説明

電極端子と金属膜層を備えた合成樹脂成形品

【課題】アンテナや、電子回路の構成要素としての回路パターンを一体的に設けた合成樹脂成形品に、信頼性のある電気的接続を確保できる電極端子を備えるようにすることを課題とする。
【解決手段】金型内に設置した合成樹脂シート21上に溶融合成樹脂を射出することによって成形される合成樹脂成形品10において、この合成樹脂成形品は、合成樹脂シート部21と射出成形樹脂部31から成り、合成樹脂シート部21には加飾印刷により形成された加飾膜層と、無電解めっき又は電解めっきにより形成された金属膜層21aが備えられ、射出成形樹脂部31には、インサート成形により電極端子11が埋め込まれ、電極端子11の一方の端部は当該金属膜層21aに接触し、電極端子11の他方の端部は当該射出成形樹脂部31から外部へ突出している構成の合成樹脂成形品10とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極端子と金属膜層を備えた合成樹脂成形品にかかるものであり、更に詳細には、アンテナや電子回路パターンを構成することとなる金属膜層と、この金属膜に電気的に接続された電極端子を備えた合成樹脂成形品を提供するものである。 なお、かかる合成樹脂成形品には、意匠面を構成することとなる加飾膜層を更に設けるようにすることもできる。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の内装品や家電製品など、直接ユーザーの目に触れ、あるいはユーザーが直接手に触れる合成樹脂成形品においては、装飾性や触感を向上させるために、合成樹脂表面に平滑な面を持った意匠面を設けるようになってきている。
【0003】
このような意匠面を形成する方法として、合成樹脂シートに意匠面をなす加飾膜層を予め設けておき、インモールド成形法によりこの合成樹脂シートが成形品基材表面に配置されるようにして、基材樹脂を融着一体化させて成形した合成樹脂成形品がある。
【0004】
一方、自動車の内装品や家電製品などは、多くの合成樹脂成形品で作られているが、このような意匠面を備えた合成樹脂成形品が使用される部位において、アンテナや、電子回路の構成要素としての回路パターンを設置することが必要になることも多い。 従って、意匠面を備えた合成樹脂成形品に、アンテナや回路パターンを一体的に設けることが望ましく、このようなアンテナや回路パターンを一体化して備えた合成樹脂成形品を簡単な製造プロセスで、かつ低コストで成形する方法が提案されている。(特許文献1参照)
【0005】
しかしながら、アンテナや、電子回路の構成要素としての回路パターンを合成樹脂成形品に一体的に設けたとしても、これらの回路パターンを外部の電子機器と接続するための電極端子が必要であり、信頼性のある電気的接続を確保できる電極端子に対するニーズが高まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願第2010-189873
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アンテナや、電子回路の構成要素としての回路パターンを一体的に設けた合成樹脂成形品に、信頼性のある電気的接続を確保できる電極端子を備えるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、第1の観点にかかる発明においては、以下の構成を有する発明とした。 すなわち、
金型内に設置した合成樹脂シート上に溶融合成樹脂を射出することによって成形される合成樹脂成形品であって、
当該合成樹脂成形品は、合成樹脂シート部と射出成形樹脂部から成り、
当該合成樹脂シート部には加飾印刷により形成された加飾膜層と、無電解めっき又は電解めっきにより形成された金属膜層が備えられ、
当該射出成形樹脂部には、インサート成形により電極端子が埋め込まれ、
当該電極端子の一方の端部は当該金属膜層に接触し、当該電極端子の他方の端部は当該射出成形樹脂部から外部へ突出している構成の合成樹脂成形品とした。
【0009】
第2の観点にかかる発明においては、第1の観点にかかる発明の合成樹脂成形品であって、電極端子が金属膜層に接触する端部において、電極端子の長手方向に垂直な断面の面積が、接触面に向かって徐々に大きくなっている構成の合成樹脂成形品とした。
【0010】
第3の観点にかかる発明においては、第1の観点にかかる発明の合成樹脂成形品であって、電極端子が金属膜層に接触する端部において、電極端子の長手方向と垂直な方向に、電極端子が1つ又は複数の突起を有している構成の合成樹脂成形品とした。
【0011】
第4の観点にかかる発明においては、第1の観点にかかる発明の合成樹脂成形品であって、電極端子が前記金属膜層に接触する端部において、電極端子の長手方向と垂直な方向に鍔状に突出したフランジを備える構成の合成樹脂成形品とした。
【0012】
第5の観点にかかる発明においては、第1乃至第4の観点にかかる発明の合成樹脂成形品であって、電極端子が金属膜層に接触する端面に、凹凸状の突起または溝が設けられている構成の合成樹脂成形品とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、金型内に設置した合成樹脂シート上に溶融合成樹脂を射出することによって成形される合成樹脂成形品であって、合成樹脂成形品は、合成樹脂シート部と射出成形樹脂部から成り、合成樹脂シート部には加飾印刷により形成された加飾膜層と、無電解めっき又は電解めっきにより形成された金属膜層が備えられ、射出成形樹脂部には、インサート成形により電極端子が埋め込まれ、電極端子の一方の端部は金属膜層に接触し、電極端子の他方の端部は射出成形樹脂部から外部へ突出している構成の合成樹脂成形品としたことにより、
電極端子は、射出成形樹脂部により確実に保持されると共に、金属膜層に確実に接触されるようになるため、信頼性のある電気的接続を確保できる電極端子を備えた合成樹脂成形品を得ることができる。
【0014】
また、金属膜層に接触する電極端子の端部において、電極端子の長手方向に垂直な断面の面積が、接触面に向かって徐々に大きくなっていく構成としたり、電極端子の長手方向と垂直な方向に、電極端子が1つ又は複数の突起を有している構成としたり、電極端子の長手方向と垂直な方向に鍔状に突出したフランジを備える構成としたりすることにより、溶融合成樹脂が凝固して射出成形樹脂部を構成する際に、温度変化(冷却)によって樹脂は収縮を起こす。このとき、電極端子を保持する射出成形樹脂部の収縮力によって電極端子を金属膜層に押し付ける力が作用することになり、電極端子の端面と金属膜層の接触状態が堅固となり、さらに信頼性の高い電気的接続が可能となる。
【0015】
また、電極端子が金属膜層に接触する端面に、凹凸状の突起または溝を設けることにより、電極端子の端面と金属膜層の接触状態が更に強固となり、信頼性の高い電気的接続が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の1実施例である合成樹脂成形品の1部を示した断面図である。
【図2】図2は、本発明の1実施例である合成樹脂成形品の1部を示した断面図であって、各部の寸法関係を説明するための図である。
【図3】図3は、加飾印刷層、金属膜層、および接着層を備えた合成樹脂シートを製造する工程を示すフローチャートである。
【図4】図4は、合成樹脂シートを使用すると共に、電極端子をインサートしてインモールド成形する工程を示すフローチャートである。
【図5】図5は、加飾印刷層、金属膜層、および接着層を備えた合成樹脂シートを製造する工程を示すフローチャートであって、合成樹脂シート製造工程の途中段階において、合成樹脂シートを金型形状に合わせて予めフォーミングしておく場合の工程を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の1実施例である合成樹脂成形品10の本体は、合成樹脂シートから構成される合成樹脂シート部21と、溶融合成樹脂を射出成形することにより形成された射出成形樹脂部31からなる。
【0019】
合成樹脂シート部21の外側面または内側面には、加飾印刷により形成された加飾印刷層(図示せず)が形成されており、更に合成樹脂シート部21の内側面には、後述するピロール系樹脂層21bを介して無電解めっきにより形成された金属膜層21aが設けられている。
また、合成樹脂シート部21の内側面には、合成樹脂シート21と溶融合成樹脂との接合力を向上させるために、接着層21cを設けておくようにしても良い。
【0020】
合成樹脂シート部21の内側面には、溶融合成樹脂を射出成形することにより形成された射出成形樹脂部31が形成されている。 射出成形樹脂部31には、インサート成形された電極端子11が一体的に保持されている。 この電極端子11の一方の端面(図1に示す下側端面)は、合成樹脂シート部21の内側面に設けられた金属膜層21aに接触しており、これにより金属膜層21aと電極端子11とは電気的な短絡状態が維持されるようになっている。
【0021】
なお、溶融合成樹脂が凝固し、冷却される過程で収縮するため、射出成形樹脂部31にインサート成形された電極端子11には、電極端子11の外周面から圧縮力が作用すると共に、射出成形樹脂部31がその板厚方向にも収縮するため、電極端子11の端面を金属膜層21aに押し付ける力が作用する。 その結果、電極端子11が金属膜層21aに確実に接触されるようになるため、信頼性のある電気的接続を確保できるようになる。
【0022】
また、図1に示すように、金属膜層21aに接触する電極端子11の端部において、電極端子の長手方向と垂直な方向に鍔状に突出したフランジ11aを備えることにより、フランジ11a上に設けられた射出成形樹脂部31aが板厚方向に収縮することによる圧縮力がフランジ部11aに作用することになる。 その結果、電極端子11の端面と金属膜層21aの接触状態が更に強固となり、信頼性の高い電気的接続が可能となる。
【0023】
このとき、合成樹脂シート部21の内側面に設けた接着層21cは、通常7〜8μm程度の厚みを有し、金属膜層21aとピロール系樹脂層21bを合わせた厚さは、通常3〜4μm程度となるため、電極端子11の端面と金属膜層21aの間に、信頼性の高い電気的接続を確立するためには、図2に示すφA、φB、およびφCの寸法関係が以下の条件を満たすことが望ましい。
φC−φB=0.3〜0.7mm
φB≦φA<φC
【0024】
ここでは、電極端子11の端部の形状として、電極端子11の長手方向と垂直な方向に鍔状に突出したフランジ部11aを有する場合について説明したが、これに限定されるものではない。
金属膜層21aに接触する電極端子11の端部において、電極端子11の長手方向に垂直な断面の面積が、接触面に向かって徐々に大きくなっていく形状を有する電極端子11としたり、電極端子11の長手方向と垂直な方向に、電極端子11が1つ又は複数の突起を有する形状の電極端子11とすることによっても同様な作用効果が得られる。
【0025】
また、電極端子11が金属膜層21aに接触する端面に、凹凸を設け、電極端子11の端面が金属膜層21aにくい込むようにして、電極端子11の端面と金属膜層21aとの接触状態を改善し、電極端子11の端面と金属膜層21aの間の電気的接続の信頼性を更に高めるようにすることもできる。
このときの凹凸としては、規則的あるいは不規則な突起や、溝状の凹凸とすることができ、凹凸の高さは数μm程度のものが望ましい。
【0026】
次に、本発明にかかる合成樹脂成形品の製造方法について説明する。 本発明にかかる合成樹脂成形品は、大きく分けて(1)加飾印刷層、金属膜層21a、および接着層21cを備えた合成樹脂シート21を製造する工程と、(2)合成樹脂シート21を使用すると共に、電極端子11をインサートしてインモールド成形する工程とからなる。 以下、これらの製造工程について説明する。
【0027】
まず、(1)加飾印刷層、金属膜層21a、および接着層21cを備えた合成樹脂シート21を製造する工程について説明する。
図3は、合成樹脂シート21の製造工程を示したものである。 合成樹脂シート21の製造工程は、以下の5つの工程から成り立っている。
【0028】
(1) 合成樹脂シート21に加飾印刷を施行すると共に、印刷技術を使用して接着材塗布を施行する工程111
(2) 当該合成樹脂シート21に導電性高分子微粒子含有塗料を塗布する工程112
(3) 当該合成樹脂シート21を脱ドープ用前処理液に浸す工程113
(4) 当該合成樹脂シート21をめっき触媒金属を含有する触媒液に浸す工程114
(5) 当該合成樹脂シート21を無電解めっき液に浸す工程115
【0029】
本発明に使用される合成樹脂シート21の材料としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などを使用することができる。 合成樹脂シート21の板厚は、特に限定されるものではなく、合成樹脂シート21が最終的に利用される形態に依存するものである。 例えば、ここで製造された合成樹脂シート21をインモールド成形法における表皮層として利用するような場合には、0.1mm程度から2.0mm程度の板厚の合成樹脂シート21を使用することが望ましい。 また、ここで使用される合成樹脂シート21は、所定の幅、長さで切断されたものであっても良いし、ロール状の巻き取られた形態のものであっても良い。
【0030】
工程111においては、合成樹脂シート21に加飾膜層を形成するために加飾印刷が行われる。 この加飾膜層は、最終的な合成樹脂部品の意匠面を構成するものであって、絵柄や模様、文字などを印刷することにより形成される。 このとき、意匠面として機能を高めるために、色調にグラデーションを加えたり、ピアノブラック調のバックグランドを与えるための印刷を行ったり、バックライティングのための透光性に配慮した印刷等が行われる。
【0031】
加飾膜層を形成する印刷方法としては、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法など通常使用されている印刷手法を採用することができる。 また、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法等のコート法を採用することもできる。 いずれの手法を採用するかは、加飾膜層の厚さ、意匠面の質感、多色刷りか単色か、あるいはグラデーション等の特殊な技法を利用するか否か、などによって決定される。
【0032】
印刷に使用するインキとしては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の樹脂をベースとして、これに所要の顔料や染料を含有させたインキを使用することができる。
なお、加飾印刷は合成樹脂シート21の片面だけ、あるいは両面に施行することができる。
【0033】
なお、ここで使用した印刷技術を使用して合成樹脂シート部21の内側面(溶融合成樹脂が圧入される側)の金属膜層21aを設けていない領域に、合成樹脂シート21と溶融合成樹脂との接合力を向上させるために、接着層21cを設けておくようにしても良い。 このような接着層21cは、合成樹脂シート部21と射出成形樹脂部31との結合力を高めることになり、その結果、電極端子11の端面と金属膜層21aの接触状態は更に強固になる。
【0034】
工程112においては、加飾印刷が行われた合成樹脂シート21に、導電性高分子微粒子を含有した塗料を塗布する。
ここで使用される導電性高分子微粒子は、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造される。
【0035】
π−共役二重結合を有するモノマーとしては、導電性高分子を製造するために使用されるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール及び3−フェニルナフチルアミノピロール等のピロール誘導体、アニリン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−メトキシアニリン、m−メトキシアニリン、p−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、m−エトキシアニリン、p−エトキシアニリン、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン及びp−メチルアニリン等のアニリン誘導体、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体が挙げられ、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0036】
また前記製造に用いるアニオン系界面活性剤としては、種々のものが使用できるが、疎水性末端を複数有するもの(例えば、疎水基に分岐構造を有するものや、疎水基を複数有するもの)が好ましい。このような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用することにより、安定したミセルを形成させることができ、重合後において水相と有機溶媒相との分離がスムーズであり、有機溶媒相に分散した導電性高分子微粒子が入手し易い。
疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤の中でも、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端4つ)、スルホコハク酸ジ−2−エチルオクチルナトリウム(疎水性末端4つ)および分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端2つ)が好適に使用できる。
【0037】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.2mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.05mol〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では得られた導電性高分子微粒子に導電性の湿度依存性が生じてしまう場合がある。
【0038】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した導電性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0039】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0040】
前記製造で使用する酸化剤としては、前記で例示したものと同様のものが挙げられるが、特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、導電性高分子微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集して導電性高分子微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0041】
前記導電性高分子微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合しアニオン系界面活性剤にポリマー微粒子を接触吸着させる工程、
(d)有機相を分液し導電性高分子微粒子を回収する工程。
【0042】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0043】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子を入手することができる。
【0044】
上記の製造法により得られる導電性高分子微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体よりなり、そしてアニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径と、有機溶媒中で分散可能であることである。
ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。
上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
【0045】
こうして得られた有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の導電性高分子微粒子成分として使用することができる。
また、上記のようにして製造された導電性高分子微粒子でなくとも、例えば、市販で入手できる導電性高分子微粒子を塗料の成分として使用することもできる。
【0046】
また、導電性高分子微粒子を含有した塗料を塗布する領域は、合成樹脂シート21の加飾膜層を形成していない領域だけでなく、加飾膜層が形成された領域に重ねて塗布することもできる。
【0047】
ここで使用される導電性高分子微粒子を含有した塗料は、樹脂フィルムとの密着性を向上させるためにバインダーを添加してもよい。
添加するバインダーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
バインダーを使用する場合の使用量は、好ましくは導電性高分子微粒子又は導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1質量部ないし60質量部である。バインダーが60質量部を超えると金属めっきが析出せず、バインダーが0.1質量部未満であると、樹脂フィルムへの密着性が弱くなりやすい。
通常、バインダーを使用するのが好ましい。
【0048】
また、本発明に使用する塗料は有機溶媒を含有するのが好ましい。使用する有機溶媒は、微粒子に損傷を与えず、ポリマー微粒子を分散させうるものであれば特に限定はしないが、好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。
更に、本発明に使用する塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
【0049】
合成樹脂シートに導電性高分子微粒子を含有した塗料を塗布する方法としては、加飾膜層を形成する印刷方法と同様に、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法など通常使用されている印刷手法を使用して塗布することができる。 また、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法等のコート法を採用して塗布することもできる。
導電性高分子微粒子を含有した塗料を塗布した領域には、後述するように無電解めっきによって金属膜層が形成される。 この金属膜層は、アンテナや回路パターンを構成することとなるため、導電性高分子微粒子を含有した塗料を塗布する領域は、アンテナや回路パターンとして必要な位置、パターン、寸法等に合わせて設定する必要がある。
【0050】
工程113においては、導電性高分子微粒子含有塗料を塗布した合成樹脂シート21の導電性高分子微粒子を脱ドープするために、当該合成樹脂シート21を前処理液に浸す。
これは、導電性高分子微粒子にはドーパントとして作用する物質が含まれており、その結果この微粒子は導電性を呈することになるため、これを用いて無電解めっきを行うためには脱ドープ処理が必要になるからである。
【0051】
脱ドープ処理のための前処理液は、還元により脱ドープするための還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液、又は、アルカリ性溶液が挙げられる。
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液を使用するのが好ましい。
アルカリ性溶液としては、緩和なアルカリ条件、例えば、1M 水酸化ナトリウム水溶液や、pH9ないし10程度の溶液で処理することができる。
具体的な溶液としては、1M 水酸化ナトリウム水溶液、ATSコンディクリンCIW−2(奥野製薬工業(株)社製)−10質量%水溶液(pH9〜10)等が挙げられる。
処理温度は、20ないし70℃、好ましくは30ないし60℃であり、処理時間は、2ないし10分、好ましくは、3ないし7分である。
上記の脱ドープ処理により、塗膜層の表面上の触媒金属吸着量が0.1μg/cm2以上となるようにするのが好ましい。
上記吸着量が0.1μg/cm2未満であると、均一な金属めっき膜を得ることが困難であるか又は金属が析出しにくくめっき膜が形成されにくくなる。
【0052】
工程114においては、導電性高分子微粒子を脱ドープ処理した合成樹脂シート21をめっき触媒金属を含有する触媒液に浸す。
この触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む溶液の安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。
好ましい、具体的な触媒液としては、0.02%塩化パラジウム−0.01%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし10分、好ましくは、1ないし5分である。
【0053】
工程115においては、めっき触媒金属を含有する触媒液に浸した合成樹脂シート21を無電解めっき液に浸す。
この無電解めっき液は、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。
即ち、無電解めっきに使用できる金属は、銅、金、銀、ニッケル、クロム等、全て適用することができるが、銅が好ましい。
無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。
【0054】
無電解めっき液により処理された合成樹脂シート21は、無電解めっきによる金属膜層のみでもよいし、更には、無電解めっきによる金属膜層上に電解めっきを施して金属膜層を厚くすることもできる。なお、上記電解めっきに使用できる金属は、電解めっきにより析出するものであれば特に限定されないが、例えば銅、金、銀、ニッケル、クロム、亜鉛、錫、コバルト等、全て適用することができる。
【0055】
以上説明したような工程を経ることにより、無電解めっき液により処理された合成樹脂シート21の導電性高分子微粒子を含有した塗料を塗布した領域には金属膜層が形成され、その結果、極めて簡単な工程で、かつ低コストで、加飾膜層(または加飾膜層と接着層)と金属膜層を備えた合成樹脂シート21の製造が可能となる。
【0056】
このようにして得られた合成樹脂シート21は、後で説明するインモールド成形法において使用され合成樹脂成形品の表皮部分を構成する前駆体として使用することができ、表面に意匠面を構成することとなる加飾膜層(または加飾膜層と接着層)と、アンテナや回路パターンを構成することとなる金属膜層の両方を備えた、多種多様な形状を有する合成樹脂成形品を形成することができるものである。
【0057】
以上説明してきた加飾印刷層、金属膜層21a、および接着層21cを備えた合成樹脂シート21を製造する工程においては、導電性高分子微粒子含有塗料を使用していたが、これに限るものではなく、還元性高分子微粒子含有塗料を使用することもできるが、ここでは詳細な説明は省略する。
【0058】
次に、(2)合成樹脂シート21を使用すると共に、電極端子11をインサートしてインモールド成形する工程について説明する。
本発明にかかるインモールド成形による合成樹脂成形品10の製造工程は、図4に示すように大きく分けて以下の3つの工程から成り立っている。
(1)合成樹脂シート21を金型に合わせて切断加工する工程211
(2)合成樹脂シート21および電極端子11を金型内に設置する工程212
(3)溶融合成樹脂の射出により、合成樹脂シート21および電極端子11と一体化した合成樹脂成形品10を成形する工程213
【0059】
工程211においては、前述した加飾印刷層、金属膜層21a、および接着層21cを備えた合成樹脂シート21を製造する工程において製造された合成樹脂シート21を後述するように金型内に設置するために、合成樹脂シート21は金型の開口部形状に合わせて切断加工される。 合成樹脂シート21の切断は、鋏や裁断機(シャーリング)で切断することもできるが、打ち抜き金型を利用したプレス機械によって切断加工するようにしても良い。
【0060】
また、金型の開口部形状に合わせて切断加工された合成樹脂シート21は、金型の内面形状に合わせて予めフォーミングしておくようにしても良い。 このフォーミングする方法としては、熱板式真空圧空成形法を使用したり、あるいはホットプレス成形法を使用したりすることができる。
【0061】
なお、合成樹脂シート21を予めフォーミングする段階としては、加飾印刷層、金属膜層21a、および接着層21cを既に備えた段階の合成樹脂シート21をフォーミングすることに限定されるものではなく、加飾印刷層、金属膜層21a、および接着層21cを備えた合成樹脂シート21を製造する工程途中においてフォーミングするようにしても良い。 例えば、合成樹脂シート21に導電性高分子微粒子含有塗料を塗布する工程112の後、あるいは合成樹脂シート21を脱ドープ用前処理液に浸す工程113の後、または合成樹脂シート21をめっき触媒金属を含有する触媒液に浸す工程114の後に、予めフォーミングしておくようにすることもできる。(図5参照のこと)
このような段階においてフォーミングを行なうことによって、合成樹脂シート21に形成する金属膜層21aにダメージを与えにくくするという効果が得られる。
【0062】
合成樹脂シート21を金型内に設置する工程212においては、合わせ型の開口部から合成樹脂シート21上に設けた金属膜層21aが金型内面に向くようにして挿入し、セットする。 金型内の適切な位置に合成樹脂シート21を保持するようにするために、予め金型に微小な孔を設けておき、この孔と真空ポンプ等の真空源とを接続させることによって金型内表面と合成樹脂シート21の間を真空状態に維持するようにしても良い。
【0063】
その後、合成樹脂シート21上に設けた金属膜層21aに対向する位置に所定数の電極端子11を金型内にインサートしておく。 このとき、上金型と下金型を重ね合わせた際に、電極端子11の端面が合成樹脂シート21上に設けた金属膜層21a表面に所定の面圧で接触するように、金型寸法および電極端子11寸法が設定される。
【0064】
以上のように金型内に合成樹脂シート21を装着し、電極端子11を金型内にインサートした後、上金型と下金型を閉じ、合成樹脂シート21と電極端子11を一体化した合成樹脂成形品10を成形する工程213に移行する。 この工程は、一般に行われている熱可塑性樹脂による射出成形の工程と基本的には同じであるが、溶融した熱可塑性樹脂(以後単に「溶融合成樹脂」と言う)はゲートを通り、既に装着されている合成樹脂シート21の背面と金型が成す空間に注入される。 そしてこの空間には、前述した所定数の電極端子11が存在することになる。
【0065】
このように合成樹脂シート21の背面と金型が成す空間に溶融合成樹脂を注入した後、溶融した合成樹脂の温度がある程度下がると合成樹脂シート21と一体化した合成樹脂成形品10が成形され、溶融合成樹脂が凝固した射出成形樹脂部にはインサートされた所定数の電極端子11が埋め込まれることになる。
【0066】
このように溶融合成樹脂が凝固し冷却される過程で、溶融合成樹脂(射出成形樹脂部31)は収縮するため、射出成形樹脂部31にインサート成形された電極端子11には、電極端子11の外周面から圧縮力が作用すると共に、射出成形樹脂部31がその板厚方向にも収縮するため、電極端子11の端面を金属膜層21aに押し付ける力が作用するようになる。 その結果、所定数配置された電極端子11が金属膜層21aに確実に接触されるようになるため、電極端子11と金属膜層21aの間に信頼性のある電気的接続を確保できるようになる。
【符号の説明】
【0067】
10 合成樹脂成形品
11 電極端子
11a フランジ
21 合成樹脂シート
21a 金属膜層
21b ピロール系樹脂層
21c 接着層
31 射出成形樹脂部
31a フランジ上に設けられた射出成形樹脂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に設置した合成樹脂シート上に溶融合成樹脂を射出することによって成形される合成樹脂成形品であって、
当該合成樹脂成形品は、合成樹脂シート部と射出成形樹脂部から成り、
当該合成樹脂シート部には加飾印刷により形成された加飾膜層と、無電解めっき又は電解めっきにより形成された金属膜層が備えられ、
当該射出成形樹脂部には、インサート成形により電極端子が埋め込まれ、
当該電極端子の一方の端部は当該金属膜層に接触し、当該電極端子の他方の端部は当該射出成形樹脂部から外部へ突出している
ことを特徴とする合成樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1に記載された合成樹脂成形品であって、
前記電極端子が前記金属膜層に接触する端部において、前記電極端子の長手方向に垂直な断面の面積が、接触面に向かって徐々に大きくなっていることを特徴とする合成樹脂成形品。
【請求項3】
請求項1に記載された合成樹脂成形品であって、
前記電極端子が前記金属膜層に接触する端部において、前記電極端子の長手方向と垂直な方向に、前記電極端子が1つ又は複数の突起を有している
ことを特徴とする合成樹脂成形品。
【請求項4】
請求項1に記載された合成樹脂成形品であって、
前記電極端子が前記金属膜層に接触する端部において、前記電極端子の長手方向と垂直な方向に鍔状に突出したフランジを備える
ことを特徴とする合成樹脂成形品。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載された合成樹脂成形品であって、
前記電極端子が前記金属膜層に接触する端面に、凹凸状の突起または溝が設けられている
ことを特徴とする合成樹脂成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−254564(P2012−254564A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128869(P2011−128869)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(392010267)株式会社サカイヤ (24)
【Fターム(参考)】