説明

非水電解液電池

【課題】電池異常時の安全性を確保し電池使用時の充放電特性の低下を抑制することができる非水電解液電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池20は、電池容器7に電極群6が収容されている。電極群6は、正極板と負極板とがセパレータW5を介して捲回されている。正極板は正極集電体のアルミニウム箔W1を有している。アルミニウム箔W1の両面には、正極活物質を含む正極合剤層W2が形成されている。正極合剤層W2の両表面には、難燃化剤を含む難燃化剤層W6が形成されている。難燃化剤層W6には、電子伝導性を有し、難燃化剤に対する質量比が25%以下の炭素材料が含まれている。負極板は負極集電体の圧延銅箔W3を有している。圧延銅箔W3の両面には、負極活物質を含む負極合剤層W4が形成されている。電池使用時に電子伝導性が確保され、電池異常時に難燃化剤が分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液電池に係り、特に、活物質を含む正極合剤層が集電体に形成された正極板と、活物質を含む負極合剤層が集電体に形成された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液が水溶液系である二次電池としては、アルカリ蓄電池や鉛蓄電池等が知られている。これらの水溶液系二次電池に代わり、小型、軽量かつ高エネルギー密度であり、リチウム二次電池に代表される非水電解液電池が普及している。非水電解液電池に用いられる電解液には、ジメチルエーテル等の有機溶媒が含まれている。有機溶媒が可燃性を有するため、過充電や内部短絡等の電池異常時や火中投下時に電池温度が上昇した場合には、電池構成材料の燃焼や活物質の熱分解反応により電池挙動が激しくなるおそれがある。
【0003】
このような事態を回避し電池の安全性を確保するために種々の安全化技術が提案されている。例えば、非水電解液に難燃化剤(不燃性付与物質)を溶解させて非水電解液を不燃化する技術(特許文献1参照)、セパレータに難燃化剤を分散させてセパレータを不燃化する技術(特許文献2参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−184870号公報
【特許文献2】特開2006−127839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2の技術では、難燃化剤を含有させた非水電解液やセパレータの電池構成材料自体を不燃化する技術であり、電池そのものを不燃化することは難しい。例えば、特許文献2の技術において、セパレータ中に含有させる難燃化剤の量によりセパレータ自身に不燃性を付与することが可能となる。この技術をリチウム二次電池に適用した場合は、リチウム二次電池では活物質の熱分解反応による発熱が大きくなるため、温度上昇を抑制するには多量の難燃化剤が必要となる。また、難燃化剤を多く含ませたセパレータでは、セパレータとして本来求められる強度を保つことが難しくなる、といった問題も生じる可能性がある。
【0006】
本発明は上記事案に鑑み、電池異常時の安全性を確保し電池使用時の充放電特性の低下を抑制することができる非水電解液電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、活物質を含む正極合剤層が集電体に形成された正極板と、活物質を含む負極合剤層が集電体に形成された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池において、前記正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に、難燃化剤を含む難燃化剤層が配され、電子伝導性を有し、該難燃化剤に対する質量比が25%以下の炭素材料が前記難燃化剤層に含まれたことを特徴とする。
【0008】
本発明において、難燃化剤層に含まれる炭素材料は、難燃化剤に対する質量比が1%以上であることが好ましい。また、難燃化剤層に含まれる炭素材料は、難燃化剤に対する質量比が2〜20%の範囲であることがより好ましい。難燃化剤層は、正極板ないし負極板の片面または両面に配されており、難燃化剤層の厚さを、正極合剤層または負極合剤層の厚さに対して20%以下としてもよい。難燃化剤層に含まれる炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素から選択される1種または少なくとも2種の組み合わせとすることができる。グラファイトは、鱗片状グラファイト、人造グラファイト、土状グラファイトから選択される1種または少なくとも2種の組み合わせとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に、難燃化剤を含む難燃化剤層が配されたことで、電池異常で温度上昇したときに難燃化剤が電池構成材料の燃焼を抑制するため、電池挙動を穏やかにし安全性を確保することができると共に、電子伝導性を有し、難燃化剤に対する質量比が25%以下の炭素材料が難燃化剤層に含まれるため、充放電特性の低下を抑制することができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用可能な実施形態の円柱型リチウムイオン二次電池の断面図である。
【図2】難燃化剤に対する炭素材料の質量比を変化させて作製した実施例および比較例のリチウムイオン電池について1C放電容量比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明をハイブリッド自動車に搭載される円柱型リチウムイオン二次電池に適用した実施の形態について説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の円柱型リチウムイオン二次電池20は、ニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池容器7を有している。電池容器7には、帯状の正負極板がセパレータを介して断面渦巻状に捲回された電極群6が収容されている。
【0013】
電極群6の捲回中心には、ポリプロピレン樹脂製で中空円筒状の軸芯1が使用されている。電極群6の上側には、軸芯1のほぼ延長線上に正極板からの電位を集電するための円環状導体の正極集電リング4が配置されている。正極集電リング4は、軸芯1の上端部に固定されている。正極集電リング4の周囲から一体に張り出している鍔部周縁には、正極板から導出された正極リード片2の端部が超音波溶接で接合されている。正極集電リング4の上方には、安全弁を内蔵し正極外部端子となる円盤状の電池蓋11が配置されている。正極集電リング4の上部は、導体リードを介して電池蓋11に接続されている。
【0014】
一方、電極群6の下側には負極板からの電位を集電するための円環状導体の負極集電リング5が配置されている。負極集電リング5の内周面には軸芯1の下端部外周面が固定されている。負極集電リング5の外周縁には、負極板から導出された負極リード片3の端部が超音波溶接で接合されている。負極集電リング5の下部は、導体リードを介して電池容器7の内底部に接続されている。電池容器7の寸法は、本例では、外径40mm、内径39mmに設定されている。
【0015】
電池蓋11は、絶縁性および耐熱性のEPDM樹脂製ガスケット10を介して電池容器7の上部にカシメ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池20の内部は密封されている。また、電池容器7内には、非水電解液が注液されている。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比1:1:1の混合溶媒中にリチウム塩として6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットル溶解したものが用いられている。なお、リチウムイオン二次電池20は、所定電圧および電流で初充電を行うことで、電池機能が付与される。
【0016】
電極群6は、正極板と負極板とが、これら両極板が直接接触しないように、リチウムイオンが通過可能な多孔質ポリエチレン製セパレータW5を介し、軸芯1の周囲に捲回されている。セパレータW5の厚さは、本例では、30μmに設定されている。正極リード片2と負極リード片3とが、それぞれ電極群6の互いに反対側の両端面に配置されている。電極群6の直径は、本例では、正極板、負極板、セパレータW5の長さを調整することで、38±0.5mmに設定されている。電極群6および正極集電リング4の鍔部周面全周には、電極群6と電池容器7との電気的接触を防止するために絶縁被覆が施されている。絶縁被覆には、ポリイミド製の基材の片面にヘキサメタアクリレートの粘着剤が塗布された粘着テープが用いられている。粘着テープは鍔部周面から電極群6の外周面に亘って一重以上巻かれている。電極群6の最大径部が絶縁被覆存在部となるように巻き数が調整され、該最大径が電池容器7の内径より僅かに小さく設定されている。
【0017】
電極群6を構成する正極板は、正極集電体としてアルミニウム箔W1を有している。アルミニウム箔W1の厚さは、本例では、20μmに設定されている。アルミニウム箔W1の両面には、正極活物質としてリチウム遷移金属複酸化物を含む正極合剤が実質的に均等かつ均質に塗着され正極合剤層W2が形成されている。すなわち、形成された正極合剤層W2の厚さがほぼ一様であり、かつ、正極合剤層W2内では正極合剤がほぼ一様に分散されている。リチウム遷移金属複酸化物には、例えば、層状結晶構造を有するマンガンニッケルコバルト複酸リチウム粉末やスピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末を用いることができる。正極合剤には、例えば、リチウム遷移金属複酸化物の85wt%(質量%)に対して、導電材として鱗片状グラファイトの8wt%およびアセチレンブラックの2wt%と、バインダ(結着材)としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFと略記する。)の5wt%とが配合されている。アルミニウム箔W1に正極合剤を塗着するときには、分散溶媒のN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する。)が用いられる。アルミニウム箔W1の長寸方向一側の側縁には、幅30mmの正極合剤の未塗着部が形成されている。未塗着部は櫛状に切り欠かれており、切り欠き残部で正極リード片2が形成されている。隣り合う正極リード片2の間隔が20mm、正極リード片2の幅が5mmに設定されている。正極板は、乾燥後プレス加工され、幅80mmに裁断されている。
【0018】
また、正極合剤層W2の表面、すなわち、正極板の両面には、難燃化剤を含む難燃化剤層W6が形成されている。難燃化剤層W6の厚さは、正極合剤層W2の厚さに対して、20%以下に設定されている。難燃化剤層W6は、電子伝導性を有する炭素材料が含有されており、リチウムイオン透過性を有するように、造孔剤(孔形成剤)を配合することで多孔化されている。難燃化剤には、リンおよび窒素を基本骨格とするホスファゼン化合物が用いられている。難燃化剤の配合割合は、本例では、正極合剤に対して1wt%以上に設定されている。難燃化剤層W6に含有された炭素材料にはアセチレンブラックが用いられている。炭素材料の難燃化剤に対する質量比は、1〜25%の範囲に設定されている。また、造孔剤には酸化アルミニウムが用いられている。酸化アルミニウムの配合割合は、難燃化剤層W6に形成する多孔の割合に合わせて調整することができる。この難燃化剤層W6は、次のようにして形成されたものである。すなわち、ホスファゼン化合物とバインダのPVdFとを溶解させたNMP溶液にアセチレンブラックと酸化アルミニウムを分散させる。得られた分散溶液を正極合剤層W2の表面に塗布し、乾燥後、プレス処理を施すことで正極板全体の厚さを調整する。
【0019】
ホスファゼン化合物は、一般式(NPRまたは(NPRで表される環状化合物である。一般式中のRは、フッ素や塩素等のハロゲン元素または一価の置換基を示している。一価の置換基としては、メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基やメチルフェノキシ基等のアリールオキシ基、メチル基やエチル基等のアルキル基、フェニル基やトリル基等のアリール基、メチルアミノ基等の置換型アミノ基を含むアミノ基、メチルチオ基やエチルチオ基等のアルキルチオ基、および、フェニルチオ基等のアリールチオ基を挙げることができる。置換基の種類により固体または液体となるが、本例では、80℃以下の温度環境で固体のホスファゼン化合物が用いられている。また、これらのホスファゼン化合物は、それぞれ所定温度で分解するものである。
【0020】
一方、負極板は、負極集電体として圧延銅箔W3を有している。圧延銅箔W3の厚さは、本例では、10μmに設定されている。圧延銅箔W3の両面には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材を含む負極合剤が、正極板と同様に実質的に均等かつ均質に塗着され負極合剤層W4が形成されている。負極活物質の炭素材には、本例では、非晶質炭素粉末が用いられている。負極合剤には、例えば、非晶質炭素粉末の90wt%に対して、バインダとしてPVdFの10wt%が配合されている。圧延銅箔W3に負極合剤を塗着するときには、分散溶媒のNMPが用いられる。圧延銅箔W3の長寸方向一側の側縁には、正極板と同様に幅30mmの負極合剤の未塗着部が形成されており、負極リード片3が形成されている。隣り合う負極リード片3の間隔が20mm、負極リード片3の幅が5mmに設定されている。負極板は、乾燥後、プレス加工され、幅86mmに裁断されている。なお、負極板の長さは、正極板および負極板を捲回したときに、捲回最内周および最外周で捲回方向に正極板が負極板からはみ出すことがないように、正極板の長さより120mm長く設定されている。また、負極合剤層W4(合剤塗布部)の幅は、捲回方向と垂直方向において正極合剤層W2が負極合剤層W4からはみ出すことがないように、正極合剤層W2の幅より6mm長く設定されている。
【実施例】
【0021】
次に、本実施形態に従い作製したリチウムイオン二次電池20の実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例および参考例のリチウムイオン二次電池についても併記する。
【0022】
(実施例1)
実施例1では、難燃化剤のホスファゼン化合物(株式会社ブリヂストン製、商品名ホスライト(登録商標)、固体状、分解温度250℃以上)とPVdFとを溶解させたNMP溶液に酸化アルミニウムおよび炭素材料のアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラックHS100)を分散させ分散溶液を調製した。このとき、下表1に示すように、炭素材料の難燃化剤に対する質量比を1%の割合に調整した。この分散溶液を正極合剤層W2の表面に塗布し、分散溶液の塗布量を調整することで、正極合剤に対する難燃化剤の配合割合を1wt%の割合に調整した。
【0023】
【表1】

【0024】
(実施例2〜実施例7)
表1に示すように、実施例2〜実施例7では、炭素材料の難燃化剤に対する質量比を2〜25%の範囲で変えること以外は実施例1と同様にした。すなわち、炭素材料の質量比は、実施例2では2%、実施例3では5%、実施例4では10%、実施例5では15%、実施例6では20%、実施例7では25%、にそれぞれ調整した。
【0025】
(比較例1〜比較例9)
表1に示すように、比較例1では、難燃化剤層に炭素材料が含まれていないこと以外は
実施例1と同様にした。すなわち、比較例1のリチウムイオン二次電池は、炭素材料の難燃化剤に対する質量比が0%の電池である。比較例2〜比較例9では、炭素材料の難燃化剤に対する質量比を30〜100%の範囲で変える以外は実施例1と同様にした。すなわち、炭素材料の質量比は、比較例2では30%、比較例3では40%、比較例4では50%、比較例5では60%、比較例6では70%、比較例7では80%、比較例8では90%、比較例9では100%、にそれぞれ調整した。
【0026】
(試験1)
実施例及び比較例の各電池について、以下の測定、試験を行った。環境温度25℃、700mA(1C)で放電容量を測定し、炭素材料の難燃化剤に対する質量比が0%の比較例1の電池の1Cにおける放電容量を100%として、他の実施例及び比較例の各電池について放電容量比を求めた。
【0027】
図2に示すように、炭素材料の質量比が0%の比較例1の放電容量比と比較すると、炭素材料の質量比が増加する実施例1〜実施例7及び比較例2〜比較例9の放電容量比は、一旦増加した後に、徐々に低下する特性が見られた。すなわち、炭素材料の質量比が25%より大きい比較例2〜比較例9においては、放電容量比は100%より小さい値となり、炭素材料の質量比が大きくなると徐々に減少した。これらに対して、炭素材料の質量比が1%〜25%の範囲の実施例1〜実施例7の電池において、放電容量比は、いずれも100%を超える102%以上であった。また、炭素材料の質量比が2%〜20%の範囲の実施例2〜実施例6の電池において、放電容量比は107%以上となり、より大きな値を示した。更に、炭素材料の質量比が5%の実施例3の電池において、放電容量比は133%となり最大値を示した。これにより、電子伝導性を有し、質量比が25%以下の炭素材料が難燃化剤層に含まれると、放電特性の低下を抑制することができることが判明した。また、炭素材料の質量比が25%より大きくなると、難燃化剤層の厚さが相対的に大きくなることで、容量や出力が低下したため、放電容量比が低下したと考えられる。
【0028】
(試験2)
各実験例および比較例のリチウムイオン二次電池について、過充電試験を行い、安全性を評価した。過充電試験では、電池中央部に熱電対を配置し、各リチウムイオン二次電池を0.5Cの電流値で充電し続けたときの電池表面の温度を測定した。過充電試験における電池表面の温度を下表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2に示すように、難燃化剤層に炭素材料が含まれていない比較例1では、表面温度は121.4℃を示した。難燃化剤層に炭素材料が含まれている実施例1〜実施例7及び比較例2〜比較例9では、比較例1との温度差は僅かであった。従って、難燃化剤層に炭素材料が含まれることによる電池の表面温度の上昇は、電池の安全性を確保できる範囲内であると判断できる。
【0031】
(参考例1〜参考例9)
参考例1〜参考例9では、難燃化剤の効果を評価することを目的としており、いずれも難燃化剤層W6に炭素材料が含まれていないことと、正極合剤に対する難燃化剤の配合割合を変えたこと以外は実施例1と同様にした。下表3に示すように、難燃化剤の配合割合は、参考例1では1wt%、参考例2では2wt%、参考例3では3wt%、参考例4では5wt%、参考例5では6wt%、参考例6では8wt%、参考例7では10wt%、参考例8では15wt%、参考例9では20wt%、にそれぞれ調整した。
【0032】
【表3】

【0033】
(参考例10)
表3に示すように、参考例10では、正極合剤層W2の表面に難燃化剤層W6を形成しないこと以外は実施例1と同様にした。すなわち、参考例10のリチウムイオン二次電池は従来の電池である。
【0034】
(試験)
各参考例のリチウムイオン二次電池について、過充電試験を行い、安全性を評価した。過充電試験では、電池中央部に熱電対を配置し、各リチウムイオン二次電池を0.5Cの電流値で充電し続けたときの電池表面の温度を測定した。過充電試験における電池表面最高温度を下表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
表4に示すように、難燃化剤層W6が形成されていない参考例10のリチウムイオン二次電池では、過充電試験により電池表面最高温度が482.9℃に達した。これに対して、難燃化剤層W6に難燃化剤が含有された参考例1〜参考例9のリチウムイオン二次電池20では、いずれも電池表面最高温度が低下しており、難燃化剤の配合割合を大きくすることで電池表面最高温度の低下する割合も大きくなることが判った。難燃化剤が正極合剤に対して1wt%配合されていれば(参考例1)、参考例10のリチウムイオン二次電池と比べて電池表面最高温度を低下させることができるが、活物質の熱分解反応やその連鎖反応を抑制することを考慮すれば、電池表面最高温度がおよそ150℃以下に抑えられることが好ましい。このことは、難燃化剤の配合割合を10wt%以上とすることで達成することができる(参考例7〜参考例9)。
【0037】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20の作用等について説明する。
【0038】
本実施形態では、電極群6を構成する正極板の正極合剤層W2の表面に、難燃化剤としてホスファゼン化合物が含有された難燃化剤層W6が形成されている。このホスファゼン化合物は、電池異常時等の高温環境下の所定温度で分解する。難燃化剤層W6が正極合剤層W2の表面に形成されることで、ホスファゼン化合物が正極活物質の近傍に存在することとなる。このため、リチウムイオン二次電池20が異常な高温環境下に曝されたときや電池異常が生じたときに、正極活物質の熱分解反応やその連鎖反応で電池温度が上昇すると、ホスファゼン化合物が分解する。これにより、電池構成材料の燃焼が抑制されるため、リチウムイオン二次電池20の電池挙動を穏やかにし安全性を確保することができる。
【0039】
また、本実施形態では、電子伝導性を有し、難燃化剤に対する質量比が25%以下のアセチレンブラックが、難燃化剤層W6に含有されている。このため、正極合剤層W2の表面に難燃化剤層W6が形成されていても、充放電特性の低下を抑制することができる。また、難燃化剤層W6に多孔が形成され多孔化されている。このため、通常の電池使用(充放電)時にはリチウムイオンが正負極板間を十分に移動することができ、電池性能を確保することができる。更に、難燃化剤層W6が正極合剤層W2の表面に形成されているため、正極合剤層W2では、電極反応を生じさせる正極活物質の配合割合が確保されるので、リチウムイオン二次電池20の容量や出力を確保することができる。
【0040】
更に、本実施形態では、難燃化剤層W6の厚さは、正極合剤層W2の厚さに対して、20%以下に設定されている。このため、正極合剤層W2の表面に難燃化剤層W6が形成されていても、電池の充放電時にリチウムイオンの正負極板間の移動が妨げられない程度の厚さに設定されているため、リチウムイオン二次電池20の充放電性能を確保することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、正極合剤層W2の表面、すなわち、正極板の両面に難燃化剤層W6を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、難燃化剤層W6を負極板やセパレータW5に形成するようにしてもよい。また、難燃化剤層W6が、正極板、負極板およびセパレータW5の少なくとも1つの片面のみに形成されていてもよい。更に、本実施形態では、バインダとしてPVdFを用いて難燃化剤層W6を形成させる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、難燃化剤層W6を形成可能であればいかなるバインダを用いてもよい。
【0042】
また、本実施形態では、難燃化剤層W6の形成時に、造孔剤として酸化アルミニウムを配合する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。通常の充放電時にリチウムイオンが通過可能なように難燃化剤層W6が多孔化されていればよく、用いる造孔剤にも制限されるものではなく、造孔剤を用いなくてもよい。
【0043】
更に、本実施形態では、難燃化剤層W6に配合する難燃化剤の割合を1wt%以上に設定する例を示した(参考例1〜参考例9)。難燃化剤の配合割合が1wt%に満たないと熱分解反応による温度上昇を抑制することが難しくなり、反対に、20wt%を超えると難燃化剤層W6の厚みが相対的に大きくなり、容量や出力を低下させることとなる。このため、難燃化剤の配合割合を1〜20wt%の範囲とすることが好ましい。また、熱分解反応の連鎖反応による更なる温度上昇を抑制することを考慮すれば、難燃化剤の配合割合を10wt%以上とすることがより好ましい。
【0044】
また更に、本実施形態では、炭素材料の難燃化剤に対する質量比を1〜25%の範囲に設定する例を示した(実施例1〜実施例7)。炭素材料の質量比が1%に満たないと、正極合剤層W2の表面に難燃化剤層W6が形成されていることから、充放電特性が低下しやすくなり、反対に、25%を超えると難燃化剤層W6の厚さが相対的に大きくなり、充放電特性は低下することとなる。また、本実施形態では、炭素材料の質量比が2〜20%の範囲のとき、より充放電特性が向上した(実施例2〜実施例6)。このため、炭素材料の質量比は2〜20%の範囲とすることがより好ましい。
【0045】
更にまた、本実施形態では、難燃化剤としてホスファゼン化合物を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、所定温度で分解し活物質の熱分解反応やその連鎖反応による温度上昇を抑制することができるものであればよい。また、ホスファゼン化合物についても本実施形態で例示した化合物以外の化合物を用いることも可能である。
【0046】
また、本実施形態では、難燃化剤層W6に含まれる炭素材料にアセチレンブラックを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素から選択される1種または少なくとも2種の組み合わせであればよい。炭素材料にグラファイトを使用した場合、グラファイトは、鱗片状グラファイト、人造グラファイト、土状グラファイトから選択される1種または少なくとも2種の組み合わせを使用することができる。
【0047】
更に、本実施形態では、ハイブリッド自動車に搭載される円柱型リチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電池容量が約3Ahを超える大型のリチウムイオン二次電池に適用することができる。また、本実施形態では、正極板、負極板を捲回した電極群6を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、矩形状の正極板、負極板を積層した電極群としてもよい。更に、電池形状についても、円柱型以外に角型等としてもよいことはもちろんである。
【0048】
また更に、本実施形態では、正極活物質に、層状結晶構造を有するマンガンニッケルコバルト複酸リチウム粉末、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末のいずれかのリチウム遷移金属複酸化物を用いる例を示したが、本発明で用いることのできる正極活物質としてはリチウム遷移金属複酸化物であればよい。負極活物質の種類、非水電解液の組成等についても特に制限されるものではない。また、本発明はリチウムイオン二次電池に制限されるものではなく、非水電解液を用いた非水電解液電池に適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は電池異常時の安全性を確保し電池使用時の充放電特性の低下を抑制することができる非水電解液電池を提供するため、非水電解液電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0050】
W1 アルミニウム箔(集電体)
W2 正極合剤層
W3 圧延銅箔(集電体)
W4 負極合剤層
W5 セパレータ
W6 難燃化剤層
6 電極群
20 円柱型リチウムイオン二次電池(非水電解液電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む正極合剤層が集電体に形成された正極板と、活物質を含む負極合剤層が集電体に形成された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池において、前記正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に、難燃化剤を含む難燃化剤層が配され、電子伝導性を有し、該難燃化剤に対する質量比が25%以下の炭素材料が前記難燃化剤層に含まれたことを特徴とする非水電解液電池。
【請求項2】
前記難燃化剤層に含まれる炭素材料は、前記難燃化剤に対する質量比が1%以上であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項3】
前記難燃化剤層に含まれる炭素材料は、前記難燃化剤に対する質量比が2%〜20%の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の非水電解液電池。
【請求項4】
前記難燃化剤層は、前記正極板ないし前記負極板の片面または両面に配されており、前記難燃化剤層の厚さは、前記正極合剤層または前記負極合剤層の厚さに対して、20%以下であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液電池。
【請求項5】
前記難燃化剤層に含まれる炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素から選択される1種または少なくとも2種の組み合わせあることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項6】
前記グラファイトは、鱗片状グラファイト、人造グラファイト、土状グラファイトから選択される1種または少なくとも2種の組み合わせであることを特徴とする請求項5に記載の非水電解液電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−59392(P2012−59392A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198757(P2010−198757)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】