説明

電池システム

【課題】安全性が向上された電池システムを提供する。
【解決手段】外装材に包まれた素電池1を備える電池10と、素電池1又は素電池1を備えた機器に異常が生じたことを検知する異常検知手段9と、異常検知手段9からの情報に基づいて外装材内に気体を注入できる気体注入手段11と、を備えることを特徴とする、電池システム100とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装材に包まれた素電池を備えた電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池よりもエネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能という特徴を有している。そのため、小型軽量化を図りやすい二次電池として携帯電話等の情報機器に使用されている。また、近年は電気自動車やハイブリッド自動車等の大型機器の動力用としての需要も高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、正極層及び負極層と、これらの間に配置される電解質層とが備えられ、電解質層に備えられる電解質としては、例えば非水系の液体状や固体状の物質が用いられる。液体状の電解質(以下において、「電解液」という。)が用いられる場合には、電解液が正極層や負極層の内部へと浸透しやすい。そのため、正極層や負極層に含有されている活物質と電解液との界面が形成されやすく、性能を向上させやすい。ところが、広く用いられている電解液は可燃性であるため、安全性を確保するためのシステムを搭載する必要がある。一方、固体状の電解質(以下において、「固体電解質」という。)は不燃性であるため、上記システムを簡素化できる。それゆえ、不燃性である固体電解質を含有する層(以下において、「固体電解質層」という。)が備えられる形態のリチウムイオン二次電池(以下において、「固体電池」という。)が提案されている。
【0004】
このような電池に関する技術として、例えば特許文献1には、柔軟性を有する外装材と、この外装材内に封入される電気化学素体とを有する電気化学デバイスであって、外装材は、内部空間の膨張により電気化学素体が変形して短絡が生じる応力を与える内部圧力より低い圧力で動作する圧力解放機構を有する電気化学デバイスが開示されている。また、特許文献2には、リチウムを挿入脱離できる負極及び正極、非水電解液とこれらを収納するケースで構成され素電池を複数個組み合わせて組電池ケースに収納してなる組電池において、上記素電池ケース外で、上記組電池ケース内の空間に気体、液体または固体粉末の少なくても1種類、もしくはそれらの混合物質を充填することで組電池ケース内に生じる静水圧を用いて素電池を加圧することを特徴とするリチウムイオン二次電池が開示されている。さらに、特許文献3には、正極活物質がリチウム含有複合金属酸化物を含む非水電解質二次電池において、電池ケース内の酸素分圧を0.2気圧よりも高くしたことを特徴とする非水電解質二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−151020号公報
【特許文献2】特開平10−214638号公報
【特許文献3】特開2002−231313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術によれば、外装材内の圧力が異常に高くなったときに圧力解放機構が安全装置として機能する。すなわち、短絡が生じる虞がある程度にまで外装材内の圧力が上昇する前に、圧力解放機構によって外装材内の気体を外部に放出させることによって、短絡を防止し、安全性を向上させることができると考えられる。しかしながら、電池の使用時に想定される異常は、必ずしも外装材内の圧力上昇に結びつくとは限らないため、特許文献1に開示されている圧力解放機構は、電池の安全装置として不十分であった。例えば、気体が発生しない異常反応が外装材内で生じた場合や短絡してしまった場合、これらの異常は直接的には外装材内の圧力上昇に結びつかないと考えられる。特許文献1に開示されている圧力解放機構は、外装材内の圧力上昇に結びつかない上記のような異常に対しては安全装置として機能し得ないという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に開示されているような電池には、特許文献1に開示されている圧力解放機構を適用したとしても安全性を向上させることができないという問題があった。特許文献2に開示されているように、容器内に素電池を収容するととともに、該容器内に充填された気体等で該素電池を加圧する形態とした場合、該素電池は外装材の外側から高い圧力を付加されることになる。そのため、このような形態の電池には、特許文献1に開示されている圧力解放機構を適用したとしても、外装材内の気体を外部(容器内)に放出することが困難であり、圧力解放機構を安全装置として機能させることが難しいという問題があった。また、例え、素電池の周囲に気体等を充填した形態で圧力解放機構が作動したとしても、外装材内外の空間が繋がって外装材に収容された素電池を構成する部材(正極等)と素電池を加圧する気体とが接することになると、両者の間で意図しない反応が起きる虞があるという問題があった。
【0008】
上記の問題は、特許文献1に開示されている技術と、特許文献2又は3に開示されているような従来技術とを組み合わせたとしても、解決することが困難であった。
【0009】
そこで本発明は、安全性が向上された電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。すなわち、
本発明は、外装材に包まれた素電池を備える電池と、素電池又は素電池を備えた機器に異常が生じたことを検知する異常検知手段と、異常検知手段からの情報に基づいて外装材内に気体を注入できる気体注入手段と、を備えることを特徴とする、電池システムである。
【0011】
本発明において「素電池」とは、正極層と負極層と該正極層及び該負極層の間に配設された電解質層とを備え、電気化学反応で生じたイオン及び電子が移動することによって生じる電気エネルギーを外部に取り出すことができる構造体を意味する。なお、電解質層には、電解液が用いられていても良く、固体電解質が用いられていても良い。さらに、「素電池」は、酸素を正極活物質として用いる空気電池であっても良い。
【0012】
上記本発明の電池システムにおいて、気体注入手段が、気体が高圧に充填された高圧ガス室と、高圧ガス室と外装材内とを結ぶ気体の流通路と、通常時は流通路を閉鎖しており、異常検知手段からの情報に基づいて流通路を開放する弁と、を備えることが好ましい。
【0013】
また、上記本発明の電池システムは、さらに、外装材に包まれた素電池を収容する容器を備えており、該容器内に充填された気体を用いて素電池が加圧されている形態とすることができる。
【0014】
本発明において「素電池を収容する容器」とは、素電池を収容するとともに該素電池を加圧する気体を充填できる、密閉可能な容器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電池システムでは、異常検知手段及び気体注入手段を備えていることによって、異常検知手段が素電池又は素電池を備えた機器に異常が生じたことを検知したときに、必要に応じて気体注入手段によって素電池を包む外装材内に気体を注入することができる。このようにして外装材内に気体が注入されることによって、素電池を構成している部材間の接触面積が小さくなり、素電池の電池としての機能を失わせる又は低下させることができる。素電池の電池としての機能を失わせる又は低下させることによって、素電池で起きていた異常が起き続けることを防止したり、素電池又は素電池を備えた機器の修理等を行う作業者が感電することを防止したりできる。よって、本発明によれば、安全性が向上された電池システムを提供することができる。
【0016】
また、本発明の電池システムにおいて、気体注入手段が、気体が高圧に充填された高圧ガス室と、該高圧ガス室と外装材内とを結ぶ気体の流通路と、異常検知手段からの情報に基づいて流通路を開放する弁と、を備える形態とすることによって、異常検知手段が素電池又は素電池を備えた機器に異常が生じたことを検知したときに、外装材内に気体をすぐに注入することが容易になる。
【0017】
また、本発明の電池システムは、外装材に包まれた素電池を収容する容器を備えており、該容器内に充填された気体を用いて素電池が加圧されている形態とすることもできる。本発明の電池システムによれば、素電池を包む外装材の周りから圧力が加えられている形態の電池であっても、素電池又は素電池を備えた機器に異常が生じたときに外装材内に気体を注入し、素電池の電池としての機能を失わせる又は低下させることによって、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一つの実施形態にかかる本発明の電池システム100の構成を概略的に示す図である。
【図2】素電池1、正極端子2、及び、負極端子3を概略的に示す平面図である。
【図3】図2に示したIII−IIIでの素電池1の断面を概略的に示す図である。
【図4】他の実施形態にかかる本発明の電池システム200の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の電池システムについて説明する。以下の本発明の説明では、本発明の電池システムに備えられる素電池が固体電解質層を有するリチウムイオン二次電池である形態について主に説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、一つの実施形態にかかる本発明の電池システム100の構成を概略的に示す図である。図1では、固体電池である素電池1を簡略化して示している。図1に示した電池システム100は、外装材に包まれた素電池1を備える電池10と、素電池1又は素電池1を備えた機器に異常が生じたことを検知する異常検知手段9と、異常検知手段9からの情報に基づいて素電池1の外装材内に気体を注入できる気体注入手段11とを備えている。これらの構成要素について、以下に詳述する。
【0021】
図1に示したように、電池10は、素電池1と、該素電池1に接続された端子2(正極端子2)と、素電池1を収容する容器4と、を有している。容器4に収容された素電池1の周囲には、気体5が充填されている。
【0022】
図2は、素電池1、正極端子2、及び、負極端子3を概略的に示す平面図である。図3は、図2に示したIII−IIIでの素電池1の断面を概略的に示す図である。図2及び図3に示したように、素電池1は、積層体1xと、該積層体1xを包む外装材1yとを備えている。また、図3に示すように、積層体1xは、正極集電体1aと、該正極集電体1aに接続された正極層1bと、該正極層1bと接触するように配設された固体電解質層1cと、固体電解質層1cを中心にして正極層1bの反対側に固体電解質層1cと接触するように配設された負極層1dと、該負極層1dに接続された負極集電体1eと、を有している。正極集電体1aには正極端子2が接続されており、負極集電体1eには負極端子3が接続されている。
【0023】
このような素電池1の作製方法は特に限定されないが、例えば、以下のようにして作製することができる。
【0024】
積層体1xを作製するには、例えば、少なくとも正極活物質及び固体電解質を溶媒に分散して作製した正極スラリーを、正極端子2が接続された正極集電体1aの表面に塗布する過程を経て、正極集電体1aの表面に正極層1bを形成する。また、少なくとも負極活物質及び固体電解質を溶媒に分散して作製した負極スラリーを、負極端子3が接続された負極集電体1eの表面に塗布する過程を経て、負極集電体1eの表面に負極層1dを形成する。そして、固体電解質を溶媒に分散して作製した電解質スラリーを、例えば負極層1dの表面に塗布する過程を経て固体電解質層1cを形成した後、固体電解質層1cが正極層1b及び負極層1dで挟まれるように、負極層1dの表面に形成された固体電解質層1cの上に、正極集電体1aの表面に形成された正極層1bを配置する。その後、正極集電体1a、正極層1b、固体電解質層1c、負極層1d、及び、負極集電体1eの積層方向の両端側から圧縮力を付与することにより、積層体1xを作製することができる。
【0025】
こうして積層体1xを作製したら、正極端子2及び負極端子3の全部を収容しないようにしながら、外装材1yで積層体1xを包む。そして、積層体1xが収容されている外装材1yの内側を減圧しながら、積層体1xの周りに位置している外装材1yを加熱し熱溶着することにより、積層体1xと該積層体1xを包む外装材1yとを備える素電池1を作製することができる。
【0026】
素電池1において、正極集電体1aや負極集電体1eは、リチウムイオン二次電池の正極集電体や負極集電体として使用可能な公知の導電性材料によって構成することができる。そのような導電性材料としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、Inからなる群から選択される一又は二以上の元素を含む金属材料を例示することができる。また、正極集電体1a及び負極集電体1eは、例えば、金属箔や金属メッシュ等の形状にすることができる。
【0027】
また、正極層1bに含有させる正極活物質としては、リチウムイオン二次電池の正極層に含有させることが可能な公知の活物質を適宜用いることができる。そのような正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)等を例示することができる。また、正極層1bに含有させる固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の正極層に含有させることが可能な公知の固体電解質を適宜用いることができる。そのような固体電解質としては、LiPO等の酸化物系固体電解質のほか、LiPSや、LiS:P=50:50〜100:0となるようにLiS及びPを混合して作製した硫化物系固体電解質(例えば、質量比で、LiS:P=75:25となるようにLiS及びPを混合して作製した硫化物固体電解質)等を例示することができる。このほか、正極層1bには、正極活物質や固体電解質を結着させるバインダーや導電性を向上させる導電材が含有されていてもよい。正極層1bに含有させることが可能なバインダーとしては、ブチレンゴム等を例示することができ、正極層1bに含有させることが可能な導電材としては、カーボンブラック等を例示することができる。また、正極層1bを作製する際に用いる溶媒としては、リチウムイオン二次電池の正極層作製時に用いるスラリーを調整する際に使用可能な公知の溶媒を適宜用いることができる。そのような溶媒としては、ヘプタン等を例示することができる。
【0028】
また、固体電解質層1cに含有させる固体電解質としては、正極層1bに含有させることが可能な上記固体電解質等を例示することができる。また、固体電解質層1cを作製する際に用いる溶媒としては、正極層1bを作製する際に使用可能な上記溶媒等を例示することができる。
【0029】
また、負極層1dに含有させる負極活物質としては、リチウムイオン二次電池の負極層に含有させることが可能な公知の活物質を適宜用いることができる。そのような活物質としては、グラファイト等を例示することができる。また、負極層1dに含有させる固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の負極層に含有させることが可能な公知の固体電解質を適宜用いることができる。そのような固体電解質としては、正極層1bに含有させることが可能な上記固体電解質等を例示することができる。このほか、負極層1dには、負極活物質や固体電解質を結着させるバインダーや導電性を向上させる導電材が含有されていてもよい。負極層1dに含有させることが可能なバインダーや導電材としては、正極層1bに含有させることが可能な上記バインダーや導電材等を例示することができる。また、負極層1dを作製する際に用いる溶媒としては、正極層1bを作製する際に使用可能な上記溶媒等を例示することができる。
【0030】
また、外装材1yは、気体5の圧力を積層体1xへと伝えることが可能であり、電池10の使用時の環境に耐えることができ、気体や液体を透過させない性質を有し、且つ、密封することができるものを、特に限定されることなく用いることができる。また、後述する気体注入手段11によって外装材1y内に気体が注入されたときに、該気体の圧力によって破れない程度の強度を有することが好ましい。このような外装材1yを構成するものとしては、アルミニウム箔等に代表される公知の金属箔や、ポリエチレン、ポリフッ化ビニルやポリ塩化ビニリデン等に代表される樹脂からなるフィルムのほか、これらのフィルムの表面にアルミニウム等の金属を蒸着させた金属蒸着フィルム等を例示することができる。
【0031】
また、正極端子2及び負極端子3は、電池10の使用時の環境に耐え得る良好な電子伝導性を有する材料によって構成することができ、電池10の使用時に付与される力にも対応可能な強度及び柔軟性を有する材料によって構成することが好ましい。そのような材料としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等に代表される炭素繊維等を例示することができる。
【0032】
また、電池10では、素電池1が容器4に収容されており、素電池1は、容器4内に充填された気体5から圧力を付与されている。かかる形態とすることにより、素電池1を周囲から等方的に加圧することができるので、素電池1の局所的な劣化を抑制することができる。容器4内に素電池1を収容する方法及び気体5を充填する方法は特に限定されず、従来と同様の方法を用いることができる。
【0033】
容器4は、電池10の使用時の環境に耐えることができ、且つ、素電池1を加圧する気体5の圧力(例えば、1気圧〜200気圧程度)に耐える強度を有する公知の材料によって構成することができる。そのような材料としては、アルミニウムやステンレス鋼等の金属のほか、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等に代表される熱硬化性樹脂等を例示することができる。このほか、容器4は上記外装材1yと同様の材料によって構成することも可能である。
【0034】
気体5としては、電池10の使用時において気体5と接触する他の部材と反応しないものであれば、特に限定されない。なお、本発明の電池システムによれば、気体注入手段によって外装材内に気体を注入したとき、該外装材が破損することを防止できる。そのため、外装材1yが破損しないことを前提とするならば、気体5と積層体1xを構成する部材(例えば、正極層1b)との間での反応は考慮しなくても良い。コストの観点からは、気体5として空気を用いることが好ましい。ただし、気体5が他の部材と反応することを防止し易くするという観点からは、気体5として、窒素ガス、アルゴンガス、炭酸ガスなどの不活性ガスを用いることが好ましく、気体5は水分を含まないことが好ましい。
【0035】
次に、本発明の電池システムに備えられる気体注入手段について説明する。気体注入手段は、後に詳述する異常検知手段からの情報に基づいて素電池の外装材内に気体を注入できる手段である。図1に示した電池システム100では、気体注入手段11が、高圧ガス室8、流通路7、及び弁6を備えている。
【0036】
高圧ガス室8には、素電池1の外装材1y内に注入される気体が高圧に充填されている。高圧ガス室8内の圧力は、容器4内の圧力より高い圧力であれば特に限定されない。また、外装材1y内に注入する際には気体となる液体又は固体を高圧ガス室8に充填することも可能である。高圧ガス室8としては、例えば、公知のガスボンベ等を用いることができる。
【0037】
また、高圧ガス室8に充填される気体、すなわち、外装材1y内に注入される気体としては、外装材1y内のものと反応しない気体が好ましい。かかる観点から、当該気体は窒素ガス、アルゴンガス、炭酸ガスなどの不活性ガスであることが好ましく、水分を含まないことが好ましい。なお、コストの観点からは、空気を用いることも考えられる。
【0038】
また、外装材1y内に注入する気体の圧力は、素電池1の電池としての機能を失わせる又は低下させる程度であれば特に限定されない。例えば、電池10のように気体5によって素電池1を加圧している場合、外装材1y内に注入する気体の圧力は、気体5によって素電池1に加えられている圧力の半分程度の圧力とすることができる。この程度の圧力で気体を外装材1y内に注入することによって、気体5によって素電池1に付加されていた圧力が弱まり、積層体1xを構成する各部材間の間隔が広がって、素電池1の電池としての機能を失わせる又は低下させることができる。また、この程度の圧力であれば、外装材1yを破損させることがないため、積層体1xと気体5とが接触することを考慮しなくて良くなる。
【0039】
なお、図1には、高圧ガス室8が容器4内に収容されている形態を例示しているが、本発明はかかる形態に限定されない。図4は、他の実施形態にかかる本発明の電池システム200の構成を概略的に示す図である。図4において、図1に示したものと同様のものには、同じ符号を付している。図4に示した電池システム200は、容器24の外に高圧ガス室8を備えている点で、電池システム100と異なる。高圧ガス室8を容器24の外に備えるため、電池20に備えられる容器24には、流通路7を通すための貫通孔が設けられている。上述の電池システム100のように、高圧ガス室を容器内に収容すると、高圧ガス室と外装材内とを結ぶ流通路が不要となるために部品点数の削減が可能となり、コストの低減、システムの信頼性向上、軽量化が可能となる。また、本発明の電池システムが自動車等に備えられる場合は、高圧ガス室を容器内に収容ことによって、交通事故時等の破損率を低下させること等が可能となる。一方、上述の電池システム200のように、高圧ガス室を容器の外に設置すると、高圧ガス室へのアクセス性がよくなるためにメンテナンス性が向上する。また、容器の体積を小さくすることが可能となるためにシステムのレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0040】
以下、上述の電池システム100について、さらに説明を続ける。流通路7は、高圧ガス室8と外装材1y内とを結び、高圧ガス室8から外装材1y内に気体を流通させることが可能な管である。流通路7は、電池10の使用時の環境及び気体を流通させる際の圧力に耐え得るものであれば特に限定されず、公知の管を用いることができる。
【0041】
弁6は、通常時は流通路7を閉鎖しており、後述する異常検知手段9からの情報に基づいて流通路7を開放できる弁である。すなわち、弁6は、通常時は高圧ガス室8と外装材1y内との間で流通路7内を気体が流通することを禁止し、後述する異常検知手段9からの情報に基づいて高圧ガス室8から外装材1y内へと流通路7内に気体を流通させることができる。このような弁6としては、電池10の使用時の環境に耐え得るものであれば特に限定されず、公知の弁を用いることができる。例えば、弁6は、圧力等によって機械的に開閉制御される弁であってもよく、電気信号によって電気的に開閉制御される弁であってもよい。
【0042】
次に、本発明の電池システムに備えられる異常検知手段について説明する。異常検知手段は、本発明の電池システムに備えられる素電池又は該素電池を備えた機器に異常が生じたことを検知する手段である。図1に示した電池システム100は異常検知手段9を備えており、異常検知手段9からの信号に基づいて弁6を開放し、高圧ガス室8に充填された気体を外装材1y内に注入することができる。異常検知手段9は、素電池1又は素電池1を備えた機器に異常が生じたことを検知できる手段であれば、特に限定されない。
【0043】
異常検知手段9には、例えば、素電池1の温度を感知できるセンサを用いることができる。短絡時にはジュール熱が発生する。また、その他の意図しない異常な反応が素電池1で生じた場合にも、急激に温度が上昇したり、所定の温度以上に過熱したりすることが考えられる。このような温度変化をセンサで感知することにより、素電池1に異常が生じたことを異常検知手段9によって検知できる。また、電池10のように素電池1を気体5で加圧する形態の電池は、気体5の熱伝導度が低いことに起因して、異常過熱し易くなる場合がある。このような異常過熱が生じた場合にも、センサでその異常過熱を感知することにより、素電池1に異常が生じたことを異常検知手段9によって検知できる。そして、異常検知手段9からの情報に基づいて気体注入手段11によって外装材1y内に気体を注入することにより、上述したように素電池1の電池としての機能を失わせる又は低下させることができる。よって、本発明の電池システムによれば、素電池で短絡、異常な反応や過熱等が起こり続けることを防止し、安全性を向上させることができる。なお、どの程度の速度で温度が上昇した場合に外装材内に気体を注入するか、どの程度の温度になれば外装材内に気体を注入するか等は、素電池の構成や素電池の使用環境等に応じて適宜決定することができる。
【0044】
また、異常検知手段9には、外装材1y内の異常な圧力上昇を感知するセンサを用いることもできる。意図しない異常な反応が素電池1で生じた場合、その反応が気体の発生を伴うものであれば、外装材1y内の圧力が異常に上昇すると考えられる。このような異常な圧力上昇をセンサで感知することにより、素電池1に異常が生じたことを異常検知手段9によって検知できる。そして、異常検知手段9からの情報に基づいて気体注入手段11によって外装材1y内に気体を注入することにより、上述したように素電池1の電池としての機能を失わせる又は低下させることができる。よって、本発明の電池システムによれば、素電池で異常な反応が起こり続けることを防止し、安全性を向上させることができる。なお、どの程度の速度で圧力が上昇した場合に外装材内に気体を注入するか、どの程度の圧力になれば外装材内に気体を注入するか等は、素電池の構成や素電池の使用環境等に応じて適宜決定することができる。
【0045】
また、異常検知手段9には、衝撃を感知するセンサを用いることもできる。例えば、素電池1又は素電池1を備えた機器に加えられた衝撃をセンサで感知することにより、素電池1に異常が生じたことを異常検知手段9によって検知できる。例えば、電池システム100が自動車に備えられる場合は、SRSエアバッグシステムを作動させるために備えられた衝撃を感知するセンサを異常検知手段9に用いることができる。かかる形態とすることによって、事故等で自動車が大きな衝撃を受けたときに、その異常を異常検知手段9で検知することができる。そして、異常検知手段9からの情報に基づいて気体注入手段11によって外装材1y内に気体を注入することにより、上述したように素電池1の電池としての機能を失わせる又は低下させることができる。よって、本発明の電池システムによれば、衝撃を受けたことによって修理が必要になった電池を修理する作業者や、事故にあった自動車から人を救助する作業者等が感電することを防止でき、安全性を向上させることができる。
【0046】
上述したように、異常検知手段9には様々なセンサを用いることができる。これらのセンサは1つを単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。なお、図1には異常検知手段9が電池10の外に備えられる形態を例示しているが、異常検知手段9の設置位置は特に限定されず、その機能を十分に発揮できる場所に設置することが好ましい。例えば、外装材1y内に異常検知手段9を設置することもできる。
【0047】
本発明の電池システムによれば、圧力の上昇を伴わない異常が生じた場合や、外部から加圧されている素電池に異常が生じた場合であっても、上述したように異常検知手段が素電池又は素電池を備えた機器に異常が生じたことを検知することによって、異常検知手段からの情報に基づいて気体注入手段が素電池を包む外装材内に気体を注入し、素電池の電池としての機能を失わせる又は低下させることができる。
【0048】
本発明に関する上記説明では、固体電池である素電池1が用いられる形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではなく、正極層と負極層との間に電解液が充填されている形態の素電池を用いることも可能である。ただし、電池の安全性を高めやすい形態とする観点からは、固体電池である素電池が用いられることが好ましい。また、正極層、電解質層、及び負極層がそれぞれ粉体から形成された圧粉体である固体電池は、気体を注入することによって正極層、電解質層、及び負極層を構成する粉体同士の接触面積を減らして電気抵抗を増大させることによって、電池としての機能を失わせる又は低下させることが容易である。それゆえ、このような固体電池が用いられる場合に、本発明の上記効果を得易くなる。
【0049】
また、本発明に関する上記説明では、容器4に1つの素電池1が収容されている形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明では、1つの容器に2以上の素電池が収容されていても良い。また、本発明に関する上記説明では、外装材1y内に1つの積層体1xが収容される形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明では、1つの外装材内に2以上の積層体が収容されていても良い。
【0050】
また、本発明に関する上記説明では、略直方体形状の素電池1を例示したが、本発明で用いられる素電池は当該形状に限定されない。素電池は円柱形状や六角柱形状等、他の形状とすることも可能である。
【0051】
また、本発明に関する上記説明では、高圧ガス室8が1つ備えられる形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。高圧ガス室は複数備えられていてもよく、流通路及び弁の数は、高圧ガス室の数に応じて適宜変更可能である。
【0052】
また、本発明に関する上記説明では、リチウムイオン二次電池である素電池1が備えられている形態を例示したが、本発明を適用可能な電池は当該形態に限定されない。本発明における素電池は、正極層と負極層との間を、リチウムイオン以外のイオンが移動する形態とすることも可能である。そのようなイオンとしては、ナトリウムイオンやカリウムイオン等を例示することができる。リチウムイオン以外のイオンが移動する形態とする場合、正極活物質、固体電解質、及び、負極活物質は、移動するイオンに応じて適宜選択すれば良い。また、本発明における素電池は、一次電池や空気電池とすることも可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…素電池
1a…正極集電体
1b…正極層
1c…固体電解質層
1d…負極層
1e…負極集電体
1x…積層体
1y…外装材
2…正極端子
3…負極端子
4、24…容器
5…気体
6…弁
7…流通路
8…高圧ガス室
9…異常検知手段
10、20…電池
11…気体注入手段
100、200…電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装材に包まれた素電池を備える電池と、
前記素電池又は前記素電池を備えた機器に異常が生じたことを検知する異常検知手段と、
前記異常検知手段からの情報に基づいて前記外装材内に気体を注入できる気体注入手段と、を備えることを特徴とする、電池システム。
【請求項2】
前記気体注入手段が、
前記気体が高圧に充填された高圧ガス室と、
前記高圧ガス室と前記外装材内とを結ぶ前記気体の流通路と、
通常時は前記流通路を閉鎖しており、前記異常検知手段からの情報に基づいて前記流通路を開放する弁と、
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
さらに、前記外装材に包まれた素電池を収容する容器を備えており、
前記容器内に充填された気体を用いて前記素電池が加圧されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−190747(P2012−190747A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55321(P2011−55321)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】