と、第2の基準物位置測定工程の測定結果に基づいて第1の枠体の基準軸に対する偏心量を算出する第1枠体偏心量計算工程と、基準軸に対する光学素子の偏心量を計算する光学素子偏心量計算工程とを有することを特徴とする偏心測定方法を提供できる。
【0012】
また、本発明の好ましい態様によれば、基準軸は、前記第2の枠体により定められることが望ましい。さらに、本発明の好ましい態様によれば、基準物は、球または半球の形状を有していることが望ましい。加えて、本発明の好ましい態様によれば、第2の基準物位置測定工程は、第2の枠体を所定軸の回りに回転して基準物の位置を測定することが望ましい。
【0013】
また、本発明の好ましい態様によれば、第1の基準物位置測定工程と第2の基準物位置測定工程とにおいて、プローブを基準物に接触させて基準物の中心位置を測定することが望ましい。
【0014】
また、本発明の好ましい態様によれば、第2の基準物位置測定工程において、干渉計により基準物に測定光を照射して基準物の中心位置を測定することが望ましい。
【0015】
また、本発明の好ましい態様によれば、基準物は磁性体で構成されており、第2の基準物位置測定工程において、磁気センサにより基準物の位置を測定することが望ましい。
【0016】
また、第3の本発明によれば、少なくとも3つの基準物と光学素子との位置関係を測定する第1の位置関係測定工程と、基準物と枠体との位置関係を測定する第2の位置関係測定工程と、第1の位置関係測定工程の測定結果と第2の位置関係測定工程の測定結果とに基づいて、光学素子の枠体に対する偏心量を計算する偏心量計算工程とを有することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
第1の本発明によれば、第1の枠体は、レンズ等の光学素子を保持する。また、第1の枠体は、少なくとも3つの基準物を備えている。さらに、第1の枠体は、第2の枠体に支持されている。プローブ等を用いる3次元形状測定機により、光学素子と基準物とを測定する。これにより、光学素子と基準物との相対的な位置関係を計算できる。また、第1の枠体が第2の枠体に支持されている状態で、例えば3次元形状測定機により基準物を測定する。これにより、第2の枠体と第1の枠体との相対的な位置関係を計算できる。そして、第2の枠体と光学素子との相対的な位置関係も計算できる。この結果、本発明によれば被検面である光学素子の形状誤差に関わらず、常に高精度に偏心量を測定できる。
【0018】
また、第2の本発明によれば、第1の基準物位置測定工程と光学素子形状測定工程により、例えば、3次元形状測定機により、少なくとも3つの基準物と、光学素子の表面形状とをそれぞれ測定する。そして、測定座標系計算工程により、基準物で定まる測定座標系を計算できる。また、座標変換計算工程により、測定座標系に対する光学素子の相対的な位置関係を求めることができる。さらに、第2の基準物位置測定工程では、例えば3次元形状測定機により第2の枠体に支持されている状態の第1の枠体の基準物の位置を測定する。そして、第1枠体偏心量計算工程において、第1の枠体の基準軸に対する相対的な位置関係を計算できる。最後に、光学素子偏心量計算工程により、基準軸に対する光学素子の偏心量を求める。これにより、第2の枠体と光学素子との相対的な位置関係を知ることができる。この結果、本発明によれば、被検面である光学素子の形状誤差に関わらず、高精度に偏心量を測定できるという効果を奏する。
【0019】
また、第3の本発明によれば、第1の位置関係測定工程により、基準物と光学素子との相対的な位置関係を求めることができる。さらに、第2の位置関係測定工程により、基準物と枠体との相対的な位置関係を求めることができる。そして、偏心量計算工程により、光学素子の枠体に対する偏心量を計算できる。この結果、本発明によれば、被検面である光学素子の形状誤差に関わらず、高精度に偏心量を測定できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明に係る鏡枠及び3次元形状測定方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の実施例1に係る鏡枠10の断面構成を示す。鏡枠10は、例えば、ズーム機能とフォーカス機能とを有するカメラ用の撮像光学系である。このように、「鏡枠」とは、光学素子と、この光学素子を保持する機構とを含めた、いわゆる鏡筒全体の構成をいう。鏡枠10は、移動枠130と固定枠140とから構成されている。固定枠140の端部には、マウント140dが形成されている。固定枠140は、マウント140dを介して、取り付け部160に固着されている。また、移動枠130は、駆動機構(不図示)により、固定枠140に対して光軸(Z軸)に沿った方向に移動可能に支持されている。なお、固定枠140と取り付け部160とが第2の枠体に対応する。
【0022】
また、図1において、鏡枠10の設計上の光軸方向をZ軸と、Z軸と直交する方向をX軸と、Z軸とX軸とにそれぞれ直交する方向をY軸とする。さらに、Z軸を回転中心とした回転方向をθ軸とする。取り付け部160と固定枠140とは一体となって、Z軸と平行な基準軸160aを回転中心として、回転駆動部(不図示)によりθ方向に回転可能である。簡単のため、基準軸160aと光軸とは一致したものとして扱う。なお、取り付け部160は、任意の位置で回転動作を停止できる。さらに、ロータリーエンコーダ(不図示)は、取り付け部160と固定枠140とのθ方向の回転角度θを出力する。
【0023】
また、移動枠130の内側には、光学素子である3つのレンズ100、110、120が配置されている。まず、レンズ100について説明する。図3−1は、レンズ100を保持する断面構成を示す。また、図3−2は、レンズ100を基準軸160aの方向から見た正面構成を示す。図3−1において、レンズ100の表面100aと、裏面100bとは、それぞれ球面または非球面である。レンズ100は、レンズ枠100cの内周部に保持されている。レンズ枠100cは第1の枠体に対応する。また、図3−2に示すように、レンズ枠100cの外周部には、基準物である少なくとも3つの球100d、100e、100fが略等間隔に形成されている。さらに、3つの球100d、100e、100fの間には、それぞれ3つのカムピン100gが形成されている。3つの球100d、100e、100fは、それぞれ高い真球度を有する球の形状、または高い真球度の球体の一部、例えば半球の形状である。3つの球100d、100e、100fは、それぞれ接着等によりレンズ枠100cに直接固定する構成、またはネジ等により着脱可能な状態で取り付ける構成とすることができる。さらに、レンズ枠100cが成形品のときは、3つの球100d、100e、100fも同時に一体で成形してもよい。
【0024】
図1に示すように、レンズ110も、レンズ100と同様に、表面110aと裏面110bとが球面または非球面からなるレンズである。そして、レンズ110は、レンズ枠110cの内周部に保持されている。レンズ枠110cは第1の枠体に対応する。また、レンズ枠110cの外周部には、基準物である少なくとも3つの球110d、110e、110fが略等間隔に形成されている。図1では、球110dのみを示し、他の2つの球は省略する。さらに、3つの球110d、110e、110fの間には、それぞれ3つのカムピン110gが形成されている。
【0025】
レンズ120も、レンズ100と同様に、表面120aと裏面120bとが球面または非球面からなるレンズである。そして、レンズ120は、レンズ枠120cの内周部に保持されている。レンズ枠120cは第1の枠体に対応する。また、レンズ枠120cの外周部には、基準物である少なくとも3つの球120d、120e、120fが略等間隔に形成されている。図1では、球120dのみを示し、他の2つの球は省略する。さらに、3つの球120d、120e、120fの間には、それぞれ3つのカムピン120gが形成されている。
【0026】
図1を用いて、さらに説明を続ける。移動枠130の内周部には、螺旋状または直線状のカム溝130a、130bが形成されている。同様に、固定枠140の内周部にもカム溝140aが形成されている。レンズ100のカムピン100gの先端と、レンズ110のカムピン110gの先端とは、それぞれ移動枠130のカム溝130aとカム溝130bに係合している。またレンズ120のカムピン120gの先端は、固定枠140のカム溝140aに係合している。鏡枠10内の駆動機構(不図示)により、カムピンとカム溝の組み合わせ等からなる既知の方法により、レンズ100、110、120はそれぞれ鏡枠10内の所定位置に光軸方向(基準軸160a)に沿って移動する。これにより、ズーミング(変倍動作)とフォーカシング(合焦動作)とを行なうことができる。従って、ズーミングやフォーカシングによる異なるレンズ位置における偏心量を測定できるという効果を奏する。
【0027】
さらに、移動枠130には、所定位置に配置されたレンズ100の3つの球100d、100e、100fと対向する位置に、それぞれ3つの開口部130cが形成されている。図1では、1つの開口部130cのみを示し、他の2つの開口部の図示は省略する。また、レンズ110の3つの球110d、110e、110fと対向する位置に3つの開口部130fが形成されている。図1では、1つの開口部130fのみを示し、他の2つの開口部の図示は省略する。
【0028】
また、固定枠140には、レンズ110の3つの球110d、110e、110fと対向する位置に、それぞれ3つの開口部140bが形成されている。さらに、固定枠140には、レンズ120の3つの球120d、120e、120fと対向する位置に、それぞれ3つの開口部140eが形成されている。
【0029】
次に、上述の鏡枠10を用いた偏心測定方法の手順を説明する。図6は、本実施例に係る偏心測定方法の手順を示すフローチャートである。まず、ステップS601からステップS605までの手順では、レンズ枠100c、110c、120cを鏡枠10に組み込む前の、単体の状態で測定を行なう。次に、レンズ枠単体での測定後、レンズ枠100c、110c、120cを鏡枠10に組み込む。そして、ステップS606からステップS609までの手順において、鏡枠10に組み込まれた状態のレンズ枠100c、110c、120cの測定を行なう。
【0030】
レンズ枠100c、110c、120c単体での測定について説明する。なお、3つのレンズ枠100c、110c、120cのそれぞれについては、同一の測定手順を行なう。このため、レンズ枠100cを代表例にして説明をする。レンズ枠110c、120cについては重複するため説明を省略する。レンズ枠100c、110c、120cは、第1の枠体に対応する。
【0031】
まず、レンズ100の表面100aと裏面100bとの偏心測定を行う。レンズ100の表面100aと裏面100bとの偏心測定に関しては、接触式プローブを備える3次元形状測定機を用いる。3次元形状測定機を用いた形状測定の方法は、例えば、特開2000−46543号公報、及び特開2002−71344号公報に開示されている方法を用いる。例えば、3次元形状測定機は、レーザ測長光学系とプローブ170(図2参照)とを備えている。図3−1に示すXYZ座標系において、レーザ測長光学系とプローブとは、XステージとYステージとにより、X軸、Y軸方向に移動する。また、レンズ枠100cは、3次元形状測定機の定盤上に固定されている。プローブは、レンズ枠100cのレンズ100の表面100aに沿って、Z軸方向に移動する。レーザ測長光学系は、公知の干渉法によりプローブのZ座標方向の移動量を測定する。このように、3次元形状測定機は、測定する面上でプローブをX軸、Y軸方向に走査して、XY座標位置でのZ座標データ列を求める。そして、Z座標データの列に基づいて測定する面の形状測定を行なう。
【0032】
図6に戻って説明を続ける。ステップS601において、レンズ100の表面100aの有効範囲内全面の形状と、3つの球100d、100e、100fの表面形状とを同一の座標系で測定する。ステップS601は、第1の基準物位置測定工程と、光学素子形状測定工程とに対応する。ここで、球100d、100e、100fの表面とは、レンズ100の表面100aと同じ側から観察したときに、認識できる球100d、100e、100fの一部分の領域をいう。具体的には、レンズ100の表面100aを測定しているとき、球100dの表面は、球100dのうち表面100aと同じ側の半球部分である。球100d、100e、100fの大きさは、直径が0.5mm〜5mm程度の大きさである。なお、以下、全ての基準物としての球の大きさも同様である。
【0033】
ステップS602において、3つの球100d、100e、100fの表面の形状測定データに基づいて、各球の中心座標を算出する。ここで、高い真円度の球体によれば、その表面形状から中心座標(曲率中心位置)を正確に求めることができる。従って、基準物として、球または球の一部、例えば半球の形状を用いることで、その中心座標を容易かつ高精度に算出できるという効果を奏する。3つの球100d、100e、100fも真円度の高い球なので、本実施例でも高精度な座標測定ができる。次に、算出した3つの球の中心座標を用いて、図4−1に示すように、レンズ枠100cに関する表面測定座標系(X1a,Y1a,Z1a)を決定する。また、レンズ100の表面100aの形状測定データを、表面測定座標系(X1a,Y1a,Z1a)に座標変換する。そして、レンズ100の表面100aの形状及び法線ベクトル(xa,ya,za)を算出する。ステップS602は、表面100aに関する測定座標系計算工程に対応する。
【0034】
次に、図6のステップS603において、レンズ100の裏面100b側を表面100aと同様に測定する。このため、レンズ100を反転して3次元形状測定機のプローブに対向して裏面100bを配置する。レンズ100の裏面100bの有効範囲内全面の形状と、3つの球100d、100e、100fの裏面の形状を同一座標系で測定する。ステップS603は、第1の基準物位置測定工程と、光学素子形状測定工程とに対応する。ここで、球100d、100e、100fの裏面とは、レンズ100の裏面100bと同じ側から観察したときに、認識できる球100d、100e、100fの一部分の領域をいう。例えば、レンズ100の裏面100bを測定しているとき、球100dの裏面は、球100dのうち裏面100bと同じ側の半球部分である。
【0035】
ステップS604において、測定した3つの球100d、100e、100fの裏面(ステップS601で測定した面と反対側の面)の形状測定データに基づいて、各球の中心座標を算出する。次に、算出した3つの球の中心座標を用いて、図4−2に示すように、裏面測定座標系(X1b,Y1b,Z1b)を決定する。また、レンズ100の裏面100bの形状測定データを、裏面測定座標系(X1b,Y1b,Z1b)に座標変換する。そして、レンズ100の裏面100bの形状及び法線ベクトル(xb,yb,zb)を算出する。ステップS604は、裏面100bに関する測定座標系計算工程に対応する。
【0036】
3つの球100d、100e、100fは、それぞれ高い真球度を有している。このため、表面の中心位置と裏面の中心位置とは各々一致する。そして、ステップS605において、ステップS602とステップS604とで算出したデータを用いて、図4−3に示すように、表面測定座標系と裏面測定座標系とを同一座標系(X1,Y1,Z1)に座標変換する。この座標系(X1,Y1,Z1)において、レンズ100の表面100aの形状及び法線ベクトル(Xa,Ya,Za)と、裏面100bの形状及び法線ベクトル(Xb,Yb,Zb)の位置関係を算出する。これにより、3つの球100d、100e、100fで定まる座標系(X1,Y1,Z1)に対するレンズ100の表面100aと裏面100bとの相対的な位置関係、即ち偏心量を求めることができる。ステップS605は、座標変換計算工程に対応する。
【0037】
レンズ枠110cと、レンズ枠120cとについても、それぞれレンズ110、120を保持した状態で、レンズ枠100cと同一の手順でステップS601〜S605までの測定を行なう。これにより、3つのレンズ100、110、120に関して、それぞれレンズ枠100c、110c、120cにおける相対的な位置関係を計算できる。
【0038】
次に、ステップS606において、3つのレンズ枠100c、110c、120cを鏡枠10内に組み込こむ。これにより、鏡枠10は、図1に示すような、撮像光学系としての構成となる。ステップS606は、支持工程に対応する。また、以下のステップS607〜S609においても、上述した接触式のプローブを有する3次元形状測定機を用いる。
【0039】
ステップS607において、レンズ100、110、120をそれぞれ保持しているレンズ枠100c、110c、120cの基準物である球を測定する。ステップS607は、第2の基準物位置測定工程に対応する。なお、3つのレンズ枠100c、110c、120cのそれぞれについては、同一の測定手順を行なう。
【0040】
図2は、レンズ枠100cに関する測定を行なうときの、レンズ枠100c近傍の構成を示す。固定枠140及び取り付け部160等の構成の図示は省略する。レンズ枠100cの球100dの外周面が、3次元形状測定機(不図示)のプローブ170に対向するように、取り付け部160(図1参照)をθ方向に回転する。球100dに対向する移動枠130の位置には、開口部130cが形成されている。同様に、残りの2つの球100e、100fに対向する移動枠130の位置にも、それぞれ開口部(不図示)が形成されている。このように、移動枠130(第2の枠体に対応)に開口部を設けることで、接触式の3次元形状測定機を用いることができるという効果を奏する。
【0041】
次に、3次元形状測定機のプローブ170のスタイラス170aを、移動枠130の開口部130cを通して、球100dの表面に接触させる。そして、プローブ170をXY座標面内で走査すると共に、球100dの形状に沿ってZ軸方向に移動させる。スタイラス170aの移動量は、レーザ測長光学系(不図示)により測定される。これにより、球100dの外周面の形状を測定する。
【0042】
その後、レンズ100の他の球100eがプローブ170に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回りに回転させる。そして、移動枠130の他の開口部(不図示)を通して、プローブ170により第2の球100eの外周面の形状を測定する。さらに、レンズ100の他の球100fがプローブ170に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回りに回転させる。そして、移動枠130のさらに他の開口部(不図示)を通して、プローブ170により第3の球100fの外周面の形状を測定する。ここで、球100d、100e、100fの外周面とは、基準軸160aと直交し、球100d、100e、100fの中心を通る半径方向の外側から見える球100d、100e、100fの一部分の表面領域をいう。
【0043】
スタイラス170aが接触する領域の大きさを説明する。図10は、球100dを拡大して示す。レンズ枠100c(基準軸160a)に略垂直であり、球100dの中心CTを通る軸XGを考える。軸XGを基準として中心CTを見込む角度θSが、20°≦θS≦45°の条件を満足することが望ましい。このような領域をスタイラス170aで測定することで、中心CTの位置を高精度に算出できる。
【0044】
図1に戻って説明を続ける。レンズ100の3つの球100d、100e、100fの外周面の形状測定に続けて、次に、第2のレンズ枠110cの3つの球110d、110e、110f(110e、110fの2つは不図示)の外周形状を測定する。球110dに対向する移動枠130の位置には、開口部130f(他の2つの開口部は不図示)が形成されている。同様に、球110dに対向する固定枠140の位置には、開口部140b(他の2つの開口部は不図示)が形成されている。そして、固定枠140の開口部140bと、移動枠130の開口部130fとを通して、プローブ170により第1の球110dの外周面の形状を測定する。
【0045】
その後、レンズ110の第2の球110e(不図示)がプローブ170に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回りに回転させる。そして、固定枠140と移動枠130との他の開口部(不図示)を通して、プローブ170により第2の球110eの外周面の形状を測定する。さらに、レンズ110の第3の球110f(不図示)がプローブ170に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回りに回転させる。そして、固定枠140と移動枠130とのさらに他の開口部(不図示)を通して、プローブ170により第3の球110fの外周面の形状を測定する。
【0046】
レンズ110の3つの球110d等の外周面の形状測定に続けて、次に、第3のレンズ枠120cの3つの球120d、120e、120f(120e、120fの2つは不図示)の外周形状を測定する。球120dに対向する固定枠140の位置には、開口部140e(他の2つの開口部は不図示)が形成されている。そして、固定枠140の開口部140eを通して、プローブ170により第1の球120dの外周面の形状を測定する。
【0047】
その後、レンズ120の第2の球120e(不図示)がプローブ170に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回りに回転させる。そして、固定枠140の他の開口部(不図示)を通して、プローブ170により第2の球120eの外周面の形状を測定する。さらに、レンズ120の第3の球120f(不図示)がプローブ170に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回りに回転させる。そして、固定枠140のさらに他の開口部(不図示)を通して、プローブ170により第3の球120fの外周面の形状を測定する。
【0048】
ステップS608において、ステップS607で測定したレンズ100の3つの球100d、100e、100fの外周面の形状測定データから、各球の中心座標を算出する。そして、算出した3つの球100d、100e、100fの中心座標を用いて、図5に示すように、基準軸160aとθ軸とで定まる測定座標系(X,Y,Z)に対する、レンズ100の3つの球100d、100e、100fで定まる座標系(X1,Y1,Z1)の偏心量を算出する。ステップS608は、第1枠体偏心量計算工程に対応する。
【0049】
同様に、測定座標系(X,Y,Z)に対するレンズ110の3つの球110d等で定まる座標系(X2,Y2,Z2)の偏心量を算出する。さらに、測定座標系(X,Y,Z)に対するレンズ120の3つの球120d等で定まる座標系(X3,Y3,Z3)の偏心量を算出する。
【0050】
ここで、各レンズ100、110、120の3つの球は、それぞれ高い真球度を有している。このため、表面の中心位置と、裏面の中心位置と、外周面の中心位置とは、各々一致する。上述したように、ステップS605において、座標系(X1,Y1,Z1)上でのレンズ100の表面100aと裏面100bとの偏心量が求められている。さらに、ステップS608において、測定座標系(X,Y,Z)上での座標系(X1,Y1,Z1)の偏心量が求められている。これにより、ステップ609において、測定座標系(X,Y,Z)に対するレンズ100の表面100aと裏面100bとの偏心量を算出できる。ステップS609は、光学素子偏心量計算工程に対応する。レンズ100と同様にして、測定座標系(X,Y,Z)上での、レンズ110の表面110aと裏面110bとの偏心量を算出できる。さらに、レンズ100と同様にして、測定座標系(X,Y,Z)上での、レンズ120の表面120aと裏面120bとの偏心量を算出できる。
【0051】
本実施例によれば、鏡枠10内の所定位置に配置されたレンズ100、110、120の偏心量(被検面の形状及び法線ベクトル)を、各レンズ面の有効範囲全面の形状測定データから求めている。このため、レンズ面に形状誤差が存在しているときでも、この形状誤差も含めたレンズ面の形状測定データを得ることができる。そして、レンズ面の形状測定データから法線ベクトルを求めることができる。従って、レンズ面に形状誤差が存在していても、その形状誤差に影響されることなく、形状誤差を加味した上で偏心量を算出できる。なお、レンズ面の形状は、球面及び非球面のいずれもでも良い。
【0052】
また、本実施例では、レンズ100、110、120の単体での表面と裏面との偏心測定(ステップS601〜S605)と、鏡枠10内の所定位置に保持された各レンズ100、110、120間の偏心測定(ステップS606〜S609)とを同一の3次元形状測定機で行っている。このため、1台の3次元形状測定機を用いれば良い。この結果、複数の新たな3次元形状測定機を必要としないので簡便な構成で済む。
【実施例2】
【0053】
図7は、本発明の実施例2において、レンズ枠100cに関する測定を行なうときの、レンズ枠100c近傍の構成を示す。固定枠140及び取り付け部160等の構成の図示は省略する。上記実施例1では、接触式のプローブ170を用いてレンズや基準物の表面形状を測定している。これに対して、本実施例では、非接触式のレーザ干渉計により基準物の位置を測定する点が異なる。上記実施例1と同一の部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0054】
レーザ光源(不図示)を備える干渉計180は、収束光である測定光180aを球100dに照射する。球100dからの反射光(測定光)と、参照光とにより生ずる干渉縞を検出器(不図示)で検出する。参照光は、干渉計180内の参照面からの反射光である。参照面は高い面精度を有する。測定光180aの集光位置についてさらに説明する。
【0055】
図11は、球100d近傍の拡大図である。球100d等の表面は、干渉計180内の参照面と同程度の曲率半径を有することが望ましい。このため、球100d等の反射率が参照面の反射率と大きく異なる場合は、反射防止膜あるいは反射膜を、球100d等の表面に形成することが望ましい。測定光は2通りの集光位置が考えられる。1番目の集光位置は、いわゆるキャッツアイ・ポイントCEである。2番目の集光位置は球100dの曲率中心位置CTである。測定光L1は、キャッツアイ・ポイントCEへ集光する状態を示す。測定光L2は、曲率中心CTへ集光する状態を示す。ここで、測定光はキャッツアイ・ポイントCEへ集光させるときに比較して曲率中心位置CT(中心座標)へ集光させるほうが測定感度が高い。従って、好ましくは、測定光L2のような曲率中心位置CTへ収束する光を球100dに照射することが望ましい。
【0056】
測定光180aの集光点と、高い真球度を有する球100dの曲率中心とが正確に一致すると、検出される干渉縞が最も少ない状態、即ち縞一色のヌル状態になる。これに対して、測定光180aの集光点と球100dの曲率中心とがずれていると、ずれ量に応じた干渉縞が測定される。干渉計180は、図7におけるZ座標方向とX座標方向とに移動可能に構成されている。干渉計180を移動させながら、干渉縞の変化の様子を検出する。そして、干渉縞がヌル状態となったときの干渉計180の位置を測定する。これにより、干渉計180と球100dとの相対的な位置関係を算出できる。
【0057】
次に、本実施例に係る偏心測定方法を説明する。ステップS601〜S606までの測定手順は、上記実施例1と同一である。つまり、レンズ枠100c、110c、120cを鏡枠10へ組み込む前の状態で、3次元形状測定機により、レンズ枠100cに関して、保持されているレンズ100と球100d、100e、100fとの表面を測定する。レンズ枠110c、120cに関しても同様の測定を行なう。次に、3つのレンズ枠100c、110c、120cを鏡枠10に組み込む。
【0058】
ステップS607において、図7に示すように、レンズ100の球100dの外周面が干渉計180に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回り(θ方向)に回転する。この状態で、干渉計180の測定光180aを、移動枠130の開口部130cを通して、球100dの外周面に照射する。干渉計180をX軸方向とZ軸方向に移動すると共に、取り付け部160をθ方向に回転させる。そして、球100dの外周面での反射光による干渉縞が最も少なくなるように、干渉計180の位置および取り付け部160の回転角度θを微調整する。上述したように、この状態では干渉計180からの測定光の集光位置と、球100dの曲率中心位置CTとが一致している。
【0059】
このときの干渉計180の(X,Z)座標と取り付け部160のθ座標とを測定する。干渉計180の(X,Z)座標と取り付け部160のθ座標とは、球100dの曲率中心位置CTの座標に対応する。次に、レンズ100の第2の球100eが干渉計180に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回り(θ方向)に回転させる。そして、移動枠130の他の開口部(不図示)を通して、球100eの外周面での反射光による干渉測定を行なう。このとき、検出される干渉縞が最も少なくなるように、干渉計180の位置と取り付け部160の回転角度とを微調整する。そして、球100eの曲率中心位置CTの座標を測定する。
【0060】
さらに、レンズ100の第3の球100fが干渉計180に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回り(θ方向)に回転させる。そして、干渉計180からの測定光180aを、移動枠130のさらに他の開口部(不図示)を通して、球100fの外周面からの反射光による干渉測定を行なう。このとき、検出される干渉縞が最も少なくなるように、干渉計180の位置と取り付け部160の回転角度とを微調整する。そして、球100fの曲率中心位置CTの座標を測定する。
【0061】
ここで、球100d、100e、100fの外周面とは、基準軸160aと直交し、球100d、100e、100fの中心を通る半径方向の外側から見える球100d、100e、100fの一部分の表面領域をいう。
【0062】
第1のレンズ枠100cの3つの球100d、100e、100fの曲率中心位置の測定に続いて、第2のレンズ枠110cについて測定を行なう。図1に示すように、第2のレンズ枠110cに関して、固定枠140の開口部140bと移動枠130の開口部130fとを通して、干渉計180により球110dの曲率中心位置の座標を干渉測定する。第2のレンズ枠110cの他の2つの球に関しても同様に干渉測定を行なって、それぞれの曲率中心位置の座標を測定する。
【0063】
さらに、第3のレンズ枠120cに関して、固定枠140の開口部140eを通して、干渉計180により測定を行う。この測定では、レンズ120の球120dについて、その曲率中心位置の座標を干渉測定する。また、他の2つの球に関しても同様の干渉測定により、それぞれの曲率中心位置の座標を測定する。
【0064】
そして、ステップS608において、実施例1と同様に、ステップS607で測定したレンズ100の3つの球100d、100e、100fの中心座標データを用いて、図5に示すように、基準軸160aとθ軸とで定まる測定座標系(X,Y,Z)に対する、レンズ100の3つの球100d、100e、100fで定まる座標系(X1,Y1,Z1)の偏心量を算出する。
【0065】
同様に、測定座標系(X,Y,Z)に対するレンズ110の3つの球110d等で定まる座標系(X2,Y2,Z2)の偏心量を算出する。さらに、測定座標系(X,Y,Z)に対するレンズ120の3つの球120d等で定まる座標系(X3,Y3,Z3)の偏心量を算出する。
【0066】
上述したように、ステップS605において、座標系(X1,Y1,Z1)上でのレンズ100の表面100aと裏面100bとの偏心量が求められている。さらに、ステップS608において、測定座標系(X,Y,Z)上での座標系(X1,Y1,Z1)の偏心量が求められている。これにより、ステップ609において、測定座標系(X,Y,Z)に対するレンズ100の表面100aと裏面100bとの偏心量を算出できる。レンズ110、120についても同様である。
【0067】
本実施例によれば、各レンズ100、110,120間の偏心測定において、干渉計180により各球100d等の曲率中心位置を直接測定している。このため、基準物である球の外周面の形状を測定する必要がない。従って、上記実施例1に比較して、短い測定時間で偏心測定を行なうことができるという効果を奏する。
【0068】
また、本実施例では、取り付け部160の基準軸160aに対する各被検面の偏心を算出している。しかしながら、実施例1と同様に、偏心の定義はこれに限らない。例えば、干渉計180の移動軸(X軸およびZ軸)で規定される座標系に対する各レンズ面の偏心量を算出しても良い。さらに、本実施例では、取り付け部160により鏡枠10をθ方向に回転させている。しかしながら、これに限られず、干渉計180を、基準軸160aの回りにθ方向に回転させること、または鏡枠10と干渉計180との両方を相対的にθ方向に回転させることのいずれでも、本実施例と同様の偏心測定が可能である。
【0069】
(変形例)
次に、本実施例の変形例を説明する。図8は、変形例における移動枠130をX軸方向から見た図である。図8において、干渉計180は省略する。移動枠130内のレンズ100は、移動機構(不図示)により、レンズ枠100cの3つのカムピン100gが、移動枠130のカム溝130aに沿って移動できる。これにより、レンズ100は、移動枠130内を回転しながら光軸方向に移動する。このとき、レンズ枠100cの球100dは、図8に示す矢印の方向に螺旋状に移動する。移動枠130の開口部130cは、球100dの移動範囲に合わせた螺旋状の長穴として構成する。移動枠130の他の2つの開口部(不図示)についても同様の螺旋状の長穴とする。そして、レンズ100の他の2つの球に対応する位置に、それぞれ別の干渉計を配置する。このように、本変形例では、合計3台の干渉計を用いる。
【0070】
そして、移動枠130に対してレンズ100を移動させる。レンズの移動に合わせて、3台の干渉計の位置と取り付け部160の回転角度とを調整する。ここで、レンズ100が移動しているときの3つの球100d、100e、100fの位置を、それぞれ3台の干渉計により連続して干渉測定する。これにより、レンズ100の移動に伴う偏心量の変化を連続的に逐次測定することが可能となる。
【0071】
また、レンズ100が移動枠130内を光軸方向に沿って直線状に移動するときは、移動枠130に形成する開口部130c等の形状も光軸方向に沿って長手方向を有する長穴とする。これにより、レンズ100の移動に伴う偏心量の変化を連続的に逐次測定することが可能となる。以上説明したように、本変形例では、鏡枠10内の所定位置に配置された各レンズに関して、鏡枠10内での移動に伴う偏心量の変化を連続的に逐次測定できるという効果を奏する。
【実施例3】
【0072】
図9は、本発明の実施例3において、レンズ枠100cに関する測定を行なうときの、レンズ枠100c近傍の構成を示す。固定枠140及び取り付け部160等の構成の図示は省略する。上記実施例1では、接触式のプローブ170を用いてレンズや基準物の表面形状を測定している。これに対して、本実施例では、非接触式の磁気センサ190により基準物の位置を測定する点が異なる。上記実施例1と同一の部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0073】
本実施例では、各レンズ枠100c、110c、120cの外周に設けた基準物である3つの球は、磁性体、例えば磁石で構成されている。本実施例では、ステップS607において、3次元形状測定機のプローブ170(図2)の代わりに、磁気センサ190を用いている。磁気センサ190は、磁界の強さを検出する。磁界の強さは、磁石で構成される球100dと磁気センサ190との距離に対応する。このため、磁気センサ190は、球100dとの距離を検出できる。また、磁気センサ190は、X軸方向とZ軸方向とに移動可能に構成されている。
【0074】
次に、本実施例に係る偏心測定方法を説明する。ステップS601〜S606までの測定手順は、上記実施例1と同一である。つまり、レンズ枠100c、110c、120cを鏡枠10へ組み込む前の状態で、3次元形状測定機により、レンズ枠100cに関して、保持されているレンズ100と球100d、100e、100fとの表面を測定する。レンズ枠110c、120cに関しても同様の測定を行なう。次に、3つのレンズ枠100c、110c、120cを鏡枠10に組み込む。
【0075】
ステップS607において、図9に示すように、レンズ100の球100dの外周面が、磁気センサ190に対向するように取り付け部160を基準軸160aの回り(θ方向)に回転する。この状態で、磁気センサ190をZ軸方向に移動すると共に、取り付け部160をθ方向に回転させる。そして、磁気センサ190により検出される磁界の強さが最大となるように、磁気センサ190の位置および取り付け部160の回転角度θを微調整する。このときの磁気センサ190のZ座標と磁界の強さ、及び取り付け部180のθ座標を測定する。
【0076】
磁気センサ190のZ座標と取り付け部160のθ座標とは、基準軸160aに対する球100dの方向に対応している。また、磁界の強さは、磁気センサ190と球100dとの距離に対応している。その後、レンズ100の第2の球100eが磁気センサ190に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回りのθ方向に回転させる。磁気センサ190により検出される磁界の強さが最大となるように、磁気センサ190のZ軸方向の位置および取り付け部16の回転角度を微調整する。そして、球100eの位置の座標を測定する。
【0077】
さらに、レンズ100の第3の球100fが磁気センサ190に対向するように、取り付け部160を基準軸160aの回りのθ方向に回転させる。そして、磁気センサ190により検出される磁界の強さが最大となるように、磁気センサ190のZ軸方向の位置および取り付け部160の回転角度θを微調整する。そして、球100fの位置の座標を測定する。
【0078】
第1のレンズ枠100cの3つの球100d、100e、100fの位置座標の測定に続いて、第2のレンズ枠110cについての測定を行なう。第2のレンズ枠110cに関して、磁気センサ190により球110dの位置座標を非接触で測定する。第2のレンズ枠110cの他の2つの球に関しても同様に非接触で測定を行なって、それぞれの位置座標を測定する。
【0079】
さらに、第3のレンズ枠120cに関して、磁気センサ190によりレンズ120の球120dを非接触で測定する。また、他の2つの球に関しても同様の非接触測定により、それぞれの位置座標を測定する。
【0080】
そして、ステップS608において、実施例1と同様に、ステップS607で測定したレンズ100の3つの球100d、100e、100fの位置座標データを用いて、図5に示すように、基準軸160aとθ軸とで定まる測定座標系(X,Y,Z)に対する、レンズ100の3つの球100d、100e、100fで定まる座標系(X1,Y1,Z1)の偏心量を算出する。
【0081】
同様に、測定座標系(X,Y,Z)に対するレンズ110の3つの球110d等で定まる座標系(X2,Y2,Z2)の偏心量を算出する。さらに、測定座標系(X,Y,Z)に対するレンズ120の3つの球120d等で定まる座標系(X3,Y3,Z3)の偏心量を算出する。
【0082】
上述したように、ステップS605において、座標系(X1,Y1,Z1)上でのレンズ100の表面100aと裏面100bとの偏心量が求められている。さらに、ステップS608において、測定座標系(X,Y,Z)上での座標系(X1,Y1,Z1)の偏心量が求められている。これにより、ステップ609において、測定座標系(X,Y,Z)に対するレンズ100の表面100aと裏面100bとの偏心量を算出できる。
【0083】
本実施例によれば、各レンズ100、110、120間の偏心測定において、鏡枠10を透過して磁気センサ190により各球の位置を測定している。このため、鏡枠10を構成する移動枠130や固定枠140に偏心測定用の開口部を設ける必要がない。従って、鏡枠10を製造する工程を簡素化できるという効果を奏する。
【0084】
なお、本発明は上述したようなカム構成を有する鏡枠10に限られない。例えば、鏡枠は、固定枠に対してレンズを固着する固定焦点光学系の構成とすることもできる。このときは、組み込んだ状態の固定焦点光学系の偏心量を測定できるという効果を奏する。
【0085】
上記各実施例では、基準物として各レンズ100、110、120に対して、それぞれ3つの球をレンズ枠100c、110c、120cの外周に設けている。しかしながら、これに限られず、1つのレンズ枠に対して4つ以上の球を設けても良い。基準物である球の数を増やすことで、複数の基準物により測定データを平均化できる。この結果、各座標系の決定の精度をさらに向上させることができる。
【0086】
また、基準物は、球または球の一部に限られない。例えば、3次元形状測定機により測定できる形状であり、かつ基準物の表面と裏面と外周面との形状が既知であれば、基準物の形状は問わない。例えば、基準物は、トーリック面からなるラグビーボール状の形状を有していても良い。
【0087】
また、上記各実施例では、鏡枠10は3枚のレンズ100、110、120を保持している。しかしながら、レンズの枚数はこれに限定されることなく、何枚で構成されていても良い。また、レンズ面は、球面、非球面に加えて自由曲面でも良い。さらに、レンズとは異なる光学素子、例えば、プリズム、ミラー等を備える光学系でも、本実施例と同様に測定できる。加えて、必ずしも鏡枠10を構成する全ての光学素子に関して偏心測定を行う必要はない。例えば、偏心の影響の寄与度が大きい光学素子だけ偏心測定を行うこともできる。
【0088】
なお、上記各実施例では、取り付け部160の基準軸160a、即ち固定枠140に対する各レンズ100、110、120の偏心量を算出している。しかしながら、偏心の定義はこれに限られない。例えば、3次元形状測定機が有する座標系に対して各レンズ面の偏心量を算出しても良い。また、最適軸に対する各レンズ面の偏心量を算出することもできる。最適軸としては、各レンズ面の偏心量の自乗和が最小となるような軸を用いることが望ましい。
【0089】
さらに、基準物の数を4つ以上に増加させても良いことを述べたが、これとは反対に、2つ以下に減らしても良い。図12−1、12−2は、基準物である球の数を上記各実施例に比較して減らしたときの構成例を示す。図12−1において、レンズ枠100cは、外周に1つの球100dを備えている。また、図12−2において、レンズ枠100cは、外周に2つの球100d、100eを備えている。なお、図12−1、12−2において、カムピンの記載は省略する。例えば、レンズ枠100c、110c、120cと、各レンズ100、110、120との相対的な位置関係が予め既知の場合がある。この場合は、基準軸と各レンズ100、110、120との相対的な位置関係だけを求めればよい。このようなときは、各レンズ枠に対して1つの球または2つの球を形成しておくことで、各レンズ面の偏心量を算出できる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形例をとることができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上のように、本発明は、偏心測定方法、特に被検面の形状誤差に関わらず、常に高精度に偏心量を測定する偏心測定方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施例1に係る鏡枠の断面構成を示す図である。
【図2】実施例1のレンズ枠近傍の構成を示す図である。
【図3−1】レンズ枠単体の断面構成を示す図である。
【図3−2】レンズ枠単体の正面構成を示す図である。
【図4−1】レンズ表面の形状測定に関する座標系を示す図である。
【図4−2】レンズ裏面の形状測定に関する座標系を示す図である。
【図4−3】レンズの表面と裏面との座標系を示す図である。
【図5】レンズ枠を鏡枠に組み込んだ状態における各レンズ枠の座標系を示す図である。
【図6】実施例1における偏心測定手順を示すフローチャートである。
【図7】実施例2のレンズ枠近傍の構成を示す図である。
【図8】実施例2の変形例のレンズ枠近傍の構成を示す図である。
【図9】実施例3のレンズ枠近傍の構成を示す図である。
【図10】実施例1の球の近傍を示す拡大図である。
【図11】実施例2の球の近傍を示す拡大図である。
【図12−1】基準物の配置の変形例を示す図である。
【図12−2】基準物の配置の他の変形例を示す図である。
【図13】従来技術の偏心測定方法の原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0092】
100、110、120 レンズ
100a、110a、120a 表面
100b、110b、120b 裏面
100c、110c、120c レンズ枠
100d、110d、120d 第1の球
100e、110e、120e 第2の球
100f、110f、120f 第3の球
100g カムピン
130 移動枠
130a カム溝
130b カム溝
130c 開口部
130f 開口部
140 固定枠
140a カム溝
140b 開口部
140e 開口部
160 取り付け部
160a 基準軸
170 プローブ
170a スタイラス
180 干渉計
180a 測定光
190 磁気センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子を保持し、少なくとも3つの基準物を備える第1の枠体と、
前記第1の枠体を支持する第2の枠体とからなることを特徴とする鏡枠。
【請求項2】
前記基準物は、球または半球の形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の鏡枠。
【請求項3】
前記第2の枠体は、前記第1の枠体が備える前記基準物と対向する位置に開口部を有していることを特徴とする請求項2に記載の鏡枠。
【請求項4】
前記第2の枠体は、複数の前記第1の枠体を支持することを特徴とする請求項1に記載の鏡枠。
【請求項5】
前記第1の枠体の外周部に形成されているカムピンと、
前記第2の枠体の内周部に形成されているカム溝とをさらに有し、
前記第1の枠体は、前記第2の枠体に対して前記光学素子の光軸に沿った方向に移動可能に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の鏡枠。
【請求項6】
前記第1の枠体は、前記第2の枠体に対して固着されていることを特徴とする請求項1に記載の鏡枠。
【請求項7】
第1の枠体が備える少なくとも3つの基準物の位置を測定する第1の基準物位置測定工程と、
前記第1の枠体が保持する光学素子の所定面の形状を測定する光学素子形状測定工程と、
前記第1の基準物位置測定工程の測定結果に基づいて前記第1の枠体に関する測定座標系の位置を計算する測定座標系計算工程と、
前記光学素子形状測定工程の測定結果を前記測定座標系に座標変換する座標変換計算工程と、
第2の枠体により前記第1の枠体を支持する支持工程と、
支持されている前記第1の枠体の前記基準物の位置を測定する第2の基準物位置測定工程と、
前記第2の基準物位置測定工程の測定結果に基づいて前記第1の枠体の基準軸に対する偏心量を算出する第1枠体偏心量計算工程と、
前記基準軸に対する前記光学素子の偏心量を計算する光学素子偏心量計算工程とを有することを特徴とする偏心測定方法。
【請求項8】
前記基準軸は、前記第2の枠体により定められることを特徴とする請求項7に記載の偏心測定方法。
【請求項9】
前記基準物は、球または半球の形状を有していることを特徴とする請求項7に記載の偏心測定方法。
【請求項10】
第2の基準物位置測定工程は、前記第2の枠体を所定軸の回りに回転して前記基準物の位置を測定することを特徴とする請求項7に記載の偏心測定方法。
【請求項11】
前記第1の基準物位置測定工程と前記第2の基準物位置測定工程とにおいて、プローブを前記基準物に接触させて前記基準物の中心位置を測定することを特徴とする請求項7に記載の偏心測定方法。
【請求項12】
前記第2の基準物位置測定工程において、干渉計により前記基準物に測定光を照射して前記基準物の中心位置を測定することを特徴とする請求項7に記載の偏心測定方法。
【請求項13】
前記基準物は磁性体で構成されており、
前記第2の基準物位置測定工程において、磁気センサにより前記基準物の位置を測定することを特徴とする請求項7に記載の偏心測定方法。
【請求項14】
少なくとも3つの基準物と光学素子との位置関係を測定する第1の位置関係測定工程と、
前記基準物と枠体との位置関係を測定する第2の位置関係測定工程と、
前記第1の位置関係測定工程の測定結果と前記第2の位置関係測定工程の測定結果とに基づいて、前記光学素子の前記枠体に対する偏心量を計算する偏心量計算工程とを有することを特徴とする偏心測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−112811(P2006−112811A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297626(P2004−297626)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】