説明

電流制御装置

【課題】電流制御装置をマイクロコントローラと電流制御用ICを用いて構成するとともに、多チャンネル化した際にも小型で低コストな電流制御装置を提供することにある。
【解決手段】電流制御装置は、電流制御用半導体素子1と、電流制御用半導体素子1に、負荷を駆動するためのPWMパルスを出力し、電流制御用半導体素子から、ハイサイド電流検出回路6とローサイド電流検出回路7の出力を入力するマイクロコントローラ12とを有する。電流制御用半導体素子1の出力合成回路8は、PWMパルスに同期して、1つの信号線上にハイサイド電流検出回路6の出力と、ローサイド電流検出回路7の出力を切り替えて、マイクロコントローラ12に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流制御装置に係り、特に、電流検出回路をICチップ内に内蔵したものに好適な電流制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種制御対象が電子制御されるに従って、電気信号を機械的運動や油圧に変換するためにモータやソレノイドなどの電動アクチュエーターが広く用いられるようになっている。これらの電動アクチュエーターの高度化には、高精度な電流制御が必須である。近年では高精度な電流制御のために、デジタルフィードバック制御が用いられることが一般的である。
【0003】
また、高精度な電流制御に加えて、制御装置の小型化,低コスト化のニーズも高く、電流検出回路をICチップ内に内蔵することによって、これに対応している。
【0004】
電流検出回路をICチップ内に内蔵するために、センスMOSを用いた電流検出により低損失化を図り、ICチップ内に電流検出用回路を内蔵するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−203415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のものでは、ICチップ内に、ハイサイドMOS、ローサイドMOS、電流検出回路、ADコンバータ、制御部を含むが、このような、パワー、アナログ、ロジックを混載するICでは、ロジック部の微細化が難しく、ロジック部がIC全体に占める割合が大きくなる。一方、近年のマイクロコントローラは高性能化やAD等の周辺機能の高機能化が進み、従来ICに搭載していたADコンバータやロジック部を、マイクロコントローラのADコンバータやソフトウエアでそれぞれ置き換える方が電流制御装置全体のサイズやコストを抑えることが可能となっている。
【0007】
ここで、特許文献1の第三の実施例で示されているICでは、ハイサイド、ローサイドにそれぞれ電流検出回路を備え、高精度な電流制御を行うことができる。このICを用いた電流制御装置全体のサイズ、およびコストを削減するため、このIC内のADコンバータ、および制御部をマイクロコントローラ側のADコンバータ、およびソフトウエアでそれぞれ置き換える場合、ハイサイド、ローサイドの電流検出信号の取り込みのため、ICとマイクロコントローラ間に信号が2本、マイクロコントローラのADコンバータが2チャンネル必要となる。ここで、複数のチャンネル、例えば6チャンネルの電流制御を行う電流制御装置の場合は、ハイサイド、ローサイドの電流検出信号の取り込みのため、ICとマイクロコントローラ間の信号が12本、マイクロコントローラのADコンバータが12チャンネル必要となり、ICのピン数増加によるICパッケージコスト、サイズ増、多チャンネルのADコンバータを搭載した高機能なマイコン採用によコスト増となり、結果として電流制御装置全体のサイズ、およびコストが下がらないという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、電流制御装置をマイクロコントローラと電流制御用ICを用いて構成するとともに、多チャンネル化した際にも小型で低コストな電流制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、同一半導体チップ上に、負荷を駆動するハイサイドトランジスタと、前記負荷の還流電流を通電するローサイドトランジスタと、前記ハイサイドトランジスタの電流を検出するハイサイド電流検出回路と、前記ローサイドトランジスタの電流を検出するローサイド電流検出回路、とを有する電流制御用半導体素子と、前記電流制御用半導体素子に、前記負荷を駆動するためのPWMパルスを出力し、前記電流制御用半導体素子から、前記ハイサイド電流検出回路と前記ローサイド電流検出回路の出力を入力するマイクロコントローラ、とを有する電流制御装置であって、前記電流制御用半導体素子は、前記PWMパルスに同期して、1つの信号線上に前記ハイサイド電流検出回路の出力と、前記ローサイド電流検出回路の出力を切り替えて、前記マイクロコントローラに出力する出力合成回路を備えるようにしたものである。
かかる構成により、電流制御装置をマイクロコントローラと電流制御用ICを用いて構成するとともに、多チャンネル化した際にも小型で低コスト化できるものとなる。
【0010】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記電流制御用半導体素子は、前記PWMパルスに同期して、1つの信号線上に前記ハイサイド電流検出回路の出力と、前記ローサイド電流検出回路の出力を切り替えるタイミングで、両者の間の一定期間出力をグランドレベル、または電源レベルに保持するようにしたものである。
【0011】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記電流制御用半導体素子は、前記電流検出回路の出力をグランドレベル、または電源レベルに保持する期間を設定するパルス幅設定レジスタを備えるようにしたものである。
【0012】
(4)上記(2)において、好ましくは、前記マイクロコントローラは、前記電流制御用半導体素子が出力する一定期間のグランドレベル、または電源レベルを検出し、その検出結果を入力として状態を遷移するステートマシンを備えるようにしたものである。
【0013】
(5)上記(4)において、好ましくは、前記マイクロコントローラは、前記ステートマシンの状態によって、前記電流制御用半導体素子の電流検出回路出力の処理内容を変えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電流制御装置をマイクロコントローラと電流制御用ICを用いて構成するとともに、多チャンネル化した際にも小型で低コスト化可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態による電流制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による電流制御装置に用いる出力合成回路の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による電流制御装置に用いるセレクタの動作説明図である。
【図4】本発明の一実施形態による電流制御装置に用いるCPUに備えられるステートマシンの状態遷移図である。
【図5】本発明の一実施形態による電流制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図6】本発明の一実施形態による電流制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図7】本発明の各実施形態による電流制御装置を用いた自動変速機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の各実施形態による電流制御装置を用いたブラシレスモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図6を用いて、本発明の一実施形態による電流制御装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による電流制御装置の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による電流制御装置の構成を示すブロック図である。
【0017】
電流制御用装置は、マイクロコントローラ12と、電流制御用半導体素子1とから構成される。バッテリ3から供給される電力は、電流制御装置によって制御され、ソレノイド2に、その駆動電流として供給される。
【0018】
マイクロコントローラ12は、PWMタイマ13と、ADC14と、IF回路15と、CPU16と、から構成される。
【0019】
マイクロコントローラ12は、(図示していない)種々のセンサから値を入力し、それらの値からソレノイド2に流す電流指令値(PWMパルスのDuty)を、CPU16を用いて演算する。
【0020】
また、マイクロコントローラ12は、電流制御用半導体素子1から電流検出回路の合成アナログ出力Aoutを入力し、このアナログ値をADC14を用いてデジタル値に変換する。なお、本実施例ではADC14のサンプリング周期をTsとする。CPU16は、ADC14から得られた電流検出回路出力のデジタル値の補正、および平均値の演算を行い、ソレノイド2の電流値を計算する。さらに、CPU16は、以上のようにして得られた、電流指令値とソレノイド2の電流値の差からPID補償アルゴリズム等を用いて、ソレノイド2の電流値が電流指令値に追従するようなPWMパルスのDutyを演算する。
【0021】
PWMタイマ13は、CPU16から出力されたDutyに応じて、ハイサイドMOSFET4をオンするパルスHonを出力する。
【0022】
IF回路15は、信号線Sioを介して、電流制御用半導体素子1のパルス幅設定レジスタ10が保持する値を、IF回路9と協同して、送受信するインタフェース機能を提供する。
【0023】
次に、電流制御用半導体素子1は、ハイサイドMOSFET4と、ローサイドMOSFET5と、HS電流検出回路6と、LS電流検出回路7と、出力合成回路8と、IF回路9と、パルス幅設定レジスタ10と、インバータ11と、から構成される。
【0024】
電流制御用半導体素子1は、ソレノイド2、およびソレノイド2に電圧を供給するバッテリ3に接続され、PWM(Pulse Width Modulation)により、ソレノイド2に印加する電圧をオン・オフし、ソレノイド2に流れる電流を駆動する。
【0025】
ハイサイドMOSFET4は、ソレノイド2とバッテリー3との間のスイッチである。ハイサイドMOSFET4は、ハイサイドMOSFET4のマイクロコントローラ12から入力されたオンパルスHonがハイレベル時にオンとなり、ローレベル時にオフとなる。ハイサイドMOSFET4がオン時はソレノイド2に流れる電流が上昇し、オフ時は減少する。
【0026】
HS電流検出回路6は、ハイサイドMOSFET4に並列接続され、ハイサイドMOSFET4に流れる電流、すなわちソレノイド2にバッテリ電圧が印加されている間に流れる電流を電圧に変換し、信号I_hsに電圧値を出力する。
【0027】
ローサイドMOFET5は、ハイサイドMOSFET4がオフの時、ソレノイド2に流れる電流を還流させる経路として使用される。ローサイドMOFET5は、オンパルスHonをインバータ11により反転させた信号Lonがハイレベル時、すなわちハイサイドMOSFET4がオフの期間、ローサイドMOFET5はオンとなる。
【0028】
LS電流検出回路7は、ローサイドMOSFET5に並列接続され、ローサイドMOSFET5に流れる電流、すなわちソレノイド2の還流電流を電圧に変換し、信号I_lsに電圧値を出力する。
【0029】
出力合成回路8は、HS電流検出回路6からの信号I_hs、HS電流検出回路7からの信号I_ls、パルス幅設定レジスタ10からのパルス幅指示値Pwd、オフセット測定モード信号Ofst(1:オフセット測定モード、0:通常モード)を入力し、各電流検出回路の出力を合成して合成アナログ出力Aoutに出力する。出力合成回路8の詳細は、図2及び図3を用いて後述する。
【0030】
なお、オフセット測定モード信号Ofstは、オフセットの測定が必要なとき、電流制御用半導体素子1自体が出力する。オフセットの測定が必要なときとは、電流制御用半導体素子1の温度が所定温度以上変化したときである。電流制御用半導体素子1の温度が所定温度以上変化するとオフセット測定が必要となる。そこで、電流制御用半導体素子1は、その内部に温度センサを備えており、温度センサが所定温度以上変化を検知すると、電流制御用半導体素子1は、出力合成回路8に、オフセット測定モード信号Ofstを出力する。オフセット測定時の出力合成回路8の動作については、図6を用いて後述する。
【0031】
IF回路9は、マイクロコントローラ6が信号線Sioを介して、パルス幅設定レジスタ10が保持する値を送受信するインタフェース機能を提供する。
【0032】
パルス幅設定レジスタ10は、出力合成回路8が信号I_hs、信号I_lsを切り替えるタイミングで挿入されるGNDレベル、または電源レベルのパルス幅を指示する値を保持する。
【0033】
次に、図2を用いて、本実施形態による電流制御装置に用いる出力合成回路8の構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による電流制御装置に用いる出力合成回路の構成を示すブロック図である。
【0034】
出力合成回路8は、カウンタ21と、カウンタ22と、比較器23と、比較器24と、ORゲート26と、セレクタ25と、から構成される。
【0035】
カウンタ21は、オンパルスHonの立ち上がりエッジでリセットされるアップカウンタで、そのカウンタ値c1を出力する。また、カウンタ22は、オンパルスHonの立ち下がりエッジでリセットされるアップカウンタで、そのカウンタ値c2を出力する。
【0036】
比較器23は、パルス幅設定レジスタ10からのパルス幅指示値Pwdと、カウンタ21のカウンタ値c1とを比較し、カウント値c1がパルス幅指示値Pwdより小さい時1を、カウント値c1がパルス幅指示値Pwd以上の時0を信号線sel1に出力する。
【0037】
比較器24は、パルス幅設定レジスタ10からのパルス幅指示値パルス幅指示値Pwdと、カウンタ22のカウンタ値c2とを比較し、c2がパルス幅指示値Pwdより小さい時1を、c2がパルス幅指示値Pwd以上の時0を信号線sel2に出力する。
【0038】
ORゲート26は、信号線sel1と信号線sel2の論理和を信号線selに出力する。
【0039】
以上説明した、カウンタ21、カウンタ22、比較器23、比較器24、ORゲート26、の組み合わせにより、信号線selには、オンパルスHonの立ち上がりエッジと立下りエッジ後、パルス幅指示値Pwdで指示した一定時間の間1となるパルスが出力される。
【0040】
次に、図3を用いて、本実施形態による電流制御装置に用いるセレクタ25の動作について説明する。
図3は、本発明の一実施形態による電流制御装置に用いるセレクタの動作説明図である。
【0041】
セレクタ25は、図3に示す入出力関係に基づき、信号I_hs、信号I_ls、グランドレベルGND、電源レベルVccを選択し、選択した値を合成アナログ出力Aoutに出力する。
【0042】
具体的には、セレクタ25は、例えば、オフセット測定モード信号Ofstが「0」で、信号線selが「0」で、オンパルスHonが「0」の時は、合成アナログ出力Aoutとして、「信号I_ls」を選択する。また、セレクタ25は、例えば、オフセット測定モード信号Ofstが「0」で、信号線selが「0」で、オンパルスHonが「1」の時は、合成アナログ出力Aoutとして、「信号I_hs」を選択する。
【0043】
また、セレクタ25は、例えば、オフセット測定モード信号Ofstが「0」で、信号線selが「1」で、オンパルスHonが「0」の時は、合成アナログ出力Aoutとして、「グランドレベルGND」を選択する。また、セレクタ25は、例えば、オフセット測定モード信号Ofstが「0」で、信号線selが「1」で、オンパルスHonが「1」の時は、合成アナログ出力Aoutとして、「電源レベルVcc」を選択する。
【0044】
また、セレクタ25は、例えば、オフセット測定モード信号Ofstが「1」で、信号線selが「0」で、オンパルスHonが「0」の時は、合成アナログ出力Aoutとして、「信号I_hs」を選択する。また、セレクタ25は、例えば、オフセット測定モード信号Ofstが「1」で、信号線selが「0」で、オンパルスHonが「1」の時は、合成アナログ出力Aoutとして、「信号I_ls」を選択する。
【0045】
また、セレクタ25は、例えば、オフセット測定モード信号Ofstが「1」で、信号線selが「1」で、オンパルスHonが「0」の時は、合成アナログ出力Aoutとして、「電源レベルVcc」を選択する。 また、セレクタ25は、例えば、オフセット測定モード信号Ofstが「1」で、信号線selが「1」で、オンパルスHonが「1」の時は、合成アナログ出力Aoutとして、「グランドレベルGND」を選択する。
【0046】
次に、図4を用いて、本実施形態による電流制御装置に用いるCPU16に備えられるステートマシンの動作について説明する。
図4は、本発明の一実施形態による電流制御装置に用いるCPUに備えられるステートマシンの状態遷移図である。
【0047】
図4は、CPU16が合成アナログ出力Aoutのデジタル値の処理を行う際に使用するステートマシンの状態遷移図を示している。ステートマシンは、HS・Nステート、LS・Nステート、HS・Oステート、LS・Oステートの4つのステートを備える。
【0048】
HS・Nステートは、ハイサイドの電流を検出している状態で、HS・Nステート時、CPU16は、HS電流検出回路6のゲイン、およびオフセットを用いて合成アナログ出力Aoutのデジタル値を補正し、ハイサイド電流のデジタル値を得る。
【0049】
LS・Nステートは、ローサイドの電流を検出している状態で、LS・Nステート時、CPU16は、LS電流検出回路7のゲイン、およびオフセットを用いて合成アナログ出力Aoutのデジタル値を補正し、ローサイド電流のデジタル値を得る。
【0050】
HS・Oステートは、HS電流検出回路6のオフセットを測定している状態で、HS・Oステート時、CPU16は、合成アナログ出力Aoutのデジタル値の平均より、HS電流検出回路6のオフセットを得る。
【0051】
LS・Oステートは、LS電流検出回路7のオフセットを測定している状態で、LS・Oステート時、CPU16は、合成アナログ出力Aoutのデジタル値の平均より、LS電流検出回路7のオフセットを得る。
【0052】
各ステート間の遷移は、ADC14のサンプリング周期Ts毎に行われ、遷移判定は、図4に示す通り、合成アナログ出力Aoutのデジタル値とグランドレベル閾値GNDth、電源レベル閾値Vccthとの大小比較で行われる。
【0053】
すなわち、HS・Nステートにおいて、合成アナログ出力Aoutのデジタル値がグランドレベル閾値GNDthより大きい場合には、HS・Nステートを維持する。HS・Nステートにおいて、合成アナログ出力Aoutのデジタル値がグランドレベル閾値GNDth以下になると、LS・Nステートに遷移する。
【0054】
LS・Nステートにおいて、合成アナログ出力Aoutのデジタル値がグランドレベル閾値GNDthより大きく、電源レベル閾値Vccthより小さい場合には、LS・Nステートを維持する。LS・Nステートにおいて、合成アナログ出力Aoutのデジタル値が電源レベル閾値Vccth以上になると、HS・Nステートに遷移する。LS・Nステートにおいて、合成アナログ出力Aoutのデジタル値がグランドレベル閾値GNDth以下になると、LS・Oステートに遷移する。
【0055】
LS・Oステートにおいて、合成アナログ出力Aoutのデジタル値が電源レベル閾値Vccthより小さい場合には、LS・Oステートを維持する。LS・Oにおいて、合成アナログ出力Aoutのデジタル値が電源レベル閾値Vccth以下になると、HS・Oステートに遷移する。
【0056】
HS・Oステートにおいて、合成アナログ出力Aoutのデジタル値が電源レベル閾値Vccthより小さい場合には、HS・Oステートを維持する。HS・Oステートにおいて、合成アナログ出力Aoutのデジタル値が電源レベル閾値Vccth以上になると、HS・Nステートに遷移する。
【0057】
次に、図5及び図6を用いて、本実施形態による電流制御装置の動作について説明する。
図5及び図6は、本発明の一実施形態による電流制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【0058】
図5は、通常時の電流制御装置のタイミングチャートである。
【0059】
時刻t0にてオンパルスHonが「1」となると同時に信号線selが「1」となり、時刻t1まで信号線selは「1」を継続する。信号線selが「1」の間、合成アナログ出力Aoutには電源レベルが出力される。
【0060】
ここで、信号線selが「1」となるt0−t1間の時間幅はサンプリング周期Tsと一致するようにパルス幅調整レジスタの値がセットされており、t0−t1間では合成アナログ出力Aoutに出力された電源レベルが1回だけサンプリングされる。
【0061】
t0−t1間にて合成アナログ出力Aoutの電源レベルを検出したため、ステートマシンの状態はHS・Nステートに遷移し、t3までHS・Nステートが続く。その間は、合成アナログ出力AoutにはHS電流検出回路6の電圧値が出力されており、CPU16は、HS電流検出回路6のゲイン、およびオフセットを用いて合成アナログ出力Aoutの値を補正し、ハイサイド電流値を得る。
【0062】
引き続き、時刻t3にてオンパルスHonが0となると同時に信号線selが「1」となり、時刻t4まで信号線selは「1」を継続する。信号線selが「1」の間、合成アナログ出力AoutにはGNDレベルが出力される。
【0063】
t3−t4間にて合成アナログ出力AoutのGNDレベルを検出したため、ステートマシンの状態はLS・Nステートに遷移し、t5までLS・Nステートが続く。その間は、合成アナログ出力AoutにはLS電流検出回路7の電圧値が出力されており、CPU16は、LS電流検出回路7のゲイン、およびオフセットを用いて合成アナログ出力Aoutの値を補正し、ローサイド電流値を得る。
【0064】
CPU16におけるゲイン・オフセットの補正時、補正によりハイサイド電流を得る場合と、ローサイド電流を得る場合では、補正に用いるゲイン及びオフセットのパラメータが異なっている。従って、CPU16は取り込まれた電流が、ハイサイド電流がローサイド電流かを識別する必要がある。この識別は、ステートマシンのステートによって可能である。CPU16はステートマシンの状態によって、ハイサイド電流が取り込まれたか、ローサイド電流が取り込まれたかを判定し、それぞれに応じたゲイン及びオフセットのパラメータを用いて補正し、補正されたハイサイド電流若しくはローサイド電流を得る。このように、マイクロコントローラ12のCPU16は、ステートマシンの状態によって、電流制御用半導体素子の電流検出回路出力の処理内容を変えるようにしている。
【0065】
ここで、t0−t1間、t2−t3間、t4−t5間、t6−t7間の間隔は、サンプリング周期Tsとなっており、それぞれの区間で、合成アナログ出力Aoutに出力された電源レベル、またはGNDレベルを1回だけサンプリングする。図4で説明のステートマシンは、合成アナログ出力Aoutのサンプリングデータを電源レベル、またはGNDレベルと比較することにより、状態遷移を行うが、このように合成アナログ出力Aoutに挿入する電源レベル、またはGNDレベルの幅をTsとすることで、連続して状態が遷移することを抑止する。
【0066】
以上説明の通り、合成アナログ出力AoutにHS電流検出回路6とLS電流検出回路7を切り替えて出力する際、切り替えタイミングでGNDレベル、または電源レベルを一定期間挿入することにより、その前後のデータがHS電流検出回路6、またはLS電流検出回路7のどちらの出力であるかを容易に、かつ確実に判定することができるため、簡素なアルゴリズムで合成アナログ出力Aoutのデジタル値よりソレノイドの平均電流を演算することが可能となる。
【0067】
さらに、合成アナログ出力Aoutに挿入するGNDレベル、または電源レベルのパルス幅は、パルス幅設定レジスタ10からのパルス幅指示値Pwdにより可変としていることから、サンプリング周期の異なるADCにも対応可能となる。
【0068】
従来、ハイサイド、ローサイドの電流検出信号の取り込みのため、ICとマイクロコントローラ間に信号が2本、マイクロコントローラのADコンバータが2チャンネル必要となっていた。ここで、複数のチャンネル、例えば6チャンネルの電流制御を行う電流制御装置の場合は、ハイサイド、ローサイドの電流検出信号の取り込みのため、ICとマイクロコントローラ間の信号が12本、マイクロコントローラのADコンバータが12チャンネル必要となる。それに対して、本実施形態では、電流制御用半導体素子は、PWMパルスに同期して、1つの信号線上にハイサイド電流検出回路の出力と、ローサイド電流検出回路の出力を切り替えて出力しているため、ICとマイクロコントローラ間に信号が1本で済み、また、マイクロコントローラのADコンバータも1チャンネルで済むことになる。ここで、複数のチャンネル、例えば6チャンネルの電流制御を行う電流制御装置の場合は、ハイサイド、ローサイドの電流検出信号の取り込みのため、ICとマイクロコントローラ間の信号が6本で、マイクロコントローラのADコンバータが6チャンネルと、従来よりも半減できる。従って、ICのピン数増加によるICパッケージコスト、サイズ増、多チャンネルのADコンバータを搭載した高機能なマイコン採用によコスト増を回避でき、結果として電流制御装置全体のサイズを小型化でき、コストを低減できる。
【0069】
以上の平均電流演算アルゴリズムの簡素化と、ADC仕様の自由度拡大により、低価格のマイクロコントローラの採用が可能となり、電流制御装置全体のコストを抑えることができる。
【0070】
図6は、オフセット測定時の電流制御装置のタイミングチャートである。
【0071】
なお、時刻t4までは、図5のタイミングチャートと同じ動作となるため、ここでは説明を省略する。
【0072】
時刻t4にて、オンパルスHonが「1」となると同時に信号線selが「1」となり、時刻t5まで信号線selは「1」を継続する。信号線selが「1」の間、合成アナログ出力AoutにはGNDレベルが出力される。t4−t5間にて合成アナログ出力AoutのGNDレベルを検出したため、ステートマシンの状態はLS・Oステートに遷移し、t6までLS・Oステートが続く。その間は、合成アナログ出力AoutにはLS電流検出回路7のオフセット電圧値が出力されており、CPU16は、合成アナログ出力Aoutの平均値を演算することにより、LS電流検出回路7のオフセット値を得る。これは、その後のLS・Nステートにおける合成アナログ出力Aoutの値の補正に用いられる。
【0073】
引き続き、時刻t6にて、オンパルスHonが0となると同時に信号線selが「1」となり、時刻t7まで信号線selは「1」を継続する。信号線selが「1」の間、合成アナログ出力Aoutには電源レベルが出力される。t6−t7間にて合成アナログ出力Aoutの電源レベルを検出したため、ステートマシンの状態はHS・Oステートに遷移し、t8までHS・Oステートが続く。その間は、合成アナログ出力AoutにはHS電流検出回路6のオフセット電圧値が出力されており、CPU16は、合成アナログ出力Aoutの平均値を演算することにより、HS電流検出回路6のオフセット値を得る。これは、その後のHS・Nステートにおける合成アナログ出力Aoutの値の補正に用いられる。
【0074】
ここで、LS電流検出回路7のオフセット値及びHS電流検出回路6のオフセット値は、それぞれ、マイクロコントローラ12の内部の記憶手段の異なるエリア(異なるアドレス)に収納される。ここで、マイクロコントローラ12は取り込まれたオフセット値が、ハイサイドかローサイドかを識別する必要がある。この識別は、ステートマシンのステートによって可能である。マイクロコントローラ12はステートマシンの状態によって、識別し、得られたオフセット値を収納するエリアを変えるようにしている。このように、マイクロコントローラ12は、ステートマシンの状態によって、電流制御用半導体素子の電流検出回路出力の処理内容を変えるようにしている。
【0075】
引き続き、時刻t8にて、オンパルスHonが「1」となると同時に信号線selが「1」となり、時刻t9まで信号線selは「1」を継続する。信号線selが「1」の間、合成アナログ出力Aoutには電源レベルが出力される。t8−t9間にて合成アナログ出力Aoutの電源レベルを検出したため、ステートマシンの状態はHS・Nステートに遷移し、以降は通常動作であるHS・Nステート、HS・Oステートを交互に繰り返す状態に戻る。
【0076】
以上説明の通り、合成アナログ出力AoutにHS電流検出回路6とLS電流検出回路7を切り替えて出力する際に挿入するGNDレベル、または電源レベルのパルスパターンを変えることにより、測定モードの切り替わりを容易に、かつ確実に判定することができるため、簡素なアルゴリズムで合成アナログ出力Aoutの処理方法を変えることができる。
【0077】
本実施例では、HS電流検出回路6とLS電流検出回路7のオフセットを測定するモードに切り替える例を示したが、これに限らず、例えばソレノイド出力端子の電圧値、といった他の測定値を出力するモードに切り替えることも可能である。
【0078】
以上により、電流制御用半導体素子内のアナログ値の測定タイミングを変えたり、追加でモニタしたい場合でも、マイクロコントローラと電流制御用半導体素子間の信号を増やすことなく、これに対応すること可能で、電流制御装置全体のサイズ、およびコストを抑えることができる。
【0079】
次に、図7を用いて、本発明の各実施形態による電流制御装置を用いた自動変速機制御装置の構成及び動作について説明する。
図7は、本発明の各実施形態による電流制御装置を用いた自動変速機制御装置の構成を示すブロック図である。なお、図7において、図1と同一符号は同一部分を示している。
【0080】
自動変速機制御装置ATCUは、本実施形態の電流制御装置に相当するものであり、図1に示したマイクロコントローラ12と、電流制御用半導体素子1に相当する複数の電流制御用半導体素子1a,…,1eとから構成される。
【0081】
マイクロコントローラ1は、エンジン回転数センサ52、シフトレバー位置センサ53、アクセルペダル位置センサ54からセンサ値を入力し、入力されたセンサ値から、最適な変速比を演算し、その変速比を実現するための、変速機51が備える複数のクラッチ(図示せず)の油圧指令値と、その油圧に対応したソレノイド20a,…,20eの電流値指令値を演算し、その電流値指令値Ia*,…,Ie*を電流制御用半導体素子1a,…,1eに出力する。
【0082】
前述の実施形態における説明の通り、本実施形態では、マイクロコントローラ12と電流制御用半導体素子1間の信号数を減らし、さらに低コストのマイクロコントローラ12を使用することで、小型、低コストな自動変速機制御装置ATCUを実現することができる。
【0083】
なお、図7ではマイクロコントローラ12がエンジン回転数センサ52、シフトレバー位置センサ53、アクセルペダル位置センサ54の3つのセンサからセンサ値を入力しているが、変速制御方式に対応して、入力するセンサの数や種類を変えても良い。また、図7ではマイクロコントローラ12がセンサからセンサ値を直接入力しているが、他のマイクロコントローラやICを経由して入力しても良い。また、図7では自動変速機51が5つのクラッチを備える例を示しているが、変速機構に対応して、クラッチの数、およびそれに対応したソレノイド電流制御装置の数を変えても良い。
【0084】
次に、図8を用いて、本発明の各実施形態による電流制御装置を用いたブラシレスモータ制御装置の構成及び動作について説明する。
図8は、本発明の各実施形態による電流制御装置を用いたブラシレスモータ制御装置の構成を示すブロック図である。なお、図8において、図1と同一符号は同一部分を示している。
【0085】
ブラシレスモータ制御装置MCUは、本実施形態の電流制御装置に相当するものであり、図1に示したマイクロコントローラ12と複数の電流制御用半導体素子1a,…,1cとから構成される。
【0086】
マイクロコントローラ12は、モータの目標回転数、およびトルクを実現するためのモータ71の3相コイルCu,Cv,Cwに対する3相電流指令値を演算し、その電流値指令値Iu*,Iv*,Iw*を電流制御用半導体素子1a,…,1cに出力する。
【0087】
前述の実施形態における説明の通り、本実施形態によると、マイクロコントローラ12と電流制御用半導体素子1間の信号数を減らし、さらに低コストのマイクロコントローラ12を使用することで、小型、低コストな直流ブラシレスモータ制御装置MCUを実現することができる。
【0088】
以上説明したように、本実施形態によれば、測定対象の異なる2つの電流検出回路の出力を1本の信号線上に出力することから、ICとマイクロコントローラ間の信号数とマイクロコントローラで使用するADコンバータの個数を削減することができる。
【0089】
さらに、測定対象の異なる電流検出回路出力の切り替え時に、グランドレベル、または電源レベルを一定期間出力するため、マイクロコントローラは、ADコンバータのサンプリング値をグランドレベル、または電源レベルの閾値と比較するだけで、測定対象が異なる電流検出回路の出力切り替えタイミングを取得することができる。これにより、電流検出の高精度化のために測定対象毎にサンプリングデータの補正を行うプログラムを容易に実現できる。
【符号の説明】
【0090】
1…電流制御用半導体素子
2…ソレノイド
3…バッテリ
4…ハイサイドMOSFET
5…ローサイドMOSFET
6…HS電流検出回路
7…LS電流検出回路
8…出力合成回路
9…IF回路
10…パルス幅設定レジスタ
11…インバータ
12…マイクロコントローラ
13…PWMタイマ
14…ACD
15…IF回路
16…CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一半導体チップ上に、負荷を駆動するハイサイドトランジスタと、前記負荷の還流電流を通電するローサイドトランジスタと、前記ハイサイドトランジスタの電流を検出するハイサイド電流検出回路と、前記ローサイドトランジスタの電流を検出するローサイド電流検出回路、とを有する電流制御用半導体素子と、
前記電流制御用半導体素子に、前記負荷を駆動するためのPWMパルスを出力し、前記電流制御用半導体素子から、前記ハイサイド電流検出回路と前記ローサイド電流検出回路の出力を入力するマイクロコントローラ、とを有する電流制御装置であって、
前記電流制御用半導体素子は、前記PWMパルスに同期して、1つの信号線上に前記ハイサイド電流検出回路の出力と、前記ローサイド電流検出回路の出力を切り替えて、前記マイクロコントローラに出力する出力合成回路を備えることを特徴とする電流制御装置
【請求項2】
請求項1記載の電流制御装置において、
前記電流制御用半導体素子は、前記PWMパルスに同期して、1つの信号線上に前記ハイサイド電流検出回路の出力と、前記ローサイド電流検出回路の出力を切り替えるタイミングで、両者の間の一定期間出力をグランドレベル、または電源レベルに保持することを特徴とする電流制御装置
【請求項3】
請求項2記載の電流制御装置において、
前記電流制御用半導体素子は、前記電流検出回路の出力をグランドレベル、または電源レベルに保持する期間を設定するパルス幅設定レジスタを備えることを特徴とする電流制御装置
【請求項4】
請求項2記載の電流制御装置において、
前記マイクロコントローラは、前記電流制御用半導体素子が出力する一定期間のグランドレベル、または電源レベルを検出し、その検出結果を入力として状態を遷移するステートマシンを備えることを特徴とする電流制御装置。
【請求項5】
請求項4記載の電流制御装置において、
前記マイクロコントローラは、前記ステートマシンの状態によって、前記電流制御用半導体素子の電流検出回路出力の処理内容を変えることを特徴とする電流制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−55620(P2013−55620A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194349(P2011−194349)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】