説明

閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水

【課題】 天然海水の雑菌や不純物の混入を排除して飼育水として利用するのに適した成分配合とすると共に、飼育環境と経済性に適応する閉鎖循環に適した濃縮天然海水を提供することを課題とする。
【解決手段】 天然海水を塩田濃縮製塩法にて、太陽と海風により比重1.06以上〜比重1.21未満に調整した濃縮海水を物理濾過し、有用成分を調整した後、85℃10分の加熱処理を施し、常温冷却後の比重を濃縮基準比重の±0.03に調整後、活性炭濾過を施し、生菌検査後パッキングされた濃縮海水にカルシウム化合物と硫酸鉄を加え、希釈後の比重を1.023に調整し飼育海水とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然海水から海水等に棲息する動植物などを閉鎖環境において飼育するために用いる濃縮海水に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水等に棲息する動植物などを閉鎖環境において飼育する絶対条件である海水には、天然海水と人工海水の2種類があり、飼育する動植物の大半は珊瑚礁に棲息する生物で、天然海水を飼育に用いることができれば理想的である。しかし、天然海水は雑菌や不純物が混入しているので飼育水として利用するには多くのリスクを負わなければならない。また、100%天然海水を使用して魚類を閉鎖環境において飼育すると病気の発生率が高くなるといわれている。
【0003】
特許文献1には、天然海水を逆浸透膜法により淡水化した残留濃縮海水を成分とする魚病治療用天然濃縮海水が公開されている。この方法によると、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、その他の含有成分が配合バランス的に見て天然海水に近似した点で優れているが魚病治療用であり、閉鎖環境における飼育海水としては適さない問題点と濃縮工程で電力を必要とする省エネルギー化を克服できない問題点がある。
【0004】
特許文献2には、濃縮釜2にて海水の塩分濃度が12%〜15%程度になるまで(海水の容積が約22%程度になるまで)濃縮し、この濃縮海水を、沈殿除去槽4に送出して貯留する。沈殿除去槽4に貯留された濃縮海水を、2時間〜4時間程度の間鎮静させると、石膏分が沈殿するので、この沈殿した石膏分を、沈殿除去槽の下端に設けられたドレンパイプ4aから排出する。最後に石膏分が除去された濃縮海水(上澄み)を蒸発結晶釜5に送出し、蒸発結晶釜5にて再度加熱して残りの水分を蒸発させて結晶化した塩を得る製塩方法が公開されている。この方法によると、海水を煮詰めて、塩分膿度が12%〜15%になるまで濃縮し、該濃縮海水を鎮静状態にして石膏(CaSO)分を沈殿させて除去するため、成分の配合バランス的に見て天然海水に近似していない問題点と濃縮工程でボイラーによる加熱手段を必要とする省エネルギー化を克服できない問題点がある。
【0005】
特許文献3には、海洋深層水にマグネシウム化合物を添加し、ナトリウムに対するマグネシウムの重量比(Mg/Na)を1/8〜1/3に調整した魚介類の日持ち改善海水が公開されている。この方法はマグネシウム化合物が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム又は海水を濃縮したニガリであり、密封容器内の日持ち改善には適しているが、飼育目的の海水としては適さない問題点がある。
【0006】
特許文献4には、原海水を脱水濃縮し、該濃縮海水を脱塩処理することにより、栄養塩類が濃縮されていることを特徴とする富栄養人工海水の製造方法が公開されている。この方法によると、原海水を脱水濃縮、脱塩処理することにより、栄養塩類が濃縮されている点が優れているが、飼育目的の海水として使用する場合、各元素類の組成及び濃度を天然海水に近似して調整されるため、複雑な工程処理に係るコストが問題点となる。
【0007】
特許文献5には、塩化カルシウム8〜12kg、塩化マグネシウム35〜40kg、硫酸マグネシウム48〜52kg、塩化加里5〜8kg、塩化ナトリウム250〜300kg、を同時に攪拌機の槽内に注入して後、重炭酸曹達約1kgを注入し、徐々に攪拌機を100rpmで回転しながら、淡水35〜38リットルを注入し、約1時間混練して回転を止め、1時間乃至5時間熟成させ、次に重炭酸曹達約1kgを流入し、再度攪拌機を回転して練成することを特徴とする人工海水の素を製造する方法が公開されている。この方法によると、全て人工的に海水成分を合成しているため雑菌や不純物が混入するリスクを負わない点で優れているが、硫黄、臭素、炭素、ストロンチウム、ホウ素、ケイ素、ヨウ素(含有量順)等の80種類以上の微量成分が含まれていないため、天然海水に比べ劣る問題点がある。
【0008】
特許文献6には、NaHCOとして100重量部の重炭酸曹達、MgClとして30〜80重量部の酸化マグネシュウム、MgSOとして15〜40重量部の硫酸マグネシュウム、KClとして7〜16重量部の塩化カリュウム、NaClとして3〜8重量部の塩化カルシュウム、および、Ca(OH)として3〜8重量部の消石灰よりなる海産動物飼育用溶液添加剤が公開されている。この方法によると、実際に魚介類が利用し得る形で存在するマグネシュウムの減少を抑え棲息期間が短くなるのを防止する優れた効果を期待できる。しかし、添加剤としての運用であり、閉鎖環境における飼育海水としての運用法が確立されていない。
【0009】
特許文献7には、適当量の水に溶解したときに、ホウ素化合物がホウ素として換算したときに、0.002〜0.05W/V%の濃度に含有することとなる人工海水を調製するための組成物が公開されている。この方法によると、従来の人工海水の欠点が改善され、緩衝作用が強くpHの変動が少ない人工海水が得られ、さらに、海棲動物の病害の発生を減少させるという点に関しても有効である優れた効果を期待できる。しかし、天然海水に含まれる微量イオンについては調整されていない。また、検出限界以下のイオン、未同定の有効成分なども含まれていないため、天然海水の持つ性質とは異なったものとなる可能性がある。
【0010】
特許文献8には、天然海水の主要構成成分であるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの各種塩類を含む人工海水中に、ヨウ化カリウムを0.001〜0.01重量%、さらに四ホウ酸ナトリウム0.08〜0.09重量%、ホウ酸0.07〜0.08重量%および臭化カリウム0.07〜0.08重量%を添加した人工海水が公開されている。この方法によると、海産動植物、特に、ウニ類の受精・発生に適していて、発生段階で異常卵が少なく、所定時間内にプルテウス幼生期に速やかに到達し、また自然海水と同様な速度で発生過程を行ない得る優れた効果を期待できる。しかし、天然海水に含まれる微量イオンについては調整されていない。また、検出限界以下のイオン、未同定の有効成分なども含まれていないため、天然海水の持つ性質とは異なったものとなる可能性がある。
【0011】
特許文献9には、水道水100リットルにたいして、塩化ナトリウム3.3キログラム苦汁2〜5リットル配合し、従来の人工海水に添加剤として100CC〜500CCを添加する人工海水が公開されている。この方法によると、検出限界以下のイオン、未同定の有効成分などを添加でき、生きた珊瑚のポリプの出方が3倍になる効果を期待できる。しかし、天然海水の持つ性質とは異なったものとなる可能性がある。
【0012】
特許文献10には、海水性生物及び淡水性生物の人工飼育に用いる飼育水であって、比重が1.004以上天然海水以下となるように飼育水中にナトリウム、カルシウム、カリウムを添加し、カルシウムに対するカリウムの存在比が0.93乃至天然海水中の存在比であり、カルシウムとカリウムに対するナトリウムの存在比が55与乃至天然海水中の存在比となるように含有することを特徴とする人工飼育水が公開されている。この方法は、汽水域飼育に準ずるもので、海水等に棲息する動植物などの排泄物及び残餌によりアンモニアが発生するが、アンモニアの解離特性から見ると、魚類に影響を与えない解離のアンモニウムイオンと有毒なアンモニアとが平衡状態にある。そして、アンモニアの平行定数が高温、高塩、高pHの場合に有毒な非解離アンモニアに変化しやすいため、天然海水に比べ低塩でpHの低い人工飼育水では、有毒なアンモニアの発生が抑えられるので、天然海水による飼育に比べ小さな濾過装置の設置で飼育が可能となる効果を期待できる。しかし、無脊椎動物の飼育には適さない問題点がある。
【0013】
特許文献11には、少なくとも塩化ナトリウム、カルシウム塩、炭酸塩及びキレート剤を混合して人工海水用組成物を製造するに際し、カルシウム塩とキレート剤の混合を行った後に、炭酸塩の添加混合を行う人工海水用組成物の製造方法が公開されている。この方法によると、得られた人工海水用組成物を用いて調製された人工海水は、白い濁りが生じることなく、海水等に棲息する動植物などを飼育できるまでの時間を短縮できる効果を期待できる。しかし、天然海水に含まれる微量イオンについては調整されていない。また、検出限界以下のイオン、未同定の有効成分なども含まれていないため、天然海水の持つ性質とは異なったものとなる可能性がある。
【0014】
【特許文献1】特開平02−182127号公報
【特許文献2】特開2001−213620号公報
【特許文献3】特開2004−187595号公報
【特許文献4】特開2006−305411号公報
【特許文献5】特開昭51−33096号公報
【特許文献6】特開平02−295421号公報
【特許文献7】特開平06−070662号公報
【特許文献8】特開平08−037988号公報
【特許文献9】特開平10−192837号公報
【特許文献10】特開2008−136457号公報
【特許文献11】特開2009−165398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みて発明されたもので、天然海水の雑菌や不純物の混入を排除して飼育水として利用するのに適した成分配合とすると共に、飼育環境と経済性に適応する閉鎖循環に適した濃縮天然海水を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を達成するため、請求項1に記載した閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水は、天然海水を塩田濃縮製塩法にて、太陽と海風により比重1.06以上〜比重1.21未満に調整した濃縮海水を物理濾過し、非加熱ニガリを加えて有用成分を調整した後、85℃10分の加熱処理を施し、常温冷却後の比重を濃縮基準比重の±0.03に調整後、活性炭濾過を施し、生菌検査後パッキングされた濃縮海水を1:2〜1:9に希釈して、カルシウム化合物と硫酸鉄を加え、希釈後の比重を1.023に調整し飼育海水とすることを特徴としている。
【0017】
この発明においては、塩化ナトリウムの析出が濃縮容量100ml/lより開始される特性をふまえ、輸送コスト等の価格変動要素を配慮に入れた場合、塩析出が無視できる範囲の比重1.06(1:2希釈)〜塩化ナトリウムの析出が始まる比重1.21(1:9希釈)に調整した濃縮海水を濃縮海水原料としているため、高品質の濃縮天然海水とすることができる。
【0018】
主要成分であるカルシウムおいては、炭酸カルシウムの析出が濃縮容量600ml/lより開始され100ml/lで終了し、硫酸カルシウムの析出が濃縮容量300ml/lより開始され20ml/lで終了するため、カルシウム化合物を補い飼育海水としている。
【0019】
また、含有量は少ないが有用成分である塩化第二鉄においては、析出が濃縮容量600ml/lより開始され200ml/lで終了するため、硫酸鉄を代替品として補い飼育海水としている。
【0020】
請求項2に記載した閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水は、天然海水を塩田濃縮製塩法にて、太陽と海風により比重1.20以上〜比重1.23未満に調整した濃縮海水を物理濾過する第一工程と第一工程を経た濃縮海水に非加熱ニガリを加えて有用成分を調整し、85℃10分の加熱処理を施し、常温冷却後の比重を濃縮基準比重の±0.03に調整後、活性炭濾過を施し、生菌検査後パッキングされた濃縮海水と第一工程を経た濃縮海水を更に真空減圧釜で濃縮し乾燥させた粉末塩類を混合し、使用時に1:9〜1:14に希釈して、カルシウム化合物と硫酸鉄を加え、希釈後の比重を1.020に調整し飼育海水とすることを特徴としている。
【0021】
この発明においては、請求項1より高い比重の濃縮海水原料を使用しているため、塩析出により減少した塩分量を粉末塩類により補っているため、輸送コストを抑えた低価格の濃縮天然海水とすることができる。
【0022】
請求項3に記載した閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水は、非加熱ニガリによる有用成分の調整において、ホウ素成分量8mg/kgに調整し、ミネラル成分を増量することにより塩化ナトリウム量を減量することを特徴としている。
【0023】
この発明においては、ホウ素成分量8mg/kgに調整することで、硫酸マグネシウム、硫黄、臭素、炭素、ストロンチウム、ケイ素、ヨウ素等が天然海水に比べ約1.3倍〜約2倍の値になり、緩衝作用が強くpHの変動が少ない海水が得られ、さらに、低塩でpHの低い飼育水とすることが可能であるため、有毒なアンモニアの発生が抑えられる。
【0024】
請求項4に記載した閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水は、添加するカルシウム化合物が昆布の化石粉末を用いることを特徴としている。
【0025】
この発明においては、濃縮過程で析出により減少したカルシウム成分を、昆布の化石粉末を用いることで補っているため、主成分のカルシウム化合物の他に微量要素70種類を含む成分を天然素材により補給できる。
【0026】
請求項5に記載した閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水において、添加する硫酸鉄は、飾り珊瑚、天然岩、人工模型などを硫酸鉄5%〜10%溶液に浸漬させ、空気酸化処理を施し、徐々に鉄成分を溶出させることを特徴としている。
【0027】
この発明においては、濃縮過程で析出により減少した塩化第二鉄成分を、代替品の硫酸鉄に置き換え、硫酸鉄5%〜10%溶液に飾り珊瑚、天然岩、人工模型などを浸漬させ、浸漬させた処理物の表面に鉄成分を結着させ、空気酸化処理を施した処理物を飼育海水中に投入し、使用量に見合う極少量を徐々に溶出させ、鉄成分が枯渇しないように補給させる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように本発明によれば、天日濃縮により80数種類の有用成分が全て含まれていて、含有成分の全てを天然成分で構成が可能なため、含有成分が配合バランス的に見て天然海水と同等の特性を有すると共に、緩衝作用が強くpHの変動が少なく、低塩でpHの低い飼育水とすることが可能であるため、有毒なアンモニアの発生が抑えられ、100%の天然海水を使用して魚類を閉鎖環境で飼育する場合に発生し得る病気の発生も抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0030】
天然海水の濃縮法には、塩田に天然海水を引き込み天日と風により濃縮する塩田濃縮製塩法(天日塩田法)、イオン交換膜を用いる膜処理製塩法、下流盤、枝条架、または濃縮棟を利用し濃縮する流下式製塩法があるが、天然海水が含有する微量ミネラルを多く残存させるためには、静止状態にて天然海水を濃縮する塩田濃縮製塩法が好ましい。
【0031】
しかし、非特許文献(海洋の化学136p表3.1(東海大学出版))に示す通り、塩化第二鉄、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化ナトリウムの順で有効成分が析出していくため、各成分の補正が必要不可欠であるが、天然海水の組成に戻すのではなく、閉鎖循環における諸問題に対応するため、成分調整や成分枯渇を防ぐ溶出タイミングのコントロールを施した。
【0032】
この発明に使用する閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水は、天然海水を塩田濃縮製塩法にて、太陽と海風により濃縮後物理濾過し、非加熱ニガリを加えて、非加熱ニガリ中のホウ素成分量で8mg/kgに調整することで、硫酸マグネシウム、硫黄、臭素、炭素、ストロンチウム、ケイ素、ヨウ素等が天然海水に比べ約1.3倍〜約2倍の値に調整されるため、緩衝作用が強くpHの変動が少ない閉鎖環境に適した長期水替え不要な飼育海水が得られる。
【0033】
非加熱ニガリを加えることにより希釈して飼育海水としたときに、塩化ナトリウム量が1%近く少ない低塩環境でも比重を天然海水とほぼ同じに保つことが可能となり、pHの低い飼育水とすることができるため、有毒なアンモニアの発生が抑えられる。
【0034】
そして、85℃10分の加熱処理を施した後、活性炭濾過を施し、雑菌や不純物が混入
するのを防止し、天然海水の最大の弱点を排除している。
【0035】
また、濃縮過程で析出により減少したカルシウム成分を、昆布の化石粉末を用いることで補っているため、主成分のカルシウム化合物の他に微量要素70種類を含む成分を天然素材により補給できる。そして、天然素材であるため成分の吸収力が高く、無脊椎動物の飼育環境を改善でき、無脊椎動物の摂取により減少したカルシウム成分を必要に応じて添加することも可能となる。
【0036】
さらに、濃縮過程で析出により減少した塩化第二鉄成分を、代替品の硫酸鉄に置き換え、硫酸鉄5%〜10%溶液に飾り珊瑚(ハードコーラルの骨格)、天然岩、人工模型などを浸漬させ、浸漬させた処理物の表面に鉄成分を結着させ、空気酸化処理を施した処理物とし、飼育海水中に投入されると、使用量に見合う極少量を徐々に溶出させ、鉄成分が枯渇しないように補給されるため、閉鎖環境に適した長期水替え不要な飼育海水が得られる。
【0037】
硫酸鉄による鉄皮膜処理は、アルカリ域において鉄イオンの結着効率が高いため、天然岩、人工模型などの中性域の処理にはアンモニア等を用いた前処理を必要とする場合もある。また、飾り珊瑚は多孔質であるため内部まで硫酸鉄が浸透し、鉄皮膜の表面積を拡大させる効果も期待できるため、飾り珊瑚を用いるのが最適であるが、天然岩、人工模型などを拒むものではない。
【0038】
作用として、硫酸鉄5%〜10%溶液に処理物を浸漬させると、処理物の表面に鉄イオンが誘導され付着するが、硫酸イオンは溶液中に残るので過剰な硫酸イオンの弊害は発生しない。
【0039】
上記の相乗作用により、従来にない安定した飼育海水が得られ、天然海水を使用して魚類を閉鎖環境で飼育する場合に発生し得る病気の発生も抑制でき、無脊椎動物も自然界に近い生育特性を示し、人工海水の利点と天然海水の利点を合わせ持つ新たな飼育海水が完成に至った。
【実施例1】
【0040】
飼育設備は、90×45×45の水槽に3分割式オーバーフロー濾過糟(濾材:珊瑚砂)にプロテインスキマーを設け、照明に植物育成用30W蛍光灯4本を使用し、水槽内に飾り珊瑚(ハードコーラルの骨格)、天然岩、人工模型などを配置し、クマノミ、ナンヨウハギ、キンギョハナダイ、シライトイソギンチャク、イボヤギ、ウチウラタコアシサンゴ、カクオオトゲキクメイシ、チヂミトサカを飼育するにあたり高品質を謳った人工海水を使い、一ヶ月に一度50%の換水を行った飼育環境の成立した水槽において、換水時に請求項1に記載した塩析出が無視できる範囲の比重1.06(1:2希釈)〜塩化ナトリウムの析出が始まる比重1.21(1:9希釈)に調整した高品質の濃縮天然海水を希釈後の比重1.023に調整し、人工海水と閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水と比較調査した。
【0041】
飼育魚の体色の輝きや、珊瑚のポリプなど自然界の色調や触手の華やかさを水槽の中で再現する為の魚と刺胞動物門の組み合わせ飼育では、魚をベストの状態で飼育するために珊瑚水槽を管理するという考え方が成立する。
【0042】
比較調査第一回目の換水で、請求項1に記載した濃縮天然海水を希釈後の比重1.023に調整し、昆布の化石粉末を用いカルシウム化合物を補給し、表面に鉄成分を結着させた飾り珊瑚をセットし、人工海水50%と濃縮天然海水50%にする。
【0043】
換水直後、珊瑚が水太り状態→ポリプ収縮を経て→自然界の色調や触手の華やかさを30分程度で取り戻す(浸透圧の関係と思われる)、これまでとまるで違う結果が現れた。チヂミトサカは固体が一回り大きく見え、他の珊瑚もポリプの開き方が以前に比べ数倍開くようになり、ポリプが大きく開き鑑賞価値が数段アップすると共に、給餌効率が上がり、水質の悪化を防ぎ多くの餌を与えられる一石二鳥の好結果を生み出した。また、魚たちも体色の輝きがよくなり、その魚種の持つ美しさを再認識することとなる。
【0044】
前回の換水より一ヶ月が過ぎ、珊瑚も魚類も絶好調であるが、比較調査第二回目の換水の時期にあたるため、前回同様に50%の換水を実行するが、前回の浸透圧の関係と思われる変化は現れず、絶好調の状態が持続する。
【0045】
さらに一ヶ月が過ぎ、第三回目の換水の時期にあたるが珊瑚も魚類も絶好調であり、換水の判断を下すため、pH、硝酸塩、リン酸塩を測定すると、pH8.1、硝酸塩5.0mg/l以下、リン酸塩0.2mg/l以下の測定結果であり、長期水替え不要の実験に切り替えた。
【0046】
硝酸塩の蓄積が無く濃度が均衡している理由に、刺胞動物門の飼育環境改善により、飾り珊瑚の中に自然にできた嫌気域(多孔質の石の内部に貧酸素域が形成される)の脱窒菌が、刺胞動物門が放出するムコ多糖体と言われる粘膜などを炭素源にして脱窒を行い、硝酸塩の均衡に寄与しているものと思われる。
【0047】
また、リン酸塩の蓄積が無く濃度が均衡している理由に、徐々に鉄成分を溶出させるために設けた、表面に鉄成分を結着させた飾り珊瑚の鉄イオンがリン酸イオンと結合して、リン酸鉄となり吸収されるものと思われる。
【実施例2】
【0048】
飼育設備は、90×45×45の水槽に3分割式オーバーフロー濾過糟(濾材:珊瑚砂)にプロテインスキマーを設け、照明に30W蛍光灯2本を使用し、水槽内に飾り珊瑚(ハードコーラルの骨格)、天然岩、人工模型などを配置し、パキスタンバタフライフィッシュ、ロックビューティー、タテジマキンチャクダイ、フエヤッコダイ、ホンソメワケベラを飼育するにあたり高品質を謳った人工海水を使い、一ヶ月又は硝酸塩濃度25mg/lに達しない前に50%の換水を行った飼育環境の成立した水槽において、換水時に請求項2に記載した塩析出により減少した塩分量を粉末塩類により補った、輸送コストを抑えた低価格の濃縮天然海水を希釈後の比重1.018〜1.020に調整し、人工海水と閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水と比較調査した。
【0049】
比較調査第一回目の換水で、請求項2に記載した濃縮天然海水を希釈後の比重1.020に調整し、昆布の化石粉末を用いカルシウム化合物を補給し、表面に鉄成分を結着させた飾り珊瑚をセットし、人工海水50%と濃縮天然海水50%にする。
【0050】
請求項2の閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水の効果は後日現れ、魚たちも体色の輝きがよくなり、特にキンチャクダイ科の動きが活発になった。
【0051】
その後、40日目に硝酸塩濃度が25mg/lに近づいたため、第二回目の換水を比重1.018に修正し行った。その時のリン酸塩の測定値は0.2mg/l以下であり、実施例1同様にリン酸塩の蓄積が無く濃度が均衡している。
【0052】
第三回目以後の換水も比重1.018を継続した結果、換水周期は平均40日〜45日で推移したため、硝酸塩蓄積濃度を20mg/lに改めたが、一ヶ月以上は無換水が可能であり、人工海水を凌ぐ改善効果が認められた。また、請求項2の閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水を使用して以来、病気の発生は無くなり閉鎖循環に適応することも確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然海水を塩田濃縮製塩法にて、太陽と海風により比重1.06以上〜比重1.21未満に調整した濃縮海水を物理濾過し、非加熱ニガリを加えて有用成分を調整した後、85℃10分の加熱処理を施し、常温冷却後の比重を濃縮基準比重の±0.03に調整後、活性炭濾過を施し、生菌検査後パッキングされた濃縮海水を1:2〜1:9に希釈して、カルシウム化合物と硫酸鉄を加え、希釈後の比重を1.023に調整し飼育海水とすることを特徴とする、閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水。
【請求項2】
天然海水を塩田濃縮製塩法にて、太陽と海風により比重1.20以上〜比重1.23未満に調整した濃縮海水を物理濾過する第一工程と第一工程を経た濃縮海水に非加熱ニガリを加えて有用成分を調整した後、85℃10分の加熱処理を施し、常温冷却後の比重を濃縮基準比重の±0.03に調整後、活性炭濾過を施し、生菌検査後パッキングされた濃縮海水と第一工程を経た濃縮海水を更に真空減圧釜で濃縮し乾燥させた粉末塩類を混合し、使用時に1:9〜1:14に希釈して、カルシウム化合物と硫酸鉄を加え、希釈後の比重を1.020に調整し飼育海水とすることを特徴とする、閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水。
【請求項3】
非加熱ニガリによる有用成分の調整において、ホウ素成分量8mg/kgに調整し、ミネラル成分を増量することにより塩化ナトリウム量を減量することを特徴とする、請求項1及び請求項2記載の、閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水。
【請求項4】
添加するカルシウム化合物は、昆布の化石粉末を用いることを特徴とする、請求項1及び請求項2記載の、閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水。
【請求項5】
添加する硫酸鉄は、飾り珊瑚、天然岩、人工模型などを硫酸鉄5%〜10%溶液に浸漬させ、空気酸化処理を施し、徐々に鉄成分を溶出させることを特徴とする、請求項1及び請求項2記載の、閉鎖循環に適する成分補正をした濃縮天然海水。

【公開番号】特開2011−211930(P2011−211930A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81442(P2010−81442)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301039930)株式会社富士見物産 (3)
【Fターム(参考)】