説明

非水電解液電池

【課題】電池異常時の安全性を確保し、電池使用時の容量や出力の低下を抑制することができる非水電解液電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池20では、電池容器7に、正負極板がセパレータを介して捲回された電極群6が収容されており、非水電解液が注液されている。正極板は、アルミニウム箔W1の両面に、リチウム遷移金属複酸化物を含む正極合剤層W2が形成されている。正極合剤層W2の表面には、難燃化剤のホスファゼン化合物と、イオン伝導性を有するバインダのポリエチレンオキサイドとを含む難燃化剤層W6が形成されている。負極板は、圧延銅箔W3の両面に、負極活物質の炭素材を含む負極合剤層W4が形成されている。ポリエチレンオキサイドでイオン伝導性が確保され、電池異常で電池温度が上昇するとホスファゼン化合物が分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液電池に係り、特に、活物質を含む正極合剤が集電体に塗着された正極板と、活物質を含む負極合剤が集電体に塗着された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液が水溶液系である二次電池としては、アルカリ蓄電池や鉛蓄電池等が知られている。これらの水溶液系二次電池に代わり、小型、軽量かつ高エネルギー密度の二次電池として、リチウム二次電池に代表される非水電解液電池が普及している。非水電解液電池に用いられる電解液には、ジメチルエーテル等の有機溶媒が含まれている。有機溶媒が可燃性を有するため、短絡等の電池異常時や火中投下時に電池温度が上昇した場合は、電池構成材料の燃焼や活物質の熱分解反応により電池挙動が激しくなるおそれがある。
【0003】
このような事態を回避し電池の安全性を確保するために種々の安全化技術が提案されている。例えば、非水電解液に難燃化剤(不燃性付与物質)を溶解させて非水電解液を不燃化する技術(特許文献1参照)、セパレータに難燃化剤を分散させてセパレータを不燃化する技術(特許文献2参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−184870号公報
【特許文献2】特開2006−127839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2の技術では、難燃化剤を含有させた非水電解液およびセパレータの電池構成材料を不燃化する技術であり、電池そのものを不燃化することは難しい。例えば、特許文献2の技術において、セパレータ中に含有させる難燃化剤の量によりセパレータ自身に不燃性を付与することが可能となる。この技術をリチウム二次電池に適用した場合、リチウム二次電池等の非水電解液電池では活物質の熱分解反応による発熱が大きくなるため、電池温度の上昇を抑制するには多量の難燃化剤が必要となる。このように難燃化剤を多く含ませたセパレータでは、本来セパレータとして要求される強度を保つことが難しくなる、という問題が生じるおそれがある。また、難燃化剤を活物質とともに合剤に含有させることもできるが、この場合は、難燃化剤により合剤層の隙間が埋められるため、充放電時のイオンの移動が妨げられることとなり、容量や出力が低下する、という問題も生じる。
【0006】
本発明は上記事案に鑑み、電池異常時の安全性を確保し、電池使用時の容量や出力の低下を抑制することができる非水電解液電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、活物質を含む正極合剤が集電体に塗着された正極板と、活物質を含む負極合剤が集電体に塗着された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池において、前記正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に、難燃化剤のホスファゼン化合物およびイオン伝導性を有するバインダを含む難燃化剤層が配されたことを特徴とする。
【0008】
本発明では、正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に配された難燃化剤層に難燃化剤のホスファゼン化合物が含まれたことで、活物質の近傍に難燃化剤が存在するので、電池異常で温度上昇したときに難燃化剤により電池の燃焼が抑制されるため、電池挙動を穏やかにし安全性を確保することができ、難燃化剤層に含まれるバインダがイオン伝導性を有することで、通常充放電時に難燃化剤層でのイオン伝導性が確保されるため、容量や出力の低下を抑制することができる。
【0009】
この場合において、難燃化剤を60℃以上400℃以下の温度環境で熱分解するホスファゼン化合物とすることができる。難燃化剤が正極合剤に対して10wt%以上の割合で含まれていてもよい。また、難燃化剤層のバインダをポリエーテル系高分子化合物とすることができる。ポリエーテル系高分子化合物がポリエチレンオキサイドを含むようにしてもよい。また、難燃化剤層には、難燃化剤が50wt%〜91wt%の範囲の割合、バインダが9wt%〜50wt%の範囲の割合でそれぞれ含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に配された難燃化剤層に難燃化剤のホスファゼン化合物が含まれたことで、活物質の近傍に難燃化剤が存在するので、電池異常で温度上昇したときに難燃化剤により電池の燃焼が抑制されるため、電池挙動を穏やかにし安全性を確保することができ、難燃化剤層に含まれるバインダがイオン伝導性を有することで、通常充放電時に難燃化剤層でのイオン伝導性が確保されるため、容量や出力の低下を抑制することができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した実施形態の円柱型リチウムイオン二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を適用したハイブリッド自動車搭載用の円柱型リチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の円柱型リチウムイオン二次電池20は、ニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池容器7を有している。電池容器7には、帯状の正負極板がセパレータを介して断面渦巻状に捲回された電極群6が収容されている。
【0014】
電極群6の捲回中心には、ポリプロピレン樹脂製で中空円筒状の軸芯1が使用されている。電極群6の上側には、軸芯1のほぼ延長線上に正極板からの電位を集電するための円環状導体の正極集電リング4が配置されている。正極集電リング4は、軸芯1の上端部に固定されている。正極集電リング4の周囲から一体に張り出している鍔部周縁には、正極板から導出された正極リード片2の端部が超音波溶接で接合されている。正極集電リング4の上方には、安全弁を内蔵し正極外部端子となる円盤状の電池蓋11が配置されている。正極集電リング4の上部は、導体リードを介して電池蓋11に接続されている。
【0015】
一方、電極群6の下側には負極板からの電位を集電するための円環状導体の負極集電リング5が配置されている。負極集電リング5の内周面には軸芯1の下端部外周面が固定されている。負極集電リング5の外周縁には、負極板から導出された負極リード片3の端部が溶接で接合されている。負極集電リング5の下部は、導体リードを介して電池容器7の内底部に接続されている。電池容器7の寸法は、本例では、外径40mm、内径39mmに設定されている。
【0016】
電池蓋11は、絶縁性および耐熱性のEPDM樹脂製ガスケット10を介して電池容器7の上部にカシメ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池20の内部は密封されている。また、電池容器7内には、非水電解液が注液されている。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1:1の混合溶媒中にリチウム塩として6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットル溶解したものが用いられている。なお、リチウムイオン二次電池20は、所定電圧および電流で初充電を行うことで、電池機能が付与される。
【0017】
電極群6は、正極板と負極板とが、これら両極板が直接接触しないように、リチウムイオンが通過可能な多孔質ポリエチレン製のセパレータW5を介し、軸芯1の周囲に捲回されている。セパレータW5の厚さは、本例では、30μmに設定されている。正極リード片2と負極リード片3とが、それぞれ電極群6の互いに反対側の両端面に配置されている。電極群6の直径は、本例では、正極板、負極板、セパレータW5の長さを調整することで、38±0.5mmに設定されている。電極群6および正極集電リング4の鍔部周面全周には、電極群6と電池容器7との電気的接触を防止するために絶縁被覆が施されている。絶縁被覆には、ポリイミド製の基材の片面にヘキサメタアクリレートの粘着剤が塗布された粘着テープが用いられている。粘着テープは鍔部周面から電極群6の外周面に亘って一重以上巻かれている。電極群6の最大径部が絶縁被覆存在部となるように巻き数が調整され、該最大径が電池容器7の内径より僅かに小さく設定されている。
【0018】
電極群6を構成する正極板は、正極集電体としてアルミニウム箔W1を有している。アルミニウム箔W1の厚さは、本例では、20μmに設定されている。アルミニウム箔W1の両面には、正極活物質としてリチウム遷移金属複酸化物を含む正極合剤が実質的に均等かつ均質に塗着され正極合剤層W2が形成されている。すなわち、塗着された正極合剤層W2の厚さがほぼ一様であり、かつ、正極合剤層W2内では正極活物質がほぼ一様に分散されている。リチウム遷移金属複酸化物には、本例では、層状結晶構造を有するマンガンニッケルコバルト複酸リチウム粉末、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末のいずれかが用いられている。正極合剤には、例えば、リチウム遷移金属複酸化物の85wt%(質量%)に対して、導電材として鱗片状黒鉛の8wt%およびアセチレンブラックの2wt%と、バインダ(結着材)としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFと略記する。)の5wt%と、が配合されている。アルミニウム箔W1に正極合剤を塗着するときには、分散溶媒のN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する。)が用いられる。アルミニウム箔W1の長寸方向一側の側縁には、幅30mmの正極合剤の未塗着部が形成されている。未塗着部は櫛状に切り欠かれており、切り欠き残部で正極リード片2が形成されている。隣り合う正極リード片2の間隔が20mm、正極リード片2の幅が5mmに設定されている。正極板は、乾燥後プレス加工され、幅80mmに裁断されている。
【0019】
また、正極合剤層W2の表面、すなわち、正極板の両面には、難燃化剤とイオン伝導性を有するバインダとを含む難燃化剤層W6が形成されている。難燃化剤には、リンおよび窒素を基本骨格とするホスファゼン化合物が用いられている。バインダとしては、リチウムイオン伝導性を有するポリエーテル系高分子化合物を用いることができ、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールメチルエーテル等を挙げることができる。本例では、バインダとしてポリエチレンオキサイドが用いられている。難燃化剤の配合割合は、本例では、正極合剤に対して1wt%以上に設定されている。また、バインダの配合割合は、正極合剤に対して1〜10wt%の範囲で設定することができる。難燃化剤層W6では、ホスファゼン化合物が50wt%〜91wt%の範囲の割合、ポリエチレンオキサイドが9wt%〜50wt%の範囲の割合でそれぞれ含まれている。この難燃化剤層W6は、次のようにして形成されたものである。すなわち、ホスファゼン化合物とポリエチレンオキサイドとを溶解、分散させた溶液を正極合剤層W2の表面に塗布し、乾燥後、プレス処理を施すことで正極板全体の厚さを調整する。
【0020】
ホスファゼン化合物は、一般式(NPRまたは(NPRで表される環状化合物である。一般式中のRは、フッ素や塩素等のハロゲン元素または一価の置換基を示している。一価の置換基としては、メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基やメチルフェノキシ基等のアリールオキシ基、メチル基やエチル基等のアルキル基、フェニル基やトリル基等のアリール基、メチルアミノ基等の置換型アミノ基を含むアミノ基、メチルチオ基やエチルチオ基等のアルキルチオ基、および、フェニルチオ基等のアリールチオ基を挙げることができる。これらのホスファゼン化合物は、それぞれ所定温度で熱分解するが、60℃以上400℃以下の温度環境で熱分解するものが用いられる。すなわち、正極活物質が60℃以上で自己発熱を始めること、および、正極活物質が400℃を超えると熱分解し始めることを考慮し、60℃以上400℃以下のホスファゼン化合物が用いられる。
【0021】
一方、負極板は、負極集電体として圧延銅箔W3を有している。圧延銅箔W3の厚さは、本例では、10μmに設定されている。圧延銅箔W3の両面には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材を含む負極合剤が、正極板と同様に実質的に均等かつ均質に塗着され負極合剤層W4が形成されている。負極活物質の炭素材には、本例では、非晶質炭素粉末が用いられている。負極合剤には、例えば、非晶質炭素粉末の90wt%に対して、バインダとしてPVdFの10wt%が配合されている。圧延銅箔W3に負極合剤を塗着するときには、分散溶媒のNMPが用いられる。圧延銅箔W3の長寸方向一側の側縁には、正極板と同様に幅30mmの負極合剤の未塗着部が形成されており、負極リード片3が形成されている。隣り合う負極リード片3の間隔が20mm、負極リード片3の幅が5mmに設定されている。負極板は、乾燥後、プレス加工され、幅86mmに裁断されている。なお、負極板の長さは、正極板および負極板を捲回したときに、捲回最内周および最外周で捲回方向に正極板が負極板からはみ出すことがないように、正極板の長さより120mm長く設定されている。また、負極合剤層W4(合剤塗布部)の幅は、捲回方向と垂直方向において正極合剤層W2が負極合剤層W4からはみ出すことがないように、正極合剤層W2の幅より6mm長く設定されている。
【実施例】
【0022】
次に、本実施形態に従い作製したリチウムイオン二次電池20の実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例のリチウムイオン二次電池についても併記する。
【0023】
(実施例1)
実施例1では、難燃化剤のホスファゼン化合物(株式会社ブリヂストン製、商品名ホスライト(登録商標)、固体状、分解温度250℃以上)とポリエチレンオキサイドとを溶解、分散させた溶液を調製した。ポリエチレンオキサイドの配合割合は、正極合剤に対して1wt%に設定した。ホスファゼン化合物の配合割合は、下表1に示すように、正極合剤に対して1wt%に調整した。この分散溶液を、プレス加工により厚さを120μmに調整した正極合剤層W2の表面に塗布した。このとき、分散溶液の塗布量を調整することで、正極合剤に対する難燃化剤の配合割合を調整した。難燃化剤層W6の厚さは4μmとなった。難燃化剤層W6では、ホスファゼン化合物が50wt%、ポリエチレンオキサイドが50wt%でそれぞれ含まれることとなる。
【0024】
【表1】

【0025】
(実施例2〜実施例9)
表1に示すように、実施例2〜実施例9では、難燃化剤の配合割合を変える以外は実施例1と同様にした。すなわち、難燃化剤の配合割合は、実施例2では2wt%、実施例3では3wt%、実施例4では5wt%、実施例5では6wt%、実施例6では8wt%、実施例7では10wt%、実施例8では15wt%、実施例9では20wt%、にそれぞれ調整した。難燃化剤の配合割合を大きくするために正極合剤層W2に対する分散溶液の塗布量を増やしたことから、得られた正極板の難燃化剤層W6の厚さが変わることとなる。難燃化剤層W6の厚さは、表1に示すように、実施例2では8μm、実施例3では10μm、実施例4では17μm、実施例5では20μm、実施例6では24μm、実施例7では31μm、実施例8では44μm、実施例9では63μmとなった。また、難燃化剤層W6でのホスファゼン化合物およびポリエチレンオキサイドの割合は、実施例1と同様の分散溶液を使用し、塗布量により難燃化剤量を調整したことから、実施例2〜実施例9のいずれについても50wt%および50wt%となる。
【0026】
(比較例)
比較例では、正極合剤層W2の表面に難燃化剤層W6を形成しない以外は実施例1と同様にした。すなわち、比較例のリチウムイオン二次電池は従来の電池である。
【0027】
(試験1)
各実施例および比較例のリチウムイオン二次電池について、過充電試験を行い評価した。過充電試験では、電池中央部に熱電対を配置し、各リチウムイオン二次電池を0.5Cの電流値で充電し続けたときの電池表面の温度を測定した。過充電試験における電池表面最高温度を下表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に示すように、難燃化剤を含有していない比較例のリチウムイオン二次電池では、過充電試験により電池表面最高温度が482.9℃に達した。これに対して、難燃化剤を含有した実施例1〜実施例9のリチウムイオン二次電池20では、いずれも電池表面最高温度が低下しており、難燃化剤の配合割合を大きくすることで電池表面最高温度の低下する割合も大きくなることが判った。難燃化剤が正極合剤に対して1wt%配合されていれば(実施例1)、比較例のリチウムイオン二次電池と比べて電池表面最高温度を低下させることができるが、活物質の熱分解反応やその連鎖反応を抑制することを考慮すれば、電池表面最高温度がおよそ150℃以下に抑えられることが好ましい。このことは、難燃化剤の配合割合を10wt%以上とすることで達成することができる(実施例7〜実施例9)。
【0030】
(実施例10)
実施例10では、ホスファゼン化合物の配合割合を正極合剤に対して10wt%に設定し、ポリエチレンオキサイドの配合割合を、下表3に示すように、正極合剤に対して1wt%に調整したこと以外は実施例1と同様に、厚さ120μmの正極合剤層W2の表面に難燃化剤層W6を形成した。難燃化剤層W6の厚さは25μmとなった。難燃化剤層W6では、ホスファゼン化合物が91wt%、ポリエチレンオキサイドが9wt%でそれぞれ含まれることとなる。
【0031】
【表3】

【0032】
(実施例11〜実施例14)
表3に示すように、実施例11〜実施例14では、ポリエチレンオキサイドの配合割合を変える以外は実施例10と同様にした。すなわち、正極合材に対するポリエチレンオキサイドの配合割合は、実施例11では3wt%、実施例12では5wt%、実施例13では8wt%、実施例14では10wt%、にそれぞれ調整した。難燃化剤層W6の厚さは、実施例11では24μm、実施例12では26μm、実施例13では28μm、実施例14では31μm、となった。また、難燃化剤層W6でのホスファゼン化合物およびポリエチレンオキサイドの割合は、実施例11では77wt%および23wt%、実施例12では67wt%および33wt%、実施例13では56wt%および44wt%、実施例14では50wt%および50wt%、となる。
【0033】
(実施例15〜実施例16)
実施例15〜実施例16では、難燃化剤層W6のバインダを変える以外は実施例10と同様にした。すなわち、バインダとして、実施例15ではポリエチレングリコールジメチルエーテル、実施例16ではポリエチレングリコールメチルエーテルをそれぞれ用いた。表3に示すように、難燃化剤層W6の厚さは、実施例15では32μm、実施例16では29μmとなった。
【0034】
(試験2)
実施例10〜実施例16および比較例のリチウムイオン二次電池について、充放電試験を行い評価した。充放電試験では、各リチウムイオン二次電池を0.5Cの電流値で充電した後、1.0Cおよび3.0Cの電流値で放電したときの放電容量を測定した。比較例のリチウムイオン二次電池における放電容量を100%としたときの相対容量を算出した。相対容量の結果を下表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
表4に示すように、正極合剤層W2の表面に難燃化剤層W6を形成した実施例10〜実施例14の各リチウムイオン二次電池20では、難燃化剤層W6を形成しない比較例のリチウムイオン二次電池と比べて、1.0C放電において90%以上、3.0C放電においても80%以上の放電容量を確保できることが確認された。難燃化剤層W6の形成により電池性能の低下が予想されるものの、難燃化剤層W6に配合したバインダがイオン伝導性を有することで容量低下が抑制されたためと考えられる。また、バインダの種類を変えた実施例15、実施例16でも、ポリエチレンオキサイドをバインダとしたときと比べると若干の容量低下がみられるものの、1.0C放電で80%以上、3.0C放電で70%以上の放電容量を確保できることが確認された。
【0037】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20の作用等について説明する。
【0038】
本実施形態では、電極群6を構成する正極板の正極合剤層W2の表面に、難燃化剤としてホスファゼン化合物が含有された難燃化剤層W6が形成されている。このホスファゼン化合物は、電池異常時等の高温環境下の所定温度(60〜400℃)で分解する。難燃化剤層W6が正極合剤層W2の表面に形成されることで、ホスファゼン化合物が正極活物質の近傍に存在することとなる。このため、リチウムイオン二次電池20が異常な高温環境下にさらされたときや電池異常が生じたときに、正極活物質の熱分解反応やその連鎖反応で電池温度が上昇すると、ホスファゼン化合物が分解する。これにより、電池構成材料の燃焼が抑制されるため、リチウムイオン二次電池20の電池挙動を穏やかにし安全性を確保することができる。
【0039】
また、本実施形態では、難燃化剤層W6に、バインダとしてイオン伝導性を有するポリエチレンオキサイドが含まれている。難燃化剤のみの層が正極合剤層W2の表面に形成された場合は、難燃化剤により正極合剤層W2の表面における活物質の隙間が埋められ、リチウムイオンの移動が阻害される可能性があり、結果として、出力低下を招くことがある。これに対して、難燃化剤層W6にイオン伝導性を有するポリエチレンオキサイドが含まれたことで、イオン伝導性が確保されるため、リチウムイオンが正負極板間を十分に移動することができ、電池性能を確保することができる。更に、難燃化剤層W6をホスファゼン化合物のみで形成しようとする場合は、ホスファゼン化合物の分散状態が不均一化しやすく、安全性の確保が不十分となることがある。これに対して、ホスファゼン化合物とバインダとを混合し難燃化剤層W6を形成することにより、ホスファゼン化合物の分散状態が均一化し安定した難燃効果を得ることができる。また、本来イオン伝導性を阻害するホスファゼン化合物の分散状態が均一化することで、ホスファゼン化合物の間隙に存在するポリエチレンオキサイドがほぼ一様な多孔質様のイオン伝導経路を形成する。このため、リチウムイオンの移動が円滑化され、電池性能の確保に寄与することができる。
【0040】
更に、本実施形態では、難燃化剤として60℃以上400℃以下の温度環境で熱分解するホスファゼン化合物が用いられている。正極活物質のリチウム遷移金属複酸化物が60℃以上で自己発熱を始めることを考慮すれば、60℃未満で熱分解するホスファゼン化合物では通常の充放電性能を妨げる可能性がある。また、リチウム遷移金属複酸化物が400℃を超えると熱分解し始めることから、400℃を超えて熱分解するホスファゼン化合物では十分な効果を得ることが難しくなる。従って、60℃以上400℃以下で熱分解するホスファゼン化合物であれば、通常の電池使用時にはホスファゼン化合物が分解せず難燃化剤層W6として保持されるので、リチウムイオン二次電池20の電池性能を確保することができ、電池異常となる温度環境下でホスファゼン化合物が分解し安全性を確保することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、正極合剤層W2の表面、すなわち、正極板の両面に難燃化剤層W6を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、負極合剤層W4やセパレータW5の表面に形成するようにしてもよい。すなわち、難燃化剤層W6が、正極板、負極板およびセパレータW5の少なくとも1つの片面または両面に形成されていればよい。負極合剤層W4やセパレータW5の表面に難燃化剤層W6を形成した場合でも、本実施形態と同様の効果の得られることを確認している。電池異常時等では、正極板での発熱量が大きくなることが予想されることから、正極板に難燃化剤層W6を形成することが効果的である。
【0042】
また、本実施形態では、難燃化剤層W6に配合されるバインダとしてポリエチレンオキサイドを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、イオン伝導性を有しており難燃化剤層W6を形成可能であればいかなるバインダを用いてもよい。バインダ機能とリチウムイオン伝導性とを有する材料としては、ポリエーテル系高分子化合物を挙げることができ、上述したポリエチレングリコールジメチルエーテルやポリエチレングリコールメチルエーテル等を用いることができる。また、本実施形態では、バインダにポリエチレンオキサイドの1種を用いる例を示したが、2種以上を用いるようにしてもよい。
【0043】
更に、本実施形態では、難燃化剤層W6に配合するバインダの割合を、正極合剤に対して1〜10wt%の範囲に設定する例を示した。バインダの配合割合が10wt%を超えると難燃化剤層W6の厚みが大きくなることとなり、電池性能を阻害する可能性がある。すなわち、同じ容積のリチウムイオン二次電池では、難燃化剤層W6の厚みが大きくなることで、相対的に正極合剤層W2の厚みが小さくなり活物質量が減少するため、却って電池性能を低下させることとなる。反対に、バインダの配合割合が1wt%に満たないと、難燃化剤層W6を形成することが難しくなり、また、イオン伝導性が不十分となるため、出力や容量の低下を抑制する効果を十分に得ることができなくなる。
【0044】
また更に、本実施形態では、難燃化剤層W6に配合する難燃化剤の割合を1wt%以上に設定する例を示した(実施例1〜実施例9)。難燃化剤の配合割合が1wt%に満たないと熱分解反応による温度上昇を抑制することが難しくなる。また、熱分解反応の連鎖反応による更なる温度上昇を抑制することを考慮すれば、難燃化剤の配合割合を10wt%以上とすることがより好ましい。反対に、難燃化剤の配合割合が20wt%を超えると、難燃化剤層W6の厚みが増大するため、電池内への活物質充填量の低下による電池容量の低下、正負極板間の距離拡大による電池抵抗の増大等を招く可能性があり好ましくない。従って、難燃化剤の配合割合を10〜20wt%の範囲に調整することがより好ましい。
【0045】
更にまた、本実施形態では、難燃化剤としてホスファゼン化合物の1種を配合する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本実施形態で例示したホスファゼン化合物の2種以上や、ホスファゼン化合物以外の難燃化剤を混合して用いることも可能である。このような難燃化剤としては、上述した温度範囲で熱分解し活物質の熱分解反応やその連鎖反応による温度上昇を抑制することができるものであればよい。
【0046】
また、本実施形態では、特に言及していないが、難燃化剤層W6に多孔を形成してリチウムイオン透過性を向上させるように多孔化してもよい。多孔化するためには、難燃化剤層W6を形成するときに造孔剤(孔形成剤)を配合するようにすればよい。造孔剤としては、例えば、酸化アルミニウム等を用いることができ、形成する多孔の割合にあわせて造孔剤の配合割合を調整することができる。このようにすれば、通常の電池使用(充放電)時におけるリチウムイオンの正負極板間の移動性を向上させることができ、電池性能を向上させることができる。更に、難燃化剤層W6に導電剤を含有させるようにしてもよい。このようにすれば、難燃化剤層W6におけるイオン伝導性に加えて、電子伝導性も向上するため、電池性能の向上を図ることができる。導電剤としては、例えば、黒鉛や非晶質炭素等の炭素材を挙げることができる。
【0047】
更に、本実施形態では、ハイブリッド自動車に搭載される円柱型リチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電池容量が約3Ahを超える大型のリチウムイオン二次電池に適用することができる。また、本実施形態では、正極板、負極板を捲回した電極群6を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、矩形状の正極板、負極板を積層した電極群としてもよい。更に、電池形状についても、円柱型以外に角型等としてもよいことはもちろんである。また、本発明はリチウムイオン二次電池に制限されるものではなく、非水電解液を用いた非水電解液電池に適用できることはいうまでもない。
【0048】
また更に、本実施形態では、正極活物質に、層状結晶構造を有するマンガンニッケルコバルト複酸リチウム粉末、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末のいずれかのリチウム遷移金属複酸化物を用いる例を示したが、本発明で用いることのできる正極活物質としてはリチウム遷移金属複酸化物であればよい。また、本実施形態では、負極活物質に非晶質炭素を用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材であればよく、例えば、黒鉛系の材料を用いてもよい。更に、非水電解液の組成等、すなわち、有機溶媒の種類や組み合わせ、リチウム塩の種類や配合量等についても特に制限されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は電池異常時の安全性を確保し、電池使用時の容量や出力の低下を抑制することができる非水電解液電池を提供するものであるため、非水電解液電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0050】
W1 アルミニウム箔(集電体)
W2 正極合剤層
W3 圧延銅箔(集電体)
W4 負極合剤層
W5 セパレータ
W6 難燃化剤層
6 電極群
20 円柱型リチウムイオン二次電池(非水電解液電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む正極合剤が集電体に塗着された正極板と、活物質を含む負極合剤が集電体に塗着された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池において、前記正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に、難燃化剤のホスファゼン化合物およびイオン伝導性を有するバインダを含む難燃化剤層が配されたことを特徴とする非水電解液電池。
【請求項2】
前記難燃化剤は60℃以上400℃以下の温度環境で熱分解することを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項3】
前記難燃化剤は前記正極合剤に対して10wt%以上の割合で含有されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項4】
前記バインダはポリエーテル系高分子化合物であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項5】
前記ポリエーテル系高分子化合物はポリエチレンオキサイドを含むことを特徴とする請求項4に記載の非水電解液電池。
【請求項6】
前記難燃化剤層には、前記難燃化剤が50wt%〜91wt%の範囲の割合、前記バインダが9wt%〜50wt%の範囲の割合でそれぞれ含まれていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−59390(P2012−59390A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198752(P2010−198752)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】