説明

電磁変換器

【課題】高い磁束密度を得ると共に音圧レベルのロスを減らして、安価かつ高い効率の電磁変換器を得る。
【解決手段】電磁変換器10は、表裏で極性が異なる帯状の永久磁石11を複数、極性を交互に配置してなる永久磁石層と、永久磁石層を挟み込む前面振動膜12および後面振動膜14と、永久磁石11間に配置されると共に前面振動膜12および後面振動膜14に結合されたボビン16と、ボビン16の表面に対向する極性に合わせて逆向きの電流が流れるコイル17a,17bを備える。コイル17a,17bに電流が流れると永久磁石11間の強い磁束と電磁的に結合して同一方向の駆動力21a,21bが発生し、ボビン16に結合した前面振動膜12および後面振動膜14に同一方向のオーディオ振動22a,22bが発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、永久磁石と振動膜とを組み合わせてオーディオ信号から音声再生を行う電磁変換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、永久磁石と振動膜とを組み合わせた電磁変換器については、様々な技術が提案されている。この種の電磁変換器は、例えば特許文献1のように、2つの永久磁石板と、その永久磁石板に挟み込まれるよう配置された振動膜と、永久磁石板と振動膜との間に配置された緩衝部材とを備えている。
【0003】
ここで、永久磁石板は、帯状の磁極が一定の間隔を置いて交互に形成され、いわゆる多極着磁パターンを成している。また、振動膜は、永久磁石板の異なる磁極同士の間隙部分のいわゆる着磁のニュートラルゾーンと称される部分に対向する位置に、蛇行形状の導体パターンからなるコイルが形成されたものである。
【0004】
このような構成により、振動膜のコイルにオーディオ信号である電流が流れると、そのコイルと永久磁石板の多極着磁パターンとが電磁的に結合し、フレミングの法則に従って振動膜にオーディオ振動が発生する。永久磁石板、振動膜および緩衝部材は、金属フレームに覆われてスピーカ筐体に取り付けられており、オーディオ振動によって発生した音波は金属フレームに穿設された放射孔から放射されてオーディオ再生が行われる。
【0005】
【特許文献1】特開平9−331596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電磁変換器は以上のように構成されているので、振動膜を表裏から挟み込むように永久磁石板を配置し、永久磁石の漏れ磁束を使用していたため、電磁変換の効率が悪いという課題があった。そのため、音圧を得る目的で振動膜の駆動に必要な磁束密度を高めるためには、ネオジウム鉄ボロン磁石等、高いBHmaxの磁石で永久磁石板を構成する必要があり、高価な磁気回路となってしまった。
また、振動膜が薄いため、オーディオ振動時の分割共振により音圧レベルのロスが発生してしまうという課題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、高い磁束密度を得ると共に音圧レベルのロスを減らして、安価かつ高い効率の電磁変換器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る電磁変換器は、表裏で極性が異なる帯状の永久磁石を複数、極性を交互に配置してなる永久磁石層と、永久磁石層を挟み込む一対の振動膜と、表面にコイルを有し、永久磁石間に配置されると共に一対の振動膜間に結合されたボビンとを備え、コイルに電流が流れると永久磁石間の磁束と電磁的に結合してボビンが駆動し、ボビンに結合した一対の振動膜が振動するものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、表面にコイルを有するボビンを永久磁石間に配置し、永久磁石層を一対の振動膜が挟み込むようにしたので、安価かつ高い効率の電磁変換器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る電磁変換器10の構成を示す分解斜視図である。図2は、この発明の実施の形態1に係る電磁変換器10を図1に示すAA線に沿って切断した断面図である。図3は、この発明の実施の形態1に係る電磁変換器10を図1に示すBB線に沿って切断した断面図である。なお、図3において、電磁変換器10の構造を分かりやすくするために実際には隠れて見えない部分を点線で示す。
電磁変換器10は、複数の永久磁石11、前面振動膜12、後面振動膜14、ボビン16、コイル17、前面フレーム18、後面フレーム19およびヨーク20から構成される。
【0011】
複数の帯状の永久磁石11は、所定のギャップを設けて平行に、互い違いの極性が向くようにヨーク20に固着されている。これら永久磁石11からなる永久磁石層の側周を囲うように前面フレーム18が配置され、ヨーク20の下側に前面フレーム18と略同形の後面フレーム19が配置されている。さらに、前面フレーム18、永久磁石11からなる永久磁石層、ヨーク20、後面フレーム19を前後方向から挟み込むように、前面振動膜12と後面振動膜14とが配置されている。
【0012】
前面振動膜12の周縁には前面制動エッジ13が接続され、この前面制動エッジ13の外周縁が前面フレーム18に固着している。同様に、後面振動膜14の周縁に後面制動エッジ15が接続され、この後面制動エッジ15の外周縁が後面フレーム19に固着している。このように前面制動エッジ13および後面制動エッジ15を設けることにより、前面振動膜12および後面振動膜14の分割共振を制動することができる。
【0013】
前面振動膜12と後面振動膜14の間の永久磁石11間のギャップそれぞれに、ボビン16が配置されている。これらボビン16は、前面振動膜12および後面振動膜14間に鉛直方向に結合されている。なお、ボビン16と前面振動膜12および後面振動膜14とは接着されたか、または一体成形されたものである。
【0014】
これらボビン16は、前面振動膜12および後面振動膜14の間をリブのように結合している。そのため、ボビン16により、薄く柔軟な樹脂フィルムである前面振動膜12および後面振動膜14の剛性をあげることができる。よって、前面振動膜12および後面振動膜14に対してボビン16により剛性を向上させると共に、前面制動エッジ13および後面制動エッジ15により分割共振を制動することにより音圧レベルのロスを抑制することができ、効率を高めることができる。
【0015】
図2および図3に示すように、各ボビン16には、コイル17a,17bがボビン16の長手方向に往復するようにプリントまたは巻回されている。永久磁石11は、前面振動膜12に対向する前面と、ヨーク20に固着された後面とで極性が異なるが、永久磁石11の前面側に位置するコイル17aと後面側に位置するコイル17bとがループ状になるよう配置したので、コイル17a,17bに流れる電流方向を極性に合わせて逆にすることができる。
【0016】
前面フレーム18の一端に切り欠き部18aが、後面フレーム19の一端に切り欠き部19aが、ヨーク20の一端に切り欠き部20aがそれぞれ形成されている。これは、図1に示すように前面振動膜12、後面振動膜14およびボビン16を一体成形した場合、切り欠き部18a,19a,20aにボビン16を通して電磁変換器10を組み立てるためである。従って、前面振動膜12、後面振動膜14およびボビン16が一体成形でなければ、切り欠き部18a,19a,20aを形成する必要はない。
【0017】
永久磁石11を保持するヨーク20はフェライト磁性体からなり、コイル17に電流が流れると磁気回路の一部となる。
【0018】
以上の構成により、電磁変換器10のコイル17a,17bに互いに逆向きの電流が流れると、フレミングの法則に従って、前後面で異なる磁極間の磁束によってコイル17a,17bに同一方向の駆動力21a,21bが発生し、同一方向に振動する。コイル17a,17bの振動によって各ボビン16も振動する。そして、これらボビン16の振動が前面振動膜12および後面振動膜14に伝播されて、同一方向のオーディオ振動22a,22bが発生する。永久磁石11間ギャップの磁束は、永久磁石11の前面側と後面側とで逆極性となるが、コイル17a,17bの電流方向を逆にすることにより逆極性の磁束を使用できるために高い駆動力が得られる。
【0019】
本実施の形態の電磁変換器10は、永久磁石11間ギャップの強い磁束でボビン16を駆動させている。そのため、永久磁石11に従来のネオジウム鉄ボロン磁石等、高いBHmaxの磁石を使用せず、フェライト磁石等、比較的低いBHmaxの安価な磁石を使用しても、必要な磁束密度を得ることができる。また、永久磁石11にBHmaxの高い高価な磁石を使用する場合、磁石体積を減らしても必要な磁束密度を得ることができる。この結果、安価な磁気回路を構成することができる。
【0020】
以上のように、実施の形態1によれば、表裏で極性が異なる帯状の永久磁石11を複数、極性を交互に配置してなる永久磁石層と、永久磁石層を挟み込む前面振動膜12および後面振動膜14と、表面にコイル17を有し、永久磁石11間に配置されると共に前面振動膜12および後面振動膜14に結合されたボビン16とを備え、コイル17に電流が流れると永久磁石11間の強い磁束と電磁的に結合してボビン16が駆動し、ボビン16に結合した前面振動膜12および後面振動膜14が振動するように構成した。そのため、高い磁束密度を得ると共に音圧レベルのロスを減らすことができ、安価かつ高い効率の電磁変換器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器の構成を示す分解斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器を図1に示すAA線に沿って切断した断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る電磁変換器を図1に示すBB線に沿って切断した断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 電磁変換器、11 永久磁石、12 前面振動膜、13 前面制動エッジ、14 後面振動膜、15 後面制動エッジ、16 ボビン、17,17a,17b コイル、18 前面フレーム、18a,19a,20a 切り欠き部、19 後面フレーム、20 ヨーク、21a,21b 駆動力、22a,22b オーディオ振動。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏で極性が異なる帯状の永久磁石を複数、極性を交互に配置してなる永久磁石層と、
前記永久磁石層を挟み込む一対の振動膜と、
表面にコイルを有し、前記永久磁石間に配置されると共に前記一対の振動膜間に結合されたボビンとを備え、
前記コイルに電流が流れると前記永久磁石間の磁束と電磁的に結合して前記ボビンが駆動し、前記ボビンに結合した前記一対の振動膜が振動する電磁変換器。
【請求項2】
ボビンは、帯状の永久磁石の異なる極性それぞれに対向する位置にそれぞれコイルを有し、それぞれの前記コイルに流れる電流方向を対向する前記極性に合わせて逆にすることを特徴とする請求項1記載の電磁変換器。
【請求項3】
永久磁石層の側周を囲み、当該永久磁石層と共に一対の振動膜に挟み込まれるフレームと、
前記一対の振動膜それぞれの周縁に設けられ、当該各振動膜と前記フレームとを連結する制動エッジとを備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の電磁変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−114833(P2010−114833A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287895(P2008−287895)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(591036457)三菱電機エンジニアリング株式会社 (419)
【Fターム(参考)】