説明

電気機械式のブレーキ

本発明は電気機械式のディスクブレーキ(1)に関する。本発明による電気機械式のディスクブレーキ(1)は、駐車ブレーキとして形成するために、切換可能なフリーホイール(ころ32を備えたクランプころ式フリーホイール)を有している。本発明は、ブレーキ(1)の電動モータ(3)のモータ軸(8)の固定側軸受(12)およびフリーホイールを電動モータ(3)のハウジング(9)のカバー(11)内に格納し、ディスクブレーキ(1)のすべての電気的な接続をカバー(11)を介して案内することを提案する。統合された構造形式により、使用される構成部品の個数は大幅に減少され得る。さらに、本発明により、モータ軸(8)に関するフリーホイール(31)の位置公差は減少され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、特に自動車のための車両ブレーキとして予定されている、請求項1の上位概念部に記載の特徴を備えた電気機械式のブレーキ、すなわち電気機械式のブレーキであって、電動モータと、回転/並進変換伝動装置と、摩擦ブレーキライニングとが設けられており、該摩擦ブレーキライニングが、ブレーキの操作のために、電動モータにより回転/並進変換伝動装置を介して制動体に押し付けられることができ、電動モータがハウジングに格納され、該ハウジングの一方の端面にカバーが取り付けられており、さらに、切換可能なフリーホイールが設けられていて、該フリーホイールが、オンに切り換えられた位置で、電動モータのモータ軸をブレーキの緩解方向での回動に抗してロックする形式のものに関する。
【0002】
この種のブレーキは自体公知である。その操作のために、すなわち摩擦ブレーキライニングを、回転可能な、制動したい制動体に押し付けるために、ブレーキは、電動モータと回転/並進変換伝動装置とを備えた電気機械式の操作装置を有している。回転/並進変換伝動装置を介して、電動モータにより、摩擦ブレーキライニングは制動体に押し付けられることができる。電動モータおよび回転/並進変換伝動装置には、多数の減速伝動装置が介在している。回転/並進変換伝動装置として、ねじ伝動装置が慣用されているが、別の伝動装置、例えばラック伝動装置、または電動モータにより減速伝動装置を介して旋回可能な、摩擦ブレーキライニングを制動体に押し付けるカムが、電動モータの回転駆動運動を、摩擦ブレーキライニングを制動体に押し付けるための並進運動、つまり直動に変換するために顧慮されてもよい。電動モータの代わりとしての電磁石も考えられる。制動体はディスクブレーキの場合はブレーキディスクであり、ドラムブレーキの場合はブレーキドラムである。
【0003】
この種の電気機械式のブレーキの一例は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第10255192号明細書に開示されている。駐車ブレーキ(パーキングブレーキ)としての構成のために、公知のブレーキは、切換可能なフリーホイールを有している。フリーホイールは、オンに切り換えられた位置で、電動モータのモータ軸がブレーキの緩解方向で回動しないようにこれをロックする。ロックは直接モータ軸において行われるか、または間接的に例えば伝動装置軸において行われることができる。ブレーキの操作方向または緊締方向で、モータ軸は、フリーホイールがオンに切り換えられているときでも回転可能である。その結果、ブレーキは操作されるものの、緩解はされない。フリーホイールがオフに切り換えられているとき、モータ軸は両回転方向で回転可能であり、ブレーキは常用ブレーキとして操作可能かつ緩解可能である。公知のブレーキでは、フリーホイールは同軸的に、電動モータおよび/または回転/並進変換伝動装置が格納されているハウジングにフランジ固定されている。
【0004】
発明の説明および利点
本発明による、請求項1の特徴部に記載した特徴を備えたブレーキは、電動モータが格納されているハウジングを有している。場合によっては存在する減速伝動装置および/または回転/並進変換伝動装置は、やはりこのハウジング内に格納されていることができる。ハウジングの一方の端面にはカバーが取り付けられており、カバーは本発明により、電動モータのモータ軸のための軸受を備えた軸受シールドを形成する。さらに、本発明によるブレーキのフリーホイールはカバーに接してもしくはカバー内に収められている。電動モータのためのハウジングのカバーの、この統合された構造形式により、個別部品の個数は減少し、同時に本発明によるブレーキの組立手間は減少する。モータ軸に関するフリーホイールの位置精度は向上する。それというのも、モータ軸のための軸受がカバー内に配置されており、このカバーに接してもしくはカバー内にフリーホイールも収められているからである。フリーホイールに関するモータ軸の軸方向の位置の高い精度は遵守される。高い軸方向精度は、フリーホイールの確実な切換を保証し、フリーホイールの意図しない切換を回避するために重要である。さらに本発明は、フリーホイールの組付角の正確な遵守を保証する。本発明は、ブレーキのコンパクトな構造を可能にする。
【0005】
本発明によるブレーキは、自己倍力装置を備えていることができる。自己倍力装置は、制動時に、回転する制動体によって、制動体に押し付けられる摩擦ブレーキライニングに及ぼされる摩擦力を、圧着力に変換する。この圧着力は摩擦ブレーキライニングを、操作装置により加えられる圧着力に対して付加的に、制動体に押し付け、これにより制動力を高める。機械式の自己倍力装置として、例えばウェッジ機構またはランプ機構またはレバー機構が顧慮される。別の、例えば液圧式の自己倍力装置も考えられる。
【0006】
本発明による電気機械式のブレーキのための構造形式として、ディスクブレーキ、ドラムブレーキまたはその他のブレーキ構造形式が顧慮される。
【0007】
従属請求項は、請求項1に係る発明の有利な構成および変形を対象としている。本発明の有利な構成では、前記カバーが、前記モータ軸の軸受のための軸受レースを形成する。本発明の別の有利な構成では、前記モータ軸の軸受の軸受レースの少なくとも一部分が、モータ軸のワンピースな構成部分であり、軸受レースのこの部分がモータ軸を軸方向で固定する。本発明のさらに別の有利な構成では、前記カバーが、前記フリーホイールのロックの一部である。本発明のさらに別の有利な構成では、前記カバーが、前記電動モータおよび前記フリーホイールのすべての電気的な接続を有する。本発明のさらに別の有利な構成では、当該ブレーキがディスクブレーキであり、前記ハウジングが当該ブレーキのブレーキキャリパの一部である。本発明のさらに別の有利な構成では、前記カバーが、前記フリーホイールのためのハウジングを形成する。
【0008】
図面
本発明について以下に、図面に示した実施例を参照しながら詳細に説明する。
図1:本発明による電気機械式のブレーキの断面図である。
図2:図1に示したブレーキのハウジングのカバーの横断面図である。
【0009】
実施例の説明
図面に示し、全体として符号1を付した本発明によるブレーキは、ディスクブレーキである。ブレーキ1は、電動モータ3と、後述する他段の歯車減速伝動装置と、ラック伝動装置またはその他の回転/並進変換伝動装置とを備えた電気機械式の操作装置2を有する。電動モータ3、減速伝動装置および回転/並進変換伝動装置は、ブレーキ1の電気機械式の操作装置を形成する。電動モータ3は、ステータ巻線6を備えたステータ5ならびにモータ軸8上のロータ7を有する。電動モータ3は、電子的に整流される直流モータ(ブラシレスBLDCモータ)である。このことはしかし、本発明にとって必須ではない。電動モータ3はハウジング9内に格納されている。ハウジング9内にはステータ5が圧入またはその他の形式で固定されている。モータ軸8は一端で自由側軸受10により、すなわち軸方向遊びを有してハウジング9内に回転可能に支承されている。図示し、説明する実施例では、ころ軸受が自由側軸受10として使用される。
【0010】
他方の端面でハウジング9はカバー11により閉鎖されている。カバー11は例えば鋼または比較可能な強度の材料から製作されている。カバー11は電動モータ3の固定側軸受12の軸受シールドを形成する。固定側軸受12として、本発明の、図示し、説明する実施例では、玉13を備えた玉軸受が選択されている。玉13は玉保持器14内に回転可能に保持されている。カバー11内の貫通した軸方向孔内に研削され、円形の横断面を備えた環状の溝は、固定側軸受12の外側の軸受レース15を形成する。固定側軸受12の内側の軸受レースは、モータ軸8に関する半径方向平面内で2分割されている。内側の軸受レースの半分は、モータ軸8のリング段に研削され、円形の横断面を備えた転動面16により形成される。やはり円形の横断面を備えた第2の転動面17は、モータ軸8に螺合されているナット18に形成されている。モータ軸8の転動面16とナット18の転動面17とは、補完し合って、円形の横断面を備えた環状の溝および固定側軸受12の内側の軸受レース16,17を形成する。モータ軸8上でナット18を回転させることにより、軸受遊びは調節され得る。ナット18は例えばねじ止め剤(Schraubensicherungslack)により回動に抗してモータ軸8に固定されている。
【0011】
固定軸受12の前記軸受構造の代わりに、軸受シールドを形成するカバー11内の、モータ軸8の別の回転支承部が顧慮されてもよい。例えば、ころがり軸受がモータ軸8上に被せ嵌められ、カバー11内の軸方向孔内のリング段に嵌め込まれ、そこで保持リングにより固定されていることができる(図示せず)。
【0012】
モータ軸8に相対回動不能な、例えば研削により製作される小歯車19は、相対回動不能に第1の伝動装置軸21上にある大歯車20と噛み合う。伝動装置軸21には、別の伝動装置段と、ホイールブレーキのための、任意の形式で操作される締付け機構とが続く。
【0013】
電動モータ3が格納されているハウジング9は、ディスクブレーキとして形成されたブレーキ1の、その他の部分は図示しないブレーキキャリパの一部である。ハウジング9はブレーキキャリパに取り付けられていてもよい。ハウジング9内には、電動モータ3だけでなく、図示しない締付け機構を含めたすべての操作装置が格納されている。その一部、つまりハウジング9だけが示されているブレーキキャリパは、自体公知の形式で、浮動キャリパとして形成されている。すなわち、このブレーキキャリパは、図示しないブレーキディスクに対して横方向で移動可能に案内されている。これにより、自体公知の形式で、摩擦ブレーキライニングもしくは摩擦ブレーキパッドをブレーキディスクの一方の面に押し付けると、ブレーキディスクの反対側でブレーキキャリパ内に配置されている第2の摩擦ブレーキライニングが、ブレーキディスクの他方の面に押し付けられ、その結果、ブレーキディスクが両側で制動される。
【0014】
図2に見て取れるように、カバー11に接してもしくはカバー11内に、切換可能なフリーホイールもしくはワンウェイクラッチ31が格納されている。フリーホイール31は、クランプエレメントまたはロックエレメントとしてのころ32を備えたクランプころ式フリーホイール(Klemmrollenfreilauf)として形成されている。フリーホイール31の別の構造形式も可能である。ころ32は電動モータ3のモータ軸8の周りに分配配置されている。ころ32は、モータ軸8とカバー11との間のリング状の中間室内に配置されているころ保持器33の切欠き内に収容されている。やはりころ保持器33の切欠き内に配置されているばねエレメント34は、ころ32を周方向で負荷する。その結果、ころ32はモータ軸8から持ち上げられている。ころ32は、カバー11の軸方向孔内に設けられたポケット35内を転動する。その際、ポケット35の基面はころ32のための転動面を形成する。ポケット35の、転動面を形成する基面は、モータ軸8に対してスパイラル状、つまり渦巻状に延びる。モータ軸8を中心としたころ保持器33の回動により、フリーホイール31のころ32はポケット35内を転動し、渦巻状にモータ軸8に向かって運動する。ころ32がポケット35およびモータ軸8と当接すると、ころ32は、ポケット35の渦巻状の経過に基づいて、一方の回転方向でのモータ軸8の回転をロックする。この回転方向はブレーキ1の開放方向である。緊締方向でのモータ軸8の回転は可能である。ころ保持器33の、説明した回動した位置は、フリーホイール31の、オンに切り換えられたロック位置であり、このロック位置で、フリーホイール31は、緩解方向でのモータ軸8の回転をロックし、かつブレーキ1の操作を許可する。
【0015】
ころ保持器33がその出発位置に戻り回動し、ころ32がばねエレメント34によりモータ軸8から離間されると、フリーホイール31はオフに切り換えられており、モータ軸8は両回転方向で自由に回転可能である。
【0016】
ころ保持器33を回動させるために、ひいてはフリーホイール31をオンに切り換えるために、フリーホイール31は、巻線37と可動子38とを備えた電磁石36を有している。電磁石36のハウジング39は、電動モータ3のハウジング9のカバー11とワンピース、つまり一体的である。電磁石36のハウジング39を閉鎖するカバー40は、電磁石36の、磁束を閉じるヨークを形成する。電磁石36はフリーホイール31を、フリーホイール31のころ保持器33に対して接線方向で配置されているタペット41を介して切り換える。タペット41は、半径方向外側に向かってころ保持器33から突出したカム42に作用する。カム42の、対向して位置する面には、圧縮コイルばねの形式のばねエレメント43が押し付けられている。このばねエレメント43はカバー11のポケット内にころ保持器33の外側で格納されており、カバー11内に支持されている。電磁石36のコイル37の通電により、可動子38は吸引され、タペット41を介してフリーホイール31のころ保持器33のカム42を押圧する。ころ保持器33はこれにより、上で説明したように、オンに切り換えられた位置へと回動される。ブレーキ1は、フリーホイール31がオンに切り換えられた位置で、さらに緊締されることはできるが、緩解はされ得ない。ブレーキ1が、フリーホイール31がオンに切り換えられているときに操作されているまたは操作されると、これにより、仮に電磁石36がもはや通電されなくても、モータ軸8とカバー11との間にフリーホイール31のころ32を噛み込んで保持する機械的な張力が形成される。ブレーキ1はこれにより電流なしに、操作された位置に保持され、これにより駐車ブレーキとして使用され得る。緩解するためには、操作されたブレーキ1が電動モータ3により緊締される。これにより、機械的な予荷重は解除される。その結果、ばねエレメント43はフリーホイール31のころ保持器33を、オフに切り換えられた位置へと戻し回動する。モータ軸8は今や自由に回転可能であり、ブレーキ1は緩解され、常用ブレーキとして使用され得る。ころ32と協働し、フリーホイール31がオンに切り換えられたときにころ32と相俟ってモータ軸8をブレーキ1の緩解方向での回転に抗してロックする、ころ32のためのポケット35を備えたカバー11は、フリーホイール31のロックの一部を形成する。
【0017】
ハウジング9のカバー11は、電動モータ3ならびに電磁石36のすべての電気的な線路を包含する。電気的な線路は、単数または複数の、図面には不可視の電気的なコネクタ内に集合されている。このことは、本発明によるブレーキ1の電気的な構成部品の簡単な電気的な接続の利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による電気機械式のブレーキの断面図である。
【図2】図1に示したブレーキのハウジングのカバーの横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械式のブレーキであって、電動モータ(3)と、回転/並進変換伝動装置と、摩擦ブレーキライニングとが設けられており、該摩擦ブレーキライニングが、ブレーキ(1)の操作のために、電動モータ(3)により回転/並進変換伝動装置を介して制動体に押し付けられることができ、電動モータ(3)がハウジング(9)に格納され、該ハウジング(9)の一方の端面にカバー(11)が取り付けられており、さらに、切換可能なフリーホイール(31)が設けられていて、該フリーホイール(31)が、オンに切り換えられた位置で、電動モータ(3)のモータ軸(8)をブレーキ(1)の緩解方向での回転に抗してロックする形式のものにおいて、カバー(11)が電動モータ(3)のモータ軸(8)のための軸受シールドを形成し、かつフリーホイール(31)がカバー(11)に接してまたはカバー(11)内に収められていることを特徴とする、電気機械式のブレーキ。
【請求項2】
前記カバー(11)が、前記モータ軸(8)の軸受(12)のための軸受レース(15)を形成する、請求項1記載の電気機械式のブレーキ。
【請求項3】
前記モータ軸(8)の軸受(12)の軸受レース(16,17)の少なくとも一部分(16)が、モータ軸(8)のワンピースな構成部分であり、軸受レース(16,17)のこの部分(16)がモータ軸(8)を軸方向で固定する、請求項1記載の電気機械式のブレーキ。
【請求項4】
前記カバー(11)が、前記フリーホイール(31)のロックの一部である、請求項1記載の電気機械式のブレーキ。
【請求項5】
前記カバー(11)が、前記電動モータ(3)および前記フリーホイール(31)のすべての電気的な接続を有する、請求項1記載の電気機械式のブレーキ。
【請求項6】
当該ブレーキ(1)がディスクブレーキであり、前記ハウジング(9)が当該ブレーキ(1)のブレーキキャリパの一部である、請求項1記載の電気機械式のブレーキ。
【請求項7】
前記カバー(11)が、前記フリーホイール(31)のためのハウジング(39)を形成する、請求項1記載の電気機械式のブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−503391(P2009−503391A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523273(P2008−523273)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062910
【国際公開番号】WO2007/012515
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】