説明

電気式床暖房装置

【課題】コード状ヒータ20を組み込んだ電気式床暖房パネル30の複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、コントローラ40を介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置において、製品寿命を超えて継続使用しているとき等に、コード状ヒータ20のヒータ線22に疲労断線が生じ、ヒータ線近傍が異常発熱して出火に至るのを防止できる安全設計を組み込む。
【解決手段】コード状ヒータ20として、通電により発熱するヒータ線22と検知線24その間に充填された溶断層23とを備えたものを用いる。各電気式床暖房パネル30には異常加熱により溶断層23が溶融してヒータ線22と検知線24とが短絡したときに流れる短絡電流により溶断するヒューズ26をコード状ヒータ20に直列に組み込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気式床暖房装置、特に発熱源であるコード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰めた形態の電気式床暖房装置に関する。
【背景技術】
【0002】
木質基材の裏面に形成した配線溝内にコード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続しながら床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置は知られている(特許文献1等参照)。床暖房構造としたときの遮音性能を高めるために、木質基材に遮音溝を形成することも行われており、また、コード状ヒータを組み込んだ木質基材の裏面に弾性を持つ緩衝材を貼り付けて、いわゆる直貼りタイプの電気式床暖房パネルとすることも行われている。コントローラには、加熱エリアの特定、通電の開始と停止、定常運転モードでの温度レベル設定、異常検知などの機能が備えられるとともに、各電気式床暖房パネルには、過昇温を防止するためにサーモスタット等が備えられ、電気式床暖房装置の安全性を確保している。
【0003】
【特許文献1】特開2005−120810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気式床暖房装置の安全運転は、通常の使用状態では充分に保証されている。しかし、一般に構造部材は、その構造上からくる寿命を当然に有しており、例えば電気式床暖房パネルの場合、10年程度の長期にわたって継続して使用されると、歩行等による荷重が繰り返し加わることで、内部に組み込んだコード状ヒータにひずみによる応力が繰り返しかかり、その影響で疲労断線が起こる可能性がある。断線に至る過程で、あるいは断線箇所でスパークが発生し、燃焼を起こすことを完全に否定することはできない。
【0005】
また、地震等により設計値以上の外的応力が電気式床暖房装置を取り付けている建物に作用した場合、躯体にゆがみが生じ、電気式床暖房パネルの配線溝に埋め込んだコード状ヒータに部分的に予期せぬ集中応力が作用するようになった場合にも、使用者がそれを知らずに電気式床暖房装置の使用を継続していると、同様のことが起こり得る。
【0006】
本発明は、上記のような製品寿命を超えたときにあるいは地震のような異常事態が発生したときに起こる可能性のある、コード状ヒータの断線に起因する燃焼等の不都合に対して、安全設計を施した電気式床暖房装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する本発明による電気式床暖房装置の第1の態様は、コード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置であって、前記コード状ヒータは、通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有するものであり、各電気式床暖房パネルには前記ヒータ線と前記検知線とが短絡したときに流れる短絡電流により溶断するヒューズがコード状ヒータに直列に組み込まれていることを特徴とする。上記ヒューズとしては、過電流ヒューズや抵抗器付き温度ヒューズ等が挙げられる。
【0008】
上記の電気式床暖房装置において、通常の使用状態では、コード状ヒータに直列に組み込またヒューズにはヒータ線の持つ抵抗値に応じた電流が流れており、ヒューズが溶断することなく、正常な運転が継続する。製品寿命を超えた長期の使用等により、いずれかの電気式床暖房パネルに組み込まれたコード状ヒータに疲労断線等による部分断線が生じたと仮定する。部分断線により接触抵抗が増加してその近傍に設定値以上の発熱が生じる。
【0009】
本発明による電気式床暖房装置では、コード状ヒータとして通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有する構成のものを用いており、前記した設定以上の発熱により溶断層が溶融する。
【0010】
絶縁層として機能していた溶断層が溶断することにより、ヒータ線と検知線が短絡状態となる。この短絡により設定値よりも高い短絡電流が回路を流れ、コード状ヒータに直列に組み込まれているヒューズはこの短絡電流により溶断する。それにより、コントローラからの電力の供給は完全に遮断されるので、当該発熱箇所での発熱は停止し、燃焼にまで至るような事態となるのを確実に阻止することができる。すなわち、事故発生時に安全サイドに導かれる。
【0011】
なお、電気式床暖房パネルには、通常、ヒータ回路にサーモスタットが組み込まれるが、サーモスタット接続部に近い位置で前記断線が生じても、検知線を流れる短絡電流の値は小さく、ヒューズが溶断する確率が小さくなる。そのために、好ましくは、特にサーモスタット接続部に近い位置においてコード状ヒータに断線が起こり難くした手段を施しておくことが望ましい。その手段の一例として、サーモスタット接続部付近のコード状ヒータに直接応力が発生しないように、少なくともその近傍の配線溝の溝幅を広くしてコード状ヒータと配線溝との間にクリアランスを設けること等が挙げられる。
【0012】
上記の課題を解決する本発明による電気式床暖房装置の第2の態様は、コード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置であって、前記コード状ヒータは、通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有するものであり、前記コントローラは、前記ヒータ線と前記検知線とが短絡したときに検知線を流れる短絡電流が流れるバイパス回路と、バイパス回路に短絡電流が流れたときに主電力供給回路の電力の供給を遮断する遮断手段とが組み込まれていることを特徴とする。
【0013】
上記第2の形態の電気式床暖房装置においても、通常の使用状態では、主電力供給回路にはヒータ線の持つ抵抗値に応じた電流が流れた状態で正常な運転が継続する。前記したように、製品寿命を超えた長期の使用等により、いずれかの電気式床暖房パネルに組み込まれたコード状ヒータに部分断線が生じてその近傍に設定値以上の発熱が生じたと仮定する。この形態の電気式床暖房装置でも、コード状ヒータとして通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有する構成のものを用いており、前記した設定以上の発熱により溶断層が溶融し、ヒータ線と検知線が短絡状態となる。
【0014】
この短絡により生じる短絡電流は、コントローラ内に形成したバイパス回路を流れる。コントローラには例えばリレー接点のような遮断手段が主電力供給回路に直列に組み込まれており、コントローラ内の制御装置は、バイパス回路に短絡電流が流れたこと検知して、前記遮断手段を非接続状態とする。それにより、コントローラからの電気式床暖房パネルへの電力の供給は遮断されるので、前記発熱箇所での発熱は停止し、燃焼にまで至るような事態となるのは確実に阻止できる。この形態の電気式床暖房装置でも、やはり事故発生時に安全サイドに導かれる。
【0015】
なお、この第2の態様でも、サーモスタット接続部に近い位置で前記断線が生じたときに検知線を流れる短絡電流の値は小さく、バイパス回路に短絡電流が流れても、遮断手段を非接続状態とする制御が実行されないことが起こり得る。それを回避するために、この第2の態様においても、特にサーモスタット接続部に近い位置において、配線溝の溝幅を広くする等により、コード状ヒータに断線が起こり難くした手当を施しておくことが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製品寿命を超えたときにあるいは地震のような異常事態が発生したときに起こる可能性のある、コード状ヒータの断線に起因する燃焼等の不都合に対して、有効な安全設計を施した電気式床暖房装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態により説明する。図1は電気式床暖房装置の全体を示す概略図、図2は電気式床暖房パネルの一例を説明する図、図3は電気式床暖房パネルに組み込まれたコード状ヒータを説明する図、図4は電気回路図である。
【0018】
電気式床暖房装置Aは、床下地10の上に、図2に一例を示すような、発熱源としてのコード状ヒータ20を組み込んだ電気式床暖房パネル30の複数枚を電気的に接続して敷き詰めて構成され、各電気式床暖房パネル30には、外部からの商用電力がコントローラ40を介して供給される。コントローラ40は、前記特許文献1に記載のような従来知られた電気式床暖房装置で用いられているものであってよく、加熱エリアの特定、通電の開始と停止、定常運転モードでの温度レベル設定、異常検知などの機能が備えられる。
【0019】
電気式床暖房パネル30は、図2aに緩衝材層を除去した状態の背面図に示すように、この例では、長尺状の単位ピース31が長手方向に位置をずらしながら雁木状に組み付けられており、その裏面には連続する配線溝32が形成されている。配線溝32の中には、図3に示すコード状ヒータ20が埋め込まれており、コード状ヒータ20の端部はコネクター34、35に電気的に接続している。なお、図2で、36は、各単位ピース31の裏面に配線溝32に交差するようにして形成される遮音溝である。また、電気式床暖房パネル30の裏面には緩衝材層37が貼り付けられており、この例において緩衝材層37は、図2bに示すように、不織布層38と樹脂発泡体層39との2層構成とされている。さらに、図2には図示されないが、各電気式床暖房パネル30には、図4に示すように、後記するヒータ線22と検知線24とが短絡したときに流れる短絡電流により溶断する過電流ヒューズ26がコード状ヒータ20に直列に組み込まれている。
【0020】
図3に示すように、コード状ヒータ20は、テフロンより糸のような耐熱芯材21に、発熱体であるヒータ線22が巻き込まれており、その全体がヒータ線22の異常発熱で溶融する非導電性材料からなる溶断層23で被覆されている。溶断層23の外周には銅線のような電気抵抗の小さい線からなる検知線24が配置されており、それ全体が耐熱PVCのような断熱性のある非導電性材料からなる被覆材25により覆われている。溶断層23は、熱可塑性樹脂、例えばナイロン系のものやポリアミド系樹脂製のもので作られており、通常の運転時ではそのままで存在し、ヒータ線22に予定されている最高加熱温度を超える異常加熱状態となったとき溶融する。そのような異常加熱状態は、例えば、ヒータ線22に部分断線が生じて接触抵抗が異常に増加するような場合に発生する。
【0021】
図4は、上記した電気式床暖房装置Aの電気回路図である。交流電源はコントローラ40からコネクター34,35を介して電気式床暖房パネル30に供給される。電気式床暖房パネル30には、ヒータ線22に直列に過電流ヒューズ26が組み込まれており、該過電流ヒューズ26には検知線24も接続している。正常な運転環境では、供給される電力は高い抵抗値を持つヒータ線22を流れ、その発熱により床暖房が行われる。正常運転での温度制御等はコントローラ40により行われるが、正常運転時に前記過電流ヒューズ26を流れる電流は、ヒータ線22の抵抗値に依存する小さな値であり、過電流ヒューズ26が溶断することはない。
【0022】
製品寿命を超えてもなお継続使用していると、使用者がまったく知らないうちにヒータ線22に部分断線が生じ、接触抵抗が異常に増加して異常加熱が生じる場合がある。その場合に、その部分に存在する溶断層23が溶融し、ヒータ線22と検知線24とが短絡状態となる。なお、図4では、1枚の電気式床暖房パネル30からなる電気式床暖房装置Aが示されるが、複数枚の電気式床暖房パネル30が直列にまたは並列に接続されて電気式床暖房装置Aが構成される場合も、個々の電気式床暖房パネル30において、同様な事態が生じると考えられる。
【0023】
短絡が生じると、抵抗の少ない検知線24側を多くの電流が流れ、その短絡電流により過電流ヒューズ26が溶断する。溶断によりコントローラ40からの電力供給回路は完全に遮断されるので、断線箇所でのそれ以上の発熱やスパークの発生は起こらない。それにより、電気式床暖房パネル30の裏面に積層した不織布層38や樹脂発泡体層39からなる緩衝材層37が着火するという事態を確実に回避することができる。
【0024】
図5は本発明による電気式床暖房装置Aの他の態様を示す電気回路図である。ここで、電気式床暖房パネル30は、図2および図3に示したものとほぼ同じ構成であるが、前記した過電流ヒューズ26は備えない。代わりに、コントローラ40には、既知の制御回路等に加えて、前記ヒータ線22と前記検知線24とが短絡したときに検知線24を流れる短絡電流が流れるバイパス回路41が形成されるとともに、バイパス回路41に短絡電流が流れたときに主電力供給回路への電力の供給を遮断する遮断手段42が組み込まれている。遮断手段42は任意であるが、図5に示す例では、リレー接点43を主電力供給回路に直列の配置し、バイパス回路41に配置した電磁誘導コイルのようなリレー接点駆動部44により、バイパス回路41に短絡電流が流れたとき、リレー接点43を開くようにしている。
【0025】
この形態でも、通常の運転状態ではバイパス回路41に電流が流れることはなく、正常運転が継続する。前記のように電気式床暖房パネル30のヒータ線22と検知線24との間に短絡が生じると、短絡電流がバイパス回路41を流れてリレー接点43を開き、主電力供給回路への通電は完全に遮断されるので、断線箇所においてそれ以上の発熱やスパークが生じるのを確実に阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による電気式床暖房装置の全体を示す概略図。
【図2】電気式床暖房パネルの一例を説明する図。
【図3】電気式床暖房パネルに組み込まれたコード状ヒータを説明する図。
【図4】本発明による電気式床暖房装置の第1の形態における電気回路図。
【図5】本発明による電気式床暖房装置の第2の形態における電気回路図。
【符号の説明】
【0027】
A…電気式床暖房装置、10…床下地、20…コード状ヒータ、21…耐熱芯材、22…ヒータ線、23…溶断層、24…検知線、25…被覆材、26…過電流ヒューズ、30…電気式床暖房パネル、31…単位ピース、32…配線溝、34、35…コネクター、37…緩衝材層、38…不織布層、39…樹脂発泡体層、40…コントローラ、41…バイパス回路、42…遮断手段、43…リレー接点、44…リレー接点駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置であって、
前記コード状ヒータは、通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有するものであり、各電気式床暖房パネルには前記ヒータ線と前記検知線とが短絡したときに流れる短絡電流により溶断するヒューズがコード状ヒータに直列に組み込まれていることを特徴とする電気式床暖房装置。
【請求項2】
コード状ヒータを組み込んだ電気式床暖房パネルの複数枚を電気的に接続して床下地面に敷き詰め、コントローラを介して電気式床暖房パネルに所要の電力を供給するようにした電気式床暖房装置であって、
前記コード状ヒータは、通電により発熱するヒータ線と検知線と前記ヒータ線と検知線との間に充填された溶断層とを有するものであり、前記コントローラは、前記ヒータ線と前記検知線とが短絡したときに検知線を流れる短絡電流が流れるバイパス回路と、バイパス回路に短絡電流が流れたときに主電力供給回路の電力の供給を遮断する遮断手段とが組み込まれていることを特徴とする電気式床暖房装置。
【請求項3】
前記電気式床暖房パネルはコード状ヒータに接続するサーモスタットを備えており、サーモスタット接続部に近い位置においてコード状ヒータに断線が起こり難くした手段が施してあることを特徴とする請求項1または2に記載の電気式床暖房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−111637(P2008−111637A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296381(P2006−296381)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】