説明

電動パワーステアリング装置

【課題】 製造コストを上昇させることなく、ウォームホイールの歯部の強度を高める。
【解決手段】 操舵部材1の操作に応じて電動モータ5を駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、電動モータ5の回転軸に連結されたウォーム軸61と噛み合う状態で操舵軸2(出力軸12)に嵌着されたウォームホイール62を備える。このウォームホイール62は少なくとも外径部が樹脂製で、外径部において周方向に隣り合う歯部62aは、軸方向片側において外径側に突出する連結部62cを介し連結され補強されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者により行われるステアリングホイール(ハンドル)等の操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して操舵補助を行う電動パワーステアリング装置に関し、特には、電動モータの回転を操舵軸に伝達する機構としてウォーム軸とウォームホイールとからなる減速機構を備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記電動パワーステアリング装置は、運転者によるステアリングホイールの操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵補助用の電動モータと、電動モータの回転を減速して操舵軸に伝達する減速機構と、トルクセンサ等のセンサ信号に基づいて電動モータの駆動を制御する電子制御ユニット(ECU)とを備えている。
【0003】
減速機構は、例えば、電動モータの回転軸に連結された駆動ギヤとしてのウォーム軸と、操舵軸に嵌着された従動ギヤとしてのウォームホイールとからなり、ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合いにより、電動モータの回転を減速して操舵軸に伝達することで、運転者のステアリングホイールの操作によって加えられる操舵トルクと、電動モータが発生する操舵補助トルクとの和を、出力トルクとしてステアリング機構に与える(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、上記の減速機構に含まれるウォームホイールは樹脂で造られることが多い。
【0005】
このうち、ウォームホイールの歯部を金型を用いて成形する場合、型抜きの関係から、図6の(A)に示すように、歯部71は、はすば歯車の歯部のように、軸方向各部がほぼ同じ歯厚の形状となる。これに対して、ホブ加工により歯切りを行う場合は、ホブにより外径部の軸方向中間部分が両側部分より深く切削されて、図6の(B)に示すように、歯部72は、軸方向両側の歯厚が軸方向中間部分の歯厚より厚い形状となる。
【0006】
上記2つの加工法による歯部71,72を比較すると、ホブ加工による歯部72は、軸方向両側の歯厚の厚い部分により補強されているのに対して、金型成形の歯部71は、その軸方向両側部分の歯厚が、ホブ加工による歯部72より薄くなっており、強度が小さい。
【0007】
ウォームホイールにおいて、歯部の強度が小さいと、許容負荷トルクが減少するほか、ウォーム軸との噛み合い時、歯部のたわみが大きくなって噛み合い異常が生じ、これが異音発生の一つの原因にもなる。
【0008】
言うまでもなく、ホブ加工による歯部72と同形状の歯部を、金型成形により造ることは、事実上不可能である。
【特許文献1】特開2003−182601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、ウォームホイールにおいて歯部は、強度等の面から、ホブ加工により形成することが望ましいが、ホブ加工は、金型成形よりも製造コストがかさむという問題がある。
【0010】
本発明は、ウォームホイールの製造コストの上昇を抑制しつつ、歯部の強度を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による電動パワーステアリング装置は、操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、電動モータの回転軸に連結されたウォーム軸と、上記ウォーム軸に噛み合う状態で操舵軸に嵌着されたウォームホイールとを備え、上記ウォームホイールは少なくとも外径部が樹脂製で、この外径部において周方向に隣り合う歯部は、軸方向片側において外径側に突出する連結部を介して連結されていることを特徴とするものである。
【0012】
上記構成の電動パワーステアリング装置では、ウォームホイールの各歯部が、周方向に隣り合う歯部と連結部で連結されることで、補強されており、ホブにより歯切りされた歯部と同等もしくはそれ以上の強度を有し、許容負荷トルクが大きい。また、各歯部が補強されていることで、ウォーム軸との噛み合い時、歯部のたわみ量が減少し、噛み合い異常が生じにくくなり、噛み合い異常に伴う異音の発生を抑制することができる。
【0013】
この場合、歯部間の谷部は、連結部が存在しない側に開いている形状であるから、型抜きが可能で、金型により成形することができる。
【0014】
なお、歯部は、ウォームホイールの全周にわたって軸方向一側に設けられた連結部で連結するほか、一部の歯部は、軸方向一側にある連結部で連結し、他の歯部は軸方向他側にある連結部で連結するようにしてもよく、連結部を形成する位置は、軸方向一側に限定されない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、歯部の強度を高め、ウォームホイールの許容負荷トルクを大きくすることができ、しかも、金型成形により製造コストを上昇させることなく安価に造ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1ないし図3を参照して、本発明による最良の形態に係る電動パワーステアリング装置を説明する。図1は、本形態の電動パワーステアリング装置の減速機構部分の断面図で、関連する構成を併せて図示している。図2は、図1の減速機構の一部であるウォームホイールの拡大側面図で、半部は断面を示している。図3は、図2のウォームホイールの一部の斜視図である。
【0017】
図1に示すように、本形態の電動パワーステアリング装置は、ステアリングホイール(ハンドル)等の操舵部材1に一端が固着された操舵軸2と、この操舵軸2に加えられる運転者の操舵トルクを検出するトルクセンサ3と、操舵軸2の他端に連結された、ラックピニオン機構等からなるステアリング機構4と、操舵部材1の操作による運転者の負荷を軽減するための操舵補助トルクを発生させる電動モータ5と、電動モータ5が発生する操舵補助トルクを操舵軸2に伝達する減速機構6と、トルクセンサ3等のセンサ信号に基づいて電動モータ5の駆動を制御する電子制御ユニット(ECU)7とを備えている。
【0018】
操舵軸2には、操舵部材1の操作による操舵トルクと、電動モータ5が発生する操舵補助トルクとが加えられ、これらトルクの和が、出力トルクとしてステアリング機構4に与えられる。ステアリング機構4では、その入力軸の回転が、出力軸であるラック軸の往復運動に変換される。ラック軸の両端はタイロッドおよびナックルアーム等からなる連結部材8を介して操向用の車輪9に連結されており、ラック軸の往復運動に応じて車輪9の向きが変わる。
【0019】
操舵軸2の中途部は、本実施形態では、筒状の入力軸10と、中間部に長尺で細径のねじり領域を有するトーションバー11と、筒状の出力軸12とから構成されている。入力軸10は、その筒状内部に挿入されたトーションバー11と、圧入もしくは径方向に貫通するピン13により連結されている。トーションバー11は、その下端部が出力軸12の筒状内部に挿入されて、圧入もしくは径方向に貫通するピン14により出力軸12に連結されている。トーションバー11の外周で、入力軸10と出力軸12とは互いに軸方向に近接して対向しており、その軸方向対向部の外周位置で上記したトルクセンサ3がセンサハウジング15の内部に収容されている。
【0020】
減速機構6は、駆動ギヤとして電動モータ5の回転軸に同軸に連結されたウォーム軸61と、従動ギヤとして出力軸12の外周に嵌着されたウォームホイール62とからなり、ウォーム軸61とウォームホイール62とは互いに噛み合う状態で、ギヤハウジング16の内部に収容されている。
【0021】
ギヤハウジング16は、内部にウォーム軸61を収容するウォーム軸収容部161と、ウォームホイール62を収容するウォームホイール収容部162と、電動モータ5を装着するための装着部163とを有している。
【0022】
出力軸12は、センサハウジング15およびギヤハウジング16を貫通し、各ハウジング15,16の内部に設けた軸受17,18により回転可能に支持されている。
【0023】
ウォームホイール62は、上記した2つの軸受17,18の間で出力軸12の外周に嵌着されており、本実施形態では、その歯部が樹脂により一体に成形されている。このウォームホイール62は、図2および図3に拡大して示すように、多数の歯部62a,……と、軸孔62bとを有するとともに、軸方向一側(図1および図2では下側)において外径側に円板状に突出する連結部62cが形成されており、この連結部62cにより周方向に隣り合う歯部62a,62aどうしが連結されている。本実施形態では、連結部62cの突出高さは、歯部62aの突出高さと同じで、歯部62aの外径面と連結部62cの外径面とは面一になっている。
【0024】
上記構成のウォームホイール62は、歯部62aや連結部62c、歯部62a間の谷部62dが、軸方向一側に型抜きしうる形状であるから、金型により支障なく成形することができる。
【0025】
上記構成のウォームホイール62では、各歯部62aは、その軸方向片側にある連結部62cにより隣り合う歯部62aと連結されることで、補強されており、ウォーム軸61との噛み合いに対して充分大きな強度を有し、許容負荷トルクが大きい。また、各歯部62aが補強されていることで、ウォーム軸61との噛み合い時に生じる歯部62aのたわみ量が減少し、噛み合い異常に伴う異音の発生が抑えられる。
【0026】
<他の実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係るウォームホイールの側面図で、半部は断面を示している。この実施形態では、ウォームホイール62の軸方向一側に設けられた連結部62cが、歯部62aの高さHaより高い高さHcに突出して(Ha<Hc)形成されている。連結部62cの断面積がその突出高さ分だけ増すことで、図1および図2に示す連結部62cよりも、連結強度を大きくすることができる。また、連結部62cにより一定の連結強度が確保されればよいとすれば、連結部62cが歯部62aよりも高く突出する突出量に応じて、連結部62cが占める軸方向幅を小さくすることができる。
【0027】
図5は、本発明の第3実施形態に係るウォームホイールの側面図で、半部は断面を示している。この実施形態では、連結部62cを、歯部62a間の各谷部62d毎に軸方向一側と他側とに交互に設けている。このように、全周の歯部62aのうち、一部の歯部62aに対しては軸方向一側に連結部62cを設け、他の歯部62aに対しては軸方向他側に連結部62cを設けるようにしてもよい。このように、連結部62cがウォームホイール62の軸方向一側と他側とに振り分けて設けられていると、補強が軸方向一側に偏らず、全体として均等に補強される。
【0028】
このほか、上記各実施形態では、ウォームホイール62の全体を樹脂製としたが、内径部を鋳鉄等の金属製としてもよく、歯部62aを含む外径部が樹脂で形成されていればよい。また、連結部62cは、その突出高さを歯部62aよりも低くしてもよい。このように連結部62cの突出高さを低くすると、連結部62cとウォーム軸61との干渉が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の最良の形態に係る電動パワーステアリング装置の減速機構部分の断面図で、関連する構成を併せて図示している。
【図2】図1の減速機構の一部であるウォームホイールの拡大側面図で、半部は断面を示している。
【図3】図2のウォームホイールの一部の斜視図。
【図4】本発明の第2実施形態に係るウォームホイールの側面図で、半部は断面を示している。
【図5】本発明の第3実施形態に係るウォームホイールの側面図で、半部は断面を示している。
【図6】従来のウォームホイールの要部の斜視図で、(A)は金型成形の歯部を示し、(B)はホブ加工による歯部を示している。
【符号の説明】
【0030】
6 減速機構
61 ウォーム軸
62 ウォームホイール
62a 歯部
62c 連結部
12 出力軸(操舵軸の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、
電動モータの回転軸に連結されたウォーム軸と、
上記ウォーム軸に噛み合う状態で操舵軸に嵌着されたウォームホイールとを備え、
上記ウォームホイールは少なくとも外径部が樹脂製で、この外径部において周方向に隣り合う歯部は、軸方向片側において外径側に突出する連結部を介して連結されている、
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−290019(P2006−290019A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109429(P2005−109429)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】