説明

防振床構造

【課題】簡単な構造で床の振動を速やかに減衰できるようにした防振床構造を提供する。
【解決手段】床梁2と床梁2の端部を支持する構造躯体1との間に、床梁2の荷重を構造躯体1に伝達する支持部材3と、床梁2の振動によって生じる床梁端部の回転変位を抑制する粘弾性部材4を設置する。支持部材3には鉄筋または円形鋼管を使用し、床梁2の材軸直交方向に沿って設置する。粘弾性部材4にはシリコーン系の樹脂を使用し、支持部材3の両側に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物の床に適用される防振床構造に関し、床の振動を速やかに減衰させて床の振動に伴う居住者の不快感を解消する。
【背景技術】
【0002】
一般に、住宅などの居室の床は梁を主な構造材とする床組の上に床材を敷設することにより構成され、床そのものを構成する床材や梁などの固定荷重、人や家具などの積載荷重、人が行き来する際の移動荷重、さらには子供が飛び跳ねたりする際の衝撃荷重を支えて柱などの構造躯体に伝える役目を有する。
【0003】
しかし、床面積が広くなるにつれて床の振動やたわみが生じやすくなり、特に床の振動は構造上問題なだけでなく居住者に非常な不快感を与える。
【0004】
これまで、床の振動に対処した防振床構造に関する発明が種々提案されているが、その多くは床の質量を付加したり、剛性を増したり、あるいは減衰装置を設置するものであった。
【0005】
また、例えば、特許文献1には、梁の上にバネ特性の異なる独立した複数の衝撃吸収材からなる防音材を介して床版を敷設することにより構成された浮き床構造に関する発明が記載されている。
【0006】
特許文献2には、床を支持する梁の両側に2本の直状部材を梁の両端側から梁中央側に上り勾配に配置し、その先端どうしを頂部として連結することにより支持機構とし、当該支持機構の頂部付近と梁との間に制振装置を設置することにより構成された制振床構造に関する発明が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−183340号公報
【特許文献2】2002−70228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、単に床の質量を付加するだけでは振動を減衰させる時間は短縮されるが、床の卓越周波数が小さくなり、場合よっては人体が鋭敏に感じる5Hz〜30Hz領域に入り、より不快感を与えるおそれがあった。
【0009】
一方、床の剛性を増すと床の卓越周波数が高い周波数域に移動するので、振動は感じなくなるが、床の剛性を増すために梁などの部材断面が大きくする必要があり、コストが嵩む問題があった。
【0010】
また、特許文献1に記載された発明には、防音材のバネ特性が柔らかいと床が柔らかくなって歩行感を損ねる危惧があった。また、床の固定荷重を防音材が直接支持するので、クリープ変形などの経時変化による影響を受けやすいという課題があった。
【0011】
特許文献2に記載された発明には、制振機能を成立させるために支持機構の梁端部側の固定度を大きくする必要があるだけでなく、床スパンとほぼ同じ長さの支持部材を必要とする等、床を構成する上で構造が複雑になる問題があった。さらに、天井工事や天井裏の配線工事などに支障を及ぼす等の課題もあった。
【0012】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、簡単な構造で床の振動を速やかに減衰できるようにした防振床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の防振床構造は、床梁と、当該床梁の端部を支持し、床梁の荷重を前記構造躯体に伝達する支持部材と、前記床梁の振動を減衰させる粘弾性部材とを備えてなる防振床構造において、前記支持部材は前記床梁の荷重を前記構造躯体に伝達すると共に、前記床梁の振動によって生じる、前記床梁の材軸直交方向を軸とする床梁端部の回転変位を許容するように設置され、前記粘弾性部材は前記支持部材の一側または両側に前記床梁の振動によって生じる前記床梁端部の回転変位を抑制するように設置されてなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明は、床からの荷重を柱などの構造躯体に伝達する一方、床の振動によって発生する床梁端部の回転変位を粘弾性部材によって抑制することにより床の振動を速やかに減衰するようにしたものである。
【0015】
支持部材には、床梁の支持部の回転変位を拘束せず、床からの鉛直荷重のみを構造躯体に伝達する部材であればよく、例えば断面円形の棒状部材(鉄筋や円形鋼管等)や球状部材(鋼球)などを用いることができる。
【0016】
例えば、棒状部材は床梁と構造躯体との間に床梁の材軸直交方向に沿って設置することにより、床梁の鉛直荷重のみを構造躯体に伝達し、曲げを拘束しない構造とすることができる。また、球状部材は単に床梁と構造躯体との間に設置するだけでよい。
【0017】
さらに、床梁の端部を構造躯体にピンによって回転自在に支持することによっても床梁の鉛直荷重のみを構造躯体に伝達し、曲げを拘束しない構造とすることができる。
【0018】
粘弾性部材にはシリコーン系やポリウレタン系の樹脂または油圧などを用いることができる。また特に、粘弾性部材は支持部材の両側に設置することにより床梁端部の回転変位を抑制する効果を高めることができ、より速やかに床の振動を減衰させることができる。
【0019】
請求項2記載の防振床構造は、請求項1記載の防振床構造において、支持部材は断面円形の棒状に形成され、前記床梁の材軸直交方向に沿って設置されてなることを特徴とするものである。この場合の支持部材として、例えば鉄筋や円形鋼管などを用いることができる。
【0020】
請求項3記載の防振床構造は、請求項1記載の防振床構造において、支持部材は前記床梁を貫通するピンと、当該ピンの両側を前記構造躯体に支持させる金物とからなり、前記粘弾性部材は前記床梁と前記金物との間に設置されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、床からの荷重は柱などの構造躯体に支持部材を介して確実に伝達する一方、当該床梁の振動によって生じる床梁端部の回転変位を粘弾性部材によって抑制することにより、床の振動を速やかに減衰させることができるため、床の振動による居住者の不快感を速やかに解消することができる。
【0022】
また、構造的にも床梁と当該床梁を支持する構造躯体との間に、前記床からの荷重を前記構造躯体に伝達させる支持部材と前記床梁の振動によって生じる前記床梁端部の回転変位を抑制する粘弾性部材を設置するだけの簡単な構造なため、施工も容易であり低コスト化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1と図2は、本発明の一実施形態を示し、図において、柱などの構造躯体1,1間に床梁2が架け渡され、床梁2の上に床板(図省略)が敷設されている。
【0024】
また、床梁2の両端部と構造躯体1,1との間に支持部材3と粘弾性部材4がそれぞれ介在され、床梁2の両端は主として両端の支持部材3を介して構造躯体1,1に支持されている。
【0025】
支持部材3は、金属などの剛性材から断面円形の棒状に形成され、例えば鉄筋または円形鋼管が用いられている。また、支持部材3は床梁2の端部と構造躯体1との間に床梁2の材軸直交方向に沿って設置されている。
【0026】
粘弾性部材4はシリコーン系の樹脂などからなる粘弾性材から形成され、支持部材3を挟んでその両側に設置されている。また、粘弾性部材4は減衰機能を阻害しない程度にある程度圧縮された状態で床梁2の端部と構造躯体1との間に設置されている。
【0027】
床梁2の端部がこのように構成されていることにより、床梁2の両端部には床梁2からの荷重に対して鉛直上向き方向にのみ反力が作用し、回転を拘束する曲げ応力は作用しない。すなわち、床梁2の両端支持部は構造力学上ピン構造になっている。
【0028】
したがって、床梁2の中央で例えば子供が飛び跳ねたりすると、その衝撃荷重は床梁2の両端で支持部材3,3を介して構造躯体1,1に伝達される。
【0029】
また、床梁2は衝撃荷重によって上下方向に振動するが、床梁2両端の回転変位は強く拘束されていないため、床梁2の全体が上下方向に振動するとる床梁2の両端部は支持部材3を支点に回転変位する。
【0030】
しかし、支持部材3の両側に設置された粘弾性部材4,4が床梁2端部の回転変位によって交互に繰り返し圧縮されることにより、床梁2端部の回転変位が抑制され、これにより床梁2の振動は速やかに減衰される。
【0031】
次に、本発明の防振床構造の実験結果について説明する。
【0032】
(1) 試験体
2×4工法によって構成される床をモデル化したものを試験体とした(図3(a)参照)。床梁にはH形鋼(LH−200×100×3.2×4.5)を用い、床梁は455mm間隔で配置した。また、床板には15mm厚の合板を用いた。
【0033】
(2) 試験変数
試験体と当該試験体の両端部を支持する支持体(構造躯体)とを固定した場合(図4(a))、試験体の端部と支持体との間に径が8mmの鋼棒(支持部材)を設置した場合(図4(b))、試験体の端部と支持体との間に径が8mmの鋼棒とシリコーン系の樹脂材(粘弾性部材)介在した場合(図4(c))の3ケースとした。
【0034】
(3) 試験方法
試験体の中央に3kgの油粘土を自由落下させ、加振した(図3参照)。加振直下の床梁(H形鋼)の下フランジに加速度計を取り付け、鉛直方向加速度を測定した。
【0035】
(4) 試験結果
各試験体の応答加速度の時刻歴を比較した(図5(a)〜(c)参照)。
図5(a)〜(c)は、それぞれ図4(a)〜図4(c)にそれぞれ図示する試験体に対する試験の結果を示す。
【0036】
図4(c)のケースの場合が最も試験体の振動を抑制(減衰効果が大きい)することがわかった。
【0037】
図6(a),(b)は、本発明の他の実施形態を示し、図において、符号5は床梁、6は床梁5の両端側部に構造躯体として床梁5の材軸直交方向に沿ってそれぞれ設置された直交梁、7は直交梁6の内側部に床梁5の端部を支持する支持部材として取り付けられた支持金物である。
【0038】
また、符号8は床梁5の端部に取り付けられたエンドプレート、9は支持部材、そして、符号10は粘弾性部材である。
【0039】
支持金物7は直交梁6に固定された取付け部7aと床梁5の端部が載置された受け部7bとからL字状に形成されている。支持部材9は床梁5の端部と支持金物7の受け部7bとの間に設置されている。
【0040】
また、図6(a)において、粘弾性部材10は支持金物7の固定部7aに取り付けられ、床梁5の上フランジ5aの下側に所定長突出されている。また、図6(b)において、粘弾性部材10は支持金物7の固定部7aと床梁5の端部に取り付けられたエンドプレート8との間に取り付けられている。
【0041】
このような構成において、床梁5に作用する衝撃荷重による鉛直荷重は床梁5の両端で支持部材9,9を介して直交梁6に伝達される。
【0042】
また、床梁5の全体が衝撃荷重によって上下方向に振動すると、床梁5両端部は支持部材9を支点に回転変位するが、粘弾性部材10が床梁5端部の回転変位によって繰り返し圧縮されることにより、床梁5端部の回転変位が抑制されるため、床梁5の振動は速やかに減衰される。
【0043】
図7は、本発明の別の実施形態を示し、床梁5のウェブ5bに金物12がピン11で取り付けられており、金物12と床梁5のウェブ5bとの間に粘弾性部材10を備える。
【0044】
このような構成において、床梁5にかかる荷重は前記金物12を介して直交梁6に伝えられる。床梁5が衝撃荷重によって上限方向に振動すると、床梁5の両端部は、ピン11を支点に回転変位するが、ウェブ5bと金物12との間に設けた粘弾性部材10により該回転変位が抑制され、床梁5の振動は速やかに減衰される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、居住者に不快感を与える床の振動を速やかに減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の防振床構造の一実施形態を示し、(a)は防振床の全体を断面図、(b),(c)は床梁端部の構造を示す拡大断面図である。
【図2】床梁端部の支持部に設置された支持部材および粘弾性部材の動作を示す断面図である。
【図3】試験方法を示し、(a)は防振床をモデル化した試験体の平面図、(b)は試験体の長辺方向の縦断面図、(c)は試験体の短辺方向の縦断面図である。
【図4】(a),(b),(c)は試験体を示す端部の縦断面図である。
【図5】(a),(b),(c)は、各試験体の試験結果を示すグラフである。
【図6】(a),(b)は、本発明の防振床端部の他の実施形態を示す長辺方向の縦断面図である。
【図7】本発明の防振床端部の他の実施形態を示し、(a)は長辺方向の縦断面図、(b)は短辺方向の縦断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 柱などの構造躯体
2 床梁
3 支持部材
4 粘弾性部材
5 床梁
5a 上フランジ
5b ウェブ
6 直交梁
7 支持金物
7a 取付け部
7b 受け部
8 エンドプレート
9 支持部材
10 粘弾性部材
11 ピン
12 金物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床梁と、当該床梁の端部を支持し、床梁の荷重を前記構造躯体に伝達する支持部材と、前記床梁の振動を減衰させる粘弾性部材とを備えてなる防振床構造において、前記支持部材は前記床梁の荷重を前記構造躯体に伝達すると共に、前記床梁の振動によって生じる、前記床梁の材軸直交方向を軸とする床梁端部の回転変位を許容するように設置され、前記粘弾性部材は前記支持部材の一側または両側に前記床梁の振動によって生じる前記床梁端部の回転変位を抑制するように設置されてなることを特徴とする防振床構造。
【請求項2】
支持部材は断面円形の棒状に形成され、前記床梁の材軸直交方向に沿って設置され、前記粘性部材は前記支持部材の材軸方向の一側または両側に設置されてなることを特徴とする請求項1記載の防振床構造。
【請求項3】
支持部材は前記床梁を貫通するピンと、当該ピンの両側を前記構造躯体に支持させる金物とからなり、前記粘弾性部材は前記床梁と前記金物との間に設置されてなることを特徴とする請求項1記載の防振床構造

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−47953(P2010−47953A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212666(P2008−212666)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】