説明

閉鎖型溶融塩組電池

【課題】溶融塩組電池において、ヒータを加熱するための電気エネルギーを低減する構造を提供する。
【解決手段】本発明の閉鎖型溶融塩組電池は、溶融塩組電池B1と、溶融塩組電池B1を加熱するヒータ21と、溶融塩組電池B1の外面を覆う断熱材22と、これらを収容して閉鎖された箱体であって、内面が鏡面状である外箱20とを備えたものである。鏡面状とは例えば表面粗さが最大高さで2.5μm以下であること、であり、このような鏡面状の内面により、外箱20の内部に収容された溶融塩組電池B1、ヒータ21、断熱材22からの輻射熱の吸収を抑制し、これによって、外箱20から外部への熱輻射を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩を電解質とする電池の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー密度に優れた二次電池として、例えば、リチウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池、ニッケル水素電池が知られているが、近年、高いエネルギー密度に加えて、不燃性という強力な利点を持つ二次電池として、溶融塩を電解質とする溶融塩電池が開発され、注目されている(特許文献1及び非特許文献1参照。)。また、溶融塩電池の稼働温度領域は57℃〜190℃であり、これは、上記他の電池と比べて温度範囲が広い。そのため、排熱スペースや防火等の装備が不要であり、個々の素電池を高密度に集めて組電池を構成しても全体としては比較的コンパクトである、という利点がある。このような溶融塩組電池は、中規模電力網や家庭等での電力貯蔵用途の他、トラックやバス等の車載用途にも期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−67644号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「SEI WORLD」2011年3月号(VOL.402)、住友電気工業株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の溶融塩電池は、常温では動作しないので、加熱が必要である。加熱にはヒータが用いられ、ヒータに供給する電気エネルギーが必要となる。従って、この加熱のための電気エネルギーをいかに低く抑えるかが、溶融塩組電池の出力効率を高めるための重要課題となる。
かかる課題に鑑み、本発明は、溶融塩組電池において、加熱のための電気エネルギーを低減する構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の閉鎖型溶融塩組電池は、電解質として溶融塩を含む溶融塩電池本体を収容する電池容器を、複数個並べて構成された溶融塩組電池と、前記溶融塩組電池を加熱するヒータと、前記溶融塩組電池の外面を覆う断熱材と、内部に前記溶融塩組電池、前記ヒータ及び前記断熱材を収容して閉鎖された箱体であって、内面が鏡面状である外箱とを備えたものである。
上記のような閉鎖型溶融塩組電池では、外箱の鏡面状の内面により、外箱の内部に収容された溶融塩組電池、ヒータ、断熱材からの輻射熱の吸収を抑制する。これにより、外箱から外部への熱輻射を抑制することができる。
【0007】
(2)また、上記(1)の閉鎖型溶融塩組電池において、外箱の内面は、表面粗さが最大高さで2.5μm以下であることが好ましい。
この場合、内面が「鏡面状」であることを実用上十分に確保して、輻射熱の吸収を抑制することができる。なお、表面粗さが最大高さで2.5μmを超えると、輻射光が散乱して、外箱の材質自体に当たる確率が高くなる。そのため、輻射熱が外箱に吸収される割合が高くなる。
【0008】
(3)また、上記(1)又は(2)の閉鎖型溶融塩組電池において、外箱は、熱伝導率が250W・m−1・K−1以下であることが好ましい。
この場合、外箱の熱伝導率を比較的小さくすることができ、外箱の内部にこもる熱が、外箱自体に伝導しにくい。従って、外箱から外部への熱損失が抑制される。熱伝導率が当該数値を超えると、内部の熱が外箱に伝導し易くなり、外箱から外部への熱損失の割合が高くなる。なお、数値例を挙げると、ステンレスでは、16.7W・m−1・K−1程度の熱伝導率、アルミニウムでは、237W・m−1・K−1程度の熱伝導率であり、当該数値は250W・m−1・K−1以下という条件を満たしている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の閉鎖型溶融塩組電池によれば、加熱のための電気エネルギーを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】溶融塩電池における発電要素の基本構造を原理的に示す略図である。
【図2】溶融塩電池本体(電池としての本体部分)の積層構造を簡略に示す斜視図である。
【図3】溶融塩電池本体の構造についての横断面図である。
【図4】電池容器に収められた状態の溶融塩電池の外観の概略を示す斜視図である。
【図5】図4に示した電池容器の断面図(一部省略)である。
【図6】4つの溶融塩電池を連結し、かつ、電気的に直列に接続した状態を示す断面図である。
【図7】多数の溶融塩電池の集まりによって構成された溶融塩組電池の斜視図(一部破断)である。
【図8】図7におけるVIII−VIII線断面図である。
【図9】図7における外箱の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る閉鎖型溶融塩組電池について、図面を参照して説明する。
《溶融塩電池の基本構造》
まず、溶融塩電池の基本構造から説明する。
図1は、溶融塩電池における発電要素の基本構造を原理的に示す略図である。図において、発電要素は、正極1、負極2及びそれらの間に介在するセパレータ3を備えている。正極1は、正極集電体1aと、正極材1bとによって構成されている。負極2は、負極集電体2aと、負極材2bとによって構成されている。
【0012】
正極集電体1aの素材は、例えば、アルミニウム不織布(線径100μm、気孔率80%)である。正極材1bは、正極活物質としての例えばNaCrOと、アセチレンブラックと、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)と、N−メチル−2−ピロリドンとを、質量比85:10:5:50の割合で混練したものである。そして、このように混練したものを、アルミニウム不織布の正極集電体1aに充填し、乾燥後に、100MPaにてプレスし、正極1の厚みが約1mmとなるように形成される。
一方、負極2においては、アルミニウム製の負極集電体2a上に、負極活物質としての例えば錫を含むSn−Na合金が、メッキにより形成される。
【0013】
正極1及び負極2の間に介在するセパレータ3は、ガラスの不織布(厚さ200μm)に電解質としての溶融塩を含浸させたものである。この溶融塩は、例えば、NaFSA(ナトリウム ビスフルオロスルフォニルアミド)56mol%と、KFSA(カリウム ビスフルオロスルフォニルアミド)44mol%との混合物であり、融点は57℃である。融点以上の温度では、溶融塩は溶融し、高濃度のイオンが溶解した電解液となって、正極1及び負極2に触れている。また、この溶融塩は不燃性である。この溶融塩電池の稼働温度領域は57℃〜190℃であり、通常は、85℃〜95℃に温度を維持して使用される。
【0014】
なお、上述した各部の材質・成分や数値は好適な一例であるが、これらに限定されるものではない。
例えば、溶融塩としては、上記の他、LiFSA−KFSA−CsFSAの混合物も好適である。また、他の塩を混合する場合もあり(有機カチオン等)、一般には、溶融塩は、(a)NaFSA、又は、LiFSAを含む混合物、(b)NaTFSA、又は、LiTFSAを含む混合物、が適する。これらの場合、各混合物の溶融塩は、比較的低融点となるので、少ない加熱で溶融塩電池を作動させることができる。
【0015】
次に、より具体的な溶融塩電池の発電要素の構成について説明する。図2は、溶融塩電池本体(電池としての本体部分)10の積層構造を簡略に示す斜視図、図3は同様の構造についての横断面図である。
図2及び図3において、複数(図示しているのは6個)の矩形平板状の負極2と、袋状のセパレータ3に各々収容された複数(図示しているのは5個)の矩形平板状の正極1とが、互いに対向して図3における上下方向すなわち積層方向に重ね合わせられ、積層構造を成している。
【0016】
セパレータ3は、隣り合う正極1と負極2との間に介在しており、言い換えれば、セパレータ3を介して、正極1及び負極2が交互に積層されていることになる。実際に積層する数は、例えば、正極1が20個、負極2が21個、セパレータ3は「袋」としては20袋であるが、正極1・負極2間に介在する個数としては40個である。なお、セパレータ3は、袋状に限定されず、分離した40個であってもよい。
【0017】
なお、図3では、セパレータ3と負極2とが互いに離れているように描いているが、溶融塩電池の完成時には互いに密着する。正極1も、当然に、セパレータ3に密着している。また、正極1の縦方向及び横方向それぞれの寸法は、デンドライトの発生を防止するために、負極2の縦方向及び横方向の寸法より小さくしてあり、正極1の外縁が、セパレータ3を介して負極2の周縁部に対向するようになっている。
【0018】
《溶融塩電池の一形態》
上記のように構成された溶融塩電池本体10は、例えばアルミニウム合金製で直方体状の電池容器に収容され、素電池すなわち、電池としての物理的な一個体を成す。
図4は、このような電池容器11に収められた状態の溶融塩電池Bの外観の概略を示す斜視図である。図において、電池容器11は、直方体の上面を除く容器本体11mと、その上面に取り付けられる蓋部11tとによって、構成されている。電池容器11の両側面上部には、連結及び電気的接続のための孔11a及び11bが形成されている。また、通常は、電池容器11の上部には、内部の気圧が過度に上昇したときに放圧するための安全弁12が設けられている。但し、図5以降の図面では安全弁12の図示を省略する。なお、電池容器11の内面には絶縁処理が施されており、電池容器11は、内部の電解質と電気的に絶縁されている。
【0019】
図5は、図4に示した電池容器11の断面図である。溶融塩電池本体10の例えば正極には接続タブ4が取り付けられており、全ての接続タブ4が1つの接続部材6に接続されている。同様に、負極には接続タブ5が取り付けられており、全ての接続タブ5が1つの接続部材7に接続されている。各接続部材6,7には孔6h,7hが形成されており、さらに、これらの孔6h,7hにそれぞれ対向する電池容器11の両側面には、孔11hが形成されている。孔11hに触れないように導電性のボルト(図5には図示せず。)を通して、正極側の接続部材6を、隣接する他の溶融塩電池Bの負極側の接続部材7と電気的に接続することにより、複数の溶融塩電池Bを互いに直列に接続することができる。
【0020】
なお、図4,図5に示した溶融塩電池Bの一個体形状は、一例に過ぎず、形状・寸法は任意に構成することができる。
上記のような溶融塩電池Bは、用途に必要な電圧や電流容量を得るべく、複数個が集まって互いに直列又は直並列に接続され、組電池を構成した状態で使用することができる。
【0021】
例えば、図6は、ボルト13及びナット14を用いて、4つの溶融塩電池Bを連結し、かつ、電気的に直列に接続した状態を示す断面図である。ボルト13は、電池容器11とは絶縁された状態を保ちながら、溶融塩電池B相互の機械的連結と、電気的接続とを実現している。このようにして横長に並べて直列接続した溶融塩電池Bを、さらに、図6の紙面に垂直な方向へも並べることにより、多数の溶融塩電池Bが集まった溶融塩組電池を構成することができる。
【0022】
《閉鎖型溶融塩組電池の一形態》
図7は、このような多数の溶融塩電池Bの集まりによって構成された溶融塩組電池B1の斜視図(一部破断)である。図において、溶融塩組電池B1は、図6に示した四連の溶融塩電池Bを1ユニットとして、これを隣接させて複数ユニット並べることにより構成される。但し、一定数(この例では3個)のユニットごとに、面状のヒータ21を挟んで、相互に密着させる。また、L字状の導体からなる接続端子板15により、各ユニットの一端にあるボルト13同士を互いに接続する。他端にあるボルト13(図7には図示せず。)についても同様に接続端子板16により互いに接続される。なお、接続端子板15,16は、電池容器11とは絶縁されている。また、接続端子板15,16の各端部15a,16aは、外箱20との絶縁を保ちつつ、外部へ導出されている。なお、その他、ヒータ21に通電するための配線も存在するが、ここでは省略する。
【0023】
図8は、図7におけるVIII−VIII線断面図である。図において、外箱20の内側には、断熱材22(例えばグラスウール)が設けられている。断熱材22は、溶融塩組電池B1の外面を覆うように設けられている。また、波板状のばね23は、その弾発力によって、外箱20内で、複数の溶融塩電池Bの相互間、及び、ヒータ21とそれに隣接する溶融塩電池Bとを、圧接させている。これにより、ヒータ21の発熱を、効率よく各溶融塩電池Bに伝えることができる。
【0024】
なお、予め、上記のような閉鎖型溶融塩電池の構成で、断熱材22表面から外部への熱伝導による放熱量と、熱輻射による放熱量とをシミュレーションにより調べた。その結果、熱輻射による放熱量が、熱伝導による放熱量を上回っていることが判明した。そこで、熱輻射による放熱を抑制すべく、外箱20に以下の特徴を持たせた。
【0025】
《外箱の特徴》
次に、外箱20の特徴について詳細に説明する。図9の(a)は、外箱20の部分断面図である。外箱20の内面(6面)は、鏡面状に仕上げられている。ここで、鏡面状とは、表面粗さが最大高さ(Ry、JIS2001ではRz)で2.5μm以下であること、とする。これにより、内面が「鏡面状」であることを実用上十分に確保して、外箱20の内面における輻射熱の吸収を抑制し、これによって、外箱20から外部への熱輻射を抑制することができる。なお、内面の表面粗さが最大高さで2.5μmを超えると、溶融塩電池B、ヒータ21、及び断熱材22(図8)からの赤外線(特に遠赤外線)の輻射光が散乱して、外箱20の材質自体に当たる確率が高くなる。そのため、輻射熱が外箱20に吸収される割合が高くなる。
【0026】
また、外箱20は、機械的な強度確保のため、金属製であることが好ましい。具体的には、アルミニウム(純アルミニウム、又は、JIS:5000番合金)、ステンレス(SUS304/304L,SUS316/316L,SUS430)、あるいは、アルミニウムとステンレスのクラッド材(貼り合わせ材)が好適である。厚さは、1mm以上で、5mm以下が好適である。1mm未満では、機械的な強度が不足しやすく、また、外箱20から外の空気への熱伝導により熱が逃げやすくなる。逆に、5mmを超えると、質量が大きくなりすぎて、実用性に欠ける。特に、車両に搭載する場合は、軽量化が重要である。なお、外箱20の6面全てを同じ厚さにする必要は無い。例えば、十分な強度の必要な側面は4.5mm、比較的強度が弱くてもよい上面は1.5mm、とすることもできる。
【0027】
また、外箱20の材質の熱伝導率は、250W・m−1・K−1以下であることが好ましい。すなわち、外箱20の熱伝導率はなるべく小さい方が良い。外箱20の熱伝導率をこのように小さくすることにより、外箱20の内部にこもる熱が、外箱20自体に伝導しにくい。従って、外箱20から外部への熱損失が抑制される。なお、熱伝導率が当該数値を超えると、内部の熱が外箱20に伝導し易くなり、外箱20から外部への熱損失の割合が高くなる。なお、数値例を挙げると、ステンレスでは、16.7W・m−1・K−1程度の熱伝導率、アルミニウムでは、237W・m−1・K−1程度の熱伝導率であり、250W・m−1・K−1以下という条件を満たしている。
【0028】
図9の(b)は、外箱20の内面形態の他の例を示す断面図である。この外箱20の内面は、鏡面状であり、さらに、小球面(ディンプル)が多数形成されている。小球面は、凹又は凸で、その表面積は、半球より小さい。このような小球面は、比較的、輻射光の散乱及び吸収が少ない。なお、球面に限らず、楕円でもよい。
【0029】
以上のように、上記の閉鎖型溶融塩組電池では、外箱20の鏡面状の内面により、外箱20の内部に収容された溶融塩組電池B1、ヒータ21、断熱材22からの輻射熱の吸収を抑制し、これによって、外箱20から外部への熱輻射を抑制することができる。従って、このような閉鎖型溶融塩組電池では、ヒータ21の加熱のための電気エネルギーを、低減することができる。
【0030】
《その他》
なお、上記の外箱20は、金属製である例を示したが、一定の機械的強度と、内面が鏡面状であることを実現できれば、必ずしも金属製でなくてもよい。例えば、耐熱性のある樹脂で外箱を形成し、その内面のみが鏡面状になるように金属膜を形成したものであってもよい。
また、上記の閉鎖型溶融塩組電池における「閉鎖型」とは、密閉までの意味ではなく、閉鎖されることを基本形態とする箱体である外箱に収容された構造、の意味である。例えば実際には、放圧のための弁が、外箱20にも設けられることが多いので、普通は密閉ではない。
【0031】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0032】
10 溶融塩電池本体
11 電池容器
20 外箱
21 ヒータ
22 断熱材
B 溶融塩電池
B1 溶融塩組電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質として溶融塩を含む溶融塩電池本体を収容する電池容器を、複数個並べて構成された溶融塩組電池と、
前記溶融塩組電池を加熱するヒータと、
前記溶融塩組電池の外面を覆う断熱材と、
内部に前記溶融塩組電池、前記ヒータ及び前記断熱材を収容して閉鎖された箱体であって、内面が鏡面状である外箱と
を備えていることを特徴とする閉鎖型溶融塩組電池。
【請求項2】
前記外箱の内面は、表面粗さが最大高さで2.5μm以下である請求項1記載の閉鎖型溶融塩組電池。
【請求項3】
前記外箱は、熱伝導率が250W・m−1・K−1以下である請求項1又は2に記載の閉鎖型溶融塩組電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−89549(P2013−89549A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231493(P2011−231493)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】