説明

非水電解液電池

【課題】電池異常時の安全性を確保し電池使用時の充放電特性やエネルギー密度の低下を抑制することができる非水電解液電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池1は、活物質を含む正極合剤層が集電体に形成された正極板2と、活物質を含む負極合剤層が集電体に形成された負極板3とが多孔質セパレータ4を介して捲回した電極群5を有している。正極板2、負極板3およびセパレータ4の少なくとも1種の片面または両面に難燃化剤層が配されており、難燃化剤層は、非フッ素系有機重合体、難燃化剤および増粘剤を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液電池に係り、特に、活物質を含む正極合剤層が集電体に形成された正極板と、活物質を含む負極合剤層が集電体に形成された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電解液が水溶液系である二次電池としては、アルカリ蓄電池や鉛蓄電池等が知られている。これらの水溶液系二次電池に代わり、小型、軽量かつ高エネルギー密度であり、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液電池が普及している。非水電解液電池に用いられる電解液には、ジメチルエーテル等の有機溶媒が含まれている。有機溶媒は可燃性を有するため、例えば、過充電や内部短絡等の電池異常時や火中投下時に電池温度が上昇した場合には、電池構成材料の燃焼や活物質の熱分解反応により電池挙動が激しくなるおそれがある。
【0003】
このような事態を回避し電池の安全性を確保するために種々の安全化技術が提案されている。すなわち、非水電解液に難燃化剤(不燃性付与物質)を溶解させて非水電解液を不燃化する技術(例えば、特許文献1参照)や、セパレータに難燃化剤を分散させてセパレータを不燃化する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−184870号公報
【特許文献2】特開2006−127839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2の技術では、難燃化剤を含有させた非水電解液やセパレータの電池構成材料自体を不燃化する技術であり、電池そのものを不燃化することは難しい。例えば、特許文献2の技術において、セパレータ中に含有させる難燃化剤の量によりセパレータ自身に不燃性を付与することが可能となる。この技術をリチウムイオン二次電池に適用した場合は、リチウムイオン二次電池では活物質の熱分解反応による発熱が大きくなるため、温度上昇を抑制するには多量の難燃化剤が必要となる。また、難燃化剤を多く含ませたセパレータでは、セパレータとして本来求められる強度を保つことが難しくなる、といった問題も生じる。
【0006】
この問題に対しては、正極板、負極板またはセパレータの少なくとも1種の片面または両面(の表面)に難燃化剤層を配することで、電池異常で温度が上昇しても電池構成材料の燃焼を抑制できると考えられる。しかし、難燃化剤層がリチウムイオンの移動の妨げとなり、充放電特性の低下やエネルギー密度の低下を招くおそれがある。
【0007】
本発明は上記事案に鑑み、電池異常時の安全性を確保し電池使用時の充放電特性やエネルギー密度の低下を抑制することができる非水電解液電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、活物質を含む正極合剤層が集電体に形成された正極板と、活物質を含む負極合剤層が集電体に形成された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池において、前記正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に難燃化剤層が配され、該難燃化剤層は、非フッ素系有機重合体、難燃化剤および増粘剤を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明において、難燃化剤層は、非フッ素系有機重合体が2〜10質量%、難燃化剤が87〜97質量%、増粘剤が1〜3%の範囲の割合であることが好ましい。非フッ素系有機重合体は、芳香族ビニル化合物ないし共役ジエン化合物を含む重合体であることが好ましい。非フッ素系有機重合体は、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体から選択される1種としてもよい。難燃化剤は、常温で固体状態であり、非水溶性のホスファゼン化合物とすることが好ましい。難燃化剤層は、正極板、負極板またはセパレータの少なくとも1種の片面または両面に、非フッ素系有機重合体、難燃化剤および増粘剤を含有する水性スラリを塗布することで形成してもよい。難燃化剤層は、混合物を樹脂膜または、金属箔上に塗布後、正極板、負極板、および、セパレータの少なくとも1種の片面または両面に、水性スラリを転写することで形成してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に、難燃化剤を含む難燃化剤層が配されているため、電池異常で温度上昇したときに難燃化剤が電池構成材料の燃焼を抑制することができると共に、難燃化剤層が非フッ素系有機重合体、難燃化剤および増粘剤を含有することで、造孔剤を用いなくても粒子間の隙間が形成されるため、リチウムイオンの移動が阻害されることがなく、充放電特性やエネルギー密度を維持することができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用可能な実施形態の円柱状リチウムイオン二次電池の断面図である。
【図2】実施例および比較例のリチウムイオン二次電池の放電レートを変えたときの放電容量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を18650タイプの円柱状リチウムイオン二次電池に適用した実施の形態について説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、ニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池容器6を有している。電池容器6には、帯状の正極板2および負極板3がセパレータ4を介して断面渦巻状に捲回された電極群5が収容されている。
【0014】
電極群5は、正極板2および負極板3がポリエチレン製微多孔膜のセパレータ4を介して断面渦巻状に捲回されている。セパレータ4は、本例では、幅が58mm、厚さが30μmに設定されている。電極群5の上端面には、一端を正極板2に固定されたアルミニウム製でリボン状の正極タブ端子が導出されている。正極タブ端子の他端は、電極群5の上側に配置され正極外部端子となる円盤状の電池蓋の下面に超音波溶接で接合されている。
【0015】
一方、電極群5の下端面には、一端を負極板に固定された銅製でリボン状の負極タブ端子が導出されている。負極タブ端子の他端は、電池容器6の内底部に抵抗溶接で接合されている。従って、正極タブ端子および負極タブ端子は、それぞれ電極群5の両端面の互いに反対側に導出されている。なお、電極群5の外周面全周には、図示を省略した絶縁被覆が施されている。
【0016】
電池蓋は、絶縁性の樹脂製ガスケットを介して電池容器6の上部にカシメ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池1の内部は密封されている。また、電池容器6内には、図示しない非水電解液が注液されている。非水電解液には、例えば、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の体積比2:3のカーボネート系混合溶媒中に、リチウム塩として6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットル溶解して使用することができる。
【0017】
電極群5を構成する正極板2は、正極集電体としてアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔を有している。正極集電体の厚さは本例では20μmに設定されている。正極集電体の両面には、正極活物質としてのリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極合剤が略均等に塗着されて正極合剤層が形成されている。
【0018】
リチウム遷移金属複合酸化物には、一般に知られた種々のものを用いることができるが、本例では、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末が用いられている。正極合剤には、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物の85質量%に対して、導電材として鱗片状黒鉛の8質量%、アセチレンブラックの2質量%、および、バインダ(結着材)のポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記する。)の5質量%が配合されている。正極合剤層の厚さは、(片面)30〜150μmの範囲に設定されている。正極合剤を正極集電体に塗着するときには、粘度調整溶媒のN−メチルピロリドン(以下、NMPと略記する。)に正極合剤を分散させてスラリ状の溶液を作製する。このとき、分散溶液は回転翼を具備した混合機を用いて攪拌される。この溶液が正極集電体にロール・ツー・ロール転写法で塗布される。正極板2は、乾燥後、プレス加工で一体化され、幅54mmに裁断され帯状に形成される。正極板の長手方向略中央部には、正極タブ端子が超音波溶接で接合されている。
【0019】
また、正極合剤層の表面、すなわち、正極板2の両面には、難燃化剤、バインダの非フッ素系有機重合体および増粘剤を含む難燃化剤層が形成されている。難燃化剤層の厚さは、5〜15μmの範囲に設定されている。
【0020】
非フッ素系有機重合体としては、芳香族ビニル化合物や共役ジエン化合物を含む重合体を挙げることができ、具体的には、スチレン−ブタジエン共重合体やアクリロニトリル−ブタジエン共重合体を用いることができる。本例では、非フッ素系有機重合体としてスチレン−ブタジエン共重合体(以下、SBRと略記する。)が用いられている。難燃化剤には、例えば、リンおよび窒素を基本骨格とし、非水溶性のホスファゼン化合物が用いられる。難燃化剤の配合割合は、本例では、正極合剤に対して10質量%に設定されている。
【0021】
難燃化剤層は、平均粒子径が3μmの粉末状(固体状)のホスファゼン化合物およびバインダのSBRを、増粘剤のカルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略記する。)をイオン交換水に溶解したCMC水溶液に分散し、粘度調整されたスラリを調整する。得られたスラリを正極板2の表面に塗布し、乾燥後、圧延することで正極板2全体の厚さを調整する。あるいは、得られたスラリを樹脂膜、例えば、ポリエチエレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)フィルムの表面に塗布し、乾燥後に正極板2の表面にロールプレス機等により転写することで形成する。いずれの方法でも、水性スラリを用いることで、有機溶媒系で形成された正極合材層に変形等のダメージを及ぼすことなく難燃化剤層を形成することができる。難燃化剤層は、難燃化剤のホスファゼン化合物が87〜97質量%、非フッ素系有機重合体のSBRが2〜10質量%、増粘剤のCMCが1〜3質量%の範囲の割合に設定されている。
【0022】
ホスファゼン化合物は、一般式(NPRまたは(NPRで表される環状化合物である。一般式中のRは、一価の置換基を示している。一価の置換基としては、メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基やメチルフェノキシ基等のアリールオキシ基、メチル基やエチル基等のアルキル基、フェニル基やトリル基等のアリール基、メチルアミノ基等の置換型アミノ基を含むアミノ基、メチルチオ基やエチルチオ基等のアルキルチオ基、および、フェニルチオ基等のアリールチオ基を挙げることができる。置換基の種類により固体または液体となるが、本例では、常温で固体状態のホスファゼン化合物が用いられている。
【0023】
一方、負極板は、負極集電体として圧延銅箔または圧延銅合金箔を有している。負極集電体の厚さは本例では10μmに設定されている。負極集電体の両面には、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な非晶質炭素粉末を含む負極合剤が略均等に塗着されて負極合剤層が形成されている。
【0024】
負極合剤には、負極活物質以外に、例えば、バインダのPVDFが配合されている。負極活物質とPVDFとの質量比は、例えば、90:10とすることができる。負極合剤を負極集電体に塗着するときには、粘度調整溶媒のNMPに負極合剤を分散させてスラリ状の溶液を作製する。このとき、分散溶液は回転翼を具備した混合機を用いて攪拌される。この溶液が負極集電体にロール・ツー・ロール転写法で塗布される。負極板3は、乾燥後、プレス加工で一体化され、幅56mmに裁断され帯状に形成される。負極板3の長手方向一端には、負極タブ端子が超音波溶接で接合されている。
【0025】
なお、負極板3の長さは、正極板2、負極板3およびセパレータ4を捲回したときに、捲回最内周および最外周で捲回方向に正極板2が負極板3からはみ出すことがないように、正極板2の長さより6mm長く設定されている。
【実施例】
【0026】
次に、本実施形態に従い作製したリチウムイオン二次電池1の実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例のリチウムイオン二次電池についても併記する。
【0027】
(実施例1)
実施例1では、難燃化剤のホスファゼン化合物の94質量%、および、バインダのSBRの5質量%を、増粘剤のCMCの2質量%を溶解させたCMC水溶液に分散させ、水性スラリを作製した。得られた水性スラリを正極板2の両表面に直接塗布し、乾燥することで難燃化剤層を形成した。難燃化剤層が正極合材層に対して10質量%となるように水性スラリの塗布量を調整した。この正極板2を用いて、リチウムイオン二次電池1を作製した。
【0028】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同じ水性スラリを、PETフィルム上に塗布し乾燥させた後、正極板2の両表面に接触させ、ロールプレス機を通し転写することで、難燃化剤層を形成し、リチウムイオン二次電池1を作製した。
【0029】
(比較例1)
比較例1では、難燃化剤のホスファゼン化合物の80質量%、および、バインダのPVDFの20質量%を溶解させたNMP溶液(非水性スラリ)を調整した。得られたNMP溶液を正極板の両表面に直接塗布し、乾燥することで難燃化剤層を形成した。難燃化剤層が正極合材層に対して10質量%となるようにNMP溶液の塗布量を調整した。この正極板を用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。すなわち、比較例1は、難燃化剤層に多孔が形成されていないリチウムイオン二次電池である。
【0030】
(比較例2)
比較例2では、比較例1と同じNMP溶液を、PETフィルム上に塗布し乾燥させた後、正極板の両表面に接触させ、ロールプレス機を通し転写することで、難燃化剤を形成し、リチウムイオン二次電池を作製した。すなわち、比較例2は、難燃化剤層に多孔が形成されていないリチウムイオン二次電池である。
【0031】
(比較例3)
比較例3では、比較例1と同じNMP溶液に造孔剤として酸化アルミニウムを分散させた分散液を調整した。得られた分散液を正極板2の両表面に直接塗布し、乾燥することで難燃化剤層を形成した。難燃化剤層が正極合材層に対して10質量%となるようにNMP溶液の塗布量を調整した。この正極板を用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。すなわち、比較例3は、造孔剤により難燃化剤層に多孔が形成されたリチウムイオン二次電池である。
【0032】
(試験)
実施例および比較例の各電池について、放電レートを0.2CA、1CA、2CA、3CAに変えて放電試験を行い、それぞれの放電容量(mAh)を測定した。各放電レートにおける放電容量の測定結果を図2に示す。
【0033】
図2に示すように、難燃化剤層のバインダとしてPVDFを用いた比較例1では、放電レートが0.2CAのときの放電容量は582mAhを示し、放電レートが3CAのときの放電容量は118mAhを示し、放電レートが上昇するにつれ放電容量は大幅に低下した。また、難燃化剤層のバインダとしてPVDFを用い、造孔剤を添加した比較例3では、放電レートが0.2CAのときの放電容量は475mAhを示し、放電レートが3CAのときの放電容量は334mAhを示し、放電レートが上昇しても大幅な低下は見られなかったが、放電レートが0.2CAのときの放電容量は比較例1より低い値を示した。一方、比較例1と同様に造孔剤の酸化アルミニウムを用いずに難燃化剤層を形成した比較例2では、放電レートが0.2CAのときの放電容量は590mAhを示し、放電レートが低い場合には放電容量が好ましいものの、放電レートが3CAのときの放電容量は189mAhを示し、高い放電レート(ハイレート)における特性が遜色することが判明した。
【0034】
これらに対して、難燃化剤層のバインダとしてSBRを用いた実施例1では、放電レートが0.2CAのときの放電容量は605mAhを示し、放電レートが3CAのときの放電容量は482mAhを示し、放電レートが上昇しても比較例1ほどの放電容量の低下は見られず、良好な充放電特性を発揮することができた。これは、実施例1では、難燃化剤のホスファゼン化合物、および、バインダのSBRを、増粘剤のCMCを溶解させたイオン交換液に分散させた水性スラリを用いて難燃化剤層を形成したことで、造孔剤を用いなくても粒子間の空隙が形成されたので、リチウムイオンの移動が阻害されることがないためと考えられる。
【0035】
また、スラリをPETフィルム上に塗布し乾燥させた後、正極板2の両表面の正極合剤に接触させ転写することで難燃化剤層を形成した実施例2では、放電レートが0.2CAのときの放電容量は608mAhを示し、放電レートが3CAのときの放電容量は514mAhを示し、水性スラリを正極板2の両表面に直接塗布することで難燃化剤層を形成した実施例1よりも、いずれの放電容量においても高い値を示した。これは、実施例1では水性スラリを正極板2の両表面に直接塗布するため、正極板2の孔に水性スラリが浸入してしまい、リチウムイオンの移動を妨げてしまうが、実施例2では、PETフィルム上で乾燥させた後に正極板2の両表面に転写するため、正極板2の孔に水性スラリが浸入することがなく、リチウムイオンの移動を妨げないためと考えられる。
【0036】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の作用等について説明する。
【0037】
本実施形態では、電極群5を構成する正極板2の正極合剤層の表面に、難燃化剤としてホスファゼン化合物が含有された難燃化剤層が形成されている。難燃化剤層が正極合剤層の表面に形成されることで、ホスファゼン化合物が正極活物質の近傍に存在することとなる。このため、リチウムイオン二次電池1が異常な高温環境下に曝されたときや電池異常が生じたときに、電池温度が上昇することで正極活物質の熱分解反応やその連鎖反応により発生するラジカル等の活性種が、ホスファゼン化合物と終止反応を起こし、熱分解反応や連鎖反応を抑制する。これにより、電池構成材料の燃焼が抑制されるため、リチウムイオン二次電池1の電池挙動を穏やかにし安全性を確保することができる。
【0038】
また、本実施形態では、難燃化剤層に難燃化剤のホスファゼン化合物と、バインダの非フッ素系有機重合体であるSBRと、増粘剤のCMCが含有されている。このため、造孔剤を用いなくても粒子間の隙間が形成されるため、充放電時にリチウムイオンの移動が阻害されることがなく、充放電特性やエネルギー密度を維持することができる。また、難燃化剤層が正極合剤層の表面に形成されているため、正極合剤層では、電極反応を生じさせる正極活物質の配合割合が確保されるので、リチウムイオン二次電池1の容量や出力を確保することができる。更に、難燃化剤層の厚さは、5〜15μmの範囲に設定されているため、正極合剤層の表面に難燃化剤層の厚さが形成されていても、リチウムイオンの移動が妨げられない程度の厚さに設定されているため、リチウムイオン二次電池1の充放電特性を確保することができる。
【0039】
なお、本実施形態では、正極合剤層の表面、すなわち、正極板2の両面に難燃化剤層を形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、負極板3やセパレータ4に形成してもよい。すなわち、難燃化剤層が、正極板2、負極板3およびセパレータ4の少なくとも1つの片面または両面に形成されていればよい。電池異常時には、負極板3やセパレータ4と比べて正極板2における発熱反応が大きくなることを考慮すれば、正極板2に難燃化剤層が配置されていることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態では、難燃化剤層に配合する難燃化剤に一般式(NPRまたは(NPRで表される環状化合物を用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、直鎖状化合物を用いてもよい。また、本実施形態では、難燃化剤層に配合するバインダにSBRを使用する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。難燃化剤層のバインダとしては、非フッ素系であれば、いずれのものも使用できるが、芳香族ビニル化合物や共役ジエン化合物を含む重合体であることが好ましい。このようなバインダとしては、SBR以外に、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体を挙げることができる。難燃化剤層におけるリチウムイオンの移動性向上を考慮すれば、イオン伝導性を有する重合体をバインダとして用いることで電池性能の向上を期待することができる。更に、本実施形態では、難燃化剤層に配合する増粘剤としてCMCを例示したが本発明はこれに限定されるものではない。増粘剤としては水溶性を有していればよく、CMC以外に、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系、ポリビニルアルコール系、ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル系の増粘剤等を挙げることができる。
【0041】
更に、本実施形態では、正極活物質に用いるリチウム遷移金属複合酸化物として、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末を例示したが、本発明で用いることのできる正極活物質としてはリチウム遷移金属複合酸化物であればよい。スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム粉末は、電子伝導性に優れておりリチウムイオン二次電池のエネルギー密度も比較的高くすることができる。また、結晶構造が比較的安定しており、安全性が高く、資源が豊富で、環境への影響も少ないという利点がある。このようなスピネル結晶構造のものに単斜晶構造のものを混合するようにしてもよい。負極活物質の種類、非水電解液の組成などについても特に制限されるものではない。また、本発明はリチウムイオン二次電池に制限されるものではなく、非水電解液電池に適用できることはいうまでもない。
【0042】
更に、本実施形態では、難燃化剤に、常温で固体状態、非水溶性のホスファゼン化合物を用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、所定温度で活物質の熱分解反応やその連鎖反応による温度上昇を抑制することができ、非水溶性のものであればよい。ホスファゼン化合物は、ハロゲンフリー、アンチモンフリーであり、耐加水分解性、耐熱性に優れている。また、難燃化剤に、平均粒子径が約3μmの粒子状のホスファゼン化合物を使用する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、常温で固体状態であればよい。
【0043】
また更に、本実施形態では、18650タイプ(小型民生用)のリチウムイオン二次電池1を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電池容量が約3Ahを超える大型のリチウムイオン二次電池にも適用することができる。また、本実施形態では、正極板、負極板をセパレータを介して捲回した電極群5を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、矩形状の正極板、負極板を積層して電極群としてもよい。更に、電池形状についても、円柱状以外に扁平状、角型等としてもよいことは論を待たない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、電池異常時の安全性を確保し電池使用時の充放電特性やエネルギー密度の低下を抑制することができる非水電解液電池を提供するものであるため、非水電解液電池の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0045】
1 リチウムイオン二次電池(非水電解液電池)
2 正極板
3 負極板
4 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む正極合剤層が集電体に形成された正極板と、活物質を含む負極合剤層が集電体に形成された負極板とが多孔質セパレータを介して配置された非水電解液電池において、前記正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に難燃化剤層が配され、該難燃化剤層は、非フッ素系有機重合体、難燃化剤および増粘剤を含有することを特徴とする非水電解液電池。
【請求項2】
前記難燃化剤層は、前記非フッ素系有機重合体が2〜10質量%、前記難燃化剤が87〜97質量%、前記増粘剤が1〜3質量%の範囲の割合であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項3】
前記非フッ素系有機重合体は、芳香族ビニル化合物ないし共役ジエン化合物を含む重合体であることを特徴とする請求項2に記載の非水電解液電池。
【請求項4】
前記非フッ素系有機重合体は、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体から選択される1種であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液電池。
【請求項5】
前記難燃化剤は、常温で固体状態であり、非水溶性のホスファゼン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項6】
前記難燃化剤層は、正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に、前記非フッ素系有機重合体、難燃化剤および増粘剤を含有する水性スラリを塗布することで形成されたものであることを特徴とする請求項2に記載の非水電解液電池。
【請求項7】
前記難燃化剤層は、前記混合物を樹脂膜または金属箔上に塗布後、正極板、負極板およびセパレータの少なくとも1種の片面または両面に、前記水性スラリを転写することで形成されたものであることを特徴とする請求項2に記載の非水電解液電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−59393(P2012−59393A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198759(P2010−198759)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】