説明

電動車の走行制御装置、および電動車

【課題】離席時制御による安全性向上を図りつつ、誤って離席が検知された場合に確実に車両を停止させることができる走行制御装置および電動車を提供する。
【解決手段】本発明に係る走行制御装置10は、目標速度を指令するための速度指令手段6と、車両速度を検知する速度検知部12と、車両速度が目標速度に一致するように走行用モータ17を制御する制御部11とを備えた走行制御装置において、オペレータが離席しているか否かを検知する離席検知部9と、走行路が坂路であるか否かを検知する坂路検知部13とをさらに備え、制御部11は、オペレータが離席していること、および走行路が坂路であることが検知された場合は目標速度をゼロとし、オペレータが離席していること、および走行路が坂路ではないことが検知された場合は目標速度を予め定められた微小速度として走行用モータ17を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリに蓄積された電力により走行用モータを駆動させて走行する電動車の走行制御装置、および電動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動車として、例えば、図5に示すリーチ型のフォークリフトが知られている。同図に示すように、フォークリフト100は、車両本体2に対して前後にスライドするマスト3と、マスト3に沿って昇降する一対のフォーク4と、車両本体2の下部に設けられた駆動輪7とを備えている。また、車両本体2は、オペレータが立ったままで搭乗するオペレータ席5を有し、該オペレータ席5には、アクセルレバー6および足踏み式でデッドマン式のブレーキ8の他、各種操作を行うためのレバーやハンドルが設けられている。なお、駆動輪7は車両本体2に旋回可能に取り付けられており、操舵輪としての機能も有している。
【0003】
図2に示すように、フォークリフト100は、アクセルレバー6をニュートラル位置から前傾させると前傾後の傾き角度に応じた速度で前進し、後傾させると後傾後の傾き角度に応じた速度で後進する。また、フォークリフト100は、アクセルレバー6をニュートラル位置に戻すと、ニュートラル回生制御が行われて所定の微小速度(例えば、1km/h)まで減速する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このフォークリフト100では、前進または後進中にアクセルレバー6を進行方向逆側に傾けることにより走行用モータを回生制御して減速するプラギング操作が多用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−256401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フォークリフトの分野では、近年、安全性向上の観点から、オペレータの離席を検知して、アクセルレバー6の操作およびフォーク4の昇降等の荷役操作を無効とする離席時制御を行うことが求められるようになってきている。しかしながら、従来のフォークリフト100で離席時制御を行うと、オペレータの離席が誤って検知された場合に、以下の問題が起こる可能性がある。
【0007】
すなわち、坂路走行中に何らかの異常が発生してオペレータの離席が誤って検知されると、アクセルレバー6の操作が無効となり、フォークリフト100はニュートラル回生制御下で車両速度が微小速度に維持されながら坂路をずり落ちる。このとき、オペレータがフォークリフト100のずり落ちを止めようとしてアクセル操作を行っても、アクセルレバー6の操作が無効となっているため、結局、オペレータは意図に反したずり落ちを止めることができず、フォークリフト100と他の車両が衝突したりするおそれがある。
【0008】
なお、離席時制御中であっても、ブレーキ8を操作すれば駆動輪7を機械的にロックしてフォークリフト100を停止させることができる。しかしながら、リーチ型のフォークリフト100では上記プラギング操作によってブレーキをかける場合が多く、また、ブレーキ8は駐停車時に使用するものであり、走行中に使用するものではないので、オペレータにとって咄嗟の判断でブレーキ8を操作するのは極めて困難である。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、離席時制御による安全性向上を図りつつ、誤って離席が検知された場合に確実に車両を停止させることができる走行制御装置、および該走行制御装置を備えた電動車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る走行制御装置は、目標速度を指令するための速度指令手段と、車両速度を検知する速度検知部と、車両速度が目標速度に一致するように走行用モータを制御する制御部とを備えた走行制御装置において、オペレータが離席しているか否かを検知する離席検知部と、走行路が坂路であるか否かを検知する坂路検知部とをさらに備え、上記制御部は、オペレータが離席していること、および走行路が坂路であることが検知された場合は目標速度をゼロとし、オペレータが離席していること、および走行路が坂路ではないことが検知された場合は目標速度を予め定められた微小速度として走行用モータを制御することを特徴としている。
【0011】
この構成では、離席検知部によってオペレータの離席が検知された場合に、速度指令手段(例えば、アクセルレバー)とは無関係に目標速度が決定される。つまり、この構成によれば、離席が検知された際にアクセルレバーの操作が無効とされるので、安全性を向上させることができる。
また、この構成では、オペレータの離席と走行路が坂路であることが検知された場合に、車両速度がゼロとなるように走行用モータが制御される。また、走行路が坂路ではない場合は、車両速度が微小速度となるように走行用モータが制御されるので、その後、電動車は走行抵抗により自然に停止する。したがって、この構成によれば、走行路が坂路であるか否かに関係なく、離席が検知された際に電動車を確実に停止させることができる。
【0012】
上記走行制御装置の速度検知部が一定時間おきに車両速度を検知する場合、坂路検知部は、車両速度が増加傾向にある場合に走行路が坂路であることを検知すればよい。
この構成によれば、比較的簡単な構成で坂路であるか否かを検知することができる。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る電動車は、上記走行制御装置を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、離席時制御による安全性向上を図りつつ、誤って離席が検知された場合に確実に車両を停止させることができる走行制御装置、および該走行制御装置を備えた電動車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るリーチ型フォークリフトの斜視図である。
【図2】アクセルレバーの側面図である。
【図3】本発明に係る走行制御装置、およびその周辺部材のブロック図である。
【図4】本発明に係る走行制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】従来のリーチ型フォークリフトの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る走行制御装置および電動車の好ましい実施形態について説明する。なお、以下ではリーチ型のフォークリフトを一例に挙げて説明するが、本発明が他の電動車にも適用可能であることは言うまでもない。
【0017】
図1に、本発明に係るリーチ型のフォークリフトを示す。同図に示すように、フォークリフト1は、車両本体2に対して前後にスライドするマスト3と、マスト3に沿って昇降する一対のフォーク4と、車両本体2の下部に設けられた駆動輪7とを備えている。車両本体2には、変速ギアを介して駆動輪7に接続された走行用モータ、走行用モータを駆動するインバータ回路、バッテリ16および本発明に係る走行制御装置等が収容されている。また、駆動輪7は車両本体2に旋回可能に取り付けられており、操舵輪としての機能も有している。
【0018】
車両本体2は、オペレータが立ったままで搭乗するオペレータ席5を有する。オペレータ席5のオペレータ手元には、アクセルレバー6、各種操作を行うためのレバーおよびハンドルが設けられている。また、オペレータ席5のオペレータ足元には、足踏み式でデッドマン式のブレーキ8および離席検知用フロアスイッチ9が設けられている。アクセルレバー6は、本発明の速度指令手段に相当する。また、離席検知用フロアスイッチ9は、本発明の離席検知部に相当する。
【0019】
図3に、本発明に係る走行制御装置およびその周辺部材のブロック図を示す。同図に示すように、走行制御装置10は、インバータ回路15を介して走行用モータ17を力行制御または回生制御する。力行制御においては、バッテリ16の電力がインバータ回路15を介して走行用モータ17に供給される。一方、回生制御においては、走行用モータ17で生成された電力がインバータ回路15を介してバッテリ16に戻される。
【0020】
ブレーキ8は、走行制御装置10から独立して設けられている。オペレータがブレーキ8を操作すると、駆動輪7は機械的にロックされる。これにより、フォークリフト1はアクセルレバー6の傾き角度に関係なく速やかに停止する。
【0021】
走行制御装置10は、アクセルレバー6、離席検知用フロアスイッチ9、速度検知部12、坂路検知部13および制御部11を備えている。
【0022】
アクセルレバー6は、目標とする車両速度(以下、目標速度という)を指令するためのレバーで、図2に示すように、ニュートラル位置から前傾させると車両本体2は前進し、後傾させると車両本体2は後進する。オペレータによってアクセルレバー6が前傾または後傾させられると、アクセルレバー6は傾き角度に応じた信号を出力する。
【0023】
離席検知用フロアスイッチ9は、オペレータ席5のフロアのほぼ全面を覆うように設けられている。このため、オペレータがフォークリフト1に搭乗すると、離席検知用フロアスイッチ9にオペレータの体重がかかり、離席検知用フロアスイッチ9はオペレータが離席していないことを示す信号を出力する。一方、オペレータの体重がかかっていない場合、すなわちオペレータが離席している場合、離席検知用フロアスイッチ9はオペレータが離席していることを示す信号を出力する。
【0024】
速度検知部12は、走行用モータ17の回転軸に設けられたエンコーダからの回転数信号に基づいて、フォークリフト1の車両速度を一定時間おきに検知する。速度検知部12は、最新の車両速度を検知する度に、該車両速度に関する信号を制御部11および坂路検知部13に向けて出力する。
【0025】
坂路検知部13は、速度検知部12によって検知された車両速度が増加傾向にあるか否かに基づいて、走行路が坂路であるか否かを検知する。より詳しくは、ある時間に検知された車両速度がV1、その一定時間経過後に検知された車両速度がV2である場合、坂路検知部13は、V2−V1が正値であれば走行路が坂路であることを検知する。
【0026】
制御部11は、アクセルレバー6の傾き角度、車両速度、オペレータが離席しているか否か、および走行路が坂路であるか否かに基づいて、走行用モータ17を制御する。
【0027】
より詳しくは、オペレータの離席が検知されていない場合は(図4のステップS1において“No”)、通常制御により走行用モータ17を制御する(ステップS2)。
【0028】
ここで、通常制御とは、(1)アクセルレバー6がニュートラル位置から前傾または後傾させられた場合は、車両速度がアクセルレバー6の傾き角度に対応した目標速度に一致するように力行制御を行い、(2)アクセルレバー6がニュートラル位置に戻された場合は、所定の微小速度(例えば、1km/h)まで減速するように回生制御を行い、(3)前進または後進中にアクセルレバー6が進行方向逆側に傾けられた場合は、車両速度がゼロになるまで回生制御を行った後、車両速度が傾き角度に対応した目標速度に一致するように力行制御を行うことをいう。
【0029】
図4に示すように、制御部11は、オペレータの離席が検知されるまで通常制御により走行用モータ17を制御し続ける。
【0030】
オペレータの離席が検知された場合は(ステップS1において“Yes”)、離席時制御により走行用モータ17を制御する(ステップS3〜S5)。
【0031】
図4に示すように、離席時制御では、まず、坂路検知部13の検知結果に基づいて、走行路が坂路であるか否かが判断される(ステップS3)。そして、走行路が坂路ではない場合は車両減速制御が行われ(ステップS4)、走行路が坂路である場合は車両停止制御が行われる(ステップS5)。
【0032】
ステップS4の車両減速制御では、アクセルレバー6の傾き角度とは無関係に目標速度が所定の微小速度(例えば、1km/h)とされ、走行用モータ17の回生制御が行われる。これにより、フォークリフト1は、1km/hまで減速した後、走行抵抗により自然に停止する。一方、ステップS5の車両停止制御では、アクセルレバー6の傾き角度とは無関係に目標速度がゼロとされ、走行用モータ17の回生制御が行われる。これにより、フォークリフト1は速やかに停止する。
【0033】
なお、走行路が坂路ではない場合に車両停止制御ではなく車両減速制御を行うこととしたのは、その方が心地よい乗り味を実現できるからである。
【0034】
結局、本発明に係る走行制御装置10およびフォークリフト1によれば、離席が検知された際にアクセルレバー6の操作が無効とされるので、安全性を向上させることができる。また、本発明に係る走行制御装置10およびフォークリフト1によれば、離席が検知された際に車両を確実に停止させることができるので、坂路走行中に離席検知用フロアスイッチ9が故障等して離席が誤って検知されたとしても、車両が坂路をずり落ち続けるのを防止することができる。
【0035】
以上、本発明に係る走行制御装置および電動車の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
【0036】
例えば、所定の微小速度は1km/hに限定されず、走行抵抗により電動車が停止する任意の速度とすることができる。
また、速度検知部12における速度検知の方法、および坂路検知部13における坂路検知の方法は上記のものに限定されず、既知の各種方法を用いてもよい。
また、シートに座って運転するタイプの電動車の場合は、シートの座面にスイッチを埋め込むことにより、離席検知用フロアスイッチ9と同様に離席を検知することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 フォークリフト
2 車両本体
3 マスト
4 フォーク
5 オペレータ席
6 アクセルレバー(速度指令手段)
7 駆動輪
8 ブレーキ
9 離席検知用フロアスイッチ(離席検知部)
10 走行制御装置
11 制御部
12 速度検知部
13 坂路検知部
15 インバータ回路
16 バッテリ
17 走行用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標速度を指令するための速度指令手段と、車両速度を検知する速度検知部と、前記車両速度が前記目標速度に一致するように走行用モータを制御する制御部とを備えた走行制御装置において、
オペレータが離席しているか否かを検知する離席検知部と、
走行路が坂路であるか否かを検知する坂路検知部と、
をさらに備え、
前記制御部は、前記オペレータが離席していること、および前記走行路が坂路であることが検知された場合は前記目標速度をゼロとし、前記オペレータが離席していること、および前記走行路が坂路ではないことが検知された場合は前記目標速度を予め定められた微小速度として前記走行用モータを制御することを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
前記速度検知部は、一定時間おきに前記車両速度を検知し、
前記坂路検知部は、前記車両速度が増加傾向にある場合に前記走行路が坂路であることを検知することを特徴とする請求項1に記載の走行制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の走行制御装置を備えたことを特徴とする電動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115048(P2012−115048A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261993(P2010−261993)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000232807)日本輸送機株式会社 (320)
【Fターム(参考)】